2019/08/10 のログ
■暁 名無 > 「んー、眺めは良いが奴を連れてくるとなると人目が多過ぎるよな。」
きっちり目の保養を済ませると、おもむろに防風堤の上に立ち上がる。
こちらに気付いた海水浴客の生徒が手を振るのに対し、へらりと笑みを浮かべて手を振り返す。
「もうちょい人が少ないとこ探すか……
あと出来れば静かで寝られる広さがあって……」
ぶつぶつと随分と都合の良い事を口にしながら、名無は防風堤を歩いて行くのだった。
ご案内:「浜辺」から暁 名無さんが去りました。
ご案内:「浜辺」にアイノさんが現れました。
ご案内:「浜辺」にアガサさんが現れました。
ご案内:「浜辺」にアリスさんが現れました。
■アイノ > 「………ふっふん、まあ、こんなとこ?」
陽光を受けてきらきらと輝く金色のツインテール。
日に焼けることを生まれ持ってずっと知らない、と主張するような白い肌。
キィィ、と特徴的な高音を発するフロートボード。
自称天才美少女のアイノは、今日は浜辺にやってきていた。
人混み、とまではいかずとも大勢の人が集まる浜辺。いわゆる普通の海水浴場。
衆目を集めることにかけては彼女は遠慮はしない。
むしろ、堂々と集めるタイプだ。そんな彼女が普通の水着を選ぶわけも無くて。
濃紺のワンピースタイプの普通の競泳水着………かとおもいきや。
身体の横からU字型にぱっくりと、それこそ横から食いつかれたかのように素肌を露出させていて。
膨らみかけた胸の下部分から鼠径部の上部分まで、そしてお腹の4分の3ほどまでも露骨に露出させた、ビキニではないのに際どい系の水着で参戦である。
「いぇーい♡」
そんな恰好で自撮りまでしながら、友人が着替えて出てくるのを待ってみる。
通る人通る人チラチラと見られるのだけど、どうにも気にしていないようだ。
■アリス >
私、アリス・アンダーソンが果たしてどんな水着か。
ごく普通のセルリアンブルーのモノキニである。
冒険していないと言えばしていない、まぁ普通の水着でビーチサンダルを履いた。
「ショーック!!」
着替えて出てくると親しい友人が人の視線を集めていた。
「そういう手もあったかー……私もまだまだね」
そう言いながらも自分は冒険する気はない。
恥ずかしいから。ぼっち暦14年を数えた視線不耐症の私には無理だ。
「やっほ、アイノ。天才美少女は水着から違うわけね」
ひらひらと手を振って近づいていく。
おっと、携帯デバイスが水没しないように防水ケースを錬成しておこう。
「アガサももうすぐ来ると思うから」
着替える段階まで一緒だったけど。
私は一足先に着替えて抜け駆け。
■アガサ > 照り付ける太陽に潮騒の香り。そして何処までも続くコバルトブルーの海。
黄のタンキニに着替えて更衣室から出て、改めて浜辺で見る壮大で美しい景色に私は思わず息を呑んだ。
大型プール施設にも人工浜はあったけれど、こうして本物を視ると作り物は作り物なのだと解ってしまう。
一転して視線を周囲に向けると、其処には軒を連ねる海の家であるとか、思い思いに場所を取った人達が居たりだとかで、
これまた何処となく懐かしいような感覚を憶えて瞳が和む。古き良き海水浴場──なんて、歴史の授業でしか知らないのに。
「ん~何だか訳も無くうずうずとしてくるじゃないか。夏休みの解放感と、海の持つ魔力かもしれないなあ。
部屋に籠っているのが勿体なく感じて…………感じて、アイノ君は何をやっているのかな」
万歳をするように諸手を上げて、その場でくるりと回転した所で一緒に来た友人の様子が映り、別の意味で息を呑む。
そんな人目も憚らないアイノ君に近づいていく後ろ姿は親友のアリス君だ。
こうして少し離れた所から見ると、金髪碧眼の二人は中々どうして絵になって、周囲の幾人かが眼差しを投げているのが良く判る。
「お~い。お待たせお待たせ!髪の毛が上手く丸まってくれなくって時間かかっちゃった!」
ちょっと声をかけるのに勇気がいる所で私は大きく声を挙げて、手を振って近づいていくんだ。
言葉の通りに髪の毛は頭の上で丸くトップにまとまっていて、まるで巨大なタンコブがくっついているようにも見えるかも。
■アイノ > 「ハロー、そりゃもう、当然。
知り合いのデザイナーに作らせたんだもん、特別よ、特別。
まあ、写真を送る約束と引き換えなんだけどさ………。」
ま、どっかの雑誌くらいに乗っても別にいいしぃー? なんて言いながら、ふふーん、とくるりと回って一回転。見せつけるようにしてやる。
三女は何もかも自分本位だった。
「何って、自撮り?
パーフェクトに似合ってるから撮っとかないとさー?
ほらほら、並んで並んで。 撮るよー?」
まずは海でもなければ浜辺でもなければ海の家でもなくて。
三人並んで、携帯で写真を撮ろうとする。
ぎゅっと密着していぇーい、と笑顔。
大体、派手な格好をして遊んでいる時は、テンションが高い少女。
■アリス >
潮風が私の髪を靡かせる。アガサは髪を結っていた。
それを見て、新鮮だと思っても海だからそうしていると気付けなかった私に。
まさかあんなことが起きるだなんて……今は思いもしていなかった。
「デザイナー……? 特別……写真を………」
何語だろう。陽の気が強すぎて言語がすっと頭に入ってこない。
三姉妹長女、必殺の陰キャインパルスで攻撃するしかないと謎の覚悟を決めたところ。
三人並んで写真を撮り始めた。
なんという!! これが噂に聞くパリピ遁の術!?
「あ、私も撮ろうっと」
携帯デバイスに自撮り棒を錬成してくっつけてぱしゃぱしゃ撮影した。
「くっ……アイノは映えるわね…! アガサももっと寄って!」
海にも入らず何をしているのだろう。
■アガサ > 「雑誌に……って確かにアイノ君なら載ってもおかしくはなさそうだけど。
それにしたってその水着はちょっと攻めすぎじゃないかい?君、サメ映画とか好きだっけ?」
どうみてもサメに齧られました。とでも言うような意匠のアイノ君に私の眉がぐにゃりと歪む。
嗚呼、でも彼女も夏の陽気に浮かれているようで、私の言葉はちいとも届いちゃいないみたい。
ふと傍らのアリス君を見ると、なんだか遠くを見ていた。だから目の前で手を振って正気度の確認をする……のだけど
そういった行為はアイノ君に阻まれて叶わず、今は彼女を中心とした記念撮影が叶っていた。
「な、なんだかちょっと恥ずかしいな……もしかしてこの写真とかも載っちゃう?」
控えめにピースしながらに視線が一足先にと左右に泳ぐ。もしかしたら雑誌デビュー?
なぁんて考えてしまうのは、そういったものに載るのは背も高くてスタイルが良い人だと思っているから。
「……っていつまでも写真を撮っている場合じゃなくて。ほら、何かこう海っぽい事をしないと!」
そして私は正気に戻った!
隣にいるアイノ君の頬を行きがけの駄賃であるかのように抓んで説得(?)をし、
空いた手が海底まで見渡せる程の透き通った海を指す!
■アイノ > 彼女はいろいろ抱え込んではいるが、悪名は無名に勝るの言の通り、それなりに知名度もあれば、知り合いも多い。
まあ、だから一人でもなんとかやっていけてるところもあるのだが。
「攻めすぎ? いいんだって、こんなの。
大人になってからだと単なるビッチだけど、今なら小悪魔で済むじゃん?
無邪気って奴?」
邪気の塊のような顔をして無邪気を語りながら、へっへ、と笑う。
でも写真を撮る時だけはきらびやかな笑顔になるのだから、モデルは天職なのかもしれない。
「あ、いいね、並んだ写真も送ってやろうかな。……っと、確かに!
私はそのまま泳げるけどさ、二人は何か浮き輪とかいる?
……とりあえず海に突っ込んでから考えようか!」
ひゃっほぅ、と先頭を切って堤防から飛び降りれば、砂浜を駆けていく少女。
周囲の視線なんぞしったこっちゃないと言わんばかりのダッシュで、海に駆け込んでいき。
あとからついてくるであろう二人に、走ってくる勢いに対してカウンターになるように水を思い切りかけてやることにする。おらぁっ!
■アリス >
「え、雑誌デヴュー?」
アガサの言葉に照れながら髪の先を指で弄る。純情。
そして、アイノの言葉に私は目を丸くして。
「ビッチ!」
続く言葉に、
「小悪魔!」
と、驚きの表情で鸚鵡返しをした。
いかん、今の私ははっきりいって三国志の漫画に出てくる雑兵といった感じだ。
自分と言う人生の主人公という自覚を取り戻せ、アリス・アンダーソン。
「私はギリ泳げるから大丈夫」
「サメ映画、大好きだけどビーチの時くらいは忘れていたい言葉ね…私たちもいきましょ!」
三姉妹、出陣!!
直後、海に入る前に海水をアイノに思い切り浴びせられる。
長女、討ち死に!!
「……やったわね!!」
ビーチサンダルを浜のほうに放り捨てて思い切り水を二人にかけた。
直後、姿勢を崩して海に倒れこむ。
「しょっぱ……」
そう呟いて起き上がると、結っていない髪は水を吸って。
私はホラー映画の女幽霊という風体になった。
■アガサ > 「自分で言ったら意味がないぞう!……まあアイノ君らしいと思うけど」
アイノ君は元気が良い。君、実は太陽光発電だったのかい?なんて危うく訊ねそうになるくらいに鮮やかだ。
3姉妹で例えるなら奔放な三女。それなら私は間に挟まる確り者の二女のように彼女の手綱を握らないといけない。
なので駆け出す彼女の後を走って追いかけて、追いかけて、追い付く間際でアリス君共々水をかけられ悲鳴が上がる。
「ふぎゃーっ!?ちょっとアイノ君、そういうカウンターはずるいんじゃないかなあ!
アリス君も何とか言って──」
まるでサメ映画の冒頭で襲われる人のような悲鳴だなあ。なんて他人事のようにも思いつつ、
三女の非道を長女に言いつける鮮やかな二女ムーブ。だったのに、肝心の長女ことアリス君は捨て身の姿勢で私諸共水をかけていた。
またもや上がる、わたしのひめい。
「……き~み~た~ち~」
水を吸ったお団子ヘッドが重力でへたれる。それを手で挟むように水気を絞りながらに幽霊めいた声が出た。
丁度傍らには水死体もかくやのアリス君がいるもので……
「……あ、そうだ。アリス君柄杓とか出せるかな?日本の海の幽霊は柄杓で水をかけるそうだよ」
閃いた。と言わんばかりに手を叩き、アイノ君を一瞥する私の顔はまるで猫のよう。
先ずは一人仕留める。そんな意思を感じ取れる?いやいやそれは気のせいさ。潮騒の音に紛れて消えてしまうに違いない。
■アイノ > 「そうそう、今ならまだ小悪魔ってことで納得してもらえるからさー?
そういう衣装、この島はそんなにうるさくないしね。
やっぱり人に見られてこそ、ってとこあるじゃん?」
にひひ、と笑いながらそんなことを言う。
水遊びに関しても、先に到着して待ち構えていたのだから、当然有利。
ざばあ、っと水を浴びせかけられても、正直最初から構えていた私よりもアガサの方がたっぷり水を浴びていると思う。
「はっは、アガサ、そいつは悪手ね。
私が何だったか忘れた?」
んべ、と舌を出して笑いながら、水が球状に海からぞぶりと切り出されて、ツインテールの周りをふわりと浮く。 そこだけ、宇宙船のようになりながら。
舌を出したらちょっとしょっぱい。
「いいよいいよ、二人で組んでも。
圧倒的な才能を前に、海の藻屑にしてあげるわ!」
げははは、と美少女にあるまじき悪の笑い方をしながら、水の球が二つ、三つと増えていく。
一つ一つはサッカーボールほどのそれは、くるり、くるりとアイノの周りをまわって。
■アリス >
いやその、髪が。髪がね? 水死体みたいにね?
えっ!? アイノは異能使うの!?
ええい、もうヤケだ!!
私はハニーブロンドの羅臼昆布という有様の髪をササッと錬成したヘアゴムで束ねて。
「ひ、柄杓で足りるかなぁ!?」
そう言いながら柄杓を二本作ってアガサに一本放る。
彼我戦力差は圧倒的。
ウッキャーと猿のように鳴いて水を三女に向けて柄杓で浴びせかけた。
「よく考えたら水鉄砲とか三人分錬成したほうがよかったんじゃないかなぁ!?」
平和的で!!
モノキニでよかった。前みたいに水着の上だけ流されたりしない。
■アガサ > 「アリス君が幽霊みたいだったからつい。多分足り……足りるかなあ」
錬成された柄杓を、物語の勇者が剣を構えるかのように構える私の前で勝ち誇る魔王のようなアイノ君。
その周囲を直掩するかのように漂う水球。そう、アイノ君の異能は念動力、サイコキネシスとも称されるものだ。
「あ、水鉄砲のが確かに平和だったかも。でもほら、こういうの後の祭りって言うんだろう?」
先に仕掛けるアリス君!
水球を飛ばして迎撃するアイノ君!
そんな二人を眺めている私……という訳にも行かないので、柄杓で水を掬ってアイノ君に浴びせかけてやるのさ!
「うおー!」
その綺麗な顔をしょっぱくしてやらん!
特に理由の無い水流がアイノ君を襲う!
■アイノ > 「へっへっへ、ほら、異能で柄杓作ってるんじゃん? だから、私だってこれくらいはいいよね?」
にひひ、と、こういった勝負には負けず嫌いな三女。
柄杓でばっしゃばっしゃと水を浴びせられながらも、水球が前に浮いて、直撃を避けてくる。
ふっふっふ、攻防一体よ、と言わんばかりの自慢げな顔が、水球越しに歪んで見える。
「そうそう、まずは思いっきりその場に崩れ落ちて、参りましたーって言わせてやるわ!」
水球でばっしゃばっしゃとかけられる水をなんとかガードして。
というかガードから水も漏れてこっちにかかるんだけど、どうせ水だし。
でりゃぁーっ! とばかりに、水のボールが二人に撃ちだされる。
アイノくんのドライブシュートだぁーーーっ!
水球は、相手の身体に当たれば……当たらずとも、水面に打ち付けられれば、どっぱん、と弾けるだろう。
■アリス >
「んぎゃー!!」
青い空。どこまでも広がる海。響き渡る全くカワイくない悲鳴。
水球直撃して頭から海水を被ることになった。
「参りましたー」
ぷかぁと浮かんでそう言って。
ああ、楽しい。
人生なんて楽しいと言い切れるものはそうそう大してないと思っていたこともある。
でも、こうして三人で騒いで。友達と遊んでいると。
自然と笑顔になるくらいには、楽しい。
「柄杓分解しよ……」
元の海水に分解してしまう。
海にゴミが出るのは大変よくないことだ。
「なんか喉が渇いてきたし、ジュースでも買いに行かない?」
■アガサ > そもそも海水浴場で異能の行使は問題無いのだろうか。
手にした柄杓で水球と戦い、アイノ君の言葉を聞くとそんな事を思った。
でもライフセーバーの人達が何も言わないのだから、平和的だと判断されるならきっと問題無いのかもしれない。
何しろ夏の海辺なんだもの。多少の羽目はむしろ外して、嚆矢の的も外れて好い筈さ。
「──あっ、アイノ君それはちょっと」
なーんて、ちょっと難しい事を考えていたのが災いして、気が付いたらアイノ君の異能による水球が眼前に来ていた。
あ、ダメだこれは防げない。
「どぅえーっ!!」
どぱん、と独特の音がして視界が空転する。青い空に青い海。そして我ながら素っ頓狂な悲鳴。
たちまちに海に沈んで、けれども幽霊のように起き上がると、髪の毛が解けて先程のアリス君みたいな有様になっちゃうんだ。
「うぐごご……こういう時私は不利だなあ」
唇を尖らせて文句こそ出るけれど語調は何処か愉しそう。
手にした柄杓は宙に溶けるように海水に戻り、空手となったら濡れた髪を後ろに流すように纏める。水を吸って重かった。
「おや、そうする?飲み物もいいけどカキ氷なんかも美味しそうだよね。んふふ、一時休戦として海の家巡りといこうか!」
■アイノ > 「かんっぜん勝利―!」
やっふー、と嬉しそうに両腕を伸ばして、最後の一個の水球を自分の上で破裂させて、ばしゃー、っと自分も水を浴びる。
あははは、っとテンション高く笑いながら、買い物にいこうという提案には、んー?っと僅かに唇の端を持ち上げて。
「勝ったんだしぃー、飲み物くらいはいいじゃん?
ね、奢ってよー。」
ねぇねぇー、っと猫のように甘えながら二人に絡みついていく三女。
にひひ、と笑いながら腕にしがみついて。
「私さ、アレが食べたい。アレ。
ブルーハワイ。 ハワイの味なのかなんなのかよく分かんない奴。」
若干ディスりながらも、甘えていたはずなのに一番先に海から出て、ほら早く、と急かす。
■アリス >
耳に入った海水を片足で跳んで流しながら。
「アガサ……今の悲鳴はひくわー」
自分のことを完全に棚リフトアップ。
ビーチサンダルを履きなおして大きく背伸び。
「アガサも異能を使ってよかったんだよ? 海水の上に立つとか」
できないことを知ってて言う意地悪。
腕に絡み付いてくるアイノにうっへりとした顔で。
「ええー、そこで先輩にたかる? そんな余分なお金なんて持ってるわけ…」
背伸びしてえっへんと胸を張り。
「あるのよね、これが。こっそりバイトして貯めた夏向けの軍資金が」
今、思えば過酷な……花屋のバイトも含む…色んなあれこれで夏を制覇するだけの貯蓄は成った!
「アガサもおいで! カキ氷三段にしておごってあげるから!!」
そんなものはないけど。高笑いをして海の家に行く。
「う……こうして見ると、運動して汗をかいて疲れて見ると…」
「美味しそうに見える……っ! 焼きそば、焼きトウモロコシ、ジュース、カキ氷なんかが…っ!」
「見てよあのラムネ、キンッキンに冷えてるわよ」
一人でざわ……ざわ…と騒ぎながらラインナップを確認する。変わったものはないだろうか。
■アガサ > 快哉の如く声を挙げて豪快に水を浴びるアイノ君が眩しく見える。
君、晴天の午前中は3倍の力が出せたりするのかい?なんて言葉が出かかって止まった。
「山の中でのかくれんぼとかなら私が絶対に勝つんだけどなあ……ってアリス君?」
代わりに出るのは異能の話。各々違う得意分野を負け惜しみのように零し、腕を取られるとわざとらしく嘆息が落ちる。
勿論アリス君にもだ。悲鳴の事とか出来もしないことを言う事には、濡れ髪を幽霊のように顔の前に流してから
睨んで差し上げるんだ。
「……む、仕方ないなあ。じゃあここは親友の顔を立てて奢られてあげようじゃないか!」
彼女が気前の良い事を言うまではね。
それからは高笑いするアリス君の後ろでアイノ君とハイタッチなんかしちゃって、
様々なお店が軒を連ねる所へと向かうのだけど──
「う~なんでも魅力的に見えるなあ。でもやっぱりここはカキ氷……うわ」
『ナニニシマスカ』
どこかで視たような卵型のロボットが店主(?)をしているカキ氷の屋台を視止め。、足がちょっぴり止まっちゃう。
看板には「夏の定番」「新鮮な氷」「実際ベジタブル」等々一部良く判らない言葉が躍っていて、巨大な氷の塊をドリルアームで削り出す様子が中々涼し気ではあった。
「……う、うーん……」
木簡に書かれたフレーバーは定番のイチゴにメロンにレモン。勿論ブルーハワイなんかもあって、
他にも様々な果物の類が記されている。醤油、とかウスターソースとかもあるけれど、きっとジョークの類だと思いたかった。
■アイノ > 「やったー、先輩かっこいいー♡」
拍手しながら腕に抱きついて、すり、っと頬をこすり付けて甘えて。
甘える仕草も完璧である。見下ろせば、にへ、と笑顔を向けて。
まあ、同時に目を離したところでアガサとハイタッチもするんだけど。いえーい。
「うっわ、いろいろある………。
海の家なんて、焼きそばくらいがせいぜいだと思ってたんだけど。
んー、食事の方はもうちょっと後でいいかなー。
流石に暑くなってきたし、冷たいもの………。
あ、私アレがいい、アレ。」
彼女が指さすのは、様々な味の飲み物をキューブ状に凍らせてカップに入ったかちわり氷。
赤、青、黄色と、原色が色とりどりにちりばめられた、いわゆる映える一品。
ちょっと氷は大きめだけれど。
そういうものを一瞬で汲み取ってそこに手を付けていくあたりの流行に乗っていく所作はやはりこの三人でもっともはやいかもしれない。
■アリス > 「アガサ、これ前にも何回か見た安全ごすのロボットじゃない?」
やっぱり量産されているシロモノなのだろうか、店番ロボット。
カキ氷まで作れるのだからそれはもう良いものなのだろうけど。
アガサはカキ氷。アイノはかちわり氷。
となれば、私は飲み物が欲しい。
「コーラの氷マシで」
無難ッ! それは人間に残された安息領域の一つッ!!
無難ッ! それは定番を恐れない勇気ある行いッ!!
「あ、アイノ。おごるからかちわり氷一枚撮らせて」
Twisterにアップすればもしかしたらいっぱいいいねがもらえるかも知れない。
邪悪なる心が目を曇らせていた。
「ところでアガサ……無難って素敵な言葉だと思わない…?」
ポーチからお金を取り出す前に、一応次女に言っておきたい。
本当にカキ氷のソースがけが出てくるから冒険はやめよう、と。
■アガサ > 様々な品目の隅にある「お任せ」の札が放つ威圧感たるやどうだろう。
あれを選んだら地獄だぞ?なんて何処かの誰かが教えてくれている気がする。
『ナニニシマスカ』
相変わらずロボットは同じことしか言わない。けれども私の足は縫い留められたかのように動かなくて
このままでは大変な事になるような気もして──
「はっ……!そ、そうだねアリス君!無難っていいよねえ!氷レモンください!」
親友の声で我に返った私の注文はそれはそれは無難なもので、注文を受けたロボットは見事な手付き……
手付きでいいのかは判らないけれど、ドリルアームで氷の塊を削り、器に盛り、シロップをどじゃーっとかけてくれた。
「確かに何度か見たロボットだよね。結構高性能みたいだし、人気あるのかなあ?」
プラスチックのスプーンを3本差しながらに首をかしげてみせるけど、ロボットは何も答えてくれない。
「ま、いっか。それでアイノ君は随分綺麗なのを選ぶなあ。それ、何味なんだい?」
一方でアイノ君が選んだのは随分とカラフルで、これまた味の判別がつき辛いものだ。
気安く手を伸ばし、勝手に青い奴を頂いてしまおうと思ったから、そうする。ソーダ味だった。
■アイノ > 「いいよー、ほら、んーん?」
どうぞ、と言いながら、歯にピンク色の氷を咥えてウィンク一つ。
カップを傾けて顔の隣に持っていけば、完璧に楽しそうにして見せる。
ついでに自分も撮って、と撮影までを器用にこなして。
「ん? ああ、これ? いろんなジュース凍らせただけじゃない?
ここにあるもの凍らせただけって感じ。
まあ、丁寧に凍らせてあるから綺麗に見えるけどさ。
何、私の咥えてる奴が欲しかった? 仕方ないナー。」
ころころと口の中で氷を転がして、頬を膨らませて、更に冗談も口にしてにひ、と笑う。
「………冒険すんなら、ちゃんと調べてからにした方がいいって。
それ、映えるかなーって思ってロシアン氷で大失敗したことあるからさ。」
視線を逸らしながらぼそぼそと口に擦る。
まあ、最も冒険心のある彼女が割かし無難なのを選んでいるのは、もう経験があるからだった。
ええ、ロシアよお前だけは許さんぞ。
■アガサ > 「仕方なくないってば!まったくアイノ君は……ってやったことあるんだ。
へえーロシアン氷……複数混ざったら大体大惨事にならない?あれ」
後ろを視るとずんぐりむっくりな短躯に見事な髭を蓄えた男性がカキ氷を買っている所だった。
彼の注文は「ビール」。はたして美味しいのかは判らないけれど、あれだって何かと混ざったら美味しくはなさそうだ。
「……アイノ君って結構無茶とかするよね。例えばその水着にしてもさ、なんというかこう……泳いだら水の抵抗で捲れそうじゃない?」
視線をアイノ君に戻し、無遠慮に露わなお腹に触れて布地の縁に指を滑らせる。
コの字型に開いた水着は普通に考えたら水の抵抗で結構面倒に思えたんだもの。
「ね、アリス君もそう思うよね?」
親友に同意を求めながらにアイノ君から手を離し、カキ氷をじゃくじゃくと頬張ると安っぽいレモン味がした。