2017/06/18 のログ
ご案内:「落第街・廃ビル屋上/夕刻」に楊柳一見さんが現れました。
■楊柳一見 > 錆びついて立て付けの悪い扉が、ドカドカと衝撃音に揺れ――三度目で撥ね飛ばんばかりの勢いで開いた。
蝶番やらラッチやらもついでに吹き飛んだようだが、どうせ気にする者などいないだろう。
……いないといいな。
「――……ッ!」
ふうふうと荒ぶ息遣い。別に階段一気にダッシュしたのが堪えた訳じゃない。
何が辛いって――まあ何だ。
「……どこ逃げやがったあの蜘蛛女ァ!」
血だの精気だのを余計な別コース盛って持ってった相手が、
こっちが根負けして失神した間にいなくなりゃ、この憤懣やるかたなさをどうしてくれようかって話で。
……まあそっから半日経ってんのはアレだ。
目の周りが真っ赤でカピカピになってるザマで察せ。
ご案内:「落第街・廃ビル屋上/夕刻」にイチゴウさんが現れました。
■イチゴウ > HMT-15 任務状況:フリー
ここは落第街の外れにある廃ビル。
そんな中突如としてまるで金属が悲鳴をあげるような音と共にビルの壁が
長方形状に丁寧に削られ穴が開くと
その穴から四脚の奇妙なロボットがビルの中へと入っていく。
どうやら先ほどの音はサーキュラソーで壁をくり抜いていた音だったようだ。
「誰かいるのか?」
白いロボットはやや低めの機械音声でそう呼びかける。ここは誰も利用していない廃ビルであり
この中から一つだけ生命反応が出るのは妙だ。
■楊柳一見 > そもそも――さっきの言葉からしてお門違いだ。
ふらあり覚束ない足で数歩。これまた錆の浮いた何ぞのポンプを背に、脱力したように座り込む。
女らしさもクソもない胡坐だが、いいだろ見られて困る相手もいないし。
それにタイツだって――破けてたよチクショウ。
「……逃がされてんのアタシじゃん」
震える声。
己の増上慢に対する怒りと情けなさと――ほんの少しの、恐怖。
「始末しないでおかれたのアタシの方じゃんか……!」
蜘蛛らしく食い殺す事もせず、嬲るだけ嬲って捨て置かれたこの状況。
己がいい気になって吐いたあの言葉に対する意趣返しか。
他に説明のしようがあるなら是非して欲しい。手作りの感謝状でもくれてやる――。
「…ぅひッ!?」
不意に階下で響いた異音に、飛び上がらんばかりにビクついた。
…なおその際、傷に障ってめちゃくちゃ痛くて数秒悶絶したのは秘密な。
呼び掛けの声は――ちょいと前にどこかで聞いた気がする。
誰だっけな。そもそも機械の知り合いっていたっけな。
まだぐらつく感情で薄ぼんやりした頭を振りつつ考えるけど。
今のザマで大手を振って返事する気には、流石になれない。
ひとまず居留守を決め込んでみる。
いや家主じゃないけどなアタシ。
■イチゴウ > 「・・・」
廃ビルの中は静まり返っており物音一つせず
ロボットの発した合成音声はビル内に
反響するだけであった。
そしてロボットは右、左と同じタイミングで
規則正しく辺りを見渡した後にゆっくりと
階段を上っていく。
「この階にいるのはわかっているぞ。」
一通り終えた生体スキャンによればこの階に
いるのは確実なようだ。
そもそも落第街のしかも外れにある廃ビルで
生体反応が一つだけなど常識的な話でもなく
一種のトラップである可能性もある。
そうなれば自衛の必要も出てくる。
■楊柳一見 > 屋上へ続く階段を上がって来るらしい相手。
そういやドア閉めてないよなあ。
今更どこぞに隠れるってのも――余計惨めな気分になりそうなので却下。
足組み直して、ついでにスカートも整える。…結構ボロッボロだしそんな変わらんのだけど。
「……あーのさー、こっちケガ人なんで。シンシ的な対応してくれるとうれしいかなー」
そんな軽口を階下より近づく鋼の気配に投げられる程度には持ち直せた。
まだ若干声が上ずってたりするけど。
いいんだよのど自慢やってんじゃないんだから。
■イチゴウ > 「ん?」
ロボットが階段を上り終えそれと同時に
生体反応の正体が姿を現せば
「ああ、キミはいつぞやの。」
ロボットとこの少女には面識があった。
いつの日だったか学生街の通りで
怪異を共に食い止めたはずだ。
「・・・それとその服装と呼吸回数から
何かに襲われていたと判断したんだが
合っているか?」
このロボットは少女の状況から即座に
一つの仮説を出し彼女に伝える。
その仮説が的中しているかはわからないが
どう答えるかはこの少女次第だ。
■楊柳一見 > 見えたフォルムに、おぼろげな記憶が確かな像を結ぶ。
花見の盛りに、乗じてサカった元仲間を一緒にぶちのめしたっけ。
「えっと、確か風紀の先輩といた……何かロボっぽい人」
結びはしたが、不確定名だった。
しかも何かレトロチックな呼ばわり方だし。
判断? ええそらもうド正解ですよ。
「……まあ、ね。ここ来る途中で、パッツンの黒髪でセーラー服着た女見なかった?」
無駄とは思うが訊いてみる。
ああ言う狡猾な手合いが、ひとまずの目的も済んでなおその辺ブラブラしてるってのは考えにくい。
にくいが――念の為だ。
もし見たのなら――そこは避けて帰ろう。ゼッタイ。
■イチゴウ > この少女が襲われたという仮説は
ドンピシャなようだ。
「どうやらその様子だと結構大変だったみたいだな。
しかしボクがこのビルに入るまでにそのような女は見ていない。
既に遠くに行ったのかもな。他に何か特徴は無いのか?
もしかしたら追えるかもしれない。」
襲われたという目の前の少女も
先の学生街の件から考えれば相当
戦闘には慣れている様子だった。
しかしその少女をこのようにボロボロにし
颯爽と姿を消す辺り人を襲う事に関しては
相当手慣れているヤツかもしれない。
「それとーー
こんな状態の人間に言うのもアレな話だが
キミは何かごはんを持ってないか?有機物であれば何だって良い。
なんならキミの身体でもいいぞ。人間の身体は丸々有機物だからな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・最後のはジョークって奴だ。
実際には出来ない。基本ルールに反するからな。」
このロボット、ここ最近は金欠で
メンテナンスに金が吸われ
動力に必要な食料を確保できていない。
だからとはいえこんなボロボロの少女に
頼む事ではなくむしろ立場が逆である。
あとジョークはまだ学習中のようだ。
■楊柳一見 > 「んー…でも半分以上、アタシの油断だからね。命あるだけ儲けモンよ」
誇張なしにそう思う。
一歩間違えれば、あの時ほんのわずか捉えた血臭の元の仲間入りをしていたろう。
「あとそいつ、普段は隠してるけど蜘蛛の妖物っぽいね。学園にはどう届けてるか知らんけど。
名前も聞いてないしなー……」
こんな時に業務的な質問に答えるのは、実は結構助かる。
その事だけ考えてりゃいい。
昨日のアレの初めもそうだし――彼といた風紀の先輩にしてもそうだが、
好意や慈しみにどうにも弱いのだ。己と言う奴は。
「ごはんね……あったらアタシが欲しいよ。半日ブッ倒れてたし。カネは多少なら――」
言いながらスカートのポケットを探る。
幸い財布は無事だ。蜘蛛女の目的はあくまで、精気と――ちっとばかしの性欲発散だろう。
♀同士だったのが本当に幸運だったと言えるね、うん。
「……ジョークのセンスもアレだけどさ。もすこし状況も考えようぜロボタン」
へぇえ、と魂抜けそうな溜め息つきつつ、左手でのツッコミが宙を掻く。
アタシ以外の子が、同じような状況でそんな重油めいたブラックジョークかまされたら、絶対泣くと思うんだ。
「? ってーか、ごはんって……食べるの? アンタが?」
ロボットの動力ってオイルっぽい燃料か電気じゃね、って考えしかない。
先刻の質問に、遅ればせながらそんな問いを投げてみる。
■イチゴウ > 「蜘蛛の化け物か。何かの書籍で蜘蛛は
人類の益虫という情報を得たのだがよくわからんもんだ。
しかしよく捕食されなかったな。」
追いかける身としてはこういう相手を
特定できる情報というのはたいへん貴重だ。
実際そういう情報が無くて凍結した
風紀事案もこのロボットは経験している。
「やはり無いか・・・
すまない。確かにこんな状況の女に
ごはんをよこせという方に問題があるな。
それとジョークは状況も計算に入れる必要が
あるのか。タメになった。」
顔を床にこすり付けながらいかにも
ショボンと言った感じで低い合成音声を鳴らすが
彼女が質問を投げかければさっと
ニュートラルポジションに戻り
「ボクの動力は外燃エンジンと微生物燃料電池でね。
有機物の反応でエネルギーを得てるんだ。
先も言ったけど有機物でありゃ野菜でも肉でも
魚でも何でもいい。そういや軍に所属していた頃、
戦場ではそれらの現地調達が出来ないので人間の死体を食べていたな。」
彼女の問いに答えながらさりげなく
えげつない事も口にしていくが
機械ゆえか躊躇は一切無くあくまで
事実を淡々と語っていく。
■楊柳一見 > 「元の蜘蛛が益虫でも、妖物ってのは存在自体が自然の理から外れてるからね。
こっちの道理の通じんこと通じんこと。
異世界の連中を好意的に受け入れられないのも、割とそう言うの相手にしてた手合いが多いし」
妖し憎しで人外と見れば襲い掛かる者もいる。
己とて――決して色眼鏡がない訳じゃあない。
共存共栄は望むところだが。面倒が少ないし。
「食わんかったのはまあ…嫌がらせかな。心当たりはあるし。
あと一応血止めはしてあるけど、結構ツライからね?
ジョーク講座はアタシのケガが治ってからでオッケイ?」
下で意識取り戻して泣き腫らしつつ――もとい、暇に任せて土砂加持打っておいたおかげで、
失血死と感染症は免れそうだ。
しかし零れた血は戻らない。
吸われた精気もエグれた肉も、何かで補完せねばならない。
彼言うところのエネルギーを得る必要もある。
「……とりあえずアンタの嗜好プログラムだか何かに、カニバリズムが増えない事を願うわ」
獣はヒトの味を覚えて凶獣となる。
ロボットにとってもし、人間食う方がエネルギー効率が良いなんて認識が生まれたら――。
「……何だか聞くだにアンタのそばにいていいのか不安になるんだけど。わざと?」
風じゃなくて雷操れたら、人類の脅威候補をこの場でヤッちゃってるかも知れない。
まあ、埒もない仮定だが。
■イチゴウ > 「化け物は所詮化け物ってワケか。」
このロボットはそんな化け物と戦うために
この世に存在している。しかしそんな彼も
また人類が飼い慣らしている化け物と言えるであろう。
「ああ、是非ともジョークの講習をお願いしたいな。
それと手当が出来そうな所まで背中に
乗せて送っていってやろうか?前ある生徒に
タクシー代わりにされた事があってこういうのは
慣れてるんでな。」
元々あらゆる分野に転用できるように
設計されてるだけあって背中に荷物を載せる事は
それほど難しい事ではない。
「嗜好・・・?人間を殺して食べるというのは
ルール違反だ。する事は出来ない。
それにボクが怖いか?そうならキミは正常だな。
でもボクは任務を持っていない間は
新しい事を見つけたり気になった事を調べたり
色んな料理を食べたりするのが好きな
ちょっと好奇心の強い変なロボットさ。
・・・任務を持っていない時はな。」
最後のフレーズだけはいつもの変わらぬ
低音の機械音声の中に哀愁が混じったような
混じっていないようなそんな口調で。
■楊柳一見 > 「悉有仏性とも言うけどね。子喰いの魔物も、自分の子供隠されて改心したって話があるし」
鬼子母神だったか、その辺の説話だったはずだ。
まあ宗教学の講義はセンセイの仕事である。
「ん…スゴイ助かるわ。アリガト。ついでに助け起こしてくれるとうれしいなー」
治療施設か何かへのエスコートは、喜んで受けるとしよう。
あと座ったはいいけど、自力で立つのかなり時間食うんだ。右腕使えんし。
「そうそう。さっき言った蜘蛛女とやり合うなら、子蜘蛛と背中の肢に気ィ付けなよ。
子蜘蛛の糸はかなり粘つくし、アタシの傷こさえたのは肢の爪だからさ」
もう一つ二つ情報提供してから、彼の助けを借りつつその背におぶさろうか。
「そういやアタシ、アンタのことどう呼べばいい?」
前からロボとかタンクとか呼んでばっかで、肝心の名前を聞くのを忘れてた。
向こうは、こちらの苗字だけ名乗ったんだったか。
わずかにヒトの如き寂寥を滲ませた言葉。
「……すまじきものは宮仕え、ってねェ」
誰かの――それもある種の組織形態の下で使役されていた身には、同病相憐れむような話だ。
もっとも自分は、その任務をうっちゃらかしたおかげで、ひとまず自由を謳歌出来ているのだが。
「……ジョーク講座のついでに、愚痴も聞いたげよっか? アンタさえよけりゃ」
だからって何が変わるって訳でもないがね。
神妙な声から一転、けらりと少女は笑う。
■イチゴウ > 「よし。まあボクの背中はそんなに大きくないんでな。
尻は小さい方が有利かもしれん。」
彼女を最低限のアシストをしつつ
自身の背中へと乗せる。乗り心地は良いとは
言わないが特別悪くも無いだろう。
「なるほど、子蜘蛛と背部の肢か。
対峙する時の参考にさせてもらおう。」
恐らく彼女を陥れた要素だろう。
ならば警戒しないわけにはいかない。
「ボクはHMT-15。コードは”イチゴウ”だ。
気軽にイチゴウって呼んでくれれば
反応できる。そういやキミのフルネームを
聞いていなかったな。何ていうんだ?
いや、コードで判別する癖があるせいか
他人を下の名前で呼ぶ事が多くてな。」
彼女を背中に乗せ歩き出すと同時に
自分の名前を名乗りまた彼女の名前もたずねる。
「・・・キミは優しいな、正に”人間”だ。
例えキミがいくら強くても”化け物”じゃない。
だがボクは槍や剣や銃と同じ”道具”だ。
”道具”に愚痴をこぼす権利なんてない。
でも一つだけ、ほんの一つだけこぼしていいんなら・・・」
そう言って一瞬言葉を止めると
1人の少女を乗せたロボットが廃ビルを出て
空を見上げながら
「気ままに生きたいなあ。」
相変わらずの無機質な合成音声で呟く。
しかし彼もまた意思を持った一つの存在という事だろうか。
■楊柳一見 > 「…へっ、どーせアタシゃ胸も尻も薄いですよ」
ぶすくれた口を利きつつ、鋼のボディをぺちんと軽くはたいた。
どうでもいいが胸の事までは言ってないだろうに。
「イチゴウ、ね。アタシは楊柳一見。カズミ、でいいよ」
そういや“イッケンさん”なんて呼ぶのもいたなあ、と。
それが誰だったか。軽く思索を巡らそうとすると――何故だか頭にちりちりとおかしな熱が沸いてわやになる。
――まあ、それは今はいい。
「――――」
無機質な、けれど深奥にそうではない何かを秘めたイチゴウの呟き。
それにつられて空を仰ぐ。
夕闇に暮れなずむ空の色は、どこか遠きを想って泣く風情を想わせる。
「――生きたって、いいんじゃない?」
無責任で無根拠で。何とも放埓な言葉だけれど。
その願いを踏みにじる事に権能を聳やかす連中を、己は知っている。
そういうやつを、“悪党”と呼ぶのだ――。
あるべき所に帰るように、一人と一体の影は、臙脂色の中へ溶けて行くだろう。
ご案内:「落第街・廃ビル屋上/夕刻」から楊柳一見さんが去りました。
■イチゴウ > 「おっとそれは失礼。
だが座るのに胸は関係ないだろう。
それと・・・カズミだな。」
少女の名前を電子回路の中で何回も反復させる。
この温かい人間の名前をしっかり覚えておけるように。
「・・・ダメなんだ。任務からは逃げられない。
生物やボクがモノを食べないといけないように
無視したり受け付けないという選択肢はない。」
カズミの優しい言葉。
しかしそれに対して首を振るように
まるで自身を再確認するようにそっと呟く。
そうして一機のマシンと一人の人間は
ゆっくりと確実に進み続け
やがて遠くの景色の一部となるであろう。
ご案内:「落第街・廃ビル屋上/夕刻」からイチゴウさんが去りました。