2016/09/22 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に美澄 蘭さんが現れました。
■美澄 蘭 > 「こんにちは」
ティータイムど真ん中より、少し遅いくらいの時間帯。
蘭は、入り口で傘を閉じてから、そう挨拶をしてカフェテラスの店内に入った。
最近は天気が安定しないので、夏の頃の日傘のように雨傘を持ち歩いている。
そうして店内に入り…店内の奥の方の席が空いていたので、そこへ腰掛ける。
これからやりたいことを考えれば、人通りがそこまで多くならない奥の方の席は、都合が良かった。
…しかし、ここはカフェテラスだ。まずは、メニューを確認する。
■美澄 蘭 > (…そろそろ、林檎が出始める時期だったかしら…?)
メニューを見ながら、そんなことを考え…それから、店員を呼ぶ。
「すみません、アップルパイと、アッサムをお願いします」
そう注文をして…店員が立ち去るのを見計らって、ブリーフケースから大きめのハードカバーの本を取り出す。
先日図書館から借りた、小説だ。
■美澄 蘭 > 母がストーリーに太鼓判を押してくれた小説ではあるが…蘭は、いつものペースで読み進めることが出来ないでいた。
というのも…
「………。」
本を開いて、2〜3分したかどうかだろうか。早速、読んでいるのが恥ずかしいかのように口をもごもごとさせて、蘭が本を閉じる。
(主人公の「語り」がいたたまれない………!)
「20世紀のゴシックロマン」と讃えられるその小説は、主人公たる「わたし」の一人称文体で物語が進んでいくのだが…その主人公は、若くて、自信なさげで、空想の翼が羽ばたきがちな若い女性だ。
…蘭は、自分自身と主人公を重ねて度々いたたまれない気持ちになっては本を閉じ、落ち着いてからまた開き…を繰り返しているのである。
■美澄 蘭 > 蘭の母、雪音は良くも悪くも実年齢より若い感性の持ち主であるが…この小説を普通に読みきれたというのか。
これを、自分に引きつけないで読みきれたというのか。
(ありえない…!)
蘭はそう思ってどことなく憮然としたが…より斜め上の発想に思い至って、驚愕の表情を浮かべる。
(………まさか、主人公に普通に感情移入して主観的に物語を味わって………
………あり得る………!)
蘭とその母は芸術的・文学的感性に幾分近いものを持ってはいるが、決定的な違いは、「対象への没入度」であろう。世界に没入しきれる母と違い、蘭はどこか客観的な視点を手放せないところがあった。
それは、文学に限らず、2人が共に嗜むピアノの演奏の流儀の違いにも表れているのだった。
■美澄 蘭 > そうこうしているうちに、蘭の無言の百面相に怪訝そうな顔をした店員が紅茶とアップルパイを持ってくる。
「…あ、ありがとうございます…」
見られていたらしいことを察した蘭が、顔を火照らせて俯きつつも持ってきてくれた店員に礼を言う。
店員は、ビジネスライクに紅茶とアップルパイを置いて、また引っ込んでいった。
「………はぁ………」
何とか一つ息を吐き出してから、ティーカップを手に取って、紅茶を一口。
■美澄 蘭 > 「異性に不慣れ」仲間らしい男の子と会ったり。
恩師の一人に、交友関係について聞かれたり。
どう見ても軽薄そうな青年に、「人の尊重の仕方」の見本のようなものを見せてもらったり。
(…私も、自意識過剰、なのかなぁ…「これ」の主人公みたいに。
………小説の主人公と自分を重ねることの方が、よっぽど自意識過剰感あるけど)
ティーカップを傾けながら、先ほどまで開いていた本を横目に見る。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に八百万 頼さんが現れました。
■八百万 頼 >
――みーすみちゃん。
(ひょいっと横から覗き込む男。
今日も変わらず猫のような笑顔を向けている。)
久しぶり。
元気しとった?
(ニコニコと目の細い笑顔を向けて、包帯の巻かれた右手を挙げる。
軽い挨拶の後、彼女の前の椅子を示して、座っても良いか尋ねる仕草。)
■美澄 蘭 > (人に見られてると思っても、ピアノの発表会とかなら平気なのに…)
そんなことを考えながら、アップルパイを口に運ぶ。
林檎本来の酸味と、煮付けた甘味のハーモニーが絶妙だ。
「!?」
不意に、横からかけられる声に、びくぅっと思いっきり肩をこわばらせる。
…何とか、口にしていたアップルパイを飲み下して、紅茶で流すと…
「………八百万さん、少しぶりね………
………私は元気だけど…怪我?」
蘭は、頼の笑顔よりも、包帯の巻かれた右手に目がいったようだった。心配そうに、眉が寄せられる。
少女の傍らには、分厚いハードカバーの本が置かれており、「レベッカ」というタイトルが示されていた。
そして、相席してもいいかと仕草で尋ねられれば…
「…どうぞ。
その包帯のことも…私で良ければ、力になりたいし」
と、浮かない顔のまま、相席を了承する。
■八百万 頼 >
あは、びっくりした?
(笑顔を満足そうなものに変え、嬉しそうに尋ねる。
相席を許されればよっこいしょ、とおっさん臭い言葉と共に座ろう。)
あー、これ?
ちょーっとガラスで引っかいただけや。
たいした事無いよ。
(右手を改めて上げ、ひらひらと振ってみせる。
実際傷は綺麗さっぱり無くなっていて、包帯を巻いているのは辻褄合わせのためだけである。
もちろんそんな事は言わないが。
そこへ店員が水を運んできた。)
おおきに。
カツカレーとコーラちょうだいな。
ああ、あとアップルパイも。
■美澄 蘭 > 「…まあ、考え事してたし…それなりにはね」
そう言って苦笑する。
明らかに、「それなり」の範囲を超えたリアクションであったが。
「…本当に?大丈…夫?」
相手がひらひらと手を振れば、そう改めて労りながらも不思議そうに首を傾げる。
(………何か、変な感じがする…?)
傷が綺麗さっぱりなくなっていることに気付くほどの能力は流石に無いが、「何か」が引っかかっている様子である。
…無論、その「何か」を言語化する力も、「今のところ」この少女にはないのだが。
「………それにしても、カツカレーにアップルパイって、凄い組み合わせね。
確かに、そろそろ林檎の季節だけど」
がっつりと食べるらしい頼の注文に、苦笑を浮かべながらティーカップを口元に運ぶ。
高校生の年頃にしては、手慣れた所作に見える。
■八百万 頼 >
考え事?
恋の悩みとか?
(からかうような顔になり、微妙にわかりにくいボケをかます。
ひとの こいばなは たのしい。)
いやぁ、友達と「ミニスカと水着どっちがセクシーか」なんて議論しとったら思わず熱入ってしまってなぁ。
手ェ振り回しとったらガラスばしゃーんって。
――ちなみに美澄ちゃんはどっち派?
(無駄に聞かれてもいない事まで口に出す。
彼女が何かに引っかかっていると言う事には、表情や空気で気付いている。
が、それは表に出さず、あくまであっけらかんと。)
そお?
でもほら、カレーにりんごとはちみつってよう聞くし、意外と合うんちゃうかな。
――いやボクはデザートのつもりやったけど。
(素材的には合わないわけでもないと思う。
そこへ、コーラだけが先にやってきた。
店員に礼を言い、一口飲む。)
■美澄 蘭 > 「うーん………違うけど遠くはない、って感じかしらね。
私自身の振る舞いとか、心構えのことだから」
からかうような顔にも、苦笑いのままで答える。今のところ、刺されるような図星は存在しないらしい。
「………そんなの、一般論で片付くことじゃないと思うけど…
そういうことで熱くなれるものなのね。
…怪我は本当にもう大丈夫みたいだから良かったけど」
怪我をした経緯については、「しょうもない」という感想を隠しもしない失笑を零し。
…それでも、頼の怪我が本当に問題がないのだということを、頼の振る舞いや…それ以外の「何らかの」要素から信じるに至ったようで、最初に包帯を見たときの表情の曇りは消えたのだった。
「うーん…カレーってそんなに積極的に食べたいと思わないから、ピンとこないのよね。
…まあ、普通は何も言わなくとも食後に出てくるとは思うけど」
「カレーの食後にデザート…」と、やっぱりどこか腑に落ちないように一人で呟いていると、相手の飲み物が先にやってくる。
頼がコーラを飲むのに合わせるように、蘭もアップルパイをまた一口、口へ運んだ。
■八百万 頼 >
ふーん?
当たらずとも遠からず、ちゅうことは――人付き合いの悩みやろか。
相談乗れる事なら乗るよ?
(どうやら微妙に違ったらしい。
それでもその方面の事なら得意分野だ。)
一般論や言うたら、好き嫌いは起きひんよ。
より自分が好きなモンを伝えたいから、そんな風にアホやんねん。
怪我なんか美澄ちゃんの綺麗な顔見たら治ってもたわ。
ほらこーんなにうご――!!
(などとアホ名事を言ってぶんぶん振り回していたら、柱に思いっきりぶつけた。
怪我が無くても十分すぎるほどに痛い。
目を見開いて椅子から数センチ浮く。)
――カレー、美味しいやん。
ボク自分で作る時も結構拘るぐらいや。
(細い目の端から涙を流しつつ、ストローからコーラをすする。
自身の異能で痛みは消せるが、それをやったら明らかに不自然なのでしていない。
いたい。)
■美澄 蘭 > 「………。」
「相談に乗る」と言われて、少し悩んだ後。
「…そんな感じ。ちょっと、自分の振る舞いとか、根本にある考え方を直していこうと思ってて。
………卑屈だったり、やたら自己卑下する人と接しててイライラする現象って、何か名前ついてそうだと思わない?」
真顔で、何かやたら具体的な現象を喩え話に出した。
「…だって…その人の好き嫌いもそうだけど、「何が魅力的になるか」とか「「セクシー」とは何か」とか、絶対噛み合なさそうだもの。
………大丈夫?」
アホなことに対して、苦笑いを浮かべながらも真面目に反論していたら…何か相手が自爆した。
気遣わしげに眉は寄せているが、手で隠されたその口元は明らかに笑っている。
「まあ、美味しくないとは言わないけど…それよりはライトミールとか、普通の和食の方が好みなのよね。
カレーだけで結構ボリュームあるから、副菜で品数…とかやるのも難しいし」
見た目通りというか何というか、いわゆる「オトコノコ」からは離れた食性の持ち主のようである。
食自体は、見た目からすればまあ食べるくらいなのだが。
一応、痛みを消す程度のことに治癒魔術を使えなくはないが、どうしようかな…という感じで、微妙な苦笑で頼の方を見ている。
…それでも、真面目くさって固まらない、年齢相応の一面を見せているだけ、目の前の青年には心を許しているのだろう。
■八百万 頼 >
ふんふん。
それがそうかは知らんけど、そう言うのって自己嫌悪みたいなもんやって聞いた事はあるな。
自分に自身が無い人が、他人のそういうとこ見ると自分の弱いとこ見てるようで腹立つ、っちゅうやつ。
(人間と言うやつは、自身の弱いところを見たくないものだ。
だから自分のコンプレックスが表に出ている人を見るとイライラしたり面白くなかったりするとかなんとか。)
かみ合わんかも知らん。
理解もされんかも知らん。
――でも、その人が何で喜ぶんか、何に心を動かされるんか、何を魅力と感じるんか。
それを知る事は出来る。
伝える事は出来る。
――おーいた、折れたかと思った。
(彼女の言葉に、まじめな顔になる。
そうして、自分の考えを告げたところで、慌てたように話題をぶつけた右手の話に変える。)
ボクはそれが楽でええんやけどな。
うどんとかラーメンとかも好きやけど、栄養とか考えたらカレーが楽や。
(とかなんとか言っていたら、話題のカレーが運ばれてくる。
見ただけでサクサクとわかるカツが乗っていた。
スプーンを手に取り、手を合わせていただきます。)
■美澄 蘭 > 「………自分の欠点を他人に「投影」しちゃう、ってやつ?
…でも、分かるかも…そういう人を見てると、自分のことみたいにいたたまれなくなっちゃったりするし…。
…自分に自信が持てればいいんでしょうけど、そう簡単な話じゃないものね」
「一つ一つ、積み上げていくしかないわ」と、軽い溜息を一つついた。
「………。」
(…しょうもない話をきっかけに、信じられないくらい真摯な話をされてる…)
真面目な顔で諭されれば、鳩が豆鉄砲を喰らったかのように目を丸くし。
頼くらい経験豊富な人間であれば、心の声を顔から読み取るのは容易だろう。
…しかし、最後に砕けたように右手の話になれば、苦笑いを零して、
「………痛みが長引くようなら、病院で看てもらってね?」
と、気遣いの言葉をかけた。
「こっちで一人暮らし始める時に、家族みんなから釘刺されたのよね…「栄養バランスには注意しろ」って。
一応自炊もするんだけど、一人暮らしのキッチンじゃ大したことできないでしょ?勉強とかで時間も取られるし。
…だから、栄養のバランスは学食で気をつけるようにしてるの」
「一人分なら、下手な自炊より安上がりだしね」と、笑って、またティーカップを手に取り、口に運んだ。
■八百万 頼 >
そういうやつ。
――自分のことみたいにっちゅうことは、逆に言えば人の気持ちがわかる言う事や。
自信が無い言うんも自分に足りんモンわかってる言うことやし。
そう言う人の方が、ボクは好きやな。
(コーラのグラスを回して笑いかけながら。
ものは言い様、と言うやつだ。)
――んん。
大丈夫大丈夫、こんなん日常ちゃめしごとや。
(思わぬところで自分のことを語ってしまった。
なんだか恥ずかしくなり、咳払いを一つ。
へらり、と笑ってくだらない冗談を飛ばす。)
身体は資本やからな。
――いやぁ、そんなこともないよ。
煮物とかやったら多めに作って冷蔵庫入れといたりするし、ご飯も冷凍しとけばええし。
(自炊は自身も結構している。
とは言え自分の場合は趣味のようなものだし、ほとんどは外食だ。
確かに学食は安いしな、と笑いかけながらカツを口へ。)
■美澄 蘭 > 「………でも、「投影」までいっちゃうと、人との衝突も増えるから。程度問題だと思うのよね。
「社会に出る」ってことは、人と関わっていくってことだと思うし…もう少し、何とかしたいな、って思ってたの。
…自信過剰も同じくらいか、下手するとそれ以上に問題なのは分かるし、難しいけどね」
頼に応えるように、こちらも笑い返す。
…が、相手が不意に咳払いをすれば、「何か気にしてるのかな?」と考えたらしく。
「………そういう話を変に茶化されるよりは、真摯に話をしてもらうくらいの方が、話してて安心するけどね。
…私の方こそ、馬鹿にしたように聞いてて悪かったわ」
そう、頼の話した内容の、「真摯さ」の方を茶化すつもりはないのだという風に、少し笑いながらも、申し訳無さそうに目を軽く伏せて。
…これ、相手によっては余計にいたたまれなくなるやつじゃないだろうか。
「ええ…身体が不調だと、出歩くのも億劫だし、色んなことが出来なくなっちゃうしね。
…煮物やおかずの作り置きとか、ご飯の冷凍とかはやるんだけどね…作り置きにしても、品数を作ろうと思うと結構まともな時間取っちゃうし…なかなか。」
そう言って苦笑する。
一応、朝夕は自分で作ったものを食べることの方が多いのだが、基本的には自炊などより学業などの方を優先したいらしい。
■八百万 頼 >
衝突すればええねん。
ボクらまだ子供や、大人なったら衝突も出来へん。
ぶつかってぶつかって、人とぶつからんやり方覚えてくもんや。
(衝突を恐れていてはどんどん自分が引っ込んでいく事になる。
自分を出しつつ衝突も避けるには、まず速度を出すことが先だ、と。)
あー、ちゃうよ、そう言うことちゃうんや。
うん、個人的なことや。
美澄ちゃんのせいやないから気にせんといて。
(そう言う顔をされれば、逆にこちらが気にしてしまう。
少し慌てたように手を振りつつ、気にしていないと伝えよう。)
一人で暮らしとると洗濯とか掃除とかもあるし、結構億劫やったりするしな。
二人居れば余裕も出てくるんやろうけど。
(掃除洗濯と違い、料理は手間と品を手軽に買える。
だからどうしても優先度は低くなりがちだ。
それが安いとなれば、なおさら。
話しながらもカレーは食べる。
もうすでに八割ほどなくなっていたりする。)
■美澄 蘭 > 「…これでも結構、衝突はするんだけどね」
そう言って苦笑する。
頼は既に知っているだろうが、この少女、大人しそうな華奢な外見に似合わず、割と我が強いのだ。
「…だから、少しずつでもぶつからないやり方を覚える修行をしたいな、って最近思い始めてるところなの」
そう言って、紅茶を飲み干す。
…と、慌てたように手を振る頼の様子に、不思議そうに首を傾げて。
「………こういう話は、個人的なこと「こそ」大事なんじゃないの?」
この少女、明らかに素である。狙ってこれなら大女優である。
…だからこそ、見ようによっては性質が悪い。
「そうね…その辺寮ならある程度利便性ありそうだったんだけど…選考落ちちゃったからしょうがないわ」
そう言って、苦笑い。まあ、経済環境で判定されるなら、間違いなく落とされるだろう環境で蘭は生まれ育っているのだが。
「…と、私、そろそろ行くわね。
趣味の読書もいいけど、勉強もしないと。
…獅南先生の講義も再開したしね」
傍らに置いていた本をブリーフケースの中にしまうと、自分の分の伝票を手に取って立ち上がる。
先に店にいたし、頼んだ量が違うから仕方ないのだが、蘭の方の飲み物と食べ物は、すっかり空になっていた。
「じゃあね。…また、機会があったらお話ししましょ?」
頼が特に引き止めなければ、このまま会計をして店を去るだろう。
■八百万 頼 >
美澄ちゃん結構気ぃ強いからなぁ。
――でもええんちゃう?
ボクは曖昧に仲良くするより、ケンカしてぶつかる付き合いの方が好きやし。
それにそう言う努力が出来るんなら大丈夫や。
(へら、と笑う。
結局のところぶつかる人とはぶつかるのだ。
その分仲良く出来る人とより仲良くするのも、ぶつかる人を減らすのも自由。
その努力が出来る人は、好ましく思う。)
ボクの話やったらな。
今は、美澄ちゃんの話や。
(に、と笑う。
その笑みは「今は話すつもりが無い」と伝えている。)
寮も数限られてるしなぁ。
――ん、ほな元気で。
(立ち上がる彼女に手を振る。
すれ違いに運ばれてきたアップルパイを食べながら、彼女を見送ろう。)
■美澄 蘭 > 「…まあ、気が強くなかったら、そもそも今ここにいないしね」
そう言って笑う。
気が強くなかったら、家族のうち一人の反対を受けてまでこの学園にきていないし…最悪、「学校生活」そのものに対して心が折れていたこともあり得るのだ。
「…まだ、「努力」の形は全然出てきてないけどね。これからの願望よ」
人はぶつかること、蘭だって分かっていないわけではない。
…でも、いつまでも殻に閉じこもって生きていられるわけはないのだ。
殻を破ることが「大人」になることなのだと、最近の蘭は思うようになっていた。
「………私の話…?
「その手」の話なら、大した経験なんてないわよ。小学生の頃の一回きりだもの」
不思議そうに、きょとんと首を傾げて。
「…まあ、そんな思い出話で良ければ、機会があればしてもいいけど。
………でも、本当につまらない話よ?」
そう言って苦笑する。
…この少女は、頼が自分の話を「断ち切った」ことは、気にしていないようだった。
「まあ、一人暮らしは一人暮らしで気楽だから良いけどね。
…ええ、それじゃあ、また」
頼の元にもアップルパイが届いたのを見届けつつ、軽く手を振ってテーブルを後にする。
そして、勘定を済ませて、カフェテラスを後にしたのだった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から美澄 蘭さんが去りました。
■八百万 頼 >
(そうして一人になった店内。
正確には他の客もいるだろうし、店員だっている。
ただ、知り合いがいないと言う意味では、一人だ。)
――色々動いとるよなぁ。
面倒増えそうやなぁ。
(思念群体の騒ぎとか、米軍絡みの事とか。
アップルパイをかじりながら、憂鬱そうな顔。)
――あっこれ美味い。
(そんな感じで時間は過ぎていくのであった。)
ご案内:「カフェテラス「橘」」から八百万 頼さんが去りました。
ご案内:「ゲームセンター『ワンダーランド』」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「ゲームセンター『ワンダーランド』」に加賀智 成臣さんが現れました。
■レイチェル > ゲームセンター『ワンダーランド』。
ここには新旧入り乱れた、様々な種類のゲームが置いてある。
ビルは六階建てで、その内五階までがゲームセンタースペースとなっている。六階は休憩所になっているらしい。
待ち合わせの場所は、一階のクレーンゲームコーナーである。
右から左から、クレーンゲームの電子音が鳴り響く中で、
金髪の少女が一人、腕組みした状態で壁に背を預け、待ち人を
探していた。
■加賀智 成臣 > 「…………えぇ…と……。」
そんなけたたましい空間の中、音の波に揺られるような覚束ない足取りでフラフラと中を歩く青年。
あたりをキョロキョロと見回し、誰かを探しているようにも見える。
あちらこちらのガラスの中で、クレーンや景品が右へ左へ動き回る中、その向こうにようやく探し人を見つける。
「……あ。す、すみません…あ、すいません……
……れ、レイチェル、さーん……」
その場に行こうとした瞬間、狭い通路を通ろうとした団体客と鉢合わせて掻き分けるような形になった。
もちろん嫌な顔をされている。
■レイチェル > 壁に背を預けているレイチェル。
髪型は普段のツーサイドアップではなく、ポニーテールにしている
ようだ。艶やかな金髪が、少し大きめの黒のリボンできゅっと結ばれている。
団体客を掻き分けながら近づいてくる彼の様子を見て軽く肩を竦める
レイチェルであったが、それも一瞬。
にっこりと笑って彼を迎え入れる。完全にオフの顔、というやつだ。
風紀委員の腕章も今はつけていない。
「よう、来たか加賀智。久しぶり、っちゃ久しぶりだな。
悪ぃ、色々ごたついててな……まぁ、そのごたごたはひとまず
解決したから、今日は時間が出来たって訳なんだが」
■加賀智 成臣 > 足元を駆け回る子供にふらつきつつも、なんとか倒れたりはせずにレイチェルの元まで歩み寄る。
いつもの制服姿ではなく、ジーンズにTシャツという非常にラフな格好。あまりセンスが良いとは言えない。
笑いかけられれば、微妙な顔をする。
笑っているのか照れているのか困っているのか、その三つを足してひっくるめたような複雑な顔だ。
「いえ、ありがとうございます…僕なんかを誘っていただいて……
最近姿を見なかったので、少し心配してたんですけど……お疲れ様でした。
…あ、僕なんかが心配するなんて分不相応ですよね…すいません……」
相も変わらずネガティブなようだ。
だが、誘ってくれたことに感謝しているところから見るに、本人もそこそこ楽しみにしていたのだろう。
■レイチェル > レイチェルの格好はと言えば、白のタートルネックにブラウンのライダース、
下は黒のチュールスカートといった服装だ。
完全にオフのそれである。
「すまねぇな。あれからなかなか会えなかったのは、オレとしても
申し訳なく思ってたところだ。で、まぁ今日は誘った訳なんだが……」
何とはなしにクレーンゲームコーナーを、巡るように歩き始める
レイチェル。
「そういえば貴子から伝言は聞いたぜ。オレに礼がしたいんだって?」
数歩歩いたところで、くるりと後ろを振り向いて、レイチェルは
首を傾げた。
■加賀智 成臣 > 「あ、いえ……この学校、風紀委員の負担が凄く大きいっていうのはよく聞くので……
多分、大きい事件だったのかなぁ、と…。ですから、そんな申し訳ないなんてことは……」
目線を逸らしつつ、頬をポリポリと掻く。
よく考えたら、私服の女生徒と並んで歩いているのだ。……変な噂が立ってレイチェルさんの評判が落ちないといいな、と思った。
「……え、あ、はい。まぁ、そう、です。
…色々、相談に乗ってくださったり、お世話になっているので……とはいえ、どんな形でお礼をするかとかは……
その、まだ決まってないん、ですけど。…すいません。」
少しバツが悪そうに目線を下に落とす。
普段人に感謝する、人に感謝されるなどの経験が殆どないため、こういう時にどうすべきか分からないのが原因のようだ。
■レイチェル > 「ふーん。そうか、そうか。
どういう風に礼をするかは決まってない、か……」
にやり、と口元を緩めるように微笑するレイチェル。
「それじゃあ、さ……?」
すす、と。
振り向いたまま加賀智の目と鼻の先まで近寄るレイチェル。
身長差がある為に、レイチェルからすれば加賀智を見上げる形になる。
二人を知らぬ者から見れば、兄と妹のように見えなくもないであろう。
「じゃあ、さ……! その、一つ、頼みたいことがあってな……。
礼がしたいっていうなら、頼んでも、いいか……?」
そう口にするレイチェルの顔は、少し赤い。
明らかに、恥ずかしがっているように見える。
普段の、大人びて凛とした表情からは想像もつかない顔であろう。
■加賀智 成臣 > 「…はい。すみません。いろいろ考えたんですけど、どうしても思い浮かばなくて……
いっそレイチェルさんにリクエスト取ってからにしようかな、なんて……」
言葉が切れる。
目と鼻の先に、レイチェルの顔がある。不健康そうな隈に包まれた加賀智の目に、レイチェルの顔が映る。
いい香りだ。
「……あ、はい。何でしょう。
僕にできることならなんでも……」
普段と違う様子に少し戸惑ったりしつつも、頬をポリポリと掻く姿はいつもと変わらず。
そして顔色も普段と同じ悪さ。
■レイチェル > 「じゃあ、さ……その……ちょっと言うの恥ずかしいんだけどな……」
視線は加賀智から逸れて斜め下へ。
もじもじした様子で、口元をもごもごさせている。
なかなか見れたものではない。が。
そこでびし、と。左の指先を一つのクレーンゲームへと向けて、
レイチェルははっきりと口にした。
「これ、取ってくれ!!!!」
『ネコマニャンだニャ~ン』と書かれたPOPがどどん、と貼り付けられて
いるそれは、常世学園で一部の可愛いもの好き女子からコアな人気を
得ている、ネコマニャンというキャラクターのぬいぐるみキャッチャーであった。
『秋のきのこ狩りバージョン』と書かれており、
腹巻きをした二足歩行の猫――ネコマニャンが、大きな松茸に
抱きついているぬいぐるみが、沢山並べられている。
「……駄目か?」
ちらちらと加賀智の方を見やりながら、レイチェルは少し弱々しい
声色でそう問いかけた。
■加賀智 成臣 > 「……ああ、はい。」
なるほど、これか。そう言えば学生がきゃいきゃいとストラップを弄くり回している様子を見た。
大体の女子学生、そして一部の男子学生の携帯端末に、似たキャラクターがくっ付いているのを見た。
要は似たキャラクターではなく、バージョン違いということだろう。
…意外と可愛い物好きなのだなあ。そういう感想は、頭のなかにしまっておく。
「それは別に良いんですが……僕、こういうの苦手で。
お金もまぁ、それなりにしか……なので…」
そう、一番のネックはそこである。この加賀智という男、ゲームなどというものにはあまり感心がなかった。
勿論プレイしたこともほぼなく、クレーンゲーム自体も片手でプレイ数をカウントできる程度のもの。
それが、いきなり取れと言われて取れるのかというと……
「……頑張ります。」
……取れる、とは言わなかった。だが、取れないというわけにも行くまい。
こんな状況でそんなことを言ったら、顔を赤くした目の前の女性は恥かき損ではないか。そんなことがあってはならない。
そう思い、筐体にコインを入れる。
■レイチェル > 「ほんとか! ああいや、それならオレが金出すからさ
……オレこういうのほんとさっぱり苦手で、
全然取れなくてさ……! やってみてくれよ加賀智!」
気づけば彼女の手の内にはお札が数枚。いつでも両替機に突っ込む準備が
出来ているようであった。頬を赤らめながら、ここまで真剣な表情をし
ている彼女は実に珍しいかもしれない。
「一個取れればそれでいいんだ、一個!
頼んだぜ~」
筐体にコインが入れば、とたた、と駆けてクレーンゲームに
半ば張り付くようにして、食い入るように中を窺う。
■加賀智 成臣 > 「……は、はい。」
だいぶ緊張している。これまで、こんなに期待をかけられたことがあっただろうか。
こんなに人に頼られたことがあっただろうか。
期待に応えなければ。裏切らないようにしなければ。
「……………………………。」
横軸を合わせる。代謝の悪いはずの体から、冷や汗が吹き出る。
ここまでだけで、瞬きを一度もしない程度には緊張している。
横軸は合った。
縦軸を、合わせる。
クレーンが進んでいく。進む。進んで……止まる。………少しズレた。
クレーンは、筐体の中に鎮座するぬいぐるみを押しのけ、転ばせた程度で終わってしまった。
「………も、もう一回……」
やはり『取れるわけがない』。…だが、『取らなければならない』。
冷や汗をかきながら、コインをもう一度入れる。
■レイチェル > 「お、おっ! おっ……いい感じだぜ、加賀智!
その調子だ……!」
横軸が合ったのを見て、レイチェルは嬉しそうにそんな声をあげる。
そうして彼女は、年相応の少女のように目を輝かせながら、ぬいぐるみを見つめている……。
「……ああ、転んじまった、ネコマニャン……」
悔しそうに、そんな声をあげるレイチェル。
くる、と加賀智の方へ振り向いて、両拳を握る。
「でも結構いい感じだったぜ、もうちょっと頑張ればいけるかも
しれねぇぞ……!」
輝く瞳から放たれるのは、期待を込めた視線だ。
加賀智がプレッシャーを与えられて緊張しているとは露知らず。
■加賀智 成臣 > 「………………。」
レイチェルが振り向けば、レイチェルの方に目もくれずに冷や汗を流しながら筐体を見つめる加賀智の姿がある。
がちゃりとコインが吸い込まれ、気の抜けた電子音。
横軸を合わせ、縦軸を合わせ。転んだネコマニャンの首に引っ掛けるようにして持ち上げる。
少しばかり残酷な図だが、致し方ないだろう。
転んだ体が、横向きのままで持ち上がり……空中で、へたれたアームに見放されて落下した。
「…………………!!」
落下した、のだが。
落下したぬいぐるみが、転がる。
『物に抱き付いている』という形状上、丸さを活かして結構な勢いで転がったぬいぐるみは他の景品にぶつかり……
隣りにあったぬいぐるみを、景品排出口に押し出した。
「………あれ?」
諦めて、財布の中のコインを漁っていた間の出来事である。
■レイチェル > 横軸、縦軸共に、調整はいい塩梅である。
ネコマニャンの首がぐぐ、と持ち上げられる。
首を掴まれたネコマニャンはぶらーん、ぶらーんと移動していき……
「いいぞ、持ち上がってる……! いける! 取れるっ!」
ぱぁ、っと顔を輝かせるレイチェル。しかしそれも一瞬のことで。
「あ……」
クレーンゲームをやっていれば、実によくあることである。
投入口に行く前に、ぬいぐるみは無慈悲にも床に地に叩き付けられ
てしまう。それを見たレイチェルはがっくりと肩を落とし――
しかし、次のその瞬間。
目の前で起こった奇跡を見て、レイチェルの顔は再びぱぁっ、と
明るくなる。
そうして。
がたん、と。ネコマニャンの季節限定ぬいぐるみが排出口へと
出てくれば、生き別れになった愛しの我が子と再会した母親のような
勢いと優しさで以て、排出口にあるそのぬいぐるみを取り出して
ぎゅっ、と胸に抱き寄せるレイチェル。
「やった、さんきゅー! ありがとう、加賀智っ……!」
本当に、本当に嬉しそうな笑顔である。
普段の彼女からは全く想像のつかない、清らかな少女を思わせる
笑み。
「お前、クレーンゲーム上手いんだな! また欲しいネコマニャン
ぬいぐるみが出た時は頼らせて貰うぜ!」
んーっ、と。
ぬいぐるみに軽く頬ずりするレイチェル。余程嬉しいらしかった。
■加賀智 成臣 > 「…………あ。え、……は、はい?」
本人が一番現実を理解できていないようだ。
何が起こったのか?何故ぬいぐるみが排出口にあるのか?
確かにぬいぐるみは取り落としたはずで……
「…………。あ、はい。どういたしまし、て。」
……ともかく、取れたのなら良かった。
目の前のこの人を、失望させずに済んだ。それだけである。
自分がクレーンゲームが上手いとか、そんなことは一切思わない。今回も、偶然の産物だ。
だがまぁ、その偶然で目の前の人が喜んでくれたなら……
「……良かったです。……あんまり頼られると困りますけど。」
頭をがりがりと掻きながら、目を逸らす。
喜ぶ姿を見れたことが、何よりの報酬である……などといったキザな考えはないが。
■レイチェル > 「いや、まさかぬいぐるみとぬいぐるみをぶつけて、落としちまうなんて
な~。びっくりだぜ、ほんと。クレーンゲームのプロだな、加賀智!」
レイチェルは上機嫌で、目の前に居る彼を褒め称える。
無論、ぬいぐるみからも意識は離さないのであるが。
「よし、じゃあお礼はこれ、ってことで。
確かに受け取ったからなっ」
彼女の柔らかな胸に、押しつぶされるようにぎゅっと抱えられている
ネコマニャン。これからもきっと、このぬいぐるみは大事にされる
ことであろう。
「それじゃ、せっかくだし。もうちょっと遊んでいこうぜ。
ほら、VRゲームとかあるみたいだしな。こっちの世界じゃ、
最新なんだろ? やりに行こうぜ、ほらっ」
加賀智の答えは聞かずに、すっかり舞い上がったレイチェルは
小走りでクレーンゲームコーナーを抜けていく。
「早く来いよ~っ」
ネコマニャンぬいぐるみを片手に持ったまま、加賀智へ向けて、
笑顔で手を振るレイチェルなのであった。
■加賀智 成臣 > 「いやそんな……あれは偶然で、全然狙ったわけでは……」
気恥ずかしそうに頬を掻きながら、目線を逸らす。
ぬいぐるみを抱きしめて幸せそうに微笑む姿を直視できるほど、男性として肝は据わっていないのだ。
「………大事にしてもらえそうで、良かったです。
あ、待ってください…僕、そういうの酔いそうであんまりやらないんですけど……」
その背を慌てて追いかける。
…今日は、来てよかった。
何かと嫌な目に遭う加賀智が、そんなことを思いながらイベントに参加するのは、とても珍しいことであった。
「は、は~い…あ、すいません……」
人にぶつかりそうになりつつも、手を振るレイチェルに向かって歩いていく。
少しだけ、口元が緩んだような気がする。
ご案内:「ゲームセンター『ワンダーランド』」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「ゲームセンター『ワンダーランド』」から加賀智 成臣さんが去りました。