2016/08/13 のログ
ご案内:「常世記念病院」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 > 硬い廊下をローファーが叩く音につづいて、
ドアからコンコン、という乾いた小さな音

ただそれだけ

本来なら誰が訪ねてきたかもわからないそんな音も
きっと「誰が」訪ねてきたかを、その部屋の人間に教える───

ご案内:「常世記念病院」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 > 無音。ぴっぴっという、機械の音だけ。
人がいるようには思えない、無音で――

その音を受け入れた。

どうぞも、何もなく――
でも、入室を促すような、静寂

伊都波 凛霞 > ゆっくりと滑るようにドアが開かれて、覗いた顔は

「悠薇、具合どう?
 シュークリーム買ってきたよー」

見慣れた、いつも通りの
見慣れたハズの笑顔がやってくる

伊都波 悠薇 > 妹は、外を見ていた。
ざぁっと風が流れる。その音とともに、髪をさらうのを、受けながら――

『何しに、来たんですか?』

静かに、静かに――告げる

伊都波 凛霞 > 「何って」
苦笑してみせる

「お見舞い。
 お姉ちゃんが妹のお見舞いにきちゃおかしい?」

今食べないなら冷蔵庫に入れておくねー、と
手元のシュークリームの箱を、ベッド脇の備え付けの冷蔵庫にいれて

「やっぱり具合悪い?」

そっとその肩に触れようと手を伸ばした

伊都波 悠薇 >  
ぱしん――
てを、はじく。はじく、音。静寂は、嫌にその音を反響させる。

『――違うでしょ。凛霞さん』

うつむき、表情を見せず――明確な、拒絶。
いるのは構わない、しゃべるのもいい。
だが――姉として接するのは、許容しない

伊都波 凛霞 > 「来ない方が良かった?」
苦笑いを噛み潰して、笑顔を整える
ぱしんと弾かれた手を、反対の手で撫でながら

「でも沢山お話しなきゃいけないこともあったしさ」

そう言って、ベッドのすぐ近く、椅子に座った

伊都波 悠薇 >  
『話すこと? いまさらですか?』

きゅっと、手を握る――
くしゃっとするシーツ――
風が、少し強くなったように感じて。
カーテンが、踊る――

『あぁ、話したくないって私が思うから、つり合いをとろうとしてるんですね? ごめんなさい』

謝罪が、棘として。
悠薇の体を、纏う。まるで、薔薇の様に――

伊都波 凛霞 > 「違うよ」

凛とした音で、明確にそれを否定する


「今はつり合いなんか関係ない。
 話をしたいのは私の意思。
 当然それを拒否するのも悠薇の意思だよ。
 でも今日のお姉ちゃんはちょっと頑固だから、悠薇がお話に付き合ってくれるまで帰りません」

伊都波 悠薇 >  
『――勝手にどうぞ』

握りしめた拳は開き、そっと窓を見る。

『――それで、姉をやめた人が、わざわざ姉なんて言葉を使って、どんなお話ですか?』

棘は伸びる。伸びて伸びて――

伊都波 凛霞 > 「…そうだね。言い訳を並べるつもりはなかったんだけど、お姉ちゃんも色々考えたんだよ」

頑なな言葉に苦笑しつつ、落ち着いた様子でゆったりをその背もたれに背を預けて

「最初は、お姉ちゃんのせいで悠薇が辛い思いをしてたと思ったんだ。
 …だって、成績の伸び悩みとか、運動能力の向上のなさとか…辛い表情の悠薇を、一番近くで見てきたからね」

しんなりとした話だし
その言葉は暗い話題からはじまったにもかかわらず、どこか───

「でも、悠薇はその異能が自分に在ることを知って、笑顔になった。
 悠薇のやってきたことが、無駄じゃなかったことを知ったから、だよね。
 ……私にはそれが、凄く悲しくて辛かったんだよ。悠薔。
 だから……"お姉ちゃん"から逃げちゃった」

すっと落とした視線を戻して、真っ直ぐに向けた

「弁明する気はないよ。でも一度背を向けてわかったこともある…。
 だから、お姉ちゃんは最後の確認に来たんだよ。
 私が思う悠薇の幸せじゃなく、周りの思う悠薇の幸せでもなく…。
 悠薇自身が本当に思う悠薇の幸せ、それを知りにきたんだよ」

その答えは以前ももらっていた
だから"確認"なのだった
その答え次第で、覚悟を決めなければならない
高まる鼓動の音が、目の前の悠薔にまで聞こえているのではないかと不安になる

伊都波 悠薇 >  
『そうですか』

話を聞いて、ただただ聞いて――
頷いた。妹には他者を否定しない。頷き、それがその考えが。
その人の価値であり、存在であり、そういうものなのだと。
しかし――
   それだけだ。

受け入れもしない。それは”あなた”だといわんばかりに。
だから、伊都波悠薇は――

『いいんじゃ、ないですか。もう、それで』

姉のせい。そう思うならそうすればいい。
自分は絶対にせず、貫いてきたそれを。
天秤はつり合いをもって――悠薇に報いた。

まぁ、それも――もう、どうでもいいのだけれど。

『――それを聞いて、どうするつもりですか?』

ケタ――……

聞いたことのない、笑い声が聞こえた。

『まさか、それを叶えるためにきたとでも? あれだけ、あれだけ、すべてひていして。すべてすべて投げ捨てたのに――』

――いまさら、どのくちで?

がばっと、顔をあげて――髪を”かきあげた”

目に光はない。光はなく――まるで虚無のような”エガオ”

『私の幸せはずっとずっとずっとずっとずぅううううううっと。言ってるじゃないですか、”お姉ちゃん”の幸せだって』

でも――もう……
そして表情は、消える。

『でももう、お姉ちゃんはいないんです。もういなくなりました。私の中のお姉ちゃんは、もう、幸せに向かって私の視界から消えたんです』

伊都波 凛霞 > 「うん、それが聞きたかった」
にこりと微笑んだ
妹の言葉にはたじろぎもせずに、凛として

「否定の言葉は撤回するし、投げ捨てたものも拾いに来た。
 吐いた唾だっていくらでも飲み込むよ。今更でもいい。
 虫が良すぎたって構わない、それでも私は悠薇のお姉ちゃんに戻りたかったから」

目をそらさない
刺すような言葉にも負けない

姉はもういない
その言葉を真っ向から斬り開くための、刃を握る

その刃は、揺れ動き傾くその天秤にかかる重力を、断ち切った

「いるよ。ちゃんといる…戻ってきた。
 妹にそこまで想われて、幸せじゃないお姉ちゃんなんていないわけがないんだ。
 だから、お姉ちゃんとしてもう一度認められるためにも、絶対に負けるわけにはいかない」

伊都波 悠薇 > ――あぁ、戻ってきた。
戻ってきた”英雄”。
なら、ならもっともっともっともっともともともっと!!

もっと、つり合いを。どこまでもどこまでも醜悪な。
どこまでもどこまでも、汚らしい。

最も、この世で吐き捨てたくなるほどの――


     ”化け物”へ


――ケタケタケタケタケタケタケタケタタタタタタタタタタ
タタアハハハハハハハハハハアハハハアハハハハアハハハハ!!!!!

『そう、そうなのね。お姉ちゃん!! なら、私の幸せを叶えてくれるの? どこまでもどこまでも、かなえてくれるの? 妹の幸せを、かなえてくれるの?』

伊都波 凛霞 > つ…と、自分の鼻から生温かいものが垂れるのを感じる
───負けるか

妹が願ったから負けないんじゃない
自分が、この子の姉であるために…負けたくない

無理やりにつり合いを取ろうとするそれを…
今度は、逆側から支えるように───

垂れる鼻血を、衣服が汚れるのも気にせず袖で拭い去って

「違うよ悠薇。私にはそんな力はない…。
 お姉ちゃんにできるのはずっと"今まで通りに"
 悠薇の幸せを『願うこと』だけ……けれど、そのためなら」

無限にだって強くなってみせる
その時が訪れるまで守り切ってみせる
追いすがるその時まで、目標であってみせる
あの日、あの時、自分に羨望の目を妹が向けた時に決意したそれを、再び握りこんで

ひゅんっ

窓から吹き込んだ風の音とは違う、鋭い風の音

パァンッと小気味良い音が、病室へと響いた
立ち上がり、その掌で妹の横面を、張り叩いた

「しっかりしなさい!悠薔っ!!
 自分の幸せくらい、異能にもお姉ちゃんにも頼らず自分の力で掴んでみせなさい!!」

伊都波 悠薇 >  
たたかれた。たたかれた、たたいた――

『どうしてですか? どうして、姉になると。戻ると言ってくれたのに今まで通り、かなえてくれないんですか?』

そうだいつだってかなえてくれていたというのに。
どうしてどうしてどうして???

『早く、早くかなえて。かなえてくださいよ……はやく、”英雄―おねえちゃん―”なんだから、はやく――』

鼻から流れる血。それはまるで鏡のよう

「”退治―ころして―”くださいよ……」

ようやく、正面にたてたのだから――
それは心の底から願う――

『あなたこそ、しっかりしてください。どうして、今までと変えようとするんですか。元通りなら今まで通りでいいじゃないですか。今まで通り――』

「……助けてよ」

伊都波 凛霞 > 「……悠薇」

ゆっくりと、その視線の高さを合わせるように屈みこんで

「お姉ちゃんはね。一度だって…叶えてあげたことなんてないよ。
 ただただ、ひたすらに願った結果が、そう、見えてたのかもしれないね…」

でも、お互いが異能を認識して…前提が変わってしまった
今まで通りにあろうとしても、そこには今まで通りではない何かが生まれる

「悠薇、ちゃんと私を見て。目をそらさないでちゃんと見据えて。
 神様でも英雄でもない…伊都波凛霞は、伊都波悠薇のお姉ちゃんなんだよ?
 手を伸ばせば、手を繋いで走ることもできる…。待ってって言われれば、ちゃんと悠薇が追いつくまで足を止める。
 私だって、成長する…時間は止まっていてはくれないの。元通りの距離には戻れても、時間までは戻らない…」

すっと、立ち上がる

「ねえ悠薇、ちょっと外に行こうか」

にっと笑って、その手を差し伸べる
体力は落ちているだろうけれど、歩けはするだろう
連れ出しの許可は、事前にナースステーションでもらってきていた

伊都波 悠薇 >  
なにを いってるのか りかいできない

そうかもしれない、でも英雄と幻想したからにはもうそれはそれとしてしか認識できない。
その責任を、放棄する? 放棄、すると今そう言っているのか――

「……――」

押し黙る。抵抗も何もせず――ただされるがまま――

伊都波 凛霞 > さすがにこのままじゃね、と微笑んで

自分と、妹の鼻血を拭い去って……二人は病院の中庭へと移動する
丁度今の時間は人もおらず、明るい日差しが二人を照らす

陽光差す中で、静かに姉は口を開く

「実は、私にも新たしい異能が見つかったんだ───」

静かな語りだしから、少しずつその口調は、嬉しそうに
その光景はどこか…あの日、自身の天秤を知り笑顔を向けた妹とダブって見える

「色んなことが複雑で、受け止めるのに時間がかかっちゃったな…。
 でも、それでお姉ちゃんの想いもしっかり固まったの」

異能の中身は口にしない、そのまま、くるりと妹へと振り返って

「近くにいすぎると、見えない部分もあるんだって。当たり前のこともわかって気がする。
 ……ね、悠薇。学園に入学して…少しずつ少しずつ、私達が一緒にいる時間って減っていったよね…。
 正直に言って?……悠薇は、寂しかった?」

伊都波 悠薇 > ――何を言おうとしてるのか、まったく理解ができない。

なんだ、なにかがざわつく。
なんだ、これはなんだなんだなんだ?

何を――?

伊都波 凛霞 > 「……答えてくれないの?」

苦笑する
言葉を投げつつ、向き合って

「二人の距離が、開いちゃったよね。って言いたかったんだ。
 それまでは何をするにも、二人で一緒だったのにね」

大人になってゆけばそれは自然なことだと、何も疑わずにいたけれど
あの頃から二人で過ごす時間は減る一方だった
自分が保険課に入ったあとは、道場の稽古だって、なかなか一緒にできなくて

「悠薇があの技をいつの間に覚えたのかなんてことも、知らなかったもんなぁ…。
 入院患者に言うようなことでもないけど…私に、見せてくれない?」

看護師に見つかったら大事だろう
けれど時間は待ってくれない、どんどんと、過ぎ去っていってしまう

伊都波 悠薇 >  
なんだ、胸がざわつく。
なにかの決意。自分はただ殺されて終わるだけだったのに。
なんだ、なんだ――?

首を横に振りながら。”少女”は震える――

伊都波 凛霞 > 「悠薇」

凛とした声が飛ぶ

脳裏に浮かぶのは…
小さな時分、父親の指導の元に二人で稽古に励んだ光景
やがてその光景は少しずつセピア色から、色彩豊かになり…

やがて色づいた、その光景には…自分しかいなかった
悠薇はこっそりと、自分だけの練習場を持って…姉妹は、正反対の技を覚えた

「悠薇は何のためにあの技を練習して、覚えたの?
 お姉ちゃんに、それを見せて───」

伊都波 悠薇 >  
「――……どうして?」

それをみて、この姉は。

何をしようとしてるのか――?

「――どうして、どうして? なんで今更」

伊都波 凛霞 > 「今更なのはわかってる。
 でも可能な限り過ぎた時間だって取り戻したいんだよ。
 先に全部放り投げようとしたのは私、虫がいい話だってわかっててもやるの。
 悠薇が、もうお姉ちゃんなんていらないって、
 自分の中の理想のお姉ちゃんがもういないって、そう思うなら───」

すっと、体<たい>を開いた姿勢で、向き合う

「秘伝・毟り蕾を以って、私を斃してみせなさい」

目を細めて、そう言葉の槍を向けた

無論、姉として在りたいと願う凛霞からは命を捨てる雰囲気は欠片も漏れ出さない
責任も、蟠りも全て受けきった上で生き残る力強い意思を示す
漂う空気は、諦めとは正反対の───決意

伊都波 悠薇 > (中断)
ご案内:「常世記念病院」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「常世記念病院」から伊都波 凛霞さんが去りました。