2016/08/29 のログ
ご案内:「落第街、スラム奥地廃屋」に”マネキン”さんが現れました。
”マネキン” >  
【その建物は表面上は仮設のバラックに偽装されていた。
内部にも大したものはなく、廃材の壁と扉で構成されている。
椅子と机はある。】

【椅子に”マネキン”が座っていた。足元には段ボール箱が置いてある。】

ご案内:「落第街、スラム奥地廃屋」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 >  ぶらり。
外から、戻ってきたのか、その建物に入ってくる少女が独り――
ゆっくりと歩いて。歩いて――

部屋の隅っこで、膝を抱えて、体育すわり。
そして、どこかでかってきたのか。お茶の缶をことりと地面に置いて――

”マネキン” > そろそろ来る頃かと思っていた。
(そして自ら来る時を待っていた。)

【入ってきた少女を見とがめない。
フードを深く目元までかぶりなおす。】

(椅子はもう一つあるが…。)

まずは話をしようか。
君の希望を叶える話だ。当てが外れていては困るだろう?

つまり、答え合わせってやつだ。

伊都波 悠薇 > テーブルに着く気は、どうやら無い様で。
そこでいいと、雰囲気が語っていた。

「――そうですね。利害の一致と、貴方は言っていましたし」

缶の縁を人差し指でなぞりながら。
続きを促すように――視線だけ向けて

”マネキン” > 【”マネキン”が首を上下に動かす。】

そうだよ。

まず…君は死にたがっている。
というのは語弊があるか。心の奥では救いを求めているはずだ。

伊都波凛霞を愛し、信じ、縋りつき、共にありたい…だが、その想いが認められない。
決定的な決別。君の姉はそんなことを望んでいなかった。

ここまで、違うかい。

【言葉を一度区切る。】

伊都波 悠薇 >  
――どこまで見ていたのだろう。
よく、知っているものだと思う。
だから別段、否定する必要もない――

無言の肯定。
続きを促すような静寂があって……

”マネキン” > わかるよ。
わかるところまでだが。無限に目が届くわけではないが、これでもある分野では専門家を名乗っている。

【己の胸元に一度、手を当てる。】

君の異能はその存在を隠していた。因果への干渉であるからとともに、
それは深奥での望みにつながっていたはずだ。だから、自覚するわけにはいかなかった。
そして、奇妙なことがある。
天秤があまりにも強く伊都波凛霞を捕捉していたことだ。

天秤、と名付けられたからか忘れられそうになるが、天秤であればその上に乗る二つのものは自由だったはずだ。
今の状況ではどちらかというと紐、と言ったほうが正しいように思える。

君には姉への執着がある。
英雄であるはずの姉に、少しでも追いつけるなら。
かつては努力もしたはずだ。

あとは解せないのは、その間にある支点となったはずのものがなんなのか。こればかりは、過去を見ることまではさすがにできない。

結果として、だ。
君の姉には英雄になってもらう必要がある。
でも私が手を出すべきではないだろう。そのための舞台は用意するが、天秤もそれを許さないはずだ。
だから英雄と対峙する役者となるべきは、君だ。

どうだろう。
後戻りのできない場所が欲しくはないか。

伊都波 悠薇 > 天秤の皿は二つ。
言っていることは正しい。自分もその天秤と認識している。

なるほど、研究者。より深い研究をしているのだろう。

「――あぁ、だからあの時。あんなに、過去に何があったのかを気にしてたんですね」

烏丸も、マネキンも。合点がいったというようにうなずき――

「では、データを提供しましょう」

あれがそうであったかはわからないが、烏丸へと告げた
過去の――悠薇にとっての英雄譚を聞かせて――
そう、簡単な話。

妹を姉が体を張って、護った。

ただそれだけの――”思い出―えいゆうたん―”を。


――――……

そして、一息。
物語を吟遊詩人の様に語り終えれば――……

「化け物になる手助け、そう病室でも言っていましたね。その場所へ、貴方がいざなってくれると?」

”マネキン” > 【すべてを聞き終えて、拍手をする。】

詩人だね。

そう、言ったかな。
化け物と… だが英雄と対するには確かに、ふさわしい。

そしてその、過去の話を聞けば、なおさら。ああ、真意も聞きたかったからね。
思いつきにしては良い言葉を選んだようだ。

そう、化け物になる手助けを、してあげよう。
英雄と、化け物。そして舞台となる英雄譚。すべてがそろえば、その結末には救いがあるはずだ。

きっと。なにせ英雄譚なのだから。

【足元の段ボール箱の中を漁り、カップを二つと水筒を取り出す。
何の変哲もないコーヒーをカップに注いだ。二人分用意してある。】

伊都波 悠薇 >  
「ええ――、それを信じて、やみません」

救いはある。こんなにつらくて――あんなに辛そうで。
その終わりが、報われないなんて嘘だ。
その、結果が、姉の幸せじゃないなんて、なんの価値がある。

そう、私は。変わらない。
逃げない。姉の幸せという、いついつまでも願う――

”キミは贅沢ものだね”

”悠薇と一緒が幸せなんだよ”

”姉妹って、そんなに軽いものなの?”

「――…………」

ノイズ。つーっと、鼻からこぼれる、赤。
制服の裾で、ぬぐいながら――

そそがれたコーヒーだけを見つめて。

「――どうやって?」

”マネキン” > どうやって、か。

【コーヒーを入れたカップを二つ並べた。
制服の懐から紙包みを取り出す。】

これは何の変哲もないコーヒーだ。
だがこの薬はしばらく眠ることができる。飲めば舞台が整うまで、何も知る必要はないだろう。

どうなってもいいというのなら、これを君のコーヒーに入れようと思う。

もし、知りたいというのなら入れはしない。
ただしそれが、怖気づいたり、まだ心の中で何かを望んでいるからなら…
この先へ進むこともお勧めはしないよ。

本当は化け物になることを望んでいないのだとしたら、ということさ。

【選択を問いかけた。答えを待つ。】

伊都波 悠薇 >  
立ち上がった。
立ち上がって――悠薇は、男の前に立つ。

「――ねぇ……」

ケタケタケタ。

そんな笑い声が聞こえたような――

「――ここで、私が。逃げる選択をするとでも?」

眠る? 知らず、このまま進んでいく?
冗談ではない。自分は何をした。
自分は、姉になんと告げた。

逃げたものを糾弾した。信じなかった。

ならば――これ以上、姉のせいにしてたまるか。

これ以上、嘘なんてつかせて、ついてたまるものか――

「いりません、そんなもの。慈悲も、優しさも――化け物には必要ない。あるのは――」

――弾劾と、糾弾と、否定と、暴力

それで、十二分。

それこそが――

「救いです」

前髪で表情は見えないが――その瞳は……

”マネキン” > 君は己を偽ることが得意そうだからね。
それもまた、天秤のもたらした歪みでもあるのかもしれないけどな。

いいだろう。
ポイント・オブ・ノー・リターンだ。

【”マネキン”が立ち上がる。
何かをいじると、コンクリート壁沿いの壁面に扉が現れた。
バラックに不似合いな重厚な扉はスライドし、その先には薄暗い、地下への階段がある。】

その歪みを抑え込んで、偽りを許さない舞台にて答えをあげましょう。
すべてはあるべき形に戻る。それが我々にも益になる。すべてに救いを。

さあ。

【闇の先を指し示し、薄暗い階段への入り口の隣に立つ。】

伊都波 悠薇 >  
「――…………」

すぅ、はぁっと深呼吸。
偽ることが得意? なにを馬鹿な。
伊都波悠薇は、礼を重んじる。偽ることなど、しない。
誰に対しても誠実に――

だが、それは今日までの話。

「――……あなたたちにも、救いがあるといいね」

すれ違い様、そう告げて。
入口をくぐり――闇へと足を踏み入れて――

”マネキン” > ありがとう、救世主。

【伊都波悠薇の後をついて”マネキン”も階段を下りる。
二人の姿が見えなくなる。
地下への階段の入り口が閉じ、偽装されて中はただのバラックの廃屋にしか見えなくなった。】

【テーブルの上に飲まれなかったコーヒーのカップが二つ、残された。
誰もいない中、ゆっくりと冷めていく。】

ご案内:「落第街、スラム奥地廃屋」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「落第街、スラム奥地廃屋」から”マネキン”さんが去りました。