2016/08/16 のログ
”マネキン” > 【フードの男が後ろに一歩足を引いた。
硬質な革靴の音が一本道の通路によく響く。】

聞きたいか、いや。
聞いて理解ができるか?

答えること自体に抵抗はないが。
口の軽い伝書鳩があちらこちらに吹聴して回るのだけは勘弁してもらいたいものだ。

そうだな。
姉妹には素質がある。
研究者としてはその先の答えが見たい。その際にあの姉妹の異能は不純物になる。

これくらいの答えが妥当で無難かな?
もちろん、全部を答えたわけではない。

(そして本当のことを言った覚えもない。
伊都波妹には告げたが、あの異能もまたおそらく我々には必要だ。
適合した細胞と、姉妹をああなるようにしてしまったあの異能こそが。
人か。人ではあっても、我々は……)

【解説に手を開く仕草をする。
もう一歩後ろ向きに踏み出す。革靴の音が響く。】

科学の分野に悪魔の領分なんて区切りをつけるのか。
君たちみたいな存在が言うと極めて強い意味合いを持つ言葉だな。

もちろん、だからといって人類は必ずその領域に踏み込むと科学者としては考える。
止めたければ文明を停滞させ神話の時代に帰還するしかない。

進歩は止められない。
その先に古臭い神々や魂といった概念は必要ない、と考える。


【通路の奥の明りの届かない暗がりに半ば踏み込む。
相手がこちら側に踏み込むことを警戒している。】


君が聞きたいことには満足かな。

蕎麦屋 > 「ああ、なるほど。
 まぁ、聞かれて口止めなければ基本喋りますからねぇ、私。」

問題ない、と思う範囲であるが。
まぁ、そのあたりの自覚はある。赤い帽子は取り出しかけたがやめた。

「まぁ、そのくらいはわかるんですよ。
 理解はしませんけどね。……ふむ。」

何かの結果のために素質のある姉妹が欲しい。
そこまでの推察は――可能。そして。続いた言葉には。

「あら、人の領分を語る身分にしては随分酷い言いぐさではありまえん?

 赤と白の筋肉は人口のセラミックに取って代わり。
 人は試験管から生まれて、兵士は工場から吐き出される。
 人に対する戦術のアドバンテージは失われ、尊厳を賭けた戦争は経済を回す無機質なモノへと取って代わるかもしれないですね?

 まぁ、モノがモノなので――ほかの古い神に比べれば、その辺りの理解は深い方だと思いますが。
 そちらの本分が結実すれば、神も悪魔も古い概念になる、のかもしれません。

 まぁ、その時はただ立ち去るのみ、ですけれど。」

見送るつもりだろう、動く気はないが。

「そんな人がどうとか、神がどうとか、仕様もない話は今はどうでもいいのですよ。
 貴方は、何が、したいのか。と聞いたのですけどね。」

答える気もなさそうだ。
溜息一つ。乗ってきた出前用のカブに乗り込んで、キーを回す――

”マネキン” > ……願いをかなえる。
そのためにあの姉妹が鍵になる。

頼めば、かなえてくれるんだったか?

【ボンヤリとした明りの向こうで、フードの奥の口元の端を釣り上げた。】

とりあえず今日はここらで、店じまいだ。

【”マネキン”が何かを操作し、何かのスイッチが起動する。
蕎麦屋から見て側面の部屋につながる鉄扉とベンチの向こう側にシャッターが下りた。】

滑り込むことはお勧めしない。
それで死ぬとも思えないが。以前の地下室を処分したとき、どうしたか。覚えていないとは言わないだろう。

【シャッターの向こうで何かが炸裂し通路が崩れる音が聞こえる。
さらに施設の奥へと向かう通路が封鎖された。”マネキン”がその場から退場する。】

【一本道の通路は行き止まりになった。戻ることはできる。
行き止まりには鉄の扉とベンチが切れかけた薄暗い明りに照らされている。】

蕎麦屋 > 「まっとうであると、私が把握できる人の願いであるなら。
 もっとも万能でも全知でもありませんので、効果のほどは保証しかねますけれど。」

二度目のスタートで、エンジンが息を吹き返す。
ぼへぼへ、と気の抜けた排気音が狭い通路に響き渡った。

「はい、お疲れ様で。
 伝言の方は確かに受けたわまりましたから――都合があえば、此処へ来るかもしれませんね。」

伝える方は保証するが、その結果は保証しかねた。
いつものことながら用意周到に色んなもの仕込んでいるな、と降りてきたシャッターには感心などしつつ。
降りてきたら、次はどうなるかもわかってはいても。

「……せめて出るまでは待ってほしかったですけどね――。」

爆破の余韻、粉塵をモロに被ります。
爆風はどうということはないが、粉塵は面倒である。

”マネキン” > 【遠くに爆発の振動が響く。
古びた通路に埃が舞う。シャッターの向こうではわずかな水音もした。】

【側面の鉄扉の立て付けがわずかに歪んで開いている。
扉の入り口のプレートには『資料室』と擦れた文字で書いてあった。】

【来た薄暗い通路をそのまま戻れば落第街の隠蔽された入口に戻る。】

蕎麦屋 > 爆音に続けて聞こえた水音に、向こうの様子は窺いしれた。
前回もそうだが、構造をうまく利用した爆破をするものだ、まったく、

それはともかく――

「さて――」

ベンチと、ゆがんだシャッターと、鉄の扉。
態々此処を選んでいた、ということは漁ってくれということだろう。
一度は掛けたエンジンだったが。

「もう一仕事していきますか。ね。」

カブから降りて、ゆがんだ鉄の扉の前へ。
一般人なら開けるのにも難儀しそうなものだが、そこは蕎麦屋。
歪んだ扉の隙間に手をかければ。扉をひっぺがそうとするだろう。

”マネキン” > 【鉄の扉の向こうにはさほど広くはない部屋がある。
棚に研究資料と思しきファイルが並んでいるが、ほとんどが朽ちて劣化し読めなくなっていた。】

【部屋の奥にデスクがあり、そのそばの床にかなり時間のたった遺体が一つ残されていた。
白衣を着ており、傷の痕跡がある。デスクの上には日記らしい古びた本と汚れた資料が残されている。】

【霊魂の気配がある。】

蕎麦屋 > ひっぺがした扉は横に立てておこう。
まだまだ道中蹴散らした獣の気配もすることだし、手早く中を見ていこう。

――部屋の中はひどく埃っぽい。
書架らしき棚には資料のように見てとれる紙の束があるが。
どれも劣化しきって――いくつかの束に至っては、先ほどの衝撃で崩落もしているだろうか。

その棚のさらに奥には机と――傍の遺体。
机の上のモノも気になるが。

「――?おや。毎度。」

死体の傍にたたずむ相手に、気楽な様子で、声をかけた。
生きているか死んでいるかは些末なこと。――聞こえるかどうかは、知りはしないが。

”マネキン” > 【魂が形をとる。
白衣の女性が振り返り、口を開こうとする。】

「あ… あぁ あ」

【狂気に犯されてはいない。
言葉を紡ぐことに戸惑っていた。】

蕎麦屋 > 視えた形は、女性か。足元の死体の様子と見比べて確認を取りつつ。

「毎度、聞こえてます?蕎麦喰います?
 ――まぁ、またこんな人の来ない処で。話し相手くらいにはなりますけど。」

聞こえてはいるようだ。
とりあえずは話しかけつつ――落ち着くのを待とうか。随分と戸惑っているようであるし。

”マネキン” > 【落ち着いてはいる。
蕎麦という言葉にはうろたえている。】

「……いえ。その、食べられないと思いますしおなか減りませんし…。
見え、るんですか。ずいぶんとずっとここにいたので、話し方を忘れてしまっていて。」

【困惑している。
容姿については遺体の劣化が激しいためわかりづらいが、服装などから判断もできる。
霊魂となった彼女はその遺体の人物だった。】

蕎麦屋 > 「ああ、ジョークですジョーク。
 流石に食べれないもの無理に食わせようとか思いませんし。」

ひらひらと手を振る。

「しばらく人の来た気配もありませんし、仕方ない話ですね、うん。
 それにしても。なんでこんな処で死に損なってるんです?此処が何処かも知りませんけれど。」

この極東に伝わる、地縛霊、というやつに近いのだろうか。
そちらの伝承は疎いのだが。この場所の管理か、記述者か。そういう類の人物だろう。

”マネキン” > 【幽霊が胸をなでおろす。】

「ジョークにしても、ちょっと。」

「死んだ、と思うんですけど。
ここは封鎖された研究施設です。…  、したのが悪かったのかなぁ。
ねえ、なんかこう、助けてもらえませんか…。」

【幽霊は涙をためて目尻を下げる。】

蕎麦屋 > 「どういう要因で留まったのかは、少しばかり分りかねますね。
 で、そんな涙ながらに訴えなくても、ほっぽって帰りませんから。」

幽霊にまさか泣かれるとか中々斬新です。

「で、助ける、の内容にもよりますけど。
 連れ出すだけでしたら、なんとか――なんとか……うーん?」

首を傾げて、部屋の様子をもう一度。今度は『視て』みる。
ほかに何かの要因があって残ったものであれば連れ出すのは難しいし。
物品に起因するならその物を持ち出せば、この人もついてくるだろう。
特に何もなければ――それこそ連れていけばよいだけの話。

「――それにしても、神も悪魔も、魂すら不要と言い切った相手の居た場所で霊魂。
 なんというか皮肉ですね?」

ひとりごちた。

”マネキン” > 【幽霊が涙をたたえたまま顔をほころばせた。】

「ありがと…ございます。
留まるつもりがあった、わけじゃないんですけど。」

【移動できない明確な原因は見当たらない。
物品に起因するほどではないが、放置されてしまった遺体と、彼女の日記が最も関係のある物品のようだ。】

「もしかして ええと… 彼ら、でしょうか。名前はずいぶんと一人でここにいたので、忘れてしまいました。
でも、感染が施設に広がったとき、私たちは二つの組に分かれたんです。」

「魂を、転生を信じた組と、まったくそういうものを信じていない組に。
彼らがどういう道を選んだのかは、私たちは知りませんが…。もしかしたら私みたいに、予想しなかったことになってるのかもしれませんね。」

【どこか饒舌にしゃべる。
少し気分が不安定なようだ。】

蕎麦屋 > 「そうでしょうね。普通は留まりたくても留まれませんから。
 あー……遺体は埋葬するとして。」

視たところ、何をするにせよ、問題はなさそうだ。
と――ひとりごちた言葉に反応したのか、急に饒舌になった様子に。

「彼ら――というのは、ふむ。
 その感染、というのはディアブロ・ウィルスとか呼ばれてるシロモノで合ってます?」

此方は冷静に、確認はしておこう。
他にも感染するようなものがあればうかつに物も持ち出せない。

「まぁ、その関係者と今、そこで話し込んでいましてね?
 そういうことを言っていたのですよ。

 ――とりあえず、転生だ丈夫だは専門家に任せるとして。連れ出す分には問題なさそうですけれど。
 どうします?」

”マネキン” > 「埋葬…お願いします。
こう、朽ちていくのを見せつけられる、というのも…。」

【足元に視線を向ける。すぐに目をそらす。】

「固有名詞はもうおぼろげですけど、たぶん…その研究をしていました。
施設内に感染が広がって…出入り口が封鎖されて。
ウィルスの生存能力はさほどでもないんですが、システム上今でも封鎖された通路がいくつも存在すると思います。」

「できれば、早めに連れ出してもらえると。
成仏できたらしたいですね…。」

【すがるように手を伸ばす。
魂であり実体はない。通常ならばすり抜ける。】

蕎麦屋 > 「あー……まぁ、なんというか。
 うん、大変でしたね。もう大丈夫ですよ。」

出たのはねぎらいの言葉。
目の前で自分の腐敗していく様を見ていた、など。――よく、正気を保てたものである。

「感染経路を断つために封鎖。残ったもので意見が分かれた、と。」

大体の事情と、死に至った理由には、小さくうなずいて。

「連れ出す前に――申し訳ないのですけれど。
 覚えている範囲で結構。この部屋で、そういう資料に使えそうなもの、あります?」

延ばされた手に、手を重ねた。
霊魂にもわかる、確かな温もりが感じられるかもしれない。
聞いたのは、単純に――門外漢の自分が選定するよりは、霊とはいえ彼女に聞いた方が確実だし、早い。

”マネキン” > 【幽霊の目から涙が流れる。形なく散って儚く消える。】

「暖かい、ですね。」

【問いかけられて室内を見回す。】

「あまり…資料室の一つに過ぎなくてデータをまとめたものばかり、でしたから。
こうやって残って話せると思っていなかったので、日記を遺言代わりに残してはあったんですけど…その、あんまり見ないでもらえると。
……そういえば、一度誰かがその資料を置きにきました。めくることはできませんでしたが…何かをまとめたもの、だったような。」

【机の上の資料を指さす。】

【資料の中にはこのように書いてあった。後半の一部ははっきりとよめない。
「資料・初期段階の汚染洗浄実験

ディアブロ・ウィルスは宿主の細胞に擬装潜伏すため通常の抗体では対処できない。
ただし同時にこの状態の細胞だけ取り出しても感染性や侵食性を発揮することは無いことが判明している。

先日の解剖によってこの状態のウィルスに対し指令を出す器官が感染者の視神経下部に形成されていることが判明した。
この脳神経に酷似した指令器官は移動、擬装、そして抵抗まで行うため外部からの検査や通常の手術で発見し取り除くのは極めて困難と見られる。
鎮静手順は       を使用した場合に七割の成功率が     

   適合者をドナーとして使用した場合


4度の生体実験を行った結果、侵食ステージ2までの感染者であれば



我々には手遅れと言うことが判明しただけだったが、治療施設はそのまま維持することにする。

」】

蕎麦屋 > 「まぁ、貴方みたいなのを連れまわすのがお仕事でしたから。
 大船に乗ったつもりで安心していただいて結構ですよ。」

えへん、と胸を張ってみたり。
着ているTシャツは蕎麦屋とでかでかと書いてあるので信憑性はどこまであるか。

「では、日記も遺体と一緒に埋葬いたしましょうか。
 ――置きに来た?資料を?もしかして、目深にフード被ってませんでしたか?」

片手は彼女の手を握ったまま。
空いた手でぺら、ぺらと古びた資料をめくり、目を通す――

「通常は――か。なるほど。
 利用した『何か』は読めないのが困り物ですけれど。」

後半は意図して読めなくしてあるか、風化してしまったか――しかし。
うちの主人らが探していた内容の端緒にはなりそうである。

”マネキン” > 「やっぱりそういうひとだったんですね。
なんだかこう…こうなってから、そういうのがわかるような気がするというか。」

【霊魂の彼女は素直にうなずく。
フードを被っていたかという問いかけにも頷いた。】

「たぶん…そう…。
役に立ちそうですか…?」

蕎麦屋 > 「今は開店休業ですけどね。
 ――ん、これだけでも十分に。いえ、無理難題の上に、昔を思い出させてごめんなさいね。」

置きに来たのは、ほぼマネキンで間違いがない。
――となると、余計に行動の意図が読めないのではあるが。

一通り目を通せば、資料は、横に置いてあった日記と合わせて片づけて、仕舞う。

「以前にも適合者が居たのか。
 ――あの話だと今までいなかった、という話だったけれど。」

後半はほとんど読めなかったが。
マネキンが知らない、適合者が居る可能性――は、少し探ってみることとしよう。

「じゃあ、帰りましょうか。
 ちょっと待ってくださいね――」

彼女の手をいったん離し――手品のように、大きな布を一枚。
遺体の横に広げれば、手慣れた様子で布の上に遺体を寝かせ、包み込んでいく。
死して日の経った死体はこうでもしないと運び出せない。

”マネキン” > 「…少し、喋りつかれました。」

【あとは静かに、霊魂は遺体についてついていく。
日記は彼女の記した記録と信仰が残されている。】

蕎麦屋 > 「はい、お疲れさま。
 ――じゃ、逝きましょう?」

ついてくる、そのことを確認して。布に包んだ遺体を抱えた。
流石に遺体を抱えては乗れないか、と出前カブは片づけて。

――帰りに、比較的元気な、飛びかかってきた獣を一匹、つかみ取る。
捕まえてどうこうするつもりもない、が。気紛れだ。

日記の中身は、読まない。
彼女がそうして欲しいと言ったからで――宣言の通り、遺体と共に、埋葬した。

ご案内:「>落第街、地下施設書類倉庫」から”マネキン”さんが去りました。
ご案内:「>落第街、地下施設書類倉庫」から蕎麦屋さんが去りました。