2022/11/09 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に北上 芹香さんが現れました。
■北上 芹香 >
私はこの街を走っている。
噂になっている、真詠響歌ちゃんを探して。
どうして……監視対象。違う、そうじゃない。
DMしても連絡もつかない。この街で会ったことしかわからない。
響歌ちゃんを探している。人とぶつかりそうになる。
立ち止まって周囲を見渡す。
混乱した頭の中には、何も情報量が入ってこない。
響歌ちゃんが監視対象で。
もしも……それが公然の場で歌わなくなった理由で。
だったら……あの場で煽った私には責任がある。責任が…
■北上 芹香 >
大抵の場合において、自由には代償がつきまとい。
私が野放図に振る舞った場合にはロクなことが起きない。
だからって。だからって響歌ちゃんが………なんで…
立ち止まっている私に誰かがぶつかった。
私は彼か、彼女か。
わからない誰かを認識することすらできなかった。
どうしよう。どうすれば。
■北上 芹香 >
来週の月曜日。私達はライブをする。
だからって『私達には歌うことしかできません』みたいなツラをして。
この事態を放置するのは。
全然。全く。これっぽっちも。ロックンロールではない。
歌の力を過信するのは、歌に失礼だ。
だから……私は………何ができるんだろう。
「響歌ちゃん」
その言葉は誰に届くこともなく。
乾いた街に転がって死んでいった。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に麝香 廬山さんが現れました。
■麝香 廬山 >
眠らない街、人の雑踏。
ざっと見ても有象無象。
諸行無常、呼んだ所で当然誰も答えはしない。
「北上ちゃん」
当然望んだ者の声じゃない。
ざわつく心のノイズに逆撫でる声音のヘルス。
ローリンガールに背後から一声掛ける、メッシュの青年がそこにいた。
「やぁ、元気してる?」
■北上 芹香 >
声をかけられる。
振り返った先には。
「廬山さん……」
メッシュの青年がいた。
元気にしている、と言われても。
それどころではない。
「元気かどうかと聞かれたら」
「これっぽっちも元気ではありませんね…」
首を左右に振って。
■麝香 廬山 >
これっぽちも元気はない。
青年は検討もついていたし、予想通りの答えだった。
にこにことした爽やかな笑顔を崩さずに、彼女の隣へ歩み寄る。
「そうだねー、目が死んでる。
今ならまな板の上にいても間違いない位にね」
何なら魚の方が"活きが良い"。
性質の悪いジョークを断ち切るようにゆらゆら
眼の前で揺らすのはホワイトカルパス。温か甘い乳製品のジュース。
「飲みなよ。とりあえず座って落ち着いたら?」
くぃ、と顎で指すのは寂しく佇む誰もいないベンチ。
■北上 芹香 >
「あー………」
俎上の鯉扱いに反抗するほど。
今の私には力がなかった。
力がない。無力。それは私を心の底から苛む。
ジュースを受け取って。
「ありがとうございます」
力なくお礼を言ってベンチに腰掛けた。
■麝香 廬山 >
手をひらひらしてどういたしまして。
なんの躊躇もなく隣に座れば、両手を不遜に背もたれに広げた。
彼女のショックは一個人。街の雑踏が気にするはずもない。
それでも街は動いている。青年は楽しげに鼻歌を漏らす。
曲名は、『Anthem』
「~♪ ……それで、本当に無気力じゃん」
「それじゃぁ迷走中って言うよりかは、迷子みたいだね」
鼻歌を止めて、肩を竦める。
「────まるで、憧れのアイドルが引退した時みたいだ」
流すように、横目が見やる。
廬山の笑みは途絶えない。
「良ければ話でも、聞こうか?」
■北上 芹香 >
Anthem……響歌ちゃんの…
そして、続く言葉は。
推しのアイドルが引退した時みたいに、と。
そこまで言われて、気付けないほど阿呆ではない。
「どこまで知ってるんですか」
端的にその言葉をぶつけた。
響歌ちゃんの居場所を知っているのだろうか。
伸ばしたその手にこそ掴むのが希望であるなら。
偶然かかった虹にこそ見るのが絶望であるように思う。
■麝香 廬山 >
「全部」
即答だった。
青年は笑みを崩さない。
何処となく、北上自身の反応を楽しんでるみたいだ。
「君は、何が知りたい?
君にとって彼女とは何だい?
仮に、ボクから何かを聞いたとして……君はどうするんだい?」
虹色がいつから美しいと思われたのだろう。
たまにかかる雨上がりの陽炎で有るからこそ、"手に掴めるはずもない"。
但し、時に勇気が深淵を飲み込む。
さぁ、隣で嗤うのはその淵だ。青年は髪を揺らし、首を傾けた。
■北上 芹香 >
頭痛がした。
いつも後悔は頭痛を伴う。
私が関わっていい範囲を既に超えている予感もある。
それでも止まれない。
「私は響歌ちゃんの居場所が知りたい」
「私にとって響歌ちゃんは憧れの人」
「彼女に会って……私のライブに来て欲しいと伝えたい」
虹の根本には財宝があるという。
しかし、虹が幻であることを知っているなら。
人はその言葉にウツロを見出す。
彼の目を見て、断言した。
■麝香 廬山 >
「そっか」
其処に扉なんて有りはしない。
踏み込めば後は泥沼だ。
ようこそ、虹の奥へとニヤリと口角が釣り上がる。
「そうだねー、一応伝えておくよ。
居場所も……まぁ、知らないわけじゃない」
「調べようと思えば調べられる。
君に協力するのも吝かじゃないんだけど……」
青年は空に手を伸ばした。
夕暮れ沈みかけのあやふやな夜空。
灯りが陰る、曇天の雲が夜空へとなり始めていた。
「まず先に、"改めて自己紹介"をしよう。
ボクの名は麝香 廬山。"第一級監視対象"の廬山だよ」
「監視理由はまぁ、色々あるけどボクの能力は……」
「"境界線を操る能力"」
憧れの人と同じ、監視を義務付けられた猟犬。
その中でのとびっきりの"危険人物"。
パチン、と小気味よく鳴らせばそれが合図と言わんばかりに曇天が避けた。
月と夕暮れが交わる不気味な空が、彼女を見下ろしている。
「まぁ、要するに彼女と同じ監視対象だから色々知ってるの。
で、ボクは彼女と"同じ"だから色々知ってる。等級で言えば、ボクのが上だけど」
「ボクの異能を使えば、彼女を探すことは造作もない。
別に、隠密が得意な異能ってワケじゃないしね、彼女」
「……さて、君は彼女が行方知れずな理由は知ってるかな?
知らないなら教えてあげるし、知っていて言ってるなら……」
「ライブに来て欲しいって、残酷じゃないかな?」
歌声を奪われたカナリアに歌を聞かせる。
それはきっと、残酷な行いに違いない。
廬山は笑みを崩さず、彼女をじわりと、その心に一歩ずつ言葉が踏み込むように質問を重ねた。
■北上 芹香 >
裂けた空を見上げる。
私が異能に明るくないことを差し引いても。
規格外の能力であるように思う。
だから、監視対象……?
「私は歌の力を過信しない」
「そして、歌を過小評価もしない」
両手でボトルを抱えるように握ったまま、ぽつぽつと言葉にしていく。
「彼女は私の歌を喜んでくれた」
「私は彼女の歌を喜んでいた」
「それだけで百の言葉を超える感情が私達にはある」
行方知らずな理由は私が知っている。
そして彼の言葉がそれを裏付けていた。
「彼女は歌のない人生を笑って過ごせる人種じゃない」
「彼女が笑っていたなら……それは歌が心にあるから」
「彼女が奪われたものがどれだけ大きいかはわからない」
「ただ、私は響歌ちゃんに歌声を届けたい」
「そこに罪があるのなら……私が罰を受ける」
無力。だけど、私は空っぽではない。
■麝香 廬山 >
「…………」
ただ青年は黙って彼女を覗き込んだ。
真っ直ぐに、だけど何処か狂気的。
まるで虚。其処のない深淵がそこにはあった。
じっと見ているだけで、背筋を"ナニカ"に撫でられる薄ら寒さまで感じそうだ。
赤い、紅い、互いの視線が交差すること数分…────。
「イイネ!」
青年はニコリと笑い、ビシッと指さした。
先程の雰囲気は何処へやら、非常に爽やかな笑顔だ。
「ボクは北上ちゃんみたいな子は好きだよ。
君達ほど、音楽に造詣があるわけじゃないけどさ」
「"信念"……って、言うのかな?
うん、そうだね。そういうのはとても良い。応援したくなる」
青年の言葉も何もかも、其処に100%の善意はない。
ただ楽しんでいる"悪辣さ"の方が勝る程だ。
但し、彼女を突き放して絶望に落とすほどの悪意はない。
そう、"悪魔ってやつは気まぐれなんだ"。
「そうだなァ。会わせる事は出来るし
正直に言えば、君だけで彼女が大人しく戻ってくれるならボクはそれで良い」
「ボクも訳あって彼女を追ってるからね。
君がいい刺激になりそうなら、君に協力するのは吝かじゃない」
指した指を立てて、但しと折り曲げた。
「けど、ボクは監視対象の中でもとびっきりだ。
監視対象ってのは、等級に三段階あって、その内の一番」
「……要するに、特に"危ない奴"ってことさ。
ボクと協力するなら、終わった後に最低でも"事情聴取"くらいはあると思うよ」
「ボクとの長期の接触について、ね。
どう?それでもボクを使って会ってみるかい?」
悪魔は囁く。
折り曲げた指を広げ、契約に手を取るように、と。
日常の隣にいる非日常が、すぐ目の前でせせら笑っていた。
■北上 芹香 >
そうか。いよいよもってポイント・オブ・ノーリターンというわけ。
ごめんね、キーちゃん。ヨーコちゃん。さっちん。
迷惑かけちゃうと思う。
それでも。
「私は響歌ちゃんに会いたいと言った」
「そして私が罰を受けると言った」
「それを引っ込めるのは……ちっともロックンロールじゃないんですよ」
妙に据わった目つきで彼に答える。
せっかく毒を喰らうんだったら皿までペロリだ。
皿を食べる趣味はないがこの際、仕方ない。
「ライブ……来週の月曜なんで」
「クレスニクで待ってると伝えてください」
立ち上がって彼に開封してもいないジュースを返した。
「バンドやってる人がロックを口にした以上」
「私だって安い覚悟じゃないことだけは覚えておいてください」
そう言って凶星が睨みつける空の下、去っていった。
■麝香 廬山 >
それを聞いても、ただ廬山は笑っている。
楽しいものじゃないか。頑張る子って、見てるだけでもね。
返されたジュースを手に取れば、残念そうに肩を竦める。
「イイネ、そうこなきゃ面白くない。
いいよ、歌姫ちゃんにそう言っておく」
笑顔を浮かべながらひらりと手を振り、見送った。
引き止めるような事はしない。
音楽家がロックを口にした以上、安い覚悟じゃない。
「"安い覚悟じゃない"、かァ……」
ふ、と鼻で笑えばペットボトルを放り投げた。
「ロックって言うのは知らないけど、ワガママを"押し通す"って意味なのかな?」
どいつもこいつも事情は知りはしないが
決められた秩序と言うのにも如何にも反抗的だ。
わかっているのだろうか、"自由"と"無法"、その違い。
くっ、と押し殺すように肩を震わせ、仰々しく両手を広げた。
「────バカばかりだなァ」
おどろおどろしい声だけが、口から漏れた。
自分たちがどれだけ恵まれているのか、知りもしないで。
虚の表情はすぐに笑顔へと変わり、青年はベンチから立ち上がる。
さて、落ちてこないペットボトルは、何処へ行ってしまったのだろうか?
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から北上 芹香さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から麝香 廬山さんが去りました。