2016/08/15 のログ
ご案内:「落第街の路地裏の一角」にクローデットさんが現れました。
■クローデット > 黄昏時。
この島にほど近い「日本」という国では死者が帰ってくる時期ということで、表の住人には帰省する者も多い。
更生のために「説得」したことになっていたはずの「女生徒」に再教育講習の案内が届かないということで叱責を受けたクローデットは、通常の調査業務からは外されていた。
…もっとも、「女生徒を捜す」事に限定すれば公安委員会の職権は維持されているので、「女生徒」の捜索ついでに軽く調査とか、その他諸々の作業をしているのだが。
…例えば、路地のあちこちに不死者を検知する「網」を張ったりとか。
(不穏な動きは、「公安委員として」把握しておくべきですものね?)
「網」を張るのは袋小路の入り口に限定する。
そうすることで、余計な…要は警察業務にかかることを行わない者のことだが…不死者が引っかかる可能性を下げる。
■クローデット > そうして、調査ついでに袋小路の様子を確認していて…クローデットが徘徊していた辺りの路地の袋小路には大体「網」を仕掛けた頃合い。
最後のつもりで立ち寄った袋小路で…クローデットがその「声」の気配を捉えたのは、死者が帰ってくるという時期ゆえか、それともクローデットの精神が、その「声」の主とどこか共鳴したためか。
「…『聴取(エクート)』」
クローデットは、思念を聞き取る術式をその場に展開した。
■クローデット > クローデットの術式が捉えたのは、すすり泣くような、恐怖に震えるような…か細い、少女の声だった。
『…やめて…いたい、いたい…』
『…ち…わたしのち…つめたい…わたしの、からだ…さむい…』
(…血を失って死んだ者、ですか…
念のため、「お話を伺って」みましょう。
…白魔術用の装備で来た甲斐もありますわね)
クローデットは路地の袋小路に足を踏み入れると、ポシェットから深い赤と青の、ガラス玉のようなものを2つ地面に落とす。
これで、物理的に、そして魔術的に、袋小路の立方体の空間が外側から隔離された。
死者の「声」を聞くだけならば、先ほどの呪文だけで足りる。
…しかし、「会話する」ためには、面倒な手続きが必要なのだ。余計な介入はもちろん、集中を切らせる「雑音」も排除しなければならない。
元々は「外に出さない」ための防御術式の反転だが、「空間の隔離」の理路は、防御術式としてもかなり有用だ。
反転している構造や、術式を封じ込めた物質の作用は、結果的に術式の強度を高め、理論的な書き換えの難易度はそれ以上に飛躍している。
「空間」に作用する術式なので、取り回しが効かないのが難点だが。
■クローデット > 結界を敷いたクローデットは、その中で詠唱を始める。
障壁の外に音は漏れない。外側からは、袋小路でクローデットが何か口を動かしている程度にしか見えないだろう。
…もっとも、この隔離障壁に気付ける存在が、クローデット以外の「何か」の気配に気付かないとは思えないが。
「…我、ここに心置き忘れし者に乞う…
我が呼びかけに答え、再びここに心を目覚めさせたまえ…『反復(ルプリーズ)』」
心の断片を…今際の際を垂れ流すだけの思念は、「今」、新たな呼びかけに応える事はない。
…だからこそ、この術式で「心」のあり方を真っ当な人格レベルまで復元する事で、会話を可能とするのだ。
しかし、復元に介入し過ぎれば、相手の存在自体が歪む。
その結果、対話が実質モノローグになる…だけならまだ良いが、魂の形が壊れて悪霊や幽鬼の類になってしまい、襲われる事すら普通にあり得る術式だ。
召喚術で相手を形作れれば安定させるのは容易なのだが…残念ながら、クローデットは召喚術がそこまで得手ではない。
この術式自体が召喚術にヒントを得て編み出された白魔術なので、クローデットは修得に少々難儀したくらいである。
それでも…今回は、術式は成功したようだった。
相手の魂に、クローデットの思念という「夾雑物」の影はない。
『…ああ、あなた…わたしがわかるの…?』
少女の魂が、クローデットの存在を認知した。
「ええ、あなたの声が聞こえましたので。
…あなたは、どうしてそのように辛い思いをし続けていらっしゃるのかしら?
あたくしで良ければ…その思いを、和らげるお手伝いをさせて下さいませんか?」
そう、優しく問いかけるクローデットの表情は静謐で慈悲を感じさせるもので、猫を被った状態の表情と比較してすら穏やかだ。
■クローデット > 『…だれも…わたしに、きづいてくれなかった…
…だれも、こえなんてかけてくれなかったの…
…わたしは…まだ、ここにいるのに…』
クローデットに認知されて、少女の魂が徐々に生前の…最期の姿を浮かび上がらせていく。
酷いもの、としか言いようがなかった。
着衣は激しく破られ、女である事を示す身体の部分が露にされている。
顔や身体には殴られた跡がいくつも浮かび…そして、首にはうっすらと四つの穴。
丁度、人間の犬歯の配置だ。
その傷が薄いという事は…その「噛み付き」が、つまり吸血行為が少女の命を奪う決め手になったということだろう。
「引き当てた」という手応えを、クローデットは必死で奥に押し込める。
平常心を失えば、「復元」のバランスが崩壊しかねない。ただでさえ、あまり得意ではない術式なのだ。
「…お辛かったでしょうね…痛い思いも、怖い思いも、屈辱も、これ以上ないほど味わわれて…」
少女のすすり泣くような声に共鳴するように、悲しげに顔を伏せる。
その表情に、嘘はないように思われた。
■クローデット > ひとしきり、少女のすすり泣きに同調する。
そうした後で…真顔で、少女の魂に問いかける。
…少女の影の、身体の部分はひたすら視界に入れないようにしながら。
「…あなたにそのような辛い思いをさせた者のこと、お聞かせ下さいますか?
あたくし、こういう者(公安委員会)ですので…あなたにそのような思いをさせた者に、あなたの思いの一片くらいは、返せるかもしれません」
二の腕の腕章を示しながら、少女に問う。
…少女の思いの「質」が、変質していく。
『…こう、あん…
…いやよ…こうあんは…わたしを、たすけてくれなかったもの…
わたしを…きりすてたくせに…!』
クローデットの思念が復元に介入しているのではない。
「助けてもらえなかった」という怨念が、復元された少女の魂に強く働き、怨霊への変化を促しているのだ。
恐らく、「少し霊感がある」程度の者でも、少女の魂の存在を容易に検知出来るように「なってしまっている」だろう。
強引に「浄化」させる事も出来なくはないが…それでは情報は得られない。
何より…孤独に塗れて死んだ少女の魂を強引に「浄化」するのは、クローデットの「魔女」としてのプライドが許さなかった。
■クローデット > 「…分かりました」
そう静かに言って、クローデットは公安委員会の腕章を外して、ポシェットにしまう。
「…「公安委員として」ではなく…一人の「魔女」として、あなたの無念を晴らさせて頂けませんか?
あなたに辛い思いをさせた者がのうのうと生き延びているとなれば…「あたくし個人としても」看過出来ませんの」
その言葉を聞いて、少女の魂の変質が止まる。
『………どうして…そこまで………?
…わたし、こうあんに、きりすてられたにんげん…だった、のに…』
少女の魂の影の中で、その瞳がわずかに健全な光を取り戻したように見えた。
クローデットが…柔らかい笑みを浮かべてみせる。
「「女ならでは」の辛さに苦しむ乙女に手を差し伸べるのは、古来からの「魔女」の務めですわ」
その笑みは、どこまでも慈愛で出来上がっているように見えた。
■クローデット > 『………ありがとう…』
初めて、少女の声からすすり泣きが消えた。
そして、少女の魂は語り始めた。
最初は異能の制御のために来た正式な学生だったが、慣れない一人暮らしで勉強に集中出来ず、落第して徐々に講義に行きづらくなり…最終的には二級学生とさほど変わらないほど権利を制限されてしまったこと。
落第街で非合法な店で働きながら…それでも身体は売らずに生き延びてきたこと。
落第街ではあまり見ないような、品の良さそうな黒髪に深紅の瞳の青年に誘われて…気がつけば路地裏に誘い込まれ、おまけに品の良くない青年の取り巻き達に囲まれて、逃げ場がなくなっていたこと。
恐怖で異能が暴走したため、ある程度の抵抗にはなったが…酷く殴られ、最終的には恐怖の時間が長引いただけだったこと。
そうして、最終的に最初の青年に犯され、そのまま首筋に噛み付かれ…血が抜けていく感覚とともに身体から体温が消えていき…そして意識が途絶えたこと。
…「こうなって」いたときには、ここには身体すら残っていなかったこと。
少女の話は行きつ戻りつしながら進み、時にはすすり泣きで止まったため要領を得なかった。
…それでも、要約すればこういうことになるだろう。
■クローデット > 「………そうですか………。
辛かったことを話させてしまって、申しわけありませんでした」
話を聞き終えて、少女の魂に丁寧な所作で頭を下げるクローデット。
少女の声は、寧ろ理性を取り戻しつつあった。
『…いいの…聞いてもらえて、借りを返してくれるって言ってもらえて…
…すごく…楽になったから…』
「そうですか…それは、良かったです」
少女の声の確かさを聞いて、クローデットが頭を上げる。
そこには、静謐な微笑。
「「道」は、自分で見つけられますか?」
死者の魂に対して問う「道」の意味は、決まっているだろう。
■クローデット > 『…だいじょうぶ…もう、見えてるから…』
少女の影が、どんどん薄くなっていく。
『………ありがとう………
…どうか…あいつらの悪事を…もう、終わりに…』
その言葉を最後に、少女の魂はそこから完全に消え去った。
ほどなくして、クローデットが張った結界が解除される。
「………」
表情を消したクローデットが、公安委員会の腕章をつけ直す。
■クローデット > 違えることはない。
「一人の「魔女」として」「奴らの悪事を終わりにする」という、彼女との約束は。
(…少し、時間がかかってしまいましたが…まあ、「あの男」の捜索に手間取ったことにしておきましょう)
既に「吸血鬼」への後天的変異について調べたいという話は委員会に報告してしまっている。
…後天的変異をした…あるいは「させられた」可能性のある存在として、件の吸血鬼の特徴も。
(…捜査が進まないことにして、「謹慎の間にでも」どうにかしてしまいましょうか。
…丁度よく、公安に差し出せる類似の存在でもあれば良いのですが)
そんなことを考えながら…クローデットは、その場を後にする。
もう、袋小路は振り返らない。
そこには「もう何もない」のが、分かりきっているから。
ご案内:「落第街の路地裏の一角」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)2」にエアルイさんが現れました。
■エアルイ > 大変容以降、この世界では様々な物が変質し、
様々な場が異界へと成り果てた。
ある者はそれに乗じて日陰から日向へとその領域を広げ。
またある者は光から闇へとその身を呑まれる。
清濁陰陽混沌と。
常ならば相見えない筈のモノ達が出会い、混じりあう。
人種の坩堝ならぬ怪異の混沌。異形の渦。
そんな異界へと変じた場所のひとつ――
常世学園の一角にて青々とした緑を茂らせる山、青垣山。
古代からは信仰の場としても知られ、
転じて以降は神話の存在をすら擁すると語られる歴史ある異界。
その一角で――その小さな影は、じぃっとそれを観察していた。
■エアルイ > 「…………」
木陰で息を潜め、じっと様子をうかがう。
黄色く輝く視線の先――
日差しを遮り、たくましく生い茂る木々の下で。
漆黒の巨体がその身を丸め、ゆっくりと体を揺らしていた。
高さも幅も少女の倍以上はあるだろう――
身を丸めた段階でそれなのだから、立ち上がったらどれほどになるのか。
夜闇を切り取ったかのような漆黒の獣毛は、微かに差し込む日差しを受けても輝くことはなく。
巨躯から伸びる両腕は太く、長く――そして、その先端にある爪は巨大なナイフの如き鋭さと輝きを備え。
体を支える二本の両脚からは、巨木の如き太さ強靭さが感じられる。
そして――その両目は、黒い毛皮の中で煌々と赤く輝き。
長く伸びた鼻の下――大きく、そして包丁と石臼を兼ね備えた強靭な牙を
ずらりと備えた口でもって、それはゆっくりと食事を行っていた。
牙の隙間から桃色の繊維が伸び、噛み千切られた肉の欠片が残骸となって零れ落ちる。
撒き散らされた赤色は鮮やかな生を伝えようとするも、
過去形と成り果てたどす黒さへと変じている。
水の音。引き裂く音。砕ける音。
口が上下する度に血に濡れてなお鮮やかな白さを見せる骨が割れ、
桃色の筋肉の隙間から黄色い脂肪が粒粒の姿を覗かせる。
黒い獣――外界における熊によく似た姿をしている――の下に組み敷かれた「ソレ」がなんだったのか。
最早親でも理解することは出来まい――辛うじて、ヒトガタをしていることだけは分かるだろうが
■エアルイ > 「…………!!」
その様子を静かに観察しながら、少女はむん、と気合を入れる。
それを目撃したのは全くの偶然。
人の多い場所ばかりでなく、自然の中も探検しようと思い立ち――
偶々分け入った青垣山にて、この場面に出くわした。
本来ならば、すぐさま踵を返し、山を降りて逃げるべきところであろう。
常の世界であってすら、熊と言う生物は非常に危険な生物であり――
異界と化した青垣山で巨大化したこの個体がどれほど危険であるかは、
組み敷かれた残骸が物言わぬ証人として伝えてくる。
最悪の場合、逃げたところで追いつかれる危険性すらあった。
だが
幸運であったのは、少女が幼いながらも龍の一角であり――
逃げようと思えば、逃げられるだけの力を有していたこと。
そして不運であったのは――
逃げようと思う様な、常識的な判断を下す性質ではなかったことだろう。
「…………」
息を潜め、機をうかがう。
この島においては、人を喰らうことは――
場所にもよるが、してはいけないことであるらしい。
ならば
目の前の獣は、してはいけないことをしているのだろう
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)2」に三谷 彰さんが現れました。
■エアルイ > 乾いた音と、濡れた音。
容器を割り砕かれた頭蓋が桃から白灰色へと転じた内容物をぶちまけ、
獣の口から響く、生皮を引き裂く
独特の高音が森の空気を震わせ――そして、止む。
黒い毛皮を赤黒く染めた獣が、ゆっくりと顔を上げ
――!!
瞬間。
身を潜めていた木立を弾き飛ばし、
爆発するかの様な勢いで小柄な影が獣へと突撃した。
狙う機会は食事の直後。
あらゆる生物が気を緩めるその刹那。
弾丸と化した少女は一気に獣へと肉薄。
硬い音を立てて握りこまれた拳が爆速の勢いを乗せて振りかぶられて
■三谷 彰 > こちらの方面に行った人が帰ってこない。
そんな連絡を受け風紀委員戦闘特化であるマルトクに出撃の指令が下るのはある種当然の事だったのだろう。
たどり着いた先ではひとつの惨劇が起こりひとつの戦いが始まっていた。
もはや原型を留めていない人間とおそらく犯人と思われる血の着いた獣。そしてそれに向かう一人の少女。
どちらに着くべきかは迷う事など無いというものだろう。
「硬化付与。重量付与。属性付与風!」
目が真紅に染まると同時に武器が3度光りを放ち棒は風を纏う。
さっきまでは見るのがやっとだった少女の動きがわかるようになりそしてその手が振り下ろされる寸前である事を見抜く。
今の段階で下がらせるのはむしろバランスが悪いというものだろう。
「殴ったら下がれ! 後は引き受ける!」
そう叫ぶと同時に少女が攻撃した後のアシストの為に走りより棒を構える。
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)2」から三谷 彰さんが去りました。
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)2」に三谷 彰さんが現れました。
■エアルイ > 見える目が備わっているのならば――
拳を叩きつける刹那、少女の動きが声に反応するかのように僅かに傾ぐのが見えただろう。
そして
顔を上げた獣の。
哀れな『餌』の残滓をへばりつけた口が。その赤い瞳が。
歪にゆがんだことが見えるだろう。
――嗤った
その事実に、離れていたならば気づくことができるだろう。
……だが、近づきすぎている少女は、間に合わない。
「――ぁっ っ?」
それは刹那で成し遂げられた。
座り込んでいた筈の獣が黒い螺旋と化して身を捻る。
身を回す勢い。鋼の如き獣毛。巨躯の纏う筋肉の鎧。
三つが合わさったその力で、少女の破壊の拳を受け止め、
絡めとり――そして、少女の勢いに回転の力を乗せてねじり、へし折る。
生木が砕け、腱が千切れ、肉が裂ける異音を響かせながら――
勢いを捻じ曲げられた少女は、その細い腕をあらぬ方向へと折り曲げられつつ、弾き飛ばされて宙を舞う。
そして、回転の勢いを乗せたまま身を起こした獣が、螺旋を描く様に腕を振り上げ。
そのまま、巨弾の一撃で少女を地面へと叩きつけた。
音は一つだけだったろう――叩き潰されたその音が全てをかき消したから。
色彩は幾つもあったろう――纏っていた服が千切れ飛び、
折れたうえに肩の先から半ば千切れた腕が、赤をぶちまけながら揺れた。
■三谷 彰 > 「っ」
嗤ったのを見て咄嗟に叫ぼうとした。だが間に合うわけも無い。
無残にもへし折られた少女の腕を見つめるしかなかった。
赤く染まるその腕を見てふたつの答えが浮かぶ。1つは無残にも叩き潰されたという答え。
もうひとつはまだ生きているという答え。
本来であれば死んだと判断するのが正常だろうが……今回は違う。
さっき少女が襲い掛かった瞬間を彼は見ていた。
木々を吹き飛ばすほどの速度と威力。
そんなものを出せる彼女がそんな簡単に死なないであろうことくらい容易に想像がつく。
ならば今やるべきことはひとつ。
あの化け物が追撃を入れる前にあの化け物をその場から退かすこと。
「爆炎付与!!」
決戦兵装にその魔法は宿り棒その物が黄金色に輝くと同時にその棒の周囲が高温によりボヤける。
刹那、こちらに意識を向けさせる為に叫ぶと同時に距離をつめる。
「そこを、どけぇ!!」
相手の動きをその目でしっかりと捉えそして化け物の胸部へと1撃を繰り出す。
炎の上位魔術にも匹敵する収束爆発を発生させる1撃。仮にしとめることは出来なくとも命中さえすれば相手をその場から退かせる事はできるのだろうか。
■エアルイ > 「――ガッ」
如何に速く動こうと、如何に奇をてらうことを許さぬ鼻を、
気配を探る術を持とうとも――獣の身は一つ。
腕を振り下ろし……
白い髪が血に染まり、あちらこちらに傷を負い、
片腕が千切れかけた哀れな獲物を地面に叩きつけた後であることを差し引いたとしても。
己の動きを確実に「見切られた」その一撃を、かわすことは叶わない。
『『ッッッォオォオオオォゴォォォオオオオオオオオオ!!!』』
獣の漆黒の巨体。その胸の中心で爆炎が吼え猛る。
黄金の輝きを纏う一撃と、轟く破壊の爆音と、周囲の木々を震わす絶叫が混ざり、響き渡る。
収束爆発による破壊で胸部を抉られた獣は、たたらを踏むかの様に後ろへと下がり――しかし、倒れない。
呆れる様な生命力というべきか……痛打を喰らったことは間違いないのだろうが、しかし絶命には至らず、距離を取る。
獲物から引き剥がされたことにか、与えられた一撃にか……黒い毛皮を自ら赤く染めつつ、
それよりもなお赤い敵意が瞳の中で燃え上がる
■三谷 彰 > チラリと少女を見遣る。生きているのか死んでいるのか最低限それだけは確認しておきたかった。
だが同時に生きていたとしても取れる選択肢は一つしかないことに気がつく。
生きていても死んでいても今この場で彼がここを離れるにはこの化け物を倒すしかない。
生きていたのなら抱えて下山。化け物から逃げながら普通の人間の自分にそんなことできるわけも無い。
幸いにも自分の武器はこの化け物に通用する。それもかなりの痛打は通った。それなら。
「もう一発ぶち当てるかもしくは機動力を奪うしかないか」
少しでも早くこの化け物を倒すか遅くする。それが少女を助ける為の唯一の方法だ。
おそらく後1度急所に当てることが出来れば何とかなるだろうし。足に当てることが出来れば逃げる程度は出来るだろう。
だが残る回数は1度。その機会を逃せば2人仲良く化け物の餌だ。
「……その手足まずはへし折らせてもらうぜ。属性付与・風」
黄金色の光は収まり再びその棒を薄い風が纏う。
重量が増したその棒を風の力を借りる事で軽々と振り回すと相手へと距離をつめる。
そして相手のすぐ傍で体制を低くすると同時に棒を横なぎに振るう。相手の機動力を奪う為に。
■エアルイ > 僅かでも視界に納めたならば、少女の様子はすぐさまわかるだろう――
うつぶせになっている為に表情は隠れているが、
頭部からは流血。白い髪と角は赤い色彩に彩られ、それは今も拡がっている。
纏っていた合羽に似た衣服は大きく千切れ、特に腕の部分が酷く損傷している。
そして――倒れている体勢からはあまりもちぐはぐに伸びた、その腕。
半ば千切れ、骨と肉と脂肪、何らかの繊維の千切れた糸を覗かせつつ――それらすべてが、鼓動に乗せて零れる血潮が赤く染めている。
血が流れているということは、即死はしていない。
だが、どれだけの損傷かは――そもそも人間ではない為、判断が難しいだろうか。
『ゴルルル……』
そして――獣もまた、青年の様子をじぃ……と観察していた。
何を見ているのか。
何を狙っているのか。
何を気にしているのか――
赤く輝く知性と敵意を漲らせたその瞳は、
青年の動きと視線を舐め回すかの様に見つめ、見定めていた。
その視線の動きは、相対するならば一種異様なものとして映るかもしれない……
まるで、人間のようだと。
『――ゴッ ギァ!!』
風を纏う一撃を前腕に喰らい、獣が小さく叫びを上げた。
反対の腕で胸元を僅かに庇うにしながら、再び後退する。
先ほどの一撃が応えているのか――観察するような視線の動きこそ見せるものの、
その動きは消極的で……己から攻撃に出ようという動きは見せないでいた。
■三谷 彰 > 何かを見定めているような人間の様な動き。
一瞬寒気が走るが同時に彼に活路を見出した。
獣相手に買いかぶりすぎかもしれない。だがもしあいつが獣以上人間未満であるのならば。
勿論危険な賭けにはなるが……まだ生きている少女を助けるには速攻を仕掛けるしかない。
効き腕とは逆の左手を軽く見つめその後化け物を見る。
ふぅと軽く息を吐くと少女を視界の端に収める。
「安心しろちゃんと病院に連れて行ってやる」
そう少し微笑むと真面目な顔へと戻りそして棒を構える。
「……雷撃付与!」
まばゆいばかりの閃光に棒が包まれ近くに石などに勝手に放電。それらを消し飛ばす。
もしあいつが俺と同じように相手を動きを”見切ろう”としているのなら。
これはそういう前提で動く動き。相手がそこまで考えていなかったのなら失敗する賭けだ。
駆け寄ると同時に雷と化した棒をあえて回避しやすい甘い位置へと送り込む。あえて見せる左側への隙。
相手が掴むならよし、そのまま腕に雷を叩き込む。だがもし回避し反撃、もしくはカウンターを狙ってくるとしたら。
それを考え持てる集中力の全てを目へと送り込む。
もし相手が攻撃してきたのなら。それに反応し反撃をするために。
■エアルイ > 視線をあわせるのは、一瞬。
棒が眩く輝く雷光を纏い、それらが石を消し飛ばす様に
獣は赤い瞳を僅かに細めた。
そして――距離を取るために下がり気味だった巨体を前傾させ、
打って変わって敵意の篭った唸り声を大きく響かせた。
四つんばいとなり、両の腕で地面をがっしりと掴んだその姿は、
先ほどまでの人間じみた視線とは真反対の、獣そのものの構え。
収まりつつある流血を胸元から僅かに溢しつつ……
その身を大きくたわませ、引き絞られた弓弦の如き緊張感を放ってくる。