2022/08/03 のログ
ご案内:「第二教室棟 屋上」に角鹿建悟さんが現れました。
■角鹿建悟 > ――今日の仕事は学園の設備の幾つかの点検、そして修繕だ。
それもテキパキと手際よく終わらせれば、すっかり夕刻に差し掛かろうという時間帯。
蒸し暑い気候の中、外で黒い作業着という格好だったので汗だくにはなったが。
つい先程まで、クーラーの効いたロビーの一角で小休止ついでに涼んでいたが…。
「……ん…風は少し生温いが、まだマシか…。」
第二教室棟の屋上へと姿を見せれば、矢張り時間帯などもあり人の姿は無い。
そのまま、近くのベンチに歩を進めれば…一部、年季の入ったベンチが目に留まり。
「………。」
今回の仕事の範疇に屋上は含まれて居ないが、何かすっきりしない気分だ。
なので、ベンチの老朽化した部分に右手を添えて――自らの異能を発動。
「――これで良し…。」
ものの数秒で老朽化した部分が新品、とまでは行かないがしっかりとした状態に戻る。
無表情ながらも何処か満足そうに一息ついてから、改めてそのベンチに腰を下ろして。
■角鹿建悟 > 「――この後は…。」
作業着の胸ポケットから使い古されたメモ帳を取り出して残りの仕事を確認する。
一応、生活委員会の仕事という体で来ているが、個人的にやっている修理サービスの依頼もある。
「……点検が2件、機械修理が3件、建築物の修繕が1件…か。」
今日中には流石に厳しいか?と、考えて今度はスマホを取り出してカレンダーを確認する。
「……詰め込めば可能ではあるか…。」
一度ぽっきり圧し折られて中途半端に再起して、多少前よりは改善された事もある。
それでも、矢張り仕事人間の気質はそうそう簡単には直りそうもない。最早日常だ。
「…特に誰かとの約束とかも無いからな…問題無いだろう。」
普通はそれはそれで虚しくなるものだが、この少年はそういうものは無いらしい。
淡々と、それが当たり前で慣れているかのように漏らしてメモ帳等を仕舞い込む。
ご案内:「第二教室棟 屋上」に北上 芹香さんが現れました。
■北上 芹香 >
「――この後は…」
メモ帳を取り出して残りの仕事を確認する。
「……犬の散歩が1件、生活委員会の手伝いが2件、トコヨバーガーの夜勤が1件…か」
ふと、顔を上げると同じようなことを呟いていた少年と目が合う。
「あなたも……仕事漬け…なの?」
ふとした拍子に感じるSympathy。
人差し指と人差し指を合わせたら光りそう。
色気のある茶髪に特異な異能を持つという噂の銀の瞳。
異能者だろうか。
■角鹿建悟 > 「――ん?……あぁ、どうも…。」
奇しくも同じような事を呟いていた少女の姿に初めてそこで気付いたか。
声を掛けられて目が合えば、何時もの無表情のまま軽く最低限の挨拶はしながら。
「……それで、先の質問だが…まぁ、その通りだ。見ての通り生活委員会だからな…。」
黒い作業着、の左腕に付けた生活委員会の腕章を軽く示しつつ緩く肩を竦めてみせる。
そして、残念無念な事に指と指を合わせた光のsympathy、はこの少年は多分ピンと来ないだろう。
無表情ながらも、落ち着いた銀の双眸で少女の姿を失礼でない程度に眺めながら。
「…それで、そちらも仕事……もしくはバイトか何かか?」
犬の散歩やら、自分も所属している生活委員会の手伝いやら聞こえた気はするけれど。
ちなみに、このクソ暑い時期にこの黒い作業着姿は少々むさ苦しい、というか暑苦しいかもしれないがそこは大目に見て欲しい所。
■北上 芹香 >
シケた顔になって首を左右に振る。
挨拶ができない女は挨拶ができてないのも同然。
「ごめん挨拶してなかったわ……」
「こんにちは」
腕章を見て肩を竦める。
確かに生活委員会だけど。なんとも仕事が山積みのよう。
「うん、学園に設置されたゴミを回収して回るお仕事」
片手に持ち上げたビニールのゴミ袋を上げて見せる。
「それにしても道具を使わずにベンチ直してなかった?」
「すごいね」
人と話す。それは嫌いな相手でない限り一定の安らぎを得る。
私は心労がマッハなので目の前の男性を犠牲者に選んだのだ。
会話に付き合ってもらおう。
■角鹿建悟 > 「…いや、別に謝らなくてもいいが…。」
少年の方は些か不思議そうに瞬きをしつつも、直ぐに気にするなと緩く頭を振って。
ともあれ、改めて挨拶を交わしつつも。まぁ、生活委員会はそういうものだ。
「…成程、それはそれで大変そうだな…ご苦労様だ。」
嫌味でも皮肉でもからかいでもなく、素直にそう言葉を述べながらゴミ袋と少女を交互に眺めて。
仕事は派手で目立つものばかりではない。むしろ地味な仕事こそが生活基盤を支えている。
「…あぁ、俺の異能だ。いわゆる復元能力、という奴だな…物体限定だが。」
正確には”巻き戻し”というのかもしれないが。一先ず、己の力について簡潔に述べる。
道具を持ち歩いていないのは、必要に応じて習得した魔術などで”自作”出来るというのもある。
「…まぁ、仕事の範疇に無い物を勝手に直すのも気は引けるが…どうにも性分みたいでな…。」
軽くベンチを手でぽんぽん、と叩いて。壊れた物をそのまま捨て置くのはどうにも我慢ならない。
勿論、時と場合は弁えているつもりだが…つい、その自制が外れる時も少なくない。
■北上 芹香 >
「はいはーい、お互いお疲れ様でーす」
笑顔で小さく手を振る。
いい仕事は地道な作業の細々とした積み重ねなのである。
「復元能力……!」
「すげー、レモンシードメソッドでS+評価つくんじゃないすか」
レモンシードメソッド。
ディレル・レモンシード博士の提唱した異能評価学だ。
常世学園では異能のランク付けも異能の評価もしてないので、
学生は面白半分でこういうのを調べたりする。
「ということは激務の中で老朽化したベンチを自己判断で直してたと」
すごい。ガチでいい人だ。
昨日の五百森ちゃんといい、なんか最近割りと良い人ばかりぶつかる。
「すごいっすね、生活委員会の直し屋チームの方?」
「私は非覚醒者(マンデイン)だからそういうのすごいと思う」
とはいえ、憧れるわけではない。
大きな力には相応の責任が伴うわけで。
異能に人生を曲げられるのも私は御免だ。
私は自由でいたい。
■角鹿建悟 > 「レモンシード…メソッド…??」
不思議そうに口にしつつ、少し考える間を少々。
…何か聞き覚えがある…何かの選択科目か書物でそれっぽいのを見聞きしたような…。
「……思い出した。異能評価学の一説か。確か…何とかレモンシード博士の提唱した…。」
惜しい、肝心の博士の名前は一部思い出せなかったようだ。
それでも、記憶の片隅に引っ掛かってはいたようで、成程と頷いて。
「…とはいえ、普通に凄い連中がゴロゴロ居る島だからな…正直、そこまで高評価にはならないだろう。」
謙遜、ではなくそこまで評価が高くならない”理由”が幾つか思い当たるからだ。
とはいえ、褒められている?みたいなのでそこはまぁ、素直に有り難いが。
「…そうなるな。丁度一休みしようと思っていたベンチだから余計に気になったもので…。」
ベンチの修復に付いては、その通りだと頷いてみせる。ついやってしまった。
「…ああ、そういう専門チームはあるが、俺は色々あって今は一人で生活委員会の仕事と並行してやってる。
…勿論、点検や修理・修繕の仕事は生活委員会の仕事の中でも多いからやってる事は同じだな。」
かつてはそういうチームに所属していて、新人ながらエース級の働きぶりではあった。
だが、あの時の自分は今より余裕が無くて――そして”あの結果”だ。
嫌な事を思い出した、とばかりに僅かに眼を伏せて一息。
「――俺からすれば、能力が無くても魔術が使えなくても、”何も特別でなくても日々を自分なりに生きている”奴の方が凄いと思うが…。」
そう、例えば目前の少女のような。能力なんて選べないし、使い方を過つ事も多い。
自分だって、少し自覚はあるが能力に”振り回されている”部分は少なからずある。
そして、そんなモノがなくても人は生きて行ける、暮らしていける。
――正直、口には決して出さないけれど。能力が無い少女を少しだけ羨ましく思った。
だけど、自分の能力を忌み嫌うことは無い――自分の一部だから当然だ。
■北上 芹香 >
「そそ、異能評価が異様に甘めの採点されてるやーつ」
不良がよくレモンシードメソッドで高ランクだとイキってる気がする。
気がするだけ。
「そうかなぁ………私は無能力者だからランク付けすらされないんだけど」
本人が言うからにはきっとそうなのかもしれない。
ただの謙遜なのかもしれないが。
「生活委員会のカガミってやつかナ」
「ふーん………? ソロで色んな仕事並行してる、ってことかぁ」
「え、さっきの仕事量ってそういうコト? ヤバくね?」
そして彼が語る、日々の生活を自分なりに生きること。
それはなんだか、重たい実感を含んでいた。
「ちょっといいすか、おにーさん」
「私はね、日々を自分なりに生きるのに資格は要らないと思うんだ」
「異能を持っていようが、魔術を修めていようが、マンデインだろーが」
「ガムシャラに毎日やらなきゃいけないことは来るんだ」
「それを仕事と割り切って大量にこなしてるおにーさんは立派だと思うんですが」
「どうしてそんなに自信なさげなんです?」
視線を下げた。ちょっと汚れた自分の靴が見えた。
「サーセン、初対面で名前も知らない人に好き放題言って」
■角鹿建悟 > 「…正直、あの手の評価は話半分で見聞きしているからな…どれが正しい、とも言えんし。」
だから、仮に自身の評価がS+ランクだったとしても、誇る事も何も無い。
ただ、そういう能力を持っているなら、自分なりに活用していくべきだと思うくらいで。
「――ランク付けされるのは別に気分の良い事でもないからな…少なくとも俺はそうだ。
…見世物にされているみたいで、正直あまり好きじゃない…目立つのが嫌い、というのもあるが。」
と、少々愚痴っぽいというか不満が出てしまったか。
ゆっくりと深呼吸とは行かないが深めに呼吸をして気分を落ち着ける。
感情はなるべく荒げない。平静に、冷静に、静かに。そう常に言い聞かせている。
「…模範的、かどうかは分からないけどな…仕事以外で同じ委員会の連中と交流は無いし。
…そうだな、生活委員会の仕事の傍ら、個人で修理業みたいな事はやってる。
…まぁ、仕事量は多いが生活費に直結するから、繁盛は悪い事でもないだろう。」
ただ、時々…いや、かなり無茶をする事が多い少年なので偶に”ガス欠”にもなる。
勿論、休息は取るが…何もせずに休んでいる、というのがどうにも落ち着かない性分だ。
それでいて、明確に趣味と呼べるものがほぼ無いので時間を潰す事も難しい。
「――――…。」
珍しく、銀の双眸を若干ではあるが見開いて少女を座ったまま見上げる形に。
…自信…自信、か。確かにそう見えるのだろう。多分ー―…。
「――否定はしないさ。…前に一度、がむしゃらに仕事をしていて一度挫折した事があってな。
…それで、俺なりに少し改めたつもりだったが…未だによく分からない。」
自己肯定、という感情は著しく低い。それでいて、向上心…いや、執念と呼ぶべきか。
そんなアンバランスさもあり、自分で自分の心がよく分からない時がある。
「…自信が無いのは、きっと今の自分に納得が行かないからだと思う。
けれど、どうしたら納得が行くのかすら今の俺はさっぱりだ…ただ――…いや、何でもない。」
そこで頭を振って一息。痛い所を突かれたと同時に、ここまで直球で言われるとむしろ気が楽だ。
「――角鹿…角鹿建悟だ。生活委員会所属の2年生。そっちは?」
そこで、気分を切り替えるようにぽつり、と己の名前と学年と所属を改めて名乗る。
■北上 芹香 >
「それはそう」
「ランク付けで負けた相手には一生勝てないのか?」
「ランク付けで高かったらそれだけでエラいのか?」
「そんなことはないし、実際にはどんな能力も使う人次第」
「あ、今の歌詞に使えそう……メモっとこ」
メモを取っておく。
最近、かなりとっちらかってきたメモ帳だ。
「勿体ない、ご同業がいっぱいいるのにその中で友達作ってないとか」
「生活費………って、それだけ?」
「欲しいものがあるとか、将来のために貯金してるとかそういう仕事量してるけど」
相手の言葉を聞くと、言葉尻からフザけた色合いが消える。
これは真面目に話を聞くターンなのだろう。
カラスが歌って日は沈む。
暑気は好き放題荒れ狂い、チャイムは無遠慮に会話をぶつ切りにする。
「先輩でしたか、1年の北上です。北上芹香、改めてよろしくお願いします角鹿先輩」
気まずそうに頬を掻いて。
「なんかわかったような口利いてすいません先輩……」
これ以上踏み込むには、もっと覚悟が要るのだろう。
そしてノリで生きてる私にその覚悟はない。
■角鹿建悟 > 「…歌詞…作曲家か?…いや、もしかして歌手なのか?」
バンド、という線が直ぐに浮かばなかったのは、この年頃の男子にしては珍しくそういうのに疎いからだ。
とはいえ、歌詞という言葉からそれに近いものは連想出来たので、疑問を少女に投げ掛けつつ。
「…仕事上の付き合い、だけでも別に不便は無かったからな…それに、金はあるだけあっても困らない。」
と、淡々とした言葉でそう答えるが…少し間を置いて、肩を竦めつつ。
「…とはいえ、別にぼっちという訳じゃない。知人友人は何人か居るし、悪友みたいな男も一人居る。」
…それで十分だ、と思ってしまう辺りが己の人間関係の広がりを妨げているのかもしれないが。
かといって、今から積極的に友達作り…と、いうのは中々に難しいもので。
「…北上か…まぁ…何だ。…何か直して欲しい物があれば遠慮なく言ってくれ。なるべく格安にしておく。」
と、気まずい空気を払拭するかのようにそう述べるけれど、実際は――金銭にも執着は薄い。
”直す”事が少年の生きる規範となって”しまっている”。
だから、極論、金も評判も何もかも少年には瑣末なものなのだ。
そんな己を多少は自覚しているものの、それを改める一歩が踏み出せずにいる。
■北上 芹香 >
「はい、ガールズバンド#迷走中のヴォーカル兼ギターです」
「バンドはお金かかるんで色々バイトしてるんす」
歌のためにバイトしてるのか、バイトのためにバイトしてるのか。
最近は忙しすぎてわからなくなっている。
「友人はいるってのは本当で、金はあるだけあっても困らないってのはウソでしょ」
また踏み込んだことを言ってしまった気がする。
マズい、非常にマズい流れだ。
先輩を嘘つき呼ばわりとかするべきではない。
だけど。
「先輩、お金のために働いてるなら仕事の外のベンチ修理に」
「あんな熱心になれないっす」
「……熱心に働くことが目的になってるなら」
「それ……手段が目的になってるんですよ」
心に澱のようなものが沈殿していく。
自分にエラそうに人にあれこれ言う資格があるのか?
「そんなの自由がない」
でも……でも言ってしまう。
このヒトは誰かの何かを真正面から受けて、それから目を逸らしたがっているのか。
あるいは、過去に何かあってそれを受け止めきれないのか。
わからない、けど………
放っておけない。
■角鹿建悟 > 「兼任なのか…俺は音楽…バンドの事は全然分からないが、大したものだな…。」
無表情は相変わらずだが、素直に感心したような呟きにも似た声色で。
とはいえ、彼女には彼女なりの苦労もあるだろうから、あまり軽々しく自分はどうこうは言えないが。
「――……。」
後輩少女の鋭い切り返しに、咄嗟に反論や弁解を述べようと口を開くが、沈黙に留まる。
…痛い所を突かれている。けど別に彼女を責める気持ちは無い。見透かされていたのはこちらの落ち度だ。
「…自由…自由、か。」
確かに自分は我ながら堅物で、縛られているとは思うけれど。
だけど、或る程度の”重り”が無いと自分はどう転がっていくか分からないから。
――ああ、自分は半ば望んで不自由を己に課している。
「…俺は自由、というものが正直よく分からない。
…誰だって何かに縛られたり自分をあえて縛りつけていたりするだろう。
それが大きいか小さいかは人それぞれだが…。」
真に自由な人、というものを未だ見た事が無いから。
それは、ただ自分の世界が狭いから見えていないだけだと。
多分、そうなんだろうと分かってはいても口にせずにいられない。
…幾ら空気の読めない少年でも、流石に雲行きが怪しいと悟りはしたか、ゆっくりと呼吸を整えて。
「――まぁ、俺は今のままでも何とかやっていけるし、特に問題は無い。」
それが自分に言い聞かせているだけだとしても、だ。そう言わなければならない。
■北上 芹香 >
「大したこと、してます。私は私のために努力してるんで…」
「メジャーデビューってだいそれた夢も持ってます」
それも自分のため。
でも、彼は。
自分のために本当は今すぐ休むべきなんだ。
でも初対面で、彼のことを何も知らないから。
彼の意思にイマイチ踏み込めずにいる。
カラスがひときわ大きく鳴いて。
空の果てでは暑い気温が早く家に帰れと急かしていた。
「先輩」
ここでグダグダと伝わらない言葉を弄するのは。
ロックじゃないだろ。
全然、正しくないだろ!!
「これ、私の連絡先です。ライブハウスの住所も入ってます」
名刺を取り出して差し出す。
「今度、私の歌を聴いてください。ちゃんとライブに招待するんで」
「先輩に私の自由を伝えるのは、言葉じゃダメなんですよ」
「私の歌で、私の考える自由を歌い切ります」
頭を下げてゴミ袋を持ち上げる。
「それだけす」
「好き放題言ってサーセンした!!」
そのまま屋上から駆け出していった。
ぶちあがれ、青春。
■角鹿建悟 > 「…インディーズバンド…というやつか。」
自分は自分の為に努力している――なら自分はどうだろう?
そう、同じだ…同じ…筈なんだ。
だって、直すと決めたのは自分自身の決断で。そこに迷いなんて――…。
何かが ピシリ、と 硝子が罅割れる様に 音を立てた
カラスが鳴いている ――も泣いている、…泣いているのは誰だ?
「―――」
考えるな、考えるな、考えるな。ゆっくりと深呼吸して思考から雑念を消そうと努める。
俺は自分の為にやっている。今は適度に休息だって取っている。休んでいない訳ではない。
「……名刺…?」
彼女の呼びかけにハッ。と我に返り右手で差し出された名刺を受け取り眺める。
彼女の連絡先と、ライブハウスの住所も記載されていた。
「自由を伝える――?…あ、あぁ…お疲れさん、北上。」
半ば呆然と、彼女の言葉を反芻している間に一足先に彼女はこの場を辞して。
かろうじて別れの挨拶はしたものの、しばし少年は名刺を片手に呆けていたが。
「……参ったな…。」
珍しく、弱気とも苦悩ともつかぬ言葉を漏らして名刺をもう一度眺めて。
一瞬、それを握り潰そうとして――ああ、この少年がそれを出来る筈も無い。
結局、名刺は丁寧に作業服のポケットに忍ばせてから少年もベンチから重い腰を上げて。
「――…仕事の残りを片付けないとな…。」
ライブハウス、バンド、自由――どれもこれも体験した事の無いものだ。
だからこそ、少しは今の自分を変える切欠になるだろうか?そう、思える程度には。
「……ほんの少しは前向きにはなれている、んだろうか?」
分からない、結局自由を分かっていない己には。一抹の不安を残しながら少年もゆっくりと屋上を後にする。
ご案内:「第二教室棟 屋上」から北上 芹香さんが去りました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」から角鹿建悟さんが去りました。