2021/12/16 のログ
ご案内:「聖セサンタエル教会 常世支部」にアガートさんが現れました。
ご案内:「聖セサンタエル教会 常世支部」にシンシャさんが現れました。
アガート >  
聖セサンタエル。
それは蛇の神秘性を敬い、愛し、崇めている宗教である。
常世のみなさんにおかれましては、蛇好きさんは是非仲良くしたいところであるし、
蛇や爬虫類はそうでもないという人におきましても、いずれは仲良くして頂きたい。
そういう気持ちで今日も運営を頑張っている。

しかし、本日はその門戸は大きく開かれていない。

学業や明るいうちの仕事に携わっている人達が解放される夕方の時間帯であるが、
教会の主であるアガートが、荷物を運んでそれどこじゃねえという状態だったので、
今は人払をさせていただいている……という状況であった。

教会の聖堂内に運んでいたのは、どこにでも存在しうる真っ黒なグランドピアノ。
ただしその鍵盤は通常と違い、黒鍵が白、白鍵が黒だ。


壁一面に施された真っ赤なステンドグラスと、そこを通る夕日のせいだろか。
聖堂内は悲鳴が上がりそうなほどの朱に染め上げられて、異質であった。
 

アガート >  
「シンシャがいてくれて助かりました…」

腰をトントンと叩きながら、アガートがへにゃへにゃと笑う。
いつもは曇天のような灰色の髪を長く垂らしている彼も、
この時間になると、大きなステンドグラスによって真っ赤っかである。
 

シンシャ >  
「下手に力入れると大変ですものね。
 気にしないで運ぶだけなら一人でも出来るんでしょうけども…。」

アガートの傍で、作業用に軽く纏めていた白の長髪を解き、
ゆるりとシンシャが笑みを浮かべる。
その赤メッシュの色程では無いが、
彼の白髪もステンドグラスによって赤く染まって見えた。

聖堂に鎮座したグランドビアノを指先で撫でる。


「あぁ、やはりあると無いとでは違いますね。
 これで子供たちにも、音楽教育が出来ますね。

 パパのピアノ演奏、私も好きですから。」

ね、と、傍らの己の白蛇に語り掛ける。

アガート >  
背筋を伸ばし、大きく呼吸をする。
いつも通りに姿勢を正すと、シンシャにニコと笑いかけた。

「でしょうでしょう。
 やはり聖堂にはこれがなくては、落ち着きませんからねぇ。
 本部に無理を言って送ってもらって良かったですね」

保護呪文によってキズや欠けは無いだろうが、それでも気になるものだ。
シンシャごとピアノの周りをぐるりと歩き、問題の無い様子にウンウンと頷く。

「教団の讃美歌を教えるのもそうですが、好きにいじれる楽器があると楽しいですから。
 シンシャも手が空いている時は、練習してくれて構いませんよ?」

クスクス笑いながら鍵盤蓋を上げて、さっそく一つ叩く。
太くも正しいドの音が、ポーンと高らかに赤い光の中を飛んだ。
シンシャも聞きなれた、祖国のグランドピアノの音だろう。
 

シンシャ >  
ご機嫌な様子のアガートに、自然と口元が弧を描く。

「兄になる為に一通りは習得はしたんですけどね…。
 やはりなんというか、
 粗野が抜けない部分がありまして、私の"讃美歌"は特に。」

お恥ずかしい限りです、と続けながら、
相手が鍵盤に触れ、祖国の音を聞いて目を細める。

こちらに来てから聞いていなかったが、
祖国に居た頃は毎日のように聞いていた音だ。


「お父様は昔からピアノが上手でしたけれど…、
 幼少の頃から弾けたのです?

 よく私も荒れていた頃に子守唄のように聞いたモノですが。」

一息ついたらお茶でもいれようかと思いつつ、
そんなことを聞いた。

アガート >  
「迫力があって良いと思うのですけどねえ、貴方の演奏は…。
 なにも優しいだけが<讃美歌>ではありませんから」

ポーン、ポーンと指と鍵盤の仲を確認するように音が往く。
そのうち指先が波打つようにゆったりと踊り始め、ピアノはそれに合わせて歌い始めるのだ。
<讃美歌>のひとつ、全ての蛇に捧げる祈りの子守歌。

「そうですね、物心ついた時にはと言いますか。
 私の家族が元から教団の信徒であったことは、何度か話しましたね。

 近所の教会にもグランドピアノが置いてあってですねぇ、好きなように遊ばせてくれたのです。
 姉の方が呑み込みが早かったのですけど、何分飽き性でしたから……」

それがあったから今も叩けている。ありがたいことです、と。

シンシャ >  
「…勢い余ってテンポを外しがちだと良く言われたモノですよ。
 
 お父様は褒めて下さるので、大好きなんですが♡」

少し冗談めかして言う。

話す節々にどこか気性の荒さが見え隠れし、
アガートのピアノに合わせて讃美歌を口ずさみ、
ゆるりともたげる獰猛さを隠す。

彼は副司教、彼は兄。
この支部教会の護り手の一人。


「…ええ、物心つく頃からとはお聞きしていますね。
 やはりそう聞くと土台というモノは大切だと思えます。
 ……ご家族様、お会いしてみたかったですね。

 初めてお父様のピアノをお聞かせいただいた時は、
 ありがたみを分かってはいませんでしたが…。」

アガート >  
「ふふふ、褒める事が無ければ褒めませんからね~。
 演奏も<讃美歌>もお手本や定石はあれど、正解など存在しないのですから」

この辺りは禅問答に似ておりますねえ、とニコニコである。
大好きなんですが♡と可愛く言われれば、私も好きですよと平気で返すのがこの男だ。

子守歌は<讃美歌>の中では少々短く、その代わり繰り返し弾くのに向いている。
厳かでどこか冷たさを含んだ夜の帳を表現する和音が特徴的だ。
楽譜は頭を通して、とっくに指先に収まっている。
手元を見ずともピアノを歌わせながら、どこか懐かし気に天井を仰ぐ。

「ありがたみだなんて大げさですね、シンシャは。
 私は貴方に必要だと思ったから、あの時に音を用意しただけです。
 拾えるようになった貴方の成長と余裕の備わりが、昔を想う事を許したのですから」

「…それに決して、私一人で貴方を導いたわけでもありません。
 私には、父も母も姉も弟も…ここに、この傍にいるわけですからね。
 貴方には墓標としてしか紹介できなかったのは、私も残念ですけれど……」

鍵盤を叩く指が離れ、アガートは己の胸を撫でる。
彼らはここに収まっている、忘れるわけがないと言うように。

「私が家族から受けたものは、貴方にあげることができる。
 それで我慢してくださいね?愛しき<子供>、我が<兄>よ」
 

シンシャ >  
好きですよと返って来ることを知っている。
それに満足そうに笑うのは、"兄"というよりは"子供"の笑みで。

彼等はそうしてこれまでも共に歩んできたのだろう。

屋内をステンドグラスで真っ赤に染め上げる陽は静かに落ちて行き、
やがて聖堂内の照明が灯り、二人の神父を照らす。


「おおげさで良いんですよ。
 私は貴方に手を差し伸べられて、救われた。
 乾いた砂漠に水をもたらし、飢えた私に与えてくださった。
 
 …そうですね、それは、お父様と、
 お父様のご家族様のおかげだと思っています。」

アガートが胸元を撫でる手に重ねるように、
後ろから軽く巻き付くようにするりと相手を抱く。


心酔しているといえば、そうかもしれない。
けれども、どこで道を違えても今は無かったと思っている。

求めれば与え、己もまた相手を助けることが出来る。
それが今自分の幸せであると笑む。

「…我慢は出来ますよ。私は兄ですからね?」

我儘を言っては、子供たちに申し訳が立たないのだから。

アガート >  
シンシャの手や腕がくれば、これもまた朗らかに笑んで受け入れる。
もちろん大丈夫ですともと伝えるように、ぽんぽんと軽く叩き返した。

この司教と副司教は、背の高さも見た目の若さも、そこまで大きく離れる差は持っていない。

ただ、出自やそれまでの人生を振り返ると、それぞれに抱えるものは悲しくもいびつだ。
それを補う術(すべ)は、共に<家族/他人>から学んでいる。
誰でもそうであると信じているし、誰へでも学ばせられるようにするのが、この教会の役目のひとつ。

顔を戻し、腕時計をちらと確認する。

「さて、日も暮れてしまいました。
 どこも冬は陽がかげるとなれば速いものですね。星の位置は変わると言うのに」

また少し室内の温度を上げておかねばと、シンシャごと移動する。
むしろシンシャを巻き込んで移動しているというのが正しい。
大の男で2人で汽車ごっこである。車掌?私ですとも。

「子供たちが戻って来て騒がしくなる前に、一服しましょうか。
 焚き火に薪も増やしておかねばね」
 

シンシャ >  
大の大人の汽車ごっこが始まると、くすくすと笑い声が転がる。
そのうちに幼少の子供が帰ってきたら、
後ろに後ろに連結して行くのが目に見えてしまった。

「あぁ、そろそろ薪は新しく割らないとですかねぇ。
 いつまでも持ち込みにも頼れませんし、
 こちらの木の具合も知っておかないとですね。」

そんなことを話しながら、居住地の方へと二人して移動していく。


宗教と信仰は人を助く。此処は家族の家。
蛇は輪を描き、他者を温かく家族として迎え入れるだろう。

我々は子羊に手を差し伸べよう。

我々が救われたように。

ご案内:「聖セサンタエル教会 常世支部」からアガートさんが去りました。
ご案内:「聖セサンタエル教会 常世支部」からシンシャさんが去りました。