2022/10/12 のログ
言吹 未生 > 幾らか洩れ聞こえる声から導くに、カジノ――賭博施設まであると言う。
金銭の絡む事柄はとかくデリケートだ。
アルコールの摂取に伴う諸々の害は、強制を伴わぬ限り、飲酒者の自己責任に依るところが大きい。
しかし、賭博はそれ自体が諸悪の財源となる公算があまりに大きい。
労働とも取引とも違う、そう言った銭の動きは、“それ”そのものが悪果を呼び寄せる。
即ち、社会の悪因なのだ――。

「――――」

きり、と袖奥でわずかな合金の軋り音。
地面を噛み進むローファーのリズムを、心持ち速める。

言吹 未生 > また一歩と踏み出しかけた靴先を、すかさず横合いへとシフト。
前進するはずだった体を、上体の傾きにつれてするり滑るように横へ流す。

『ぅおっ?!』

素っ頓狂な声を上げて、転ぶようにこちらを追って現れたのは、先程のバーで一瞥した男子生徒だ。
随分とけたたましい足音と、殺気――と呼ぶにもあまりにいたいけな気炎とが、実に分かりやすかったもので。

「呑み過ぎたのかな? 往来では気をつけたまえよ、君」

そう親切心で声を掛けてやれば、何事かと注視する幾許かの観衆がどっと笑った。

言吹 未生 > 首から上を真っ赤に染める男子生徒。酒気のせい、だけでないのは明らか。

『…お前、俺らのことジロジロ見てただろ。キモいストーカーオンナがよ』

語気荒くそんな事を言われると、こめかみに指を添えて思い出してみるが。

「いや、別に君らに興味はないよ」 あったのはどちらかと言えば、店の方だ。

「連れの子に男気を見せんと意気込むのは結構だが、事の仔細を訊ねる前に殴り掛かるのはよくない」

ああ、実によろしくない。
大仰にかぶりを振って。

「――傷害未遂。減点1だね」

人差し指を立ててやると、それが目盛りか何かだったかのように、みるみる眉尻を怒らせる男子生徒。
なお、ギャラリーはまた沸いている。
こちらが挑発していると“思い込んでいる”のだ。そうではない。
“そんな非生産的な事はしない”――。

言吹 未生 > 『…! ナメやがって――ブッ殺してやるぁ!!』

紋切り型の罵声を推進力に、固めた拳で再びこちらに殴り掛かる男子生徒。
その言葉。二度の暴力行使。
こちらが動くのには充分過ぎる理由だ。
ぶんと伸び来るストレートを、沈降と傾斜を併せた動きで再度いなし。
後は片手を添えるだけ。

――バチィッ!

特大のビープ音にも似た炸電音と、刹那通りの闇を灼く反射光。
【安全鞭】の放電機能だ。

「脅迫と、再度の傷害未遂。これはペナルティだよ」

もんどりうって倒れた背中へ、勝ち誇るでもない平板な声を投げる。

言吹 未生 > こちらの手中に露わとなった特殊警棒。
その厳めしいフォルムに、半端な熱で浮かれていた観衆が、潮の引くが如くにすっと退く。
曲技紛いの、“撫でるような”護身術でも期待していたのか。
あいにく技官はそこまで甘くない。
ここが『皇国』であれば、公務執行妨害・威力業務妨害・治安紊乱・公職軽侮のかどで、処断すら許されるところだ――。

「――――」

軽く上がった悲鳴に一つ眼を転じれば、先程のバーの女子生徒が色を喪って立ち竦んでいた。

「…助けないのかい? それとも何か申し開く事でも?」

首をくてりと傾げ、一歩そちらの方へ足を向ける。
その途中の人垣が、面白いぐらいにどどと退いた。
非常に心外だ。

言吹 未生 > 女子生徒は、それこそ曲がり角で怪物にでも鉢合わせしたかのような勢いで反転し、悲鳴のドップラー効果を曳きながら走り去った。
追おうとは思わない。
気の毒にも取り残された男子生徒をけしかけたのは、彼女に間違いはないだろうが。
実行犯は現在、道路の削れがちの白線を、噴いてる泡で塗り直す作業で手一杯だ。
彼女を追い詰め尋問したところで、何が得られる訳でもないだろう。実行犯にもそれは言える。

「――――」

ふ、と鋭く短く息をついて。
腕をしごけば縮退した警棒は、再び袖口へと収納される。
巡回経路を変える事を検討すべきだろうか。
自分の出で立ちは、どうにもこの辺りでは浮いているようだ。

「……学園迷彩は完璧かと思ったんだけどなあ」

セーラー服の裾をつまみつつ。
納得いかねえ、と。首を反対に傾げ、こきりと鳴らした。

ご案内:「歓楽街」にエボルバーさんが現れました。
エボルバー > 歓楽街で厄介な事が起こるのは割と日常的な光景
ゾロゾロと集まるギャラリーが厄介事を物語る。
そして事は収拾したのか、集まった烏合の衆が引いていく。
夜空の元、品がないライトアップがなされた
この街は何気ない日常を取り戻す。


そんな街の何気ないネオンの下。
いつから居たのかスーツを着た男が一人。
それはまるで幽霊のような様子で佇む。

「こんばんは、お嬢さん。」

ソレは先程の騒動の中核たる少女に横から
聞き取りやすくも無機質な声を掛ける。

「初めて見る装備だ。
風紀委員会の装備は、実に興味深い。」

騒動中における少女の言動から、
ソレは彼女を秩序を守る風紀委員だと判断した。

言吹 未生 > 今日のところは些か人目を引いてしまった。
時もかけ過ぎたし、風紀委員の見回りに誰何されるのも好ましい事ではない。

「――――」

などと思っていれば、横合いからこちらを風紀呼ばわりする声。
視線を巡らす先にいたのは、スーツ姿の男。
平凡な装いである。そうであるはずだ。しかし――

「…あいにく、僕は風紀の者ではありませんよ」

律儀に応えて、男を真っ向から視界に捉える。
それまで止まっていたギャラリーは、ちらほらと散ってまたそれぞれの日常へ戻らんとしている。
それと裏腹に己は――

「…………」

嵐の前にも似た、奇妙な緊迫を感じずにはいられなかった。

エボルバー > 風紀委員ではない、彼女はそう言った。
おかしい、街の秩序を守るのは風紀委員会の筈だ。
しかし確かに彼女には風紀委員であると示すものがない。


>部位確認:風紀委員会紋章

>確認中...

>結果:該当なし


自分の正面に立った小柄な少女を
男は見下ろして暫くの間じっと見つめる。

「君には、秩序を守る義務が無い。」

短い沈黙が流れた後に男は口を開く。

言吹 未生 > こちらを走査するような視線に、若干の居心地の悪さを感じる。
人が目を配るそれとは、如何にも異なる。
沈黙の後に紡がれた言葉に、灰銀を鎧う輪郭が僅かに、しかし鋭く吊り上がった。

「いみじくも社会の秩序の中に身を置くからは――」

激しかけた感情のいきれを排気するかのように、これまでの調子とは違う、明らかに熱量の籠った声。

「たとえその職分に与らずとも、それらを守るべきでは?」

まあ、したところで先程の武力行使は明らかに、一般人の領分を超えているのだが。

エボルバー > 一つのシステムというものがあるとする。
システムを安定させるプログラムは一つであることが望ましい。
同じ目的の機能が重なることはかえって”不和”をもたらす要因となる。
電子空間の中ではそう、それを人間社会にも適応する。

「この街の秩序を守る役割は、風紀委員会が持っている。
無関係な君が同じ役割を競合させれば、秩序を乱す可能性がある。」

声に力を籠める少女に対し、
感情の籠らない暖かさの感じられない声で淡々と返す。
彼女には秩序を守るという明確な目的がある事を言葉から検知した。
彼女の行いはその目的に矛盾しているではないかと
疑問として問いかける。

言吹 未生 > 突き付けられた言葉は、呪詛の如くに己の真芯にその鉤爪を立てんとする。

「――不十分なんだよ、“それ”だけでは」

仮にも目上・年上の相手に対して被った浅薄な敬意など、それを以て消し飛んだ。
一つ眼と、眼帯越しの義眼は、炯々とした光で相手をねめつける。

「現に先程の狼藉を止めるに当たる、風紀の輩はいなかったろう?
 仮に、さっきの男が――」

視線をやった先。倒れていたはずの男子生徒は、いつの間にか姿を消していた。
さほど重度の電撃ではなかった故、回復して早々に尻尾を巻いたのか。
今はそんな事などどうでもいいが。

「素手でなく、凶器の類を携えていたとしようか。
 ついでに襲った相手が、僕のように自衛の心得のない者だとしよう。
 そして、その場に秩序の守り手はいない――」

芝居じみた仕草で、両手を広げて見せる。

「その時、襲われた者はどうなる?
 むざむざ暴徒の手に掛かって死ねとでも?」

エボルバー > 「ある一点で死人が出たとしても、
全体的なシステムが保たれていれば正常と言える。」

自らの考えを説く少女、
その瞳の奥には信念が灯る。
相対する男の瞳はただ虚ろな翡翠色。
その奥には、何もない。
ただ人間の集団である社会をシステム的に捉えるだけ。
ミクロ的に死人が出ていてもマクロ的に安定していれば
何の問題もないのだ。

「しかし、秩序が安定した空間というものは面白みに欠ける。」

少女に対して吐き捨てるような無機質な一言。
先程までは、あくまで人間社会を機能としてみた場合に望ましい状況を言ったが、
男にとって望ましい状況を言ったわけではない。

言吹 未生 > 「…君はさながら、機巧の綱領(プログラム)のように語るんだね。
 ――さもなくば、巣穴に蟠る虫けらか」

真なる秩序。あるいは社会性の完成形。
そう言った見地で考えれば――例え人間社会であっても、実際的には――正解だ。

だが、己はそれを是としない。してなるものか。断じてだ。
「…他者の故意によってもたらされる死が、正常な要素であるものか…!!」

飛び退って間合いを取る。もはや語る事などない、とでも言うように。

「面白味? 娯楽で秩序を乱そうと? 見下げ果てた痴れ者だよ“お前”は、ほんとうに――」

怒りと狂気とで、瘧の如く震え出す手が眼帯に掛かり――。

「いよいよ以て、死ぬべきだ」

現れた『摩尼瞳』が、入れ替わりに男を走査する。
人の姿にして人ならざる、そう在り得べからざる節理を説くそれを。

エボルバー > 「死は避けるものではない、生かすものだ。」

理想を見つめ憤るのが目の前の少女、
何と人間的な事だろう。
男のうつろな瞳が少女を貫くように見つめる。
同時に放たれた一言がこの男、いや機械の考え方を表す。
個の死によって群が学び、安定する。

「社会における秩序とはすなわち安定。
管理され、安定した環境に変化は生まれない。」


>超自然反応を検出


現れた異質の瞳を、感情のない機械的な瞳がじっとただ見つめ返す。
この少女もまた只の人間ではなく
特別な力と境遇を持っているというのか、実に興味深い。
この男は安定を好む秩序に支配された人間などではない、
それは無限に進化し続ける群機械。

言吹 未生 > 死の活用。
広く俯瞰すれば、それは歴史に学び試行錯誤する人類史と微塵も変わらない。
けれども、収奪を見、暴虐を見、死もまた見て来た少女は、それを忌む。否定する。

「ならばこそ――僕はお前を排撃する」

秩序。法規。倫理。道徳。
それらが全くに守られさえすれば――不可能に近いにも程がある理想論だ――人の世は膿まない。病まない。堕落しない。
それを乱すものは、如何にしても排除せねばならない。
それこそが、己の道理――病理――だ。

「――――」

『摩尼瞳』の霊視・魔力視。そのいずれにも該当しない反応。
先程相手を揶揄した“機巧の綱領”が奇妙な現実味を増す。
『皇国』にはついぞ現物のない『人造人間』だとでも言うのか――?

――試してやろう。

「……議論はここまでだ。《黙れ》」

呪力を孕む発声。『圧魄面説』。
真っ当な生命であれば、何らかの影響を残さずには置かないが――?

エボルバー > 死とは主に生命に対して使われる言葉。
そして生命は単細胞から誕生して以来、死の活用を行ってきた。
適応できなかった個体が死を迎え、
適応できた個体が生き延びることで、種の存続を図った。
死を活用するというのはいささか正しい表現ではない。
死は活用され続けるのだ、生命が生命である限り。

「...君は。」


>異能を検知


「君は、完全な秩序が、完全な安定が、
死を生まないと考えるのか?」

男は黙らなかった、何故ならソレに血は流れていないから。
少女のような狂気の如き信念を持っていないから。
少女のように滾る心を持っていないから。

言吹 未生 > 異能は確かに発現した。
有効射程内の物陰から、あるいはこちらを窺いつつ仲間と喋る者。
あるいは、不穏を感じて風紀ないし公安に連絡しようとした者。
それらが一斉に、口を噤まざるを得なかったのだ。
――ただ一人の男を除いては。

「……何が言いたい?」

内心の焦燥を噛み殺しつつ、苛立たしげに問い返す。“問い返してしまった”。
理想に狂った少女は気付かない。

信念は時に、真実すらも覆い隠してしまう。
それは自ら盲いる事を望んだ狂人の行いだ――。

エボルバー > 「変化しないシステムは、やがて消滅する。」

機械は死という言葉を使わなかった。
死の代わりに使った消滅という言葉。
万物は何かを得る代わりに何かを失う。
完全な秩序の元に、何も失わなくなったシステムは
環境の変化に適応することはできない。
同じ深さで植えられた杭は、やってくる波にすべて流されてしまう。

消滅とは死と違って次に生かすことはできない。
それで終わり。
この機械がもっとも避けるべき事として認識していること。

言吹 未生 > 「消、滅――?」

鸚鵡返しに呟く声は、夜道に惑う迷い子のように覚束なく。
死は遺産を生み、また記憶される。
それは後の者に活用され、あるいは思い起こされ、一つの意義ある存在を証す。
しかし、適者生存の理からすら離れ、“ただ”消えたものは――?
偏在する非業の死すらも否み、“ただ”生かし、変わる事を放棄したものの末は――“それ”と同じではないのか。

「――ッ」

ぎしり。ひしぎ割れんばかりに食いしばる歯列。
ハム音を立てて駆動する義眼が、『身体施呪』を行使。
即時の身体・神経の強化を行う。
それはもはや意見の交喙も許さぬ、獰悪な選択。あまりの“無法”――。

「《死 ね》ッ!!」

射程内の生物ことごとくが気圧されて失神する。
地獄の吐息もかくやの悪態を吐きながら、一箇の弾丸とも見紛う勢いで。
鉤手を男の喉へと定めつつ、吶喊――!

エボルバー > 「君は、とても人間的だ。」

到底叶う筈も無い理想を掲げる事こそ
人間を人間たらしめる要素だ。
その原動力が社会を、システムを変える。
その意味で目の前の憤る少女は
社会を止めるのではなく変革させる側かもしれない。

「興味深い。」

間髪入れずに繰り出されたのは秩序とは程遠い、そう”暴力”。
原始的なそれは、とても本質的で、容易に変化をもたらす。

目視すら難しい勢いで定められたその攻撃は
凄まじいエネルギーを伴って男にぶつけられる。
反作用で男の身体は喉元から”裂けながら”
空中に弧を描き、路地裏の暗がりへと転がる。
二つに分かれてしまった男の身体、傍から見れば凄惨な死体だが
断面からは血肉ではなく、真っ黒な光も吸い込む色合いの
砂のような物体が硝子を擦るような音を伴って漏れていた。

言吹 未生 > 男の惨たらしい有様に、しかし悲鳴を上げる者は、思いのほか少なかった。
己を渦中として半径20メートル。
意識を保っているのは、少女だけだった。
遠間に惨劇を見た者は、何やらわんついているが、それを気にする余裕もない。

「はあっ…! はぁっ…!」

男以上に死に近しいと思わしい、浅く荒い呼吸。
白皙を通り越して土気色の顔は汗みずく。
緊張と興奮。そこからの精神的衝撃を無視しての『身体施呪』。
全要素が、少女の体も心も限界近くまで追い遣ってしまっていた。

「ぼ、くは……!」

萎え崩れそうになる足取りで、男が吹き飛んだのと正反対の路地へ、倒れるように入って行く。
彼の生死を確かめる余裕もない。
ここにいたくない。
そんな癇癪じみた感情だけを舵にして。

「僕は、間違って…ない……!!」

血を吐くような言葉だけを残して、遁走――。

ご案内:「歓楽街」から言吹 未生さんが去りました。
エボルバー > 転がる男の残骸はやがて黒ずみ
漆黒の砂粒と化して地面へと広がっていけば
ソレは意思を持ち、動き出す。

<身体強化、興味深い。>

彼女の体格から予想されるパワーを上回っていた。
つまり未知の手段で、自身を強化していたということだろう。
恐らくは異能か。
名前こそ知らないが思想、能力共に面白いものを持つ彼女を
機械は記録する。

歓楽街の隅で起こった何気ない争い事。
誰かが集まってくる頃には、ソレは忽然と姿を消しているだろう。

ご案内:「歓楽街」からエボルバーさんが去りました。