2018/03/16 のログ
ご案内:「伊都波家の道場」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 > ――静かに。正座する……

道場の空気は、しんとして、どこか、冷たい空気。
でも本当はそんなことなくて、暖かい日和なのに。

ゆっくりと、息を吐く。

ここはいつも、冷たい。
緊張感と、いろいろな想いと、線引があった場所だから。
だからとても――冷たい。

自分にふさわしく、なかった場所

もう、3月も中旬。
終わりもちかく――そして始まりが芽吹く、月。

――そう、もう卒業式は……

…………終わったん、だもんね

ご案内:「伊都波家の道場」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
「悠薇どこいったんだろ、もうすぐお昼だよー?」

決して広くはない伊都波家の敷地を凛霞が歩く
出で立ちは至って普通の、普段着
制服には別れを告げて、この春からは異能の力に悩まされる人達の支援活動を行う、そんな仕事をはじめる
敷地から見える山々には冬から春の移り変わりも見えて───

と、道場の扉が開いていることに気づいて…

「?」

確か父様も今朝の日課はもう終えているはず…そう思って道場の入り口から顔を出して、中を覗き込んだ

伊都波 悠薇 > すぅはぁ……っと息を吐いて。

ただの正座のまま。

――”打てたはずの”ものを……

「……そっか」

打てなかった。なりふり構わないものも。
それは無くなっていた。蕾を毟ることは、もう、叶わない。
――”今はまだ”。

そこには”培ったものの片鱗”が、あったような気がした。
届いてはいないが”努力”が、形にあった、気がした。

それはつまり――

「持っていったんだ」

全く。勝手にやってきたくせに、ずいぶんな泥棒をしてくれたものだなとため息をつく。
それから――基本の動作。

達人、まではいかないまでも。動作には”キレ”があった。
もくもくと、培ってきたものが流れるような。
そんな――

伊都波 凛霞 >  
「───」

その様子をただ見ていた

見ているだけでも伝わる、感じる小さな実り
見違えた…なんて言葉は相応しくない

本来ならば努力は必ず何らかの形で結実するもの
壁に阻まれ、向いていないと知ることだってまた一つの成長なのだ
けれど今、この瞳に飛び込んできている風景は…

去来する想い、一つは安堵
そして喜び、そして…不安

「悠薇」

道場へと一歩踏み入って、そう声をかけた

伊都波 悠薇 > 「うぇあらうぉっほんは!!!?」

声をかけられた途端、ぶれた。
くるんっと回って、決めポーズ、つま先立ちしながら、ぎぎぎっとロボットのように後ろを向いて

「おおおおおおおおおおおおおおねっっちゃ、ちゃちゃ……わ、あっと!? わ!!!?」

転んだ。
とても無様に、すてーんっと転んだ。

「あいたたた……」

伊都波 凛霞 >  
妹のそんな様子を見ても笑ったりはしない
相変わらずだなあ、なんて小さな微笑みだけをその表情に湛えて

「すごいすごい。ちゃんと基本の型ができてたよ。少し見惚れちゃった」

「でもどうして一人で?」と言葉を付け加えて首を傾げる
稽古なら、父様だって教えてくれるだろうに
───極意の継承となれば話は別、なのだろうけども

伊都波 悠薇 > 「あはは……姉さんには、敵わないけどね……」

恥ずかしそうに頬をかきながら

「あ、えっと……その……」

わたわたと、ポケットを弄る。
けど、ない。ストラップがないからか、少しコミュニケーションに齟齬が出て――
そういえば、なんて。思い出す。
そうだった。もう、”ない”んだった。

「えっと、その。ちょっと落ち着かなかったから。動かしてただけ」

伊都波 凛霞 >  
「それでもすごいよ。父様も褒めてくれるんじゃないかな」

本心では複雑だろうけれど
娘の成長それ自体は、きっと喜んでくれる───

「そっか、もうすぐお昼だよ。
 あと───」

ポケットを探る様子を見て、腰に手をあて小さく息を吐く

「ストラップ、新しいの買ってあげようか?
 色々バタバタしちゃって、入学祝いなんかもしてあげれなかったもんね」

伊都波 悠薇 >  
「あはは、いやぁ……いいかなぁ……別に褒めてもらわなくても……」

よいしょなんていいながら立ち上がって。

「もう、武道はやめるし」

さらっと――

「ううん、いらない。小雲雀は、もう、いないから」

あの子じゃないと、意味がないと告げて。

「もうそろそろ、独り立ち、しないと」

伊都波 凛霞 >  
「…どうして?」

さらりと告げられた言葉に思わず問い返す

何かをやめる、そう決める理由はきっと様々だ
向いていない、芽が出ない、成功しない───諦めの発露
けれど今しがた自らの妹が見せた、それは…

「───うん」

いらない、という言葉
そして、独り立ちしないと、という妹の言葉
ほんの少しだけ心に寂しさを感じるその言葉は、いずれ向き合わなければいけないもの
冬が終わり新しい春が訪れる

転機と呼ぶには、丁度よい時期だった

伊都波 悠薇 > 「武道じゃなくて別の路、探そうと思って」

ふわり微笑んで。今の自分で”何が出来るのか”
それを考えようと、そう、思った。
今までの自分は”これしかできない”と閉じていたけれど。
そうじゃないと、彼女が”不可能”を持っていってくれたから。

「――もう、誰かのせいにして縋っていたら。きっと傷つけてしまうから」

伊都波 凛霞 >  
悠薇は変わろうとしている
悠薇はずっと変わろうとしていた
学園に入学を決めた時だって、震えながらでも大きな目標を持って
でもそれは、きっと…憧れへと近づくためだった

「それじゃ、私はお姉ちゃんとして悠薇の新たな門出を祝うよ」

なにかやりたいことが見つかったのか
それとも、それを探すところからなのか
家族で、大事な妹で、どちらにしても応援することには変わりはない
違うのは、自分がレールを敷いたりしないこと
これまで自分が前を進み、なぞって来た道とは違い
整地のされていない荒れた道になるかもしれない
それでもきっと行くのだろう
でなければ、肩を並べて歩くことはできないから……

「でも無茶はしないようにね…?
 その、悠薇がぎりぎり倒れないように後ろからのつっかえ棒ぐらいには、なるから」

手を引っ張っていく時間は終わったのだ

伊都波 悠薇 >  
「ふふ、もしかしたら置いていっちゃうかも?」

彼女は。自分の中のもうひとりの自分だった。
――あの、異物が中に入ってきたときに。受け入れたときに出てきた誰か。
それを媒介にして、一緒に出てきた”自分”だった。
押し殺した、気持ちや、諦めていたものや――様々な負の部分を押し付けられた”自分”は、もう。いない。
――その役割であったものは”外”にも”内”にもいなくなり。
逃げ場である”天秤”すら、持っていかれてしまった。
だったらもう――立つしか無いのだ。

この荒れ果てた場所で。

なにせ神様は、超えられない試練を、よこさない

”失恋した女は強くならなくちゃ、ね?”

もう、”姉”は。今後、前にいてくれるとは限らないし。
むしろ、自分が前に出る、それくらいの気持ちで――……

「――私よりも、お姉ちゃんのほうが心配だけどなー? 私より、よっぽど溜め込んじゃうじゃない?」

さらっと前髪が流れる。見える泣き黒子。
その表情は、見たこと無いくらいキレイで――

伊都波 凛霞 >  
「悠薇が私のこと心配するなんて、2年は早いんじゃないかなあ?」

流れた前髪、露出したおでこを軽くつっつく

「でもそういうコトも言えるくらい、"強く"なったんだなって、わかるよ」

そうでなくっちゃ、そんな表情はできない、見せられない
ほんとうに、ぼんやりしていたら置いていかれそうだ
そんなことを考えながら……

「私は大丈夫だよ。
 抱えきれないようなことがあったら、悠薇に頼るし癒やしてもらうもーん」

伊都波 悠薇 >  
「えー……リアルな数字出さないでよぉ」

おでこを抑えながら。ブーイング。

「――そういって頼ってもらえないことのほうが多かった気がするんだけど?」

ジト目である

伊都波 凛霞 >  
「だって私のほうが2年お姉さんだもん」

にっこり、いやみのない笑顔を向けて
なんとなく、陽光差し込む道場の床へと腰を下ろす

「私が言ったのは、これからの話だよ」

伊都波 悠薇 >  
「――そんな笑顔で言われても」

だと思ったというように肩を落とす。

「わかってます―。ちょっと含みがあるように言ってみただけだもん」

これから。本当に姉が頼ってくれるかは分からないけれど。
頼ってもらえるように、なれるように。

もう、薔薇のトゲは、姉を傷つけるものではあってはいけないのだ。
むしろ――

「お守りします? お姫様?」

なんて――

腰を下ろした姉の手を取り、甲にくちずけ――して……

「――とかできたらいいな……な……?」

――はて。

「…………あれ?」

妄想の中、ではなく? 今確かに? 感触が? したような?

「あ……っ」

ぼふん……

伊都波 凛霞 >  
「え」

手を取られたと思ったら、手の甲に、キスをされた

「…は、…悠薇…?」

妹の突然の行動にしどろもどろ
絵本や漫画の中でしか見たことのないような行為に、思わず顔も赤くなる

妹はと見てみれば…爆発していた

「お、お姫様は、ちょ…ちょっと……恥ずかしい、かなー……?」

伊都波 悠薇 >  
「ななななな、なんでもないでしゅ!! ないないっないってばっ。薔薇の騎士とかかっこいいなーとかっ、霞の姫とかいいなーとか、思ってないし、蔦とかでいろいろしたらすごいなーとか考えてないです!! ないっ、ないってばああああ!!!!」

じたんばったん。
妄想癖もグレードアップしたようであった。

「おおおおお、こうなったら、ねえさんっ、けっとうだ!!! ええいい、かくごしろーっ、そのきおくもぎとってくれるううううう」

暴走した

伊都波 凛霞 >  
「ああ…うん……そういうトコまで強くなった…?」

とりあえず自分を落ち着けるようにおでこに手を当てつつ…妹の方は暴走が収まらないようだ

「わかったわかった落ち着きなさいってば、ほらもう忘れた、忘れたから!」

以前よりちょっと激しいけど、以前通りの妹を見て、ほんのりと心は安らぐ───
まるで前年度に渡って繰り広げられた色々なコトは全部夢だったんじゃないかと思うくらいには

伊都波 悠薇 >  
「ええい、もうどうむよーーーー!!!!」

少し。あの”ハジマリ”のとき以前の、妹と。
その姿が重なって。おとなになった、見たことあるけれど、初めて見る妹は――姉の後ろから、隣へそして、足を踏み出して

「覚悟っ、姉さん!!!!」

じゃれ付くように飛びかかった薔薇は――

霞に”抱きついて(からみついて)”――

伊都波 凛霞 >  
錯覚でもなく、幻でもなく
過去の記憶と重なった妹を、抱きとめる

去年よりも少し背が伸びただろうか
去年よりも色々なところが成長しただろうか
───

抱きとめて、実体としてそこに在る確かな妹を、悠薇を感じる

「悠薇…」

柔らかな言葉、安堵するような声……ふわりと、浮いてしまいそうな……

「甘いっ!」

本当に浮いていた

絡み一本背負いが華麗に決まり、
板張りの床に気持ちよく叩きつけられる音が、伊都波家の道場から響いていた───

ご案内:「伊都波家の道場」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「伊都波家の道場」から伊都波 凛霞さんが去りました。