2020/06/28 のログ
レナード > 「……ん。」

気づけば、既に手元の飲み物は空だった。
いつの間に飲み干してしまったのか、それすら思い出せない。

「…さて、今日は帰るかな。
 たまにはのんびりするのも悪くねーし……」

ベンチから立ち上がると、ぐーっと伸びをする。
強張った体が、少しほぐれたような気さえした。

「…ん、んんぅ…ぐっ……
 あー………なんか、こう……
 マッサージでも受けたい気分だし、肩でも凝ったかな……」

腕を回して、肩をぐりぐり。
思いのほか気が張っていた自分が居たことに少し驚いた。

「……よし、帰るし。
 明日はいつもの日常、そのはず、そのはず……」

まるでそれを切に願う様に、何度か小さく復唱しながら、
ふらふらと帰路に就いたのだった。

ご案内:「常世公園」からレナードさんが去りました。
ご案内:「常世公園」に城戸 良式さんが現れました。
城戸 良式 > ベンチに一人座って、片手にコーヒーを持っている。
警邏の見回りの途中、有体に言えばサボっていた。

目の前では子供たちが公園の遊具で遊んでいる。
触られたらオニを交代する遊びで、
ジャングルジムなどを駆使して遊びに立体を取り入れているようだ。
子供の創意工夫は羨ましいと時々思う。

「………」

城戸 良式 > あれくらいの歳の時、自分が何を考えていたか考えると、
退屈な授業の途中で、テロリストが攻め込んで来ないかなどという空想をずっとしていたように思う。

クラスに乱入してきたどこかの国のテロリストが、
退屈な日常をタイプライターのような乱射で壊してくれるのだ。
何人かが死に、何人かの血が流れることで、それが非日常でありながらもリアルであると思い知らされる。

数秒前まで、気になるあの子に近づくにはどうすればいいかとか、
今度のテストの結果をよくするにはどうすればいいかとか、
そんなことを考えていた平和ボケした頭達に、電極をぶっ刺して無理やり電気を流すような。

何か世界を変えてくれるような何かを求めていた。
求めていたけれど、結局俺のクラスにテロリストは来なかった。

城戸 良式 > だからと言って、五年十年と経った今、自分がテロリストになることも出来なかった。
それどころか、自分が何者にもなれないことを思い知らされたのは、
あの『大変革』のときだ。

自分は選ばれなかった。

何の異能も、魔術の素養も開花しなかったし、
遠い昔先祖だった魔族や天使の血が目覚めることもなかった。
それは氷柱を背筋に差し込まれるような冷えた感情を俺の脊髄にぶっ刺し、
僅かだけ残っていた自分の人間らしさを物理的に脳味噌をかき回すという方法で粉々にしていった。

後は簡単だ。
何をしても、何を以っても、何も感じなくなった。
感情も、価値観も、気持ちも、心も、どこかで誰かが感じている物であり、
全てが数値的なロジックとしてしか捉えられなくなった。
ただそのロジックでも分解できなかった己のたった一つの感情だけが、
俺をその場に倒れさせてはくれなかった。

城戸 良式 > ただそのロジックとして捉えることと、何も感じなくなったことが、
俺に新しい技術を与えてくれた。

人間を『箱に収める』『技術』だ。
ただこれも、非力で無能者な自分の腕だけで行えることではない。
社会的に存在しない異能者の『箱』を複数連結させて、維持させている物になる。
一つでもバランスが崩れれば相互の干渉が崩れて自壊する『システム』のようなものだ。
この『システム』を作るために、自分は常世という島に来たと言っても過言ではない。
そしてその『システム』はすでに機能をいくつか有していて、
『無限に薬品を生成する』という自分が最も活用している権能も、ここに由来している。

とある風紀委員は鼓舞するように言った。
とある公安委員は微塵も躊躇わず言った。

この島には、命にカウントされていない人間が存在すると。
自分はそのルールを、尊重・信仰しているだけにすぎない。

城戸 良式 > 今、この島には恐らく自分が観測している中で、かなり簡略化しても、
下記のような勢力図が描かれている。

一つ、風紀公安をはじめとした、平和維持勢力。
一つ、それが取り締まるべき落第街などの不穏勢力。
一つ、さらにその悪を良しとせず平和維持勢力にも与しない第三の『悪』
一つ、恐らくは、それらにすらも与しない自己を正義とする単体勢。

これらが描く図式を、できるだけ簡略化するのが自分の目的だった。
そのために自分は『三枚の仮面』を使い分けている。
公安委員としての己、落第街の薬物売りの俺、そしてとある無異能者が組織する極右集団の一員としての僕。
力の足りない勢力に力を注ぎ、それらのバランスを『ベクトルの相殺』で潰し合わせるのが、
一番崩壊に近い道筋だと思っていた。

ただ、
その盤面に、完全なるランダムと無作為を持ち込む女が居た。
本当に厄介な因子であるその女は、ようやくベクトルを理解しはじめてきた勢力図に、
上記四つの勢力図で纏められないような様々な存在の自意識を固定していった。

城戸 良式 > 「参るな……カオスだ」

喉から絞り出したような声が出た。
少なくとも公安委員が警邏中に出していいような声ではなかった。
子供たちの嬌声を遠くに感じながら、木製のベンチに背中を預けた。

ご案内:「常世公園」から城戸 良式さんが去りました。