2021/12/11 のログ
■アガート >
「ええ、蛇を連れてるくらいではさほど驚かれません。
とはいえ、苦手な方もいらっしゃるでしょうから、異邦人街より遠くにいくならば、
<彼女>らに留守番を頼むことも多くなるでしょうね」
彼女とは、白蛇のことだ。
蛇全体ではなく、アガートやシンシャが連れている特別な個体の事を云う。
「私も宗教黒歴史ポエム会ってなんじゃそら、だったんですけどね。
内容としましては、それぞれの宗教における偉い方やシンボルとなる人々の…こう…
若気の至りで作ってしまった…将来性の高い……」
どう言葉を選んだもんかと悩んでいる。
「…うん、まだるっこしいですね。ハッキリ言うなら、
年頃の少年少女が神の声やお告げを聞いて舞い上がっちゃったときにこさえた恥ずかしい文章…の、披露会でした。
大人になる前の感性というものは素晴らしいですね。
私も本部に残した10代の頃の日記を燃やしたい気持ちにかられたほどです」
アガートはほがらかに笑った。
『崇められ、尊敬される人々にもそういう痛々しい青春があったのだ。
そんな可愛痛々しい過去すら、丸ごと愛せるような不屈の精神の修業をしましょう』
…というような趣旨があるそうなのだが、果たして会として成立しているかは謎である。
「残った手続きも、私が今日書類などを取ってきましたから。
一応、学園の方にも打診はしておきましたよ。『悩みがある生徒の為に移動懺悔室を行いたい』という趣旨を」
■シンシャ >
「余程でなければ留守を頼むことも無いとは思いますが…。
本国に比べれば、混沌故の秩序があるかと。」
用心するに越したことはないですが、
なんて話しながら、隻手の指先で己の白蛇を軽く撫でた。
爬虫類は懐かない、なんていう話があるが、
神父の連れる個体は、彼らに懐いているように見える。
「まぁこういう所だとそういう…歴史の研究?
のようなモノも、あるんですね…。
宗教に共通性があるなどと言うのは、そういう所からも…。」
ううむ、と、少々唸った。
フォローのつもりなのかなんなのか、分からないが。
「私も若かりし頃は何かと荒れていましたから、
お父様にもそういうのがあった、というのは気になりますね。」
今度本部に戻った時に覗いてみましょうかね、なんて。
「移動懺悔室…こちらでも迷える子羊が救える機会が増えると良いのですが。
あぁ、書類は手伝える範囲は、私にも回してくださいね。」
■アガート >
余程でなければというシンシャの言葉はもっともであると、アガートは頷く。
とはいえ、離れがたいほどに愛しい白蛇に留守を頼む理由も、彼らには付きまとう。
それは学園内にお邪魔するために気を使うだとか、そういうものではない。
「私もそう思うのですけれどね」
アガートは少しばかり声をひそめ、シンシャの耳元へ唇を添えた。
「…こちらにも、スラムのような場所はあるそうで。
上の方々は認めませんが、島の方々は認める…見て見ぬふりをされるような。
異能と魔術の密度が異常な島でのスラムなんて、<とっても危険>だと思いませんか?」
低くあやすような声が、言葉を転がす。
危険という言葉の裏は<素敵>だ。
「彼女らは賢いので、危険が迫れば相応に身を隠しますし、私達も決して弱い方ではありません。
しかし、悩める子羊や傷つき力を失った子羊たちが、必ずしも人の目に触れるところにいるとは限りません。
でしょう?」
そう言うと、赤くにじむ瞳を三日月のように伏せて、顔を離す。
まだ子供たちが起きている。子供たちには、<危険>な場所の話はまだ避けておきたい。
「あ。悪い情報を与えてしまいましたね。
私の日記は見ちゃダメですよ。シンシャの昔のような荒れ方ではありませんが」
口の前で指をクロスさせ、×印を作る。
ぷんぷこと頬を膨らませて拒否を示しているが、この男は31歳であった。
ぶりっこはなはだしい。
■シンシャ >
アガートの声に、鮮血のような瞳を伏せる。
唇は弧を描き、心地よく聞きなれた父の言葉を聞く。
「…そうですね、"嘆かわしい"。」
それは決して、笑みを浮かべながら言う事ではない。
「我々の救いを望む子羊は、そのうち迎えにいかないといけませんね。
もしかすれば、"卵"を抱いて泣いているかもしれませんし。
…あぁ、一息ついたら卵は食べますか? お父様。」
まだ彼らはこの島に来たばかり。
彼らにとっての日常も、ここでの生活も、
これからどうなるかはまだまだ分からない。
けれども、彼らは落第街やスラムなどの危険な場所にも出入りできる。
優しい笑みの奥に、朗らかな笑みの奥に、それを隠して。
「いやぁ、お父様の下につけられるまでは、
私は日記などマメにつける方では無かったのが幸いですかね?
文字に残っているのは…。」
くすくすといたずらっ子のような笑みを浮かべる。
■アガート >
「ある程度、子供たちが歩きまわる前には<危険>を確認しておかねば。
日によっては、貴方に探索を頼む時もあるかもしれません。
…ほら、はしたないですよ。シンシャは本当にやんちゃですねえ」
すぐに理解を示してくれる<兄>で助かるものだ。
アガートは唇の前で作っていた×印をほどき、自分の傍らにいる白蛇を撫でる。
「良いですね。今日は腰を落ち着けて食べれていないので」
手荷物を整頓したら卵も頂きましょうと、マフラーをときながら言う。
書類もそう多くはない。子供たちのサインが必要なところも過ぎてしまった。
ほんの10数分ほど、シンシャに手伝って貰えば済む話だろう。
シンシャ個人の感情や行動の記録が、本人の文字で残っていない、ということに関しては
「いいんです~。シンシャの荒れている頃の姿は、私が覚えていますからね。
その頃の貴方といったら、腹をすかせた大蛇のようで……」
…などと、昔話をこぼしながら、室内へと向かっていく。
■シンシャ >
「存分にこの身、お使いください。
私は"兄"、私は副司教ですからね。
流石に火の中水の中とは行きませんが…、
ふふ、私のやんちゃを止めて下さるのが…パパでしょう?」
目は赤くとも、同じ赤色ではない。
彼らは父子ではなく、血縁ではない。
この教会では副司教は"兄"と称される。
通称ではあるのだが、シンシャはアガートを信頼しきっている様子だった。
室内へ向かいながら、アガートが解いたマフラーに手を差し出す。
コートに手を伸ばして、寒かったでしょうと声をかける。
するりとシンシャの白蛇が彼の白蛇へと寄り、ちろちろと舌を出した。
「今でもお腹は空いていますよ?
牙をおさめることを知っただけなので……。」
そうして、声は教会へと消えていく。
■アガート >
すうっと夜風が通り抜け、教会の扉は閉まる。
聖セサンタエル教会は、
道に迷う貴方に、道を往く事に疲れた貴方に、手を差し伸べます。
悩みを打ち明けられぬひと。
何でもいいから話をしたいひと。
蛇が好きなひと。そうでもないひと。
様々な方々がいらっしゃると、それだけは存じております。
近い未来、子羊のみなさまと出会い、お話が出来る時を―――
―――心待ちに、しております。
ご案内:「聖セサンタエル教会 常世支部」からアガートさんが去りました。
ご案内:「聖セサンタエル教会 常世支部」からシンシャさんが去りました。