2020/07/15 のログ
城戸 良式 > ――ざわっと。
より強い悪い予感が身体を打ち付けるような感覚があった。
裏の稼業に足を突っ込んでいる者特有の、沼に足を取られた感覚。

まずい。
最初から――『打って』おくくべきだった。
懐から注射器を取り出して取り急ぎ首にぶち込む。

眼球に強烈な痛みを生じさせて『目』が開眼する。
何度もこの薬は試している。人外の世界を覗き込むための薬だ。
目に見えない異能や、異質な存在を『視認』するための薬。
それによって開いた眼が、『ネットワーク』を捉えた。

「まっず……!」

思った以上に、風紀が。
いや、もっと言えば神代理央以外の存在同士が強く連携が取れている。
罠を這って呼び込んだつもりが、罠に捉えられていたのはこっちか。

「本当……心の底から楽しいなこりゃ」

白面を深く被った上で、『スイッチ』を起動させた。
少年の首筋に打ち込んでおいた無痛針から薬品が射出され、
微量の毒が全身を回っていく。
その様子を見るわけにはいかない状況のようだが、
毒によって骨や肉が溶かされ、絶命するだけではなく死体自体が毒となって
こちらの痕跡に紛れを起こさせ、捜索の手が若干止むことを祈っての一手だ。

同時に追加の薬を腕にぶち込み、
こっちは『筋量増加の異能』を付与するものだ。
異能によって膨れ上がった両足が、今までの何倍もの速度で体を落第街から遠ざけていく。

全力で逃げに徹して、追いつかれたらまあそれまでだが、
とにかく圏外まで逃げる必要がある。
風紀の異能持ちがどの程度の異能者なのかはわからないが、
一瞬見えた『ネットワーク』に俺個人の情報まで把握されていないと考えるのも甘すぎる気がした。

何にせよ、企みは足がつき、
痕跡を残したまま失敗に終わったようだ。
本当、参るな。

「――悪いことも、簡単にはできない世の中だ」

誰かに覗かれていた感覚をそのままにして、
俺は牙を剥いて笑った。

何、チャンスはまだいくらでもあるし、
ここを逃せば終わりというわけじゃない、
少年の死を、また風紀のせいにして暗躍することもできるし、
ここで、ここ程度で、俺の悪を終わらせるつもりもない。

廃ビルの闇に溶けるようにして、白面の下で笑いながら走り続けた。

ご案内:「落第街大通り【鉄火の支配者】前 廃ビル」から城戸 良式さんが去りました。
エインヘリヤル > 「索敵は引っかかったが、全力で逃げを打った……という感じかしらね」

高速で遠ざかる反応を追いかけるような体勢ではない。

今回の目的はそもそも、神代周りの地固めだ。
逃げる相手までを全力で追い回すのが目的ではない。
ましてや陽動の可能性もある。

なんにしても、相応の能力があるか、準備がある相手の模様。
当然といえば当然でもあるのだけれど、

「基本的に、行動は打算のもとに行うものだもの」

勝率の見えない行動をする理由はない。
相応の勝算を元に、準備と退路を整えて実行するもの。

でなければこんな手の込んだ準備はしない。
人は道具として比較的安いが、育成に時間がかかるのが欠点。
子供ともなれば、命をたぶらかすのに相応に仕込んでいる。

ああ、惜しいな。

対等ぐらいまでの条件なら引き出せないこともないのだけれど。
この相手はおそらく、それでは満足しないだろう。
せめて8割位を望んでくるし、7割では納得しきらないかも。

とはいえ、出来るのはせいぜい、日陰からの支援程度。
あまり甘さを晒すなら……死ぬしかないわよ、神代さん?

そんな事を考えながら、ファミリアに追手を諦めるよう指示、再配置を促しつつ。

ご案内:「落第街大通り【鉄火の支配者】前 廃ビル」にモノ・クロさんが現れました。
モノ・クロ > 「…………」
今日の寝床はどこにしようかな、などと考えつつ、廃ビルに入っていく。

エインヘリヤル > ……まあ警戒が上がったここから、改めてなにかしようというものも、少ないかしらね。

すでに、騒動は起こってしまった。
明らかにテロというかたちで。

実際問題、未然に防いだとは言っても、起きたものは起きてしまった。
起きた以上、なかったことにはならない。
そういう勢力が明確にいることになる。

ただ、そのへんの政治は神代がわの問題で、こちらの問題ではない。

ということはあとは警備の仕事であり、私の仕事はほぼ終わったと言える。
……さて。

モノ・クロ > 「…うん?」
人影が見える。どうも先客が居ただろうか?
目を凝らして見てみる。

エインヘリヤル > 明らかに騒動の後。
場違いのような相手い苦笑する


「……わざわざこんな危ないところに」

最も、怪異からすれば危ないも危なくないもないかもしれないが。

モノ・クロ > 「危ないって何が。そっちも同じだろうに」
えーと。確か…エインヘリヤル、だったか?確かモノが釣られてた。

「寝床探しに来たんだよ」
まぁ、モノの扱いが出来る人間は貴重だ。琴線に触れない限りは手は出さんでおこう。

エインヘリヤル > 「こんな騒がしいところに寝床なんか探しに来ているからでしょう」

そう言うと、ファミリアたちとは一旦離れる。
ココで大事なのは、今はこっちだ。

「それで、ココで良ければ別に構わないけれど?」

野宿じみた勝手が好きならそれでもいい
問題は、本人がどうしたいかでしかない。

たまたま便利だから、ココを使っているだけでしかない。

モノ・クロ > 「変なの連れてるんだな」
離れたモノをみて。
「邪魔なら、別んとこ行くが。『休ませたい』だけだし」
別に場所が重要な訳ではない。『休ませられる』というのが重要なのだ。

エインヘリヤル > 「なるほど。
 落第街がどうしてもいい、というならともかくそうでなければ場所なんかいくらでも作れるでしょうに」

妙だ。
まあ目の前のコレは見たままではない。

となれば、理由は他にもアリそうな気もするのだけれど。
もしくはシンプルすぎるのかもししれない理由かもだけれど。

何れにせよ。
何がしたいのかが重要だ。

モノ・クロ > 「隠れられる場所が良いんだ。騒がしいと休んでられないからな」
雨風程度なら自分が守ってやれるが、それ以外だと自分じゃ対処出来ないかもしれない。
素体は人間だから、弱い。

自分だけならまだしも、モノがいるからこうなっている。
「場所を借りて、んで誰も呼び寄せないなら使わせてもらいたい」

エインヘリヤル > 「ああ。そういう事なら、なにを今更」

妙なところで律儀な怪異ではある。
先日懇親会について来ておいて今更どうという話でもない。

つまりは……モノの方はともかく、クロの自分は私と懇意になったわけではない。
だから、そういった相談をしかけてこなかった。

そういうこと。

可愛らしさに苦笑しそうになるが、それは少々失礼になるだろう。

「なら、別にココでなくとも、私の方で用意してあげるわ」

おそらく……思い当たららなかったのだ、この怪異は。

モノ・クロ > 「…悪いが馴れ合う気はない」
モノを食い物で釣れたから、と。侮っているのだろう。
私達のことを、解っていない。
懐に爆弾を抱え込むようなものだろうに。
「場所の用意も必要ない」
モノの貸しはここまでだ。これ以上侮るなら、殺す。
暗いビルの中を、見えないように、呪紋を広げていく。

ご案内:「落第街大通り【鉄火の支配者】前 廃ビル」にエインヘリヤルさんが現れました。
エインヘリヤル > 「それならそれで構わないけれど」

ご自由に。
問題はない。

「単に、私の関りのない場所で、一部屋を空けることくらい問題ない。

 そう言っているだけよ」

別に侮るもなんでもない。
得体のしれないものを懐に入れる気など最初からあるわけでもない。

ただ単に【どこか適当そうな部屋を空けるくらいのことは可能】

それだけのこと。

「それもいらないと言うならご自由に。
 別になにかを貸しつける気も強いる気もないわ。

 単に、【知り合い】に【余っている傘を渡してもいい】だけ。
 そこになにか問題が?」

それもいらないなら、別にどうだっていい。
保護者でもなければ、面倒を見たいわけでもない。

この程度のことで、誰かの自尊心に穴を開けたいわけでもない。

モノ・クロ > 「いらん」
彼女の紹介がある時点で、なにかしら彼女の手の入った場所であるということだ。
全く関係が無いわけでは絶対にない。
「怪異と馴れ合いたいっていうなら、そうしてやるよ」
そして決めた。こいつは侮っている。
『話し合える相手』だと思っている。『施す側』だと思っている。

我慢ならない。

地面に伸ばしていた呪紋を、エインヘリヤルに向ける。

エインヘリヤル > 「それならそれで構わないわ、ご自由に」

エインヘリヤルは姿勢を崩さない。

「ただ、こちらによくわからない理由でよくわからないことをよくわからない憤りをされても」

そもそも、先日無理を言ってついてきておいて今更何を言っているのか。
こちらの保護どころか、半ば甘えて無理を言っていて。
それを見過ごしておきながら、何を偉そうなことを。

「その誇りは懇親会の前に言ってほしかったわ?
 その理屈は、私に頼み込まずに打ち倒して懇親会を乗っ取るべきだったと。
 ……そういう話のはずでしょう。

 私、なにかおかしいことを言っている?」

話し合える存在に指定したのはそちらであってこちらではない。

スイーツも懇親会もタダではない。
望んで人に散々世話になっておいて。少なくとも相方のそれを良しとしておいて。

望みもわからないまま、憤られたところで対応のしようもない。

「気に入らないならそれで構わないけれど、それはタダ合わなかっただけの話でしょう。
 あと、モノに尋ねてから言ってほしいわね。

 散々世話になっておいて。それをスルーしておいて。
 モノのことは関係ないと、相方の管理まで私に責任追わせる気?
 それは私の領分でなくてよ。

 私がOKして、あなたがスルーとはいえOKした。

 その関係に、怪異とかどうとか関係ある?」

別にどうしようと構わないが。
先日までの行動を勝手になかったコトにされても、困る。

呪紋がどうとかそういう問題ではない。
信義の問題だ。

むしろココで怯んだら、それこそ馴れ合いだ

モノ・クロ > 「難しいことはよくわからん。ただな…私はあんたを『気に食わなかった』。モノが世話になったのは確かに感謝はしてる。だが…」

エインヘリアルに、ゆっくり、呪紋を伸ばす。

「そんな『くだらないこと』で、私を思い通りに出来ると思うな」

殺すつもりで。

エインヘリヤル > 「……はぁ」

嘆息。

感謝してるならコレはなんだと言うほかない。
そういうときにするのは、ナイフを振り上げることではない。

「なんで思い通りにしなきゃいけないの?
 そもそも、どちらかがどちらかを思い通りにする、したい、そういう関係だったかしら?

 それとも、侮られたり、貶められたりしたいわけ?」

それではタダの癇癪持ちだ。

「少なくとも、面倒を見る気もなければどうこうするつもりなんてないわよ。
 するつもりがあったら、懇親会で自由に泳がしたりせず、もうすこし管理してるわ?

 だから、基本だけ教えてずっと放置だったでしょう……それに」

一旦言葉を切って。
そもそも恩を着せたいわけでもない。
そういう細かい多少の事を気にしなくていい関係だと思っていただけだ。

「【場所を借りて、んで誰も呼び寄せないなら使わせてもらいたい】
 って言う【あなたの要請】に応じたことでこうなってる。

 で……こんなものに怯んだら、それこそ【対等】でも【知り合いや友人】でもなくなるでしょうが」

別に理由まで問い詰めてもいなければ、求めてもいない。
金十字の瞳でまっすぐに見据える。

くだらないこと?

そのくだらないことを要求したのはそっちであって私ではない。一切ない。
故に怯む理由にもならなければ、脅しに引く理由にもならない。

それは対等ではない。

モノ・クロ > 「対等じゃなくても知り合いや友人でもねぇよ」
呪紋を触れさせる。最大限に呪いを注ぎ込んで。

「人間と怪異。相容れないモノ同士。私はお前たちが嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて仕方ねぇんだよ!!!!」
怒る。感情に身を任せて。
そうだ、元来自分は『こういうもの』だ。理屈なんて知ったことか。
私は『怨念』と『憎悪』の塊なんだ。

エインヘリヤル > 「……嫌いで結構。恨めしくて結構。
 それを良しとしたのは私ではないもの。

 あなたの責任なんて他人である私が知ったことじゃないわよ」

捨てられた犬のような恨みの慟哭など知ったことか。
勝手に処理しろ。
だいたい、坊主を憎むのは構わないが、袈裟の私には無関係だ。
知ったことではない。

故に、避けない。
避けたら嘘になる。

信用できなくて噛み付いてきた捨て犬とはじっと付き合うしかない。

泥など、かぶるしかないだろう。
付き合うことを決めるとはそういうことではなかったか?

呪いの分は受ける。
それは仕方ない。

どうせクズで身勝手で、不安で、何かのせいにして噛み付いていないと気がすまない。
自分はダメでクズでどうしようもないクソザコナメクジのまま、なにも出来ずに、なにも持ってなくて。
奥底を覗くのが怖い代わりに周りにそれを振りまいて逃れようとする、それ。

ああ、しばらくは動けないわね、これ。
手足の感覚がない。

仰向けに倒れ伏したまま、いわゆる呪いというやつの感覚を受けるしかない。
だって、こんなの受けるしかないじゃない。

わかって欲しがって、もしくはわかられたくなくてこんなコトしてる相手なんだから。
避けたら、こちらが嘘を言っていることになる。
それこそ、嫌いで恨んでるような相手と一緒になる。
おそらくはきっと、そう貶められるのが望みなのだろうし、正しいのかもしれない。

ただこう、残念なことに。
こんなの、どうしようもなく底のないおぞましいそれなのかもしれないけれど。

手足が腐って、蛆が湧こうが、泥にまみれて足蹴にされようが。
そういう感覚はそれ自体、何も嬉しいことではないのだけれど。
そもそも、生きるときに他人を踏みつけにする以上、いつかどこかでその覚悟はしておくべきじゃないのかと。

優秀とは、それに納得することではないのかと。






……少なくとも、エインヘリヤルの行動指針にはそう、インプットされている。
クロも、エインへリヤルもそれを、知らなかった。

モノ・クロ > 「…なんなんだよ、あんた。」
全身を呪紋で侵しておきながら、たじろいでいる。

こんな人間、見たことがない。

どうしてそうまで受け入れられる。

理解できない。

耐えるでもなく、抵抗するでもなく、受け入れている。

初めてだった。こんな相手は。

一体何が、ただの『怪異』に、こうするんだ。

命が惜しくないのか。それとも…

「…くそ」

間違いだった。
人間なんてみんな自分勝手だと思っていた。

こいつは『自分』を『天秤』にかけてる。それも、こんな怪異に、あんなクソみたいな感覚に身を委ねて良いとするほど。

「…ちっ」
呪いを、引っ込める。エインヘリヤルの呪いが解けていく。

他人を嬲って悪感情が出るなんて初めてだ。

エインヘリヤル > 「……あら。
 ありがとう、とは言わないわよ?

 お互い間違っていないんだから」

服のホコリを払いつつ。
何事もないように、ゆっくりと立ち上がって

ありがとう、とはいいことをしたときに言う言葉。
つまり、ココで礼を言ってしまうのは、悪いことをしたという話にしてしまう。

そもそも誰も悪くない。

「言ったでしょう、対等だと。
 受け入れたくないなら最初から手なんか出さないし、対応もしないだけよ。

 あなたの要請に応じた以上、こちらにだってその分の責任はあるもの。
 ……それがなにかおかしいことかしら?」

最初から【提案に応じた】というそれ以上の関係でもない。
応じた以上、知らないでは済まされない。

それだけの話。

「……いわゆる世間の【自分をどうしようもないゴミみたいに思う不安な感覚】、知れてよかったわ?」

人心掌握にはそういう感覚を知っておくのも悪くない。
好むかどうかはさておき、物事である以上、理解は出来るのだから。

「で、どうする?
 私としてはどちらでも良いわ」

恐ろしいことに、笑顔でさっきの話を続けた。
金十字の瞳が笑う。

モノ・クロ > 「…私としてはここ使えればよかったんだが。そうまでされて、となると流石に後味が悪い。と言うか…これ、話噛み合ってなかったんじゃ」
自分の悪いところだ。ここで良い、といったつもりが相手には部屋を使うと取られたらしい。
どうにも会話は苦手だ。
「借りだな。こっちの勘違いで迷惑かけた。世話にならせてもらうよ」
両手をあげ、降参のポーズ。どう考えてもこちらの不備だ。なら、相手に従ったほうが良いだろう。

エインヘリヤル > 「ふふ……別に無理はしなくて良いのだけれどね?
 お互い言葉が足りなかったのはそれはそれで仕方のないことでしょう。

 誰が悪いのでもないもの」

ふふふ、と意地悪く笑う。
これくらいのからかいは許されるだろう。

結果さえ得られるなら、文字通り泥水をすすっても構わない。
それがお互いのためになる。

「なら、適当にご希望近辺の場所を空けるわ。
 数箇所くらいなら問題ないから、落第街もそれ以外も適当に言ってもらえれば」

先程の呪いなど何ごともなかったかのように振る舞う少女は、ある意味、怪異みたいなものかも知れなかった

モノ・クロ > 「…私が言うのも何だけど、不気味だよあんた」
苦笑いしながら。
あの呪いを受けてピンピンしてるのは流石に気味が悪かったようだ。

「暫く世話にならせてもらう。出来る限りそっちの関係者も襲わないようにはする。」
頭を下げる。普段なら嫌いな人間にこんなことはしないが。
彼女は、違うように感じた。

エインヘリヤル > 「……対等がそんなに怖い?
 ならそれはきっと、自分の奥が怖いのよ」

金十字の瞳が細められる。

そうデザインされた少女は、していいと思ったことについては躊躇がない。
容易に自身をなげうってくる。

そういうモノで。

「ふふ、ありがとう。
 怪異から心遣いがいただけるなんて、それこそ光栄だわ」

ころころと笑うさまは、年齢相応の少女の笑みだった。
モノにはそれがやはり不気味かも知れなかった

モノ・クロ > 「…で、怪異と仲良くなって、どうするつもりなんだあんた」
純粋な疑問であった。
こんな『厄介者』と仲良くなってなにか利があるのだろうか?

エインヘリヤル > 「どうするつもりって……さあ?」

サラッと言いきった。

「そもそも、どういうつもりかで仲良くなるものでもないでしょうに。
 それに打算なら、もっと明確に利用し合えばいいだけだもの」

何事もなかったかのように。
そもそも、エインヘリヤルにとって、優秀ならそれでいいしそれだけでメリットが有る。

「人付き合いなんて、嫌でなければそれだけデメリットがあるのよ。
 別に打算だろうとそうでなかろうと、あまり大した違いなんてないの、そうじゃない?」

そういう意味では実際、ある種の化け物のようなAIであるかも知れなかった。
別に、この程度、どうとも思っていないのだ。

死ななければ、安い買い物でしかない。

モノ・クロ > 「…すまない。そういう関係を、持ったことがないもんでな。想像上でそういう付き合いしか無いと思っていた。」
吐露するように。
自らを呪いに変ずる怨念と憎悪だ。まともな人間関係は築けていない。

「そろそろ休むことにするよ。場所、教えてもらえるか?」

エインヘリヤル > 「特に希望はなし? なら、落第街のココはどうかしら」

落第街としては至って普通な場所。
良くも悪くもない。

適度に表から離れていて、適度に安全で、適度に便利で、適度に不便。

ファミリアがいる場所を空ければ、いつでも場所など作れる。
何処かの一人暮らしのファミリアが、誰かと同棲になるだけだ。

なにも問題はない。

「いいのよ、恨んでも。ありえなくても。
 ただ、アイデンティティとしてはいまいち弱いから、その先も考えておくといいわ。

 でないと、弱くなることあるわよ」

弱くなることが、必ずしも弱いとは限らないし望んだ結果かもしれないから、別にそれはそれでありだけど。
と付け加えて。

「人なんていい加減なんだから……時に、ついうっかりで受け入れるものよ」

出会いガチャに当たるかどうかで。
運と回転数が全てだ。

モノ・クロ > 「うん、ここで良い。あいでんてぃてぃっていうのはよくわからんが…まぁ、考えておくことにするよ」
恨んでばかりじゃ居られない。憎んでばかりじゃいられない。多分、そういうことだろう。
「じゃあ、今日はこの辺で」
そう言って踵を返す。

エインヘリヤル > 「それじゃ、おやすみなさい」

よくわからないながらも感じたことが否定できずに納得せざるを得ない。
そんな、微妙な面持ちの彼女を見送る。

まあ、そんな日もあるだろう、たまたまそれが今日だっただけのことだ。
運など、そんなモノだ。

なにが起こるかわからない。

もちろん付き合いなんて打算も多いが、付き合ったのならそれは縁があったのだから。

ご案内:「落第街大通り【鉄火の支配者】前 廃ビル」からモノ・クロさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り【鉄火の支配者】前 廃ビル」からエインヘリヤルさんが去りました。