2017/03/11 のログ
ご案内:「小料理屋みつき」に八柳千歳さんが現れました。
■八柳千歳 > 斜陽が商店街を照らし始めた頃、ある女性が店先にのれんをかけた。
『みつき』と書かれたそれを見て彼女は満足そうに頷く。
「さあ本日も『みつき』の開店です。どんなお客様がいらっしゃるのでしょうか。」
ふと常世に来る前の事を思い出す。
こちらにやってくる前の己は武人の名門に生まれた者として戦いに備える日々を繰り返す。
ただただ武の道を進み、高みに至ろうとする。その姿勢は美しくもどこか虚しさを彼女は感じた。
唯一の楽しみは料理ぐらいだった。己が手を掛けた料理を食べてくれる人を見ると喜びを感じる。
──いけない、店主が店先で何を呆けているのか。
我に返った千歳は引き戸を開け、店内に入っていく。
小料理屋みつき 開店です。
■八柳千歳 > 店内はこじんまりとしていた。
入り口から見て右手側に4人掛けのテーブル席が2卓。左手側に奥に並ぶように椅子が配置されたカウンター席。
そのカウンターの向こう側に店主の千歳が佇んでいる。
整えられた調理器具にやや大型の冷蔵庫。
カウンターの上には緑色の鞘に納められた刀が一振り。
テーブル席側の壁面にはメニューと値段が書かれた一覧表と梅の花が描かれた掛け軸が一本飾られている。
メインは和食だが、客の希望があれば材料と相談して調理する。
■八柳千歳 > やや暫くして男性客が入ってくる。この店の常連の一人だ。
「あら、いらっしゃいませ。」
朗らかな笑顔で迎えた千歳はカウンター席に座った男性客の注文を受けつつ『お通し』を差し出す。
あらかじめ仕込んであった牛すじ煮込みを調理し盛り付け、日本酒の入った徳利とお猪口と共に提供する。
美味しそうに料理を口にする男性客を嬉しそうに眺める千歳。
ご案内:「小料理屋みつき」に寄月 秋輝さんが現れました。
■寄月 秋輝 >
戸を開け、料理屋に入ってくる。
草履を履いた足を地面から数センチ浮かせ、スライド移動するように。
初めての店、なんとも居心地の良さそうな様子に惹かれ、ついつい入店してしまった。
最初に店主にぺこりと頭を下げて。
「……そこ、いいでしょうか」
カウンター席を指さす。
そこは刀の正面にあたる席だ。
■八柳千歳 > 「いらっしゃいませ。ええ、どうぞお座りください」
にこりと微笑み刀の正面のカウンター席へと促す千歳。
目の前の彼にお通しの漬物が盛られた小皿を差し出しつつ、様子を伺う。
彼の佇まいを見るに呪術を普段使いしているようだがその本質は違うように思える。
纏わせている雰囲気がそう言っている。
「面白い事されていますのね?」
地面から数センチ浮かんでの移動法をわざわざする人間を見た事が無かった。
■寄月 秋輝 >
もう一度頭を下げ、席に座った。
お通しにも目を向けながら、まっすぐに刀を見つめて。
少しだけ、目を細めた。
声をかけられて、少しだけ首を傾げた。
「面白いこと……何がでしょう?」
心当たりが多すぎて、どれのことかわからない。
魔術的な能力を見れるならば、秋輝は多くの魔術を常駐させているし、
和服のことならばこれが普段着の一つとしか答えようがない。
かろうじて今帯刀はしていないが。
箸を取り、漬物を一つ口に運ぶ。
こりこり、いい音が鳴り、その風味に少し頬をほころばせる。
■八柳千歳 >
「やはり刀が気になりますか?」
刀を目にする彼にそっと声をかける千歳。
初見の客に驚かれることは今までも何度かあったのでさすがに慣れた。
刀の道を捨てたとはいえ、代々伝わるこの刀を手放すわけにはいかなかった。
そこで別の道を模索した結果が、これである。
「ふふ、心当たりが多すぎる──といった顔をされてますね。
面白いと申しましたのは地面から少しばかり浮いていた事ございます。」
大変ではありませんか?と世間話程度のもの。
呪術──ここでは魔術と呼ぶそうだが、それらを常に身に纏う学生はごまんと居るだろうし、実際何度も目にしてきた。
なれど宙に浮くものを普段使いする人間はそうそう見たことがなかったからだ。
■寄月 秋輝 >
「ええ。
長らく使い手と共に駆け抜け、今静かに腰を落ち着けている……といった風情が感じられます。
ある意味では幸せな生き方をしてきた刀に見えますね」
ふ、と小さく笑って、刀から目を離した。
眼福ご馳走様でした、と小さく礼をした。
「ええ、まぁ……色々やっていますので。
宙に浮いていたのは……そうですね、日常の訓練も含めて。
あとは教え子にこれをさせているので、師として手本を見せないわけにはいきませんから」
無茶な特訓内容によくついてくる教え子のことを思い返しながら、そんな答えを告げた。
もっとも、自分自身に関しては癖になっている行為だ、もはや無意識に浮いていると言ってもいい。
「……オススメの酒とつまみをお願いします」
注文も通す。
とても居心地がよく感じられる店、色々なものを味わいたくなってくる。
■八柳千歳 >
「そう── だとしたら、よいのですが」
剣の道を捨てた己を見て祖先は、両親は何を思うだろうか。
長年、八柳家を見守ってきた《八風》は何も語ってはくれない。
少しばかり寂しそうに笑い、いつもの朗らかな笑顔に戻った。
「それはそれは立派な御心掛けだと思います。
私も以前は教え子が居た立場でありましたが、お客様の様に師として務められませんでしたから。」
実はこう見えてずぼらなんですと、はにかんだ。
「かしこまりました、少々お待ちください。」
奥の厨房へ向かい手早く調理を行う彼女。
しばしの時間の後、酒の入った徳利とお猪口におつまみを盛った小皿を一つ彼に運んだ。
山菜の揚げびたし──
細筍、たらの芽と油で揚げたウドを盛って和風だしをかけかつおぶしと生姜を添えた一品。
■寄月 秋輝 >
「あくまで刀としての生き様は、ですよ。
人と刀では、生き方そのものが違いますからね」
いくつもの魂のこもらぬ刀を見てきたからこそ、なんとなく理解出来る。
そして人の幸せと、刀の幸せはきっと違うのだ。
「僕に出来ることは、成功した者として背中を見せることだけですからね。
それに、師としての形は千差万別でいいと思いますよ」
自分が立派かどうかはわからないが、やり方は自分の信じた形を進めるしかないのだろう。
店主の可愛らしい表情に、少しまた頬を緩めた。
しばしして、酒と小皿が来て……物珍しそうな顔をした。
「これは……初めて見る料理ですね。
たらの芽はわかるんですが……」
あまり馴染みのない食材に、酒を飲む前にまじまじとそれらを見つめる。
■八柳千歳 >
「あら、もしかして私を慰めて頂けるのですか?」
ちょっとおどけたように語る千歳。
その言葉は少し嬉しそうでもあった。
「ふふ──そうですね。十人十色と申しますし、だらしない師がいても良いですよね。
ですがその点、お客様のその姿勢は御立派だと思います。陰ながら応援いたします。」
くすくすと微笑みつつ、徳利を手に取り酒を注ぐ千歳。
「今朝市場を見ましたら良い春ウドを見つけましたので折角なのでつい。」
まじまじと料理を見ている彼をにこやかに見守る。
■寄月 秋輝 >
「……ええと、そう……かもしれませんね。
生き方こそ違えども刀と人は一心同体、今のあなたが幸せならば、刀も幸せだと思いますよ」
少し戸惑ったが、その言葉も肯定する。
そう信じて、今自分も生きているのだから。
「……ありがとうございます。
今後も、教え子の模範であれるように努力しましょう」
ぺこりと小さく頭を下げた。
そして箸で、説明を受けたウドをつまみ、口に運ぶ。
良い食感、ほどよい苦みに和風だしの風味が重なり、なんとも言えない顔になる。
「……春らしい味、といった具合ですね」
目を細め、満足げだ。
■八柳千歳 >
「私が手を掛けた料理を美味しいと言って食べて頂ける。
それだけで私は幸せです。──ですから見世物になるのも我慢して頂かないと」
刀へ目をやり、いたずらっぽく笑って見せた。
その表情は少し幼く見えるかもしれない。
「ですがお体もどうか御自愛下さい。
時にはこうして英気を養い、社会へ金子を還元するのも立派なお勤めです」
おちゃめというか幼いというべきか。
ちょっと得意気になって上手いことを言ったと思い込んでいる表情を浮かべている。
「ありがとうございます。
今でこそ様々な食材が簡単に手に入りますが、やはり旬のものが一番美味しゅうございます。
そしてこうして嬉しそうにして頂けるのが私の至上の喜びです」
嬉しそうに、笑う。
■寄月 秋輝 >
「多少は、ということで」
くす、と合わせるように小さく笑った。
「……そうですね、よく知り合いにも言われます。
だからこそといいますか。
こうしてたまの料理と酒を美味しく楽しませていただけると思っています」
ウドを愉しみ、お猪口を手に一口。
日本酒特有の味わいが口いっぱいに広がる。
「本当に、旬のものは素晴らしい。
……とはいえ、調理の腕も十二分になければ、こうはいかないでしょう」
次も箸でつまみ、いただく。
たらの芽もまた風味がよく、心が落ち着く感覚が満ちていく。
■八柳千歳 >
「ふふ、その様子ではお知り合いの方もさぞ御心配されていらっしゃるのでしょうね」
言葉とは裏腹に穏やかな笑顔を浮かべる千歳。
空いたお猪口に徳利を傾けつつ語る。
「私程度、趣味から入った程度の人間でございます。
であれば素材が良いからこそでしょうね。食材の持つ生命がそうさせているのでしょう。
ですが、そのお言葉は実に嬉しゅうございます」
華の様な笑顔でお酌をする。
■寄月 秋輝 >
苦笑して、わずかに目を逸らした。
どうにも心配させてしまうのは確かだ。
しかも怒られる。
「腕が悪いと、食材を簡単に殺してしまいますからね。
店主さんの料理は素晴らしいと思います」
お酌を受けて、また酒を一口。
酒も料理も進む、素晴らしい環境だ。
■八柳千歳 >
「図星、でございますね」
申し訳ないとは思いつつ彼の挙動に思わず頬が緩ませてしまう千歳。
どうもそのお知り合いには頭が上がらないようだ。
「お褒め頂きありがとうございます。
だから、という訳では無いのですがよろしければ今後ともご贔屓頂ければ幸いでございます」
これ以上謙遜するのも失礼にあたるので素直に受け取る。
この店の売り込みも忘れずに。
■寄月 秋輝 >
「正直、耳が痛いですね」
知り合いはおろか、家の使用人にすら言われる始末だ。
ごまかしようがない。
「そうですね……僕もここは落ち着きますから。
時々こうして、軽い一杯を楽しみに来させていただきます」
そんな話をしている間に、料理も酒も綺麗になってしまった。
口の中が非常に満たされた心地で、満腹とは別の満足感が得られた。
「ご馳走さまでした。
今日はこれくらいで、お勘定を」
席から立ち、財布を取り出した。
■八柳千歳 >
「はい、お客様の御来店心よりお待ちしております。」
綺麗になった料理の皿や徳利を下げつつ、彼に言う千歳。
値段自体も学生の街ゆえかリーズナブルな価格帯で抑えられていた。
そして店を出る彼を店先まで見送ろうとするだろう。
これが彼女なりのおもてなしという事で。
■寄月 秋輝 >
「ありがとうございます。
ではまた……寒の戻りで冷えますので、体調にはお気をつけて」
見送りに礼を告げ、浮いた状態で真っすぐに帰路についた。
酒が入っても揺れることは無く、安定した状態で。
最後に一度だけ振り向いて手を振り、非常に上機嫌な様子で帰って行った。
■八柳千歳 >
「ありがとうございます、お客様も御身体にはお気をつけくださいませ」
深く深く、お辞儀をして見送る。
上機嫌な様子で御帰りになるお客様を見送ると己も上機嫌になる。
この小さな小さな喜びを日々積み重ねつつ《みつき》にて千歳は思い出を紡ぐのだった。
ご案内:「小料理屋みつき」から寄月 秋輝さんが去りました。
ご案内:「小料理屋みつき」から八柳千歳さんが去りました。