2015/10/12 のログ
■クローデット > (…なるほど、陰と陽の対立関係は、どこまでも無限に細かくしていく事が可能…というわけですか)
少し頷きながらメモを取る。
そして、「更に分けてみる」ワークのところで…少しペンを動かす速度が遅くなった。
(同じ属性でも…地よりは、動きのある水の方が陽に近そうかしら?
風と火では…錬金術の分類に沿わせて構わないのであれば風の方が陰に近そうですが…)
少し、考え込んでいる。
■クローデット > 少しためらいがちにした後、手を挙げる。
「何度も申しわけありません。
西洋魔術の四大元素の分類について考えていたのですが…
陰、陽それぞれに属する複数の傾向について、どれの優先順位が高い、といったことはございますか?
風と火を比較してみようと思ったのですが、それらに含まれる陰の傾向を探すのが少々困難で…」
■相楽 満 > 『異能:陽の陽 パワー⇔繊細さ 陰の陰』
ペンで唇をなぞりながら考える。
これでさらに分けるってなると。
『異能:陽の陰 半分ちょっとのパワー⇔半分より少な目で繊細 陰の陽』
(……単純すぎっかな)
これを先生に見られたら怒られそうな気がする。
だが多分、これくらい簡単でも怒られないだろ、と高を括る。
■浅田扁鵲 >
「風と火を比べたらか……」
【問われた内容には、すぐに答えがでたが、直接答えを言わないようにするには、と頭を悩ませる】
「まあ四元素の考え方にはそれほど明るくないが、自然現象の火と風を例に見ると、風、つまり空気の流れは火によって作ることが出来る。
だが、風が火を起すことは出来ない。消すことは出来るかもしれないが、その働きは『火が発生してから、風が吹いて消す』というどちらかと言うと受動的な働きになるな。
はっきりとした特性で分けられない場合、比較したい対象同士がどう影響しあうのかを比べると、分けるヒントになると思うぞ」
【さて、十分な返答になっただろうか。
言葉をとめれば返答に対する反応を伺った。
そして幸いなことに、浅田は少年のノートの内容まで伺えるほどの視力は持っていなかった。
とはいえ、それぞれに考えさせている以上、どんな内容で合っても怒るという事はないだろう。
……まあ、苦笑いの一つも浮かべるかもしれないが】
■クローデット > 「両者を比較し難い場合には、互いの影響を考えれば良いのですね…ありがとうございます」
そう返答をして、分類を作っていたノートの「陽中の陽」に「火」を、「陽中の陰」に「風」を書き込む。
(…こうしてみると、錬金術との共通性が際立ちますわね)
真剣な表情でそんな事を考えていたとか。
■浅田扁鵲 >
「ああ、相互に影響しあうのが陰陽だからな。
……さて、そろそろいいか?
これで一先ず、陰陽の分類についてはこんなところだ。
次は『陰陽の対立』と同じような、陰陽の相互関係について説明する」
【画像は移り変わらないが、そう告げると、陰と陽の関係性について話し始めた】
「ここまでの話で、陰陽は相対的なものであるという事は、分かってもらえたと思う。
陰と陽は、どちらも単独で存在することは出来ず、陰は陽、陽は陰を存在のよりどころにしている。
例えば方向で、上は陽、下は陰とされているが、上が無ければ下は無い。
それと同様に、下が無ければ上もなくなってしまう。
陰も陽も、常に一方は、もう一方の存在があることによって、自己の存在を確立しているわけだ。
もちろん、陰陽の対立も制約も、陰と陽の両方があってこそ成立する。
この二者の関係を、『陰陽の相互依存』と言う。
どうやっても切って離せない依存関係……人間で考えると非常に悩みのタネになりそうな関係だなあ」
【などと苦笑してしみじみ言ってみるが、もちろん冗談である。
……足元のトカゲは、飽きたのか浅田の足にぴったりとくっついて寝息を立てていた。
学生の様子を見て質問がないようなら、画像が切り替わり『陰陽の消長平衡と相互転化』という題のものが映されるだろう】
■相楽 満 > (えーとつまり……)
両方ないとダメ
『パワー⇔繊細さ』
わかりやすい。
パワーしかないと、確かに日常生活もままならないわけだ。
逆にパワーが無いと、いつかの病の時と同じようになってしまう。
こっちはわかりやすくなったな、とノートの追記した。
■浅田扁鵲 >
「しかし、ここまでの、対立、制約、依存と言う関係性は、決して不変の状態じゃない。
それは陰陽が相対的な概念だという事からも想像に難くは無いだろう。
陰陽は常にその関係を、バランスを変化させながら存在している。
この関係を、『陰陽の消長平衡』と言うんだ」
【手が挙がらないのを確認すれば、次の話にへと移っていく。
切り替わった画像の赤い『陰消陽長』という文字と、青い『陽消陰長』という部分をしめした】
「この陰陽の消長と言うのは、陰が少なくなり陽が多くなる『陰消陽長』と、陽が少なくなり陰が多くなる『陽消陰長』という、陰陽の量的変化の事だ。
こうした変化を絶えず繰り返すことで、陰陽は相対的な平衡を維持している。
この消長という変化は必ず起こるもので、この変化によって事物の移り変わりが説明される。
この図のように一年や一日に例えると、夜中から正午まで、冬至から夏至までが『陰消陽長』の変化。
正午から夜中まで、夏至から冬至までが『陽消陰長』の変化となる。
前回話した、陰と陽の気が四季を創ると言うのは、この陰陽の量的変化によるものだ。
しかし、この消長を見ると一見して平衡が取れている、バランスが取れている状態には見えないかもしれない。
だがこの消長の1サイクル、図のように一年を通して見て見れば、『陰消陽長』と『陽消陰長』の過程で、暑さと寒さが相対的に平衡を取っている事が分かるだろう。
この陰陽の消長という関係から伺えるのは、事物に不変は無く、その変化も含めた上で平衡を維持しているということだ。
……さて、この消長に関して質問はあるか?
無ければこれを踏まえて次の関係性に進むぞ」
【そう確認を取るように言って、様子を伺った】
■クローデット > スライドに映された陰陽が移り変わる様を示す図を見る。
(移り変わり…けれど、変化の上でも均衡は維持されている。
そうなると…世界の『外』から来たもの達は、「均衡」にどう影響を与えているのかしら?)
もちろん、表に出せる質問ではない。
真剣に講義を聞いている態度を崩さず、適度にメモを取りながら教壇の方を見つめている。
■浅田扁鵲 >
「……質問はなさそうか?
ちなみにこの量的変化の関係だが、その比率は容易なことじゃ変わらない。
例えば、陰陽を丘の両側面と説明したが、その丘に外から土を持ってきて高さを変えたとしよう。
だが、それによって陰陽のバランスが崩れることは無い。
なぜなら高くなったところで、形が変わったところで、日の当たる陽の側面と、日が当たらない陰の側面は同じように増えるからだ。
さあ、このあたりで量的変化の話は切り上げて、次は質的変化に移ろう」
【そう締めると、先ほどは無視していた黄色と水色の文字。
『転化』と書かれた部分を示した】
「さて、陰陽の変化は、この相互の消長による緩やかな変化だけじゃない。
一定の条件下では、陰陽それぞれが正反対の方向に転化することがある。
陰が転化して陽になり、陽が転化して陰となる。
この変化を『陰陽の相互転化』と言う」
【赤いポインターで、図の、丁度陰と陽が切り替わる部分を示しながら説明していく】
「陰陽消長が量的な変化だったが、これはその量的変化の結果による『質的な変化』だといえるだろう。
陰陽の対立している双方は、常に対立する側に転化する要素を持っている。
そして新しい事物が生成されるときは、同時に消滅する要素を持っていて、事物が消滅するときは、新しい事物を産生する要素を持っているとされているんだ。
古典では『変化』とは何かについて、事物がその質を変えずに発展する事を『変』、質の異なる新しい事物に生まれ変わることを『化』、と述べている。
……と、ここまで着いてこれてるか?
消長平衡まではイメージも出来るかもしれないが、転化は少し難しいからな。
これからこの『転化』が起きる条件を話していくが、ここまでで分からない所があれば今の内に質問してくれ」
【転化の内容が理解しづらいだろうことを見越して、確認するようにたずねる。
幾人かの生徒が難しそうに眉を潜めているのを見て、もっと分かりやすく説明できたんじゃないか、と心の内で少し悩んだ】
■クローデット > 『比率は簡単には変わらない』という話に、すっと目を細める。
他の表情は変化させないように努めていたので、クローデットの中に渦巻く感情を読み取るのは難しいだろう。
それでも講義は真剣に聴いていて、メモを取る。
『量的な変化→「変」
質的な変化→「化」
(古典の表現では)』
そして、赤と青の矢印の横に「変」、水色と黄色の矢印の横に「化」と書き加えた。
質問などは特に無さそうである。
■浅田扁鵲 >
「よし、じゃあ条件について説明していくぞ。
陰陽がそれぞれ転化するには、図の上下にあるように『極まった状態』、つまり『極』といわれる状態になる必要がある。
「物極まれば必ず反す」と言って、陽が陰に転化するには、『陽が極まった状態』になる必要があるんだ。
これもまた四季に例えて説明するが、春から温かく『発展』していく気候は、夏に極点となって、それからは徐々に寒くなる『転化』となり、秋の涼しさは冬にかけて発展し冬の極点を向かえ、再び温暖へと向かっていく『転化』となる。
この一連の働きが『陰陽の相互転化』だ」
【消長の部分も含めて全体を示して、『転化』の仕組みを説明する】
「さて、この消長と転化の内容を踏まえて、最初の統一という関係に戻る。
ここまで聞けば分かると思うが、陰と陽は二つで一つの影響しあう『統一体』だったというわけだ。
どちらかが強まれば、また一方が弱まる。
けれどそれも消長や転化という関係性の一つであり、それによってバランスを取っている。
この相互に影響し合い変化し、時に制約し、時に補い合う関係性こそが『陰陽』だ。
『陰陽思想』について、私からは以上だ。
なにか質問したい事があれば、遠慮なくしてくれ。
無いようだったら、今日の講義はこれで終わりにするが」
【そう確認を取ると、黙ってゆっくりを視線をめぐらし。暫く教室の様子を眺めた】
■クローデット > お互いが補い合いながら、変化していく、二つで1つという「陰陽」の思想。
西洋でクローデットがいくつか学んだ魔術の思想と通ずる点も多かったが、それは今までクローデットが学んだものよりは随分流動的なようだった。
(「彼」が随分「温い」のも、こういった思想の影響があるのかしら…?)
この島で親しくしている人物を思い浮かべ、そんな事を考えながら、資料を確認して内容の整理に入ったところで…そういえば、前回の講義から抱えていた疑問を解消し忘れていたという、致命的なミスに気付く。
「…申しわけありません、随分前の内容の確認になってしまうのですが」
そう言って、手を挙げる。
「左が陽、右が陰という区分はどのような理由に基づくのでしょうか?
この世界の人間に限るのであれば右利きが多数派ですから、右の方が機能的であるように思われるのですが…」
■相楽 満 > (……つまり、怒ったり笑ったりして精神のバランス保つってことか?)
先ほどの性格の面から、喜怒哀楽の精神について考え始めた。
確かに死ぬほど怒ると笑いが漏れる人とかって居るな、などとズレた考え方。
結構難しいなぁ、と胸の内でぼやく。
さらに、本日何度目かの質問をする少女をちらっと見る。
なんか難しいこと聞いてるな、などと。
(……右利きって、頭脳が発達した人間に多いってだけじゃなかったっけ。なんか左脳が発達したから右手を動かす人が多いとかなんとか)
ぼんやり考える。口にはしない。
でも確かにそうなると、左右の区別は少し気になる。
真面目に聞こう。
■浅田扁鵲 >
「ん、そういえばそこを説明していなかったな。
左右の分類については、あの傾向だけじゃ不十分なんだ。
ここに関しては、まず大陸において前提となった基準がある」
【手が挙がると、忘れていた、とでも言うように答え、プロジェクターを消し、ホワイトボードに向かう】
「君は「君子南面す」という言葉を聞いたことがあるか?
大陸における帝は、南に向かって座るものだという意味の言葉だ。
かつての大陸における文化、思想で何より重要な位置に存在したのはこの帝だ。
だからこの帝を中心に考えて、言葉通り南に面して座ってもらうと、こういう図になる」
【上を北、下を南にして東西南北を書き、その中心に南を向くように座った人を上から見たような絵を描いた】
「さて、これを見てもらえれば一目瞭然といったところだが。
大陸で最もえらく貴い方である帝を中心に見た場合。
帝の左手が東に向き、右手が西を向いているだろう?
日は東から昇り、西へ沈む。
つまり帝の左手から日が昇り、右手側へと沈んでいくという形になり、左と右の陰陽が決められたんだ」
【『そしてもう一つ』と、今度は正面を向いて立った人間の図を書き、胸の中心のやや左よりに赤い●を書いた】
「これは人間だが、人間の心臓はやや左よりに存在するな?
東洋医学において、心臓は五臓の中でも『陽中の陽』とされる部分だ。
つまり、心臓が偏っている左側が陽である、という説も存在する」
【そして、さらに『帝』と『心臓』と字を書いて、それぞれを円で囲った】
「かつての大陸の文化で最も大事なのは『帝』であり、体の中で最も重要な臓器は『心臓』だ。
左右は、こうした最重要視すべき存在を基準に置いた上で、陰陽が決められたんだろう。
まあこれに関しては特殊な例だから、疑問に思って当然だな」
【と、左右の陰陽に関して説明すると、クローデットへ再び目を向ける。
まだ疑問が解けていないようなら、それにも答えるつもりで顔色を伺っていた】
■クローデット > クローデットは日本人ではないのはもちろん、東洋思想が形を成した地である「中華」との縁もない。
当然、「君子南面す」という言葉も知らなかった。
ホワイトボードに解説しながら図を描き、説明して行く講師。
そして、補足で説明される心臓を根拠にする説。
それらを聞いて、クローデットの疑問も無事氷解したようだ。
「ありがとうございます…やはり、思想の生まれる場所の歴史・文化を問わずして読み解く事は出来ませんものね」
そう言って、花のように優美な笑みを浮かべるだろう。
■相楽 満 > 別の生徒の質問への回答が思ったより腑に落ちた。
なるほど、とノートにさらさらと書き足していく。
こういうところの着眼点が自分には足りないな、などと自虐しつつも、得た知識は飲み込んでおく。
そこでふと思い出す。
(肝臓って確か人間の腹……右側だったよな。
臓って陽なら、右側にあっていいのか?)
ほとんどの臓器が左右対称な中で、心臓が左にあるのはともかく、肝臓が右側というのは一体。
なんとなく、自分の横っ腹を撫でながら考える。
■浅田扁鵲 >
「そうだな、思想が生まれるにはまず文化が必要になる。
そうなれば自ずと、文化において重要視される部分が基準となりやすいんだろう。
そういった、『貴いもの』を基準に置いた視点というのは、多くの思想で見られる。
その『視点』を考えてみていくと、その思想が『何のために』生まれたのかが見えてきて面白いぞ」
【そうして答え終えて教室をみれば、自分の腹をなでている少年が目に留まる。
それにうっすら笑ってみれば、またホワイトボードへ向かった】
「これは人体を書いたついでだから詳しくは説明しないが。
体の五臓を陰陽にわけると、心臓と肺が陽になり、肝臓脾臓に腎臓が陰になる。
一般に横隔膜より上の臓器を陽として、下の臓器を陰としたわけだな。
……さ、ほかに質問はあるか?」
【人体の絵の中心に横断するような線を引き、各臓器を書き加えた。
そして簡単な説明をすれば、次の質問が出てくるか待つように、また教室へ向き直る】
■相楽 満 > 「え、おっ」
思わず声が出たが、すぐに口をつぐむ
まるで自分の考えを聞かれたかのようにタイムリーな補足が入り、すごい顔をした。
しかしありがたい、ちゃんとノートに書き込んだ。
左右だけでなく上下で分けて考える頭が足りていなかった。
いい勉強になるなぁ、としみじみ。
満足げな表情である。
■クローデット > 西洋魔術の思想の根源にあるのは…恐らく、古代ギリシャ哲学だろうか。
講師の言葉を聞きながら、そんな考えに浸る。
質問は…そういえば、漢字の形の話が残っていたように思う。
しかし、漢字文化に生きている生徒の多数には関係ないだろうし、そもそも陰陽思想の本題ではない。
講義が終わってから尋ねに行くつもりで、とりあえず周囲を伺っている。
■浅田扁鵲 >
「……質問はなさそうだな。
『陰陽思想』は多くの部分で応用の効く考え方だ。
私の恩師の知人には、生まれたときから死に瀕した病を持った魔術師が、ある魔術を自分に掛けて、死んだ途端生き返ったなんて馬鹿げた話もある。
これは『死が極まって生に転化』したというとんでもない例だが、このように面白い応用が出来る……可能性が、陰陽思想にはある。
折角この講義を聞いてくれたのだから、魔術なり異能の使い方なり、君達なりの応用をしてもらえたらと思う。
よし、それじゃあこのあたりで『東洋思想概論』二回目の講義を終えようか。
次回は『五行思想』の説明になるから、少しだけ覚悟しておいてくれ。
陰陽論よりも複雑な説明になるかもしれないからな。
日程はまた追って掲示するから確認するように、お疲れ様」
【そう締めくくると、軽く一礼し、ホワイトボードを消し始めた。
この後は後片付けをして去るのだろうが、足元をうろつくトカゲと共に、まだ暫くは教室に残っていることだろう】
■相楽 満 > 次はもっと複雑、となると大変だ。
ここまでの話でもギリギリだというのに。
でも難しく考えすぎたほうが不味いのだろう、とは思った。
最初から最後までそうだ。
この先生の言葉は、全部単純な言葉に変えられる。
簡単に考えよう。そう思いながら、かばんに授業の用具や資料をまとめた。
「ありがとーございましたー」
教師に頭を下げ、ついでにトカゲに手を振って、教室から退出した。
ご案内:「教室棟/特別講義会場」から相楽 満さんが去りました。
■クローデット > 陰陽思想の「相互転化」を応用して、死んだ途端蘇生した例もある…という話を聞いて、目を丸くする。
死者を蘇生させるというのは、白魔術においても高等な…よほどの適性がないと難しい事だからだ。
講義が終わると、教壇の講師の方に近くに行く。
「申しわけありません…最初の方で説明があった「漢字」について、お伺いしたいのですが」
そう言って、教卓の上にノートを広げる。
「陰と陽の漢字の由来について説明を受けましたけれど…」
そう言って、陰と陽の漢字の、それぞれ右側の部分だけを書いて行く。
「こちらの部分の説明は理解出来たのですけれど…」
次に、左側の「こざとへん」の部分をそれぞれに付け足した。
「これが「丘」を意味するという解釈で、よろしいのでしょうか?
元の漢字と随分形が違うので、少々戸惑ってしまいまして」
あたくし、漢字の文化圏の出身ではないものですから…と、少ししおらしい表情をして講師に問うた。
■浅田扁鵲 >
「……ん?
ああ、漢字か。
なるほど、そりゃあ東洋出身でもなければ馴染みがないだろうなあ」
【しおらしく訊ねられれば、鼻の下こそ伸ばさないが自然と笑みが浮かんでしまうのは。
男と言う性を持って生まれてしまった以上、仕方が無いことだろう。
だって、陰と陽だもの。影響しあうのだから。
足元で子犬サイズの爬虫類が暴れているがこの際は無視である】
「そうだな、「こざとへん」には丘という意味がある。
漢字の偏として用いられる場合には、丘や土に関わる漢字だ、という意味で使われるな。
ちなみに形に関しては、もとは「丘」じゃなく、土を積み重ねたさまを表した「阜」という象形文字から出来ている。
これを崩して書いていくとそれっぽく見えてくるだろう」
【消したばかりのホワイトボードに、丘と阜を並べて書く。
その後、阜を徐々に崩した字を並べていき、最後に「こざとへん」を書く。
足元では、クローデットを威嚇するように爬虫類が両者の間に立っていた】
「漢字はこういう元の字を崩したり、絵や風景から変化したものが多いんだ。
部首に関しては分かりづらいものも多いだろうから、なにか分からない漢字があれば調べてみるといい。
まあ聞いてくれれば大体は教えられるが……あー」
【そういえば名前は何と言うのだろうか、と言葉に詰まる。
さて、受講希望の届出には名前と学年こそあったが、顔写真は無かった。
事務に頼んで名簿でも作っておけばよかったな、と今更な後悔をしていた】
■クローデット > 「なるほど…土が積み重なって「丘」になるので、土を積み重ねた様子を表す部首が「丘」の意味を持つのですね」
象形文字自体は漢字に限らずあるし、歴史も古い。
崩して行く様子を見て、それを手慣れた様子で教卓の上に置いたノートに書き写しながら、頷いた。
「ご丁寧にありがとうございます。
………名前、ですか」
問われれば、品のある微笑を作って。
「クローデット・ルナンと申しますわ。
フランスから、こちらに留学して参りましたの」
そう言って、上品な所作でお辞儀をした。
足下で威嚇している小さい「竜種」は、とりあえず黙殺している。
■浅田扁鵲 >
「クローデット、ルナン、な。
そうかフランスからか。
ここは言葉が翻訳されるからまだいいが、それでも日本語が主体だ。
慣れるまでは中々大変だろう」
【自分が恩師に連れられ異国を歩いた日々を思い出す。
フランスにも確か行った事があるはずだが……ひたすら病人相手に鍼を打っていた記憶しか残っていなかった】
「何度か名乗ってはいるが、浅田だ。
名前は扁鵲……と言うんだが、これがまた随分恥ずかしい名前で――イッ!?」
【ホワイトボードに名前を書いて、自虐ネタを披露しようとしたところで、足元のペットに噛まれる。
それまで同様脛だったが、今度は牙が立てられていた】
■クローデット > 「ええ…ここは翻訳もありますし、父が多少日本語に通じておりましたので、どうにか」
そう言って、柔らかい笑みを浮かべる。
異世界の魔術研究のために世界中を飛び回っている彼女の父親は、実際に相当数の言語に通じているのだ。
恐らく、異世界特有の言語もいくつか覚えているだろうと、クローデットは内心苦々しく思う。…無論、表には出さないが。
「『へんじゃく』様…確かに、少々変わったお名前のように思いますが、恥ずかしいというものでもないのでは…、…?」
講師が悲鳴をあげたので下を見ると、「竜種」が主人の脛に牙を立てていた。
「あら………まあ」
そう言って目を大きく瞬かせ、口に手を当てて口元を隠す。
「………「躾」は、必要ですか?」
そう、問うた。
■浅田扁鵲 >
「いや、躾は……多分やめたほうがいい」
【その様子に少しばかり肩を震わせたが、ゆっくりと首を振る。
確かに竜種の子供ではあるのだが……この”ペット”はその出自が非常にヤバいのだ】
「おいシャオ、いい加減にしないか。
夕飯抜きにするぞ」
【そう叱ると、不満げに小さく唸りながら足を放し、振り向きざまに尻尾で浅田の脛を力強く薙いで、一度クローデットを睨むように見上げると、教室から出て行ってしまった】
「……まったく、いつの間にか可愛げが無くなったもんだ。
悪いな、どうもあいつ、俺が若い女性と話してるのが気に入らないらしいんだ」
【素の一人称を漏らしつつ、頭をかきながら肩を竦めた。
足はジンジンと痛む、が、最近は割りと良くある事だった】
「あー、名前だが、なんだ。
変わった名前なのは違いないが、気になってもあまり調べないでくれるとありがたい。
一応これはフリじゃないからな。調べないでくれよ?」
【念を押すように言うが、念を押せば押すほどフリのようになっているのに気づいていないらしい】
■クローデット > 「………そうですか」
『やめたほうがいい』と言われ、大人しく引く。
そして、不機嫌そうに教室から出て行く姿を目だけで追い。
「…それにしても、女性と話していると機嫌を損ねる、ですか…」
この講師は女性に対してかなり隙があるタイプに見えた。
あの「竜種」は、愛情という『資源』の振り向け先が変わる可能性を危惧しているのか…それとも、主人の「隙」に対して行き過ぎた警告をしているのか。
(…まあ、覚えておきましょう)
内心そんな事を考えつつ、やっぱり表には出さない。
「………ええ、分かりました」
くすりと笑みつつ、頷く。
(…完全に、「フリ」になっていますわね)
当然、そう考えてはいるのだが。
一応、当人の意思を尊重してしばらくは調べない事にしておこう。
「それでは、本日もありがとうございました。
また、次回の講義も楽しみにしておりますわ」
そう言って瑞々しい笑みを浮かべ、一礼。
それから、講義室を後にした。
ご案内:「教室棟/特別講義会場」からクローデットさんが去りました。
■浅田扁鵲 >
「そうなんだ、あの年頃は難しいな……」
【察した通り、女性に対しては素だと隙だらけな部分はある。
仕事や治療者として向き合えば、また別なのだが】
「ああ、うん、頼むよ……」
【言ってしまえば、今流行のキラキラネームと同じ類の名前である。
基本的に素直なのか、クローデットの返答にほっと安堵の息を漏らす】
「こちらこそ、いつもいい質問をしてくれて助かってるよ。
ああ、次回も期待に応えられるように頑張らせてもらうさ」
【去っていく後ろ姿を見送れば、つい名残惜しく感じてしまう。
若い子はいいなあ、と思いながらも、どこか自分とは縁が無いのだろうとも感じていた。
とはいえ――あの笑顔の下を覗いてみたい、と思う程度には興味を引かれている。
しかし秘密のある女性は魅力的に映るとは言うものの……】
「……趣味変わったか、俺」
【危険な香りに惹かれるような、破滅的嗜好は無いはずなのだが。
前回は幼い少女に惹かれかけ、今度はこれである。
……なれない日々で疲れているのかもしれない。
今日は帰ったら良く寝よう、そう思いつつ。
教室の後片付けを済ませると、教室棟の外で拗ねていたペットを回収し、寮へと帰ったのでした】
ご案内:「教室棟/特別講義会場」から浅田扁鵲さんが去りました。