2016/08/21 のログ
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伊都波 悠薇 > 【あらすじ】
とある、姉妹の話。

カナカナと、ヒグラシが泣いている。
啼いている鳴いている、哭いている。

支えているだけと、姉は言った。
そんなはずないと、妹は否定する。

ただの人間だと、”姉―えいゆう―”は告げる。
そんなはずない。ならばなぜ自分の前にいると、”妹―ばけもの―”は叫ぶ。

”姉”は、”妹”の手を取り――
     
      中庭に。

そして告げたのは――

――倒して見せなさい。


カナカナカナカナカナカナカナカナカナ。

ヒグラシが、ないて――

伊都波 悠薇 > うつむいて――うつむいて――震えて……

ばけものは――嗤った……

「あぁ、なるほど……」

けたけたけた、かなかなかなかな。

笑い声とひぐらしのがっしょう。合唱、合掌。
掌を合わせて――ばけものは……

「そうしないと、退治できないもんね。ごめんね、お姉ちゃん。危うく、人殺しにしちゃうところだった」

あぁ、そうだ。そうじゃないと、正当防衛にならない。
そう、ならないから。今姉は、そのように言って。
すべての非を、自分にかけてくれている。
ありがたい。そうだ、なんて気が利かない。

ただ殺してなんて、人殺しにしてはいけない。
英雄は、理由があるからこそ、犯罪者ではなくあがめられるのだ。
殺戮者と、英雄は紙一重。
そんなことにも、気づかないなんて――

「ごめんね、お姉ちゃん。未熟者で、ごめんね?」

構えをとる。
あぁ、これで理由は全部そろったと。
安堵したように――

伊都波 凛霞 > 妹の言葉をただただ、まっすぐに向き合って、聞く

そうじゃない
違うんだよ、と言う言葉を飲み込んで

思いが届かない
言葉が届かない

二人の距離が、今とても遠く感じて

「……"未熟者"にあの技は使えない。
 それと、私が今相対してるのは化物じゃなくて…妹だからね」

多くは否定しない
どうしても譲れなかったそこだけを言葉として投げかけて、自分も大きく体を開く構えを取る

伊都波 悠薇 >  
「――違うよ。貴女が”使わない”から使ってるだけだ」

牙をむくように、声を出す。
ぎぃぎぃっと、頭の中で何かが揺れる音がする。
耳鳴りがする、頭が痛い。
あぁ、わかってるから静かにして――今、もうすぐ、平らになるんだから――

「――不肖、末席穢す伊都波の愚妹が、お相手します」

名乗り――。その名乗りは、死合いの合図。

ただ――言葉が多少、違っているが。

構えを、とった体制から。自然体に――
構えを姉がとったからなくした――

そこからでる、必殺の棘が――妹の、殺し技だ

伊都波 凛霞 > それも、違う
使わないのではなく、使えなかったんだ

「………いざ」

病院の中庭でこんなことを始めるのは、非常識も十分に承知
それでも、"時間"が惜しかった

どうあっても、いずれ通る道
そこから最初に逃げたのは自分
けれど、それが許されないとしても、戻ってきた

恥であろうと、吐いた唾を飲むような真似であろうと構わないと決めた

極意を一子相伝とする伊都波流、
悠薇が自分とともに技を学びはじめた時に、いずれ…と思っていたこの時
こんな形で、訪れるとは思わなかったけれど───

伊都波 悠薇 >  
カナカナカナカナカナカナカナカナカナ――――

長く長く、響く――音。

それが、一瞬にして――


    止む


地をけったのは、どちらが先か。
姉のほうは受け止める前提で、動かなかったかもしれない。
が、妹は、素人のような走り方で、ただただ速度だけを優先して、ハシル。

その走り方は――歪すぎて、獣のようにも思えて――

そして――心の蔵へ――放つ……?

伊都波 凛霞 > 話を聞くと見るとは、大きな違い

決して油断していたわけではない
伊都波流、全局面対応型の古流武術

その秘伝は、防御能わず───

死角に巧妙に隠された"太刀筋"は、流儀を極めたものにしか出来ない動きのはずで
本来、その妹の能力では、困難を極める一撃
完成品ならば、例え自分でも防御は不可能、このまま……死を迎える

なぜその技が出来るのか
答えは一つ

自分が、その技を使えないから
つまり……天秤に授けられた───

「(……"≠<ALMOST EQUAL TO>")」

それを、揺り動かす

伊都波 悠薇 >  
ぎぃぎぃ――
天秤が動く。ぎしぃっと――動く……

心臓に向かったと思われる――手――掌底。
だが、それが何かに作用されるかのように”ずれる”

殺し技が、ずれる。外れる。

もし、姉が反応できなかったとして――棒立ちの状態。
その状態で外れるという”現象”。

それに、天秤はつり合いをとらせようとする。
姉に――外したの反対の――”殺し技―カウンター―”を打たせて当てるという現象をもたらさんと。

強制力が、働く。
そう、それは運命故に――

伊都波 凛霞 > 「(わかってるよ)」

そう、子供の頃からそうやって、身体に染み付いてきたそれを
自然に放とうとする、自分を───

「(───違う!!)」

発動させた自身の二つ目の異能は、"≠"
限りなく近づけど、二人は必ずしも同じ位置には重ならない

それが、天秤を揺らし続ける
運命を拒絶するように、支点を軋ませながら

妹へ放つはずだったカウンターは空を切り、小さな風を起こすに留まった

「………」

残心をとるならばとるままに、とらないならば、きっと間近で

久しぶりの距離で見る、お互いの顔

伊都波 悠薇 >  
「――あはっ♪」

覗いた表情は、歓喜の笑み。
獣のような――
放ったという――その事実は、化け物にとってうれしいことだ。
撃って、崩した体制のまま、ごろごろと無様に地面に転がれば――

「撃ったね。打った――敵と、認識してくれてる。嬉しいよ、凛霞さん。隣はダメでも、正面にたつことは許してくれるんだ」

土だらけになりながら立ち上がって――また開く距離

伊都波 凛霞 > 「違うよ、敵じゃない。
 悠薇も知ってる筈でしょ?…私達の流儀は、どちらかが最終的には捨てなければいけない。
 その時に二人が立ち会うのは…子供の頃からわかってたこと」

笑うその表情に臆したりはしない、否定も、しない
姉として、家族として

「満足するまでおいで、全部受け止めてあげるから」

伊都波 悠薇 >  
「なんで!?」

薔薇は”叫ぶ―さく―”。

「どちらかが棄てるんじゃないです。凛霞さんが継ぐんです。だって――」

何かを言おうとすれば――
せき込み、血を、吐く。

「わかるでしょう? 私にはもう、時間がない。――砂時計を壊しながら、今たってるのが。なくしてるのが――」

――ねぇ。

「それでも、許してくれないんですか。逃げた責任を取ると言いながら、私を否定し続けるんですか?」

伊都波 凛霞 > 「そうだね…受け入れるよ。もう否定しない。
 その代わり、包み隠さず……全部お姉ちゃんに見せて、打ち明けて、
 その後じゃないとだめ。
 …その選択をするとしても、私が悠薇を継いでいけるように…そうしないといけない」

一歩、前に出る
距離を縮めてゆく

「でも、悠薇は厳しさを前に逃げない子だって知ってるよ。
 友達100人作るって、意気込んでた時も、きっとその技を練習してたその時も。
 だからそんなことよりも、もっとわがままを言ったっていい。
 もっともっと、自分の求める全部を私にぶつけてくれていい。
 ……だから、本当に本当に、それしかもうないのなら………終わりにしようね」

そう言って、顔をあげて

泣き顔のままに、笑った

伊都波 悠薇 >  
「だったら!」

胸に手を抑える。膝から崩れ落ちてなお、顔おあげて――

泣き顔に対して、怒りのままに……

「だったら!! 私のおかげって言ってよ!! せいにしてよっ。それがどれだけ、その言葉をどれだけ――今まで私が、思ってきたこと、全部全部報われてるって思わせてよ!!?」

異能がある。
そう姉は言った。でも、その異能が、どんなものなのか悠薇は知る由もない。
ただ、自分の異能に干渉するものだというのがさっきまでのやり取りでわかる。
じゃなければ、報われない。じゃなければ、相手にふさわしくないから――

「逃げてない!! 逃げたのは、貴女だ!! 私を捨てて――家族を捨てて――いっぱいいる、味方の、友達のとこにいって独りにしたのは――!!」

繰り返しの慟哭。
ひぐらしは――泣きやんだまま――……

「だからもう、終わらせてよ。化け物でいい。これ以上――」

…………涙を流して。

「これ以上、私に……」

――”お姉ちゃんのせい”なんて言わせないで

伊都波 凛霞 > 「………」

言葉を発しないままに、一歩、一歩と近づいて
崩れ落ちた悠薇の隣に屈みこんだ

「……幸せものだよね。
 実の妹に、こんなに想われてるお姉ちゃん……いないだろうなぁ……。
 多分世界一なんじゃないかな、ううん、きっと間違いなくそうかな…」

そっと、その背中に手をまわして、抱え込むように

「報われたのかもしれない。悠薇のおかげだったのかもしれない。
 それは、きっとわからないことだから…だから、その気持ちに。"ありがとう"───」

でも、それは

「今までは、私が貰いすぎたよ。
 だから、これからは私が悠薇に色んなものをプレゼントしたいんだ。
 悠薇がお姉ちゃんのことを想ってきてくれた、その時間にも力にも負けないくらい、
 ………だから、私は……」

謝罪は、もう届かない
だからもう、こうやって声と、体温と…すべてで伝えるしか、ない

抱きかかえるように

「悠薇…、好きだよ、だから化物なんかにならないで、
 また、笑ってお姉ちゃんって呼んでよ───」

伊都波 悠薇 >  
――やめて。
――やめて。
――もう、そんな優しい言葉、聞きたくない。

聞きたくない、やめろ、しゃべるなー―

そんなきれいな言葉を言わせてる自分が嫌になる。
きらいだ、きらいだきらいだきらいだ――……

――薔薇なんて、だいっきらいだ

どんっと、優しいぬくもりを突き放す。

もう、やさしさなんて――

「――また、私の天秤のせい? 言ってほしいからそういってるの? 違うよ。そんな言葉欲しくないよ、ほしくないって思ってるのに……」

まだ、心から化け物になれてないのかな。
なら――

「――――……なら、仕方ないね」

力が抜けて――
掌底の、形。
そして、それを胸に当てて――

「――ばいばい」

毟り蕾を――自分に……

「――お姉ちゃんなんて、大っ嫌いだ」

心の底からの大きなうそを、吐いた

伊都波 凛霞 > 「っ違───」

突き飛ばされて、二人の距離が開く
それよりも、疾く───

入り身──朧月

悠薇の掌と、その胸が接触するよりも、疾く

その手を、腕を、肩を、背を
滑りこませた

「……異能が言わせてるんじゃないよ、悠薇……。
 私が望んで、私が言ってる言葉なんだ。
 ───『よくできたね』『報われたね』『悠薇のおかげだね』───
 そんな、そんな言葉なんかこれからたくさん、たくさん言えるよ、だって…」

「私の異能は……天秤を揺らし続けて、悠薇と一緒に前にすすめる異能だったんだもの」

小さく、小さく話し始める

「………この力は、悠薇と私が一緒にいないと、効果を示さないんだって……。
 …だから、今はきっと、普段の半分……悠薇の心が…やっぱりまだ遠いから。
 ………近くに来てよ、一緒にいよう?子供の頃みたいに───」

それが、叶わないのなら……
自分の背に、その掌を感じて

「……どうする?…もう、私は我儘も言っちゃったから……悠薇が決めていいよ」

押し付け合った胸から、互いの鼓動が聞こえる
最初は噛み合わなかった鼓動が、やがてふたりとも同じリズムを刻むようになって

伊都波 悠薇 >  
「……そんなの――」

信じられるわけがない。
無理だ。

――死ぬことすら許されず、これから一番信じてきたものを、疑い続ける生。
――そんなの地獄と変わらない。

生きている価値なんて……

だらりと、力を抜いて。

「……帰って」

ゆっくり後ろを向いて。病室に。
まだ、妹は泥にまみれて沈んだまま。

伊都波 凛霞 > 「悠ッ………」

手を伸ばしかける

……けれど、そうか
悠薇は、こういう思いをしたんだ

自分が背を向けて、自分が、妹を置き去りににして逃げた時に───

「………」

諦めない
曇り空になった空を仰いで

その手を引き上げて、隣で…昔のままに笑ってもらうまでは

伊都波 悠薇 > ――……ばたん。

病室で、一人。独り――

「いやだ、いやだ……こんなの――こんなつらいのに……」

――生きていたく――ないよぉ……

……いたい、いたいよぉ。だれか――

「たすけてよ……っ」

カーナカナカナカナカナカナカナ。

ひぐらしが、鳴いている

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