2016/07/16 のログ
ご案内:「転移荒野外縁部」にステーシーさんが現れました。
ステーシー > 生活委員会の下部組織、怪異対策室。
公権の一課と二課、そしてステーシーたちが所属する三課。

今、彼らが武装して転移荒野外縁部を移動している。
この辺りには、空間の歪が頻繁に起こっている。

貴種龍を呼び出し、操ることで人類に罰を与えるという目的を持った組織、『真世界』を追って。

ステーシー・バントラインは外套を着こんで転移荒野を歩く。
一課や二課、三課にとって彼女は切り札だ。
……川添孝一と言う男が、彼女だけが貴種龍を倒せると言って回っているだけにすぎないが。

それでも、希望は希望として在り続ける。

ステーシー >  
「ああ、そこの連中、止まりなさい」

20人前後の集団が怪しげな機械を動かしているのを見て、
ステーシーが先頭に立って声をかける。

「あなたたち、真世界という組織の人間かしら?」
「私たちは別に風紀じゃないのであなたたちを逮捕する権限はないのだけれど」
「ここを掃除したいので場所を開けてもらいたいものね」

外套の下で瞳が鋭く真世界の人間を見据える。

怪しげな集団の代表と思われる禿頭の男が前に出た。

『この世界を浄化するために、我々が貴種龍を使わせてもらう』
『掃除なら校舎の床でも磨いていろ……』

やはり、相手の目的は貴種龍。
完全生命体、不死不滅の存在であるドラゴン。
時折、人間の世界にやってきて災害のような被害を齎す。

倒す方法はなく、現段階ではゲートの向こうに押し返すか、勝手に帰るのを待つしかなかった。

ステーシー >  
その時、設置されていた機械が空間に裂け目を作り出す。
歪み、砕け、虚空に顎を開くゲート。

『そうだ、来い我らの龍よ!! 我々と共にこの世界の思い上がりを正そう!!』

ステーシーたちが見ている前で、ゲートはどんどん大きくなっていく。
そして、その空間の裂け目から赤い竜鱗を持つノーブル・ドラゴンが姿を現した。

『おお……これが我々の悲願! ついにレッドドラゴン、終焉を齎す者エンドテイカーを召喚するに至った!』

常世島に現れたレッドドラゴンは、人間達を睥睨する。

ステーシー >  
第四部 神々の継承者 ステーシー・バントライン編
最終章『Clover』

夕暮れの中、転移荒野外縁部にて

ステーシー >  
『お前達、変革剤を打て!』
『お前達は選りすぐりの生物操作系異能者たちだ!!』
『全員でエンドテイカーを操作するのだ!!』

異能者たちが、変革剤を打つ。
異能のステージをアップさせる違法薬物。
学生達に流通させ、そしてその実験データから完成度を高めたもの。

一斉に真世界の人間達がレッドドラゴンを操りにかかる。

「まさか……あの貴種龍の意識を乗っ取るつもり…!?」

怪異対策室のメンバー達がその巨躯に慄く中、レッドドラゴンが夕焼け空に向けて咆哮した。
劈く爆音が転移荒野に響き渡る。

『さぁ、我々の声にお応えください……!』

禿頭の男が両手を広げてレッドドラゴンを仰ぐ。
そこにレッドドラゴンが顔を近づけた。

「………成功したというの…?」

 

次の瞬間、レッドドラゴンは禿頭の男を食った。
骨が砕かれる音と共に咀嚼され、あっという間に真組織の首魁は龍の餌になった。

『バカな、操れないのか!?』
『早くゲートを閉じろ、早く早く!!』
『やめ、こっちに来るなぁ!!』

真世界の人間達を、ブレスで焼き尽くす貴種龍。
そしてステーシーたちを見ると、再び咆哮をあげた。

「やっぱり、人間に貴種龍を操作できるわけがないッ!」

そしてレッドドラゴンの背後でゲートが閉じられる。
この世界に、新たなる災害が生まれた瞬間だった。

それは、世界を滅ぼすほどの力を有しない。
それは、人間を絶滅させるほどの効率を持っていない。

だが、地震や嵐のように、人類を脅かす新たなる災害が増えた。
その事実が怪異対策室のメンバー達を震え上がらせた。

ステーシー >  
その圧倒的脅威を前に、ディバインブレード『旋空』を抜いたステーシーが前に出る。

そして振り向いた。
貴種龍に背を向けたのだ。

「えー、常世ローカルTVをご覧の皆さん、こんにちは」
「大スクープです、今、常世島に龍害が発生しました」

場違いに明るい声を出す。
TVスタッフがステーシーの襟元についたマイクからの声を拾う。

怪異対策室メンバーの後方に、カメラを持ったTVクルーが構えていた。
怪異対策室三課で手を回して同行させていた、常世島のローカル番組のスタッフ。

今、常世のローカル番組を見ている人間は生放送でこの貴種龍を目の当たりにしている。

これが、貴種龍を倒すための布石。

常世島の人間が貴種龍を倒せると信じたなら。
そのロマンは龍を殺す。
いつだって龍を殺すのは、人間の物語。
それを紡ぐための剣の聖女として、ステーシーに力を集めさせる。
人の思念を束ねた聖剣で龍を討つ。

後はわかりやすく、レッドドラゴンを圧倒するだけ。
それだけだが……

ステーシー >  
「さぁ、あのドラゴンは私たちが倒します!」
「チャンネルはそのまま!」

ステーシーが笑顔でそう言うと、貴種龍に向き直ってディバインブレードを天へ掲げる。

「私の名はステーシー! ステーシー・バントライン!! 私が! 私こそが!!」
肺の中に空気を送り込み、吼える。
「凶星を断つ剣なりッ!!」

その名乗りは、皆を鼓舞するためだけではない。
自分の中の勇気を奮い立たせるために。

「禍つ星たる終焉、エンドテイカーッ!!」
「あなたという星を今日、この刃にて断ち切るッ!!」

刀身にプラーナが集中していく。
プラーナは自分がこの世界に存在するための力。
全てなくせば消滅する運命。
それでも、戦うためにその力を振るう。

戦いが、始まった。

ステーシー > レッドドラゴンに立ち向かう怪異対策室一課、二課、そして三課のメンバー。
まずは近接型の異能を持つ人間とステーシーが先陣を切る。

群がってきた人間をあしらうように、レッドドラゴンは背を向けて剛靭尾を振る。
それだけで並の存在は蹴散らせる。
事実、何人かが吹き飛びながら戦闘不能に陥っていく。

ステーシーは、それを跳躍して回避しながら空中で切っ先を振る。

「ハイブリッドレインボウッ!!」

虹色の力の奔流がレッドドラゴンを射抜く。
だが、相手はあまりにも巨大。
そして、事実受けた傷を即座に修復させながらエンドテイカーは表情を歪めるのみ。

遠距離放射型の異能を持つメンバーが一斉に遠距離からレッドドラゴンに攻撃を仕掛ける。
それも意に介さず、ドラゴンは人間達を……餌を視界に捉える。

ご案内:「転移荒野外縁部」にリビドーさんが現れました。
リビドー >  
「……全く、あれ程までに見せ付けられたらボクと駆けつけざるを得んな。」
 
 遠巻きに戦闘の様相を観る。

 ……インターネット上で常世ローカルTVが貴種龍との交戦を包装している。
 怪訝に思いながらも少し遅れてTVを付けてみれば、まごうことなく映し出される交戦の光景。

 このように仕立てた事も踏まえ、画面越しでは満足が出来ない。
 万一の備えを行った後、急いで此処まで駆け付けた。

 一先ずは上がった息を整える。その後は、どうしようか。どうするべきか。
 

ステーシー >  
やってきたリビドーが見るのは、戦場の風景。
怪異戦闘のスペシャリストたちが、貴種龍という生きた災害と戦っている。

「バントライン一刀流……風巻ッ!!」

空中に十字状につけた風の裂け目。
それを刃で刺すことで、小規模な竜巻を横向きに発生させる技。
だがそれを一息で吹き消したレッドドラゴンの瞳が爛々と輝く。

瞳に浮き上がるのは、紋章。圧縮詠唱の果てに無数の拳大の爆裂魔法が周囲に浮かび、そして。

一斉に放たれた。
範囲防御型の異能者たちが仲間達を守るが、それでも爆裂魔法の数が200や300ではない。
エンドテイカーの放つ飽和爆撃にステーシーも傷ついた。

「ぐう……!」

爆風と舞い上がる砂塵を切り裂き、血を流しながらも貴種龍の前に立つ。

ご案内:「転移荒野外縁部」にクラージュさんが現れました。
リビドー >  
「……ふむ。」
 
 懸命に喰らいついているものの、戦況は乏しくない風に見える。
 体躯に因る攻撃だけでなく魔法を混ぜ込んだ飽和爆撃。
 防護に回ったにも拘らず、少なくはない被害を叩き出している。

(ジリ貧、にも見えるが。)

 もう少しだけ近付いてみるとしようか。
 内に渦巻く様々な感情に任せたまま、歩みを進める。
 

クラージュ > 転送荒野で派手な戦いが起こっている最中、一人の男が……いや、“勇者”が駆けつける。
近くにいたのは、まったくの偶然ではあったのだが。

「まったく、魔王に龍に……どうなってんだ、この世界は!!
 出鱈目か!!」

なぜか、剣の代わりに蛙を佩いている。
しめったお肌がちょっとぷりちぃ。

「動ける怪我人は、早く下がって!!
 助けに入るにしてもなるべく固まらずに!!
 範囲攻撃でなぎ払われるぞ!!」

自身も回復魔法で、怪我人の治療を優先しているようだ

ご案内:「転移荒野外縁部」に『車掌』さんが現れました。
ステーシー >  
様子を見ているリビドーに気づかないまま、現れた“勇者”に、ステーシーは息を呑む。
ドラゴンに勇者、まるでファンタジーだ。
問題は何故か蛙を装備している。

「でも……ありがたい…ッ!」

仲間を回復してくれている。ならば、まだ戦える。
自身の傷をプラーナをつかって賦活し、塞ぐ。
まだ戦える。まだ動ける。

その時、龍を巨大な拳が打ち据える。
怪異対策室三課のメンバーの身体変化型異能者の攻撃、鬼角龍撃拳。

それを反撃の契機にと動き出す。

「我が一刀は、一陣の疾風ッ!!」

相手の足元に行き、龍の前足を狙って斬撃。

「斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬るッ!!!」

ディバインブレード、旋空でエンドテイカーの右前足を滅多切りにする。
注意を自分にひきつけて、仲間を守らなければ。

次の瞬間、周囲にレンズのようなものが現れる。

「!!」

ステーシーに向けて光が、いや熱線が複雑に乱反射しながら襲い掛かる。
全身を焼き貫かれ、その場に蹲るステーシー。

『車掌』 > 荒野外延部。
突如あらわれた線路の先から、あらわれる三両の列車。
常世鉄道に災害級の危機があらわれた時のみ現れるという、武装列車だ。
だが、ここは常世鉄道から大きく外れた場所。
にも関わらず――

『車掌、マジで貴種龍ですよ!?』
『さすがにあれと戦える設計はしてないですよ! 援軍を呼ぶべきです!』
『まだ本線に被害は出ていません! 水際で食い止めましょう!』

口々に意見する乗員たち。だが。

「だぁってろ! あいつらを見捨てる気か、てめぇらは!」

貴種龍と戦う、怪異対策室三課。
絶望的な戦況の中、なお、彼らは諦めていない。
なら――

「――鉄道委員会、定刻通りにただいま参上だ!
各砲座、対空上げろ! 目標、前方貴種龍!
撃ちーかたー、はじめぇぇ!!」

号令一下、ドラゴンの魔法をものともせず、武装列車が砲撃をはじめる。

リビドー >  
「――む。」

 熱線に身を灼くステーシーを察知すれば顔を顰める。

(――過保護かもしれんが、躊躇っている場合では無かったな。さて。)

 響く汽笛の音と文字通りの助太刀に入る"勇者"。
 それらに併せて、戦場に混ざる。――あまり目立つのも宜しくはない。どさくさに紛れて飛び込むには好都合だ。
 

クラージュ > 「龍の注意を逸らせ!!
 追撃をさせるな!!
 龍だって生き物だ、疲労も疲弊もするぞ!!」

その龍は体力や生命力が段違いではあるのだが。

「ほら、倒れるにはまだ早いぞ……あっちの人を担いで後方に」

怪我人を『僧侶』で治療しながら、退避を優先させる。
そこに、派手な砲撃の音。

「誰かは知らないが、助かる……注意が逸れる。
 攻撃箇所は集中だ。怪我した場所には硬い鱗はないぞ!!」

ステーシー >  
「勇者………鉄道委員会……それに、リビドー……先生…」

勇者が負傷者の治療をしている。
リビドー先生が戦っている。
装甲列車が砲撃で援護してくれている。

刀身を通じてプラーナが流れ込んでいく。
自分がこの世界にいるという実感と共に、自覚する。
自身を悪しき龍を倒すための決戦存在まで高める。

その後、どうなるかはわからない。
ただこの途方もない夢を、刀に宿る夢を司る神『アルテミドロス』は。
叶えてくれるだろうか、この善き夢を。
今まで人間は悪しき夢ばかり見てきた。
今更、虫のいい話かも知れないけれど。

貴種龍が砲撃に怯み、傷ついていく。
しかしじわじわと再生しながら獄炎を伴うブレスを武装列車に吹きかけて応戦し始める。
大きな敵。装甲列車を敵と看做して。

その隙に。

ステーシーは再び、両手で持った剣を空へ掲げる。
西風が吹いた。

人々の感情が入ってくる。
今、この戦いをテレビで見ている人の半分は不安がっている。
でも、同じくらいの人が期待している。
この人たちなら、貴種龍を倒してしまうんじゃないかって。

その希望は裏切れない。

「プログレスッ!!」

ボロボロになった外套を脱ぎ捨てた。
自身を強制進化させていく。
悪しき龍を倒すための決戦存在へと。

白い髪、そしてプラーナに満ちた姿で刀を構える。
有り余る力を持って、傷どころか着ている服までも修復されていった。

ステーシー > http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca1084.jpg
ステーシー > 「これが私の異能………能力解放(プログレス)だッ!!!」
『車掌』 > 『三番砲塔大破! 砲手に被害多数!』
『龍からのブレス、また来ます! 隔壁下ろします!』
『シールド出力、50%まで低下! あまりもちませんよ、これ!』

車内は悲鳴のような怒号に包まれている。
各所で隔壁が閉鎖され、警報がけたたましく鳴り響く。

死霊術士の一個軍団とすら渡り合えると豪語された武装列車。
しかし、相手は貴種龍。人外の化け物。
その力は、前に相手をした飛龍如きとは比べ物にならない。
武装列車からは煙があがり、時折対魔術装甲すら貫通するダメージを受け、見るも無残に破壊されていく。

「――砲身が焼け付くまで撃ち続けろ! こっちに龍を引き付けるんだ!!」

それでも、彼らもまた諦めない。
この先に、勝利があると確信しているかのように。
絶望的な戦況を跳ね除けるかのように。
武装列車は、ボロボロになりながらも、龍の攻撃を引き付け、撃ち返し続ける。

そう、何故ならば。


「――列車は定刻通り、お客様の安全が第一ってなぁ!」

リビドー >  
 聖剣と、力を解き放ったステーシーを認める。
 それがどのようなものか、一目見れば概ねは分かる。

 人の想いを扱うものならば、それこそ良く分かる。
 だからこそ 放送を観てしまえば――

「居てもたってもいられなくてね。
 一枚、噛ませて貰うよ。」

 龍殺しの物語。
 絶対的な龍を殺す為に誂えた舞台に、
 他の誰でもない"自分自身”として意志を乗せる。

「一条の光明程度になってくれれば良いんだが。」

 手を翳す。
 周囲からリゾーマタ足り得る要素を集束する。
 火・水・土・空気――それらを纏め 腕に纏わせた。
 

クラージュ > 「ここが踏ん張りどころだぞ!!
 彼女だけを英雄にするんじゃない!!
 俺たち皆が、英雄であり“勇者”になるんだ!!」

へばりそうになっている者に檄を飛ばす。
本来なら、剣を携えて先陣を切りたいところだが、ぐっと我慢。
勝ちはしたが多大な犠牲では、きっと駄目なのだ。

「攻撃に参加できない、俺の力でも……無いよりはマシだろう。
 使ってくれ!!」

勇者の意地<プラーナ>をステーシーに託す。
回復したのはごく少量ではあるが、せめて役に立ってくれ と願いを込めて。

ステーシー >  
「こっちを向け、エンドテイカー。装甲列車は人が作り出した夢なんだ」
「お前が何の感慨もなく吹き消していいものじゃあない……ッ!!」

圧倒的速度で貴種龍の前足を斬り飛ばす。
骨までバターのように切り裂いたステーシーは、そのままの速度で後方に跳ぶ。
リビドーの傍に着地し、剣に白の極光を纏わせる。

「リビドー先生………お願いします、人々に善き夢を見せてあげてください」

ふっと微笑んで、今度は真上に跳んだ。
虚空を蹴りながら飛行し、今度はプラーナを使って空中に静止した。

「ありがとう、鉄道委員会の皆さん。貴方達も、龍殺しの英雄よ」

剣の聖女が笑って、空で剣を大上段に構える。
そこにクラージュから渡されたプラーナが共鳴し、剣に力を溢れさせる。

「私一人の力じゃない……全員の力が、今…貴種龍を討つ」
「ディバインブレード、旋空でつかまつるッ!」

そのまま旋空を振り下ろす。
白の極光が放射状に放たれ、超範囲を薙ぎ払った。

「バントライン一刀流奥義、星薙ッ!!」

全身をボロボロにされた貴種龍。
そこに怪異対策室のメンバーが追撃を加えていく。
攻撃異能はその全てを持って、龍を祓うために戦っていく。
だが完全生命体であるそれは、前足を即座に再生させると圧縮詠唱を始める。
全てを薙ぎ払う高位爆発魔法、エクスプロージョン。
それを七重八重と起動させ、群がる人間たちに打ち込んだ。

『車掌』 > 『シールド、20%に低下! 臨界点まであと7分!』
『車掌、こちら機関室! 機関出力が落ち始めた、急いでケリをつけてくれ!』
『二番から七番までの砲塔、沈黙! けが人は既に搬送済みです!』

車掌は龍を見据える。
ステーシーと呼ばれた少女の一撃。
あれに合わせる事ができれば――

「――零零零式、撃鉄起こせぇ!」

『車掌、まさか!?』
『――どうなっても知らんからな!』

そして、武装列車の速度が落ちる。
当然、龍の猛攻撃が加えられ、シールドは今にも消えそうになるが――

「――こいつで決めてくれよ、怪異対策室三課!」

奥の手である零零零式対異界用700mm砲。
防御と回避を全て捨て、彼女に合わせて放つ一撃。
車掌は、それに賭けた。

一撃を叩き込むのが先か、武装列車が臨界を迎えるのが先か!

リビドー >  
「そうだな。善き夢を見て貰わないとな。
 ――だが、見るだけで満足するなよ。」

 隣に控えるステーシーには頷きを以って応える。
 その視線を竜に映す。その巨体や能力に動じる素振りはなく、鋭く咎めるように見据えた。

「これは教師である以上に、ボク個人の話でもあるのだが――
 ――無造作に夢を散らすだけ散らすような輩は、気に喰わん。」
 
 纏わせたリゾーマタを解放。定義し、描画し、構築する。
 渾身の集中を以ってして発生を読み切ってあてがい、
 幾重にも生じる爆発を相殺する。

 ――大気、水、土の三層から成る広域多重。
 それを人々の前に展開し、被害を最小限に抑え込む

 大気の断絶を以って衝撃を削ぎ、
 水の膜を以って爆熱を殺し、飛礫を飲み、
 残る熱と衝撃を丸ごと削ぐ。

 とは言え総てを拾える訳ではない。相殺し切れなかった遠方の爆発が身を焦がす。

「ち……どうにも数が多いし、読み切れんな。だが。」

 ……残る火は、リビドーの手の内だ。
 
 

クラージュ > 「まったく、今日は爆発に縁がある日だ。
 今日だけにしてもらいたい――――――――」

おそらく、次の攻撃はデカイのが来る。
そう判断してせめて逃げられない人の盾になろうとしたのに、見事に相殺されてしまった。

「……本当に出鱈目だな、この世界は。
 “勇者”の俺が普通になってしまう」

おかしそうにふふっと笑みを浮かべて。

「さぁ、正念場だぞ!!
 龍の動きを止めるんだ!!」

檄を飛ばして回る。
せめて後詰はしっかりとしておこう。
英雄が、ちゃんと家路につけるように。
帰りを待つ誰かを悲しませないように。

ステーシー >  
ボロボロの貴種龍に、零零零式対異界用700mm砲が撃ち込まれる。
防御障壁を多重展開して迎え撃ってなお、全てを貫通してレッドドラゴンの胴体に風穴を開ける威力。
呻いて、レッドドラゴンが再生に注力し始めた。

「はい、先生!!」

リビドーの呼びかけに力強く応えるが、すぐに爆裂魔法が飽和爆発を起こす。
だが、それはアンチマジック……いや、魔術を読んだリビドーの魔術的相殺により被害は最小限に抑えられる。
確実に被害は出ている。だが、死人は出ていない。

「たった一人の勇者を犠牲にしても龍を殺すロマン足り得ない」
「全員が勇者であるならば、龍を倒した上で皆が生きて帰れる」
「そうよね、勇者さん?」

翼を広げ、空に逃れようとした貴種龍を超重力の渦が地面に叩きつける。
怪異対策室三課の重力系異能の持ち主の技だ。
その叩き付けられた貴種龍の体を、氷と炎のエネルギーを合わせて作り上げられた消滅エネルギーが削り取る。
極大消滅波。同じく、炎と氷の放出系異能者の能力。

「先輩達も戦っているんだ……だから、負けられない!!」

加速行動(アクセラレイター)。
いや、足りない。
戦闘レベル危険域限定解除……自身の体の安全を度外視した動きで貴種龍を攻撃する。
体のリミッターを外し、貴種龍に斬りかかる。

「万鬼猛襲剣ッ!!」

斬る。払う。突く。
それだけの攻撃が無数に貴種龍の姿を切り刻んでいく。
最速の斬撃が、貴種龍を追い詰めていく。

それでも、貴種龍は倒せない。
完全なる個、それは命という枠を超えた存在。

全てを終わらせるために、エンドテイカーは最大出力のブレスのために力を溜める。
放たれれば、全てが終わりだ。
その場にいる人間に多大なる被害が出るだろう。

『車掌』 > 『――あれで、死なないのかよ!?』
『もう、だめ、か――』

奥の手、零零零式対異界用700mm砲ですらトドメを刺せない。
あの化け物に対し、この武装列車が打てる手は、もう――

「――あるじゃねぇか、一個だけよぉ」

『車掌』は不敵に笑ってみせる。
指揮官は、常に笑ってなくてはいけない。
指揮官が焦り、不敵な態度を崩せば、それだけで士気が下がる。

『車掌、だがもう零零零式は撃てんぞ、装填が間に合わん!』
『120mmは対竜砲ではありますが、貴種龍には……!』

「速度最大! 龍に対して突っ込むぞ!」

あのブレス、おそらく最大出力。
ならば、チャージに時間がかかるはず。
そして、チャージ中は攻撃してこない!

『しゃ、車掌……!』
『ま、まさか!?』

「砲手、最後のチャンスだ! あの龍のドテっ腹に突っ込む、肉薄して120mmを全弾ぶっ放せ!」

最早それは特攻と呼べる行為。
武装列車は最後の力を振り絞り、龍に向かって突っ込んでいく。

「車両前方にシールドを集中させろ! 最大戦速、総員、衝撃に備えろぉ!」

リビドー >  
 何かしらの"力を溜める"動作が見て取れる。
 恐らくブレスか何かを放出するのだろう。
 
 倒せぬ。防ぐのも困難。出来るとすれば隙を作る事だ。
 それにしたって火だけでは足りぬ。水・空気・土の要素は爆発を抑え込む為に使ってしまった。
 集束し直す暇もない。その上で、力を積むとなれば――
 
「気に喰わん――ち、後はキミたちに託すからなッ!」

 "身を削る。" 
 例え代償が戸口で待ち構えようが承知の上だ。
 とは言え、夢物語に悲劇を混ぜるつもりはない。
 取返しの効く範囲で注ぎ込むつもりだ。備えだって済ませてある。

 緑色の瞳が燃え、リビドーの手腕に纏う火の勢いを強める。
 最早火と呼ぶには荒々しすぎる"それ"を束ねて弓矢を構築する。
 ――"一矢報いる。"その縁起を担ぐ上でも、この形が望ましい。

 弓引き絞る形を取って、荒々しく燃え盛る力を尖らせる。
 ――渾身の感情を込め、龍の瞳を射抜かんと放つ!
 

クラージュ > 喉が膨らむ。
この予備動作は――――

「ブレスが来るぞ!!
 撃たせるな!! 喉元に攻撃を浴びせ続けろ!!
 撃たれたら防ぎようがないぞ!!
 可能なら龍の足元まで寄れ!! そこはブレスが届きにくい!!」

今までの経験則が通じているこの龍なら、被害はこれで最小限になるはずだ。
もっとも撃たれた時点で被害はすさまじいものになるのだろうけれど。

            ブレイブワークス
「龍を退治するのは、『勇者のお仕事』だからな、前線の刀の英雄!!
 『勇者』なら……戦いに負けはないさっ!!」

ステーシー >  
装甲列車の捨て身の攻撃、それは貴種龍にとって初めての脅威だった。
あれほどの質量を持った存在が己が存在を捨ててまで攻撃してくることがあるだろうか。
その攻撃に、エンドテイカーは確かに恐怖を覚えた。

終焉を齎す者が、人の作り出したものに恐怖を感じたのだ。

龍は急に視界が悪くなった。
小さな生き物が、自分の瞳を燃え盛る何かで撃ち抜いたと気づいた時。
恐怖が怒りに塗り替えられる。
しかし狭まる視界に一瞬、攻撃を躊躇った。

そして勇者の指示で怪異対策室のメンバー達が、ドラゴンの喉に攻撃を集中させる。
負傷した者も避難しながらも、それぞれが役割を忘れていない。
 
 
そして、龍を殺す物語は織り成される。
 
 
テレビで見ていた人間が、貴種龍への勝利を確信した。
それは願いであった。
世界を救うわけではないが、常世でテレビをたまたま見ていた人間の、祈りでもあった。

でも、今の自分が束ねる意志はそれだけで十分。
人の意思を束ねて、刀を構えたステーシーが走る。

「私たちの使命、私たちの意地、私たちの力…!」
「今こそ、刃と成して奴を斬るッ!!」
「貴種龍なんて、私の剣で両断するのみ!!」

聖剣をかざして叫ぶ。

罪は消えない。
異能を使って力なき存在を虐げた罪。
仲が良かった兄に助けられ、自分だけ生き残った罪。
自分の父親が死んでいく姿をただ見ていた罪。
殺意を持って刃を振るった罪。

でも、自分たちは前に進む。
その意志が、刃と共に振るわれた。

「終焉を退けし者の聖剣(エンドブレイカー)!!!」

一刀。
刃は届く。束ねた思いは、届くものだから。

一切の矛盾なく貴種龍は両断され、完全なる生命が存在する確率が消滅した。

静寂。貴種龍が再生してこないことを確認すると、全員から歓声が上がった。
力を使い果たして蒼黒の髪に戻ったステーシーが、背中から地面に倒れこんだ。