2017/10/16 のログ
楊柳一見 > 「あらやだ。いたいけなジョシコーセー捕まえて、荒事任せようとか。
 目と頭のお医者、どっち紹介して欲しい?」

とぼけたセリフを返せば、横合いのソファーで陣取ってた野郎どもが殺気立つのが分かる。
どうでもいいが、何で眉毛ないんだろ。何ぞの願掛け?
そんな埒もない脳内問答に勤しんでる間に、スーツの男が眉なし部隊を手で制した。
それに応えて止まる連中。
躾が出来てるのはいいが、どうせなら舌打ちもしないように教育するべきだと思うの。

『異能者やら異世界人やら抱え込んだこの島で、どれだけ“いたいけな女子高生”がいるもんかねえ?』

スーツの男はさすがに激高しない。
…確かに魔境とも言えるこの地に、果たしてどれだけ無害な一般人がいるのやら。

「……質問に質問で返すのもどーなのよ。そらまあアタシも御多分に漏れず、そう言うのの側だけどね」

へぇと嘆息して肩を落とす。

「アタシ、今ん所そんなアウトロー方面の刺激求めてないんよ。
 もっとこう、若さとジョーネツを持て余してるヤツらに声掛けてくんない?
 アタシゃ家帰ってこたつと煎餅に労ってもらうんで」

これはホント。そろそろ寒くなって来たからね。
えっちらおっちら億劫そうに、元来た階段の方へ歩を進め――

『――《テング》さんのお力を、是非借りたい。金に糸目はつけんぜ?』

止まらざるを得なくなった。

楊柳一見 > 「――どこで聞いた?」

振り向かぬまま訊ねる。
振り向かなくたって解る。
さも、そうら糸に食いついたってな具合のしたり顔だろうよ。

『世の中、異能なんぞなくても耳目の飛ばしようはあるって事さ』

存在がある限り、それを捉える手練手管もまたある。
どうやって嗅ぎ付けたかは――どうでもいい。

『何でも足抜けした上、目こぼしもされてんだろ?』

そりゃ初耳だ。だが――そうなんだろう。
奴らの不利益にならない内は、こちとら泳がされてる魚みたいなもんだ。いつ投網が掛かるやら。
……だからこそ、波風立たせようもない小市民として、のべんだらりと過ごしたいだけだ。

『俺達につけば、お宅の身の安全は保障してやるよ。チャチな魔術グループの影に怯える必要もねえ』

思わず笑いが零れる。こいつらなんにも分かってねえ。
魔術行使者を。その団体を。正面切って敵に回す事の意味を。
何よりも――このアタシに対して、経歴を質に取った交渉は下の下だと言う事だ。

「天狗(テング)に出会った人間がどうなるか知ってる?」

だから、教えてやるのだ。

楊柳一見 > 「――神隠しに遭うのよ」

宣告と同時。振り向きざまに薙いだ手先から、風の刃圧がほとばしる。
それはソファーごと眉なしどもの五体に、数条の乱れ紋を刻み付けた。
びしゃあと、クッションとスポンジと血肉とが趣味の悪いパーティクルと化して、壁にへばり付いた。

『――あ? あ、え?』

何が起こったか分からない。
そう雄弁に語る顔のまま、未知の恐怖に腰が砕けたかのように尻餅をつくスーツ男。
魔術ですらない異能の一撫でで、このザマだ。
…まあ確かに、ちいとばかしムカついたんで、手心とか吹っ飛んでるんだが。

「アタシの能力なり何なりをどこぞで見て、
 使えそうって“だけ”でスカウトしたんなら、半殺しで勘弁したげるんだけどね」

一歩二歩。たわけた笑みを浮かべたまんま、男の眼前に進む。
嘘じゃない。こっちも血に飢えた殺人鬼じゃないんだ。
“必要”がなければ、こんなこたあしない。

「アンタらごとき有象無象に正体掴まれたまんまじゃ寝覚めが悪いから、さ――」

そう。こいつは何て事のない護身の処世。
ハリウッド風に言えば『お前は深入りし過ぎた。バンバン!』だ。


「――影も遺さず、ここで死ねや」

笑みの失せた貌。冷たく烈しい、あやかしの顔で宣する――。

ご案内:「打ち棄てられたクラブハウス」に柊 真白さんが現れました。
柊 真白 >  
(重い扉が音を立てて開く。
 そこから入り込んだ白く小さな影。
 かつんかつんと小さな足音を立て、彼らの近くへ。)

持ち主から追い出してと言われたんだけど……取り込み中?

(血まみれの壁と怯えた男、壮絶な顔の少女。
 彼らがどんな関係かは知らない。
 と言うか彼らの素性も知らない。
 割と凄惨な現場を見ても動じずに首を傾げる。)

楊柳一見 > 新たな幕が開くのにも似た、荒涼としたドアの音。

『っひ、た、助けてっ』

“元の持ち主”の駆除対象にも関わらず、その駆除業者に救いを求めるような――ってえかそのものな目の男と。

「……そ、取り込み中。
 回れ右して目ェつむって百数えてたら終わるから、待っててくんない?」

とぼけたセリフと真逆に凍えた視線だけを巡らす女が出迎える。

「……?」

その視野が、ぼんやりと霞んだ。
視野全体ではなく、白い少女――だろう。声からして――の顔の辺りがだ。
目晦ましの魔術か何かだろうか。
とまれ少女の正体は、この場で議題に上げるものじゃあない。
どうでもいいやとばかりの、砂を蹴立てるような無雑作な蹴り。
遠慮も何もない荒々しさで繰り出したそれは、業風の渦を生じ、手下の残骸もろとも男を叩き込もうと荒れ狂う。

そのまま待っててくれればフレッシュジュースが出来上がる。
……誰も飲みたくあるまいが。

柊 真白 >  
(その石ころを蹴り飛ばすような脚の動き、それによって繰り出される必殺の威力を持った風圧。
 それが起こす結果をわかった上で、見送った。
 結果、人であった者は人でなくなる。)

話が早いのは助かるけど。

(自分が頼まれたのは「不法占拠者の排除」だ。
 当然手段は問われていない。
 どうせ言っても聞かないような連中だ、彼女がいなければ似たような結果になっていた事は火を見るよりも明らかだろうけれど。)

もっと綺麗に殺せばいいのに。
掃除が大変そう。

(真っ赤に染まったクラブハウスを見回し、ぽつりと零す。)

楊柳一見 > どばっしゃ、と。
容器のないジュースは風圧に煽られるまま、壁の塗装となった。
練りが足らずになんぼか固形物が残ってもいるが、人の形は消えたのでよしとしよう。

「いいのよ。アタシが掃除するんちゃうしー」

険の消えた顔で、それこそ口笛でも吹きそうな調子で無責任な言葉を返す。

「しっかしアレだ。その口振りだと、別にアタシがやらんでもアンタがヤってた、かな?」

流血という言葉が雅にすら感じる光景を前に、全く動揺していない辺り。彼女も素性を憚る身なのだろう。
だとすれば、その何ぞの術仕掛けの面相も納得出来る。
こっちが素面な辺りに、ちょいとアンフェアなものを感じたが。
それは仕方ない。さあ行ったれで手ェ下したのは自分だし。

「あー、とりあえず……仕事奪っちゃってゴメン?」

両手を合わせて拝むジェスチャー。
どうでもいいがなぜ疑問形なのか。

柊 真白 >  
そうだとしても。

(殺し方が綺麗じゃないと続ける。
 とは言え過ぎたことだ、特に気にすることもない。)

いい。
私の仕事は「追い出す」ことだから。

(どちらにせよ荒事にはなっていただろうけれど。
 とにかく追い出せたことには代わりがないので、仕事が奪られた訳ではない。)

――ところで。
テング、って聞こえたけど。
あなた、九品蓮台のテング?

(盗み聞きをするつもりはなかった。
 しかし、入る前に聞こえた単語に動きを止めて、話を聞いてしまったことに変わりはない。)

楊柳一見 > 「いやあ、殺しに芸術性とか求めてないしねアタシ」

どんな有様であれ、殺しは殺し。死体は死体。
片付けだの何だのが苦労するだろうが、気に病むような殊勝さもない。

「そら何より。もう戻って来る心配もないよ。……悪霊化でもせん限りは」

まあそうなったらなったで、再殺の手管の使い手なんざ、この島には掃いて捨てるほどいるだろう。
よってこれも無問題。

「――盗み聞きとか、おギョーギ悪くてよ?」

別の問題来たよこれ。どうしようかこれ。
――ああイライラする。

「……で、そのテングだったら、何?
 お互い叩けばホコリが出る身なら、口に慎ましさってのを持つべきなんでない?」

取り乱してるくせに口が回る自分にも、心底イラつく。

柊 真白 >  
そう。

(殺しに対する向き合い方は人それぞれだ。
 殺したのは彼女だ、彼女のやり方で殺せばいいだろう。)

聞いてしまったのは謝る。
――九品蓮台の名前を聞くのは久しぶりだな、って。
あとテングが女の子だとは思わなかった。

(テングと言うからには、もっといかつい人物を想像していた。
 芭蕉扇を持っているとか、黒い翼が生えているとか、修験者の格好をしているとか。
 あとはストレートに天狗のお面をつけているとか。
 仮にそうだとしても、常にそんな格好でいるわけもないのだけれど。)

楊柳一見 > 「謝って済むんなら――」

激しかけたが、続く言葉に何だか毒気を持ってかれて脱力した。

「……そら規模で言やあ弱小だからねあそこ。
 それでも名前浚われるだけの知名度はあったっぽいけど」

赤錆一色の壁へ、苛立ち紛れにゲショッと蹴りを入れた。
で、靴裏のケアで悩む事になるのはもう少し後になりそうだ。

「いいんだってそれで。正体類推される綽名とか、足枷にしかならんしね」

《大師様》――九品蓮台の謎多き元締めだ――が何を思ってこの名を付けたか。知ったこっちゃない。
確かに天狗と言えば風を操る。
そしてこの風繰りの異能に目覚めたのは、名を戴く前だ。
もっとも、異能と発覚すれば実験台にされかねなかったので、修験系魔術だと誤魔化しておいたが。

「しっかしアンタはその……それ」

顔の辺りを円描いて指すジェスチャー。
相変わらず、少女の顔は正体不明のまま。
それもただ単純に、見えにくくするだけのものとはどこか違う。
あるいは、視覚のみならぬ領域まで干渉する術の類かも知れない。

「便利そうね。……アタシもそーいう顔隠すの、持ち歩こっかな」

常時携帯するつもりなのか。

柊 真白 >  
小さくても現代まで残ってるんだから大したもの。
うちは百年かそこらで終わったから。

(組織の規模に関わらず、歴史を持っていると言うのはそれだけで「強い」。
 羨ましい限りだ。)

確かに。

(自分も似た様なものだ。
 「純白の暗殺者」だの「白い閃光」だの裏では好き勝手に呼ばれているが、それだけに色々噂が飛び交っているのは知っている。
 複雑なところはあるが、便利なのは便利だ。)

これ?
裏で出回ってる認識阻害の面に手を加えて作った。
元は顔を隠すためだけのもの。

(そのままでは推測されてしまうので、そこから更に強化した。
 効果はご覧の通りだ。)

――作って欲しいなら、作るけど。

楊柳一見 > 「これが老舗旅館とかならよかったんだけどねえ。
 …あー、アンタも古巣持ち? ま、終わった相手ならしがらみも残らんで結構なんじゃない?」

その百年を、彼女が現役で生きて来たであろう事など知る由もなく。
ほんの十数年の戒めしか持たない小娘は、さも軽佻に言い放つ。

「おー、認識からいじるんだ。そら面もよう割れんわ」

恐らく後に素面の彼女と行き会って、その声を聴いたとしても、きっと今夜の邂逅とは結びつかないんだろう。

「くっそ、マジでアンフェアじゃ――え、ほんま?」

あまりの気前の良さにお国言葉が出たよ。

「もらえるんなら、そら有難いけど。アタシ今フリーの一般人志望なんで、蓄えそんなないよ?」

フリーの一般人志望ならスカウトの時点で逃げろってツッコミは聞こえないな。

柊 真白 >  
残らないのはしがらみだけじゃない。

(居場所も人も、何もかも残らない。
 むしろそう言う類のしがらみが新たに発生する場合もある。)

勿論目の前で外したらばれるけど。
――お金貰えるなら。

(当然金は貰う。
 実費と人件費、あと若干の手数料を加え、そこへ一般人志望割引を計算し、)

五万円。

(効果から考えれば破格の値段だと思う。)

楊柳一見 > 「……ふうん? なくしてからその大切さに気付く、ってヤツ?」

首を傾げて、気のない声音。
捨てた事に後悔はない。今のところは。
――それ以上のものを、既に奪われたのだ。

「5万。5万かあ。買いだよなあこれ……」

効果の程を考慮しても、ご奉仕価格なんて言葉が陳腐化するレベルだ。
ただ惜しむらくは。

「今2万ぐらいしか手持ちないんよ。
 ……こんな事ならあいつら、服だけでも残しとくんだったわ」

紙幣の繊維も服の繊維も筋繊維も、一緒くたになって壁の配色に成り下がってるのを見て、ずうんと沈んだ。

「家帰ったら用意出来るんだけど。……今度どっかでまた会う?
 それか、やっぱ前払いでないと無理?」

施術とかかなり手間が掛かるだろうし、そもそもディスカウントなんてな論外だ。

柊 真白 >  
家族が丸ごといなくなった感じ。

(感じと言うか、まさにそれだ。
 構成員が少ない分、その繋がりは他所の組織よりも強かったから。)

別にあとからでもいい。
お金に困ってるわけじゃないし。

(仮に逃げられたとしても何か困るわけでもない。
 ――いや、それが原因で舐められても困るので、取立てには行くが。
 とにかく今この場で現金即決と言い張ることもないのだ。)

モノさえあれば、作るのはすぐ作れる。
今から行く?

(面を入手出来れば術を仕込むのはすぐだ。)

楊柳一見 > 「――いい家族、だったのね」

なくなったもの。残らなかったもの。それでもなお想うもの。
そこに入るのならば、きっとそうなんだろう。
その感覚を共感する事は出来ないけど。

「え、ほんま?!」

お国言葉二回目。感嘆符付である。

「いやあ、盗み聞きされた時はどうしてくれようかって思ったけどなあんだいい子じゃん」

そしてこのはしゃぎっぷりである。
声音と背丈とで決めつけて、いい子呼ばわりまでしてやがると来た。

「うん探そう、すぐ探そう! でも出来れば鼻高天狗は勘弁して欲しいかなー」

注文のおまけまでつけて、いい加減鉄臭くなりきった部屋から急き立てるように出て行こうと――。

柊 真白 >  
今の私を育ててもらった。

(そう言う意味では育ての親と言っても過言ではない。
 実の家族よりも長く一緒に暮らしたのだから。)

――こんなところに出入りしている時点で言いも悪いもないと思うけど。

(いい子ならば落第街に近寄りもしないはずだが。
 呆れつつもまぁいいかと軽く流し、はしゃいで出口に向かう彼女の後を付いていく。)

無地の白い面しかないと思う。
手を加えると模様付くけど。

(仕事の依頼主に連絡をいれ、裏市場へ向かう。
 そうして手に入れた面にまじないを施し、自身のそれと似たような面を彼女へ渡そう。
 ついでに金が用意できたら連絡をくれと連絡先も渡して――)

楊柳一見 > 「……それってさ、」

育てられた恩義があると言う事なのか。
そう訊ねようとした自分のおめでたさに閉口し、

「――んや、何でもない」

振り返らずに部屋を後にしよう。

「いいのいいの、アンタはいい子。ハイ! アタシが決めました!」

どんなもんだハッハー、とか殊更明るく振舞いつつ、向かうは裏市場。
まさか島へ来てまでそんな場所の世話になるとは思わなかったが、何であれケアの手段は必要だ。

施術された白面と、連絡先とを受け取って帰る道すがら、

「そういや、アンタのこと何て呼んだらいい?」

遅ればせかつ間の抜けた問い。

「アタシはー……表で会ってもアンタの事分からんし。
 今度後ろ暗い場面で会ったら、特例で《テング》呼びしていいよ。襲ったりせんから」

少なくとも彼女だけは、だが。今の所。

柊 真白 >  
真白。
柊真白。

(別れ際、自身の名前を告げた。)

ご案内:「打ち棄てられたクラブハウス」から柊 真白さんが去りました。
楊柳一見 > 「――真白、ね。代金は早めに用意して知らせるわ」

肩越しにひらりと手ェ振って。
そんじゃ、と短く告げれば後は双方別れて消えて行く。

行く先は別方向。
しかしその先は、いずれもおんなじ夜の闇の底へと――。

ご案内:「打ち棄てられたクラブハウス」から楊柳一見さんが去りました。