2016/08/16 のログ
三谷 彰 >  それを、相手が攻撃の動作に移るのを待っていた。
 こちらの最後の賭けを行う為に直後その棒を引き下げる。
 そして相手に向かっている方を短くすると同時に後ろに回していた腕を上から前にもっていく。
 必然長くなった後ろ側が相手の上より雷鳴と共に振り下ろされる。
 相手の急所―頭―を狙った必殺の1撃。

「当たれぇ!!」

 それを一切の容赦なく振り下ろす。
 バリバリという異様な音を轟かせながらそれは相手の頭に雷を叩き込まんと迫る。
 その攻撃に防御の構えは一切無い。今狙うはただひとつ。相手の破壊ただそれだけだ。

エアルイ > 巨獣の頭部を打ち砕かんと振り下ろされるのは、雷光の一撃。
空気を食み砕く音を響かせながら雷光は走り、一直線に疾駆する。
それをまともに喰らえば、巨獣とてその命を奪われることとなるだろう――



まともに、喰らうことになれば。



三谷の振り下ろしに合わせて、獣は撓ませていた身を解き放ち、猛烈な速度で疾駆する。

それは先ほど身を捻った動きと同じく、脅威的な速度ではあったろう――尤も、一度みた三谷からすれば見切れる動きではあったろうが。

だが、だからこそ。

見切れるからこそわかるだろう。


このまま疾駆すれば、なるほど頭部に一撃は叩き込めるだろう。

だが――疾駆する獣のその巨体は……
その質量と速度でもって、命を奪われようとも
『少女を轢き潰す軌道を描いている』という事実に。



獣は見ていた。
青年の動きを、視線を。

何 を 守 る 為 に 動 い て い る の か を



故に――獣は嗤う。その高潔さを嗤う。

獣ならぬ、人間の醜悪さで嗤う。


【この頭を打ち砕き、そのまま少女を轢き潰されるか。
 それとも――動きを止める為にここから何かをするか】


邪悪な獣は、ただ醜悪に嗤う

三谷 彰 > 「!!?」

 集中していた目が。そして練習によって培われたその感覚がその化け物の無情な軌道を完璧なまでに導き出す。
 彼も戦いの練習をしてきた身。であればどうするべきかを導き出すのは簡単だ。
 少女を見捨ててこいつの頭を潰せば良い。そうすれば自分は生きて帰れる。
 だが。こいつば導き出されようともそれを選択するほど利口ではなかった。
 雷撃付与を消し去る。おそらくはプロテクターは1撃は耐えてくれるだろう。
 そして相手の進行方向に横とびの無茶な体制のまま飛び込む。

「……重量付与。オーバー!!」

 自身ですら耐えられないほどの重量と化したその黒い棒はまっすぐに地面へと落ち、その持ち主である彼すらも強制的に地面へと下ろす。
 そしてその超重量の棒を胸に抱えたままその時は来る。

「グアァアアア!!!」

 砕け散るような音と共に直撃。
 ガリガリと地面を抉りプロテクターを砕かれながらもその攻撃を食い止める。
 おそらくは肋骨のどこかがやられたのか耐え難い激痛と共に血の塊を吐き出す。
 左の指が数本明後日の方向へ向きそこからもジンジンとした痛みが襲い掛かる。
 だが、とめられたその高揚感からニヤリと笑う。

「させやしねぇんだよ」

 ボソリと何かを呟くと棒が2回光り2回目の光の直後棒に凄まじい暴風が発生し彼はその棒を蹴り飛ばす。
 旋風付与、目の前の化け物の下から竜巻と化した棒が迫る。
 これでなんとも出来なければこの棒を破壊する覚悟を持って3発目を行うしかないが、おそらく体の状態的にそれは不可能だ。
 つまりこれが最後のチャンス。

「吹き飛べ化け物」

エアルイ > 『!?』

それは、獣としても予想外の結果であった。

目の前の青年は、高潔さを持つが故に己の一撃を受けることを、
その醜悪な知性は感じ取っていた。

故にこそ、獣は己の身を砲弾として使い――その圧倒的な膂力と重量でもって青年を弾き飛ばさんとした。


だが。だが。


なるほど、獣は確かに青年の意図を読む事は出来たのだろう。
しかし、そこに賭けた『覚悟』は予想の埒外であった。

例え力が強くとも、その身が巨大であろうとも。
半端な狡猾さでは、覚悟の伴った体を折り砕けない。


そして、巨体を押さえつけられたが故に、その一撃を回避することは叶わない。
巨体の直下――疾走を重視したがゆえに、地面を向いている抉られた胸の傷痕。

轟く風を竜巻と為す疾風の一撃は、その傷痕をさらに深く抉り――
獣の巨体を空へとかち上げると、
そのまま巨腕を体から千切り飛ばしながら貫通した。

苦鳴をあげることすら出来ずに獣の巨体は宙を舞い――
鈍い音を響かせて地面に叩きつけられる。

衝撃で傷口から血が撒き散らされ、千切れとんだ腕からは押し出されるように出血し……
そのまま、獣はぴくりとも動かなくなった。

三谷 彰 > 「は、はは。やった」

 倒れそうになるその体を棒で支え無理やり耐える。
 黒杖月影などと大層な名前の着いた決戦兵装も今や文字通りただの杖。
 そして重量の負荷にしかなっていないプロテクターを投げ捨て彼は足を速める。少女の元へと。

「おい……まだ……生きてるか?」

 息も絶え絶えになりながらもその少女の傍に膝を下ろし語りかける。
 どちらにしても。少女の千切れかけたこの腕を何とかしない限り助からないだろうと判断する。

「おい、今から少し痛いが……我慢しろよ」

 そう声をかけると自分の血の着いていない右の袖を歯で引き裂きそれを少女の肩近くの腕に歯と右腕を使いしっかりと縛りつけようとする。
 抵抗されるならおそらく今の自分に対抗する手段はなく縛る事は出来ないが。

エアルイ > 「…………」

言葉には応えない――だが、僅かに少女の体が動いたのか……
未だ零れる血の動きが、僅かにずれる。

そのまま布で腕を縛り、固定しようとするならば容易に事はなるだろう――
もっとも、ぴくりとも動かない為に、少々かなり手こずりはするだろうが。




そして――同時に。

背後で、音を立てて――バシャバシャと湿ったものをぶちまける音を響かせながら。

何かが、立ち上がる音がするだろう。


それは、瀕死の獣の、最後の足掻き。

腕をもがれ、零れ落ちる命はもう直ぐ尽きる。

故にこそ、復讐を果たさんと――無為には死ぬまいと。

獣は、血に染まった巨体を、頭部が半ば潰れて隻眼となった
赤い目を憎悪で濁らせながら立ち上がり、見るに耐えない悪あがきで、巨腕を振り上げる。

弱ってはいるが――怨念が故に、その一撃は重いであろう

三谷 彰 > 「クソ、野郎が……!」

 最後の警戒を怠った自分も自分だ。だがまさかこの期に及んで攻撃に及ぶとは思いもしなかった。
 無論その攻撃の動き全てを彼は見えている。
 だが見えていたところで膝を着き彼女に寄り添っている彼に避ける手段などない。
 いや、正確にはあるが選ばない。彼女を盾にし一人逃げるなど。
 彼は彼女を無事な右腕で抱えるとすぐに飛ぶ。既に使い物にならない左腕を盾にするように。
 攻撃を全て受け流す事は出来ないだろうが少しでもその1撃を。冥府へと誘うその爪を軽くするために。
 
 全てを避ける事は出来ずその攻撃を盾の様にしていた左手が受ける。
 何かを砕き引き裂く音と水をぶちまけるような音だけが彼の中に反響する。
 しばらくの間抱えたまま吹き飛ばされ自分が下になるように地面へと叩きつけられる。
 ボールの様に彼の体が跳ねた。
 自分の状態を見る。もはや左腕は少女より少しはマシと言った程度だろう。
 肘の少し前はへし折れプラプラとしている。
 そのプラプラとしている腕は引き裂かれており酷い場所は骨すら見えるほどの切り傷と共に多量の血をポタポタと流す。

 おそらくはあの化け物はもうすぐ死ぬ。そして応援を呼ばないと戻れない。そこまでわかっている。 
 だが今度は同じ轍を踏む事はしない。
 相手の体温やほんのわずかな胸の動きなどをその目で捉える。
 相手が息絶えたか否かを確認するその時までは気を抜くことは今度はしないだろう。

エアルイ > 『ゴォォ”、ォォ、オオ”オ”オ”オ”オ”……』

濁った声が、獣の口から漏れる。

己の痛みを、恨みを思い知ったかというかの様に獣が嗤う。

一撃を撃つ度に、一歩を踏みしめる度に命が零れ、
それを示すかのように獣の体温が流れ出ていくのが見えるだろう――

だが、まだ、動く。
己の恨みを晴らさんが為に、まだ、死なない。


吹けば飛びそうな命を怨念で支え、もう一度腕を振り上げて

「――――」

同時。
三谷の腕に抱かれていた少女が、弾かれたかの様に起き上がった。

動かぬ者と思っていた獲物が起き上がる。
その予想外の事実に獣の動きが一瞬止まる。


そして――その一瞬が、獣の末路を決定付けた。


『「――愚瑠ゥゥゥゥゥウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」』


咆哮。


塞がらぬ傷口から、へし折れた腕から赤を飛沫と散らし、
喉から血反吐を吐きながら龍の叫びが轟き響く。
自分を抱えていた腕を振り払い、
轟きを背後に置き去りにしながら獣へと飛び掛り……
最初に倍する勢いで獣に突貫すると、無事だった腕を抉れた胸に叩き込んだ。

鈍い撃音が響き――獣の巨躯が、その背中が衝撃で大きくたわみ……ぶづりと音を立てて裂け、爆ぜる様に千切れる。

瀕死の獣にとってみれば、それは止めを刺して余りある一撃であった――
だが、それでも、少女の動きは、止まらない。


『「犠ィィィィイイイイイ亜アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」』

千切る。 引き裂く。 噛み砕く。 抉る。

最早物言わぬ肉塊と成り果てた獣を、
満足に動く腕で、その牙で、尾でもって容赦なく蹂躙し、
文字通りの肉塊へと破壊していく。


その黄の瞳は燃え盛る炎の如き光を放ち、
褐色の肌と尾には傷とは違う――まるで裂け目の如き裂傷が走り、中から黄の炎を溢す。


咆哮あげながら獣を破壊し……そして、肉塊が泥沼へと姿を変えたところで、少女は動きをとめた。
その身に、黄色の炎を纏いながら。

三谷 彰 > 「な、おい!」

 そんなに動けるような状態じゃない。だというのに腕の中の少女は跳ね起き化け物へと飛び掛る。
 止めたかった、だがもう彼にその力はなく杖すらも遠くに置かれた彼は立ち上がるのがやっとだった。
 目の前で起こる圧倒的な暴力。自分が苦戦したあの化け物が一瞬で肉塊へと変化する。
 そしてその暴力を起こした張本人。黄色い炎を纏う少女。
 本来であれば恐怖するのだろう。だが……

「もう、良い……もう、終わったんだ」

 彼にはそれが恐怖している様に、もしくはさっきまでの獣の様に感情に任せたものの様に映った。
 そのどちらでもないにしても彼女の意思によってもたらされたものではないようにしか見えなかった。
 相手が安全なのか危険なのか。そんなことはわからない、だがこうするしかなかった。
 彼は体を引きずるようにしながら少女へゆっくりと歩み寄る。

「大丈夫、もう大丈夫だから」

 優しくそう言いまだ動く右の腕を差し出し小さな彼女を抱きとめようとする。
 安全を考えれば構えるのが正解なのだろうがどう足掻いても今の彼に彼女は止められない。ならば構えようと受け入れようと同じ事だ。
 もしこれで殺されるのであればそれは彼の運命だったというだけの話であろう。

エアルイ > 「瑠ルルルルル…………」

小さく唸りつつ、燃え上がる黄眼が差し出された腕を見つめる。
音もなく燃える炎。ゆらりと尾が揺れ、火の粉が風に散る。

「…………」

三谷の姿に、その折れた腕と傷だらけになった姿を見て、
灼熱と輝く瞳が僅かに細められる。

「……ォ、ルゥ」

燃え上がっていたのは、恐怖か、怒りか、闘争か――それとも、それ以外か。

だが、一声悲しげな声を上げると、小柄な影は差し出された手を小さな頭で柔らかく押し返し。
そのまま、黄炎の軌跡を僅かに残しながら、森の外へと走り去っていった。

ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)2」からエアルイさんが去りました。
三谷 彰 >  その手は振り払われそして彼女は森の外へと走り去っていく。
 治療をさせないといけない。だが今の彼に彼女を追いかける手段などなくその場に崩れ落ちるしかない。
 右腕を使い腰から通信機を取り出す。

「こちら特務部特別攻撃課……三……谷彰……座標F9に……て魔獣と交戦。おそら……く行方不明者と見られる人も発見した。俺は……行動不能。至急救援と治療班を回してくれ」

 そう最低限の連絡を済ませると少女の走り去っていったほうを見つめる。

「……後G方向に……尻……尾の生えた女……の子が……走っていった。腕が千切れかけてる。見つけたら……保護してやってくれ。なんで俺がしないのかって……逃げられたんだよ俺も」

 多量の血が彼の座る位置に小さな血溜まりを作っていく。
 それを見遣ると少しだけ目をも開くとフッと笑う。

「……わーるい、本気で早めに頼む。これ、ちと洒落にならねぇかも」

 そう呟くのを最後にその通信機を取り落とす。
 その通信機からはおそらくは同じ風紀委員と思われる叫び声が聞こえる。
 そしてしばらくし彼は救助されていくだろう。まぁ入院は免れないかもしれないが命は助かったとか。 

ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)2」から三谷 彰さんが去りました。