2016/08/05 のログ
ご案内:「露天温泉」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > 夜の温泉、である。
昼間の疲れを癒すため、七生は未開拓地区の温泉を訪れていた。
別に傷が瞬時に治るとか、そういう特殊な効果は無い、普通の温泉だ。
やたらと効能がいっぱいあるみたいなことが、脱衣所らしいプレハブ小屋のそばの立て看板に書いてあった。
「は~……たまにはこういう風呂も趣があるっつーか……」
良いではないですかあ、とまったりのんびり、星空なんか眺めつつ。
■東雲七生 > 「ふわぁぁ」
ゆっくり温泉に浸かって身体を癒していれば、欠伸なんかも零れ落ちる。
穴場がある、とは聞いていたがまさかこんな露天風呂が貸切だなんて相当ラッキーだったとしか言い様が無い。
これも日頃の行いかな、なんて笑いながら、近くの岩に寄り掛かって辺りを見回す。
「……木と星以外なーーーんもない。」
良いなあ、この感じ。と七生はゆるゆると笑みを浮かべた。
■東雲七生 > 「そういや……」
日没前に海で泳いで、そのまま来たから何の抵抗も無く水着で入ってしまったが、
はたして入浴のマナー上、これは良いのだろうか。
まあ、他に誰もいないので気付かれなければ問題ないだろう。
「……うん、うん、大丈夫。きっと。」
ダメだったら謝れば良い。誰に謝れば良いのか分からないけど。
■東雲七生 > 「ていうか、……恥ずかしいしな。」
誰か来た時の為に隠せるほうが良い。
それが異性でも、同性でも、やっぱり隠せるほうが良い。
思春期真っ最中の複雑な心境を抱え、誰もいないにも関わらず七生は水着を軽く握った。
「というか、水着着用を義務にすりゃいいのに……」
海や川や、プールと同じように。
何故温泉だけ水着が駄目だったりするのだろう。そんな事をぼんやり考えつつ、ほぅ、と息を吐く。
ご案内:「露天温泉」に深雪さんが現れました。
■深雪 > 誰もいない,と七生はそう思っていたかもしれない。
けれどそれは間違いだった。いつからそこに居たのか分からないが,
「こんな時間にどこに行くのかと思ったら,
ふふふ,訓練はお休みかしら?」
七生が寄り掛かっている大きな岩の上に膝をついて座り,七生を見下ろしている少女。
楽しげに笑んでいるところを見ると,もしかしたら,ずっと居たのかも知れない。
……なお,闇夜と湯煙に隠されているが,どうやらまだ学園の制服を身に纏っているようだ。
■東雲七生 > 「!?」
びくっ、と七生の身体が震える。
完全に油断しきって独り言なんて散々呟いていたし、
危うく身体のコンプレックスまで吐露しかける所だったのだ。心臓に悪い以外に言い様が無い。
「何!?誰!?
……深雪!?」
振り仰いで確認すれば、昼間自分の膝で寝こけていた少女の姿が。
「お休みじゃないよ!異邦人街から未開拓地区まで泳いできたんだから!」
たまには陸路じゃ無く海路で。
遠泳も着衣水泳で無ければ難無くこなすのが七生だ。
■深雪 > 驚いた顔を見れば,とっても満足気な表情でそれを見下ろした。
それにしても,異邦人街からここまで,とてつもない距離だ。
「あら,泳ぎも上手なのね…知らなかったわ。」
流石に驚いたけれど,くすくすと楽しげな笑みは崩さないまま。
それから少し考えて,周りを確認して,
「ねぇ,七生。私も入っていいかしら?
久々に出歩いて,汗かいちゃったのよ。」
■東雲七生 > 「そっか、去年海行ったときは浅瀬で遊んだだけだったもんな。」
しっかり泳ぐ姿を見せる機会は確かに無かったかもしれない、と頷く。
それにしても、こっそり後をつけて来たのだろうか。
それとも別の用事で出てきたところでたまたま七生を見つけたのだろうか。
そんな事を考えていたので、深雪の言葉は半分しか聞いておらず、
「え?ああ、うん。別に良いけど。」
と、よく考えもせず承諾した。
■深雪 > 「…ふふふ,それじゃ,準備してくるわね。」
快諾されるとは予想外だった。
少しはうろたえる姿を見たかったのもあるが,これはこれでいい。
岩の上を飛ぶように歩いて,深雪は脱衣所へ消えて行った。
それが何を意味しているのか,七生には分かっただろうか。
脱衣所から出てきたとき,深雪はタオルを1枚手にしているのみ。
照らす光が星々だけならば,湯煙越しに艶かしい曲線が見える程度だろうが…。
深雪は敢えて温泉には浸からず,歩いて七生の方へと近寄っていく。
■東雲七生 > 「? お、おう!」
ヤバい、今深雪は何て言ってたっけ。
そんな事を思い出す間も無く、深雪は行ってしまった。
それを見送って、あれ?と首を傾げる。
「……なんか、嫌な予感が……」
タオル一枚でこちらへ戻ってきた深雪を見て、その予感は見事的中したことを知る。
あられもない姿は今まで何度か見て来たが、家の外で見るのは何だか新鮮な気がして。
「なななな、え、みゆ、え?え?」
当然の様に挙動不審に陥った。
■深雪 > とっても自然な仕草で貴方が背を預ける岩に腰かけ,足を伸ばす。
脛から下をお湯につけて,小さく息を吐き…
「温かいわね……あら,どうしたのかしら?」
…少しでも横に視線を向ければ,深雪さんの脚があります。
…少しでも上に視線を向ければ,タオルで胸を隠した深雪さんが座っています。
それが当然だと言わんばかりに平然と,けれど,隠しきれない感情が口元を緩めました。
■東雲七生 > 「あの、ここ、足湯じゃないと思うんだけど。」
岩に腰を下ろした深雪から目を逸らしながら申告する。
一応全身浸かる温泉だったはずである。それだけの深さもある。
出来るだけ肢体を視界に入れないように、深雪の足があるのとは反対側へ顔ごと逸らし、
赤くなった顔を悟られないように小さく深呼吸を一つ。
■深雪 > 「あら,そんなの私の自由だと思わない?
温かいし,風が気持ち良くてイイ感じよ。」
くすくすと笑いながら,足を動かして波を立てたり,
貴方の顔にお湯を掛けようとしてみたり。
自分の方を向かせようとちょっかいを掛け始めました。
■東雲七生 > 「それは、自由かもしれないけど……!
それなら靴下だけ脱いで来れば良かったんj……」
ぶつぶつと反論をしようとしていたらお湯を掛けられて。
ぷわ、と驚きの声を上げて手で顔を拭ってから深雪を振り仰ぐ。
「何すんの……さ。」
下から見上げた姿は背景の星空も相俟って、妙に艶めかしく、蠱惑的に七生の目には映る。
惚けた様に見上げていたが、じわじわと顔が赤くなり始めた。
■深雪 > 「駄目よ,制服が濡れちゃったら帰れないでしょう?」
反論はしっかり潰しておきつつも,
お湯が命中して,目論み通りに七生の視線を自分の方へ向けられれば…
「ふふふ,よそ見してるから悪いのよ。」
…足を組んで,七生を見下ろします。
顔が赤くなっていくのを,じっくり観察するように,愛おしげな視線を七生に向けて。
■東雲七生 > 「だって、だって……」
うぁうぁ、と口を動かすも言葉が出て来ない。
顔はみるみる赤くなっていくし、何故か見てしまった側の七生の方が恥ずかしそうな顔になっていく。
わなわなと震えながら、深雪と目が合えば。
「……ごめんっ!!」
何故か謝って、顔を下げた。
そしてそのままぐるんっと勢いよく背を向ける。
■深雪 > この1年間で,七生は随分逞しくなったと思う。
けれど,可愛らしい部分はそのままだ。
背を向けてしまった相手に,またお湯をかけるようなことはせず。
「もう,七生は本当に,変わらないわねぇ…。」
ひょい,と岩から体を持ち上げて,その身体をお湯の中へと静かに沈めていく。
首まで静かに沈めて,さっきまでの七生と同じように,岩に背をもたれて…
「…もう大丈夫よ,戻ってらしゃい?」
…背を向けたままの貴方に声を掛けた。
■東雲七生 > 「うぅぅ……」
小さく呻きながら、背後の物音で深雪がお湯の中に入ったことを察する。
それでも振り替えられないのは、まだ七生の顔が真っ赤だから。
家では何度か見かけるとはいえ、やはり異性の裸は異性の裸。七生には刺激が強過ぎる事にかわりはない。
「………ん。」
しかし、流石に戻ってこいと声を掛けられれば。
素直にすすす、と深雪のそばに寄るのだった。……背中を向けたまま。
■深雪 > 愛おしげにそんな七生を見て…無理に自分の方を向かせようとはしなかった。
空を見上げて……小さく,息を吐く。
深雪の感覚が人間とずれているのは間違いない,が,流石に1年経って少しは慣れたかと思っていた。
でも,どうやら駄目らしい。そんな所も,可愛らしいのだが。
「……ねぇ,七生,ちょっと聞いてもいいかしら?」
■東雲七生 > 「うん、何ー?」
恥かしいもんは恥ずかしい。
こればっかりは慣れるようなもんじゃないし、むしろ慣れちゃいけない気がした七生である。
しかし、声を掛けられれば無視する事もなく、僅かに頭を其方へと向けて、反応を示した。
このタイミングで、何だろう、と割と本気で疑問に思ってるようだ。
■深雪 > 肩はお湯から出して,胸元がギリギリ隠れているくらい。
そんなに詳しく見る余裕は無いかもしれないが。
「…さっき見た夢,出てきたのはきっと,大人になった七生だと思うの。」
深雪は静かに,言葉を紡ぐ。
「でも,七生はずっと私の家に居るわけじゃないでしょう?
私と違って…貴方は,ちゃんと,成長してるから。」
声がどことなく,寂しげに聞こえるかもしれない。
「…七生は,どんな大人になりたい?」
■東雲七生 > 「大人になった、俺?」
いきなり何の話だろうと思ったが、昼間の家でのことだと察すれば静かに続く言葉を聞く。
深雪が見た夢に出て来た自分、一体どんな姿だったのか全く想像も出来なかったけれど
「え、えっと……」
どんな大人、と言われてもそれはまだまだ先の事だと思っていた。
自分はまだまだ未熟で、幼稚で、そんな自覚があればこそ日々我武者羅に鍛錬を重ねて来れたのだ。
しかし、将来の展望も無いわけでは無い。
「えっと、卒業したらってこと?
……そしたら、うん、一度旅に出ようと思うんだ。
色んな国とか、そういうの見て回りたい。だから、ううん……」
そういう大人になれたらいいかな、と少し困った様に笑みを浮かべる。
■深雪 > 質問が意図したのは,もっと先のこと。
旅に出て,力を増して…その力をもって,どこへ向かうのか。
けれど,さらに深く追求したりはしなかった。
「ふふふ,良いわね…貴方なら何処へ行っても,やっていけるわ。
ここみたいな混浴の温泉以外なら,ね。」
くすくすと意地悪に笑う。
ぐぐっと伸びをしたまま…空を見上げた。手首に巻かれたリボンが,ひらひら揺れている。
「ねぇ,七生……もし,七生の旅が終わって…七生が今よりもっと強くなったら。
……このリボン,外しに来てくれる?」
■東雲七生 > 「ここが混浴だったなんて知らなかったもん……」
うぐ、と言葉に詰まって苦しい言い訳を絞り出す。
もしかしたらちゃんと男女別に分かれてるかもしれないし、時間帯で違うのかもしれないと思ったが。
そもそも管理すらされている気配の無い天然温泉だ、混浴と考えるのが普通なのかもしれない。
「………。」
リボンの事を振られれば、背を向けたままの表情が強張る。
もし、深雪が伝承通りの存在なら。そのリボンを外すのは危険極まりない事だと思う。
でも、……それでも。
「……うん、もちろん。
深雪よりずっとずーっと強くなって、外してみせるよ。」
もし、仮にそうだったとして。
自分がその深雪の力を上回れば、何の問題も無い、のだ。
決意を秘めた真剣な表情で、ようやく七生は深雪へと振り返った。
■深雪 > 「……そう言えば,ここって混浴でよかったのかしら。」
勿論深雪さんも,確認しているはずもなかった。
まぁ,怒られるような心配も無いだろうと,そのまま流す。
貴方が背を向けたまま返答に詰まるのも,
決意を胸に振り返るのも,その全てを真っ直ぐに見つめて…
……寂しげに,けれど優しい笑みを浮かべた。
「……ありがとう,そう言ってくれるだけでうれしいわ。
でも,七生は七生の好きなように生きてくれれば,それが一番良いのよ?」
■東雲七生 > 「俺は俺で、これでも好きな様に生きてるよ!」
にっ、と満面の笑みを浮かべて即答する。
強制されてるつもりは毛頭無かった。それは1年前から、ずっと。
「こうやって強くなろうとしてんのも、深雪と一緒に暮らしてるのも、俺がそれを選んだんだよ。
だから、今が一番良いんだって俺は思う。
……へへ、ありがと深雪!」
にこにこと屈託無い笑みを浮かべる。
どれも本心からの言葉だった。嘘が吐けないのを差し引いても。
■深雪 > 「……………っ…。」
七生の屈託のない笑顔…そこには,言葉に嘘が1つも無いのだと,そう信じさせるに十分な力があった。
深雪の表情を見ていたなら,珍しく,この少女が困惑していることに,気付けるだろう。
…視線を外して横を向いたのは,こんどは深雪の方だった。
温かい温泉に浸かっているはずなのに,一瞬,背筋が凍るような冷気が吹き抜けるだろう。
「……駄目よ。
もう,誰も信じない…貴方のことも,信じたりしない。」
リボンがぼんやりと光を放つ……そう言い放った少女の瞳は虚空をぼんやりと見つめて,その声は震えていた。
■東雲七生 > 「深雪?」
視線を逸らされ、七生の顔から笑顔が消える。
困惑している様子の少女を見て、急に気温が下がったような感覚に七生も困惑する。
……が、
「まあ、前も言ったかもしんないけどさー……」
こちらを見てないのを良い事に、静かに深雪の頭へと手を伸ばす。
そのまま、そっとその頭を撫でようとしつつ。
「相変わらず俺はちっさいし、強くなったって自信は持てないからさ。
口先だけで信じて貰うのは俺自身無理があるなーって思うよ。
こればっかりはちゃんと結果を出せないといけないって解ってるし。
だから、まあ、信じて貰えなくても俺はしょうがないって思うから。
深雪の方こそ、俺に合わせようとしてくれなくても良いからさ。」
少女は自分に好きな様に生きて良いと言ったけれど、
むしろ少女から自由を奪ってるのは七生自身じゃないのか、と少しだけ申し訳なさそうな顔で微笑を浮かべた。
■深雪 > 七生の力が足りないことを心配しているわけではなかった。
それどころか,七生には欠けている部分など,ありはしなかった。
七生が手を伸ばして深雪の頭に触れれば,ぴくっと,身体を震わせるだろう。
「………違うのよ。
貴方が強くなるなら…私はいつまでだって待つわ。
貴方が半ばで倒れそうになったなら…私が,貴方を助けたっていい。」
「……でも,駄目。
…………また裏切られたら私,もう,耐えられないわ。」
また,という言葉を使ったが,それは七生のことではない。
一度,裏切られたことがあるのだ…かつてこの身をリボンで縛り付け,力を,全てを奪った男。
「…………ごめんなさい,貴方の所為じゃないの。」
深雪はまだ視線を逸らしたまま,その肩を震わせた。
■東雲七生 > 「俺の所為じゃない、って言われても……」
ううん、と深雪の頭を撫でながら困った様に首を傾げる。
裏切られた、ということまで本の紹介と一致する。
だとしたら、大凡の見当は付くのだが。
「1年一緒に暮らしてて、『変わらない』とまで評しておいてさ。
裏切られたら、とか言われるのは割と不本意というか……」
歯切れ悪いのは言葉を探しているから。
どう考えても、何だか格好悪い言葉しか出て来ないのだが、
まあ実際格好悪い所をこれから言うのだから、仕方ないと自分に言い聞かせて。
「裏切るとか、騙すとか、俺がそんな小難しい事出来ると思う?
だとしたら、それはすっごい過大評価だし、案外深雪って見る目が無いなあって思うけど。」
言ってから、やっぱり格好悪いなあ、なんて自嘲気味に笑って。
怯える子供をなだめる様に、優しく深雪の頭を撫で続ける。
少しだけ優越感に浸っているのはきっと気のせいではないだろう。
■深雪 > 七生の言葉に,わずか,顔を上げた。
撫でられても抵抗することはなく…僅かな間の後に,少女は振り返る。
七生を真っ直ぐに見てから…小さく,首を横に振った。
「……いいえ,思わないわ。」
声は相変わらず震えたままで…リボンはぼんやりとした光を放ち,手首を焼き焦がしている。
しばらくの沈黙があった。
それから,深雪は,静かに口を開く。
「……貴方のこと,信じても,いい?」
■東雲七生 > 「……でしょ?」
認められても困るけど、と笑いつつ。
撫でてる間も輝きを放つリボンは気に掛かる。
僅かに感じる熱は、きっと深雪の身体を痛めつけているのだろうと思うと、何だか七生まで心が苦しく感じて。
「……改めて聞かれると、すっごい自信無いけど。
俺は、裏切らない。たとえ深雪が何であっても、俺は深雪を信じてるから。
だから、良いよ。信じて。」
まだあどけなさの残る顔にこの一年での成長によって得た僅かな自信をにじませながら。
そんな不安そうな顔は深雪らしくない、と半ばおどける様に笑みを浮かべた。
■深雪 > 「………………ふふっ……。」
やっと深雪に笑みが戻った。
それも,これまで見た笑みのなかで一番自然な…ありのままの,笑み。
「………もし裏切ったら,あの人と同じ目に遭わせてあげる。
いや,もっと酷い目に遭わせてあげるから,覚悟しておくのよ?」
七生の意図を察してか,強がるように,そんなことを嘯いて,
それから深雪は自然に,七生に身体を寄せた。からかうのでも,茶化すのでもなく…
…尤も,そんな意図が無くとも,当たるものは当たってしまうのだが。
「……ありがとう,七生。」
囁くように,心からの言葉を。
■東雲七生 > 「うんうん、それでこそ深雪だよね。」
どんな目に遭わされるんだろう、と背筋が冷たくなったが。
そんな事は、考えるだけ無駄な事である。そんな未来は絶対に訪れやしない、訪れさせない。
少し強気なくらいが深雪らしい、と満足げに笑みを浮かべていた七生だったが、
身体を寄せられれば、流石に表情が強張る。
「………べっ、別に礼を言われる事じゃないって。」
ふわりと柔らかく当たる物が気になるが、ぎこちなくなった手でも頭を撫で続ける。
■深雪 > 「…私が言いたいから言っただけよ,文句でもあるの?」
身体を近づけた途端にぎこちなく動く七生の手。
目聡く,深雪はそれに気付いてしまった。
……くすっと笑ってから,
「……ちょっとだけ,目を瞑ってもらえるかしら?」
■東雲七生 > 「うっ、文句なんて……あるわけないし……。」
気恥ずかしかっただけのようだ。
そしてそれは形を変えて現在進行形である。
七生だって男子の端くれ、気になるものは気になってしまうし、
気になってしまえば素直すぎるのが災いして態度にも出てしまう。
「え?……目?べ、別に良いけど……こ、こう?」
撫でる手をいったん停めて、言われるままに目を瞑る。
■深雪 > 七生が目を瞑れば,ばしゃり,水音が聞こえる。
深雪が立ち上がったのだろう…いま目を開けたらどうなるのか,七生なら分かるはずだ。
「……………。」
深雪は右の人差し指で,自分の唇を撫でた。
その右手を伸ばして,七生の頬を撫でて……抱き寄せるように引き寄せながら,深雪は貴方の唇を奪おうとする。
抵抗したり逃げたりしなければ,温かいのにひんやりと冷たい,柔らかい唇が,貴方の唇を食むように,重ねられる。
■東雲七生 > 水音がして、ふと、前にも似たような事があったっけな、と思い出す。
その時は家の風呂場で、七生も今よりずっと精神的にも未熟だったころ。
あの時は自分の力量も考えず、ただ子供みたいに主張をしてたっけ、と振り返って。
今でもあんまり変わってないな、と密かに自嘲する。
(それから、いきなりキスを──)
頬を撫でられながら、そんな事を思い出してにわかに頬が赤らむ。
そして間もなく抱き寄せられ、そのまま──また、唇を奪われた。
突然の事に七生の思考も一瞬で停まる。
感触も温度も、感じる余裕すら無く、七生はただただ深雪のされるがままになっていた。
■深雪 > あの時とは違って,重ねられた唇は離され,また重ねられ、何度も何度も,重なり合う。
七生がその感触も温度も,全てを感じられるように…感じてくれるように。
深雪にとって,何かが決定的に変わったのだと,それだけで読み取るのは難しいかもしれないが……
……あの時とは,そして,これまでとは何かが違っている。
どれくらいの時間が経ったか,ようやく七生の唇は解放され…深雪は愛おしげな目で,それを見ていた。
■東雲七生 > あの時、深雪は「おまじない」と称して短い口付けをしただけだった。
今回もそうだろう、とぼんやりとした頭の片隅で思っていて、そっと唇が離れればいきなり何をするのかと抗議しようと構えていたのだが。
その口が開かれる前に、再び唇が重ねられて。
抗議も、制止も、息をする暇すらも与えられずに何度も何度も繰り返されれば、いやでも頭は認識を始める。
唇の柔らかさ、伝わる温度。離れる時の微かな吐息を、何度も何度も。刷り込まれる様に。
「………、ぁ。」
そして雨のようなそれが止めば、七生はすっかり逆上せた様な顔で深雪の顔を見上げていた。
頭の芯が甘く痺れて、言葉も出て来なくなっていた。
■深雪 > まだ言葉も出ない七生に,深雪は右手を差し出した。
七生がその手を取らないならば,深雪が七生の手を掴む。
「……のぼせちゃう前に帰るわよ,七生。」
くすくすと楽しそうに笑う深雪。
満たされた笑顔を浮かべて,深雪は七生の手を引いて帰ろうとするだろう。
強引さは依然として変わらず,七生が離してと頼まない限り,その手が離されることは決して無い。
■東雲七生 > 「え、あ、うん………っ!」
まだどこか惚けた様な顔のまま、差し出された深雪の右手を見る。
見上げていた視線が下ろされた事で、深雪がまだ立っているならその肢体全てが目に入ることだろう。
顔を真っ赤にしながら手を取れば、そのまま強引に温泉の外へと連れ出される。
何処へ連れて行かれるにしても、手を離すことを求めたり拒んだりすることも無く。
どこか夢見心地のまま、七生は深雪と共に家に帰るのだろう。
ご案内:「露天温泉」から深雪さんが去りました。
ご案内:「露天温泉」から東雲七生さんが去りました。