2016/05/10 のログ
ご案内:「◆落第街、深夜の一角」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 > 「はぁ…はぁっ、はぁっ…!」
月の光も届かない、そんな夜も更けた路地を少女が走る
当たりからは何の気配もしない、ただただ闇が潜み…
「っあう!」
夜目が効くとはいえ、この暗がりでは路地に転がった角材に気づけず、
足をとられ、大きな音を立てて木箱に向けて転び倒れる
「っいた……い」
上半身を起こし、身を返すとその場にへたりこむ
……どうしてこんなことに
■伊都波 凛霞 > 時を遡ること数時間前
警邏中の風紀委員が怪我をしたと連絡があり、応急処置の準備をしてその場所へ向かった
幸い怪我は大したことはなく、どうやら恐喝犯を追いかける途中、
段差で足を踏み外した…といった程度のものだった
簡易的な治療を終え、長居は無用と車両に乗り込んだ──いや、乗り込もうとした時
えも言えぬ異形、光すら飲み込むような黒い影
不定形のそれは自分を庇った風紀委員の"足"を飲み込み───
そこから先は、ただひたすら走った
アレ、は一体何だったのかもわからない
スラムに棲みつく異形の話は保険課でもたまに話題に上るが、
あんなものは………
■伊都波 凛霞 > 「───っ」
ただただ、恐怖を感じた
アレを見るだけで、人間としての、生物としての本能的な恐怖に支配され、
ひたすら走って逃げる以外の選択肢を許さなかった
「…あ」
気づいたように、制服のポケットを弄る
闇に包まれてはいるが、この場所は開けている
携帯の電波も届くだろうと取り出したはいいが…
「えっ…あれ、うそ……」
ライトアップしない
転んだ衝撃でどうにかなったのか、それも暗がりでは確認できない───
■伊都波 凛霞 > 「…あ、灯り……なにか…」
壁に手をついて立ち上がる
左脚に鋭い痛みを感じる
こちらも転んだ時に痛めたか
壁伝いにひょこひょこと歩いて行くと僅かな光源を視界に捉える
■伊都波 凛霞 > その光はまるでスリットのような、縦長の一本の線
その形から、おそらくは建物の入り口…そこから漏れている光だろうと推察する
建物がある、人がいる
それだけでも縋りたくなるほどに、極黒の闇は不安を掻き立てていた
■伊都波 凛霞 > 痛みを訴えてくる左脚をかばいながら、なんとかその光へと辿り着く
光が漏れていたのはドアだ
開いているわけではなく、ただただ建て付けの悪い、プレハブだった
それでも、中に人がいる。誰かがいる
タンタン、とドアを叩く
「あのっ…すいません!誰かっ…」
■伊都波 凛霞 > しばらくは何の反応もなかった
ただただ沈黙
お願いだから誰か出てきて、と祈るような気持ちで反応を待つ
やがて、階段を登るような音が聞こえる
一見プレハブにしか見えないような、この建物
このドアの先はすぐに下へ降りる階段になっているのか?と
普段通りの凛霞ならば疑問に思うこともできたのかもしれない
■伊都波 凛霞 > ギィ、と重苦しい音と立ててドアが開く
光源自体は、単なる階段を照らすための蛍光灯だった
その光を遮るように、背の高い、やせ細った男が立つ
先程と同様、まともな思考が働けば警戒もしたのだろう
男の体から臭う、煙草と、アルコールと…そして恐らく、葉っぱの香り
それでも出てきたのは、出てきてくれたのは人間だった
「良かったっ…あ、あの、私、大通りで変なものに襲われて…携帯も、壊れちゃって…!」
堰を切ったように必死に離す様子を見て男はその細い顎を撫でる
やがて凛霞を頭の天辺から足の先までじっくりと眺め見て、口を開く
『とりあえず入んなよ』
■伊都波 凛霞 > 男は招き入れるようにしてドアを大きく開く
『大変だったな。この辺りは犯罪者だけじゃなくワケのわからない異邦人も多い』
男に声をかけられると、不思議と安堵する
闇の中に一人きり、というのは心細すぎた
だから、男が後ろに立ち、凛霞を先に階段を降りさせていることにも何の疑問も感じなかった
脚を庇うように一段ずつ、ゆっくりと階段を降りていくと、再び鉄製のドアが現れる
そこへ向けて、階段を下りながら
「あの…電話とか、あるかな…?
夜遅くなっちゃったし…連絡とかいれておきたいんだけど…」
普通の建物と違って地下に降りていく構造に若干不安になるのも、
連絡手段の有無についてだけだった
『ん?まぁ話はゆっくり聞くよ。
怪我してるみたいじゃないか、手当てもしないとな』
■伊都波 凛霞 > 階段を降りた先、再び鉄製の扉
男が凛霞の肩越しに、扉を押し開く
最初に目に飛び込んできたのは、数人の少年達
…と言っても、おそらく年齢は自分たちと変わらない程度の、
中には学園でよく見るタイプの制服を着ている者もいた
『あれ、伊都波じゃねぇ?』
ソファに気だるげに掛けた数名の少年、その中の一人が声をあげる
「え?あれ…君、学園の生徒…だよね?
ていうか、もしかしてみんなそう…?」
どうしてこんなところに?
どうしてこんな時間に?
次々降っては湧いてくる疑問
急に落ち着きを取り戻してきた頭の中、それらを整理していると───
『いいから入れって』
後ろから男に思い切り、背中を突き飛ばされる
■伊都波 凛霞 > 「きゃあ!?」
突き飛ばされ、負傷した脚では踏ん張りもまるで効かずに、
そのままソファにいた生徒達に抱きとめられる
「な、何す───」
顔を振り返り後ろを見ると、言葉に詰まる
明るい証明の下で見た、男の眼は暗く冷たく、光も宿さない
人助けを好んでする人間の顔じゃないと、即座に悟らせるくらいには
『良かったなお前ら、トモダチが増えたぜ』
男は煙草に火をつけ、入り口のドアの前に椅子を移動させて腰を降ろす
それに"逃げられないようにするための意図"があったことすら、
混乱する凛霞にはわからない
■伊都波 凛霞 > 『まさか伊都波が来るとはなー』
『何で知ったの?アンダーグラウンドでしか情報ないのに、此処』
『実は伊都波も結構な不良?だったして?』
周囲の少年達はただただ楽しそうに笑う
ソファが囲むテーブルの上には酒瓶や、灰皿…そして注射器に───
すぅ、っと血の気が失せる
「……え…何、してるの…? これ、何…?
なんで私のこと知って……」
状況の把握が間に合わず、ただただ口からは質問を吐き零す
『何、って…オタノシミ?』
『伊都波有名人だしなー、俺らは知ってるけど。
まぁ逆に俺らのことなんてほぼ知らねーってやつ』
『いいんじゃねー、よくお互いを知り合える良い機会ってことで』
この少年達を言っているのかも理解らない
ただただ、闇を彷徨っている間よりも感じる。嫌な予感
「ご、ごめん私っ ───ぁう!?」
この場にいてはいけない、と立ち上がろうとする
──が、すかさず少年の一人が凛霞の髪を引き掴み、ソファへと倒す
■伊都波 凛霞 > 『伊都波、優等生だもんなー、神童とか言われてるし。
…このまま帰したら此処のこと、喋っちゃうだろ?』
強くなる嫌な予感
それは身の危険
「…い、言わないよ!だって、君たちが何してるかもしらないし…!!!」
飲酒、喫煙
それくらいならわざわざ言うこともない筈だ
なのに引き止める、ということは……この少年たちは、知られてはならないことをしている
「……まさか、みんな」
周囲を眺める
ニヤニヤと張り付いた笑みの少年達
自分の名を呼んだ少年の顔は、どこか記憶の中にあった
多分学校で、話ぐらいはしたのかもしれない
そんな、普通の少年達が
『まぁ信用しないわけじゃねーけど』
『伊都波も何か一つ俺らに秘密をプレゼントしてくれないとなー』
『そうそう、そうすりゃお互い余計なお喋りしねーっしょ?』
少年達は口々に好き放題なコトを言い、詰め寄る
「…ま、待って、ねぇ…何、何する気なの…!?」
『何って…まぁ、ナニかなぁ……
知ってるでしょ?子供じゃないんだし』
『あんまりデカい声は出させるなよ』
入り口を塞ぐ男からの声がかかるのを合図としたように、
少年達は凛霞に覆いかぶさっていった
■伊都波 凛霞 > ────
暫くの、時間
気がつけば入り口を塞いでいた男の姿がない
否、男はいた
自分の下にいる
下卑た笑みを口の端に浮かべて、自分を───
何時間か経ったのだろうか
少年の数も減った気がする
『共犯ってことで』
そう言って自分に何かを飲ませた少年の姿も、ない
『バラ撒かれたくなきゃ喋んなよ~?』
そう言って携帯カメラで何度も何度も撮影した少年の姿も、ない
一人、二人、三人
この場にはもう自分を覗いて三人だけ
「……───っ」
頭に靄がかかったようで、思考が働かない
全身も気怠く、手足に力も入らず──ただ、揺らされる
悲鳴を叫ぶ喉も擦り切れ、言葉を呟く気力も失せた
『さすがに飽きたな』
少年のその言葉を最後に、ようやく解放される
ソファへ倒れこんだまま、動く気力もなく
ただただ電気信号のように走る感覚に末端を痙攣させながら
少年達からかけられる侮蔑の言葉を聞く
それすら、もはやどうでもよいと思えるほど、焦燥しきっていた
ご案内:「◆落第街、深夜の一角」に寄月 秋輝さんが現れました。
■寄月 秋輝 >
キン、と乾いた音を立てて。
ドアを切り裂き、入ってくる一人の影。
「……手遅れだったか」
ふん、と小さく息を吐く。
一応ここまでの道中で察しは付いていた。
何人の制服を着たゴミを切り伏せたかまでは数えていない。
既に抜身の刀が右手に収まっており、鞘に納めてすらいない。
「次の犠牲者を出さない方向にしようかな」
まるで今夜の夕飯のメニューを決めるかのような軽さで、凛霞の足元へ、男の元へ向かう。
■伊都波 凛霞 > 『なんだ?ガキ』
『ん、コイツどっかで…』
男と、残った生徒二人は闖入者にその視線を向ける
「(…………また、だれか…きた…? もう、やだな………)」
混濁した意識の中で、今までいない人間が現れたことを凛霞も察する
秋輝が本身を手にしていることに気づき、
痩せた男は透かさずベルトから拳銃を引き抜いて、秋輝の肩口に向けて数発、射撃する
狭い地下室に、銃声が木霊した
■寄月 秋輝 >
「遅いな」
銃口を向けた先と引き金を引く指の動きを見れば、拳銃の弾丸など避けるのはたやすい。
拳銃などより早い雷撃を回避してきたこの目と体にとって、弾丸など止まっているに等しい。
刀が神速で振るわれる。
おそらくは銀色の光の筋くらいは、彼らにも見えたかもしれない。
その刃はなんのためらいも無く、生徒二人の首を刎ねるだろうか。
そのまま流れるように、刀が男の両腕を切り落とすために動く。
■伊都波 凛霞 > 『あ』
間の抜けたような、そんな言葉を最後に少年達は崩折れ、切断面から鮮血を吹き出して絶命する
痩せた男もまた、銀閃を避けることなどできるわけもなく、
両腕を瞬時に失ったショックと痛みで意識を失い、その場に倒れ伏した
「………」
凛霞はただ、ソファに撓垂れ掛かるように体を預けて、虚空を眺めていた
■寄月 秋輝 >
眉根に皺を寄せ、イラついた表情になる。
「……なんだ、両腕を落としたくらいで。
聞きたいことがいくつもあったのに」
用無しとばかりに倒れ伏した男の首を躊躇なく切断し、刀を納める。
神速の刃は血が付くことも無く、曇らぬ白銀の輝きをしていた。
「凛霞さん」
大丈夫か、とも。怪我はないか、とも聞かない。
一目瞭然のその姿、今更どんな言葉も無意味だ。
自分も体験した『凌辱』とは、それほどに心を砕くものだ。
自分の羽織っていたジャケットを肩にかけ、ひざ裏と背中に手を回して抱き上げる。
「もう大丈夫です。一度帰りましょう」
いつもと変わらぬ声で、そう囁いた。
■伊都波 凛霞 > 触れようとした瞬間にビクッッと大きく震え、その眼を恐怖に見開いた
その姿に、以前演習場で触れ合った時の面影は毛程もなく───
それでも、かけらえた声はしっかりと覚えていて
少しずつクリアになる視界に捉える顔も、はっきりと
「……秋輝くん」
どうして此処に?とは聞かないし、
殺すことはなかったんじゃ、などとは言えない
ただ抵抗なく抱き上げられて
「………ごめんなさい…ありがとう」
と小さく呟き、大粒の涙を零す
■寄月 秋輝 >
ふ、と。小さく、少しだけ悲しげに笑った。
辛かったのだろう、苦しかったのだろう。
なのに遅れてきた秋輝に対し、恨み言も吐かない。
なんて強い子なのだろう、と思ってしまった。
「困ったときはお互いさまです」
前回の礼だというような言い方をして、軽く考えさせて。
もっと早く来ていれば、救えたのに。
『夏樹』も、凛霞さんも。
いつもいつも、『オレ』は助けに来るのが遅い。
そんな気持ちを抑え込む。
なるべく体が見えないようにしっかりと抱きしめて外へ出て、飛行の魔術を展開して大空へと飛び上がる。
まずは病院へ行かなければ。
緊急の避妊と、薬剤の検査と、メンタルケアと。
これからも彼女は戦わなければならないのだ。
せめて今だけでも安心させてあげたかった。
ご案内:「◆落第街、深夜の一角」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「◆落第街、深夜の一角」から寄月 秋輝さんが去りました。