2017/02/23 のログ
ご案内:「伊都波家の居間」に伊都波 悠薇さんが現れました。
ご案内:「伊都波家の居間」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 悠薇 > ――戦争の日がやってきた。
市販のデパートには女の子が密集し。
少し余裕のある女性たちが競い、女子力を持った女の子たちは台所で、その力をたたきつける。
ヒロイン力の高い子たちは、女子力を補う可憐さとあどけなさで、翻弄し。
戦争でのリードを勝ち取っていく。
そう、今日は、戦争である。
同じく、女子である彼女もその一人であった。
――……
散乱する、茶色。顔はべとべと、手もべとべと。
エプロンも、つなぎも、汚れきっている。
が――間に合った。
そう、間に合ったのだ。
一つ深呼吸をして、ぷるぷると手を震わせる。
はぁっと、もう一度深呼吸。
そう、戦闘準備は整った。あとは、仕掛けるのみ
だが、この少女。気づいていない。
そう、そう――
もう、相手が帰ってくるのに一分もたたないということに――
気づいていない
■伊都波 凛霞 >
「ただいまー、あれ?」
玄関の引き戸をあけると漂ってきたのは甘い香り
台所で何が起こってるのかがわかるくらいにはわかりやすいその香り
靴をぬぎ、揃えてスリッパに履き替えるまでの間に頭に疑問がぽんぽんと湧く
母様がチョコケーキでも焼いたのかな?
でも例年通り、母様とはるかと一緒にチョコレートを作ろうと話をしていたのだけど
不思議に思い、とりあえず着替えに自分の部屋へ
部屋着に着替えたあと居間へやってくるとその香りは更に強く漂っていた
「おかしいなぁ…日付間違えたっけ?」
もしかして今日がその日だったかな?と首を傾げて台所へ向かおうとする
■伊都波 悠薇 > ――声がした。
ばっと、時計を見る。
「……うそっ!?」
現実である。
時計は、既に”帰宅”の時間。
されど、間に合わないと開き直るのも難しい。
ので――慌てて隠そうとするが。
残念、隠し通せるわけもなく。
焦ればあせったぶんだけ――
「……あ――……」
どんがらがっしゃーん。
コントみたいな音が、台所から響いた
■伊都波 凛霞 >
台所の戸に手をかけた時にその音は聞こえた
思わずびくっとなってその手を止める
聞こえたのは、まぁ…破滅の音じゃなきゃいいけど
そんな気持ちで戸を静かに引いて、すっと中を覗き込む
中で調理中なのが母様ならまぁ、そんな音そうそうしない
なので大体アタリはついてしまうのだ
「はるか?すごい音したけど大丈夫───」
声をかけながら、甘い空間へ一歩、踏み入った
■伊都波 悠薇 >
大丈夫――ではなかった。
頭の上にはボウル。
どろりとした茶色いものが、頭からしたたり落ちて。
作業着――つなぎの中にまでそれは入り込んでいる。
べったべったになっているのは人体だけではなく床にも当然。
でも――
「……だ、だいじょうぶ」
あははと、苦笑しながら。
大丈夫なんて、まるわかりのウソをついた
■伊都波 凛霞 >
「う、わ───」
割りと、予想以上の惨状だった
あははじゃない、あははではない
「大丈夫、じゃないでしょーどう見ても……。
どうしたの?チョコは毎年一緒に作ってたじゃんー」
そのはずなのに、
なぜ妹がこうやって今チョコを被っているのやら……
「とりあえずボールとって、あー…お風呂入らないとダメだね」
あーあー、といった面持ち
■伊都波 悠薇 >
「……えっと――」
挙動不審。
目をさまよわせつつ、なにか言い訳を考えるしぐさ。
どうしたものか、どうしたものか。
というよりも――
「あっ……」
がたっと、急に立ち上がりテーブルの上を確認。
――よかった。
「ううん、大丈夫」
うん、大丈夫だった。
「――うん、服の中までべったべった」
エプロンと、つなぎ。
前のほうを少し開けて、中を見る。
ひどいありさま。散らかるのは承知だったので作業服にしたのは正解だった。
でも、その確認する姿は青少年に見せてはいけない絵図であった。
全身の茶色に、真正面から除く肌色。むわっとする熱気。
頬も少し赤く染まっている――
うむ、もう一度言おう。
見せてはいけない絵である
■伊都波 凛霞 >
「だから大丈夫じゃないって、
ほらはしたない格好しないの、まったくもう…ん?」
なんとなく
なんとなく妹のやろうとしたことは心当たる
けれど
釣られるようにして、テーブルの上へと視線を移動する
■伊都波 悠薇 >
「……え……?」
はしたないと言われれば、動きが止まり。
状況を把握。そして、騒然ながら赤面して。
両腕でしっかり自分の体を抱く。
完全に無自覚だった様子。
そして、姉の視線の先には。
小さな、小さな箱があった
■伊都波 凛霞 >
指摘され、赤面する様子を見れば苦笑い、そして…
「チョコレート、作ったんだ」
なんで一人で?
なんてことはもう言わない
妹の努力、挑戦の成果が、テーブルの上に見えたのだから
「上手くできた?」
そういってにっこりと笑う
台所の惨状はこの際いいか、と思った
そんなのは些細なこと
大丈夫、という言葉がかかったのはきっとこの小さな箱
これが無事なら、妹的には大丈夫
そういうことなんだなと理解する
■伊都波 悠薇 >
「……う、うん……」
ちらちらっと、姉の様子を見ながら。
こくりとうなずく。
どうしようか、と思ったものの、ここで嘘をついても仕方がないし。
なにより、嘘は嫌いだから――
「えっと……」
すすすっと、移動。
すり足。基本の動作――動きはまるわかりだが――……
そして。チョコをそーっと手に取り。
「……は、あっぴーばれんてゃいん」
――渡そうとして。
噛んだ。
めちゃめちゃ、噛んだ。
羞恥で顔を真っ赤にしながら。
でもさっさと渡してしまおうかと思ったのか。
丁寧に両手で。まるで、賞状を渡すように――
■伊都波 凛霞 >
そう
そうなんだろうな、と薄々…いやわかっていた
そっと、突き出すようにこちらに向けられた小さな箱を
その手ごと包むように、手を重ねて
「ん、…ありがと、はるか」
耳まで真っ赤な妹の顔
優しい笑顔でそれを受け取って───
「こうなったら、ホワイトデーは私が頑張らないとね」
■伊都波 悠薇 >
何も言わないのが逆にいたたまれなくなって、しゅんっと
うつむいたまま――
ちらちらとようすっが気になるように、見つつ。
そわそわし始める。
「あ、えっと。気にしなくて、いいよ?」
お返しとかそういう意味で作ったわけではないのだから。
それよりも――
「……開けない、の?」
■伊都波 凛霞 >
「それ、今聞こうと思ったの!
開けていい?って……」
妹からの贈り物
それだけでも嬉しいのだから
それが心のこもった、手作りなら尚の事だ
妹の見守る中で、小さな箱をゆっくりと開けてみる
■伊都波 悠薇 >
姉の先手をとれたのなんて、いつぶりだろうなんて思いながら
姉の言葉を聞いて、少し舌を出す。
そして、開けていけば。
――不格好な、いびつなチョコと。
――すごく、綺麗なまるを描いたチョコの。
”二つ”があった
■伊都波 凛霞 >
片方は失敗しちゃったのかな?
ぱっと見て姉の頭に浮かんだのは、そんなところ
でも妹のあの表情は
無事だったときの安堵の顔は
これが成功したチョコレートなんだということを教えてくれる
だからなんとなく、そのキレイなチョコと
不格好なチョコが何を表しているのか、それを考えtしまった
でも──
「ありがと、大事に味わって食べる。
……お風呂入らなきゃね」
そういって手を伸ばし、髪の毛にへばりついて固まりかけていたチョコをぱきっと一部割ってとって
ひょいっと口へ、
口の中に甘みが広がる
「一人じゃ大変だね、お風呂もだけど、
後片付けくらいは手伝ってもいい?」
お礼ってわけじゃないけど、と笑う
お礼は、別のちゃんとした形で、
妹の努力の結晶を大事に味わった、その後で───
■伊都波 悠薇 >
――そう、姉は喜んだ。
喜んでくれた、すごく。すごく喜んでくれたんだ。
なのに――……
なのに、どうして……
「……――」
妹は、”伊都波悠薇”はこんなにも。
作ったような笑顔だった。
「うん、味わって食べて。えっと――固まっちゃうと落ちにくくなっちゃうから、先お風呂でもいいかな? 片付け、お願いしてもいい?」
矢継ぎ早にそう告げて、後にしようとする。
前髪を慌てて、整えて。いつものように――
「ひとりで、大丈夫だからさ。おふろ、お風呂、いくね?」
■伊都波 凛霞 >
「え?
あ、うん───」
返事が遅れたのはその小さな違和感に気づいたからか
「(こんな笑い方する子だったかな…)」
いつも通りに見える妹の、ほんの小さなささくれ
「ほんとだよ。
自分にチョコまぶして私を食べてーとかいうんじゃないんだから」
冗談まじりに苦笑しながら、その背中に向けて
「───…」
あれ、何を言おうとしたんだっけ、と言葉が止まる
ああそうだその言葉は一度、怒られているから出なかったんだ
そう思って、口を噤み別の言葉に置きかわる
「ゆっくり入って来るといいよ、台所のことなら任せて♪」
まかせろー、とちからこぶをつくるようなポーズ
■伊都波 悠薇 >
「――うん、お願い」
今は、姉と一緒は辛かった。
姉と一緒じゃダメだった。だって、伝わってしまうから。
だから、逃げるように台所を出て。
廊下を走った――走って走って。そしてお風呂について……
つぶやく。
「なんで……?」
そう、なんで。
「――なんで、”綺麗にできたチョコ”なんてあるの?」
自分は、いびつなチョコ一つしか、作っていないのに……
「――いやだ、いやだ……」
だから。
悠薇は、脱衣所で。うずくまるようにして。
――”笑った―ないた―”
ご案内:「伊都波家の居間」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「伊都波家の居間」から伊都波 凛霞さんが去りました。