2021/02/10 のログ
■ユラ > 「もうちょっと気楽にやれればいいのにね。
顧問の先生くらい探したら?」
最後のピーナツを、袋ごと逆さにして口に流し込む。
そもそも顧問やら講師やらが見つかっていたら、こんなことにはなっていないだろうけれど。
「……まあいいけど。
じゃあ夜までに終わらせよう。
本番までにしっかり飛びの方も調整しときなよ」
一足先に設営の現場に向かう。
筋力と魔力ブーストで、重いものを優先的に運んだりするだろう。
■杉本久遠 > cv
「規模としては小さいとはいえな、中々そうはいかんさ。
ほんとうになあ、顧問になってくれる先生が、居ればいいんだが」
部活を作ってから三年。
断られ続ける事三年というわけだ。
顧問など、居たためしがない。
「おお、向こうの人に声を掛けてやってくれ。
――なあに、エアースイムは泳ぐだけが練習じゃないさ。
さて、オレも行かないとな」
手伝ってくれる知人に任せて、休んでいるわけにもいかない。
水筒をカバンに戻すと、堤防から飛び降りる。
少年の後をついて、設営に戻る。
そして。
ユラの力を借りながら、機材の設置を少しずつ進めていくことだろう。
ご案内:「浜辺」からユラさんが去りました。
ご案内:「浜辺」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「浜辺」にリタ・ラルケさんが現れました。
■リタ・ラルケ >
いよいよ数日後にエアースイムの大会を控え、砂浜はどんどんと大会に関わる施設の設営が進んでいる。
――そこから、かなり離れた場所。どうやっても設営の邪魔にならないであろう場所で。
「ぅあー」
なんて、気の抜けた声を上げながら、砂浜に倒れ込む。
砂が髪に付くけれど――まあ、いいや。
競技用S-Wing・スノウホワイトⅡ、そしてホイップミトンⅡ。つい先日、エアースイム部の部長である杉本久遠から"無期限に借りた"もの。
やはり昼頃から空いた時間で、飛んでみてはいるものの。当たり前だが体験用のS-Wingとは訳が違った。枷が外れたよう、と言ってもいいだろうか。高性能故の扱いづらさと、今までのそれとはまた異なる感覚に戸惑いこそしたものの――おおよそ三時間もあれば、なんとか体験用のものと同じくらいの感覚に持ち込ませることはできた。
さて。
問題は、S-Wingの設定であった。
いや、設定方法はわかる。件の妹さんがしてくれたものだろうか、借りたバッグの中に入っていた手書きのメモのおかげで、メモをにらめっこしながらではあるものの――なんとか、設定用端末は操作できる。
だけれど、自分に合った設定が、未だ見つかっていない。
あれこれ数値を弄繰り回しているものの――どうにも上手くいかないのだ。
■リタ・ラルケ >
"風"で飛ぶときの感覚に近づける。
それが自分の中での設定のコンセプトであった。
そういうふうに設定しようと、早いうちに決めてはいた。
だけれどどうしてか、どう設定しても飛ぶ時の感覚が違ってくる。そりゃあ、S-Wingと精霊纏繞、何から何まで原理が違うのだから当然と言えば当然だけど。
設定を変えて、飛んで、違うと首を傾げて、またメモとにらめっこ。それを幾度となく繰り返していた。
はっきり言おう。
飽きた。
「――なーんか、違うんだよなあ」
そう言って、ため息を吐く。
違う、というのは、S-Wingのことだけではなくて。
「……もやもやするなあ」
親友のこと。
迦具楽に、メッセージは送った。慣れない文章だったけれど、確かに「今度の大会に参加する」と送ったはずなのだ。
だけれど、未だに返事は来ていない。
やっぱり、どこか思うところがあるのだろうな、と。そう思う、けれど。
それでもなんとなく、すっきりしない。
ご案内:「浜辺」に迦具楽さんが現れました。
■迦具楽 >
大会の会場が設営されているのを見て、少しだけ泳ぎたくなった。
トレーナーには泳ぎたくないときは泳がなくていい、そう言われていたから、仕事以外ではほとんど泳いでいなかったからだろうか。
忙しい中、楽しそうに準備を進める人達を見て、少しだけ気が向いたのだ。
「空いてる場所は、っと」
会場から離れるように、片手に赤いS-Wingをぶら下げ、海を眺めながら浜辺を歩く。
海は好きだった。
相性は悪いけれど、広大で、自由で、海面が波打つ様子は、眺めていて飽きない。
昔はたまに、潜ったりもしていた。
――思えば、あのころから『泳ぐ』事は好きだったのかもしれない。
「今は、どうなんだろうな」
結局嫌いにはなれなかった。
けれど、胸を張って好きと言えるのかとなると、喉が痞える。
少なくとも、あまり楽しいと思えなくはなっていた。
そんな事をぼんやりと考えながら、ふと海上を見上げると、白い色が線を引いている。
S-Wingのコントレールだ。
このあたりでは見た覚えのない色と、泳ぎ方だ。
「誰だろ」
疑問に思っていたところに、コントレールが浜辺に降りていくのが見えた。
特に、どこに行くつもりがあったわけでもない。
なんとなく、その場へと向けて歩いていく。
「――げっ」
その姿を見つけたら、思わず変な声が出ていた。
咄嗟に一歩、足が下がって、そこで足が止まってしまう。
近づけず、離れられず、今の迦具楽はとても不細工な表情をしている事だろう。
■リタ・ラルケ >
特に何かを考えていたわけではない。
だけれど、なんだか"空気"が変わった気がした――というと、大げさなように聞こえる。精霊の流れが、少しだけ変わった気がした、というのが正確である。
何の気なしにそちらを見た。
――迦具楽だった。
そういえば、この姿を見せるのも、初めてだっけ――なんて、そんなことを思った。
会いたかった相手だった。
「……迦具楽?」
足を止めた彼女の、表情を見る。
ぎゅっ、と。無意識に、太腿辺りのスイムスーツの生地を握りしめる。
「なんだか、ここで会うのも、久しぶり、だね――」
なんて、そう言った。
……今の迦具楽は。
自分がエアースイムに関わることを、どう思っているのだろうか。
■迦具楽 >
そこにいたのは、会いたいと思いながらも――誰よりも会いたくなかった相手。
声を掛けられると、ぎこちなく頬が動き、視線は泳いだ。
「あ、あー、うん、久しぶり、かな。
どうしたの、それ」
身に着けている装備を眺めれば、それはもう一端の競技スイマーの姿。
スイムスーツに、S-Wingはスノウホワイトとホイップミトンの旧型。
どれも大手メーカーのポラリスの製品だ。
普通に買おうとすれば、一般学生がポンと出せる金額じゃないだろう。
旧型な様子から、中古品でも買ったのかもしれないが。
「あー、似合ってるね」
目を逸らしたまま、居心地悪そうに頭を掻いて。
そんな気の利かない男子のような言葉を、呟くように言った。
■リタ・ラルケ >
「これ? えっと、学園にエアースイム部っていうのがあって。そこの部長に貸してもらった」
とはいうものの、考えてみれば妹さんのお下がりとはいえ、安くはないものである。……改めてあの先輩、すごいことしてるなあ。
「似合ってる? ふふ、そっか」
正直なところ、S-Wingの靴は普段履くものよりだいぶ大きくて、あまり落ち着くものではないのだけれど。似合ってると言われれば、なかなか悪くない気分である。
それはさておき、なんだかやっぱり迦具楽の様子がぎこちない。
「……あのね、迦具楽。私、」
……自分が、エアースイムをやりたいと。そう言ったのは。そりゃあ、単純にやってみたくなったっていうのもあるけれど。
エアースイムというものに。迦具楽のやっていたことに。自分が迦具楽に出会ったきっかけに。
ちゃんと、向き合っておきたいと。向き合うべきだと
そう思ったからでもあった。
「……頑張りたくなった。初めてのことだから、どうなるかわからないけど。ちょっとだけ、こわい、けど。でも。一回だけでもちゃんと、やってみたいって思った」
一つ一つ。言葉を選ぶように、そう言った。その声色は、自分でもわかるくらいに弱々しいものだった。
本当に、これからどうなるか、というのはわからない。本当に一度だけで終わってしまうかもしれない。
「……だから、うん。その、なんて言うのかなあ……」
それきり、言葉は途切れる。結局、何を言いたいかだとか、そういうのは纏まらなかった。