2016/01/25 のログ
ご案内:「異邦人街住宅街:深雪の家」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > 「さむ……」
帰宅後、開口一番に七生は不満げに息を吐いた。
年明けすぐはそれほど寒さを感じなかったというのに、ここのところやたらと寒い。
まあ、そろそろ1月も終わるというので当たり前と言えば当たり前、どちらかと言えば年始が暖か過ぎたのだ。
「体動かしてれば少しは気も紛れるけど、家の中じゃそーもいかねえしなー。」
軽く自分の腕をこすりながら通学用のナップザックを放り投げ、暖房器具へと近付いていく。
ご案内:「異邦人街住宅街:深雪の家」に深雪さんが現れました。
■深雪 > 「人間って皆、このくらいの寒さで音を上げるのね。」
こんなに寒いというのに、相変わらず深雪は薄着のままだった。
季節感が全く無い、薄手のワンピースを身に付けている。
暖房がきいている室内だからではない、外にもそのまま出ていくから、困ったものだ。
なお、授業が始まったというのに、深雪は殆どの時間をこの家で過ごしている。
授業に出ている様子は殆どない。
「…ココアでも飲む?」
■東雲七生 > 「正直、深雪と同じに考えられると困る。凄く困る。」
暖房から出て来る温風に当たりながら、ほっと一息つきつつ振り返る。
何かと規格外の相手に真っ当な反論をするのもどうなのか、と自分でも思わない事もなかったが、そこはそれ、反射というものだ。
「飲むけどさー。
……せめて上に何か羽織ってよ、見てるこっちが寒いんだから。」
ぷー、と唇を尖らせて不平を口にする。
暖房をもっときかせれば七生も薄着にはなるが、外から戻って来たばかりではそうもいかない。
「ていうか、深雪。学校は?」
■深雪 > 「ふふふ、そうね…人間って弱っちいものね。」
こんなやり取りも、もういつも通りのこと。
優越感を感じるというよりかは、素直な貴方の反応を楽しんでいた。
「何を着るのも、私の勝手でしょう?
逆に、あなたこそ、そんなに着込んでて暑苦しいわ。」
貴方が深雪のクローゼットを覗くことはないだろうが、防寒着の類は一切持っていない。
そもそも、この暖房でさえ、七生が来るまで起動された形跡が無かったくらいだ。
きっと、本当に、寒さには呆れるほど強いのだろう。
既に用意してあったのか、ココアはすぐに運ばれて来た。
「ちゃんと行ってるわよ?」
えぇ、本当です。
気に喰わない授業をぶっちぎって行った結果、週に2時間だけですが。
■東雲七生 > 「寒さに弱いのとはまた別問題なの!」
まったくもう、と頬膨らませながら暖房から離れてソファに腰を下ろす。
別に本気で機嫌を損ねたわけではないが、それでも不満げな表情のままだ。
「そりゃあ、確かに深雪の自由だけどさぁ。
……うー、まあ、いっか。」
まだまともな服を着てるだけマシ、と心中で自分に言い聞かせて。
一つ溜息を漏らしてからココアの入ったカップを手に取った。
「本当に?……学校で深雪のこと全然見かけない気がするんだけど。」
目立ちそうなもんなのになあ、と呟きながら湯気の立つココアに息を吹きかけて冷ます。
良くも悪くも、と続けそうになってギリギリで思い留まったが。
■深雪 > 子犬でももう少し強いわよ?なんて、楽しげに笑う。
不満そうな表情にも、くすくす楽しそうな表情のまま、こちらもココアに息を掛けて冷ます。
「人間の真似をしてみるのも面白そうだとは思うけど…。
やっぱり、邪魔だとしか思えないわね。寒くないもの。」
別に七生を困らせようとしているわけではない。
一緒に暮らし始めた当初は、意図的に困らせようとしていたが…
…いつしか、こうしてちゃんと自分の思いも説明するようになっていた。
「まぁ、毎日…じゃないわね。
でも、貴方と同じ授業に居ないってだけかもしれないわよ?」
朝は、七生の方が先に出発する。それどころか、七生が家を出るまで眠っていることも多い。
だから、貴方とって、昼間の深雪の行動は全くの謎に包まれているだろう。
七生よりも後に帰ってくることも、あるし。
■東雲七生 > 「犬や狼はモッフモフしてるからそりゃ強いだろ!
もー……せめて見た目は人間なんだからせめて季節感に合わせてくれよー。」
ココアを啜って体の内側も温まりつつ。
邪魔だから、という理由で薄着になられていては何かと困るのである。
だからまだ不満を口にはするが、それでもあまり意味が無い事も長い居候生活の末、しっかり理解していた。
要するにただの世間話、なのである。
「授業が一緒じゃなくてもさ、少しくらい見かけたりすると思うんだけど。
朝も俺が先だし、大体俺より先に家に居るし。本当に学校行ってるのかなって心配になるじゃんか。」
まあ、深雪が学生に見えるのかと言われれば、たまに首を横に振りたくなる時が無いわけでも無い。
だからきっと、学校で深雪の姿を見かけた時には驚いてしまうだろう、とも七生は思っていた。
「一応服着てるって事は四六時中家に居る訳じゃないんだろうけどさ。
……俺が学校行ってる間、深雪ってどこで何してるのさ?」
■深雪 > 「そうねぇ…貴方がそう言うなら、考えておくわ。」
こうやって先延ばしにするのも、いつもの事である。
同じような会話を何度も繰り返しているような気がするが、こんな他愛ない話も、嫌いではない。
ハロウィンの時と同じで、本気で厚着させたいなら、買い物に連れ出してしまえばいいのだ。
「…あら、私が普段何をしてるのか、そんなに気になるの?」
ソファに座って足を組み、ちょっとだけ意地悪に笑む。
実際には、学校に行ったり、落第街をふらふら歩いたり、海辺に居たり、
それこそ野良犬か狼か、徘徊していることが殆どだ。
かつては夜も徘徊していたから、たまに危険な目にも遭っていたが…今では夜は七生に合わせて帰ってくるので、そんなこともほとんどない。
尤も、もとより深雪が危険なのではなくて、相手が危険だという場合が殆どだったのだが。
「楽しい授業がある日は、学校に行ってるわ。
それ以外の日は……そうね、貴方が帰ってくるまで、散歩してる、くらいかしら?」
それが事実なのだが、えらく曖昧な答えになってしまう。
■東雲七生 > 「散歩……かぁ。」
そういえば居候する以前、外出先で遭遇していた時も割と色んな所で会っていたような気がする。
それを考えれば、確かに島内をぶらついている事が多いのだろう。
ふーん、と鼻を鳴らしながら何度か頷いて、ココアを一口啜った。
「……まあ、ちゃんと帰ってきてくれるから良いけどさぁ。」
ココアを飲み干した後の、溜息と共に呟きが漏れる。
結局のところ、どこで何をしていようと最終的に傍に居てくれさえすれば、七生としては良いのだろう。
■深雪 > 実際、生活スタイル自体はさほど変わっていない。
変わったのは毎日家に帰るようになったことと、
人間をむやみに傷つけなくなったことくらいだ。
……いや、後者に関しては時と場合によるので、何とも言えない部分はあるが。
「そう言う貴方も授業終わった後、すぐに帰って来てるわけじゃないわよね?
私を待たせて、貴方は何をしてるのかしら?」
尋ねつつ、ソファの隣を開けた。
そろそろ温まっただろうから、横に座れと言うことだろう。
■東雲七生 > 「それは……まあ、色々あるからさ。
学校の課題したりとか、鍛錬したりとか、ダチと駄弁ったりとかさ。」
指折り数えながら、ココアを片手に深雪の隣へと腰を下ろす。
温風に当たり続けていたためか頬が紅潮していたが本人は気付いていない。
「まあ、あとは一度帰ってきてすぐ外走りに出たりとかしてるけど。
特に心配されるような事は何もしてないよ。なーんにも。」
至って普通の学生生活である事を念押ししつつ、深雪へと無邪気な笑みを向けた。
■深雪 > 「あら、ちゃんと鍛錬してるのね…偉いわ。
それで、少しは強くなったのかしら?」
貴方が抵抗も無く隣に座れば、その紅色の髪に手を伸ばす。
染まった頬にもすぐに気づくだろう、それを撫でてやりたい、という欲求は抑えたが。
「……そうね、でも、少しだけ心配なのよ。
貴方の記憶も、まだ戻ってないし…いつか、この場所も忘れてしまったりしない?」
心配そうな顔をしつつも、口元は笑っている。
何故なら、
「首輪でも付けて、縛り付けておきたいくらいよ。」
そんな想像をしていたから。勿論、本当にやるつもりはないのだが。
■東雲七生 > 「そりゃしてるよ。
どのみち授業受けてりゃ体鍛える必要はあるんだし。」
深雪との約束が有っても無くても、鍛錬はしていくつもりである。
元から体を動かすことは好きなので趣味と実益を兼ねても居るのだろう。
「だ、大丈夫だって!
少なくとも、学校に通い出してからの記憶は残ってるし!
……絶対忘れないって!絶対!」
そんな風に、少し真面目に否定はしたものの。
続く深雪の言葉に少し唖然として、むすっとした顔になった。
「……誰が得するのさ。」
■深雪 > 「そっか、でも不思議よね…この島の記憶しか無いなんて。
それじゃ、もし忘れた時は、貴方が逃げないように首輪付けてあげるわ。」
誰が得をするのか、と言われれば首をかしげてしまった。
特に深く考えては居なかったようだ。
ただ、確かに、ずっとここに閉じ込めておけたら、それはそれで、楽しいとも思う。
けれどきっと、七生はそれを望まないだろう。
昔を思い出して、少しだけ遠い目をしつつ、自分の首のリボンを触った。
自分は、首輪を嵌められて、縛り付けられた側だった。正しく、犬のように。
「……ほら、前にハロウィンの時、仮装してたじゃない。
あの恰好して首輪付けたら、可愛いと思わない?」
そんな過去の記憶を振り払うように、七生を軽く撫でつつ。
■東雲七生 > 「そもそも、そんなことしなくても絶対此処に戻って来るし。」
むすー、とむくれたまま視線をカップの中の残り少ないココアへと落す。
再三主張してきてはいるが、七生は自ら好んで此処に居るのだ。
もう来るなと言われても、きっと抗うだろう。
それを告げようとして深雪の方へ振り向くが、ハロウィンの事が話題に上がり機を逃してしまう。
「う、う……あれは、あの日だけだからっ!
それに、犬じゃないの!散々言ったけど!一応!」
頭を撫でられながら、顔を真っ赤にしつつ反論する。
結局犬男で定着してしまっただろう事に軽く落胆しつつ、同時に深雪の仮装も思い出して。
更に顔が赤くなった。
■深雪 > 七生の言葉に、僅かに笑んでその髪を撫でた。
散々に意地悪をして、遊んでいるが、それでも分かっているのだ。
七生はきっと、ここから離れようとはしないだろうということ。
そしてそれがいつしか、深雪にとっても居心地の良いものになっていること。
「ふふふ、信じてるわ…でも念を入れて、首輪は用意しておこうかしら。
そうすれば、来年のハロウィンには、小さな狼さんを捕まえるのに使えるじゃない?」
初めは、そう長い時間にはならないだろうと思っていた。
可愛い人間を拾った、くらいの、軽い気持ちでしかなかった。
「…………。」
自分で、来年のハロウィン、と口に出して、ふと、自分の手首のリボンに視線を落とした。
無意識に、ずっとこの穏やかな暮らしが続くことを願っている。
けれど一方で、力を封じ込めたこの呪縛から逃れたいという気持ちは、常にある。
七生は、いつか、このリボンを解いてくれるのだろうか。
■東雲七生 > 顔を赤くしたまま無言で撫でられ続けていたが。
来年の、と聞くと少しだけくすくす笑って顔を上げた。
「もう今年だよ、深雪。
それとも今年のハロウィンの事はもう決まってるの?」
一方的にからかわれるのも癪だったので僅かな言葉の綾でも揚げ足を取る。
それが裏目に出る事なんて分かりきってはいるのだが、そこは七生の男としての矜持に関わるのだ。
が、すぐに深雪が自分以外と目を向けている事に気付くと、その視線を辿ってリボンを見る。
「それ……深雪が自分で巻いたってわけじゃ、ないんだよね?」
■深雪 > 「……そう言えば、そうだったわね。」
揚げ足を取られれば少しだけ不満そうな表情。
でも、こうやって言い合えるようになったのも、距離が縮まった証だろう。
今の一言で今年のハロウィンは首輪装備がほぼ確定してしまったのだが、それはまた別のお話。
少なくとも、すぐリボンに話題を移したことで、この場での反撃は回避できたようだ。
「そうよ……これを巻いたのは貴方と同じ、人間の男の子。
“あの子”は、本当の怪物だった私を、怖がらなかったわ。」
七生の言葉にそうとだけ答えて、昔を懐かしむように、目を細めた。
その瞳には“あの子”と呼んだ人間への感情が渦巻いているのだろうが、視線を逸らしているから、七生からは良く見えないだろう。
■東雲七生 > 「人間の……男の子。」
少しだけ目を丸くしたが、少女が“子”と言っていても実際の年齢が子供であったかは分からない。
その人間と、深雪がどのような関係であったのか、気にならない訳では無かったが、
表情から感情が察せれない上に、目を合わせる事も出来ず、踏み込んで良いのかどうか七生は判断に困った。
「……そう、そっか。
でも、何て言うか……好意的に着けたってわけじゃ、無さそうだけど。」
狼に変化した際は、そのリボンが深雪の身を灼いていたことを思い出す。
そのリボンは魔法や魔術に関しては素人の七生が見ても、深雪にとって害である事は明白だった。
■深雪 > 「そうよ、貴方に、少しだけ似てたかしら。
……背はもっとずっと高かったけど。」
くすくすと笑って七生へ視線を向けた時には、感情は殆ど覆い隠されていた。
それは七生を気遣ってのことなのか、それとも、彼女の高いプライドがそうさせたのか。
いずれにせよ、これ以上踏み込むかどうかは七生に任せられるようだ。
「そう……その子は、これで私を縛り付けて力を封じ込めたの。
私が人間を襲わないように、世界を壊さないように。」
七生に、右腕を差し出した。
手首に巻かれたリボンは可愛らしいデザインだが、手首には僅かに、焼けたような痕が残っている。
引っ張れば、このリボンは簡単に外れそうに、見える。
「…人間なんかを信じた私が馬鹿だったのよ。」
そんな言葉を溢す深雪は、どこか、寂しそうだった。
その表情や声からも“あの子”と呼ばれた人間との関係が、想像できるかもしれない。
■東雲七生 > 「うー……」
前にも言われた気がする。
そんな心の声を表情に載せて小さく唸り声を上げる。
しかし口を挟むことはせず、終始黙ったまま深雪の話を聞き、そしてじっとリボンを見つめた。
その人間は、何を思ってこのリボンを深雪に巻いたのだろう。
本当に人間を襲わないように、それだけが目的だったのだろうか。きっともう、それを本人に確認する事は出来ないのだろう。
そして、深雪を見る。
リボンによる物理的なダメージ以上に、彼女の心も傷を負ってるだろう事は容易に、というほどでもないが、伝わってきた。
「ねえ、深雪。
……深雪が嫌じゃ無かったらさ、その……もっと聞かせて。その、人間の、こと。」
■深雪 > 「あら、でも七生の方が可愛いわよ?」
その発言はフォローになっているのかどうか。
可愛らしい唸り声を上げる貴方を、深雪は優しく撫でた。
「そうね……もう、どれくらい前の事か覚えてもいないけれど…。」
七生の言葉を聞いて、深雪は小さく頷いた。
過去を思い出すように、遠くを見る。
「前にも言ったかしら、私は世界を終わらせる怪物。
貴方には悪いけど、人間なんて蟻みたいなものだったわ。
勝手に増えるし、巣を踏み潰して遊ぶくらいしか、価値なんて無かったの。
……たまに、抵抗する子たちも居たけど、蟻に噛まれても痛いなんて、思わないわよね。」
当時を思い出して、くすくす、と笑う。どれほどの“蟻”を踏み潰したか分からない。
まるで遠いどこかの物語のように現実味が無いだろうが、きっと、嘘ではないだろう。
「けれどあの子は違ったわ……私に、初めて、怪我をさせた。
でも、私を殺そうとなんてしないで、怪我の手当てをしてくれたわ。
多分あの時、初めて“人間と話した”んだと思うの。」
■東雲七生 > 「別に可愛くなくて良いしっ!!」
そういう事を言ってるんじゃない、と口をへの字にして反論した。
しかし自分を撫でながら過去を語り始める深雪を見て、そっと口をつぐむ。
何度か聞いてる深雪の本当の姿。
見たことは無いけれど、世界を終わらせる、なんてことを冗談でも無くさらりと言えることからも相当な存在だったのだろうと思う。
「怪我の手当てを……」
小さく反芻して、先を促す様にじっと深雪を見つめた。
■深雪 > 可愛い可愛い。なんて、これ見よがしに七生の髪を撫でる。
今の深雪の姿や行動を見ていれば、冗談としか思えないだろう。
「私を殺そうとする人間はいくらでも居たけれど…
…私に怪我をさせた人間も、私の手当てをした人間も、あの子だけだったわ。
だから、あの子だけは踏み潰さずに、取っておいたの。いつでも遊べるように。」
「……そのうち、蟻を踏み潰すより、あの子で遊ぶ方が楽しくなってきたの。
多分私は、あの子のこと、気に入ってたんだと思うわ。
それで、出会ってから3年くらい経った頃かしら……あの子は、珍しく私を呼び出して……。」
そこまで語って、表情が曇る。
「……私にプレゼントがあるとか言って、このリボンを結び付けたの。
それが、力を封じるリボンだと気付いたときにはもう、遅かったわ。」
右腕のリボンに視線を落としてから…ぐっと、手を握りしめて、
「だから、復讐してやった。
ずっと、壊さないでおいてあげたのに…私を裏切ったから、私はあの子をバラバラにしたわ。」
そこまで語ってから、ふぅ、と息を吐いて、
あんまり楽しい話じゃなかったわね。と、肩を竦める。
■東雲七生 > 「それは……」
むぅ、と押し黙る。
やはり深雪の話だけではその人間の真意を読み取る事なんかできない。
しかし、同時に払拭できないものも七生の心の隅にあった。
そしてそれを誰に確認すべきなのか、そもそも表に出して良い物なのか少しだけ悩み、
逡巡した結果、一度だけ深雪の手首に巻かれたリボンを見遣ってから口を開いた
「それは、……うんと……深雪と、もっと対等に接したかったんじゃ、ないのかな。」
気持ちは、少しだけ分かる気がする、と。付け足して。
■深雪 > 「……私と、対等に?」
七生の言葉を聞いて、小さく、そうとだけ繰り返すように呟いた。
驚いたというほどではないが、その言葉は意外だったようで、
「私には分からないわ。」と、そう小さく息を吐く。
それから少し考えて、
「ねぇ……貴方も、私と対等に接したいって、思ってる?
私が“人間”だったらよかったって、そう思う?」
■東雲七生 > 「そう、対等に。……対等、っていうのかな。
何か違う気もするな……ともかく、何だろう。もっと一緒に居たかったんじゃないかな。」
少し考え込む様に目を閉じてから、息と共に小さく呟いた。
きっと、深雪に怪我を負わせるほどの力を持っていたのなら。
人間の中でも、浮いてる存在だったのでは、なんて勝手な想像が脳裏に浮かぶ。
どちらかと言えば、非力な人間である七生には到底理解の及ばない存在なのだろうけれど。それでも。
「ん? 俺……?
……ううん、深雪が人間だったらよかったのに、なんて思ったこと無いよ。
まあ、何と言うか、女の子じゃ無かったら、と思った事は正直何度かあるけど……。」
主に居候し始めの頃に、と苦笑しつつ呟いた。
■深雪 > 「そうなのかしら…でも、私はあの子を壊してしまったわ。
人間の巣を踏み潰すこともできなくなったから…それから私はずっと、眠ってたの。
あの子が居なかったら今頃、私はその世界を壊していたかもしれないわね。」
あの時、もし、あの子の話をちゃんと聞いてあげたら。
もしかしたら違う結果になっていたのかも知れない。
けれどきっと、どうやっても、それは無理な話だっただろう。
「……そう、良かったわ。
こんなリボンを結ばれても、私は人間にはなれないわ。」
苦笑しつつそうとだけ言ってから、七生の付け加えた言葉に、笑って、
「あら、貴方、そういう趣味だったの?」
冗談っぽく笑いつつ、少しだけ身を寄せた。
深雪の体温は、いつもより少しだけ、温かく感じるかもしれない。
■東雲七生 > 「……んー、あくまで多分、俺の想像の話でしかないから良い違いに言い切れないけどさ。
そっか……まあ、そういう存在だったんでしょ、深雪は。」
だったら、それも仕方ないかもしれないけど、と僅かに目を伏せて。
でも今は違う、と再び顔を上げて
そしてこちらを笑っている深雪に少しだけ拗ねたように頬を膨らませた。
「男が良い、じゃなくて女の子じゃ無ければ良かったのに、って意味。
別に家に居る間は狼の姿でも俺は一向にかまわなかったし!」
そしてそれも、今は違う。
身を寄せてきた深雪に、こちらからも寄り添って。
ふにゃ、と少し気の抜けた笑みを浮かべた。
■深雪 > そういう存在だった。過去形でそれを語られれば、複雑な心境ではあった。
いつかまた、このリボンを外してくれる存在が現れる。
そう信じてもいたし、それが、七生であれば良いと思った自分も居る。
だが、もしかしたら、七生はそれを望まないのではないか。
「女の子じゃなければよかった…っていうのも、変な話ね。
…今でもそう思ってるのかしら?」
けれど今は、こうして身を寄せ合えるこの関係を、壊したくない。
いつか、七生か、他の誰かが、このリボンを解いてくれる日まで。
この暖かい場所が、私の居場所。
か細い指が貴方の頬を撫でる。
深雪もまた、優しく温かな笑みを浮かべていた。
ご案内:「異邦人街住宅街:深雪の家」から深雪さんが去りました。
■東雲七生 > 「そもそも人間の女の子としての自覚なんて殆ど無かったじゃないか!」
あるいはそれを言い様に利用して自分をからかっていたか。
一度声を上げてから、続く問いに押し黙ってしまう。
はいともいいえとも言えず、言わず。そのまましばらく黙り込んだまま、
「………っ。」
ふるふる、と僅かに首を横に振った。
そりゃたまには思うこともあるけど、
と言い訳がましく呟いたりもしたが、正直なところは態度に示したとおりである。
頬を撫でられ、擽ったそうに身を竦める。
恥かしいけれど、居心地が良いのは間違いない。間違い様が無かった。
それでも、恥ずかしい。
深雪の心境を察する事など出来ないまま、いつも通り、七生はされるがままに身を委ねていた。
ご案内:「異邦人街住宅街:深雪の家」から東雲七生さんが去りました。