2015/06/18 のログ
四ノ宮 雪路 > (巷はずいぶん物騒だ。ロストサインがどうとか、通り魔がどうだとか。落第街でその手の話題に困ることはない。困ることはないのだが、店主、四ノ宮雪路は大きく肩を落とした)
「だからといって、せんべいも頼まずに話を聞きに来るのはやめてくれないかなあ……」
(誰にはばかることことなく、言葉がすらすらと舌を滑っていく。この第八地区はそれなりに情報の集まる場所だ。しかしながら、情報だけを求めてせんべいも買っていかない不届き者が多い)
「映画でだって、普通そこは『酒を一杯』なんて切り出し方から始まるもんじゃないかね。……ね、そう思わないかい、君」
(街道から店内を伺う猫に向かって、口を尖らせて同意を求める。しかし、平気の平佐とばかりに――事実そうなのだが――猫は走り去ってしまった)
「ああ、現実は無情だねえ……」
(誰も居なくとも回る舌。手は機敏なさまでせんべいの面倒を見る。まるで首から下と上が別人であるかのように、器用な動きを見せている)

四ノ宮 雪路 > (程なくして、せんべいが焼きあがった。箸でそれをつまみ上げると、至福の表情でそれに齧りつく)
「はふ、はふはふ」
(口元はだらしなく緩み、眉がさがり。身体を震わせて舌鼓を打っている。今は誰もいないし、久々に満足行くまでせんべいを焼けそうだった)
「とはいえど、せんべいを焼くためにはおぜぜが必要というわけだ。うーん、世知辛い。お客が来ないと学費も払えないし」
(違法学生である店主がまともに学費なるものを払っているのかは怪しいところであるが、実際、居酒屋の経営はせんべい屋の存続のためである。酒も出すし料理も出す。更に違法学生の無茶な要望に答えていたら、いつの間にか大衆食堂の様相まで呈してきている。はじめの頃こそお品書きを用意してみたが、そこにないものを頼む生徒ばかりが多くなってとうとう投げ捨ててしまった)
「ああ、現実は無情だねえ……」
(舌の根も乾かぬうちに二度目の言葉。開け放たれた入り口を眺めながら、カウンターに顎をのせた)

ご案内:「居酒屋『熱焼』」に戮意 鞠栖さんが現れました。
四ノ宮 雪路 > (店主は、依然街道を見つめている)
戮意 鞠栖 > 不意に、何かが揺れる様な雰囲気と、何やら不気味な気配を纏った、悍ましい存在が居酒屋に入り込む。まるで降霊術か何かのような雰囲気。
「煎餅頂戴。」
不意に店主に、消え入るような、それでいて消えきらない短い声をかける。歩く都市伝説の来店。「未成年者」の立ち入りが許されているうえに、煎餅という和菓子がある。それに一枚無料らしい。さらに言えば客数が少ない。彼女的にはこれ以上ないという程に良い条件が揃っていた店だったわけで。都市伝説も釣られたのだろうか。そして、かの店主は、都市伝説的な少女の存在を知っているだろうか、それとも…。

四ノ宮 雪路 > (街道を眺めていると、そこから現れたのは王道的とも言える風貌の少女。あからさまに怪しい。店主は背筋に痺れを感じながらも笑顔を浮かべた。この手のタイプは刺激することこそ一番危険だ。気配を変えることは愚策である)
(そんな冷静な思考が大半を占めた時、飛び込んできた言葉は)
【煎餅頂戴。】
(である。店主はまるで発条仕掛けにように立ち上がった)
「いやあ! いらっしゃい! せんべい? せんべいかい。運がいいね。今日はちょうど、たった今。しょうゆ煎餅が焼きあがったところなんだ!」
(気分を良くしていそいそと煎餅を包む。もはや彼女の怪しげな、悍ましい雰囲気など頭からは雲散霧消していた)

戮意 鞠栖 > されど、露と変わらない雰囲気。成程手練れだ。彼が笑うなら、彼女も口角をあげ、その幼い見た目と似ても似つかない、小さな笑みを浮かべて笑い返すだろう。
「へぇ。なら、もういただけるのかしらね。御仕事が早くって結構だって思うわ。」
一枚無料。こんなにおいしいことは無い。いや、煎餅も美味いのだろう。違法的なニオイが漂うこの居酒屋だが、この彼の手際は並以上と見受ける。取り敢えず、そのしょうゆ煎餅を、その悍まし気な雰囲気とは裏腹にどこかワクワクしたように、とんとん、と指で何かを叩いて音を奏でながら、それが差し出されるのを待った。彼は多分、彼女の都市伝説的な事については知らないのだろう。
「ところで、一枚無料って、一入店一枚無料なのかしら。それとも、初回限定で一枚無料なのかしら。」

四ノ宮 雪路 > (焼きたて。その言葉に偽りはなく、七輪から引き上げられた煎餅が、紙に包まれ白絹の少女の前に置かれた)
「入店ごと一枚無料さ。流石に毎回、何も無しで無料の煎餅だけを持って行かれたら商売あがったりだけど」
(よく回る舌。それは彼の自衛手段の一つであり、趣味でもある。喋れば喋るだけ、彼の異能は人知れず力を深めていく。彼の深層は警戒を告げながら喋ることを促し、彼の表層は煎餅を注文された喜びで上機嫌に舌を回す)
「今日は気分もいいしタイミングもいい。別段今日は頼まなくったって結構さ。もし気に入ったら、持ち帰りで何枚か買ってくれればなお嬉しいけど」
(それだけの味の自信はあるが不思議と売れないのがこの店だ。醤油も、米も全てこだわった一点もの。この店以外では味わえぬ妙味である)

戮意 鞠栖 > 香ばしい、とでも形容しようか。彼女の前にそれが置かれたのなら、掴み上げて。
「あらそうなの。なら、一旦私がこれで出て行ってもう一回入ったらもう一枚頂けるのね。」
冗談なのか本気なのかは分からないが、そんな事を溢して、笑ってみる。さくりと一口いただき、咀嚼してから。
「そう、因みに一枚おいくら?100円で10枚買えるなら考えるわ。」
幾等なんでもこの味わいにそれは無いだろうが、さらに冗談に冗談を連ねる。
「で、最近思うのだけれど。…物騒よね。」
少なくとも、包丁を片手に携える少女が言えたことではないだろうが。それに、この居酒屋の位置も位置だ。物騒であって当り前だろう。

四ノ宮 雪路 > 「それは困るなあ。今度から一日一枚無料ということにしておこうか」
(相手の軽口に合わせるように朗らかに笑みを浮かべた男は、一度手製の座椅子に腰を下ろして腕を組む)
「一枚90円。これでもだいぶ安くしてるんだけど、個人じゃこれぐらいが限度かな。手間もかかるしコストもかさむけど、せんべいを売るのも食べるのも趣味だから」
(今のところ90円。おおよそ煎餅の値段も店主の気分によって変わるといっていい。機嫌のいい時など煎餅を何枚も人に贈る時もある。ひとまず普段売りに出している価格を告げた。実際、素材を厳選する彼のせんべいは、この価格では利益がほとんどでないと言っていい)
「確かに最近は物騒だ。趣味のせんべいを焼く時間もなくなるぐらいでね。今日はずいぶん空いてたけれど、いつもはいざこざから逃げてきた生徒が結構入ってくるんだ。……せんべいは頼まないんだけどね」
(この地区は、ある理由でごろつきたちは争いを避けている場所だ。数少ない落第街の安全区画。もちろんその理由を知らないごろつきが暴れることも、たまにはあるが。それで繁盛しているのだから嬉しいものだが、店主にとってはそれでもせんべいが売れない事態のほうが嘆かわしい)

戮意 鞠栖 > 「…ちぇっ。」
眉をひそめて、あからさまに舌打ちする。勿論冗談だ。そんな事をしていたら商売あがったりも良い所だろう。さくりともう一口。…悪くない、と感想を馳せるかのように口角をあげる。
「へぇ。50円まで負けてくれたら二枚で買うわ。生憎いま100円しか持っていないのだけれど。…ああ、それとも何か、お金以外に欲しいものでもあるかしら。」
一枚の銀貨を取りだして。じろりと、真っ黒な瞳が彼の細い目を見据える。そんな、厳選された食品選抜にとどめを刺すかのような交渉。勿論これが通ることがないのも分かっている。ので、物々交換などいかがだろうか。
「へぇ、そうなの。隠れ家としてでも利用されているのかしらね。災難ねぇ、あなた。」
くすくすと、白い袖で口元を隠しながら、同調するように小さく笑って。

四ノ宮 雪路 > (相手の仕草には上機嫌だ。相手の交渉を聞くやいなや、両手を上げて子どものように喜ぶと煎餅を二枚取り出した)
「構わないよ! 本日限定、合わせて二枚で100円だ!」
(残念ながら物々交換は成立しない。久しぶりに彼の煎餅の味を評価し購入意欲を見せた初客だ。どうぞどうぞと差し出してからくるりとターン。靴が小気味良く床をこすって意気揚々。こと、せんべいに対して彼は真っ当な判断力を持ち合わせていない)
「いやあ、嬉しいねえ。買ってくれるという人が居るだけで僕は嬉しいよ。今日は良い日だね」
(感極まったように口元を緩めていく。上機嫌に煎餅を紙に包みこむ)
「ここじゃみんな争いたくないらしいよ。休戦協定っていうのかな。そういうのが決まってるわけじゃないんだけど、暗黙のルールって奴」
(ある理由。メーリングリストで伝わると、まことしやかに囁かれる都市伝説。ゲマインシャフトと呼ばれるその繋がりが、違反学生の中では広まっている)

戮意 鞠栖 > 「いいでしょう。交渉成立。なら100円で二枚、頂こうじゃない。…あらあら、そんなに嬉しいのね。」
それとなく、物々交換は決裂したが、これを今の有り金で2枚もらえるというのであれば、それでいいだろう。ほら、と握った銀貨をまるで踊るかのような動作を見せる彼に差し出した。
「へぇ、大分安値なのだけれど、喜んでくれたなら幸いよ。…また来るわ。今度は500円持ってくる。…その時は本日限定と言わず10枚売って欲しいわね。」
それが本当かどうかはさておいて。さくりと、もう一口食べればそれにて煎餅は食し終った。
「そう、それじゃあ私もこのお店じゃあうっかり戮せないのね。その点少しばかり残念だけれど、血塗れの御煎餅なんて美味しくなさそうだもの。」
何だかんだ、同じく都市伝説たる彼女もここでは殺気がなかったわけで。
「あら、でも血って結構しょっぱいし醤油の代わりに使えるかもしれないわね。血濡れの煎餅ってどんな味なのかしら。」
ふとした話題。血生臭いのは落第街ならではの御愛嬌である。

四ノ宮 雪路 > 「いやあ、今日はせんべいの売上がゼロだったものでね。買ってくれるなら万々歳さ」
(片目を閉じ、腰に手を当て笑い声。踊るような様を見せた彼の髪を、緩やかに風が揺らした)
(続く言葉にも満足そうに頷いてカウンターを軽く叩いた)
「そうだね。十枚も買ってくれるならお得意様だ。その時もサービスしようかな。いやあ、その時が楽しみだね」
(舌を回すことは忘れない。しかし楽しいのも真実だ。男の仕草は確かに踊るようでもあり、続く言葉も恐れることはない)
「確かにあまりいい目は受けないだろうね。流石にここで切った張ったが続くんじゃ、僕も店をたたむしか無い」
(人がよく死ぬせんべい屋なんて洒落にならない。想像しただけで悲しくなって目頭を抑えた)
(抑えたまま、血の味の煎餅を思考する)
「うーん。僕はしょうゆ煎餅一本でやってきてるからね。吸血鬼<そっちの嗜好>の人でもなければ催吐効果もあるし、ああ……一回網の手入れを忘れて錆味の煎餅を作ってしまったけど、あれは不味かったよ」
(血の味は鉄の味、とはよく言われることだ。せんべいを一枚足りとも無駄にはしたくない男であったが、流石に錆つきの煎餅はこころに堪えた。個人的には、せんべいを焼くための道具の手入れを怠ったことのほうが一大事であったが)

戮意 鞠栖 > 「あら、和菓子としては悪くないのに誰も買ってくれないのねぇ…」
勿体ない、なんて思いながら今更、彼女自身もタダ食いの心算で入ったことを思い起こす。
「へぇ、気前が良いわね。ますますまた来る気になったわ。是非ともよろしくしてやって頂戴な。」
気分良さそうに感嘆しながら、二枚の購入したそれを片手に携えて。
「そうね…けれど、ある種闘技場みたいでいいかもしれないわよ。それも。」
(落第街で討議など洒落になったことではないだろうし、こちらもまた冗談。笑って見せる。)
「ああ、吸血鬼…ね。そう、いえ、錆びは普通マズいと思うわ。色々と。」
「さて…と。店主さん、どうも。この辺で、失礼するわ。それでは。」
(立ち上がって、煎餅を入れた袋を握った方の手を上に上げて、それから、店から出て行ったそうな。)

ご案内:「居酒屋『熱焼』」から戮意 鞠栖さんが去りました。
四ノ宮 雪路 > 「またのお越しを」
(店から出て行く少女を眺めて、今日も良い一日だったと早くも締めくくる。感涙を堪え手を握りしめながら、今日も今日とて居酒屋『熱焼』は平常運転。少女の他に、せんべいはとんと売れなかったのだという)

ご案内:「居酒屋『熱焼』」から四ノ宮 雪路さんが去りました。