2015/07/20 のログ
■『七色』 > 「あら? 女の子なら誰だって憧れるものだと思っていたけれど?」
「ふふ。いいわ。どの道あなたがどうであれ、世間の注目は"私"と、そして"あなた"よ。」
くつくつと笑いながら、背を向ける。
ついて来い。そう言わんばかりに。
刹那眩い光が二人を包み、白闇が明けるころにはそこには誰もいなかった。
他の風紀委員たちを残して。
転移荒野、遺跡群。
二人の姿は、その一角へとジャンプアウトしていた。
ゴシック調の古びた意匠。風化し色の落ちきった彫像。
空には報道ヘリ。周囲には照明が。
舞台の上に立つ二人を見つめている。
「私の物語は、最後のひとかけらだけがずっと足りないの。」
「あなたが放った"ゲート弾"(あの弾丸)なら、それを埋められる。」
「私を満たしてくれる。私を完成に導いてくれるわ。」
指を弾けば、その手には装飾麗しき細剣が煌く。
二三度振るえば、刃に移りこむ月光が、その鋭さを暗示させるよう。
「でもただ撃たれるだけじゃ、三流脚本もいいところ。」
「私という作品を完成させるため、ここに一騎打ちを所望するわ。」
「嫌とは言わせないわよ。もう地下プラントに残された時間は僅かしかないもの。」
「島が爆ぜるか私が爆ぜるか。」
「どちらも刺激的だとは思わない?」
「……なんて、言葉は不要ね。」
「此方から行くわ!」
驚異的な加速度で間合いを詰める!
一閃二閃と視界を埋め尽くす程の刺突の嵐!
戦闘訓練を積み重ねたものだけが体得できる剣術の技前を、彼女は"ただの演技"として表現することができる。
それこそが彼女の異能。彼女の異名。
《比類なき大女優》。
舞台の上で、他の追従は許さない。
■レイチェル > 「生憎と、ヒロインなんて大役やるには血で穢れ過ぎちまっててな」
肩を竦めながら、リボルバーは離さずに。
「……空間転移、か」
光と共に、周囲の景色が一変する。
そこは、転移荒野の遺跡群。馴染みのない場所ではあるが、
大方の位置は彼女も把握出来る。
「ゲート弾……ね」
レイチェルは、彼女の身の上などは知らない。
しかしながら、彼女が死を望んでいるらしいことは察し、柳眉を逆立てる。
「何でてめーがそんなに死にたがってるのかは知らねーが……オレの目的は
島の爆発を止めることだ。なら、此処でやるのはどのみち一騎打ち、って訳だ」
二挺のリボルバーをしまい、新たに取り出したのは魔導剣。
先日『癲狂聖者』と撃ち合った一振りの刃、魔を断つ剣だ。
加速。一瞬にして失われる間合い。
超人的な速度で振るわれる細剣。
「てめぇ……剣術士か!?」
およそ外見からは想像がつかない激しい刃の嵐に、レイチェルは舌打ちをする。
加速に次ぐ加速。
離れては激突する刃。
耳をつんざく剣戟の音。
荒野を照らす月光の下、数多の火花が咲いては散りゆく。
■五代 基一郎 > 己の体ごと機獣に体当たりし、壁へ叩き付けめり込ませ動きを封じる隊員
その視界の脇でレイチェルと『七色』が消えた。
異常事態である。そして『七色』の目的たるレイチェルと檀上に上がることが叶えば
機獣の動きが緩慢になり、そこを特殊装甲の隊員達が仕留めにかかる。
目的を達成したからこそ後は不要であるかのように。
完全に裏を掛かれた形となった。ゲート弾は確かにブリーフィングの段階で
『七色』のその特性上各々一発は持たされている。
故にレイチェルでなくとも、であるがレイチェルでもと思っていた。
指名されても誰でも戦え、一対一に持ち込めれば勝機はあると。
だがそこまで、転移してまで『七色』がレイチェルへ固執することは想定を外れていた。
『七色』の支援者たる者も既にそれは了承済みだからなのだろう。
思えば報道機関を外れた島全体へのライブ放送。そこからして常軌を逸している。
そこまでレイチェルに固執する理由がわからない。
作戦時の現場での対応から外れる事態が起きた。
主たる目標は今現在ここにいない。隊員らは無線封鎖を解除して
公安の実働班と、風紀の特殊警備一課を結ぶチャンネルを開く。
■隊員>「事態が急変しました。『七色』がレイチェル・ラムレイを連れてこの場から転移しました」
■第一小隊長>「把握している。対象と彼女は現在遺跡群古代劇場だ」
そう。先の通りリアルタイムの報道でその様子は流されていた。
現状が、今『七色』とレイチェルが何をしているかが映像として。
用意のいいことだ。
「エネルギープラントは災害時の破損を考慮して安全策がとられているはずだ。
都市部での爆発を避けるために洋上まで区画ごとパージするものだが
そちらからコントロールできないか」
動きが緩慢になった機獣を組み伏せて破壊した隊員が
エネルギープラントのコントロールユニットに近寄り
操作を試みるが、それは無駄に終わった。
オーバーロード時に予想せれるタイムリミットへの数字だけが進んでいく。
■隊員>「駄目です。操作を受け付けません。」
■第一小隊長>「残された手段は手動しかない。」
手動でシステムを作動させ物理的に洋上へ切り放すには
明らかに時間が足りない。それでもやるしかない。
島が吹っ飛べばそれこそ何もかもやってもおしまいなのだ。
逃げ出すよりはマシである。
「いや、まだ手はある。」
だが、そう。まだ手は残っている。
最初に『七色』が告げた通り。このオーバーロードを止める手段が。
「レイチェル、レイチェル・ラムレイ。聞こえるか。」
その最後の希望へと無線を通して語りかけた。
■『七色』 > 「舞台の上で求められる役割というのは、その都度違うわ。」
「剣客であったり、怪盗であったり。」
「時にはまったく華もない、ただの囚人の役だったり。」
「挙句死体の役だったりね。」
思い出話に花咲かせながら、刃交えて幾許か。
アングルをぐるりと変えるため、報道ヘリが大きく空で弧を描く。
カメラマンがズームしたところで、レイチェルの剣が大きく『七色』を切り付ける。
舞う血飛沫を全身に浴びながら、それでも彼女は怯まない。
「血は本当に穢れなのかしら?」
「演出にも料理にも、刺激的なスパイスは必要よ?」
■レイチェル > 魔導剣が大きく『七色』を斬り裂く。
それでも怯まない『七色』に対し、レイチェルは次の刃を振るう。
映像越しに自傷行為を見てはいたが、この女は不死身なのだろうか、と。
そんな考えが彼女の脳裏に過る。
その間にも、互いの剣が止むことは無い。
やがて『七色』の剣も、レイチェルを大きく斬り裂いた。
襲い来る痛みに顔を顰めるが、それでも彼女は退かない。
「そんな刺激は万人受けじゃねぇな。……どうして、てめぇはそんなにオレに固執する?」
『七色』は最初から、わざわざレイチェルのことを指して、そしてここまで運んできた。
血で穢れているといえば、フォローを入れるように言葉を返す。
『ヒロイン』となるように、誘うように。
彼女にとっては、これらのことが不可解で仕方のないことであった
五代の声が耳に届けば、インカム越しに返答を返す。
「ああ、聞こえてるぜ」
■五代 基一郎 > 「エネルギープラントのパージも不可能、オーバーロードを止める手段はこちらにはない。」
返事が返ってくればまず要件を伝える。
残された時間は少ない。
「止めるには『七色』を退場させるしかない。
ヤツは檀上の演者とそこにある、そこから見える世界に魅入られた魔だ。
魔を断て、レイチェル・ラムレイ」
如何なる理由があろうともそれを行ってはいけない分水嶺がある。
境界線がある。それを越えれば、人は人でなくなり
また演者も演者でありつつ、それはまた別の性質に変わる。
『七色』もまた既に演者という何者にも姿を変えて人々を魅了する役者から魔性の者へ。
劇団の檀上にあがる演者ではなく、魔性の光。闇の中で鈍く輝く光。
そして、その光が誘発させる破滅の光。
時間がない。島が吹っ飛んで地図上から消えるまで。
「俺も島が吹っ飛んで周りは海というシチュエーションで
海には入りたくないからな。
時間がない、頼んだぞ。」
■『七色』 > 「単純なことよ。」
「あなたが一番適任だから。」
「それ以外に必要かしら?」
細剣を地面に振るい、滴る血潮を振り払う。
刃に残る赤の色。指先を這わせ拭い去れば、瞬時にして赤は猛々しく燃え上がった。
「私、異邦人だったの。」
「最初に見た光景はここ。舞台の上で、一人演技に興じる男がいたわ。」
「もうその男はいないけれど……私にこの世界で生きる指針をくれたの。」
「女優としてね。」
「でも、彼は私がどれだけ見事に演じきっても、ただ一つの理由だけで心から認めてはくれなかったわ。」
「『私が死ねない』から。」
「だから彼は"完成した"し、私はどれだけ演じても"未完成"のままなのよ。」
刃が一層燃え上がる。
彼女の心象を表現するかのように。
「でもそんな私に、終わりを与えてくれる存在を見つけたの。」
「それがあなた。」
「あなたは私を殺して、名声を得るわ。」
「あなたがどう思おうと、それは確実にあなたを取り囲む。」
「そしてそんなあなたに倒された私は、女優のまま綺麗に消え去ることができる……。」
「身勝手かしら? 身勝手ね。」
「でも女ってそういうモノでしょう?」
「芸術は、情熱よ?」
細剣を天空目掛けて逆袈裟に振るえば、火柱のように次々と噴き上がる!
■レイチェル > 五代の声を耳にして、レイチェルは決意を新たに目の前の女を見据えた。
「演じても演じても、未完成……死によって完成される……か。
とんだ演劇狂いだな、『七色』。突き抜けてるその拘りだけは、
ある意味賞賛したいところだぜ」
『七色』の話を聞いて、その言葉と裏腹にレイチェルは顔をしかめた。
血振りをする 『七色』を前に、レイチェルは改めて魔導剣を構える。
「名声なんざ要らねぇ。舞台女優《ヒロイン》も、英雄存在《ヒーロー》も、まっぴらだ。
誰だって憧れる、お前はそう言ったな。けど、オレはそんなもんに、憧れてなんていねぇ。
オレが刃を振るうのはな、名声の為じゃねぇ、己の信じる大義、なんて
英雄様の抱くような、ご大層なものの為でもねぇ。
お前と同じ、ただの身勝手だぜ、『七色』――」
柄を握る手に、力を込める。
「――オレがこうしてるのは、てめぇのやってることが、気に食わねぇからだ!」
疾駆。
噴き上がる火柱を、躱しながら。
燃え上がる炎が、レイチェルの制服を、肌を、掠めていく。
レイチェルは、退かない。
間合いを詰めて、魔導剣を大きく横に振りかぶった。
そのままであれば、先の剣撃と大して変わるまい。
しかし、レイチェルはそこで口を開く。
「――衝撃《ブラスト》!」
レイチェルの魔力が、収束してゆく。
魔導剣が、レイチェルの魔術に呼応するかのように青白く光輝く。
同時に、レイチェルの振るう魔を断つ刃は、爆発的な勢いで以て
『七色』を吹き飛ばし斬る勢いで、振るわれる!
■『七色』 > "上"と"下"で寸断された大女優は、月下の宙に舞い上がった。
虚ろに開いた目は、瞬時に色艶を取り戻す。
雑に地面へと放り出され、雑に転がり雑に伏す。
しかし彼女は絶命などしていなかった。指先だけで這いずって、仰向けになりレイチェルに向き直る。
「さ、おやりなさいな。」
「それでプラントの臨界も収まるわ。」
一陣の夜風。
遠くから響くはエンジン音が近づいてくる。
空には輸送ヘリが隊列を組み、陸には装甲車両が列を成す。
公安が、風紀が、行政の手勢が、枯れた劇場跡地を取り囲み始める。
■レイチェル > 吹き飛ぶ『七色』を確認し、クロークの内から一挺のオート拳銃を取り出す。
彼女が死んでいないことは勿論分かっている。
装填されているのは、ゲート弾。
小型の門を作り出し、相手を必滅させる風紀委員の最終兵器の一。
冷たく輝く銃口を『七色』に向けると、レイチェルは静かに口を開いた。
「最後に聞くぜ。プラントの臨界を止める気は無いのか?」
彼女自身も、『七色』が頷くとは思っていない。
しかしながら、聞かずには居られなかった。
彼女の過去を知ってしまったからだろうか。或いは。
彼女自身にも分からないままに、言葉だけが口から放たれたのだった。
■『七色』 > 「あら、優しいのね。」
「……ふふ、でも残念。」
「ここで全てを捧げて、私はそこでようやく終わることができるの。」
「団長(あの人)がいなくなってから、私の生にもう意味がないのだと今では思っている。」
「だからきっと……。」
「ここで生き長らえば、また何度だって同じことするわよ?」
悪戯な笑みを湛えながら、目を細めてみせた。
■レイチェル > 「……皮肉じゃねぇが、見上げた女優だよ、てめぇは」
トリガーに指を掛ける。
不老不死であろうが、この一撃を受ければ、再び蘇ることも無い、だろう。
「同情は……しねーぜ」
それはそれは、飾り気無く。
それはそれは、呆気無く。
それはそれは、淡々と。
「……あばよ」
『七色』という名の大女優を終わらせるべく、
乾いた発砲音が、荒野に響き渡るった。
■『七色』 > 上半身が"門"に飲み込まれ、続いて下半身が紫色のガス状となり霧散した。
本来であれば、あのガス状生命体が彼女の本質だったのだろう。
結合する先がこの世界から消滅することで、存在に矛盾が生じて消滅に至る。
集う行政の手勢は順次撤退を始め、調査班だけが駆け寄ってくる。
「お疲れ様です。」
天然水入りのペットボトルを彼女に渡し、現場の検証に移った。
恐らく、直に五代から事の収束が通達されるだろう。
ご案内:「天津重工本社ビル」から『七色』さんが去りました。
■『美術屋』 > すべての掌握していたシステムの権利を破棄する。
痕跡も綺麗に消して、それくらいはお手の物だ。
負傷者はいれど死者はいないよう、”努力”はしたが――さて……
ドローンが力なく倒れ伏す。隔壁も、すべて元通り。
静かに汗だくになった身体を起こして、部屋から後にする。
その頬に、涙を落して。
――素敵だったよ、七色。最期を特等席で見れてよかった
ご案内:「天津重工本社ビル」から『美術屋』さんが去りました。
■五代 基一郎 > 天津重工本社ビルでは手動のパージが試みられていたが
その最中、無線で入った『七色』の退場と同時に
オーバーロードは止まり徐々に平常動作に戻って行った。
つまり、危機は去った。
現場で作業をしていた特殊の面々はひと息ついて、撤収を始めた。
一方五代といえば転移してレイチェルに無線を掛けてすぐ
『ブラスレイター』を回収した『ベッコウバチ』に乗り込み
現場に急行していた。到着する頃には、事態は収束していたわけだが。
『ベッコウバチ』から『ブラスレイター』共々そこへ降りて
レイチェルへ伝える、事は終わったのだと。
「エネルギープラントの暴走は停止。フェニーチェの大女優『七色』は退場。
これでこの件が終わり、事態の流れは終息していくだろうさ。」
そう。檀上に上がる演者が退場してしまったのならば
それは乃ち閉幕となる。演者のいない舞台など誰が見るというのか。
「お疲れ様、だな。」
■レイチェル > 五代がやって来れば、よ、と。手を振って応える。
「これで、閉幕か……」
手の内に残ったオート拳銃を改めて見つめながら、レイチェルはそう口にした。
いつも握っている筈の拳銃は、いつもより、ほんの少しばかり重く感じた。
「ところで先輩、さっき無線で海がどうとか言ってなかったか?」
ほんの一瞬だけ何かを思うように視線を落としていたレイチェルであったが、
すぐにふっと笑顔になり、五代の方に向き直った。
そして、小首を傾げるレイチェル。
■五代 基一郎 > 「そうなるな」
振られた手に返すように同じく手を振り返す。
レイチェルの顔色が浮かないことも、言葉からも察せられる。
いくら風紀で荒事を率先するレイチェルであっても、立て続けにほぼ死と
ほぼ同義の事態を己の手で行った。
もちろん、やむ負えない事情ではある。
そうしなければならなかったに足ることがあった。
罪を犯したものであってもその命や存在に対する価値を法の番人であっても
断定することなどはできない。
悪党だから殺していいなどというのを前提として置くのは大間違いである。
かつてある人が言った。目には目をでは世界中の人間が盲目になると。
解釈は違うかもしれないし元の言葉も今じゃ忘れられているかもしれない。
だかそれは意味ある言葉だと思う。
そしてそれについて呵責が起きるのであれば、真っ当な人間である証拠であり
だからこそその真っ当な人間の心に対して出来る人間がするべきことをしなければならない。
「ん、あぁ……海、行くか。海。ちょうどいいし休み取ってさ。
丸一日海で遊ぶか。と言っても俺は遊び方知らないから今度もよろしく頼むよ。
レイチェル先輩。」
日常を、その心の為にと。時間と世界を戻すように誘う。
もちろんその差異が広がることに苦しみが生まれるかもしれないが、今は必要な事だと
守るべきものをということも色々あるとしつつ、単純に海に行きたいことを立てて誘った。
続いてきた事件から、日常の世界へ。
■レイチェル > 「そうか、そうだよな……」
人を殺すのには、きっと『普通』の人間よりもずっと慣れている。
元の世界でレイチェルは、魔狩人をしていた。
その中で、魔の憑いた人間や魅入られた人間を殺してしまったことは何度もあった。
それでも。今でも毎度のように、掌の内にある拳銃を重く感じてしまう。
しかしきっと、この少しばかりの重さこそが、
レイチェルという存在を『人』の側へ繋ぎ止めているのだと、彼女自身思うのであった。
「ふふん、それじゃあその時はしっかり付いて来ることだな、五代!」
偉そうに腕を組むレイチェル。
そうして五代の待つ、日常の世界へと、レイチェルは歩いて行ったのだった――。
ご案内:「天津重工本社ビル」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「天津重工本社ビル」から五代 基一郎さんが去りました。