2020/07/24 のログ
『シエル』 > 彼が手札を隠し持っていることなどシエルは知る由もなく、
またこの死地を切り抜けるのに知っている必要も、ない。

何故ならば目の前の彼が隠さず、柱として持っている『直す力』こそが、
この局面を切り抜ける切り札となるからだ。

不可逆を可逆とする、大それた能力。
覆水を盆に返す、破格の能力。

穴へ向けての全力疾走。
既に距離は詰まっており、穴の外から漏れ出る月の光と
夜の涼しげな空気が彼らを迎える。

数多の銃弾が、二人の背後の床で、弾け飛んでいる。


「今――」

そう、口にした瞬間だった。
二人の間へぬう、と横から割って入る影。

『待ちやがれ、この……!』

それは、建悟に銃を突きつけた男だ。
霧の向こうで男は、こちらへと拳銃を向けているのがわかる。


対し、無言のシエルの手はその胸元へ。

刹那。

霧の中で月光が閃けば、男の手にしていた拳銃が弾かれ、
床を滑っていく音、そして男の悲鳴が鳴り響く。

拳銃を弾いたもの。
それが小振りのナイフであったことを男が知るのは、ずっと後の話だ。

ナイフを投げる動作は、ほんの一瞬。
その動きには何の迷いもなかった。
その動きは、プログラミングされた機械の挙動。
その動きは、数多の訓練と実戦を経験した熟練の兵士の動作。

「お願いします」

呼吸を乱すことなく、凍てついた声をそのままに、
シエルは建悟へと声をかけ――


――月へと、跳んだ。

背後には、二人を蜂の巣にせんと弾丸が迫る――

ご案内:「某違反部活の拠点」に『マーレ』さんが現れました。
『マーレ』 >  
……いきなり呼ばれたかと思えば待機。
私も突入したほうが良いのでは?という疑問は却下

……まあ、違反部活とはいえ、小物にすぎる相手だ
これを真面目に叩くのもどうか、というところだろう……

にしても、此処で待て、とは……?

角鹿建悟 > 破壊の力とは対極にして対なる力。命と心は直せない枷はあれど、だからこそそれ以外の全てを直す為に。
彼女に付いていける程度に体は鍛えている。全力疾走で、それでも手を繋ぎながら穴の外へと向かってひた走る。

――銃弾が男の衣服の一部を掠めた。別の銃弾が少女の髪の毛の端を焼き切っていく。
それでも、止まらない――走れ、走れ、走れ!!

「――照準固定・逆巻け(セット・リバース)」

彼女の合図と同時に、右手の時計盤の針が一気に逆方向へと回転する。
と、まさに発動しようとした瞬間に最後の妨害が入る。この違反部活のリーダー格の男だ。だが――

「――っ!…一時凍結(フリーズ)…!」

逆巻く時計の針を一度強引に止める。発動したそれを無理矢理一時停止に追い込んだので、相応の負荷は掛かるがそこは――気合と根性、男の意地で耐えようか。

「……!?」

それでも、拳銃の銃口が向けられている以上、回避は男には困難――だったのだが。
一瞬、シエルが胸元に手を入れたかと思えば――霧と月光に煌く何か。
それがナイフだと気付けたかどうか――ともあれ、それは正確に男の持つ拳銃を弾き飛ばす!

「――解凍(リリース)…!」

そして一時停止を解除。彼女の合図と共に能力を発動――そして、同時に二人は穴から月光輝く空へと”跳び出す”。
背後の穴は男の能力による巻き戻しで一瞬で完全に修復され、その追撃を防ぐ楯ともなろうか。
何発かは壁が塞がれる前に飛んでくるが、それも”巻き戻されて”いく――その意味に気付く者は果たして居たかどうか。

「――シエル、問題が一つある」

人間とは基本飛べないものだ――つまり、まぁそういう事な訳で。

「――流石にこのままだと落下死するんだが」

と、この期に及んでも至極冷静に次なる危機を口にしつつも、そのまま――重力に引かれるが如く、当たり前のようにその体は落ちていく事になる訳で。

『シエル』 > 破壊と対を成すその力。
この男の素性も過去も、多くは知らない。
しかし、この力だけは確かに信頼できる。
それは実際にこの目で何度も、見てきたからだ。

そして、戻っていく弾を背中に感じればやはり、と。
シエル――エルヴェーラは、内心頷く。

『直す』能力。
それは彼の柱であるがしかし、彼の異能の一側面でしかないのだ。
この能力、感情をぶら下げているだけの三下ではなく、
真に理解している者に目をつけられれば――


――思考を払拭。
跳んだ後、問いかけられる声に、シエルは静かに返す。

「その件に関しては問題なく。既に、手は打ってあります」

それは、彼女の最も信頼する仲間の一人――

『マーレ』 >  
"何か"の音とともに 
……
お嬢……いや、『シエル』と、見覚えのある男が空から降ってきた

ああ、そういうこと。
せめて、なにかこう説明を……
いや、説明していたら私が止めていたか
見透かされている

まあ、仕方ない

「位置は、この辺、か……」

二人分受け止めろとは、また無茶を言う。
まあ、それくらいは余裕だけれど。

――筋量、調整
――体格、調整

「来い……!」

腕を広げ、二人を迎える

角鹿建悟 > ――角鹿建悟は気付かない。彼はまだ己の能力の”本質”を知らない。
何故なら、彼は”直す者”だから――あくまで力の一側面しか未だ知らないから。
だから、背後の壁を修復して塞ぐ前に銃弾が二人の背中を狙って飛んで来た事も――それが”巻き戻された”事も気付けないまま。

「――アンタがそう言うなら問題は無いんだろうが、もう猶予は無――」

と、何かに気付いて落下地点へと視線を向ける。――金髪の男性、だろうか?
”初めて見る顔”だ。シエルの知り合い…なのだろう。手を打ったとはつまり彼?の事か。

腕を広げているが、まさか自分達を受け止めるつもりだろうか?
とはいえ、直す能力ではもう出来る事は何も無い。右手に浮かび上がっていた時計盤は既に消えている。

「よく分からんが――済まないが任せる…!!」

自分と彼女の受け止めは彼?に任せる。シエルが信頼しているのなら、自分も信じるべきだろう。

『シエル』 > ――時間操作。
それは、一方向へと流れる筈の途方もない量の水の流れを、
ただ一人で変えてしまう、荒唐無稽の大技だ。
一体どれだけの負担が彼の身体にかかっているのだろうか。


「助かりました、マーレ」
筋力、体格共に最適なものへと『調整』をし、
受け止めてくれた仲間にシエルは礼を言う。
流石の精度であると、シエルは小さく頷くことで
改めてその意と感謝を表した。

「さて、それでは……後は一人で帰れますね?」

そう口にしつつ、建悟の方へと向き直るシエル。
力について、忠告をすべきかとも迷ったが、それは今はしない。
おそらく、『それでも直す』と意志を返されるだけだろう。
シエルはそう、判断した。だから、最後にはこう口にする。

「建悟。大きな力には必ず『伴うもの』があることを、
 忘れないでください。それは貴方の目に見えるものだけ
 では、ありません」

それは、彼は勿論、自身にも向けた言葉であったろうか。
白の髪と制服のスカートを揺らしながら、
シエルはマーレの方へと顔を向け、静かに一度だけ頷くと、
歩き出すのだった。

『マーレ』 >  
「やれやれ……」

一息。
無茶はいつものことだが……
……ああ
少しだけ、記憶にある。確か、前に……確か、うん。

「……仕事もいいが、周囲の注意や護衛くらいはなんとかしたほうが良いな」

ボソリ、とつぶやき
シエルの後を追う

角鹿建悟 > 結果的にしっかり危なげも無く受け止められる。人間二人分の重さでしかもかなりの高さからの落下だ。
それを受け止めて平然としている時点で只者ではないのは分かるが――

「――マーレ、というのかアンタは。俺は角鹿建悟という。シエルとは知人でな」

ともあれ、受け止められてから自分の足で地面に降り立てば、彼女が名前を呼んだ彼?に会釈しつつ自己紹介と礼をしておこうかと。

「――ああ、助かった…この”借り”は何らかの形できちんと返させて貰う。マーレさんも改めてありがとう」

と、二人に会釈をしつつ――ああ、今から現場入りしてもかなり遅延になりそうだが仕方ない。
だが、その仕事の事よりも――シエルの”忠告”が気になった。伴うもの――力の代償、だろうか?

「目には見えない――か。分かった…肝に銘じておく」

頷く。自分の力の代償は、主に気力や体力なのだが…そんな単純なものではない。
シエルが忠告した事は、もっと深い意味があるように感じた。

と、去り際のマ―レの言葉に、肩を竦めて。「そこはまぁ善処する」と一言。
護衛を毎度都合する余裕が実はあまり無いのが現状なのだ。人員不足というやつか。

「――改めて、助かった二人とも。感謝する」

一足先に立ち去る二人に一礼をしてから、男も仕事現場へと急ぎ歩き出そうか。

――彼はまだ知らない。己の力の本質とその危険性を。

ご案内:「某違反部活の拠点」から『シエル』さんが去りました。
ご案内:「某違反部活の拠点」から角鹿建悟さんが去りました。
ご案内:「某違反部活の拠点」から『マーレ』さんが去りました。
ご案内:「元トゥルーサイト部室跡地」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
日ノ岡 あかね > 別に、そこを好き好んで選んだわけではなかった。
たまたま、十架との戦闘から撤退した先で、人気のないところが……そこだったというだけだった。
以前、『話し合い』をした場所。
瓦礫と、『トゥルーサイト』のシンボルであった……一つ目を象ったエンブレムだけが壁に残された廃墟。
そこの片隅に座り込んで、あかねは荒く吐息を吐いた。

「はぁ……か、は……あ、がああ……!!」

一度引き千切ったリミッターを無理矢理首にまた巻き直し、呻く。
口から唾液を垂らし、身を屈めて、何度も深呼吸を繰り返してから。

「……あ、ああああ……しゃ、しゃべれてるのかな……わかんない」

薄く涙を浮かべて、自らの身体を両手で抱きしめた。
リミッターを外したのは……久しぶりだった。
もしかしたら、もうこれも『ダメ』になるかもしれないと思った。
怖かった。
どうしようもなく、恐ろしかった。
だが、怖くても、辛くても、苦しくても。
……やるしかなかった。
今、『真理』に手を伸ばすのと同じように。

「……ん、んん……誰もいないと確認できないのが難点ね」

一応、喉の触感や、喉の奥の唾液の匂いなどを嗅覚で確かめることで多少は確認できる。
だが、確実ではない。
……一人の時は、本当にそれが怖ろしい。

「……どうしようもないけどね」

一人、あかねは溜息を吐いた。

ご案内:「元トゥルーサイト部室跡地」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
日ノ岡 あかね > 相変わらず、何の音もない味気ない世界で……あかねは目を細める。
異能疾患……《無有病》(シックネス・センス)を患ってから、ずっとこうだ。
その治療のために、あかねは常世島に訪れた。
あらゆる方法を試し、絶望的な手術や魔術儀式にも挑んだ。
何度も、何度も。
激痛で眠れない夜もあった、悪夢にうなされ続ける日もあった。
見えもしないものが見え、ありもしない何かの匂いを感じ、指先には常に見えない何かが触れ続け、食べもしないものの味が口中を満たすこともあった。

それでも、ダメだった。
 
何もかもが、あかねに『音』を返さなかった。
……幻聴すら、聞こえなかった。

「……」

静かに、吐息を付いた。
あかねの『願い』……細やかな『願い』だ。
あかねは……『音を取り戻す方法』を知りたいだけなのだ。
それを……『真理』に尋ねたいだけなのだ。
知ってるなら、別に『真理』相手じゃなくてもよかった。
だが……現世の、少なくともあかねが関われる範囲の全てが誰もそれを知らなかった。
これは……それだけの話。

「……前はまさか『声だけしか聞こえなかった』のは誤算だったけど……今度こそは」

『トゥルーサイト』も、『真理の声』しか聴けなかったのは全く誤算でしかなかった。
音が一切聞こえないあかねには……目前で仲間が死ぬのを見るほかに出来る事など、何もなかった。
だから、今回は念を入れた。念入りに他の手段を準備した。
……今度こそは。

紫陽花 剱菊 >  
溜息をかき消すように、音が聞こえた。
足音だ。わざとらしく、瓦礫の中で乱反射する足音。
公安委員会と言う立場上、"其れ"の情報は知っていた。
実際に訪れたのは、今日が初めてだ。
兵共が、夢の跡。かつて、『願い』を求めた輩の地。
崩れた隙間から僅かに差す月明りとは違い、紫紺の光が、宵闇を照らす。

疲労困憊、音も無き静寂の『夜』
其処に、"天災"の名を持つ男が現れた。
同じ夜に、其の『願い』を奪わんとした男が、其処に現れた。
紫紺が照らすは、初めて会った時と変わらぬ仏頂面。
さながら、あかねにとって今の姿は何に見えるだろうか。
静寂に現れた、彼女にとって『手のひらを返した』此の男を。

「…………あかね。」

静寂に響く、男の声。
当然、水面に波紋は広がらない。

日ノ岡 あかね > 「……今更何しにきたの」

一瞥だけ返して、あかねは呟いた。
その言葉が正確に発音されているかどうかすら、今のあかねには分からない。
……ずっと分からない。
ずっと。

「ほっといてくれる?」

短く、あかねは呟いた。
そこに……以前のような笑みはない。
疲れ切った少女の……諦めたような表情だけが、そこにあった。

「それとも、またその刀で『脅す』わけ? 『真理』で死ぬくらいなら殺すって」

皮肉気に、そう呟く。

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

当然の反応だ。
自分がしたことを忘れた訳でも
"彼女がどんな世界にいた"かも、知らない訳じゃない。
其の疲れ切った顔が、本音なのも承知している。
戦人の機敏か、僅かな匂いが、あかねが何をしたか、物語る。
拒絶をされても、剱菊は一切気にする様子も無く
何かを発する事も無く、答えもせず
足音を立てて、歩み。響かぬ夜の静寂に、音を擦りつけるように。
あかねの隣へと、歩いていく。

日ノ岡 あかね > 返事がない。
溜息を吐いて、あかねは付けたばかりのリミッターを外した。
一度でも外したのだ、これを外したことでもうあかねは『元違反部活生』から立派な『違反部活生』に正式に戻ったことになる。
委員会からは、着脱の許可は出ていない。
外した事は上にどうせ既に知れている。
今すぐにでも風紀に踏み込まれたって可笑しくない。

事実、公安職員はもう一人踏み込んでいるともいえる。

だから、あかねは遠慮なくリミッターを外し……異能を垂れ流した。
不随意でも、リミッターがなければあかねの周囲5m前後は無音になる。
そう、5m。
好都合だった。
何もかも。