2022/11/09 のログ
フラガリア(白梟) >  
「……相変わらずの趣味」

見るからに堅気ではないその男に走り寄る後ろ姿に小さく呟く。
ソレの記憶が定かであれば彼はどこかで用心棒をしている男だったか。
確か密輸組織とかじゃなかったっけ。まぁ密輸の内容は可愛い範疇だけれど。

「……」

確かに細マッチョだけれど悪いことをしている人じゃないとというのは中々にドМ入ってるなぁ。内心そんな風に考えながらも昨年と変わっていない事に僅かな安堵すら感じる。変わっていく事が多い世の中で変わらない事もまた楽しむべきことだろう。

「さて、振られた私はどうしましょう?
 今日暇なんですよね私」

暫くして流れ始めたピアノの音に耳を傾けながら苦笑する。
恋人と情事に事欠かないお友達と偶然出会ったことから興が乗ったが歌うのは別にそれほど得意じゃない。
それに今、舞台の主役は彼女だしそうあるべきだ。

「……♪」

まぁお陰で得をしたのは確か。
着替えて舞台で歌うだけでいっぱいチャラにしてくれるという話だったので今こうしてお気に入りを楽しめている。それだけでも十分だとカウンターに向き直りぼうっとカクテルグラスを傾ける。
しばらくしたらまた部屋を借りて元の服装に着替えなければ。

フラガリア(白梟) >  
「んー」


贅沢なオレンジジュースとはいうけれど、ちゃんとアルコール。
年中無休でやってるお店に良く置いてある缶のお酒一本で十分酔える体質なのでロングカクテルとはいえそれほど回らないように気を付けなければならない。少なくとも着替える程度の正気は維持できるくらいは。
けれどお気に入りというのは進んでしまう訳で……

「どうしたものやら」

内心苦悩しているそれの前にコトッと小さな音を立てて器が置かれる。
ガラス容器の上に盛られた赤い果実を見るとそれは口元をほころばせた。

「ありがとう」

小声で囁くとそれを口に運び、その独特な風味を堪能する。
カクテルの味的にあまり良い組み合わせではないかもしれない。
けれど偽名に苺の名前を使うくらいには好きであるということをマスターは覚えていたらしい。

フラガリア(白梟) >  
「さて」

思考を切り替える。
ここしばらく観察とデータ収集に奔走していた。
お陰で幾つかの場面でどう対処するかなどはある程度構成できた。
けれど未だに見えてこない事がいくつかある。

「……」

そして同時に一種の障害のようなものも感じていた。
ある意味頭打ち、とでもいうべきか。
出来る事はある。あるにはあるが……

「少々野暮にすぎる」

カクテルを転がしながら思案する。こういう時自分の頭の固さが恨めしい。
手段はあるが目的に一致しないというのが正しいか。
確かに普段から手段は選ばないタイプだがこれらは望ましく(楽しく)ない。

フラガリア(白梟) >  
「棋譜を見る限り互角とはいいがたいか」

そうだとしても面白いバランスになっているのも確かだ。
定められた盤上でルールに従って進めるからこそ面白い事だってある。
アウトローに属するからと言ってそこに余計なイカサマ駒を置くなんて野暮にすぎる。

「そこに物語がある。
 舞台はちゃんと踊ってる
 うーん、これも一種の才能ですね羨ましい。」

自分にはないと思っている才能なので羨ましい限り。
ある意味美しい譜面になっている。そこに不純物は今の所必要ない。
強いて言うなら今欲しいのは”潤滑油”か。

「とはいえ焼き付きは起こしていない。
 パレードの方は良くも悪くも手掛かりもなし。
 ……ま、いっか」

グラスを眺めた後唐突に思考を放棄した。
丁度ピアノの音がひと段落ついた。彼女は演奏を終えあの男と腕を絡めてうれしそうにしている。
程なくBGMは店内の放送に切り替えられるだろう。今夜の公演は終わった。
悪だくみを考えるのは楽しいが、それで今を楽しめないのは勿体ない。
目下の所のお楽しみはカクテルで、そして良い感じに酔いが回ってきた。
これ以上は考えるだけ無駄だし楽しもうとソレは再びスイッチを切り替える。

フラガリア(白梟) >  
「マスタぁもう一杯お願いしまぁす」

頬に紅を指すアルコールがふわふわと思考を薄めていく。
ああもう着替えるの面倒になってきた。
美味しいものを食べて、美味しく飲んで……
そしてまた明日も楽しく闇に潜むのだろう。
観客として誰よりも楽しめる場所を探しながら。

『Fill my heart with song
 And let me sing for ever more……
 (私の心を歌で満たして そしてずっと歌わせて)』

古いレコードの音源の曲が店内に流れ始めた。
跳ねるような甘くて低くて渋い声が染みこんでいく。その珈琲のような芳醇な音色に酔いながらグラスを傾ける。これだけでも十分良い気分になれる。
……しばらくはそれにただ酔おうとそれは溶けたような笑みを浮かべ濁った思考で決意した。

ご案内:「バー「アキダクト」」からフラガリア(白梟)さんが去りました。
ご案内:「バー「アキダクト」」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
懸樋はどこにも必要だ。
表と裏は、双方が否定していても、どこかでつながっている。
完全に遮断されているなら、隣り合う必要もない。
ただ水の流れをせき止めようとすれば、どこかに不和が生じてしまう。

上手くやれよ、と誰かが言っているというワケ。
 

ノーフェイス >  
アイスブレイカーの甘さと酸味に愛撫に喉を弄ばれる。
どんな店でだって、グラスにふれる氷は上品にうたってくれる。

「懐かしいね、ココも」

くるり。
鮮やかな艶のなかで踊るグラスを見下ろしながら、
いつしか、こちらに来たばかりのときに、
しばしステージを拝借してたくせにふらりといなくなった自分を咎めないマスターの厚意に甘えよう。

「――最近どうよ、面白いことあった?」

振り向いた先には、古めかしいピアノが、スポットライトに照らされるのを待っていた。

ノーフェイス >  
フラガリアが実っていたと。

なんでもないように告げられた言葉に、
女はさいしょ、不思議そうに首をかしげたのち、
……赤い唇を緩やかに微笑ませた。

「そっか」

語ることばも少なに、声を顰めたのは。
じぶんがきたばかりにこちらで起こっていた"戦"の風景を思えば、
水と油の可能性だってある相手。
それならば、シェイクしたところで、混ざらない、交わらない。

だからってそれを確かめることを恐れていたら、どこにもすすめないだけ。
痛みや悲しみもまたしょうがないと思えばこそ――
舌の上で転がる甘酸っぱさに、期待をする権利を持てる。

「いまミアの話はしないで。あいつ彼氏いるから」

テンションが急降下した。
何かあったのか、などとは問われない。
ここにいるのはプロだ――

ノーフェイス >  
この街は、退廃の街。
基本的にはルール無用で、縛るのは己の鉄則のみ。
個人や組織単位で乱立する戒律同士は時として摩擦し、
戦争、破壊、混沌を生む、平穏とは程遠い街だが、
――平和なのだ。

しかし、白と黒が交わる灰色の場所において、喧嘩には作法がある。
明文化されていないそれに背くということは、
白と黒、双方を敵に回すことを覚悟しなければならない。

喧嘩の作法を冒す者を咎めるのは、
本来であれば、白い者には白い者が、黒い者には黒い者が、というのがスマートだ。

(風紀委員会や公安委員会の自浄作用が機能しているか、というと――どうなんだろうな)

先ごろの襲撃者もそうだが、若干疑わしいところがある。
秩序を預かる者たちの組織にみえかくれする、腐敗、ほころび、未熟さ。
――それは、よろしくない。

「目先の利益にこだわって、順序をまちがえながら長期的なことを考えないってのは――なるほど。
 末端が逸ることが珍しくないのはどこも変わらない、まして学生自治の島だもんな」

目先の欲望に走って痴情のもつれで刺されかけることもある女は、
しかし自分が白い目を向けられることも気づかずに笑っている。
このエラーが起こることも、"えらいひと"たちからしたら、織り込み済みなのかも。
――期待されているのは、表も裏も変わらない、ということ。

「それでもボクは、彼があの場で"まっとうな風紀委員"だったことに」

あの金髪(ブロンディ)の"お嬢さん"の在り方に、唇に獰猛な笑みが浮かぶ。

「正直、スッゴくときめいたんだぜ。
 まちがいなくあの夜にヤった甲斐はある、収穫が、あまりにも多すぎたくらいだから」

ノーフェイス >  
「あえて惜しかったことを挙げるなら――
 黄昏(ダスキー)を祓った黎明(デイブレイク)に会えなかったコト」

あの場には、確かに居た、らしい。
ただ、結局中核の作戦班に合流したかは疑わしく、メインステージには顕れなかった。
でもしょうがない。

主催者である自分もまた、あの夜のやり残しを盤外でやるのも無作法というもの。

「ケシカゼアヤメちゃん……だっけ。
 可愛い名前。きっと奥ゆかしいサムライガールに違いないぜ」

ものいいたげな視線に気づかぬままアイスブレイカーを干した。
そこで、ふいに鳴動した端末をポケットから取り出して。

ノーフェイス >  
「あ」

ネットの海を泳ぐ、"噂"という回遊魚の姿に。
面食らってから、くくく、と含み笑いがこぼれる。

「あら、あらららら……まあ、そりゃそうだ――そうなるよな」

あの時、"笑い話(ラフテイル)"を踏んでいたのは。
この女だけではない、当たり前のことだ。

あの夜、あの場にいたもの。
今後、それにふれるもの――

風紀と公安の訳知りに対して、情報力という点ではこの女は無力。
しかし、裏側にも――そして、市井、公権力に属さない者にも。
"情報"という商品を持つ訳知りは、大量にいる。

秩序と混沌、表舞台と裏側。
そこに在るものは、たとえどこにいようが、属していようが、
どこまでも平等で公平なのだ。

「飼い犬のリードを放したのは、飼い主しか責任を取れないよ。
 ボクに来るのは――まったくの、お門違いってモンさ」

あの場にいた誰もが罪人であり、
"誰もが罪人になりえる状況を作ったのは"――この女ではない。

ノーフェイス >  
しかしこの件において、自分が積極的に関与する、ということはない。
慈悲の手も、裁きの槌も保たない。
女は、この島にいる、ごくありふれた、どこにでもいるようないち個人だ。
そしてあの夜の、この女のアジテーションに"流される"ような弱者は――この街には不要だ。

自ら決断したことであれば、
自ら証すことを迫られるだろう。
そこで求められているのは"正解"ではない。

「今回は観客として、いっぱい観劇させてもらうよ――ストレイ・ドッグ」

からり。
グラスを回す。もう空だった。

「デザートがわりに、プリンセス・メアリーを。
 可愛いフラガリアが実ったなら、お祝いをしなくっちゃね」

ご案内:「バー「アキダクト」」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「廃ビル」に言吹 未生さんが現れました。
言吹 未生 > 夜空に爪を立てるようにして乱立する背景群。
その一角の頂で、少女は佇み、俯瞰する。
袖を通さず羽織った、ウインドブレーカーを寒風になぶらせながら。
冷え冷えとした気流の中、しかしその白皙にはわずかに汗が浮いている。

「――――はあ、」

長い、鼻腔からの吸上げの末の、溜め息じみた吐息。
数巡の深呼吸で、漸くにしてそれまで躍っていた血流や心拍が鎮まった。

やはりと言おうか、鈍っている――。

そんな、場所柄似つかわしくあるはずもない、暢気な感想を、薄い笑みに乗せつつ。

言吹 未生 > 暴力や謀略も用いずとも、病院を脱けるのは容易かった。
何しろ自分は“お願い”しただけだ。《外出許可を/ください》と。
…まあ若干、改善の兆しが見られない和糊めいた病院食に対する意趣返しもないではなかったが。

ウォーキング、次いでランニングの気軽さで、ある意味表界隈よりも馴染んだ感のある冥路を駆けて。
その終着点が、ここだ。
達成感を玩味するにはあまりに陰気に過ぎる景観に、しかし少女は微塵も気後れする風もなく。

「――ああ、君達も、付き合ってくれて感謝するよ?」

笑みさえ忍ばせ振り向いた先。
派手なスカジャンや暗色のパーカーに身を包む青年が四人。
酔いつぶれたように倒れていた。
いずれもが、その顔を赤黒く変色させ、口の端からは泡を怒れる蟹の如く吹き溢している――。

このビル近辺に差し掛かるなり、行く手を押し包むように現れた連中だ。
嘆かわしくも言語の乱れから、まともにその主張を聞く事は即座に放棄したが、
そも酒精・煙脂・更には薬物の臭いまでぷんつかせる口に我慢ならなかった為、彼らにも“お願い”したのだ。
《息を/するな》と――。
それをどうにも挑発と受け取ったようで、予定外の徒競走までカリキュラムに組んでしまったが――まあ、良い運動にはなったと思う。