2018/11/20 のログ
木里嶺 静織 > 落とした学生証などに記載された、『木里嶺 静織』という名前。
━━先程の黒いカードに入っていた、敦という名前がどうやらお兄ちゃんと呼ぶ存在の名前らしかった。

「……あ、ありがとうございます。もぉ、ほんとドジだなぁ私……」

━━━━カードの会社は、普段見慣れる口座を立てるものとはかなり名前も違う。「UGN」とやたら綺麗なロゴがきざまれているのも特徴的だ。
……普通とは明らかに異なる種類。そして。
拾おうとする手がカードを取るとき、少し捲れた袖の中、━━見たこともないような無数の電極が、包帯を巻かれた腕に張り付いて服の下まで伸びていた。

「……本当にありがとうございました。お姉さん、優しい人ですね」

……人懐こく笑って、振り向くように受け取ったものをカバンの中にしまっている。
「……私、常世学園っていう学校に、この前転入してきたばっかりなんです。
色々わかんないことがいっぱいで、今日もこんな風に迷子になってて……お兄ちゃんはすっごく大変なお仕事をやってるから、私がしっかりしないとなんですけれど……」

遼河 桜 >  
「(てめぇの境遇とか身の回りとか興味ねぇよ)」

人懐っこい笑みを浮かべ、境遇を話し始める少女に苛立ちを覚える
見ず知らずの人間に対して危機感というものがなさすぎだ

「うん、よく言われる」

笑顔でそう言うと…一度少女の手に返したブラックカードを毟り取るようにして、奪い去った

「そんな優しいお姉さんに、もっと色々キミのこと教えてほしいなー♪
 …このカードの暗証番号とか♡」

ちらりと周辺を見る
時間的に人通りは少なくなってきた頃だ
──車椅子を思い切り蹴るようにして、更に暗い路地裏へと押し込んだ

木里嶺 静織 > 「そうなんですか?それなら、やっぱりお姉さんは━━━━」

優しい人、と重ねようとしたのだろう。
笑顔を作りかける手前の不可思議な顔のままに、……力づくに奪われるカードを目で追って。

「……お、お姉さん……?な、なに、暗証番号……って━━━━きゃ……ッ!!」

がごっ、と鈍い音がする。蹴る時の拍子に、車椅子の転倒防止機能が働いたのか。それでも蹴られるように表の光から遠ざけられた事はかわらない。先より暗くなった周囲の中で、浮かび上がるような金色の眼が動揺に揺れる。

「……し」

━━━━閉じかけた口が、喉を一度跳ねるように息をすって、小さく開く。

「……知ら、ない、です。カードは、何時も、銀行で渡してるだけで、暗証番号なんて、知らないです」

……喉の奥に力むような声が返り、笑顔を消して、真っ直ぐな目を向ける。

遼河 桜 >  
「ふーん、知らないんだ。
 とっさにウソつけるようなタイプにも見えないよねえ、
 ──それなら"お兄ちゃん"に直接聞かなきゃ」

クスリと笑う、そんな笑みは薄明かりの下ではも妙にはっきりと見えた

「"お兄ちゃん"とは仲いいんだよね?
 かわいい妹のためなら色々教えてくれると思うんだ♪」

華奢な少女、その身体に向けて…横から思い切り蹴り飛ばした
車椅子から蹴り落とす、そのつもりで

「"優しいお姉さん"なのにこんなことするなんておかしいね。なんでこんなことするんだろうね?」

クスクス、笑みは増々、深まってゆく

木里嶺 静織 > 「ッ、お兄ちゃんは、お仕事が忙しいもん!だから、聞くなんて出来ないもん!!」

その笑みがどういう質のものなのか、理解の無い頭でも汲むことの出来た限りで判断したのだろう。
少しだけ声を張り上げて、

「ッ、お兄ちゃんの事を……うッ……?!」

細い身体に、鋭い蹴りがモロにめり込んだ。勢いのままに車椅子は横倒しになり、椅子から蹴落とされた細い躯が路地裏のコンクリートに叩きつけられる。
げほっ、と、咳き込みながら踞って、髪の向こうで、見開かれた眼が見上げてきた。

「━━━━お姉さん、は、…………優しい、人じゃ、ないんだ……ッ」

━━なんでこの人に道を尋ねてしまったのか!
後悔の色と同時に、ようやく自分が今置かれた状況を理解ったらしい。
這いつくばった姿勢から、四つん這いになって、壁に手をついて立ち上がろうとする。
蹴倒されたときに肘を強く打ったのか、壁につく手は片方だけで、もう片手はぶらりと垂れ下がっていた。

遼河 桜 >  
「お仕事が忙しくて妹がどんな目にあっても仕事仕事?
 それならしょうがないね、かわいそかわいそ♡」

立ち上がろうとする少女の細い肩
それを目掛け打ちっぱなしの壁に押し付けるようにして再び蹴り込んだ
──容赦だとか、遠慮だとか、手加減だとか…
そういった人間性、感情はそこには感じられなかった

「優しいと思うけどなぁ…綺麗な顔してるから狙わないようにしてあげてるし。
 ま、いっか…暴れないでねー♪あとおっきな声も、出さないように♡」

くるん、と何かをまわすような仕草、続いてパチンっと音が鳴った
薄暗い明かりの中で僅かな光を反射する、小さなナイフがサクラの手には握られていた

木里嶺 静織 > 「……違う、お兄ちゃんは、大事な、お仕事、してるから……だから、私が、しっかり、しなきゃ」

━━━━ぼぎりと、鈍い音と、脚に返る感触が。
その蹴りによって、重大な傷害を与えた事を伝える。

「ぅ、あぁ、ぁッ…………ッ!!!!!」
絞り出された苦悶の声、大声を上げなかったのではなく、今まで与えられたことの無いようなショックと、痛みによるパニックがそれを許さなかったのか。
その場に再び崩れ落ちて、砕かれた肩を地につけては痛みに悶え、見開かれた目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

「ッ……ぉ、ねぇ、さ…………何……っ?……ひ、ッ!」

それが何なのかなんて見れば分かる。涙でボヤけていてもその輪郭はよく使うものと同じだ。
違うことは、兄の為に作る料理で、食材をとんとんと切るためではなく、自分を傷つける為に握られている事。
恐怖心が声をしばり、身体をしばり、抵抗する意志をしばった。

遼河 桜 >  
「心配しなくてもいいよ、大丈夫大丈夫♪
 ちょっと"お兄ちゃん"とお話しやすいようにするだけだから♡」

顔を近づけ、恐怖に竦むその表情をよく観察する
車椅子に乗るような身体で、歓楽街に来て、バカなことをしたと、
こんなヤツに声をかけてしまったことを、後悔させてあげなければいけない
見開かれた瞳、引き攣るような表情
バカだからこうなる、内心で嘲笑った

ナイフが振るわれる
その刃は少女の柔肌を切り裂くようなことはしなかった
それらを隠していた衣服が、下着が、切り裂かれだだけで

役目を終えたナイフはさっさとしまわれ、変わりにその手にはスマホが持たれ…その小さなカメラが、少女に向けられる

「ほら、もっと怯えた顔してー、じゃないと映えないでしょ?」

木里嶺 静織 > 「……っ、おにい、ちゃんと……」
苦痛、肩から、肘から、身体の感覚を補助するためにある身体の電極からは。
与えられる苦痛さえも、感覚が本来無い手足から訴えられる。身体中が痛くて、冷たい。

━━━━閃くナイフによって切り裂かれると思い、強ばらせた身体。
しかし、それが切り裂いたものが、肌より上の物だと気づいて、状況にも関わらず、顔が恥辱に染め上がり。

「……っや、だ」

━━━━これ以上の顔なんて、浮かべたことがない。それに……自分だけなら良かった。自分が虐げられるだけなら。
だけど目の前の相手は、最愛の兄へも良からぬことを企てている。それが、それが。


「……やだ!!」
許せない!!

━━先に、暗証番号を知らないと言った時といい、蹴られた時といい。齢にしては、反応が思惑よりは、微かに弱かったかもしれなかったが。
今目の前でそちらに向けた顔は今までの比にならない。恐怖と恥辱を怒りが押さえ込んだ顔だった。


…………スマホの画面は明るいのか、周りの暗闇の中、そちらの顔が伺えるくらい明るいか。
もしそうなら。

遼河 桜 >  
スマホの液晶の光は暗闇では眩しい程
それを向け、画面を覗くサクラの顔はよく見える、が──

「あー、だめ、全然だめ。
 そういう顔じゃないんだよね…欲しいの」

すっとスマホを降ろし、ポケットにしまってしまう

「やっぱちょっとぐらいヤっといたほうが被写体映えするかもしれないね …っと、デケェ声出すんじゃねぇつったろ」

再び、蹴り込む
先程と同じ場所、痛めた肩をもう一度───

「頭悪ィ猿じゃねえんだから一度言われたらわかれよクソガキ。オレはめんどくせぇのが一番嫌いなんだ」

口調ががらりと変わり、常に浮かべた笑みも消え去った
ただ苛立たしげに敵意しかない視線を向けられている

木里嶺 静織 > ━━━━光を見ていた。仕舞われるまでを、じっと見ていた。
……そして、暗闇の中に再び見えづらくなった顔を見て。

「……ッあ」

きっと、何かに気づいたのだろう。小さな声が漏れて、口が半開きになり━━そのまま、肩に蹴りこまれる事で、痛みが、痛みが、痛みが。

「う”、ぁああああぁッ……!!」
二度目だった。今度は抑えきれない苦痛が、叫び声になった。
抑えられるはずが無い。こんな痛みが、自分の身体に与えられたことなんて、”あの時”にしか。

「ッ……お、”にい”……さん」

……お姉さんだと思っていた。でも、違う。そんな顔が、そんな声が。
━━こんな事をする人が、その姿かたちと噛み合わない。答えが出て、小さく、小さく零れる。

……かちゃっと、足元に、蹴られた拍子に外れた胸のブローチが落ちた。

遼河 桜 >  
「っち、静かにしろっつったろ。わかんねぇのか、低能」

片手を伸ばし、その口を塞ごうとする

その時に不意に響いた音
視線が、外れて落ちたブローチを追いかけた

木里嶺 静織 > 「━━幻、創……っん、ぐ、んぅっ……!!」

塞がれる間際。何か呟いた。

━━━━ブローチが外れて落ちた瞬間。そのブローチから、LEDが内蔵されでもいたらしい。
眩い光が放たれて、それを、抑え込まれた少女が浴びた。

━━━━パン!!と。
次の瞬間。サクラの視界を眩く覆う白い光が、少女から炸裂する。
羽ばたくような音と、先まで少女が手繰っていた車椅子に似た、ヒュゥゥ……ゥゥンという電子音。

押さえ込もうとした腕を、光る何かが押し退ける。強い力と、未知の手応えが力を持って、強く、強く反抗する。

遼河 桜 >  
「ッ…?! ちっ…異能者かよ…!!」

目が眩むような光、眩しげに目を伏せ、数歩後ろへと後ずさる

あの学園の学生であるという時点である程度危惧すべきではあった
少女は儚げで、あまりにも弱者に見えたということが、誤算を生んだか

木里嶺 静織 > 「━━熾天使(オリジンヘイロゥ)……!!」

━━勇ましい、高らかな声。
風の音に、路地裏が白く染まるほどの光量。
視界を暴力的な程に照らし、吹き荒れる風が塵を煽る。

…………後ずさるそちらを掠めるように、光の中で。
声の主が、奪われたカードを、奪い返し、掠め取る。
羽根のような何かが手に触れて、絡みつくように、柔らかく包み込み、優しくさえある温かさの中で、無機質なカードから指を解かせる。

…………そうして眩さから回復する頃。

「━━━━お兄ちゃんの、ことを、いじめなんて、させないよ……っ!!」

……路地裏の中空で、6枚の光の翼を広げた、虐げられていた少女が、力強い目でサクラを見下ろしていた。切り裂かれた衣服の間の包帯と、金色の眼。
全ての要素が、姿をいっそ神々しく飾る。

『皮肉にも、それは虐げられていたと言うには、天使として映えていた』



……………………転がっているブローチの縁、焼け焦げたように途切れた糸。
そして、上空で、小さく、小さく。
『先程顔を照らしていただろうスマホの光量と同じ位の光球が、今しがた消滅していっていた。』

遼河 桜 >  
「──…あぁ、はいはい。わかったよ、返せばいいんだろ、返せば」

変貌した少女、だがその様子にはまるで目もくれなかった
文字通りまるで興味を失ったとでも言いたげに、カードを地面へ捨てるように放り投げた

「弱い人間のフリして騙して楽しかったか?異能者様はとことんクソだな」

向けられるのは軽蔑の目線
そしてその次の瞬間───

「きゃああああああッ!!!
 助けて!!異能者が、街中で力を───殺されるー!!」

大きく反響し響くほどの、悲痛な悲鳴をあげた

木里嶺 静織 > 「…………ッ」

捨てられるように放り投げられるカードを、一瞬の光条が跳ね上げる。飛んでくるカードはふわりと一枚の羽根が受け止め、袂に手繰った。
…………からの、劈くような悲鳴に目を見開く。

「え……あッ……!?」
自分を虐げていた相手が、”自分が虐げられる”という演技をしたことに困惑し、同時に、
━━━━この状況を説明する方法が無いことを悟った。

「……っ、っ、……う、うぅううぅ……!!!」

事実じゃない。いじめられたのは、虐げられ、辱められたのは自分。だけど、
今の状況で、無罪の主張など出来るはずもない。
悔しさと、━━どの道この後に降りかかる事態への無力に拳を握り締めて。

「……ッお兄ちゃん……!!!」

その呼び名を振り絞って零し、飛翔した。
━━周囲の風景を歪ませるような光の乱反射と共に、その姿は、夜空に掻き消えていった。

ご案内:「歓楽街・裏路地(過激描写注意」から木里嶺 静織さんが去りました。
遼河 桜 >  
───ドヤドヤと、近くの店の人間が訪れる
彼らは飛翔し飛び去る光の軌跡を見たことだろう

「(──異能者ってマジでバカしかいねーな)」

駆けつけた人間に被害者の演技をしつつ、内心少女を嘲笑った
得たものはなし、が、失ったものもなし
せいぜい他人を馬鹿にできたことで満足しておこう

歪みな少年は周りが大騒ぎするなか、掻き消えるようにして人混みへと姿を消した

ご案内:「歓楽街・裏路地(過激描写注意」から遼河 桜さんが去りました。