2020/09/27 のログ
ご案内:「常世渋谷 常磐ハイム 久那土会部室」に桑原 梅乃さんが現れました。
桑原 梅乃 > 久那土会の設備のひとつ、それなりの広さがある会議室。
そこに老若男女、十数名が集まっていた。

部長 > 「集まってもらったのは他でもない。
 君たちの中でももう遭遇している者がいるだろう、『朧車』の件だ」

中肉中背の青年……年齢は20代後半程度か。彼は違反部活《久那土会》の部長である。
招集自体が珍しいが、彼が部室に居るのも珍しい。普段は何処かに行っているのだ。

「あれが"表"にも影響を及ぼし始めているらしく、正式に討伐対象となった。
 勿論、我々にも協力要請が届いている」

活動内容が危険かつ秘匿されるべき情報を扱う故に、正式に認可の降りない違反部活であるが、
風紀公安・祭祀局などと秘密裏に連携しており、検挙の線上には上がらない。

「表立っての協力はできないものの、調査にも影響が出ている故、
 『朧車』関係の活動に特別報酬を設定することにした。
 部員以外からの買取にもそれは適用される」

久那土会はボランティアではない。
利益を追求しているわけではないが、維持費は必要だ。
協力の代わりに見返りを関連組織に求める返事をしている。

「今後の調査の安定のためにも、君たちには積極的に活動してもらいたい。
 ただし、通常通り、街に呑まれた人間が居る場合は救出を優先すること」

勿論これにも部員であれば特別報酬が付く。

部長 > 「それから、怪異電車『朧車』の情報は公にはなっていない。
 その名前と久那土会の名前を知っている者が接触を試みてきた場合は、
 特例として裏口登録を案内して構わない」

侵入の手引を行うのは久那土会部員の業務の一つだ。
風紀や公安、祭祀などもひとつのアプローチとして利用する場合がある。
今回の件にかかり、直接協力を求められる場合が存在するということだ。
無論、登録はともかく、利用はタダにはならないが。

「以上だ。なにか質問はあるか?」

桑原 梅乃 > 「はいぶちょー!」

すぐさま質問を飛ばすは、刀を携えた少女。

「今わかってる『朧車』の情報について教えて欲しいッス!」

部長 > 「ああ、そうだったな。各位のアプリに送信しておく」

言うが速いか、受付さんが手元で何かを操作すれば、部員のアプリに通知が入る。
機密情報も含まれているため、登録者には送られていない。

「この内の対処法の項目については、求められれば部員外にも伝えて構わない」

憑依型の怪異であること。除霊及び物理的破壊によって対処可能であることなど。
ただし相手が高速で走行する車両であるため、近接武器の接近戦は外部からは不可能だろう。

「今回の案件は《中規模》と指定されている。
 『朧車』そのものはB~Aクラスの脅威度となる。その辺の雑魚とは違う。
 各自注意して当たるように」

続く質問がないのを確認すれば、解散を宣言。部員たちは散っていく。

桑原 梅乃 > 「……電車か……斬れないことはないけど、分が悪いなぁ……」

魔術戦をするか、内部に侵入するしか無さそうだ。
厄介な相手である。ため息をついて、自分も今日の活動へと向かっていった。

ご案内:「常世渋谷 常磐ハイム 久那土会部室」から桑原 梅乃さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」にアリスさんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷」にアガサさんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷」にアイノさんが現れました。
アリス >  
途切れ途切れの意識が覚醒していく。
枕元の目覚まし時計を確認しないと。
そうして手を伸ばして、何か柔らかいものに触れたことに気付く。

アイノの足じゃん。

あれ……どうして私、制服姿…………?
確か、常世渋谷にいつもの親友三人組で遊びに来てて…

「ん………」

起き上がると、風を感じる。
私達はどういうわけか、走る列車の貨車の上にいるらしい。

「えっ!?」

起き上がって周囲を見渡す。
ちょうどトンネルを抜けたらしい。
異界の色彩としか形容しようのない、ビビッドカラーの景色が流れていっていた。

木々も、レールも、空も!!
ぜーんぶ変な色!!

「ふ、二人とも………?」

アガサ > 視界を開く。どうして?私達は3人で常世渋谷に遊びに来ていたのに。
眠ってなんかいやしなかったじゃないか。うっかりしていたな。
そう、暢気な事を考えて瞼を擦り、上体を起こす。

「──なにこれ」

──嫌な感じだ。
──否な感じだ。
──厭な感じだ。

"いつかの館"と同じだ。同じものを感じた。
則ち理外の理に満ちた怪異の世界だ。
私の思考を整然と乱し、耳朶に幻想の声を届けるものだ。

でも、大丈夫。幻想は幻想。想像を憑拠にした妄想に他ならない。
だから聴こえる先輩達の声は軋んで判然としやしない。
私は大丈夫。大丈夫だとも。
アリス君の声だってするじゃないか。
アリス君の声はちゃんと聴こえるじゃないか

「此処に居るよアリス君。アイノ君は……」

暗い中で手を彷徨わせると何か柔らかいものに触れた。
目を凝らすとアイノ君の腕であることがわかり、一先ずと安堵のため息を吐く。
トンネルを抜けて真実異界であることに気付くと、そうしたものは吹き飛んでしまうけれど。

アイノ >  
なんだか久しぶりだな。
渋谷を歩いているときに抱いた感想はそれだけ。

最近は激短ショートパンツにチューブトップだったり、下着が見えるレベルのミニスカートだったりと、クソがつくほどの小悪魔衣装を好んで身に着けていたけれど、今日はそういう気分にはなれなかった。
それなりに落ち着いた(彼女比)格好に身を包んで渋谷である。
一番浮かれていたのが彼女である。

「いやベタベタ触んな、そこ太腿だから。
 アリスのえっち。
 ついでにアガサのスケベ。」

気が付くのも同時かよ。自分の心の内でツッコミを入れれば、身体を僅かに起こす。
周りに見える光景は明らかに異質で、異形で、異様だった。
だからこそ、少しだけ眠そうにしながらも、フン、っと笑ってやって。

「いつの間に趣味の悪いテーマパークに来たっけ?
 エレクトロニクスパレードだっけ。 ま、どっちでもいいけど。」

動揺はしている。掌はじっとりと湿っているが。
あくまでも余裕の表情は崩さない。 "そういう立ち位置"だ。
 

朧車 >  
そこには、餌があった。
いつもの。食べ慣れた。
ニンゲンに味方して現世に送り返そうとする列車。

いつものように後ろからバリバリ食べようとすると。

最後尾の貨車に。
ご馳走が。ニンゲンが。乗っていた。

我は鉄道に顔がついたようなシルエットの怪物だ。
我はこの島で最も新しい伝説だ。
我は。

ニンゲンを。
食う。

「宇宙人はぁぁぁぁ!! 非科学的な方法で地球に来ているぅぅぅぅ!!」

そうだ、確かこれがニンゲンの言語。
思い出してきた……わかる。
貨車の後方から迫りながら。大喜びで。

「靴紐を切るエネルギーで煮切り醤油をイノベェェェェェェション!!」

我はレールに沿ってニンゲンを載せた列車に体当たりをした。

アリス >  
親友たちの無事を確認して胸を撫で下ろす。
どうやらみんな、今のところ大丈夫なのかな。

「エッチって初めて言われたわ……」
「アガサ、大丈夫? どうやらここ……噂の裏常世渋谷みたい」
「私の不運も極まってきたわね……」

軽口を叩きながら流れる景色を見ていると。

後方から迫る何かがある。
怪物だ。何か意味のわからないことを叫びながらこちらへ迫ってきている。

「いいニュースと悪いニュースがあるわ……」

息を呑んでその場に掴まるための棒を錬成する。
重たい錘もセットで、列車が揺れても簡単には落ちないように。

「いいニュースは変な色彩が少しずつおさまってきてる」
「あと少しでこの世界から抜け出せるみたい」

ぎゅ、と掴まるための棒を握って。

「悪いニュースは……アレをなんとかしないとその前に全滅ってこと!!」

激しい揺れが襲ってきて。
鉄道に火花が散る。

「ううっ……空論の獣(ジャバウォック)!!」

貨車に備え付けのガトリングガンを錬成する。
最大火力で打ち倒すしかない!!

「アガサ、アイノ!!」

呼んだ。信頼する友の名を。
そして比較的音少なく、戦闘機から地上を掃射する機関銃を速射した。

アガサ > 「ついでにってなんだよう!私が触ったのは腕じゃないか!
 ……それとも他の場所を触られた?」

頬を風船のように膨らませてアイノ君に抗議だってするけれど、
もしも何かが彼女に触れたのだとしたら大変だ。
既に、傍までそうしたものが近づいている事を示して──

「な、なに!?」

──それどころじゃないものが居た。
言葉を意味の通らない音として放つもの。
大音声の衝撃もそのままに激突を貨車にかけてきて、
けれども私の体は放り出されなんかしない。
私がそうしたいと思うなら、私の二の足はいつだって地に足ついてくれるんだ。
それが私の異能。

「もしかしたら期待させる罠かもしれないよアリス君。油断はしないでいこう。
 どちらにせよ、あの奇妙な怪物はどうにかしないといけないけれど……」

この一年間自分なりに出来る事はしてきた
次が無い事を願って、次に備えて来た。
だから大丈夫。それにアイノ君だっている。
私達は三人揃えばなんだって出来る。

心裡にそう決めて、拳を握る。

「動きを止めてみせるよ──Dweud.《此処に言葉在り》」

右手に灯るは青白に煌めく魔力。停滞を齎すマイナスの魔術。
呪詛とも呼ばれる旧きもの。

「──Lluosog paratoi cwblhau《地に水無くて木々は枯れよ》」

左手を添えて狙うは強かに速射を受ける怪物……の車輪。

「Rhoi colli teimlad──Nod!《火に風無くて猛る事能わじ!》」

光の矢が過たじと狙い撃つ!

アイノ >  
「なんだありゃ。」

喜色満面といった声色が響き渡り、強烈な衝撃が貨車を襲う。
こちらはただの自分の運動能力でなんとかするしかない。
小柄な身体がぽん、っと跳ねるが、地面にへばりつくようにしがみついて、落ちることは何とか避ける。

「ってーことは、時間制限があるってことか。
 アイツに、誰にケンカを売ってんのか分からせるにはさぁ……!」

ギロリと後方を睨みつける。
ハナから逃げきることは期待していない。相手を潰せば勝ちだ。


ちょっとだけ、高揚していた。
二人が恐ろしい館で過ごした話は聞いていた。
そこで大きく傷ついた話もまた、聞いていた。
ずっとずっと思っていた。 なぜその場に私はいなかった。


「ぶっ潰してやる。」


今はいる。 それだけで心が満ちる。

双眸に光が灯り、全力を出す。脳が頭の中で高速回転して、ぐつぐつと煮える。
こちら側の貨車から、軽自動車ほどのコンテナがゆるりと浮き上がる。

「質量には質量さ。
 お前にゃ私みたいな美少女よりも、コイツの方が、似合ってんだろッ!!!」

それが、唸りをあげて異形の列車の顔面へと放たれる。速度こそ出せないが、自動車を真正面からぶつけるようなもの。
自称美少女、中指を立てる。
 

朧車 >  
鉄の暴風を前面に受ける。
車輪に呪詛を受ける。
顔面にコンテナが落ちる。
動きが鈍り、一瞬追いすがる速度が落ちる。

面白い。
これほどの力を秘めたニンゲンは初めて食べる。
三匹とも上手く食べられたら、自分はどんなに良い影響を受けるだろう。

「魚ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

激しく体当たり。
転がり落ちてきたガトリング砲を台座ごと食べる。
そこに乗っていたニンゲンはいない。

「緩やかな流れの中を遡上する電信柱ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

朧なる火を無数に放つ。
それは放射線状の軌道を保ったまま三人に襲いかかる。

焼いたニクも悪くない。

アリス >  
呪詛の矢を放つアガサの言葉に半ば叫ぶように答える。

「罠だとしても降りるわけにはいかないわね!!」

この列車は走ってるんだから。
今は乗り続けるしかできない。

「アイノ………!?」

完ッ全に! キレてる時のアイノ!?
コンテナを放る彼女に、頼もしいと思いながらも。
今は。

さらに加速して化け物鉄道は突進してくる。

「!!」

転がるようにガトリング砲から降りる。
足場ごと設置した箇所が剥がれて落下する。
それはガリゴリと音を立てて貪られた。

乗ったままなら、私も齧られていたわけね……
ゾッとする。怖気が……

アガサの前に立ってシャッターを錬成。
アガサを守りながら幻影の炎を防ぐ。

「アイノ!!」

シャッターを消しながら。
アイノに向けて無数の鋼鉄の板を空中に錬成する。
彼女の能力なら、これを操作すればあの火を防げるはず。

心を奮い立たせる。
決めたのよ……あの館を乗り越えてから…
強くなるって……友達を守るって…………
誰にも、アガサとアイノを傷つけさせないって…!

「決めたんだあああああああああああぁぁ!!」

無数に周囲にドローンを作り出す。
いつもはコントローラーで操作して相手にぶつかる瞬間に爆破するものだけど。
今回は風に流れて勝手に相手に当たるから楽。

「ブラァスト!!」

相手に当たったドローンを構成を変えて爆破する。

「ブラストブラストブラストブラストブラストッ!!」
「ブラァァァァァァァストッ!!」

力の限り、あの怪物を攻撃してやる!!

アガサ > 耳を劈く銃声を更に上回る轟音を鳴らすコンテナが怪異に直撃する。
必然、コンテナ/大質量は異界を上塗りするような騒音を鳴らし、相手が列車であるならばそれで済んだに違いなかった。

「アリス君!」

そうではなかったから、そうはならずに怪異がコンテナの残骸を振り切るように再激突。
視界の隅で転がる親友に声をかけるも、肝心の視界が判然としてくれない。
何故なら飛び散る火花と魔力の残光が入り交じり、それらを受けてコンテナが巻き上げる塵芥が幻想的な煌めきを作るから。
こんな時でもなかったら、見惚れることだって出来た色彩──を打ち消すように火炎球が──

「あっぶなあ……ありがとう……なんというか、随分と乱暴者さんみたいだね」

届かない。
炎は阻まれて爆散し宙に火の粉が舞う。塵芥が折よくも焼かれて視界良好。
視線の先に、口角に泡と奮戦するアリス君だって良く見える。

「何を決めたのかは、後で教えて貰うとして──あれ、弱点とかあるのかなあ!」

平時であるように笑んでから、視点を俯瞰させ意識に集中を、培った物事を紐帯にしてみせるのは今。

「Nesaf cysylltiad《次弾装填》」

短縮詠唱。
再度光が右手に灯り自爆特攻をかけるドローン群の間隙を縫うように狙う。
今度は車輪ではなくて怪異の口。理路整然と道迷うその口を封じんと光の矢が断続的に射出。

私には所謂攻撃力は無い。それでも、出来る事をしなければならない。
助けられるだけじゃあないところ、見せてやるんだ。

アイノ >  
「ぁう、っと………っ!!」

攻撃に全振りしていたから、衝突の衝撃でまた転がって。
危うく落ちそうになりながらも、すんでのところで踏みとどまる。

「サンキュー!!」

阿吽の呼吸は、伝わらない。

巨大な鋼鉄の板、無数のそれが生み出されれば、そのうちの一つに足をかけて、ぶわり、っと空を飛ぶ。
二人とは距離を保ちながらも、2mほど上空に浮き上がって。
その周囲に鋼鉄板が舞う。

炎の上を鋼鉄板のサーフボードで滑りながら。
攻撃はしない。

彼女の周囲の鋼鉄板が、ぐるん、ぐるん、ぐるん、と回転を始めている。
その速度は、それこそ列車の速度かのように、次第に回転を強めて行って。


「………気をつけろよ! 何かまだやってくるぞ!」

叫びながら、ぐい、っと鼻血を拭う。
久々に使い過ぎた。脳とかいろいろ焼けてる。
最初に使ったときは、バスを止めていろいろ血が出過ぎた。
コンテナに、鋼鉄板をたくさん。

ああ、"楽しい"。

上空を舞いながら、唇の端を持ち上げる。
 

朧車 >  
爆破が。来る。
何度も何度も飛行物が襲いかかってきて。
その都度爆破されてしまう。

「空走る怒りの日───」

光の矢が口を縫い止めるような。呪詛。
喋れない。食べられない。
それが内なる怒りを誘発する。

餌は何か鉄に乗って空に逃げている。
どうやればあれが落ちる。
どうやればあれを食える。

朧車から、大きくジャンプして。
無数の怪異が乗り込んでくる。
それらは鳥獣戯画に出てくる絵のようにシンプルで。
烏帽子をつけたカエルやウサギのような。

小型の驚異。

我は妥協する。
多少ばっちくなった死体でも。
あいつらの食べ残しでも構わん。

我は執念深く。
凄まじい数の怪異たちがアガサとアリスに対し。
小型の槍や草刈り鎌を群がるように振るい始めた。

アリス >  
「そうきたかー」

アイノは私の作った鋼の板に乗って空を泳ぐ。
さすがの異能。さすがの出力。

両手を前に向けたまま連鎖爆破を起こす。
その後のアガサの言葉に。

「後で教えてあげるわ」
「弱点はわからないわ、でも周囲の景色がだんだん明る……」

瞬間、何かが貨車に降りてきた。
それは可愛らしい。それでいて、殺意に満ちた得物を携えた。
怪異だった。

「なになになにこのなに!?」

投網を錬成してまとめて捉えようとするも。
私はこういう小型の相手、苦手なのよー!!

痛み。走って。足を突かれた。槍。
血が……足から流れた。

「て、撤退!! 後ろの客車!!」

客車に続くドアを開いて、アガサを呼び込む。

「アイノも無理はしないで!!」

アガサ > 景観が切り替わり行く。
夜が明け朝日が昇るかのように日常ならざりき風景が慣れ親しんだ色相を取り戻していく。
けれど、先程アリス君が言ったことを裏付けるように怪異の勢いは増すばかりだ。
私達の攻撃は"効いてはいる"。現に怪異の口を封じる事が出来たのがその証拠。

「効いてはいる!何処かに弱点でも都合よくあれば……!?」

攻撃は無駄じゃない。それは少なくとも戦意とか、そういうものを失わない為に必要な認識らしい。
だから私は二人に伝えるように叫んで、けれどもその語調は当惑気味に跳ねた。

「ちょ──Mae'r llygaid cael un Iaith mhob man!《視線よ示せ!》」

絵姿が動く様は滑稽で、けれども一様に気配がおぞましいもの。
私は両の手に呪いの光を灯らせて群がるものを弾く。
触れ行く怪異は絵に戻ったかのように制止され静止して落下し、勢いのまま外に転がり落ちてゆくけれど。
これは視線に呪術的な効力があった頃の術ってやつ!

「痛ぁ!、だ、だめだこれ!数が多いよ数が!」

でも、多勢に無勢だ。
飛び跳ねる兎が手にした鎌で腕を裂かれて痛みが走る。ケープが裂かれ白いブラウスに赤色が滲む。
集中が途切れかかる──ところで、アリス君に手を引かれて客車へと退避。
次いで飛び込まんとする兎を光弾が叩き落とす。

「アイノ君も!」

扉は閉めない。アイノ君には何か作戦があるようだから、今しばらくは踏み止まる。
幸いに小動物群は素直に扉から来てくれるから、私は順ぐりに撃つだけでよかった。

「弱点、解らないなら大出力で一気に……しかないかな。
 随分力技だけど、3人寄れば文殊の知恵ってやつ、見せ所かもしれないよ!」

アイノ >  
「クソ……ッ!」

じっくり時間をかけて、鉄板を高速回転させ、巨大丸鋸にして叩きつけてやろうと思っていたが、どうやらそんな時間は与えてくれないらしい。
アリスとアガサに赤いものが滲むのを見て取れば、カッ、と頭に血が上る。
上空から回転する板を一気に持ち上げて。

「アガサ、そこから離れろッ!!!」

全力で、列車の連結部に巨大な鉄板を縦に回転させて叩きつける。
怪異の腕だけを吹っ飛ばしながら、列車の連結部を叩き切って乗っていた貨車部分を切り離す。

「私は、ここっ!!」

だん、っと客車の屋根の上に着地しながら、回転する鋼鉄の板じゃ自分の周囲に3つだけ。

「大丈夫!?
 逆にあいつに乗り込んでやろうと思ってたけど、あんなのが山ほどくるなら、ちょっと困るな!
 全力で先頭まで走って、残りの車両切り離してぶつけるとか!」

屋根一枚を隔てて。客車内に二人、天井に一人。
扱う武器のサイズが可変できないから、客車内にいると十全に力が使えない。
猫耳パーカーをばたばたとはためかせながら、姿勢を低くする。
 

朧車 >  
呪詛を解く。いつまでも口を封じられている我ではない。
バギィと音を立てて口を開くと、貨車に噛み付いた。
バリバリと音を立てながら切り離された貨車の後半を噛み砕く。

ドアを開けないと悟った小型怪異は我の中に跳び乗って戻る。
だが良いぞ。これは良い。
追い詰めて、追い詰めて、先頭車輌ごと噛み砕いた時。

あのニンゲンたちはどんな悲鳴を上げるのだろう。

「ティースプーンと綿棒のハザマにある絆ぁー!!」
「魚醤、魚醤、魚醤の擂粉木、プラスマイナスカードの代引き!!」
「人形堺の鏡面地獄のドライブジュエエエエエエエエエエエエル!!」

喚きながらバリバリと。バリバリと。
貨車を食べた。

アリス >  
「今日は厄日ね……!」

客車の中じゃガトリング砲は作れない。
外が上手く見えないからドローン戦法も無理。
さて、どうしよっか。

「アガサ、傷は大丈夫?」

足に適当に錬成した止血材を貼る。
アガサの腕にも包帯を巻いておこう。

「アイノ、それだわ…冴えてる」
「ただぶつけるんじゃなくて、爆発物を満載にした客車をぶつけましょう」

「それじゃ私、ここに爆発物を錬成する係ー」
「足止めする係とこの客車を切り離す係ゆる募ー」

冗談っぽく言いながら、足の痛みを堪えてありったけの爆弾を錬成していく。

「ゆる募締め切りー、今すぐ動いてくださーい」

ふと、自分の顔に触れると。表情が強張っていた。

アガサ > 「せーえーの!」

連射、連射、魔力を呪力に変換する言葉を紡ぎながらに矢や弾と化した光を撃って打って、
それでも入り込もうとする小動物に、怪我をしていない右拳に呪いを込めて打ち込んでやるんだ。
大丈夫。まだ出来る。まだ。このまま水際での阻止を──と、思った所で外からの声。

「離れるよー!って何、えぇ!?」

慌てて下がるのと巨大な鉄板が視界を塞ぐのは同時。
金属同士が擦れ合う不快な音が火花を立てて、その音源が怪異へと激突する。
するけれど、結果は同じだ。怪異は大した健啖家ぶりを示し、呪いに打ち克ち妄言を散らす。

「大丈夫!だけどアリス君が足を……!」

アイノ君と屋根越しに互いの無事を確認し合う。
けれどもアイノ君の提案を十全にこなすにはアリス君の足が気になった。

「私よりもアリス君の方が……大丈夫?走れそうかい?」

腕を案じてくれる様子に問う。
けれども親友は意気軒高に提案を飲み、これから何をして遊ぶか提案するかのように声をあげる。
でも、その顔/かんばせは──

「……アリス君。大丈夫、大丈夫。だって君は私のヒーローだもの。
 いや、今だと私達のヒーローかな。ともあれ君はなんだって出来るよ。
 で、ヒーローって大概重荷だろう?だからさ、そうした不安は私達が持ってあげる。
 アイノ君だって十分にカッコイイじゃんか。私?私はまあ、そうでもないけれど」

アリス君の頬に触れる。雀斑一つ無い綺麗で白い肌を、揉み解すようにして唇を緩める。

アガサ > 「遊園地でした約束は忘れてないよ。私は"ルールブレイカー"。横紙破りは任せてくれたまえ!」

それで手を離し怪異を視る。視線は口程に物を言い、今にも射らんとした。

「──Pob un o'r cydgyfeiriant perfformio gyflym《──山野に耳あり湖沼に眼あり》」

両の手を合わせ、紡ぐ。
灯る光は青白から紫へ。

「──Dweud.《此処に言葉在り》」

そして、黒。
目にものみせてやらんと弓引くように腕を引く。
客車内に怪異ならざりき呪いの輝きが満ちゆくばかり。

「Nid ydych wedi clywed unrhyw beth eto!!《遠からん者は音にも聞け!!》
 Nid ydych wedi gweld unrhyw beth eto!!《近くば寄って目にも見よ!!》」

魔術とは魔的なる術。道理を踏み拉いて無理を通して定法を破壊し魔法を為すもの。
私はどうであれ、道を往くものであるから。どうであれ地に足をつけられる。

「Gyfraith hon nid oes modd i wrthsefyll. Mae eich trechu hefyd Benderfynedig!!《我が言葉の前に抗う術は唯一つの例外とて存在せず、汝の敗北もまた必定なり!!》」

だから狙いを過たることなんてない。そんなルール。忽ちに破壊してしまえるのだから。

「Gyfraith newid, Bydd synnwyr cyffredin diflannu nen──Rhoi colled!!《私の声は、貴方の容を認めない──縛られよ!!》」

私の言葉は夜闇の如き光となって宙に呪いを眩く刻む。
受けたるものの一切を閉じる最大級!

「アイノ君、アリス君、花道って奴だよ!!」

だから、私は二人のヒーローを信じるだけでいい。
快哉の声一つあればいいんだ。

アイノ >  
「オッケー、アガサ、いざとなったら抱えて走れよ!
 今は私がいるからさ。
 なーにがあっても大丈夫だって。」

怪我の具合は分からない。
分からないから、ぐ、っと唇を噛んで堪える。
集中しなければ、3つもの鉄板を動かし続けることはできない。

右の掌の先に、左の掌の先に。鉄板が2枚。
それぞれ、回転が既にかなりの速度へと変わり、円状に見えるほど。
風を切る音は轟音となり、彼女の周囲を丸鋸が自由自在に飛び回る。

もう1枚は、自分の後ろ。こいつは回転せずに飛ばすだけ。予備を抱えて戦うことは、珍しいことじゃない。

風が強い。二人の声はあまり聞こえない。

「全力で走れ! できるだけ遠くに走れよ!」

叫びながら、右腕を相手目掛けて振り回す。
回転する丸鋸が唸りながら動きの止まった朧車を袈裟懸けに切り裂き。
僅かに拘束から逃れようとした小型怪異をバラバラに引き裂く。
怪我をしたアリスの分、時間を稼いで、アガサとアイノが走って、次の車両に移ったことを確認する。


「………コイツは。」
「私たち三人からの、特別な、プレゼントだッ!!!」

今度は、左腕を一気に振り下ろせば。
自分の身長をゆうに2倍超えるほどに火花が立って、巨大な丸鋸が列車と列車の連結部を引き裂いていく。
ぶつけるはずの車両に乗ったまま、切り離すまでにぶつけられることを避けるように牽制を続けて。