2020/07/29 のログ
羽月 柊 >  
「……レザーズ。………聞いたことがあるような。」

古い知り合いを通じて朧げに聞いた記憶だったかもしれない。
それは酷く不確かだが、裏の世界を歩くモノ達の間で囁かれる名かもしれない。
しかし、男は完全に相手を思い出すことは叶わない。

「俺は羽月 柊。この子らは護衛の竜たちだ。
 人間式の挨拶で良いだろうかとは思ったが、不快に思われず幸いだ。」

頭を下げられれば同じように左手を右肩に当て、頭を下げる。
異のモノと交流するときは、相手の動作を真似るのが基本となる。
人間社会でもミラーリングという手法だが、余程でなければ失礼には当たらないだろう。

ただし、頻繁に、またはネガティブな行動を返すと不快に思われる。

ここまで通じるのであれば、己が間違っていれば正してくれるだろう。

レザーズ >  
聞いたことがあると言われれば、何処でどんな風に、なんて語れていただろうか。
私はどのように認識されているか聞きたくなる気持ちは笑みに隠そう。

「さて、どんな『私』の話だろうか……
 羽月 柊さんにその可愛らしい子たちも、どうぞよろしく」

そう告げながら少し我慢できずに鼻で笑う。

「私は『この世界のヒト』だ。
 少しばかし珍しい姿をしているが、基本は変わりはない。
 だから、自分なりの普段の挨拶で大丈夫だ――…同じ世界のヒトでもマフィアなんかは相手の規則《ルール》でないと失礼にはなるがね?」

さて、自己紹介は済んだ。

「それで、羽月 柊さん。
 よければ貴方の慰霊祭へ思う所を聞きたいと思って声をかけたんだ」

あんな、声を聞かされて
ソソられないワケがないのだと瞳を細めた。

羽月 柊 >  
「そうか、ではそのようにさせてもらおう。
 自分を偽るのはコストの高いことだからな。」

そう男は話す。あるいは自分への自嘲すらその言葉の裏に込めて。
姿勢を戻すと、片手のペットボトルの中身をくるりと回した。

すぐ近くを青肌の女子高生と、目元の下にエラのある制服の子が通る。
スマホを片手に雑談をしながら。


「さぁ、俺も詳しいことは覚えていなくてね。
 歓楽街で飲んだ時に聞いたのかもしれないし、風の噂程度のモノだ。
 
 ……まぁ、慰霊祭に関しては、今まで行ったことがなくてね。
 何年もこの島に住んではいるが、この時期は仕事が立て込むのもあってな。
 ただ、今年は少々ヒト死にが近かったモノだから、
 どうしたものかと思ってね。」

半分嘘、半分本当。

この時期はいつも仕事を無理矢理にでも詰め込んでいる。

死へ目を向けない為。喪失を見ない為。

レザーズ >  
「そうか、
 ならきっとそれは『噂好きのレザーズ』と聞いたのかも知れない」

好きなんだ噂話が、と人差し指をくるくると回して弄ぶ。
女子高生たちの雑談する声は、生者の活気。
それもまた遠くの鎮魂を願った音と同じほどに素晴らしい。

「偽ることが大変なのなら、普段からさぞ大変なのだろうね」

そう呟く声は、確かに女子高生たちの音よりも小さなはずであったが、
羽月 柊、貴方にだけは聞こえてしまう。


「そうなのか、仕事とは大変だ。
 今更だけれど、羽月 柊さんは名前からして日本の人かな?」

羽月 柊 >  
「…………『噂好きのレザーズ』ね
 だからああいう場所で聞いたのかもな。
 そう言うからには君は何か、生業にでもしているのか。」

抽出された音に僅かに桃眼を細める。
紫を頭に冠する男は、余程では動揺しないが、
眼という器官はそんな中でも表情を露呈しやすい臓器。

夏は日差しを浴びて、豊穣の秋へ向けて、生命が謳う季節だ。
人間には少々厳しいモノもあるが、
この日本にとって、夏もまた重要な季節なのである。

「…まぁ見た目はこれでも、日本生まれの日本育ちでね。ただの人間だとも。
 この街に居るとそうじゃないように見られがちだが……。
 柊が名だ。魔除けの木であるヒイラギをあてる。

 そして人間には限界がある以上、仕事と慰霊祭どちらを優先しようかと思ってね。」

レザーズ >  
「そうですね、少し……」

可愛らしく微笑み低い声で意味深に言葉を区切る。

「自営業を。
 だから、時間は好きに組めるんです羽月 柊さん」

夏の西日を浴びて、汗一つない幼い子供の姿をしたソレは自身の瞳を桃色の瞳と同じように
否、厭らしく笑うように細めた。


「日本人にとっては、慰霊祭のような……お盆というのは大切だと聞いたことがあるのですが

 お 仕 事 、 大 変 な ん で す ね 。」


変わらない声のトーンで
特段含みはないような声色で、レザーズは言葉にする。

「――私の仕事は、噂を集めたり噂を広めたり……そう、売ったりするものです」

そう言って、黒紫色のローブの内側から一枚の手のひらサイズの紙を一枚取り出す。

「もしかしたら羽月 柊さんの欲する『噂』も集められるかも知れません。
 『噂好きのレザーズ』、お覚えいただければ幸いです」

そう言って、黒い名刺を差し出す。
表には『Lzz』、裏には何処か場所を示す簡易地図。
怪しい気配やなにか呪いのようなものはないことは魔力操作を普段からしているものなら理解出来る。

羽月 柊 >  
名刺を差し出されれば、目線を合わせるように跪く。
ひらりと白衣が空気を含んで地面を擦るのも構うことなく。

「日本人にも様々だとも。
 古い慣習を大切にするモノ、そうでないモノ。
 …仕事なんていう、日々の糧の方が大事だというモノもいるさ。」

虹色とも黄金とも取れぬ煌めく瞳が間近にある。

「これはどうも。
 何かしら必要なコトがあれば頼らせてもらうとしよう。」

男は片手のペットボトルを焼ける地面の上に置くと、
演者のような口頭で話すレザーズの名刺を両手で受け取り、
片手に持ち直すと空いた手をパチン、と鳴らす。

手品のように、人差し指と中指の間には名刺が出現した。

「ではこちらも。
 竜専門研究、羽月研究所所長をしている。」

それは、見た目は大人と幼子の、なんとも奇妙な名刺交換だった。

レザーズ >  
「そうですか、私もこの街にはそれなりに居ますが
 それぞれの文化に興味を持ったのは最近でしたので」

桃色の瞳を『見つめて』、出された名刺を貰い一度紙を茜色に照らして懐へと仕舞う。

「ええ、是非是非……
 『噂』好きなのでいつでもお待ちしております」

「さて、そろそろ夜も近い時間だ。
 最後に一つ、簡単な質問をさせてください」

「羽月 柊さん、

 "私の瞳は、何色に見えましたか?"」

そう言って、変わらぬ顔で貴方の顔を『見つめた』。

羽月 柊 >   

「…そうだな、なんとも形容し難い。」


最後の質問に、男は『桃』色を細めた。


「『視る角度でいくらでも色が変わるのに、大元の色は金色に見える』。
 
 綺麗な瞳だ。誰かに盗まれないように大事にすると良い。
 眼には、様々な"力"が宿るからな。」


爬虫類系の鱗にも似たようなモノがある。
光源によって虹色に輝くのに、本元の色は白や金色、黒色のモノがある。

"羽月 柊には"、そういう風に見えた。
ヒトは、己の知る何かに当てはめるきらいがある。


そう告げて、立ち上がる。

レザーズ >  
なるほど、と小さく頷いてから。

「変な質問して、すまない。
 ちょっとした『まじない』のようなものでね」

この目の『色』は。


「そう、悩ましく変わる……

 『人の精神の色なんですよ』。

 定まらないのに、何かはあるように見える。

 きっと、本当はやりたいことは見えているのに

 見えないふりをしているのかもしれないですね」


そう言い切ってから数歩下がって

「なんてな……そう、『ただの光の屈折現象』です」

と笑って言いのけた。


「さて、最後に久しぶりにまともに会話してつい遊ばせて貰ってしまった……
 『噂好き』なのでこうして人と喋るのも好きなんだ」

そう言って、不確かな色の瞳で笑った。

「ではでは、お仕事帰りかと思われるお疲れの所に失礼いたしました。
 お連れさまも私の瞳と同じく珍しいのでお気をつけて、羽月 柊さん。
 何か『噂』をご入用の際は是非、私にご連絡を」

そう言って軽く会釈をする。
止める言葉なければ、レザーズは夕闇に入りきっと見失ってしまうだろう。

羽月 柊 >   

「ああ、またどこかで縁があるならば。」


男はレザーズを、幼子のようなヒトを見送るだろう。


「………全く、見透かされたような気分になる。」

地面に置いてけぼりを喰らったペットボトルを拾って、
すっかり地熱で暑くなってしまったそれを飲み干すと自販機横のゴミ箱に入れる。

底の茶葉の苦みが、やけに口に残った。

「……『噂好きのレザーズ』か。
 ロアの話にちらりと聞いた気がしたが…何だったか。」

そう呟きながら、黒い名刺を捨てる事もなく仕舞いこんだ。
……もうすぐ夜が来る。

男は日常に溶け込むように、その場を後にした。

ご案内:「異邦人街 街角」からレザーズさんが去りました。
ご案内:「異邦人街 街角」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「異邦人街 - 中華飯店」に春寺谷 れもなさんが現れました。
ご案内:「異邦人街 - 中華飯店」に水鏡 浬晶さんが現れました。
春寺谷 れもな >  
暑さと蒸し暑さと湿気と、あと夏の暑さ。
みなさまお元気でしょうか。春寺谷れもなは、とても…とてつもなく元気です。

このように、他人を引っ張るくらいには元気です。

「アキ先輩、ここ!ここー!」

他人の服が伸びる事なんざ気にしていたら、生きていけない。
そういうタイプの女学生。

水鏡 浬晶 > 「伸びるから引っ張んな。
 ……ここかぁ。異邦人街は殆ど来ないけど、こんな店もあるんだな。」

基本的に元気のない青年は、首をひねりながら店を眺める。
何ともオリエンタルだがどこか違和感のある外装、異邦人街らしい。
…という思案に浸る間もあまりなく、半ば引きずられるように店の中へ連れ込まれていく。

「……春寺谷、よくこんな店知ってるな。」

春寺谷 れもな >  
「私も何で知ったのか忘れたけど知ってた~」

SNSだったかなぁ?と水鏡に聞きながら店員に2名ですと元気よく伝えた。
ちょうどピークの時間を少し過ぎていたのか、そう待つことも無く席に通された。
厨房の方では、熱い油がじゃっと音を立てていた。美味しい匂いが漂っている。

「辛い中華も辛くない中華もあるんだって。
 あとね~、杏仁豆腐がすごい美味しいらしいんだよね~」

でも、どこでその情報を知ったかが分からない。
忘れてしまったのだから、どうしようもない。お冷を片手にメニューを広げた。

水鏡 浬晶 >  
「そうだな、お前はそういう奴だよ。ところてんみたいな記憶力だな。」

俺に聞くな、とでも言いたげに腕を組み、席へ案内されながら目だけで内装を眺める。
……一応、普通の中華のようだ。
異邦人街には麻薬のような中毒性の黒いカレーがあるとか、
ドラム缶でラーメンを作ってる屋台があるとか、
肉の人工サシに虫の幼虫を使ってるとか、そんな変な噂がたまに聞こえる。
本気にしてはいないし本当かどうかはわからないが、少しホッとしたのは確かだ。

「俺は辛い中華でいいかな……麻婆豆腐とかで……
 暑気払い、だっけ…?最近梅雨ばっかりで頭は痛いし、気分転換したい。」

春寺谷 れもな >  
記憶力を褒められる(?)と、あんなに透明な脳みそだと考えてることが透けそうでヤダと拒否した。

「雨ねー、すごいよね~って、何かにつけて眉しかめてると思ったら頭痛いの?アキ先輩…。
 辛いの食べたら痛くない…?辛いの結構好きだっけ?」

水鏡のチョイスに、れもなはヒヨコのような目で見ている。
こちらはといえば、辛口カレー以上の劇物香辛料はお断りだ。
油淋鶏と海鮮かた焼きそばと、あと何食べようかな?くらいの刺激物の回避っぷりである。

水鏡 浬晶 >  
今更何を仰るウサギさん、という顔で目線を飛ばした。
透けてるのである、態度に。そりゃあもうわかりやすいくらいに。

「おー……かなり痛い。生まれ付きだけど、今年は特に……
 痛いから良いんだよ、頭痛よりマシだから口が痛けりゃ頭は中和されるだろ。
 ……辛いのが好きっていうか、味がハッキリしてる物が好き。」

からんと透き通った氷を慣らし、お冷で口を潤す。
あまり飲みすぎると後が怖いので、相当ちびちび飲んでいる。

「春寺谷こそ辛いのダメだったか?甘いモンばっか食ってるよな普段。」

春寺谷 れもな >  
「タンスに小指ぶつけたら、そのまま頭もタンスにぶつけろみたいな理論~。
 あ、そなの?味ハッキリってことは濃い味なんだ。あー!だからココアも甘いんだねえ。
 わたしは~…ちょっと辛いくらいなら……。激辛って言われるものは見てるだけで十分かな~」

テストと同じくらい苦手かもしんない、とぼやいた。
注文が決まると、手を上げて店員を呼ぶ。
あれください、これくださいとヒョイヒョイ口に出しているが、
これ食べる!と決めていた時よりも数品ほど注文が増えているのに、お気づきになられただろうか…。

「先輩は麻婆となにたべるんだっけ!唐辛子?」

水鏡 浬晶 >  
「そんな理論聞いたことないんだけど。そんなん定説してる奴がいたら引っ叩きに行くわ。
 ああ、そうだな。ココアも甘口で……コーヒーはブラック。
 テストと同じくらいってことは……食ったら死ぬのか。」

この男、春寺谷の勉強に対する印象を何だと思っているのか。
それはそれとして、店員が来たので注文を……

「誰が食うかお前の鼻の穴に突っ込むぞ。
 ……麻婆と、あと…………あぁ、あるじゃん。エビチリ。」

こちらも負けじと1品増やした。1品だけである。

「お前、そんなに頼んで払えるのか?
 食い切れないとは思わないけど。」

春寺谷 れもな >  
「流石に死なないよ?!あと鼻にそんなの入んない!」

店員の前で何という話をしているのか。
でも実際は泣きそうな顔でテスト勉強をするし、テスト中は宇宙に飛ばされた猫にそっくりな顔をする。
その認識で大体あっているのだ。テスト前に誰かへ泣きついて来るのも含め。

手持ちを心配されると、大丈夫だと朗らかに笑った。

「夏場は臨時のバイト多いからねー、結構手持ちはおだやか~。
 お金なかったらおうちでご飯してるし~、先輩引っ張って外に出て無いだろし~」

元気いっぱいである。なおテストの平均点はお察しだ。
他に注文ないですかと店員が聞き、れもなは元気よく無いですと答えた。
杏仁豆腐は後で頼むつもりである。まずはしょっぱい物が先。

水鏡 浬晶 >  
「入るか入らないかじゃねえ入れるんだよ。3本くらい。」

1穴に3本。
まぁ、なんだかんだ全く勉強をしない不真面目な人間でないことは知っている。
事実は事実として認めねばなるまい。
普段から勉強しないのを真面目と言えるわけではないので、『不真面目ではない』だけだが。

「そんなだからテストが赤点ギリギリのツバメ飛びになるんじゃないのか。
 まぁ、すっからかんの財布引きずって菓子強請りに来られるよりはマシか……
 …あ、俺もないです。ありがと う ございます……」

店員に反射的にお礼を言ってしまった。悪い事ではないと思うが、後輩の前で少し恥ずかしい。
何でもないようなちょっとした癖だが、他人に見られるとこうも恥ずかしいのは何故だろう。

春寺谷 れもな >  
「広がっちゃうじゃん!ヤダー!
 あっ、でも今回のテストは補習と追試は全科目じゃないよ?少し成長したもん」

店員にお礼を言う水鏡には、案外ぽろっとお礼を言う人だよねえ~と眺めた。
口も態度もまあまあ悪いところがあるけど、万人に悪いわけじゃない。
それは、れもなにも分かっている。だってお菓子くれるし。
何かを誰かにくれる人の大体は、悪い人じゃない。
たまに悪い人がいるけど、それは仕方ない。だってくれることが目的じゃないから。

「でもツバメ飛びってなんかかっこよくない?」

実技テストで首の皮を繋いでいる人類の言葉である。

水鏡 浬晶 >  
「うっさい。広がれお前は。脳への風通しを良くしろ。
 ……五十歩百歩じゃん。っていうか普段は全科目追試なのか……」

照れ隠しなのかそれとも拗ねたのか、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
何やら分かったような気持ちを持たれている気がするが、気にしないことにした。
ちなみにお菓子を与える理由は、そうしていると少し静かになるからだ。

「呑気だな……地面に突っ込んでも知らないぞ俺は。
 ……お、来た。」

そんなこんなやってるうちに、料理が運ばれてくる。
赤い。赤くて白くてまた赤い麻婆豆腐だ。香りはとても芳醇で濃厚だが、それ以上に辛そうだ。
だがそれもまた麻婆豆腐の魅力の一つ、受け入れずして何をか言わんや。

「頂きます。」

静かに手を合わせて若干の育ちの良さを見せつつ、レンゲを手に取る。

春寺谷 れもな >  
「勉強頑張ったらルギルギのルギウス先生が、使い魔紹介してくれるっていうから…」

だから、嫌々ながらも少しずつ頑張っているところなのだ。
本当に微々たる成長でしかないのは、置いておこう。
今は出来たて熱々の料理のが大事だ。

「うわっ辛そう……。 いただきまーす!」

こちらも元気に食べ始めた。
箸で油淋鶏をつまみ、大きな一口でカリッという音を響かせる。
ネギのじゃきじゃき感がたまらない。白いご飯じゃなくてチャーハン食べてますけど。

「美味し~~!水餃子も期待できそう~~~!」

ご機嫌です。食べる?と言いながら、空いてる小皿におすそ分け。
言いながら実行する犯であった。

水鏡 浬晶 >  
「あのうっっっっっっっっっっっっさん臭い先生か……
 まぁ良いのに出会えると良いな。ちゃんと面倒みろよ。」

ペットを飼いたがる子供をみるような気分だ。
まぁ、命を粗末にするような人種ではないから、知恵熱を出してでも大事にするだろうが。

「うん、美味い。」

味気も素っ気もない感想だが、本当に美味い。
電流のような激しい辛味はそのままに、崩れずぷるりと形を残した豆腐が
ほのかな甘味を伴って、その辛味を喉の奥へと連れて行く。
あとに残るのは辛味の余韻と香辛料の芳香、そして葱の香りだ。
弾け回る爆竹のような辛さではなく、重く濃厚でかつ激しく熱く、
しかし彩りを見せて一瞬で消えていく打ち上げ花火のような味だ。

「水餃子も頼んでたのか。……まぁ貰うけど。
 ……ん、ほんとに美味い。リピートしようかねここ。」

がしがしと鶏皮が砕ける音を立ててしっかりと味わう。
特別変わった調理法は見られず、それ自体は基本的ながら、全体的にレベルが高い店だ。

春寺谷 れもな >  
水餃子の中身はエビと炒り卵の組み合わせだ。
味わいはたんぱくながらも、湿気と熱気にだれがちな胃を優しく温めてくれるだろう。
もちもちの皮を染めるつけあわせのタレは酸味が強く、これがまた食欲をそそる。

「自分で中華作ろうと思うと、びっくりするほど火力と油使うもんね。
 前に動画見ながらレシピマネしようと思ったら、揃える材料で驚いちゃった~」

れもなは、水鏡の事を「口に合うものは素直に感想がもれるひと!」だと思っている。
ので、美味いが出たのはガッツポーズな出来事だ。
どこで知ったのかは本当に忘れたけど、いいお店で何よりである。
異邦人街の変な噂はあんまり知らないので、本当に良かったとも言える。

「ここのお店、かた焼きそばのイカが大きくて好き~。たべる?」

目の前でもりもりと食事をしている。
油淋鶏を齧ってチャーハンで押し込み、水餃子をつまみつつかた焼きそばも皿に盛る。
ついでにチンジャオロースまで出てきた。美味しい!明日の体重など知ったことでは無い!

水鏡 浬晶 >  
「アレは安コンロじゃ真似できないわ、チャーハンも上手いことパラパラにならないし。
 本格中華じゃなけりゃ味付けも楽なんだけどな。」

昨今の調味料事情は非常に進化している。開発会社には感謝の念ばかりだ。
だからといって最低限の環境というものがあるのもまた事実。
趣味というほどの料理でもないが、自分が食って美味い飯くらいは自分で作れるようになりたいのだ。

「おう、食べる。……本当だ、結構デカい。
 っていうかお前本当に頼み過ぎじゃないのか。」

明日の体重はともかく、将来の血圧が心配になりそうな塩分量だが。
だが、美味いものは美味いのだ。それは分かる、すごく分かる。
だからこそ自分もこのエビチリを口に運んでいるわけだし。
こちらも辛味が強いが、海老の淡白さと衣の油気でむしろ後味は甘く感じる。
ベースは麻婆に近いが、こちらほど突き刺す辛味はなく、食べやすい。

春寺谷 れもな >  
「昨日はトランプタワーの9段を目指してたから、あんまりご飯食べて無くて…。
 つい多く頼んじゃったよね~……美味しいから大丈夫そうだけど」

あ、店員さん。
食後に杏仁豆腐ください。

ぷりっとしたイカは飾り切りにされ、さくりと歯切れが良い。
エビチリは勝手にエビを1個拝借した。わぁいぷりぷり!このくらいの辛味なら問題ない。
その傍ら、チャーハンをぺろりと食べ終わったので、皿を横に置いておく。

「………麻婆豆腐辛い?」

未だに結構な赤みが残っている気がする。
いや、時間が経てば赤みと辛味が逃げる食べ物では無いが。
それはそれとして、辛いのが苦手でも相手が美味しく食べてると気にはなる。
穴ぼこから警戒しているモグラのような面持ちで、そう聞く程度には。

水鏡 浬晶 >  
「飯も食わずに何やってんだ。せめて勉強しろ。
 ……気持ちはわかるけど。」

読書をしていると気付いたら飯を食ってないことは多々ある。
その点はあまり強くは言えないのだ。負い目があるというのは辛いものである。

あと、エビチリを1つ食われたことに関しては何も言わなかったが、目が抗議していた。

「あん?……食う?」

すい、とレンゲで掬った麻婆を差し出す。
やはり赤みは未だ強い。それはまるで沸き立ち熱気吹き上げるマグマの如く……
見えたり見えなかったりするのは、おそらく春寺谷が辛味に弱いから見える幻覚か何かだろう。
とにかく、辛いものに慣れていない人が食べれば結構な衝撃が来る辛さなのは確か。

春寺谷 れもな >  
「勉強はもう少し後で…も………」

喰うかと差し出されたレンゲ。
暗さのある赤い餡に白く浮かぶのはお豆腐。
配膳された時に刺激的な香りが漂っていたし、美味しいのもわかる。

わかるけど。
わかるんだけど、この状況は……


「えっ辛いのイヤ……」

辛いの怖い。しばらく辛い以外の何物でもない口内になるのが怖すぎる。
れもなは思わず唇をキュッッ…と結んだ。
この好意はちょっと…くらいの眼で、キュッッと。こんな美人がすすめてくれているのに。

水鏡 浬晶 >  
「遠慮するなよ。美味いぞ。」

ニヤリと笑いながらレンゲをじわじわ近づける。
嘘は言ってない。美味なのは確かだし、辛くないとは言ってないだけだ。
食べたら『…本当に食べてしまったのか?』とか言い出しそうな雰囲気ではあるものの。

「くく、顔面シワクチャなんだけど。そんじゃあ俺が一口。
 んー、美味い。」

ひょい、と踵を返してレンゲを口に運ぶ。
『食べられなかった』『もしかしたら言うほど辛くなかったかも』
そういった悶々とした感情を刻み込む、悪魔の所業である。

春寺谷 れもな >  
どうして目の前の美人はこんな意地悪をしてくるのか。
どうしてレンゲの中身に興味を持ってしまったのか。
答えはどこにも無い。問いかけていない。

「う゛う゛~~、ちょひょまっひぇ」

なんだろうこの気持ち、小さい頃に食べられなかったピーマンを前にした時に似ている。
幼い自分にとって、ピーマンは苦みが目立つ食べ物だった。
ただ、そう分かっていても美味しそうに食べる大人がいると、今日はいけるかもしれないと思ってしまう。
今まさに、その状況…というか、そういう気持ちだ。
アキ先輩が食べてるんだからいけるんじゃない?そんな気が…しなくなくも…なくも…。

むぎゅ、としわくちゃの顔のまま悩んでしまった。
食べれるのか?この悪魔の誘惑に勝てるのか?
思い切り悩む事、その間8秒。

「ちょ、ちょっとだけ……ちょっとだけなら…!!」

負けた。好奇心に?いいえ、悪魔のささやきに負けた。

水鏡 浬晶 >  
何故こんな事をするのか?そこには特に御大層な理由があるわけではない。
楽しいからだ。虐めるのが……というわけではない。反応を見るのが。
イキのいい反応が見られれば、喜怒哀楽どれでも構わない。

悩む時間は相当に長かった。
10秒近く悩んでいた気がする。
その間にもこちらはぱくぱくと麻婆豆腐を食べ進め、いよいよ残り少ない。
この目に見えるカウントダウンも、思案を焦らせた原因の一つかもしれない。

「はいはい、ドーゾ。…………。」

すい、と再びレンゲが伸びる。
……一口だ。一口だけなら行けるかも知れない。
思ったより辛くないかも。ひょっとするとむしろ美味しいかも。
そんな淡い期待とマーボーを載せ、レンゲは春寺谷の唇を目掛け突き進んでいく。

春寺谷 れもな >  
悪魔の誘いに乗ってしまった。
もう戻れない。普通にやっぱ辛いのヤですって言えば済むが、それはそれ。

もしかしたら辛いのに強くなれる日なのかも。
もしかして、もしかしたら、辛いのは見た目だけかも。
むしろアキ先輩が辛いの我慢して食べ…てるわけは無かった。
再度こちらにレンゲを向けるまで、普通に食べてた。なんでだろう。

むあ、と口を開けてレンゲを受け入れる。
ちゅるりと麻婆豆腐を口に収め――

あ、すごくいい香り。なんだっけ、中華に使う……

「ほあぢゃお………っっっっ!!!」

無理であった。花椒のすくような香りの後に連なる唐辛子の辛さ。
そう簡単に克服は出来ないと思い知らされる。

さっきはしわくちゃの顔だったが、今度はほお袋を使い損ねたネズミのような顔になった。

水鏡 浬晶 >  
「      」

声を出さないように大爆笑している。
珍しく機嫌がいい。カプサイシンで血流がイイ感じになったからだろうか。
断末魔が『花椒』って。

「………っ…… ほ、ほれ お お冷……」

笑いすぎてお冷を渡す手が震える。
味自体は良いはずだが、それ以上に辛いのだろう。
かわいそうに。と言いながら大爆笑しているのはこっちだが。