2016/07/31 のログ
ご案内:「居酒屋「雪鴉」」に寄月 秋輝さんが現れました。
■寄月 秋輝 >
入店する。
それだけでちょっとした冒険だ。
寄月秋輝、20歳。
初の飲酒である。
(……実は何度か飲んでたけどね)
魔法世界の飲酒可能な年齢が18からだったため、一応飲んだことはある。
しかし大手を振って飲みに来たのは、今日が初めてである。
その開放感が、ほんの少し心地よい。
とりあえず一杯頼み、ついでに串揚げをいくつか頼んで置き、席についた。
■寄月 秋輝 >
日本酒はいい。
なんとなくだが、秋輝の口に合う。
日本人の遺伝子がそうさせるのだろうか。
考えている間に、品が届く。
「ありがとうございます」
一言礼を述べ、酒をついであおる。
腹の奥から温まる。
同時に魔力が満ちる。
■寄月 秋輝 >
秋輝の世界の魔術法則も含め、エネルギーを魔力に変換するクセが染み付いている。
炭水化物が変換効率がいいため、よく口にするのだが、やはりそれ以上に酒だ。
アルコール、次いで茶。その次に食事。
(……うま)
酒を楽しみながら、端末を取り出す。
自分が構築した魔術式、それを元にした研究成果の確認。
たまにはこんな日があってもいいだろう、と思ってこうした次第である。
■寄月 秋輝 >
居酒屋で一人、呼吸を整える。
剣士としての佇まいで、酒を飲む。
この場にミスマッチな存在が、さらに魔術に関して考えている異常。
当人はあごに指を当て、真剣そのものの表情。
(……魔術式はもともと精度が高かったものを流用しているから、完成度が高いのは当然だが……)
「『こうも完璧だと不安がある』、か……」
師の言葉を思い返しながら、小さく呟く。
多少のミスがあったほうが、修正出来る安心があるからだ。
完璧に見えるのは、自分が必ずどこかを見落としているからだ。
そのあら探しに全力になる。
ちびちび酒を飲み、時折揚げ物をかじりながら。
■寄月 秋輝 >
「……ん」
酒を一杯頼んだだけで、ずいぶん長く居座ってしまった。
いまだに魔術理論にミスが見当たらないが、致し方あるまい。
久々の飲酒、しかし誰にも後ろ指をさされない、堂々とした摂取。
酔い以上に、それが出来たことで気分がよかった。
軽く伸びをしたら、代金を支払って表に出ていった。
ご案内:「伊都波家・離れの道場」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 > 「………」
道場に一人、道着のまま沈黙の中に正座する凛霞
否、一人ではなかったそれを黙って見守る少しおおきな影が一つ
長い長い沈黙が過ぎて、凛霞がゆっくりと瞼を開け、言葉を紡ぎ始める
「……父様は、残酷ですね」
ぽつりとつぶやいた小さな言葉は静かな道場によく響いた
■伊都波 凛霞 > 伊都波の流儀は一子相伝
男の子宝に恵まれなかった今代の伊都波家、本来ならば姉妹二人ともがそれを学ぶことは許されない
「父様は知ってたんでしょう?
本当に、流派を継ぐ素質があったのは、私と悠薇、どちらだったのか」
いずれ、覚悟する時は来ると思っていた
けれどそれはこんな形ではなく…妹が、独力で自分を乗り越える形で
「毟り蕾をあの子が自分のものにした…その時から、少しだけ予感はあったけど…」
■伊都波 凛霞 > 「私が十五を迎えるよりも早く、父様の技を全て覚えたのは全部…本来、悠薇の役目だった」
秘伝に近いものがある、毟り蕾だけを扱えた、あの子と
数々の才気を見せ、あらゆる技を会得しても、それだけは習得できなかった自分
「だから私は、本当なら後継者を決める立ち会いで…
あの子に負けることが自然だったんでしょ?
……強くなる筈だよね。二人分の才能を、占有していたんだもん」
■伊都波 凛霞 > 難しい勉強やテストも、二人がかりなら満点だ
二人分の体力があれば、体育祭でだってスターになれる
そして二人分の友人に囲まれて、二人分の───
「神童なんかじゃない…、あの子を才能も友達も運も、全て奪って自分のものにして、倍にして…。
何もない子にしてたのは…私だった」
後ろで見守る影は、ただただその言葉を聞き、目を伏せた
■伊都波 凛霞 > 「自分で道を遮っておきながら、あの子を応援し続けた。
やればできる、がんばれ、がんばれって。
滑稽ですよね。自分自身で妨害しておいてあの子を焚きつけるような真似。……知らなかった、じゃ済まない」
するりと立ちあがり、道着の裾から一振りの短刀を取り出す
「知っちゃった以上は…返すのが責務ですから」
■伊都波 凛霞 > 「あの子に、あんな幸せを掴んでほしくなかった…。返せるものだけでも、返そうと思います。
………父様、私は伊都波の後継者を辞退します」
そう言って、見守る影……父に対して深く頭を下げた
「………後継者は、伊都波悠薇。
一子相伝の伊都波の流儀に従って、私の"技"を封じてください、父様」
短刀を、差し出した
■伊都波 凛霞 > ……父の本当に悲しそうな顔を、恐らくは初めて見た
習得した技だけを封じるなんて魔法のような真似はできない
それはつまり、運動能力自体を奪うことに繋がる
拳を、両手両足の腱を潰される
伊都波の技を使おうにも使えない状態へと、身体を追い込む
これだけは、悠薇と共に教えを受け始めた頃から変わらない結末でもあった
「(大丈夫…悠薇から借りてたものを返すだけ……ただそれだけ)」
日常生活に支障が出るかもしれない、いや、間違いなく今まで通りとはいかない
少なくとも、戦うことはできなくなる
……これも、司ちゃんに謝らないとねいけないな、そう思って
■伊都波 凛霞 > 長い長い沈黙の後、父は小さく顔を横に振った
短刀を握ることもしない、明確な"拒否"だった
「……じゃあ、なんで……私達二人にこの流派を教えたんですか」
わかりきった問答
そんなもの、知らなかったからに決まっている
仲睦まじい娘達への親心もあったに決まっている
……娘の身が可愛いに決まっている
父親に辛い結論を委ねようとしていた自分を恥じる
免許皆伝の責務だとかそんなものよりも重い家族愛を父が持っていることは重に知っているはずだったのに
「………家を出ます。今後、伊都波の名は使いません」
もう一度、深く深く頭を垂れ、短刀を床にそっと置いた
「今までありがとうございました。…これからは、一人で生きていきます」
■伊都波 凛霞 > 最後に見えたのは、何か言葉をかけようとしていた父の顔
その言葉を聞けば後髪を掴まれる
だから、耳を塞いで、逃げるようにして
生まれ育った青垣山の自宅から走り去った
ご案内:「伊都波家・離れの道場」から伊都波 凛霞さんが去りました。