◆特殊Free（過激描写注意）1 2017/06/10

2017/06/10 のログ

銀髪の少女 > 「「………何のつもり？」」

我に返った青年の声を受けて…「少女」の声が、二人分聞こえる。怒りとも悲しみとも、動揺ともつかぬ震えた声。
今までの涸れた声と…あどけない、少女らしい声。
その声は、この廃屋で耳にした、とある声とよく似ているだろう。
「バケモノ」と同じ色の瞳にアメジストが渦を巻く…しかし、それはわずかな瞬間のことだった。

「…お前達が…バケモノが、あの子を殺したのに…！」

涸れた声が、悲しみと怒りに軋む。
術式の形を取らぬまま渦巻く魔力は、風の刃舞う空間に、異様な冷たさと、翻っての焦げ臭い匂いを漂わせ始めていた。
…それは、「バケモノ」たる彼の忌み嫌う甘ったるい匂いすら塗りつぶし…廃屋の空間が、わずかに揺れを起こし始める。

ヴィルヘルム > 「ごめんね，自分でもよく分からない。」

生まれた瞬間に，両親の愛を失ったこの青年にとって，貴女の怒りや悲しみは，紛れもなく自分が得られなかった愛の表出であった。
青年はそれを自覚していたわけではなかったが，肌で感じていたのだろう。
貴女へ向けていた怒りが，自分でも驚くほど綺麗に，失われていくのを感じていた。

「……いいよ，僕を殺して，それで君が満足なら。
　僕は故郷でも，ここに居ても，要らない子だと思うから。」

青年はその巨体を，静かに床に横たえた。
これまでの衰弱と，出血によって，実際に心身が限界を迎えていた部分もあるかもしれない。

「……………。」

母の愛を受けたにもかかわらず，死んだ“あの子”と，誰からも愛されずに生き永らえた自分。
……生きるに値するのは，どちらだったのだろう。

銀髪の少女 > 「………そう………。」

「バケモノ」が抵抗をやめたのを読み取って、周囲に纏わせた風の刃の嵐ごと、ぎこちない足取りで近づいていく「少女」。そのままいけば、無抵抗な「ケダモノ」は無惨な肉塊と血溜まりにその形を変えるだろう。
クローデットを奪おうとする「バケモノ」を、失意と絶望の中で殺せるのだ。無表情ながらも、「バケモノ」と同じ色の瞳は歓喜に輝き………

唐突に、揺らいだ。

「………！？どうして………邪魔、するの………？」

風の刃の嵐の端が、青年に到達する、一歩手前でその膝をつく「少女」。

「…どうして…どうして…！？
そんなに…この「バケモノ」がかわいいの…！？」

痛み故か両手で頭を抱え、一人で勝手に苦悶し、嘆く「少女」。
その瞳の紅の中で、アメジストが大きく渦を巻く。

「………わたしには………あなたが…わからない………」

悲しげに、そんな言葉を切れ切れに零して。
「少女」は、その場にぱたりと倒れてしまった。
風の刃の嵐も、禍々しい魔力の奔流ごと、かき消える。

ヴィルヘルム > 覚悟を決めていたわけではない。
死ぬのは恐ろしかったし，何よりも，痛いのは嫌だった。

「……………。」

けれど，抵抗する力も殆ど残ってはいなかったし，
この女の子を殺して生き延びたら，一生後悔するだろうとも思っていた。
自己犠牲の精神などではなく，彼なりには打算を働かせた結果だったのだ。
しかし，その瞬間は，ついに訪れることはなかった。

「……？　…何が……？」

本当に，青年は何もしていない。自分を殺そうとする相手を，呪ってさえいない。
だからこそ，その状況を理解することができなかった。
……貴女が倒れ，風の刃が失われる。
青年は恐る恐る，その体を持ち上げて，引きずるように貴女に近づいた。

「…………………。」

恐る恐る，鼻先で貴女をつつき，ゆすってみる。

銀髪の少女 > 「………う………」

鼻先で突かれ、揺すられて出てきたうめき声は、かすれ気味ながらも、確かに、どこか聞き覚えのある、少女じみたものだった。
苦悶に歪む表情から、薄目で開かれた瞳の色は…アメジストのごとき青紫。

「………どうして…わたし、こんなこと………」

涙目で、苦しそうに途切れ途切れの声を漏らす「少女」。
獣の目でどこまで判断出来るかは分からないが、その顔色は、紙のごとき白だった先ほどまでより、更に悪かった。

ヴィルヘルム > 顔色はともかくとして，とぎれとぎれの声から貴女の状況はある程度把握することができるだろう。
ただ，如何にしてこの状況に至ったのかは，全く見当もつかなかった。

「………………。」

ただ，貴女が悲しんでいることだけは確かだったので，青年は貴女をゆする鼻先すっと離して，
紅色の瞳が，貴女のことを心配そうに見下ろすだろう。

「……ごめんね。」

誰に対して謝ったのか，どうして謝ったのか，青年は，自分でもよくわかっていなかった。

銀髪の少女 > 「………わたし…けだものがこわくないくらい、つよく、なったのに………
どうして…みとめて、くださらないの………？」

苦しげなアメジストの瞳は焦点が合いきっていないらしい。目の前の相手が唐突に謝罪の言葉を零したことも、まるで意に介してはいなかった。
「少女」の目からは涙がこぼれ、その声には嗚咽が混じる。

声は少女らしいそれのままだが、苦しさに明晰さを欠く言葉の中に、「彼女」本来の言葉遣いが混じった。
その言葉は、泣き言は、目の前の相手に向けられたものでないのは明白だろう。

ヴィルヘルム > 「…………。」

貴女の言葉遣いは，確かに聞き覚えのあるものだった。
そしてその声も，記憶の中に存在する“クローデット”の声と，重なりつつあった。

……青年は，多くを理解しようとしていた。
理解に苦しむ部分も多く，そして，理解できない部分も多い。
だが，真実というのは，どうやら，想像を絶するほどに複雑なものらしい。

「………………。」

それなら，突然，貴女が倒れて攻撃が止んだことにも，説明がつく。
その場合は，クローデットに，命を救われたことになる。

狼の姿をした青年は，明らかに困惑していた。
すっと一歩下がって，どうしていいか分からず，貴女を見つめることしかできなかった。

銀髪の少女 > 「彼女達」を取り巻く歴史や因縁、業を全部なかったことにしてしまえば、
「遅ればせながら娘に反抗期がきたが、保護者も娘本人もそれを認めることが出来ない状態の過干渉家族」
ということになるだろうか。
だが、「彼女達」を取り巻くそれらは、簡単になかったことにして良いものでもない。

「………。」

涙に濡れたアメジストの瞳が、ぼんやりと目の前の相手を見上げた。焦点が合っているのは、恐らく鼻先だろうか。

「………けが、してるの………」

それでも、酷い傷は、流れる血の色は分かるらしい。
当人も意識がいまいち定かでないのか、その口調は拙く、見た目以上に幼く思われた。

ヴィルヘルム > 向けられた視線，虚ろなそれを見つめ返しても目が合うことはない。

「…………。」

青年は言葉で答えることはせずに，脇腹の傷口に視線を向けた。
出血は徐々に収まりつつあるが，傷口は深く，そして大きい。

ヴィルヘルムがその歴史，因縁の一端をでも知っていたならば，
貴女に何か声を掛けられたのかもしれない。
だがヴィルヘルムは無知だった。無知だったからこそ，こうして今，ここに居られるのかもしれない。

銀髪の少女 > 「………なおす」

幼い口調でそう言った「少女」は、青い顔のまま、腕を支えにしてふらりと身体を起こした。
そのまま、ずりずりと…座った姿勢のまま身体を引きずり、獣の身体をした青年の、傷の傍に向かっている。
彼女に訪れる苦痛がなくなっているわけではないのか、時折、苦しそうに息を吐き出す。

ヴィルヘルム > 「…………。」

狼はその巨体を，静かに横たえた。
貴女の様子が尋常でないことは分かっていたが，どう声をかけていいか分からなかったのだ。
ただ，貴女が苦しそうな表情を見せるたびに，その巨体は僅かにたじろいだ。

銀髪の少女 > 息を荒げながら、「少女」はどうにか、狼の傷の、一番身体に響きそうな辺りに到着する。軽く、息を整えてから…。

「我が友に、癒しを与えん…『治癒（ゲリゾン）』」

彼女が身につけていた指輪の一つが、強い光を放つ。どうやら、効果を増幅する術式か何かが籠められているらしい。
一番酷い脇腹の傷はもちろん、それ以外の傷も動くのに支障がない程度には塞がるだろう。

瞳の中の意思のおぼろげさ、口調の幼さと比較すると、あまりにも淀みない、いつもの「彼女」の治癒の術式だった。

ヴィルヘルム > 隠すつもりが無いのではないかと思えるほどに，その詠唱も，術式も，正確そのものだった。
一番大きな傷だけでなく，身体中の痛みが溶けるように消えていく。
それまで苦痛に張り詰めていた糸が切れたように，その巨体は脱力した。

ヴィルヘルムはその視線を貴女へ向けて…

「……ありがとうございます。…ルナン，様。」

恐る恐る，その名を口にした。

銀髪の少女 > 「………みんなには、ないしょ」

名前を呼ばれても、「少女」はそれを否定しなかった。
ぼんやりとした瞳で、向けられた視線に応え…

「………。」

苦しげに息を吐くと、その身を巨体の方へ…先ほどまで傷があった胴体のあたりに、寄りかかろうと倒れ込む。顔色は、まだまだ悪いのだ。

ヴィルヘルム > 「……分かった，秘密にしよう。」

ヴィルヘルムはそうとだけ答えた。
寄りかかる貴女を包み込むのは，真っ白で柔らかな体毛。
その小さな体を受け止め，包み込むように，ヴィルヘルムは身体を丸めた。

「……ありがとう，って，言うべきなのかな。」

様子を見に来てくれたのも，命を救ってくれたのも，傷を癒してくれたのも，すべてクローデットだということになる。
まさかそんなことになっていようとは思いもよらなかったので，言葉はやや迷いを感じさせるものだっただろう。

銀髪の少女 > 「………ありがとう」

「秘密にする」と言われれば、ぽつりと礼を返す。
柔らかな毛皮にその身を委ね、身体を受け止めてもらい…「少女」の苦しげな様子は、少し和らいだようだった。

「………いいの…わたしが、あそびたかっただけ」

「身体の大きい、心優しい動物」にするように、顔を寄せた胴体に頬ずりする。
普段の「彼女」であれば、「遊びたかった」には邪悪な意図しか感じられないだろうし、今の「少女」が身に纏う、不釣り合いな甘ったるい香りもそれに添ったものなのだろうと思えるが…

今の「彼女」は、まるで「身体の大きい動物と無邪気にじゃれ合う幼子」のようだった。

ヴィルヘルム > 遊びたかった。その言葉は幾通りにも解釈できるだろう。
好意的にも，悪意としても。
ヴィルヘルムは，判断を下すことを保留した。
……信じてはいけない。それはまさに，貴女から学んだ事だったから。

「……遊ぼう，僕はいつでも，ここにいるから。」

ただ，ヴィルヘルム自身も無意識だったのだが，
あれほど嫌悪した香りがこんなにも強く感じられるというのに，彼はそこに憎悪を感じなくなっていた。

銀髪の少女 > 「………でも、きっと、もうだめ」

そう返す「少女」の声は、寂しげだった。

「ぜんぶ、わすれなくちゃいけないの…ぜんぶ、ふたをしないといけないの。
………たいせつなひとを、かなしませてしまうから」

そう言って、「少女」は柔らかい毛皮の中に顔を埋める。

「………ずっと、いいこにしてたの。がんばって、おべんきょうして………
………つよく、なったの」

「なにが、いけなかったの…？」と呟く声は、涙声だった。

ヴィルヘルム > 「………………。」

貴女の悲痛な言葉に，ヴィルヘルムは判断を保留した自分を恥じた。
先ほどまでクローデットの体を乗っ取っていたのが【たいせつなひと】なのだろう。
クローデットの母親なのかとも思ったが，そんなことはどうでも良い。

「……何も，悪かった事なんて無いよ。
君は強い人だ，僕なんかよりずっと。」

【たいせつなひと】は愛していた娘を亡くしたのだろう。
そして，娘なのか，娘代わりなのかは分からないが，きっと今は，クローデットだけが支えなのだろう。

「僕はずっと，父さんと母さんの言いなりだった。
勉強したし，絶対逆らわなかったし……僕は弱かったから，それしかなかった。」

「……でも君は，強い。僕とは違う。
だから……君の【たいせつなひと】と，ちゃんと，話さなきゃ。
君が強くなってどこかへ行ってしまうのが，怖いんだよ……きっと。」

銀髪の少女 > 「………。」

狼の胴体に顔を押し付け、すすり泣いていた「少女」。
ヴィルヘルムの言葉を聞いて、少しずつ嗚咽はおさまっていくが…。

「………でも…そうしないと、そばに、いてあげられないの…」

そう、「彼女」とその「大切な人」は、ただの「過干渉家族」ではない。
そこに付随して行われた様々な所業を「罪」と認識することを、「彼女」は徹底して避け続けているのだ。
だから傍にいられるし…だからこそ、正面から「対峙」するわけにはいかないのだ。

「………でも………ありがとう。
やさしいこには………ごほうび………」

更に間隔が空いていく言葉。意識を手放すのか、「少女」の全身から一気に力が抜ける。
…しかし、「少女」の全身がその巨体にかかる前に、どういうわけか、「少女」は姿を消してしまっているだろう。
彼女がいた場所に、見覚えのある小振りの水のペットボトルと…皿にのせられラップに包まれた、「焼きチョコ」と呼ばれるタイプのお菓子を残して。

きっと、日が昇れば「彼」にも飲み食い出来ることを、知っているのだろう。

次に意識が戻った時、「彼女」は「大切な人」から身体の主導権を取り戻した後の出来事、一切を忘れてしまっているのだが。

ご案内：「廃屋の一室」から銀髪の少女さんが去りました。

ヴィルヘルム > そのまま，眠りに落ちてくれればいいと願っていた。
今だけは，何があっても貴女を守ろうと思っていた。
けれど貴女の身体は，まるで幻かのよつに消えてしまい，重さを感じることはなかった。

「…………。」

ヴィルヘルムは何を思っただろう。
【たいせつなひと】の傍にあることを選び，そのために自分を犠牲にする姿。

「君が忘れても，僕は覚えてる。
僕だけは絶対に忘れないから……だから，また，いつかどこかで…。」

…………貴女の残した【ごほうび】を，ヴィルヘルムは翌朝，全く警戒することなく，食べたのだった。
ヴィルヘルムにとってそれは，生涯でもっとも美味しく感じられるチョコレートだっただろう。

ご案内：「廃屋の一室」からヴィルヘルムさんが去りました。

ご案内：「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。

ご案内：「」にヴィルヘルムさんが現れました。

ご案内：「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。

ご案内：「廃屋の一室」からヴィルヘルムさんが去りました。

ご案内：「落第街路地裏」に谷蜂檻葉さんが現れました。

谷蜂檻葉 > 「かーごーめ、かーごーめ。」

汚らしい服装の少女が、落第街を走っている。　　　　　　　　『死にたくない』

「籠の中の鳥は」

涙を流しながら、土汚れた裸足で路地裏を獣のように走っている。　　　　『死にたくない』

「いーつ、いーつ、出やる。」

その後ろを、女がゆっくりと歩いていた。　　　　　　　　　　『死にたくない』

「夜明けの晩に」

不吉な童謡を歌いながら、路地をまっすぐに歩いている。　　　『死にたくない』

「鶴と亀が滑ーった」

路地を右へ左へと逃げ回る少女を『真っ直ぐ』追いかけていく。　　　　　　　『こんな、惨めに』

「後ろの正面」

少女が、地面に倒れた。　　　　　　　　　　　　　　　　『―――――死にたくない………！！！！』

「だ、あぁ、れ？」

その後ろを、注射器を玩ぶ女が追っていた。

谷蜂檻葉 > 「―――――”悪役ごっこ”楽しいですねぇ、癖になってしまいそう。」

女《谷蜂檻葉》は笑っていた。

「ほら、助けを呼んでみますか？　この島にはいっぱいヒーローが居ますからねぇ。

　もしかしたら、誰か格好いいアナタの運命の人が来てくれるかもしれません。」

その少女が誰一人として島の住人たちに関わりがないことを知っているから、谷蜂檻葉は楽しげに笑っている。

「楽しいですねぇ。　本当に、癖になってしまいそう。」

その少女が、罪人――密航して島に潜り込んだ無登録者――だと知っているから、谷蜂檻葉は楽しげに笑っている。

谷蜂檻葉 > 少女には何もない。

正当性も、異能も、『歴史』すらない。

何一つとして始まっておらず、今ここで終わろうとしている。

『谷蜂檻葉の人体試験』の被験者として彼女の末路は決定し、
その運命を覆そうと脱出を企て、何一つ意味を成さずに此処で終わろうとしている。

「……あぁ、そうだ。　こういう時はあれですよね。　『祈りの時間をあげましょう』。

　３０秒数えておきますので、祈って下さい。　「どうか神様、私をお救いください」って。

　いきますよー、　いーち、　にーぃ、　さーん、　しーぃ　………」

女《谷蜂檻葉》のカウントダウンが終わるまでの人生を、今ここに終えようとしている―――――

ご案内：「落第街路地裏」にイチゴウさんが現れました。

イチゴウ > ここは様々なもので薄汚れた落第街。
何が起ころうと不思議ではない。
そんな中を風紀所属の奇妙な四足ロボットが
ガシャガシャと音をたてながら歩いていた。

いつもはしょうもないイタズラをしている二級生徒を
しょっ引くのがこのロボットの平時のお仕事であるが
今日ばかりは何か雰囲気が違っており
何やら歌が聞こえてくるのをキャッチしたのだ。

「日本の民謡か・・・。それと同時に激しい呼吸音を
キャッチした。誰かが追いかけられているのか？」

低い機械音声で確認するように呟くと
その詳細を確認するべく路地裏へと入っていく。

谷蜂檻葉 > 「にじゅういーち、にじゅうにー、にじゅうさーん」

路地裏の中先、いっとう暗い窓のない建物の隙間にその二人が居た。

一人は、地面に這いつくばってガタガタと震えながら祈る少女。

そして、それを見下すように静かに立ってただ秒読みを続けている女。

何かを待っているのか。
それとも、何かが今終わろうとしているのか。

ただ、光景だけでは一口に理解できるものではないものが其処にあった。

イチゴウ > イチゴウが路地裏に入ってみれば
そこには見るからに異様な光景。
這いつくばる少女とそれを見下ろして
淡々とカウントダウンをしている女。

イチゴウには一体どういう状況なのかはわからないが
唯一わかった事はこの場において
這いつくばる少女が弱者であり
秒を読む女が強者であるという事だ。
そしてその強者がカウントダウンするということはつまり。

「風紀委員会だ。
おいキミ達、一体こんなトコで何をしている？」

少し大きめのボリュームの合成音声でそう言えば
まるで隔離されていたかのような二人の空間に
イチゴウが割って入る。

谷蜂檻葉 > 「にじゅうきゅー、　………　あら？」

何事もなくこの子”も”終わりか。と、最後の一言を告げるその時だった。

「どうも、今晩は。」

今にも死にそうな顔の少女は動かず、立っていた女は唐突に現れた機械に対して顔を向けるとニッコリと挨拶を交わす。

「『一体こんな所で』、ですか。　風紀委員会の方がこんな所で何をしてらっしゃるんですか？」

それから、さも不思議そうに首を傾げる。

「わざわざこんな危ないところにまで出向いて……もっと、入るべき場所があるでしょう？
　歓楽街とか……ああ、そうそう。学生区の街灯の少ない場所も最近どうも物騒みたいで。」

それから、微笑んだまま言葉を続ける。

「ですから、この場はご心配なく私にお任せくださいな。
　偽造の学生証で島に入り込んだ、『法にない人間』をこうして――――”好きにしている”だけですので。」

イチゴウ > ２９秒目のカウントダウンを中断した女が
ロボットに向けたのは先ほどの流れからすれば
いかにも気味の悪い挨拶。

「危ない所だからこそ戦闘兵器であるボクが
パトロールしているんだ。歓楽街のパトロールは
風紀委員であれば誰でも出来る。
何かおかしい点があるか？」

不思議そうに首を傾げる目の前の女を見上げながら
イチゴウもまた顔を少し傾ける。

「それとそこの這いつくばってるのは
不法入島者か。ならば保護対象ではないな。」

這いつくばっている少女を見つつ
相変わらずの低いトーンで冷たい機械音声を
路地裏に響かせながらまた女の方へ目をむけると

「この這いつくばってるのは保護対象ではないが
それがキミを見逃すという事にはならない。
キミは一体何者だ？まず所属を明かせ。」

女に対して法に無い人間を扱える”権利”が
あるかどうかを尋ねる。

谷蜂檻葉 > 「あらあら、この島で”危険の無い場所”なんて滅多に有りませんよ？
　何処の誰が手に一抱えの『見えない爆弾』を握り込んでいるか解りませんもの。

　………私だって、ほら。　かよわい女子ですから？」

言いながら、くるりと着物を魅せるように白衣をはためかせる。

「私は今は休職させてもらっていますが、図書委員に所属している『谷蜂檻葉』と申します。
　
　今はですねぇ、卒業に向けた研究素材として『人間』を使わせていただいているんです。

　ちゃあんと、許可証もあるんですよ。」

そう言って学園の文章に書かれた契約書を取り出した。

――――それが”どうやって”発行されたかは兎も角。
　　　　　　　　　確かに、彼女には『法治下にない存在』に対しての権利を有していた。

「いやぁ。　残念ですねぇ、面白いものが見れると思ったんですが。

　それではもう一度。　まぁ、１秒じゃあ変わりませんし特別にもう１０秒いきましょうか♪

　いーち、にーぃ、さーん　………」

そして、『互いに問題がない』と判断した彼女はもう一度秒読みを始めた。

イチゴウ > 「谷蜂さんね。偽名ではなさそうだ。
因みにボクは風紀委員会所属のHMT-15。
コードは”イチゴウ”だ。」

女が自己紹介をすればイチゴウの方も名乗る。
相手が自分の名をキチンと名乗ればこちらも名乗るというのは
このロボットが持っている一つのルールだ。

「それと”危険の無い場所”など滅多に無いというが
そんな事言ってしまえばこの世のほとんどが少なからず
危険要素を含んでいる。あくまでボクは危険の度合いが
高いトコに配備されてるってだけだ。」

いちいち機械的な反応を返すあたりはロボットであるといった所か。
少なくとも様々な闇を取り込んだこの島に
安全地帯など存在はしないだろうが。

そして白衣の女ーー檻葉がもう一度カウントダウンを
再開すればまたイチゴウがそのカウントを中断するように
声をとばす。

「研究と言ったな？それは一体どんな研究なんだ？」

ボロボロの少女が違反者で檻葉が正式に発行されている
契約書を所持している以上止める理由など無いが
研究内容によっては例外もあり得る。

谷蜂檻葉 > 「しーぃ、ごーぉ……　私の研究ですか？　それは秘密――――

　――――と、言いたいところですけれど、それじゃあいけませんよね。
　でも、まだまだ発表まで先が長いですから誰にも言わないでくださいね？」

イチゴウが声を張れば、その意図を汲んでかそれとも天然か。
秒読みを中断してイチゴウの話に付き合った。

「私の異能って、『匂い』を作る異能だったんです。
　それが匂いに反応する『記憶』に作用するようになり、やがて『意識』を作用するようになりました。」

ゆっくりと、手を少女に差し向ける。

「でも、『記憶』に手を出すのも難しいですし、『意識』は全然制御が効かないんですけどね。

　だから、こうして”手加減”を覚えるように『問題ないモノ』を使って練習しているんです。

　ごーぉ、ろーく、しーち………」

イチゴウ > 「なるほど。異能を絡めた研究というわけだな。
それに卒業に向けた研究素材というからには
この事を機密事項として扱わせてもらう。
データも暗号化しておくから安心してくれていい。」

そしてまた檻葉が這いつくばる少女に向けて
手を向けカウントダウンを再開すれば
イチゴウは何をするわけでもなく
なされるがままの少女に対して顔を向ける。
少女に向けられるアイカメラのレンズには
嘲笑も慈悲も無い。ただ見ているだけだ。

何の救いの手もなく実験材料にされるこの少女は
一体何を思うのだろうか？

谷蜂檻葉 > 「はーち、きゅーう、」

最期まで、少女はただ震えながら暗い空を見上げ

「――――じゅう。」

檻葉のその一言の後、イチゴウに感知できるだけのセンサーがあれば指先から『噴霧』された何かが少女を包み込み、彼女は声を上げずにガクガクとのたうち回り、浅く呼吸を繰り返した後、耳と鼻から血を吹き出して絶命した。

「……あぁ、終わってしまいましたねぇ。

　運命の人、白馬の王子様は現れませんでした。　めでたしめでたし、と。」

そして、それを名残惜しそうに見つめて残念そうにそう呟いた。

イチゴウ > その時は来た。
檻葉がカウントを終えれば実験材料は無残な死を遂げる。
各種計測センサーから異能による反応を
感知する事ができた事からも先ほどの研究内容は
本当であるようだ。しかし・・・

「おい、キミの異能は意識に作用するモノじゃなかったのか？
死んだぞコイツ。ちゃんとキミの契約書には
実験材料の人間は殺しても無問題って
記載されてるんだろうな？」

意識を作用するという話であるので発狂でもするのかと
思えばまさか絶命するとは予想斜め上だった。

谷蜂檻葉 > 「ええ、そうですよ。　意識に作用して、脳を過剰に動かしただけですから。

　その結果、彼女が『脳の負荷』に耐えきれなかっただけ。」

司令部である脳が死に、なお惰性で動く心臓によって
静かに血溜まりを膨らませる少女から視線を外し、イチゴウにもう一度向き直る。

「『法から外れる』とは、そういうことですよ。
　”問題”が存在しないのであれば、それはええ。確かに無問題でしょう。

　――――とはいえ、掃除は面倒なんですけれど。」

少女は法に守られていなかったが、「島」は権利で守られている。