2020/09/28 のログ
朧車 >  
バリバリと貨車の連結部を噛み砕いて。
次に客車に噛みつこうとした直後。
我の体が。封縛された。

何が起きているのか理解できない。
車体の隅から隅まで鉛を流し込まれたようだ。

動けない状態で体を切り裂かれる。
丸鋸が有象無象の雑魚怪異諸共我を裂く。

許せない。何もかも食らってくれる。
骨まで食んで、我の体を再構築する材料にしてくれる。

目の前に、客車が来た。
あの屋根の上にいるニンゲンを。
ニンゲンを。体さえ動けば。食べ───

アリス >  
「大丈夫、走れるわ……」

アガサ……アイノ…
私がヒーローであるなら。
あなたたちを守るのが私のやるべきこと。

違う。私のやりたいこと。

頬に触れられると。その温もりを守りたいと。
心の底から思った。

「私だって忘れてない………」
「だから私は決めたのよ」

「何があってもあなたたちを守るって」

頃合いを見て走って逃げる。
連結部を切り離された、爆発物を満載した客車がゆっくりと化け物に向かう。

でも。

「アイノ!?」

アイノが客車に乗ったままだ!!

「後は私がやるから!! 戻ってきて、アイノ!!」

離れていく彼女に。手を伸ばして。

アガサ > ──息を吐く。
多節に及ぶ長句からなる魔術は当然と魔力を使う。
足元が揺れて、そんなルールを今ばかりは無視をしてアリス君と共に前の車両へ移動した。
そこで、焼けた鉄板に乗せられた氷のように頽れて客車の床に座り込む。

「……!」

怪異は動かない。緩やかに進む客車/爆弾が激突するまでは十分に呪いは持つ筈だ。
けれど、アリス君の言葉でアイノ君がまだその屋根上に居る事を知る。

「アイノ君!」

離れ行くアイノ君に手を伸ばす。
壁を手に立ち上がり、凭れて尚伸ばす。
景観が朝焼けめいて客車の屋根に立つ親友を照らしていた。
アリス君に負けないくらい鮮やかな金色の髪。
アリス君に負けないくらいヒーローで、無茶をする君の色。

「いいや、後は私達でやろう。今も後も、私達3人なら!」

なんだって出来る。でも無茶ばかりは駄目ってもの。
3人で協力をしたのだから、見届けるのも3人で。無事に帰るのも勿論3人。
私は、そういうものが好きだから。

アイノ >  
「私が欲しいかよ。」

化け物の視線が、殺意が、まっすぐにこっちを見ていることが分かる。
食いたい、喰いたい、貪りたい。
悪意と殺意が風と向かい合うように叩きつけられて。
ぺろりと唇を舐めた。

「私一人なら食えただろうよ。 残念だな。」

ふん、と鼻を鳴らし嗤う。

「私は。」
「"飛べる"んだよ。」

最後にとっておいた一つの板。それにふわりと飛び乗れば。
己の念動力で浮かせながら、その車両から離れて。

「私は大丈夫だ、やっちまえ!!」

叫びながら降下する。
懸念はある。 爆発物の量なんて、加減できるわけもない。

残った3枚の鉄板を、まるで盾のように自分の前に翳して。

「伏せろッ!!」

爆風から二人を守ろうとする。下手したら、こっちの列車も浮き上がって吹っ飛びかねない。
 

朧車 >  
気付いた。我は。ようやく。
これは罠だ。毒の盃だ。
これはイタイものが詰まっている。

「伊予柑サイコジャーニィィィィィィィィッ!!!」

止まるべきか。退くべきか。
空を舞うニンゲンを、憎々しげに睨んで。

アリス >  
浮き上がるアイノ。そちらに意識が集中すれば。
これ以上の機会はないように思う。
でも、客車から近い。私が仕掛けた爆発物の量は。

「アイノッ! アガサッ!! 無事で───」

それでも信じる!! 親友を!! 親友たちを!!
手を前に突き出し、拳を強く握る。

内部で爆発が起き、白い閃光が満ちて。
 
 

悪夢の全てが吹き飛んだ頃。
先頭車両から声が聞こえてくる。

『続いて、現実。現実ー』

どこか気の抜けた声を聞いた直後。
私達は負傷したまま。
交差点を渡った場所に立っていた。

「二人とも……?」

友達を探す。呼ぶ。そのまま足の痛みに蹲って。
もう、レディーの足に傷が残ったらどうしてくれる。
文句を言う相手は、あの世界で吹き飛んでしまっているだろうけど。

アガサ > 降りて来るアイノ君に手を伸ばし、掴んで、引き寄せて。
自然と彼女に覆い被さられる形となった直後に今日一番の音が鳴り、光が眩く視界を覆う。


──
───
────

その中で、どこか気の抜ける声を聴いた気がした。

「……はっ!?」

気が付けばそこは交差点。間も無く日も暮れる賑やかな常世渋谷の一角。
足元には私達が楽しんだショッピングの成果が詰まった紙袋が落ちていて

「っ……夢じゃない」

次には左腕の痛みに顔を顰めた。
けれど、雑踏を行く人々の騒めきへ自然と身体が動いた。
まるで全力疾走をした時のように疲れているけれど、まだまだ、倒れる訳にはいかないからね。

「大丈夫?アリス君。……立てるかい?」

なんてことのないように、アリス君に手を差し出す。
それからと視線が周囲の人達を視た。
アイノ君は何処だろう。

アイノ >  
引き寄せられれば、二人の上に覆いかぶさって。
そこからの記憶は何も無いけれど。
ただ、苦悶の絶叫が背中側から鳴り響くような気がした。

でも、自業自得って奴だよな。
悪魔を食おうとしたんだから。



「………ほら、行くぞ。
 持ってやるから。」

まるで何事も無かったかのように、外傷は唯一無い少女が紙袋を全て拾い上げて。
顎で、くい、っと先を示す。
二人とは別に、僅かに早く目覚めていたのか。
ただ、ちょっと能力を使いすぎているのか、頭痛が激しく、目は真っ赤だ。
鼻血は自分で拭きました。
それでも、無事に3人戻ってこれたことへの満足感の方が、若干勝る。


「……どうやらコイツが戦利品。」

ポケットから手を引き抜けば。
二人に見せるのは不思議な……文字化けをしている不思議な漢字で印字された、電車の切符。
見る角度を変えると、エラーの出た端末の画面のように、文字が変化する。
色合いも先ほどのビビットの色をしていて、明らかにこの世の物ではない、それ。


「………また来いってさ。」

は、っと笑う。
切符をポケットに入れ直して、ふん、と鼻で笑って。

「帰ろう。送ってくよ。」

紙袋を持ったまま、振り向いて笑う。
金色のツインテールが、大きく揺れた。

無事でよかった。 ってのは、ちょっとばかり照れくさかった。
 

アリス >  
アガサの心配する声が聞こえてきて、顔を上げる。
心の底から安心して、彼女の手を取る。
何とか立ち上がろうとして、止血材が剥がれた傷を見る。
……思ったより深い。目眩がした。
でも立つもん……あんなのに負けてないもん…

「アガサ……今度は、守れたかな………?」

あの時は。彼女の心を守りきれなかったから。
アイノがやってくると。
彼女の言葉に大仰に肩を竦めて見せた。

「血だらけのスカートの私と血まみれの服のアガサは、まず風紀を呼ぶべきなんじゃないの?」
「アイノも……まず治療が必要でしょ、その目」

手鏡を錬成して渡して。
ああ、もう。とんでもない目にあった。

「ありがとう、アガサ。アイノ」
「私一人じゃどうしようもなかったわ」

アイノがポケットから不可思議なものを取り出したのを見て。
私もポケットに手を突っ込む。
……同じものが入っていた。

「はぁ……髪もボサボサ、傷も痛いし、サイテー」
「でも」

「みんな生きてる」

その言葉を言うと、ほんの少しだけ笑って。
風紀の人に伝えられたのは、朧車という存在のこと。

この街は……まだ未知を隠している。

ご案内:「裏常世渋谷」からアリスさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」からアガサさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」からアイノさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷」に池垣 あくるさんが現れました。
神代理央 >  
さて、無事に1体目の『朧車』を討伐した翌日。
続いて上司である神宮司から命じられたのは
『新入委員を連れての怪異討伐』
であった。

それは幾ら何でも無理が無いかと首を傾げるばかりであったが、話を聞いてみれば最前線を張る委員の訓練も兼ねた討伐任務、とのこと。
……いや、それでもやはり無理が無いだろうか。
まあだからこそ、朧車との戦闘経験がある己がバディに選ばれたのだろうが。
それに、今回選ばれた新入委員には、己も縁が無い訳でも無い。
というか――風紀委員に勧誘したのは、己自身だ。


「さて。此処が所謂『裏常世渋谷』になる。
今回の目標は怪異・朧車の討伐。
詳細な資料は祭祀局から提出されたものを熟読しておくように事前の指示があったと思うが…大丈夫か?」

裏常世渋谷へ侵入する為の道具を用いて、ごく普通の交差点から霧の濃い無人の意空間へ。
無事に裏常世渋谷への侵入を果たせば、後に続いているであろう後輩の方へ振り替えり、小さく首を傾げるだろうか。

池垣 あくる > 「はい……ちゃんと、読んでおきました……」

こく、と頷く。
戦闘訓練を兼ねての怪異討伐、故に関係があり尚且つ討伐経験もある先輩と一緒。
ということで、ちょっと張り切っている槍使いガールあくるである。

「(怪異討伐は、霜月に関わる者の、家業のようなものですし……経験が、活かせるかもしれません……)」

ついでに先輩にちょっといいとこ見せたいなとか考えていたりもする。ふんす。
少し鼻息を荒くしつつ、くるりと槍を回して。

「今回の怪異……『朧車』は、列車が何者かに憑依され怪異と化したもの、です、よね。霊障案件での基本である霊的なアプローチ以外に……実体があるから、物理攻撃も通る、というのが特徴の一つだったはず、です。確か、乗り込んで内部にいる原因霊障を退治することも可能、とか……でも、戦闘能力は高いので要注意、その性質も多様、とありました」

読んできましたアピールで記憶している内容を口にする。
だがその後、わずかながら凄絶さを宿した笑みを浮かべて。

「――多様性で、神槍『天耀』に敵うものはありません。楽しみ、です」

神代理央 >  
きちんと資料を読みこんできた、と告げる後輩の姿に満足そうに小さく頷く。
一から怪異の説明をするのは、流石に面倒であるし。

「仕事熱心で何より。そして、朧車についての認識は大凡それで構わない。
平たく言えば、列車をどうにかしてぶち壊してしまえば良い、というだけの話だ。外からでも中からでも自由にな」

攻撃力については、疑いようのなく強力な怪異である。
しかし、防御面については――祭祀局からの報告も。昨日己が戦った個体も。
"普通の列車"から逸脱し得ないものであった。

「従って。池垣が朧車と相対する場合に先ず考慮すべき問題は、敵の速度と質量と大きさ。
逆に言えばそれだけだ。其処にだけ気を付けていれば、容易いとまではいかずも大怪我する様な事にはなるまい」

そして、自信――というよりも凄絶さを垣間見せる笑みを浮かべる彼女に。
クスリと小さく微笑んでその頭をぽんぽんと撫でようと腕を伸ばす。

「楽しむのは良いが、あくまで任務である事を忘れるな?
表の世界に出てしまえば、それ相応の被害をもたらす怪異である事には間違いない。討ち漏らす事無く、討伐する必要があるのだから」

池垣 あくる > 「あっ……はい、はしたない姿をお見せしました……」

撫でられれば、ふにゃっと一瞬頬を緩めてから、ぷるぷると顔を振って表情を整える。
そして、頑張ります、とぐっと拳を握って気合を入れてから。

「速くて重くて大きい……それだけで、生中な強さなら圧殺してしまえるくらいの要素では、ありますね……」

速い。重い。大きい。
この三つは、とにかくそれがあるだけで強い、という要素と言える。
剛よく柔を断つ。
この三つが揃っていればそれだけで、多少の技術なんてものは不要なくらいに強力なのだ。
だが。

「でも、それだけなら、なんとでもなります」

自信をのぞかせながら、頷く。
柔よく剛を制す。
その純粋な『強さ』をいなし躱し制することが出来るのもまた技術。
槍の技術に関してあくるは、絶対の自信があった。

「ですから……見ていて、くださいね」

自信にあふれた、しかし凄絶さではなく人懐っこさを感じる笑みを、理央に見せる。

神代理央 >  
「その意気だ。まあ、何かあれば私が後ろに控えている。
今回は訓練を兼ねているから、基本的には池垣が怪異を相手取る事になる。
私はあくまでサポートと訓練の監察官に過ぎない。其処を良く理解しておくように」

気合を入れる様に拳を握る彼女を眺めながら、穏やかな表情で眺めながら手を離す。
とはいえ、任務の事を告げる時は真面目な口調。
万が一の事があれば勿論彼女の助けに入るが――基本的には、彼女個人で怪異を相手取る事に成る。

「そう。その三つを兼ね備えた怪異は十分に脅威である事は確かだ。
他にも、変形能力や機銃の様な武装を装備している事もある。
怪異の戦闘能力としては、十分に脅威度の高い相手だ」

「…しかしまあ、逆を言えば"それだけ"だ。
無駄に気負う必要も無い。
お前の実力は資料でしか知らぬが、相応に評価している。
後は、資料通りの実力を持っている事を、私に示してくれればそれで良い。
何よりお前の背後には――『鉄火の支配者』がついているのだからな」

ぱちり、と指を鳴らせば。
地面から湧き出る様に現れる無数の鋼鉄の異形。
背中から巨大な砲身を無数に生やした八本脚の多脚の異形。
両腕が巨大な盾と化し、昆虫の様な複眼を備えた大楯の異形。
それらが群れを成し、正しく『軍団』となって、二人の周囲を囲む。
人懐っこい笑みを向ける彼女に、異形の群れを従えながら矜持に満ちた笑みで応えるだろうか。

「ああ。お前の戦いぶり、しっかりと見させてもら――おや?」


言葉は、途中で途切れる。
霧の彼方。無人の街の、視界の届かぬ彼方から。
けたたましい迄の警笛が、響き渡る。

「…おいでなすった様だな。まあ、都合よく来てくれた、と解釈すべきか。
準備は良いか、池垣。此処からは実戦だ。
くれぐれも…怪我をしてくれるな?」

池垣 あくる > 「はい、わかりました。後ろにいてくださってはいますが、頼りにしてはいけない、ということですね」

あくまで、自分自身で相手取る前提で考える。
頼らないというよりは、甘えないという方が正しいだろう。
そう言ったところを汲み取りつつ、神妙な表情で頷く。
周囲に現れた異形の軍団は、一人で戦うと言っても、彼らがいると思えて気持ちが落ち着いた。
矜持に満ちた笑みを受け、穏やかな気持ちになりながら、しかし。

「――ええ、おいでになられたよう、ですね。見ていてください。私これでも……天才なんて、言われてたんですから」

そんな軽口まで叩きつつ、怪異――『朧車』を見る表情は真剣そのもの。
身にまとう雰囲気もまた、先ほどまでの、ともすれば気が抜けそうなものから、冷たく、ともすれば禍々しい圧を孕んだものとなっている。

「怪我することは、ありません。御手も、煩わせは、致しません。見守っていてくだされば……全て、全て貫いて、見せましょう」

構える。
ぱっと見では、槍VS列車では勝ち目はない。
戦闘機に竹槍で挑むよりは多少マシかもしれないが、同種同程度と言われても仕方がないミスマッチだ。
だが、それでもあくるに恐怖はなく。

「ばらばらに、してさしあげます」

ジリ、ジリ、とにじり寄る。必殺の間合いに入るために、ゆっくり、じっくり、確実に。

神代理央 > 「そういう事だ。私一人で対処してしまえば、池垣の訓練の意味が無い。
今回の主役は、あくまで池垣だ。其処を心に留めて、励む様に」

彼女の言葉にコクリと頷き、続く言葉に僅かに瞳を細める。

「……良い覚悟だ。では、お手並み拝見、といこうか」

構える彼女を見つめながら、此方は一歩身を引く様に。
遠くから聞こえる警笛音が、徐々に近づいて来る――

『朧車・喫煙専用車』 >  
「この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん。
 この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん。
 この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん。
 この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん。
 この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん」

槍を構えた少女に迫るのは、口元に巨大なパイプの様な金属を咥えた、しかめっ面の巨大な顔を生やした列車。
口元のパイプからは、毒々しい紫色の煙が絶え間なく吐き出されている。

「この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん
 この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん
 この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん
 この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん
 この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん
 この車両でハ、御煙草をお吸いになっテ構いまセん
 んんんんんんンンンンんんンンンンンーーーーー!」

その煙が、顔の『目』に当たる部分へと触れた瞬間。
狂ったような叫び声を上げ『線路』を彼女に向けて速度を増す朧車。
車輪が軋む不愉快な金属音と共に、彼女に迫る巨大な列車。
直ぐに対応しなければ――

池垣 あくる > 「――お生憎ですが、御煙草は、私、嗜みません。と言いますか、嗜んだら、怒られてしまいます」

その異様にしかし、一切怯むことなく、のんびりとそんな言葉を口にする。
とはいえ、にじり寄るのはやめ、待ちの構え。
そして、胸ポケットから一枚の符を取り出し、ぽつ、と呟く。

「金行、付与」

呟くタイミングと、朧車の突進のタイミングが、重なった。
唸りを上げ、猛突してくる巨大な車両に、ほんのわずか、構えなおすのが遅れる。

――轢かれる。

傍から見ればそう感じてもおかしくないタイミングで、しかし。

「『縮地天女』」

あくるの姿が、消えた。
否、目にもとまらぬ速度で右斜め前方に移動。
そして、すれ違いざまに、一閃。
パイプをくわえている口の端から、奥歯の方まで切り裂いた。

「ふふ……これでは、口裂け列車さん、ですね。ポマードポマード」

くすくす、と笑いながら、改めて槍を構える。
――裏で。

「(金行付与をしておいて正解でした、ね……流石に列車なだけあってそこそこ硬い、です。速度も、結構なもの、ですね)」

金行を付与しつつ隙を見せて攻撃を誘う手だったが、いささかリスキーだったと反省する。
そもそも、自分に負荷がかかる縮地天女を初手で切らされた時点で、想定の上をいかれているのは確かなのだ。
見た目ほどの余裕は、ない。

「(気を、引き締め直しましょう。そうしないと、かっこいいところを、お見せ出来ません)」

ちら、と理央を見やりつつ、深呼吸をして呼吸を整える。
そして、まずは、口を裂かれた朧車の反応を伺う。
そこから、次の手を構築する構えだ。

『朧車・喫煙専用車』 >  
「車内デの危険行動はおやめくダさい!
 車内デの危険行動はおやめくダさい!
 車内デの危険行動はおやめくダさい!
 車内デの危険行動はおやめくダさい!
 止め辞め止めやややややややや嗚呼あアアアア!」

切り裂かれる。我が身が切り裂かれる。
ワタシの証が。ワタシを利用し、ワタシの中で煙を吐き出し続けたニンゲンダヂ。
それでもワタシは、乗客を愛していタ。
仕事の話。家族の話。愚痴。自慢。哀愁。喜色。
様々な感情を、煙と共に吐き出スニンゲンたちを愛していた。

ああ、それなのに。それなノに!
ワタシの存在は許されなかった。
ニンゲンの健康を害する、と。
ワタシの中で煙を吐き出すなと。
ワタシの様に、煙を吐き出す事を是とする車輛は必要無いのだと。
ワタシハイラナイノダト!!!!

「次の停車駅はハハハハハハハハアはやあじゃjさおhふぉあf」

我が身を切り裂いたニンゲンは、きっとケンエンカというヤツニチガイナイ。
ワタシの存在意義を奪ったモノにチガイナイ。
ならば轢き殺す。ならば踏み潰す。ならば許さナイ。



切り裂かれた朧車は、其の侭前方に突進したかに見せかけて――急ブレーキをかけると、其の侭凄まじいスピードでバックし始める。
それと同時に客車の扉が全て開かれ、中から現れる小型の怪異。
『スーツを纏った男』の様な無数の怪異は、口から猛毒の煙を吐き出しながら車輛を飛び降り、少女へと襲い掛かる――!

神代理央 >  
「……朧車と、その小型怪異の吐き出す煙は猛毒の成分が含まれている。
過剰に凝縮されたニコチンやタールが検出された。
不用意に吸い込むな。意識を持っていかれるぞ」

少女の視線を受ければ、記録用に稼働し始めたドローンからの情報を彼女に伝える。
助けに入る気配はない。未だ、彼女ならば戦局を打開出来ると信じている様な視線。

「朧車本体に過剰にダメージを与える必要は無い。
所詮は"列車"だ。コイツが移動できるのは、自らが生み出している線路の上だけだ。
――足を止めろ。現実に起こる列車事故が、どの様なものか、思い出せ!」