2016/05/26 のログ
ご案内:「伊都波家」に伊都波 悠薇さんが現れました。
■伊都波 悠薇 > 夜……今日も夜が遅かった、姉――
いつもなら、寝ているか少し自主練しているか。
それくらいの遅い時間。滅多に会わなくなった夜。
それより前は、何かあれば一緒にいて二人で笑っていたころが懐かしい。
そんなことを思いながら、ゆっくりと姉の部屋の前に。
――こんこん
ノック。姉は、出なかった。
ひとつ、ため息。もう寝てしまっただろうか。
良ければ明日のショッピングの前に話をしたかったのだけど。
部屋に戻る?
自問自答。少し、口にするだけでも楽になるかもしれない。
だから、ゆっくりと、扉を背に座り込んだ。
「お姉ちゃん、起きてる?」
■伊都波 悠薇 >
返事はない、やっぱ寝てるのかも。
もし、ふと起きて聞いてたりしたら、いいな、なんて淡い期待を持ちながら。
「あのね、”姉さん”。いろいろ、聞いたよ」
ぽつりと、呼び方を変えて。そう話しかける。
もう、前とは違うんだよねと、そう確認するように。
「守ってくれてたこと。ひどいことになったこと、それから助けてもらったこと」
口調は優しい。怒ってる、わけではない。
悲しいわけではない。確かに姉がそんな目に合ってるのは
とてもつらく、悲しいことだが。悠薇には推し量れないことだ。
なにより、そうしてももう、なにもが遅く。結果は実ってしまった。
「あのね、姉さん。姉さんは、いま、幸せですか?」
一つ。
■伊都波 悠薇 > 上を見る。廊下にある窓。その先。
青垣山の空は、星天。星がきらきらと見つめていた。
「姉さんは、すごいね。私だったら、もしかしたらダメになってたかも
心がボロボロになって、体もボロボロになって。家じゃ笑えなくて、泣きついてたかもしれない」
でも姉は違った。笑っていた。気丈だった。
常に常に悟らせず、妹を守っていた。
理由はどうあれ、だ。
「姉さんはすごい。それに対して、私はダメ、だね?」
気付かなかったし、姉に甘えてばっかり。
そんな姉に追い打ちをかけるように弱音を吐き。
そんな絶望の淵なのに、希望を語り。
「私はやっぱり、姉さんの横には立てそうにないや」
それは諦めか。今の、自分じゃ無理だという――
「ねぇ、姉さん。姉さんは今、幸せですか?」
二つ。
■伊都波 悠薇 >
姉の中に自分はいるのか、と言われたら。
たぶんいない。それは確信を得た。
なにせ、司という記憶をみた。
記憶とは事実だけではない。状況、思念までも伝わる。
司からみた”視点”。そこにあった推測にそうあった。
少し寂しいと思いはしたけど。
怒りはない。悲しくもない。
「でもね、いつだって見てるから。後ろから、下から。ずっと追いかけるから」
――もう、必要のないことかもしれないし。
姉はもう、見てくれないかもしれないけれど。
大事な、妹からただの妹に堕ちたのだから。
「だって、ね。私は妹だもん。”お姉ちゃん”がずっと守ってくれた、妹。妹はやめられないし、私にとってはいつだって、お姉ちゃんだから。今はこんな風に呼んでるけどね? あんま迷惑はかけるの嫌だし、ほどほどにしないといけないし」
あんなにべったりしたら、もういけない。
姉はもう、”勝ち”へと足を進めてるんだ。
いつだってそう、姉は”負けない”。ずっと、負けっぱなしなんかじゃない。
最後は必ず――
「姉さん。今、”幸せ”ですか?」
幸せという言葉が、変わっているように感じた。
三つ。
■伊都波 悠薇 >
「うん。そう。私は、姉さんの妹で良かった」
なんで姉がそうなったのかは、わからない。
姉は口にしないだろうし、自分には追いきれないものもあるだろう。
でも――これだけは、告げないと。
まだ、お姉ちゃんと呼べる今のうちに。
「ずっと守ってくれてありがとう。これからも大好きだよ、お姉ちゃん」
なぜか瞳から滴がこぼれた。
姉に抱く気持ちはいつだって尊敬と感謝だ。
この涙は、自分へのふがいなさだ。
怒りだ、だからもうこぼすな。みっともない。
「ちょっと悔しかったりしたけど、妹で恨んだり、呪ったり、嘆くことはなかった。伊都波凛華が姉だったから、ここまでこれた。こんな風に思えた」
ありがとうと、重ねる。
言葉に仕切れない思いが、じんわりとにじむ。
「お姉ちゃんは、私のヒーロー。だから、いつだって信じてるから。なにがあっても、信じてるから」
何があっても、どこにいても。
妹は、姉を見ていると。一人じゃないから、がんばれと、もう一度そう伝えて。
「姉さんは、今、幸せですか?」
そう胸を張って、言えますか?
そんな風につづけたように聞こえた
四つ。
■伊都波 悠薇 >
「それが守られてきた、私ができること」
姉を、幸せにする。なんて言えない。
ただ妹にできるのは――
姉に本当に幸せと、聞くことだけ。
それで、幸せと姉が胸を張って言えればいいのだ。
それが勝利であり、妹が言い続けてきた負けないでの、意味。
最後に勝利を得ればそれは勝者だ。
妥協してないかと。諦めてないかと。
そうただ聞くだけの存在。
後ろに、いるだけの存在。
それで、いい。
いつか、この言葉が姉の幸せにつながるならなんて幸せだろう。
それこそが守られてきた妹の恩返し。何を成し遂げられなくとも――
「姉さん、ありがとう……」
そして。最後の。
「姉さん、いま――」
…………幸せですか?
いつ――五。
五個重ねた問いかけは、姉に届いたろうか。
■伊都波 悠薇 >
「……ふぅ」
自分は、不出来で未熟で。何もできない。
でも姉はできる。
幸せをつかみ取ることが、選ぶことが。
ならば、それをしなきゃ嘘だ。
絶対の信頼。妄念といってもいい。
まるで英雄に救われてそれに縋る弱者のよう。
醜いだろう。おぞましいだろう。
でも――
自分はそれでいい。
守られてきた特権だと言わんばかりに行使しよう。
「でも、やっぱ追いつきたいなぁ」
そう、まだ姉が望んでくれたらだけれど。
努力はやめない。でも、もうやめてと言われたら、稽古はやめよう。
「……ねぇ、姉さん。ごめんね? いわれないと気づけないから、言葉にされないとわからないから――」
だから、言われるまでは……
「もうちょっと、愛じゃなくて。恋しててもいいかな?」
そっと、立ち上がり去り際に告げた――
ご案内:「伊都波家」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「伊都波家」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 > 静かな静かな夢の彼方
……?
何か、音が聞こえた気がした
暗闇の中で、意識が覚醒する
「(ん……はるか…?)」
音に続いて、声が聞こえた
こんな時間にどうしたのだろうと、身を起こそうとして
"色々聞いたよ"
その言葉に、身体が凍りついた
聞いた、何を?
色々、何、を…?
動けない
ただ心臓の鼓動が、耳の奥で鳴る音が大きく、早くなってゆく
■伊都波 凛霞 > ずっと、妹の言葉を聞いていた
子供の頃からずっと聞いてきた、妹の声を
そうか、知ってしまったんだと
なぜ知ってしまったのだろう、そんな疑問も湧いたけれど、
隠し通せなかった、それはもう仕方がない
妹の声は落ち着いていた
だから、わかる
知ってしまったのではなく、自ら知るために動いたんだと
最初から、隠し通せるわけでもなかった
"幸せですか?"
その言葉が、まるで脅しのように聞こえた
■伊都波 凛霞 > 子供の頃から、妹の前に立って歩いてきた
道標になって、盾になって、その手を引いて
でも歳を重ねてゆくと、自分の両手には妹以外のものもたくさん持っていた
巣立ちの時はいつか来る
小鳥は何度だって木から落ちながら、それでも最後には空を飛ぶ
だから、少しずつ、少しずつ、手を離して
ただただ、先に立って見守るように、盾となって護るように
それが、"自慢のお姉ちゃん"として、妹の目標になれるように
いつしか、それが、自分の目標になっていた
"守ってくれてありがとう"
「(…言わないで、そんなこと。私は、もう───)」
■伊都波 凛霞 > "幸せですか?"
何度目かの問いかけ
そんなこと、答えは決まってる
自分の幸せって何だろう?
今までにも何度か自問自答したことはある
けれどその時に必ず浮かぶのは、妹…悠薇の笑顔だった
だから自覚はしていたし、先に生まれてきた自分はそれを願っても別におかしくない
だって、大事な、最愛の妹なのだから
"幸せですか?"
「(…やめて、もう言わないで)」
耳を塞いでも、頭のなかで反響し続ける
そんな言葉を妹に言わせてしまう、そのこと自体が心を締めあげてゆく
■伊都波 凛霞 > ───最後の言葉は、きっと妹なりの、姉にすがる心の、本当の部分だった
「(違う、違うよ悠薇。もうお姉ちゃんのことは目指さなくてもいいんだよ)」
こんな自分の歩いた道を追いかけなくっても、
妹自身の、ちゃんとした道が必ずある
歩む道の険しさは人それぞれ、だけど今までの頑張りは決して無駄にならない
だから───
……声はかけまい、と思っていた
口を開けば悲痛な声が出てしまいそうだったから
そこで、気付いてしまう
■伊都波 凛霞 > 「(…私、まだあの子の為に強いお姉ちゃんでいようとしてる)」
もうあの子の邪魔はしないと決めたのに
自己満足のためだけに、あの子の道を狭めるような真似はしまいと決めたのに
跳ね起きるようにして、ふすまに手をかけ───
その先には、もう誰もいなかった
「……………」
頬に一筋、涙が伝う
「(……私、あの子がいなくて、今…ほっとしてる)」
そう自覚した瞬間、心の奥に吹き出すようなドス黒さを感じた
違う、いなくて良かったなんて思ってない
顔を会わせることに恐怖心なんてあるわけない
あの子がいなくなればなんて絶対に思っていない、ありえない
これは、きっと
「………」
涙を拭う
理解してしまったから、自覚してしまったから
明日、はっきりとお別れを言おう
ご案内:「伊都波家」から伊都波 凛霞さんが去りました。