2022/11/09 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に北上 芹香さんが現れました。
北上 芹香 >  
私はこの街を走っている。
噂になっている、真詠響歌ちゃんを探して。

どうして……監視対象。違う、そうじゃない。
DMしても連絡もつかない。この街で会ったことしかわからない。
響歌ちゃんを探している。人とぶつかりそうになる。

立ち止まって周囲を見渡す。
混乱した頭の中には、何も情報量が入ってこない。

響歌ちゃんが監視対象で。
もしも……それが公然の場で歌わなくなった理由で。
だったら……あの場で煽った私には責任がある。責任が…

北上 芹香 >  
大抵の場合において、自由には代償がつきまとい。
私が野放図に振る舞った場合にはロクなことが起きない。
だからって。だからって響歌ちゃんが………なんで…

立ち止まっている私に誰かがぶつかった。
私は彼か、彼女か。
わからない誰かを認識することすらできなかった。

どうしよう。どうすれば。

北上 芹香 >  
来週の月曜日。私達はライブをする。
だからって『私達には歌うことしかできません』みたいなツラをして。
この事態を放置するのは。

全然。全く。これっぽっちも。ロックンロールではない。

歌の力を過信するのは、歌に失礼だ。
だから……私は………何ができるんだろう。

「響歌ちゃん」

その言葉は誰に届くこともなく。
乾いた街に転がって死んでいった。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に麝香 廬山さんが現れました。
麝香 廬山 >  
眠らない街、人の雑踏。
ざっと見ても有象無象。
諸行無常、呼んだ所で当然誰も答えはしない。

「北上ちゃん」

当然望んだ者の声じゃない。
ざわつく心のノイズに逆撫でる声音のヘルス。
ローリンガールに背後から一声掛ける、メッシュの青年がそこにいた。

「やぁ、元気してる?」

北上 芹香 >  
声をかけられる。
振り返った先には。

「廬山さん……」

メッシュの青年がいた。
元気にしている、と言われても。
それどころではない。

「元気かどうかと聞かれたら」
「これっぽっちも元気ではありませんね…」

首を左右に振って。

麝香 廬山 >  
これっぽちも元気はない。
青年は検討もついていたし、予想通りの答えだった。
にこにことした爽やかな笑顔を崩さずに、彼女の隣へ歩み寄る。

「そうだねー、目が死んでる。
 今ならまな板の上にいても間違いない位にね」

何なら魚の方が"活きが良い"。
性質の悪いジョークを断ち切るようにゆらゆら
眼の前で揺らすのはホワイトカルパス。温か甘い乳製品のジュース。

「飲みなよ。とりあえず座って落ち着いたら?」

くぃ、と顎で指すのは寂しく佇む誰もいないベンチ。

北上 芹香 >  
「あー………」

俎上の鯉扱いに反抗するほど。
今の私には力がなかった。
力がない。無力。それは私を心の底から苛む。

ジュースを受け取って。

「ありがとうございます」

力なくお礼を言ってベンチに腰掛けた。

麝香 廬山 >  
手をひらひらしてどういたしまして。
なんの躊躇もなく隣に座れば、両手を不遜に背もたれに広げた。
彼女のショックは一個人。街の雑踏が気にするはずもない。
それでも街は動いている。青年は楽しげに鼻歌を漏らす。

曲名は、『Anthem』

「~♪ ……それで、本当に無気力じゃん」

「それじゃぁ迷走中って言うよりかは、迷子みたいだね」

鼻歌を止めて、肩を竦める。

「────まるで、憧れのアイドルが引退した時みたいだ」

流すように、横目が見やる。
廬山の笑みは途絶えない。

「良ければ話でも、聞こうか?」

北上 芹香 >  
Anthem……響歌ちゃんの…
そして、続く言葉は。
推しのアイドルが引退した時みたいに、と。

そこまで言われて、気付けないほど阿呆ではない。

「どこまで知ってるんですか」

端的にその言葉をぶつけた。
響歌ちゃんの居場所を知っているのだろうか。

伸ばしたその手にこそ掴むのが希望であるなら。
偶然かかった虹にこそ見るのが絶望であるように思う。

麝香 廬山 >  
「全部」

即答だった。
青年は笑みを崩さない。
何処となく、北上自身の反応を楽しんでるみたいだ。

「君は、何が知りたい?
 君にとって彼女とは何だい?
 仮に、ボクから何かを聞いたとして……君はどうするんだい?」

虹色がいつから美しいと思われたのだろう。
たまにかかる雨上がりの陽炎で有るからこそ、"手に掴めるはずもない"。
但し、時に勇気が深淵を飲み込む。
さぁ、隣で嗤うのはその淵だ。青年は髪を揺らし、首を傾けた。

北上 芹香 >  
頭痛がした。
いつも後悔は頭痛を伴う。
私が関わっていい範囲を既に超えている予感もある。

それでも止まれない。

「私は響歌ちゃんの居場所が知りたい」
「私にとって響歌ちゃんは憧れの人」
「彼女に会って……私のライブに来て欲しいと伝えたい」

虹の根本には財宝があるという。
しかし、虹が幻であることを知っているなら。
人はその言葉にウツロを見出す。

彼の目を見て、断言した。

麝香 廬山 >  
「そっか」

其処に扉なんて有りはしない。
踏み込めば後は泥沼だ。
ようこそ、虹の奥へとニヤリと口角が釣り上がる。

「そうだねー、一応伝えておくよ。
 居場所も……まぁ、知らないわけじゃない」

「調べようと思えば調べられる。
 君に協力するのも吝かじゃないんだけど……」

青年は空に手を伸ばした。
夕暮れ沈みかけのあやふやな夜空。
灯りが陰る、曇天の雲が夜空へとなり始めていた。

「まず先に、"改めて自己紹介"をしよう。
 ボクの名は麝香 廬山。"第一級監視対象"の廬山だよ」

「監視理由はまぁ、色々あるけどボクの能力は……」

「"境界線を操る能力"」

憧れの人と同じ、監視を義務付けられた猟犬。
その中でのとびっきりの"危険人物"。
パチン、と小気味よく鳴らせばそれが合図と言わんばかりに曇天が避けた。
月と夕暮れが交わる不気味な空が、彼女を見下ろしている。

「まぁ、要するに彼女と同じ監視対象だから色々知ってるの。
 で、ボクは彼女と"同じ"だから色々知ってる。等級で言えば、ボクのが上だけど」

「ボクの異能を使えば、彼女を探すことは造作もない。
 別に、隠密が得意な異能ってワケじゃないしね、彼女」

「……さて、君は彼女が行方知れずな理由は知ってるかな?
 知らないなら教えてあげるし、知っていて言ってるなら……」

「ライブに来て欲しいって、残酷じゃないかな?」

歌声を奪われたカナリアに歌を聞かせる。
それはきっと、残酷な行いに違いない。
廬山は笑みを崩さず、彼女をじわりと、その心に一歩ずつ言葉が踏み込むように質問を重ねた。

北上 芹香 >  
裂けた空を見上げる。
私が異能に明るくないことを差し引いても。
規格外の能力であるように思う。

だから、監視対象……?

「私は歌の力を過信しない」
「そして、歌を過小評価もしない」

両手でボトルを抱えるように握ったまま、ぽつぽつと言葉にしていく。

「彼女は私の歌を喜んでくれた」
「私は彼女の歌を喜んでいた」

「それだけで百の言葉を超える感情が私達にはある」

行方知らずな理由は私が知っている。
そして彼の言葉がそれを裏付けていた。

「彼女は歌のない人生を笑って過ごせる人種じゃない」
「彼女が笑っていたなら……それは歌が心にあるから」

「彼女が奪われたものがどれだけ大きいかはわからない」
「ただ、私は響歌ちゃんに歌声を届けたい」

「そこに罪があるのなら……私が罰を受ける」

無力。だけど、私は空っぽではない。

麝香 廬山 >  
「…………」

ただ青年は黙って彼女を覗き込んだ。
真っ直ぐに、だけど何処か狂気的。
まるで虚。其処のない深淵がそこにはあった。
じっと見ているだけで、背筋を"ナニカ"に撫でられる薄ら寒さまで感じそうだ。
赤い、紅い、互いの視線が交差すること数分…────。

「イイネ!」

青年はニコリと笑い、ビシッと指さした。
先程の雰囲気は何処へやら、非常に爽やかな笑顔だ。

「ボクは北上ちゃんみたいな子は好きだよ。
 君達ほど、音楽に造詣があるわけじゃないけどさ」

「"信念"……って、言うのかな?
 うん、そうだね。そういうのはとても良い。応援したくなる」

青年の言葉も何もかも、其処に100%の善意はない。
ただ楽しんでいる"悪辣さ"の方が勝る程だ。
但し、彼女を突き放して絶望に落とすほどの悪意はない。

そう、"悪魔ってやつは気まぐれなんだ"。

「そうだなァ。会わせる事は出来るし
 正直に言えば、君だけで彼女が大人しく戻ってくれるならボクはそれで良い」

「ボクも訳あって彼女を追ってるからね。
 君がいい刺激になりそうなら、君に協力するのは吝かじゃない」

指した指を立てて、但しと折り曲げた。

「けど、ボクは監視対象の中でもとびっきりだ。
 監視対象ってのは、等級に三段階あって、その内の一番」

「……要するに、特に"危ない奴"ってことさ。
 ボクと協力するなら、終わった後に最低でも"事情聴取"くらいはあると思うよ」

「ボクとの長期の接触について、ね。
 どう?それでもボクを使って会ってみるかい?」

悪魔は囁く。
折り曲げた指を広げ、契約に手を取るように、と。
日常の隣にいる非日常が、すぐ目の前でせせら笑っていた。

北上 芹香 >  
そうか。いよいよもってポイント・オブ・ノーリターンというわけ。
ごめんね、キーちゃん。ヨーコちゃん。さっちん。
迷惑かけちゃうと思う。

それでも。

「私は響歌ちゃんに会いたいと言った」
「そして私が罰を受けると言った」

「それを引っ込めるのは……ちっともロックンロールじゃないんですよ」

妙に据わった目つきで彼に答える。
せっかく毒を喰らうんだったら皿までペロリだ。
皿を食べる趣味はないがこの際、仕方ない。

「ライブ……来週の月曜なんで」
「クレスニクで待ってると伝えてください」

立ち上がって彼に開封してもいないジュースを返した。

「バンドやってる人がロックを口にした以上」
「私だって安い覚悟じゃないことだけは覚えておいてください」

そう言って凶星が睨みつける空の下、去っていった。

麝香 廬山 >  
それを聞いても、ただ廬山は笑っている。
楽しいものじゃないか。頑張る子って、見てるだけでもね。
返されたジュースを手に取れば、残念そうに肩を竦める。

「イイネ、そうこなきゃ面白くない。
 いいよ、歌姫ちゃんにそう言っておく」

笑顔を浮かべながらひらりと手を振り、見送った。
引き止めるような事はしない。
音楽家がロックを口にした以上、安い覚悟じゃない。

「"安い覚悟じゃない"、かァ……」

ふ、と鼻で笑えばペットボトルを放り投げた。

「ロックって言うのは知らないけど、ワガママを"押し通す"って意味なのかな?」

どいつもこいつも事情は知りはしないが
決められた秩序と言うのにも如何にも反抗的だ。
わかっているのだろうか、"自由"と"無法"、その違い。
くっ、と押し殺すように肩を震わせ、仰々しく両手を広げた。

「────バカばかりだなァ」

おどろおどろしい声だけが、口から漏れた。
自分たちがどれだけ恵まれているのか、知りもしないで。
虚の表情はすぐに笑顔へと変わり、青年はベンチから立ち上がる。


さて、落ちてこないペットボトルは、何処へ行ってしまったのだろうか?

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から北上 芹香さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から麝香 廬山さんが去りました。