2019/08/16 のログ
モルガーナ >   
「……ぅ、ぁ」

顔を離した瞬間に体を丸める様にして顔を背ける。
温度を感じなくなったはずの体の内側に熱くドロドロとした感覚を感じ
吐き気を感じると同時に別の手段でそれを吐き出したいと思う欲求に
流されそうになる意識を繋ぎとめる。

「これが、……主の在り方か?
 笑えんな。その為だけに乙女の唇を奪うなど
 とんだ信条ではないか。」

笑い飛ばすことで正気を保つのは悪い癖だと思ってはいるが
辛い時ほど笑うしかないと叩き込まれてきた。
例えそれで何を失っても。

「……痴れ者め。
 開き直った頑固者ほど手に負えぬものはないな。
 何処の世界でもそれは変わらんか」

上がった呼吸を抑え込み、籠る熱を噛み殺す。
自分が今どんな顔をしているのか、眼前の青年は判っているのだろうか。
判るとは言わない。判ってなどやらない。
共感など、不要の感情だ。けれど……

「……まるで赤子のようじゃな。
 寂しいなら、苦しいなら初めからそう言えば良い。
 自分を憎んでも楽にはなれまい」

ついと頬を撫で、熱に浮かされながらも穏やかな表情で瞳を見つめる。
一つ大きく息を吐くと、寝台に身を委ね、力が抜いて。

「……好きにするが良い。
 主の気が済むのであれば
 治療するなり痛めつけるなり、構わぬ。」

嗚呼全く自分はヒトの運が無い。

暁 名無 > 「どうとでも言えば良いし、どうとでも思えば良い。」

フン、と小さく鼻を鳴らして吐き捨てる様に口走る。
他者からの評価を真に受ける様な純粋さは捨てた。
自己を評価する様な誠実さも捨てた。

「誰だって失いたくないと思うことだってあるのに。
 残される方の気持ちなんてこれっぽっちも考えずに、
 諦めて、目を逸らして、逃げ出して、
 手の届かないとこに行くんだ。したり顔で。」

まったく馬鹿げてるとしか言いようが無い。と
悪態を吐きながら寝台の上から降り、再びトランクを漁り始める。

「それが運命だと言った人が居た。仕方のない事だ、と。
 でも俺はそんな馬鹿げたものを運命だなんて認めたくない。
 だから俺は“運命という概念”にすら打ち勝つ事を目標にしたんだ。
 ……ああ嫌だ。三つ子の魂百までとはよく言ったもんだ。」

ぞろぞろと多様な道具類を取り出しては床に並べ、時折難しい顔でモルガーナを見ては道具を増やす。
その間もぶつぶつと熱に浮かされる様に言葉を紡いで

「分かってるさ。これはエゴだ。
 俺が気持ち良くなりたいが為だけの、自慰行為だ。
 でもそれを止めたら俺じゃないんだ。
 少なくとも、この島で学び、鍛え、育った俺じゃなくなるんだ。」

幾つかの小瓶の中身を混ぜ、粉末を足し入れ、それを濾し、他の液体と混ぜ合せる。
そんな作業を瞬く間に進めて行きながらも、意識はどこか遠くへと向けられているようで。

モルガーナ >   
「主のような阿呆は何を言うても無駄じゃとよう知っておるでな。
 それに労力をかけたりはせぬ」

変えようのないものはいくつも見てきた。
埋めようのない格差、零れていくもの。

「……言うたじゃろう。好きにするが良い」

自分を討とうとする勇者を名乗る者達にも似たような物が大勢いた。
皆運命を信じないなどと言って、その実別の運命に執心しているのだ。

「運命……ああ運命、便利な言葉、じゃな」

ゆっくりと瞳を閉じ、体を丸める。
胎内に籠る灼熱を噛み殺すためにゆっくりと息を吸っては吐いて
ときおり口元を抑える。

「……異世界生物担当、なぁ?」

小さな声で呟いて。

暁 名無 > 「理解が早くて何よりだ。」

この性根は死ぬまで変わるものじゃない、と名無自身も思っている。
もし生きているうちに変ったのであれば、その時きっと自分は自分としては死んだのだろう、とすら。

「ああ、好きにさせて貰う。
 ……ふっ、もっと別の、艶のある声で言って貰いたかったもんだな。」

内の物を吐露して少し軽口を叩く余裕が出来たらしい。
調合を終えた薬液を再度水で薄めてマグカップに注ぐ。
カップの中に満たされた薄桃色の液体に、花弁をひとひら、浮かばせて

「苦いのが嫌だと言ったから、今度は甘くしたぞ。」

それを手に再び寝台に近寄ると、腰掛けて。

「エーテル体の補強は済んだからな、今度はアストラル体の補強だ。
 ……周囲の魔力、魔素を吸収し内に蓄える力を強める。自然治癒を加速させる様なもんだな。
 ただ疑似トランス状態に入るだろうが、耐えられなかったら……まあ、責任は持つさ。」

簡潔に説明し、カップを差し出す。
魔術じゃないから先程の様に際限なく効果を発揮することもないだろう、とも告げて。

「今度は口移しじゃなくても飲めるな?」

モルガーナ >   
「妾を啼かすには手練手管をもう少し鍛えてこねばな」

心の在り方というのは変わらない。
……それは自分も、そしてこの青年も。
それを運命などというものもいるが、譲れないものはもうどうしようもない。
業腹でも、気に入らなくとも、耐えられるものが譲歩するしかない。

「……先に言っておくがあまり期待はするでないぞ。
 今の状態は穴の開いた容器に水を注ぐような物じゃ。
 最早元の容器が致命的に狂ってしもうておるでな」

責任を取れるか否かは別問題じゃがな。と呟くと
上体を起こし、受け取った杯を一気に開ける。

「ん……く。ふ……」

喉を通っていく体を溶かすような感覚に思わず声が漏れた。

暁 名無 > 「ほう、まだ味わった事も無いくせに吠えよるわ。
 その小玉スイカめいたモノを好き放題してくれようか。」

売り言葉に買い言葉で両手をわきわきと動かしつつ。
そこまで言い返せるのなら、治療は概ね順調といったところだろうと測る。

「その為に器に補強を施したんじゃないか。わざわざ口移ししてまで。
 わざわざ手間暇かけて魔術じゃない手段を用いたんだ、多少の期待はさせて貰わんと。」

器具類の後片付けもそこそこに、椅子に背凭れを抱える様にして腰掛け、モルガーナの様子を見守る。
調合は何度か行っているので狂いは無いはず。
問題は人間用の処方ではない事くらいだが、その点に関しても彼女なら問題ないだろう、と名無は踏んでいる。

こと幻想に生きる物に掛けては、文字通りのプロフェッショナルなのだから。

ご案内:「離島東側農業区 山中放牧地付近山中湖」からモルガーナさんが去りました。
ご案内:「離島東側農業区 山中放牧地付近山中湖」から暁 名無さんが去りました。