2021/12/07 のログ
ご案内:「スラム」に八ツ墓千獄さんが現れました。
八ツ墓千獄 >  
「──♪ ───♪♪」

月影の下、心地よさげな女の口遊む歌がスラムの路地に小さく響いていた

この場には目立つ、紅い制服
血拭いに丁度良い腕章を手に刃に滴る鮮血を拭い落とし、ぱさりと地に落とす
薄い鞘鳴りと共に、月を侍らせた美しい刀身は鞘に収まり…辺りに訪れるのは、静寂──

「…堪能しましたか?墨桜」

刀に話しかけるように呟きを零し、帯刀している黒鞘を撫でる

今日は、特に見初めた刀剣の持ち主がいたわけではない
ただ…刃に血を吸わせるのに"丁度良く"、"飽きそうにない"…そんな相手がいてくれたから、興が乗っただけだった

この制服を着て、この腕章をつけて此の場に訪れる者は、戦闘能力が高いことを知っていた
興が乗ったついで、たまには運動もしなければいけない…ただただそれだけの理由で…

女の足元には3名の、刃傷遺骸が横たわる

ご案内:「スラム」に夕霧蒼真さんが現れました。
夕霧蒼真 >  
救助要請を受けた。そしてすぐさま急行した……しかし遅かった。その連絡が途絶えた時点で状況は理解していた。
その場にやってきたのは1人の男。今切り刻んだばかりの紅い制服と同じものを身にまとった男。左腰には刀を括り付けている。
足元に転がる死体を一瞥。駈け寄ったり、取り乱したりはしない。

「……風紀委員。夕霧蒼真だ。殺人の現行にて拘束させてもらう……その手に持った刀を捨てろ」

まっすぐに女を見据える。肩幅に足を開きながらもわずかに左足を後ろへ、そして右手を刀に手をかけたまま一言警告を発する。
それはその後の言葉を告げずとも意味は通じるだろうか。
 
 
 
 
              
                    従わぬならこの場で切り捨てると。

八ツ墓千獄 >  
「──あら、あら」

声をかけられた女はくすりと唇を笑みに歪めた
月の下、黒衣を纏った女はどこか不敵で、不気味さすら感じられる

そんな女の紅玉の瞳が、新たな来訪者へと向けられる

「……現行犯、ということなら」

「わざわざ声などかけずに取り押さえに掛かれば宜しいものを──」

武器を捨てるなどとんでもない
愛しい幹を撫でるような手付きが柄を滑り、まるで無音のままに黒鞘から刃が抜き放たれる
刀身の乱れ刃紋が妖しくも美しく、月光を映す──

「……それで貴方にはこの肉屑以上の斬り応えを期待しても宜しいので?」

夕霧蒼真 >  
「声はかけるさ。なにせ風紀委員をこれだけ斬った相手だ。不意打ちをしかけてカウンターで切り裂かれる。なんてことも普通にあるから」

相手の実力は十分以上に理解している。間違いなく強い。だからこそ声をかけた。もし抵抗して下がってくれるならと。
しかし、そううまくいくのなら初めから風紀委員を殺してなどいない。

「……その肉屑というのが何を指しているのかは俺にはわからないだけど」

グッと地面を踏み込んだ刹那。地面が爆ぜる。
稲妻のような踏み込み。縮地を利用したそれは一瞬の内に相手の懐へと潜り込まんばかりの勢いを持っている。

「風紀3人が襲われているという報告を受けて……襲っている相手を返り討ちに出来る自信も無いのに突っ込むほど馬鹿じゃねぇよ」

間合いにまで飛び込めたのならその腕が動く。
銀の刀身が月の光を受けて煌めく。左腰から放たれたそれは相手の右腰から上に逆袈裟の要領で放たれる居合。
そこにためらい等は一切ない。殺人の意思を確かに秘めた1撃。

八ツ墓千獄 >  
不意打ちへの警戒を口にする少年には、小さく肩をあげて澄ました顔
相手の持つ能力が不透明な以上は迂闊に間合いに入らない、年齢の割に随分落ち着いているようだ

「…あら、分かりにくかったでしょうか…。
 こちらの、貴方と同じ組織の方ですよね。
 肉も骨も、臓腑も、どれも簡単に擦り抜けてしまう程度の斬り心地で御座いました故…」

饒舌に言葉を吐きながら、無残な亡骸を足蹴にする
既に動かないそれらは女にとって無価値な肉屑に過ぎないのだろう──

そして、一瞬視線を外した瞬間に、少年…蒼真は間合いを詰め、煌めきと共に抜き放たれた一刃が放たれていた

胴を薙がんと放たれた一撃は、高音と紫電の迸りと共に弾かれる
その感触は、同等の斬撃と打ち合ったに等しい感触を少年の手へと伝えるだろう
その間、女の手とその刃は微動だにせず──

女は少しだけバツが悪そうに、蒼真へと視線を戻して

「…ああ」

「バレちゃいましたね。
 ふふ、そうそう…確かに不意打ちはしなくて正解で御座いましたよ」

そうして、ゆっくりと女は抜き身を上段へと構える──

「美しき白銀(しらがね)の刃に興味が湧きました。
 折角の一夜、刃を交えましょう。──その子のことをもっともっと、教えてくださいませ」

まるで逢瀬に赴く乙女が如く頬を染め、濡れた瞳が少年ではなく、その刃へと向けられて

夕霧蒼真 >  
「!?」

 一瞬感じたその不自然な感覚。たしかにそこにはあったのにその場に無い不自然な斬撃。
 相手の能力か、そうは思っても能力の内容がつかめない。
 1歩2歩さがり相手の剣の間合いから外れる。相手の剣の間合いの内だけか外も対象か。

「ああ、その通りだ。同じ組織の仲間だ……だからこそこちらの警告にも従わずあまつさえ足蹴にする奴はゆるしておけねぇんだよ。刃を交えるのは1戦だけだそうだろう」

 抜き身の剣を相手の方へと突き付ける。
 その目は少年の物であって少年の物ではない。数千数万という戦場を超えた武士の目。

「ここで必ず切り倒す」

 そう宣言し、その剣を横振りに振りぬく。それと同時に放たれる剣。文字通り剣を投げつけた。
 横に回転しながら迫るそれはブーメランのように相手へと迫る。
 いつでも手元に取り寄せられる妖刀だからこそできる荒業の遠距離攻撃。

八ツ墓千獄 >  
「───……。嗚呼。好いですね…。
 私、刃だけでなく貴方のような人も大変好みで御座いますよ──」

刀を上段に構えたまま、熱い吐息を零す
堪らない、仲間のために憤ることの出来るような人の振るう、刃はどれほど素敵な太刀筋を見せるのか

先の一撃、打ち払った際の反応を見逃してはいない
おそらく少年はまだ、此方の持つ力と技を不透明なものとしている…
故に、踏み込んではこないことをゆうに見抜いている

…一つ、彼の年齢らしからぬ剣豪のような視線は気にするが、
さて、風紀委員に身を置くとそんなにも場数を踏むものなのだろうか?
が…、それが飽くまで剣の領域であるならば──

「! 刃を手放すとは面白い真似を致しますねぇ───」

襲いかかる刃は、再び先程と同じように火花を散らし弾かれる
やはり女の腕も刃も一切動いていない、一種のバリアのようにも感じさせるだろう、状況

「…"戻る"のでしょう?
 その刃に興味を持つ相手に、わざわざ投げ渡す訳も御座いませんでしょうから、ね」

ブーメランが如く、少年の手元に戻る刃に合わせ、女が地を蹴る
その突進姿勢は恐ろしく低く、身が地に擦れるギリギリを征く。まるで高速で這い寄る蛇が如く
少年の死角から死角へと転ずる、視線で追うことが激しく困難な、独特の軌道──
そして上段で構えた刃は、瞬間仰向けに身を捻り、斬り上げへと転じる

「一度などと言わず…逢瀬は繰り返してこそ、で御座いましょう♡」

地摺りの音と共に放たれるのは、少年の足元から顎先へと斬り上げる──死角からの一閃だった

夕霧蒼真 >  
「そうかよ、お前みたいな女に好かれても俺は全くうれしくねぇけどな」

相手の言葉に悪態でもって返す。
いくら見た目がよかろうと仲間を、罪もない人間を斬り殺す悪党などに好かれてもうれしくはない。
だが、相手の能力は厄介な事この上ない。相手の周りに近寄れば刀は弾かれる。まるでバリアのように。
ではそれにかまけた剣士か?そんなわけがない。むしろそれはオマケだと言わんばかりの恐ろしい踏み込み。

「身体能力も技術も……全部そっちが上か」

死角から死角へと移動するその攻撃は自身の目ではとらえる事は出来ない。そしてそれだけの動きを可能としているのだ。相手の刀を弾くといううごきもできないだろう。
であればこちらの勝ち筋は何か。それはただ1つ。刀によって蓄積された膨大なまでの戦闘経験だけだ。
相手の剣の長さは把握した。であればどのあたりまでならば斬られても良いかは理解できる。そして長さがわかれば攻撃のタイミングはわかる。であればその時自分の死角となっている場所から攻撃が飛んでくる。そこまでを経験で読み切る。
見えていないはずなのに完璧なタイミングでほんの僅かに後ろへと身を引く。腹から胸にかけて切り裂かれ血が噴き出す。だがそれでいい。痛みと血は噴き出すがまだ問題ない。一瞬歯をかみしめる。

「っぐ……その通り戻る。だがな」

戻ってきていたはずの刀は突如消失、いきなり彼の左腰の鞘に収まった形で出現する。

「ただ戻るわけじゃねぇ。急に現れるんだよ覚えておけッ!!」

そのまま抜刀。最も早くできる攻撃。突きにて相手の心臓を狙い撃つ。相手の能力が近寄る物を無差別に切り裂く物なのか。それとも彼女自身の意思で出現する何かなのか。それを見極めるためのカウンター気味の攻撃。

八ツ墓千獄 >  
「そういった言葉は思っても女性には言わぬもので御座いますよお?」

死角からの斬り上げ一閃
振り上げの速度自体は凡庸だろう
ただし手首の返しによる剣先の加速は、ゆうに音を超える
死角から、反応できないのであればこれで決まってしまうのだろうと
見えている様子はない…──ほんの少しの落胆を覚えるなかで

「…おや」

視覚で確認するよりも早く、その手に帰る感触でその"浅さ"を知る
斬り裂きはしたが、骨は断てず、当然その奥の臓腑にも届いていない

そして目にしたものは…宙空にて消失し、少年の鞘へと収まる刃の姿

「──成程。貴方とその刃はほぼ一体となっているので御座いますね」

刀が意思を宿しているか、別の要因からこの少年を主とし力となっているか
幾らも想像はつくものの…実際のところはさてはて…
どちらにせよ、何かしら名のある…なくとも、妖の類に分される刃には違いまい

姿勢を戻すと同時に放たれている突き
抜刀突きとはまた、古豪の好みそうな一撃を

──突きの先端が女の"領域内"へと侵入する、と同時
直進する刃を無数の斬撃が迎撃する
あるいはただの斬撃ならば一度打ち払うのみで終わるのだろう、が
貫通力をもって進むそれはたった一度のそれでは足りない
刃を握る少年の手に返るは、都合八度に渡る斬り払いを刀身へと受けた感触
結果、突きは逸らされ、女の肩口に薄く紅の線を走らせ、紫銀の髮を数本、月夜に散らす

女を中心とした一定の範囲に侵入するものを常に斬撃が襲う空間──そう理解することも出来るだろうか

「……見せすぎましたかね? 見極めるための一撃だったのでしょう?今の突きは…」

クスリと女が嗤う

夕霧蒼真 >  
「女性ならな。悪党に容赦する必要がどこにあるよ」

女性である前に悪党だ。そう断じる。
相手の目に映った落胆は見て取れた。だがそれでいい。こちらを甘く見てくれるのならこれ以上の褒美はない。
甘く見て警戒を薄めてくれればそれだけやりやすくなるのだから。
そして突きに対応するように放たれた無数の見えない斬撃。どう考えても反応できるタイミングではなかったはずのそれにもキッチリと反応した。となれば相手の周囲に無数の剣があるとするのが妥当か。

「ああ、見極める為の突きだ。なにせその厄介な斬撃の檻を突破しないとこっちは勝ち目がねぇからな」

こちらは突きを放った姿勢、かなり近い距離だろうか。その中で相手をまっすぐに見据える。

「今ので分かった事はただ単に斬撃1発を行う空間じゃないということ。そしておそらくだがほぼ自動反撃レベルで行えるってことそして……血が出る以上あんたも不死身って訳じゃない事」

その突いた刀をそのまま引き。相手との距離を開く。
そして構えるは上段。相手が最初に見せたのと同じ構え。

「攻略法は思いついた。上手くいくかはしらねぇけどな」

そういうとこちらも再度踏み込む。だが見て取れるだろう。明らかに踏み込みも斬撃も浅い。
命を刈るというよりただ当てる事を優先させた軽い1撃。弾かれるなど100も承知の攻撃に見える。

こちらが見つけた攻略法は相手の刀の軌跡を推測し、その軌跡のルートを逆から進みそして相手の斬撃より1秒でも早く相手に届かせるという物カウンター所か諸刃の刃も良いところの攻撃。
その方法に至った理由は相手の剣が通っている以上その空間には存在しないはずだという簡単な理屈であった。
しかしこの方法相手の身体能力と剣の間合い、すべてを把握した上で相手の攻撃の軌道を先読みするという文字通り膨大な経験による予知が必要な経験頼りの攻撃。
行ったのはそれの予備動作。つまり相手の攻撃を誘う呼び水でしかない。

八ツ墓千獄 >  
「はて、悪党で御座いますか…? よくわかりませんねえ」

目を細め、首を傾げる
本気で言っているのか、からかっているだけなのか

「なるほど、性質は見極めていただけたようで何よりですが、
 その攻略法は如何なものでしょう…」

鞘鳴りと共に、黒鞘の太刀を納刀する
パチンという心地よい音を響かせて、舐めるような視線が少年へと向けられ

「…私のこの力。
 迎撃能力であるとか、防御能力であるとか」

「それも間違いでは御座いませんが」

女の唇が歪にゆがむ

ザリ、ザリザリ…と耳障りな音がスラムの一角に響く
その音の正体は…女の左右、それなりに広めの路地の、打ちっぱなしの壁が削れる音だった

「それなりに拡大することも出来るのですよ」

「……一太刀頂いてしまいましたからねえ」

紅い線が伝う左肩へと触れ、指についた朱をぺろりと舐め取り、嗤う
多少なり、身を傷つけられたことが女の何かに触れたのだろう

最初は、ゆっくりと
しかし加速度的に、女を中心にした球形に『空間』が拡大してゆく
それにつれ、不可視だったその領域はまるでシャボン玉のように、光が歪曲し視覚に捉えられるようになる
目に見えるようになることでわかるその拡大速度は…少年のいる位置を呑み込むまでにそう時間のかからない程に、速かった

夕霧蒼真 >  
「人を斬って喜ぶ奴が善人であるはずがねぇだろうが。ましてや相手は罪もない人間だぞ!」

相手の様子をこちらは揶揄っていると思ってそう言い返してしまう。
相手の言葉は聞こえている。だがそれにしては不自然だ。そして目を見開く。

「ッそれありかよ」

広がる空間に胆を冷やし、飲み込まれる前に刀だけ振りぬき退散。剣はその空間に入りどこかへと弾き飛ばされるだろう。
再び距離を開くが。その腰には既に刀が復活している。

「広げられるとなると一気に苦しくなるな。他にも強行突破の作戦も思いついていたんだが」

あの空間が広がるとなってはその作戦もご破算だ。ならばどうするか。
無策に突っ込んでも剣を弾かれた上で切り刻まれるだけだ。だがこちらの遠距離攻撃の手段は剣を投げるくらいしかない。
……いや、まてよ。

「一太刀受けた事がどうにも気になっているみたいだが。今後さらに食らわせられるかもしれない。傷を気にするなら刀を捨てるべきだったな」

相手の領域に対して今度は逃げない。それ所か上段に構えている。
この刀に眠るもう一つの性質。妖刀としての性質……それは物理攻撃を受け付けない対象への攻撃の貫通。
幽霊や精霊はもちろん。それこそ炎や魔力によるビームなんかまでこの刀は切り裂ける。であればもしかすれば……相手の領域に入る瞬間にその剣を振り下ろす。相手の不可視の剣の領域に対して切れ目を入れんと。

八ツ墓千獄 >  
まっすぐに、憤る言葉が心地よい
人を斬って喜ぶ奴が善人である筈がないのであれば…
自分は、生まれた時から悪党になることを定められていたことになる
そうだとしたら…あまりにも、面白い──

「ええ、さすがにこの街を覆うとまではいきませんけれど、ね。そして……」

拡がり続ける斬殺空間
球形のそれは人間単体の持つ戦力としては明らかに過ぎたモノだろう
攻撃と迎撃防御を兼ね揃えるそれは、あろうことか──

「"移動"も致しますからね」

その空間は女を中心に展開されている
即ち、女が動けば───

既に数メートル以上に広がろうとしている空間ごと、女が地を蹴り少年へと向かう
轟音と共に、その空間はスラムを斬り削りながら女と共に、向かって来る

──あるいは、その轟音が少年の言葉を女の耳に届けなかったか

「──!」

その煌めきは無限の斬撃を切り裂くように、眼前に現れた
とっさに腰を切り、黒鞘の太刀を抜刀する
しかしその斬撃もまた、擦り抜けるように──

月光に照らされるスラム
大きく削られた建物の壁に夥しい朱が飛ぶ
空間の前進は止まり、女もまた、足を止めていた

「……嗚呼」

「成程、最初の一撃を打ち払えたものですから、てっきり」

肩口を大きく斬り裂かれ、左腕を紅に染めながら、女は立っていた

「不覚、不覚…♡
 美しきその刃の力、興味が尽きませんねえ…♡」

その表情に苦痛はなく、ただ恍惚に染まっていたが

夕霧蒼真 >  
刃は通った。だが乱発はできるはずもない。
血の滴るそれを構え直す。

「同じ感想だよ、俺も最初の1発を払われたから無駄だと思っていたが。試すべきだった」

興味を示す彼女に対して正眼で刀を構える。
その目はまだまっすぐに見つめていた。

「とはいっても、そう何度もできるわけじゃないみたいだけどな……今みたいにしっかりと振りぬかないとその領域は切り裂けない。有象無象のその辺にいるような悪霊や音量とは大違いだ」

別に触れた物質を全て切り裂く魔法の剣……というわけではない。斬るのであればそれ相応に力をかける必要がある。
例えばその辺にいるような有象無象の幽霊程度なら撫でるように触れても斬る事ができるだろう。しかし彼女の領域を斬るには文字通り殺す勢いで踏み込んだ場合だけだ。
今回だってそうだろう。相手がこちらが攻撃を抜けないと考えたのか。兎にも角にも能力を重視して刀を抜くのが遅れたから斬れただけ。油断していない状態ならば不可能だっただろう。
そして剣士同士の戦いで牽制としての軽い剣が一切通じないというのはそれだけでデッドウェイトになる。
ましてや彼女は身体能力でも、そして肉体が覚えた経験値でもこちらを大きく上回っているのだ。むしろここからが本番ともいえるはずだ。

「でも、抜け道は見つけた。剣の領域は……もう使わせない」

そのまま一気に踏み込む。そして右から左に向けて横なぎに剣を振りぬく。
しっかりと踏み込んだそれは言い換えればこちらにとっても大きな隙になる。だがそうでもしなければあの領域を突破できないのだ。

八ツ墓千獄 >  
成程、追い詰められるまで試そうとしていなかったのなら
それは格好の匂い消し
迂闊にも無警戒に突っ込んでしまう訳である

「ふふ…そうですねえ。連発されればそれは驚異で御座いますが。
 その言葉がブラフとも限らないで御座いましょう?」

ザリザリと、空間を斬り削る音が止む
領域を収縮したか、あるいは展開を止めたか──
こちらも、常に展開し無限に拡大していられるというわけでもない

「ご安心を…もう使いませんよ」

右手が舞い、瞬時に鯉口を斬って抜き放たれた抜刀は
音を置き去りに、閃光となって放たれる
しかしそれは、少年に向かったものではなく──

斬界によって斬り削られ、不安定となっていた両側の建物を切り崩すためのもの
それと同時に、女は大きく後方へ─少年の斬撃の射程外へと跳んでいた

斬撃の音が納刀から遅れて届き、そして…両側から、二人を分かつように瓦礫となって降り注いだ

「ええと…蒼真さん、でしたね」

「逢瀬が一度きりとは、つれないものでしょう」

瓦礫の音の中で、その間を縫うように、届けられる言葉

「お名前も覚えましたし…この借りはまたいずれ。
 …貴方もその傷、癒しておいてくださいね」

崩れ落ちる瓦礫と舞い上がる土煙の向こう側に、悠々とその場を去る女の背が見えた

夕霧蒼真 >  
「さぁな、試してみればいい」

ブラフかどうかなんて言うわけもない。だが今回に限ってはブラフではないのだが。
使わないという言葉。だがそれと同時に放たれたその1撃は人智をはるかに凌駕していた。
そして崩れ去る崩落の中。こちらは降り注ぐ岩を切り裂くのに手いっぱいだった。

「な、まて! クソッ!!」

ガラガラと崩れるその中でもがく。なんとか生存するが。あちこちボロボロになっている。
残されたまま刀を納刀する。

「勝利……って感じじゃないよなあれは」

最初にこちらを狙った切り上げ。あれはまだ目で追えるレベルだった。しかし今の音すら置き去りにした1撃。あれはもはや追いかけるとかそんな次元じゃない。
おそらく相手が消えた理由。それはひとつだ。

「……万全で、領域なしでやり合おうって魂胆か?」

自分なら、というより剣士として自身に宿った魂ならばきっとそういう理由でこの場を去る。
つまり、相手は逃げたのではない。むしろ逆こちらを逃がしてくれた……そう考えるのが妥当だ。
通信機を起動する。

「巡回の夕霧。救援要請を受け現場に急行するも……隊員3名の死亡を確認。同時に女と交戦するも捕縛にいたらず。回収班と治療班を」

そう連絡をすると溜息を吐く。そして遺体にたいして祈りをささげた。

「悪い、仇はもっと後になりそうだ」

そうして回収班と治療班がくるまで待機し、そして彼もまた帰還していくことだろう。

ご案内:「スラム」から八ツ墓千獄さんが去りました。
ご案内:「スラム」から夕霧蒼真さんが去りました。