2016/05/30 のログ
ご案内:「学園付属治療室」に浅田扁鵲さんが現れました。
■浅田扁鵲 >
「やっぱりこの季節は、調子を崩す生徒が多いな」
【五月も末、もう六月が迫るこの季節は、体調を崩す人間の多い季節とも言える。
気候が安定せず、寒暖も定まらない。
こういった時期には不定愁訴の患者が増えるものなのだ。
デリケートな自律神経は、そういった気候の不安定さや季節の移り変わる時期などには弱ってしまいやすく、体調不良もだが、イライラややる気の低減、情緒不安定と言った精神的な症状が現れるようになる。
単にそれだけでも患者はかなり大変なのだが、異能を持っていればさらに厄介な事にもなる。
自律神経の失調は、当然異能にも悪影響を及ぼし、制御不良や能力の減退が起きることもある。
そういった生徒に対応し、治療し、本人が望む方向へ整えてやるのが、この浅田の仕事である】
「……ま、それでも暇なときは暇なんだよな」
【そう。いくら体調不良を訴える生徒が増えたとはいえ、この島には他にも優れた医療者が多くいる。
浅田の治療室は、常に患者が絶えないとなるほどには繁盛していないのだ。
そんな暇を持て余した浅田は、ハイバックのゆったりとしたオフィスチェアに座り、雑誌を読んでいた。
その膝の上にはトカゲのような爬虫類……小型の竜種のような生き物が乗っている。
その生き物は薄水色の鱗を持ち、水晶のような角を生やして、藍色の作務衣を着た浅田の膝で気持ちよさそうに眠っていた】
■浅田扁鵲 >
【浅田が患者を待ちつつ読んでいる雑誌のタイトルは『医道の大陸』という東洋医学系雑誌である。
かつては浅田も、この雑誌に症例報告を載せたりと、ページを与えられていたのだが、いつからかすっかりご無沙汰である。
今号には浅田の恩師である『林 太仙』という治療家のインタビューというか、記事が載っているのだ】
「……先生は相変わらずみたいだな」
【雑誌の内容はこういうものだった】
『異能は医術により、必要に応じてその能力を調整したり、または失わせたりする事ができるのです。私としては、異能とは心身の異常によって発生した病であり、これを得た事で苦しむ人がいるのなら、医療者はこれを調整、抑制するなどして助ける義務があると考えています。もちろん、本人の同意があって初めて行われるべきではありますが、もしその異能によってその持ち主が将来的に苦しむことになるのであれば、我々は誠意をもって説得し、治療を受けてもらう努力を怠ってはいけません。異能による被害といえば、どうしても周囲に対するものに目が行ってしまい勝ちですが、異能によって最も被害を受けるのは、周囲でなく本人なのです。人の心は、突然に得た過ぎたる力を、常に自身にとっても周囲にとっても良い方向に向けられるほど、高尚なものではないのですから。力によって体にも、心にも被害を受けてしまった子供たちを、私は数多く見てきました。そういった子供たちにはやはり、適切な治療、誠意ある対応がひつようなのです』
【そんな内容を、浅田はじっくりと読んで、苦笑に似たため息を一つ吐いた。
浅田自身、一度『異能は病である』と言う論文を発表したことがある。
それは、この師について、数多くの異能を得た事で苦しむ患者を診てきたからであり、また治療してきたから言えた事だ。
しかし、浅田はその主張を一度の発表で終わらせ、その後同じような内容を主張した事はない。
だが浅田の師は、その主張を頻繁に口にし、訴えていた。
そのために師は、異能を人類の進化だと言う者たちには疎まれ、また、異能を疎む者たちからは半ば仲間のように見られてしまっている部分がある】
「俺には、やっぱりできんなあ」
【師のバイタリティはすさまじい。
浅田では、そういった面倒なごたごたに巻き込まれそうな所に踏み込んではいけない。
いや、一度踏み込んだ挙句、身を引いたというのが正解か。
なんにせよ、浅田では出来ないことを、師はやっているのだ】
■浅田扁鵲 >
【師、林太仙の記事を読み終われば、後はだらだらと、買う気もない新しい医療器具の通販ページを眺める時間だ。
いくつか興味深い症例報告も載っていたが、それはまた後でにするとしよう】
「……お、ようやく日本でも0.4mmの鍼が売られるようになったか。
これは助かるな、後で試供品でも頼んでおくか」
【紙面を眺め独り言を呟きながら、浅田は来るかもしれないし、こないかもしれない患者を待つ。
一応学園の職員扱いのため、患者が来ようと来まいと給料は変わらない。
自身で治療院を構えていたときと比べて、なんと気楽なことだろう、と、浅田は暢気な気分で欠伸をしていた】
ご案内:「学園付属治療室」にヘルトさんが現れました。
■ヘルト > 「邪魔するぞー。」
今から戦場にでも行くかのような出で立ちの大男が勢い良くドアを開けずかずかと押し入ってくる。
どこからどう見ても怪我の一つも無く、治療の必要がない様に見えるだろうか。
■浅田扁鵲 >
「ああ、はい。
邪魔されましたが、どうされましたか?」
【勢いよく開いたドアに少し目を丸くするが、入ってきた大男を見て困った様子を見せるでもなく。
普段どおり気だるげな様子で雑誌を脇に置いて、手振りで患者用の椅子を勧めた】
「学生……ではなさそうですが、ご同業ですかね?」
【話しながら問診表を用意し、ボールペンを取り出した】
■ヘルト > 「おう、多分そのご同業?ってのじゃないのかね。一応、教師って事になってるはずだ。」
きょろきょろと物珍しそうに治療室を見渡しつつも大男は椅子にドカッと座った。
それと同時に椅子が悲鳴を上げつつも懸命に耐えているであろうか。
そんな事、気にする様子は微塵も見せずに彼は言う。
「や、別にどうって事は無いんだけど……強いて言うなら、アレ。探検?」
■浅田扁鵲 >
「ああなるほど、新任の方ですかね?
この学園は広いですから、探検する場所には事欠かないでしょう」
【そういえば膝の上の爬虫類が、冬休みや春休みの間に探検して迷子になっていたと思い出した。
そのときはどうやら学生らしい誰かが助けてくれたようだったが】
「まあ患者ではなさそうで良かったですよ。
この時期は体調不良の方が多いもので」
■ヘルト > 「ははは! いやいや、これしきの事で倒れるほどヤワじゃないさ!」
ケラケラと笑う大男。
そしてふと何か思い出したような表情をして彼は名乗る。
「自己紹介がまだだったな。俺はヘルト、剣術や体術を教えている。よろしくな!」
そしてとびっきりの笑顔で手を差し出した。
■浅田扁鵲 >
「そうですね、見るからに丈夫そうですからね」
【うんうん、と頷きつつ、名乗られれば向き直って軽く頭を下げる】
「はじめまして、ヘルト教諭。
私は浅田と言います。
剣術はからっきしですが、こうして治療家をやらせてもらう傍らに、時折東洋思想について講義をさせてもらっています」
【自己紹介をしつつ、差し出された手には右手を差し出して応える。
随分とがっしりしているだろう手に対して、浅田の手はおそらく正反対と表現していい手をしていただろう】
■ヘルト > 「うむ! 我々、騎士にとって身体は資本だからな! もしかしたら今後世話になることがあるかもしれない、その時はよろしく頼む浅田センセイ!」
握手を交わし、彼の膝の上にいる爬虫類──トカゲか?を目にして興味津々の様子でじーっと見つめている。
ヘルトは見るもの全てが新発見とでも言いそうなくらいに落ち着き無くあちらこちらへと視線をやるのだ。
「時に浅田センセイ、その……膝の上にいるのは?」
■浅田扁鵲 >
「ええ、そのときは誠心誠意、治療させていただきますよ」
【と、話している間に膝の上に視線が向かえば、浅田は少し困ったように笑うと、その爬虫類らしい生き物を撫でながら】
「これはまあ、私のペットのようなものですよ。
この子がもっと幼い時に、諸事情があって預かることになりましてね。
見て頂けたら分かるかもしれませんが、一応竜種に分類されてます」
【と、特徴的な水晶のような角を示した。
膝の上の当人(?)はそんなやり取りもどこ吹く風か、というように丸くなって眠っている】
■ヘルト > 「ほう……竜。 いやはや、御伽噺だけの世界だと思っていたがここでは竜ですら身近に存在しているのだなあ。」
竜を覗き込むように観察していたがやがてうんうん、と何か納得した様子で頷き離れる。
だが、まだ興味があるのだろうチラチラと竜に目をやっては何か考える仕草を見せる。
そしてそーっと竜に手を伸ばしてみる。
■浅田扁鵲 >
「そうですね、私もこの子の親に会うまでは半ば御伽噺と思っていましたよ」
【と、答えつつ。
興味がとてもある様子に苦笑し、手を伸ばそうとすれば軽くそれを制した】
「すみません、寝てるときに私以外が触ると機嫌が悪くなることが多いので……おい、シャオ、起きろ」
【と、制した上で膝の上の竜種を揺すって起こした。
もぞもぞと動いて目を覚ました竜種は、その首をヘルトへ向け、じっと顔を見上げている。
ただただ、じぃっと、見上げている】
■ヘルト > 「…………!」
ヘルトは理性ではなく野性で理解した。
『俺は今、ヤツに試されている……!』と。
微動だにせずじぃっと見上げてくる竜から目を逸らしてはダメだと本能が警告している!
ヘルトもまた竜をじいっと見つめることだろう。
これはお互いの今後を左右する重要な局面、ここでしくじればきっとなめられてしまうと考えていた。
■浅田扁鵲 >
『…………』
【ヘルトがじっと見つめ返してくるのなら、シャオと呼ばれた子竜もそのままじっと動かないことだろう。
そして、そんな様子を眺めている浅田は、口を押さえつつもやけに大きな欠伸をしているだろう】
『…………ん』
【そしてしばらくすると、どこかから幼い少女のような声が聞こえたかもしれない。
子竜は、ぷい、と目を逸らして小さく欠伸をすると、また膝の上で丸くなってしまった】
「あー……寝起きだから愛想が悪くてすみません。
ああ一応、触っても良いみたいですよ。
ただ、角と尻尾はあんまり触ると嫌がるので、そこだけ気をつけていただければと」
【そして子竜は浅田の膝の上で寝転がっている。
その水色の鱗はとてもひんやりとしていて、磨かれた石のような、硬く滑らかな手触りだろう。
また、水晶のような角に触れれば、非常に硬質でこれもまた、丁寧に研磨されたような滑らかな手触りが感じられるはずである】
■ヘルト > 「…………はっ!?」
いつの間にかどこかへ意識をトリップさせていたヘルトが我にかえる。
いつ決着がついたのだろうかとりあえず触っても良い事になったようで一つ息をついた。
「まあ、こっちのワガママみたいなものだしな。そりゃコイツにとっちゃはた迷惑な話だろうししょうがないさ。」
と、苦笑いを浮かべつつそっと背中を一回だけ撫でるに留め、『結構なお手前で……』と語りうんうんと頷いた。
そして腰を浮かせつつ浅田教諭に言うのだ。
「さて、何の用も無く突然訪問してすまなかったな。そろそろ俺はおいとまするとしよう。」
■浅田扁鵲 >
「ああいえ、普段は人懐っこいんで自分から構われにいくんですけどね。
どうにも寝起きはダメみたいで」
【変温動物だからか、血圧が低いのか。
なんにせよ、この子竜の寝起きは随分とデリケートなようだった】
「いえいえ、気が向いたらまた遊びにいらしてください。
今度はお茶の一つも用意しておきますから」
【特に引き止める理由も見当たらず。
浅田はヘルト教諭のはっきりとした性格が気に入ったのか、最初よりやや、元気のある表情で笑顔を向けている】
■ヘルト > 「では茶に合う手土産を用意して行くとしよう。では、失礼する!」
来た時と同じように勢い良くドアを開け放ち部屋を出て行くヘルト。
立ち去る際、地面が若干揺れていたようなないような……。
ご案内:「学園付属治療室」からヘルトさんが去りました。
■浅田扁鵲 >
「ああ、楽しみにしていま――」
【音を立てて開かれるドア。
そして、かすかに揺れたようにすら感じる床】
「……随分と、元気のいい御仁だったな」
『んー……』
【独り言した浅田に、子竜から声が返ってくる】
『でも、撫でられ心地は、悪くなかったよ』
「そうか。
それは良かった」
【随分とまだ眠たげな声に笑いつつ。
それから。
浅田は業務終了まで、来るか分からない患者を待ってぼんやりとした時間をすごすのだった】
ご案内:「学園付属治療室」から浅田扁鵲さんが去りました。