2020/10/01 のログ
宇津木 紫音 >  
間違えるはずもない。
能力に頼った戦闘と、そうではない戦闘の違いくらいは分かる。
判断力の差だ。

例えば彼女などは、突き詰めれば一般人だ。
一瞬の判断力となれば、プロに一歩劣る。
それでも、その状況を覆すことができる能力があるのだから、焦る必要がない。
かみ砕けば、能力に頼り切りな人間は、ごり押しの戦闘が多いのだ。

「用、という程でもありませんが………。

 本当に実用のためだけに、それ以外のいらない部分を全てそぎ落としたナイフのような………そういった美しさを感じたもので。
 ついつい、見惚れてしまいまして。
 せっかくですから、どのような訓練をされているか、間近で見学したい、と。

 ………失礼ですが、その道のプロの方でしょうか。
 私、この学園の一年生、宇津木紫音と申します。」

そっとお辞儀をしてご挨拶をして、薄く微笑むお嬢様風貌。


見た。
剣の間合いではない相手を切り捨てる。
あの速度で動いた上に、離れた相手を火器を持たずに制圧できる。
世の中の諜報機関が泣いて欲しがり、泣いて嫌がる人材だろう。
 

芥子風 菖蒲 >  
鞘に納めた刀を肩で担げばじっと少女を見上げた。
自分よりも大きいなぁ、とぼんやり少年は考える。
ほんの少しだけ、羨ましい。

「何それ、よくわかんないけど。戦闘中に無駄な事なんてして、どうするの?
 "相手を倒す"とか、"命令に従う"とか、他の事してもどうしようもないでしょ?」

今一要領を得ない物言いだ。
頭上に浮かべたハテナマークと一緒に小首をかしげる。
ただ、ある種彼女の言ってる事は間違っていない。
幾ら訓練とは言え手も抜かず、当然実戦でも動きと心構えは変わらない。
一度戦いに成れば、"目標達成"以外の行為は全て非効率。
無駄な事をして自らの命を危険に晒すなんてしたら、それこそ馬鹿のやることだ。

「どう、って……対象鎮圧?風紀委員だし、訓練は欠いてないつもりだよ。
 プロって程、オレは強くないよ。ただ、教わった事を実践してるだけ」

自分と同じ程訓練を積めば誰でも出来る。
プロ、達人を名乗るには自分は余りにも弱い。
静かに首を振って、何処までも抑揚のない声音がそれを否定する。

「一年。じゃぁ、オレと同じだ。オレは芥子風、芥子風 菖蒲(けしかぜ あやめ)」

朗らかなお嬢様笑顔とは対照的に、口元一文字の無表情。

「そう言う宇津木は、戦いに興味あるの?もしかして、同じ風紀委員とか?」

宇津木 紫音 >  
プロだな、と思う。 行動のレベルではない、思考回路が、だ。

「他人の戦いを見たことはあります?
 ここの人間の戦い方を見て、不思議に思ったこともあるのでは?
 世間一般のレベルと貴方の考える戦闘のレベル、ステージがまるで違うんです。」

優しくかみ砕くように伝えながら、目を細める。
目標達成をするために先鋭化できる人間は一握りだ。
山のように「なぜ?」を繰り返す人間を見てきた。
目標を提示した時に、何も考えず達成する手段を考えられる人材というのは、"人財"だ。

何も考えず対象をすり潰せる人間は、数少ない。
彼女もまた、何も考えないわけではない。 喜んでしまうからだ。


「なるほど、風紀委員なのですね。
 教わったことをただ実行できるのは、当たり前のようで難しい話なのです。
 菖蒲さんでよろしいでしょうか?」

無表情であるが、嫌がって、訝しんで、といった気配はあまり感じられない。
それならば、十分だ。

「戦いに興味はありますね。
 風紀委員、ではありませんが、興味は持っておりますよ。

 私はどちらかといえば、能力が特殊でして。
 相手と接近しなければいけないのですが、そういった訓練は少ししか受けていないのです。

 ですから、実戦では宝の持ち腐れ。 ……ゆえに、勉強をしているところですね。」
 

芥子風 菖蒲 >  
「何人かは。一緒に仕事したりするけど……特には?オレ自身、他人にとやかく言えるほどじゃないし
 そこまで気にして戦ってるわけじゃないけど、身の丈にあった事はしてほしいって思うかな」

人の戦い方に意見が出来る程強い訳じゃない。
自分に出来る事をするだけに過ぎない。
風紀委員はワンマンアーミーじゃない。
当然、チームを組んで作戦を展開するも、戦力の噛み合わなさに文句を言いたくなる時もある。
それが、学生故の"躊躇い"等に気づく事はまだ無い。
無論、当てはまらない人間もいる。全員が全員ではない。

「よくわかんないけど、オレがたまたま武術をやってたからじゃないの?」

戦闘のレベル。それこそ、スタートダッシュの違い。
少年はその程度にしか考えていない。

「うん、いいよ。じゃぁ、俺も紫音でいい?」

小さく頷き、じ、と紫音を見上げた。
表情も声音も愛想無いが、感情は存在する。
何処となく人懐っこい雰囲気も醸し出し、遠慮なく紫音へと一歩近づく。
この少年に、パーソナルスペースなどと言う概念は無い。

「そうかな。オレはオレに出来る事をしてるだけだから
 そこまで深く考えた事は……へぇ、紫音は興味あるんだ」

「自分の能力を生かしたいから、って事?一体どんな能力なの?」

見上げたまま、率直に尋ねる。

宇津木 紫音 >  
身の丈。 ここにいるのはプロフェッショナルではなく、ちょっとだけ力を持った学生ばかり。
身の丈で言うなら、背伸びしすぎなくらいではあるが。

「武術であろうとなかろうと、すべての事象において何かしらを習い、学ぶ際には結果に大きな差が出ます。
 それはセンスでもあり、才能でもあり。
 その人の歩んできた生き方でもあり、個性でもあり。
 素直に吸収できるか、すべてに理由と納得を求めるか、の違いでもあり。」

ゆるく語る女。

「つまるところ、あなたの考える当たり前は、それはそれで価値のあること。
 ええ、もちろん紫音でよいですよ。」

近づかれても、気にすることは無く。
彼女はある意味、すべてがパーソナルスペースだ。
噛み合わない噛み合いを見せながら、少しだけ笑う。

「そうですわね。………お互いの唇が触れるくらいの距離になれば意味のある能力、とでも言っておきましょうか。
 そういう能力って、すべてを明かすことはリスクでしかありませんしね。

 それとも、一度その身で受けてみますか?」

くすくすと笑いながら、ずい、っと顔を近づける。
 

芥子風 菖蒲 >  
此処で初めて、表情に僅かな変化が訪れる。
眉間に皺をよせ、眉を顰めた怪訝そうな顔。

「紫音の言ってる事、難しくてよくわからないな。
 けど、多分俺の事を評価してくれてるのはわかるよ。ありがとう、紫音」

個性の違い、覚悟の違い、何も知らない、知るはずも無い。
"そう言う風に育てられた"。今の少年には、彼女の言葉は少し難しい。
それでも、何となくだけどそう言う所はわかった。
それの深い意味までは知らない。素直なのだ。

「唇?チューするってこと?」

とどのつまり、そう言う事ではないだろう。
だとしたら、口から何か吐き出すのか。
"飛ばせない"もの。なんだろうか、個体?
それとも、体内に何かある?
確かに、得も知れぬ相手に能力を教えるのはリスクだ。
それでも、"それだけを教えられた"少年は、大よその推察が一瞬で行われた。
戦力分析は、戦いにおいて重要な事だ。
何時、隣にいる相手が敵になるか、わかったものじゃない。
ずい、と近づく紫音の顔。動じることなく、ぱちくり瞬き。

「綺麗な顔」

第一に出てきた言葉が、それだった。
何にしても、素直だった。

「……動けなくなったりするタイプなら困るかな。
 オレ、風紀の仕事しなくちゃいけないし。そう言うのじゃないなら、好きにしていいけど?」

そして、興味がない訳じゃなく
ものを知らなければ、当然"行為"に抵抗もない。

宇津木 紫音 >  
「よく言われます。私の悪い癖ですね。」

言葉を散りばめる癖。嘘を散りばめる癖。欲を散りばめる癖。
微笑みながら、腕を後ろに組んで。
後ろ手に組んだ手には、今は何も持っていない。


「ええ、することもありますね?」

そういうことだった。
にこにこと笑いながら、顔を近づけて。

「……あら、この距離でそう言ってもらったのは、初めてかもしれませんね?」
「大丈夫ですよ、"今は"そんなことは致しませんからね。
 何より、あの動きを見ていれば、そんなことをしたら動きが止まる前に私の首がどの方向を向いてしまうか。」

さて、どこまで本気か否か。
無垢を装っている可能性だってあるし、"教えたまま"に実行できるのなら、騙そうと思わずに相手を欺くこともできるだろう。

故に。

「お礼を一つ。」

軽く引き寄せて、額にキスを落とす。
それだけでは効果もない、ただのキスだ。
 

芥子風 菖蒲 >  
「悪い癖っていうのに、治すつもりはないんだね」

自分から"癖"と彼女は言った。
なら、"癖"になるほど染みついたこと、宇津木 紫音と言う人物の色。
それを糾弾することはない。不快に思う事は無い。
ただの素朴は質問だった。

「するんだ。随分と面倒な能力持ってるんだ。
 ……ん、どうかな?オレに紫音を殺す理由がないし
 そんなことしたら、オレ退学になっちゃうかもしれないから、多分しないよ?」

「……保証はしないけど」

確かに殺す事に躊躇いは無いが、理性の無い獣とは違う。
やってはいけない事はしない。
校則でも約束でも、個人の間柄でも、それに従う。
但し、人形とも違う。"危機"を感じれば真っ先に、自分の意思に従う。
空のように青い瞳は混じりけも無く、無雑な色を保って少女を見上げたままだ。

「ん……」

額に柔らかく、甘い感触がした。
なんだか懐かしい感じもする。
ぱちくりと瞬いて、自身の額を不思議そうに触った。

「これ、何?」

ただ、素朴な質問がまた口から漏れた。

宇津木 紫音 >  
「ええ、そんな自分を心の底から愛しているので。」

ころころと笑いながら、目を細める。
素のままでそれを許してくれる相手はそうそういない。
心地よい少年の、そのままの受け止め方に悪い気はしない。


「ええ、そうでしょうね。
 危険を感じたら貴方は迷わないでしょう。
 そして"特にその気はなくとも"、するでしょうね。」

笑いながら、唇を離して微笑む。
危険を感じるのであれば、少なくとも無抵抗にすることに忌避感はなかろう。

「これは、ただの親愛の証。
 素直にお話ししてくれたことへの感謝の気持ち。
 あとは、"悪意を持って"何かをすることはないということの証明の一つ。

 後はまあ、………この能力に関しては、多数の知るところにしたくありませんから、風紀のお仲間にも、内密に?

 では、今度こそ。
 ちょっとだけ口を開いてもらえます?」

片目を閉じて、ご提案。
悪意は無い。 悪意は。
 

芥子風 菖蒲 >  
「自分の事が一番好きって事?凄い自信なんだ」

ある意味この底知れない感じは全て
この自己愛から来ているのかもしれない。
そこまで自分の事そうだと言い切れる自信。
ただ、その一点はほんの少し羨ましいと、ほんのりと思った。

「ん」

短い肯定の返事を一つ。
その通りだ。それを否定も、誤魔化しもしない。

「親愛、か。そう言うのは、嫌いじゃないかな」

心がない訳じゃない、人並みに感情はある。
そして、人に向けられる好意を素直に嬉しいとだって思う。
なんとなく、胸の内が温かい。
自然と口元が、ちょっぴり緩んだ気もした。

「ベラベラ喋る趣味は無いから、大丈夫。……、……」

「いいけど、本当に変な事はしないでね」

抵抗ではない。"釘を刺した"。
彼女にはそれだけで伝わるだろうから。
見上げたまま、僅かに口を開いてじぃ、と見つめていた。
さながらその構図は、餌を待つひな鳥のように見えるだろう。

宇津木 紫音 >  
「ええ、もちろん。
 私自身が一番好きです。 そんな私が愛する相手も同じくらいに好き。
 いつだって私の愛情は本物ですから。」

嫌いじゃない、と言われた。
素直に微笑みながら、では、と顔を寄せて唇をするりと奪いに行く。
それがまるで当たり前であるかのように舌を押し込みにいく。

もしも抵抗しなければ、甘い味が口の中一杯に広がるだろうか。
特に何もしない。ただ、甘い味だけ。
相手の行動がなければ舌を押し込んでの深い唇を交わして。
 

芥子風 菖蒲 >  
「──────……」

綺麗な顔が、見えない位近くなる。
唇が触れた。甘い感触が、柔らかな感触が直に触れる。
抵抗はしない。瞬きもせずにずっと、空は少女を見上げていた。

「(……甘い……)」

甘い。砂糖菓子のように甘い味が広がっていく。
染みわたらせるように、舌が侵入してきた。
抵抗はしない。する理由がない。悪意が無い。
そして、少年は"こんなキス"は知らない。だから……。

「ん……─────」

だから、"合わせる"。きっとそれが、正しい作法だと思ったから。
この甘露を独り占めにするように、求めるように。
何一つ迷いなく、自身の舌も動かして、押し出して、絡めて。
求められるままに、求めるままに、深い所へ、より────……。

宇津木 紫音 >  
抵抗されない。
意外でもあり、当然でもあり。その不思議な感覚を確認しながら。
甘い、甘いそれを流し込みながら。優しく抱き寄せ、頭をなでる。

糖質も甘味も薬物依存と同じ作用をし、それは時に、薬物よりも依存症を持つとも言われる。
彼女が流し込んだのは、そんなもの。

強い甘味に混ぜた依存物質が少々。もちろん毒ではない。
依存といっても、「食べたものの味が忘れられない」程度のそれだ。
快楽物質ばかりを選んで丁寧に流し込んで、口内を嘗めとって。

たっぷり3分。

「………甘かったでしょう?」

顔を離して薄く笑い、まずはそう呟いた。
 

芥子風 菖蒲 >  
抱き寄せられて、直に感じる女性の温もり。
頭を撫でる彼女の手つきは、酷く懐かしく
同時に"あの不快感"を思い出す。
……ああ、この感じ。懐かしいな。"あの女"もやっていた。
自分を傀儡にしれいた母親。嫌な思い出が蘇る。
不快感にほんの少し眉を顰めるも、一瞬の事。
甘い匂いに誘われるように、彼女にされるままに合わせていく。
いち早く女の事を忘れようと、女を求める二律背反。
少年は、この甘い毒に気づかない。濃密な三分間、漸く唇が離れた。

「……ん、なんだか変な感じがする」

口もしっかりと、正直だった。
何とも言えないこそばゆい感じ。
たまに自分の舌を出して、軽く見てから首を傾げる。
ただ、それが毒だったとしても……。

「けど、紫音は嫌な感じはしなかったな」

宇津木 紫音 >  
「それはそうでしょう。
 人間、唇を重ねて甘い味がするわけがない。 それであれば日常生活を過ごしているだけで、常に甘味を感じるわけですから。

 違和感は当然感じるものだと思いますよ。」

その"変な感じ"に、するりと嘘の理由を言語化して相手に与える。
人間、言葉にできないこと、というものはたくさんあるが、それに「説明」がつけられれば、それに多少なりとも引っ張られるものだ。
相手の道をさりげなく誘導する女。 毒は、この女の存在そのもの。


「………ふふ、だって。
 悪いことをしようと思っていませんもの。

 もっと欲しければ、いつだってどうぞ?」

両腕を開いて、おいで? などと誘ってみる。
 

芥子風 菖蒲 >  
「そうかな……?……、……。
 相変わらず、言っている事はよくわかんないや」

二つ返事で納得はしない。
皮肉にも、この懐疑心を抱かせたのが
自分が忌み嫌う母親の存在だと言う事に、少年は気づかない。
既に傀儡ではない。目の前の少女が、毒とは気づかない。
"違和感"を探るように、自身の頬に何度か触れた。

「けど、紫音は甘かった。嫌じゃない甘さ」

それだけは、確かな事だ。
少年はそれを、"嫌いではないと言ってしまった"。
はたして、毒が聞いているのかは分からない。
意思無き傀儡とは似て非なる少年だ。

「オレは良い事とか悪い事とか、よくわからない。
 ただ、自分がされて嫌な事は拒否するし、良い事なら他人と共有したいだけ」

万人が抱く、当たり前を行使するだけ。
広げられた両手。躊躇いもせずに、"一歩踏み出した"。
但し……。

「紫音はどうなの?オレはよくわからないけど、"キス"とか欲しがるものなの?」

従順とは言い難い。無垢に無知ではあれど
疑問を抱き、意思を以て毒に真っ向から問いかけ、自らそこに飛び込んでいく。

宇津木 紫音 >  
「よく言われます。
 何、気にすることはありません。
 ………ええ、嫌ではないでしょうね。」

微笑む。
とても楽しそうに微笑みながら、一歩踏み出してくる相手を受け入れようと腕を広げて。
相手の問いに、少しだけ首をかしげる。

「そうですね。
 ………時と場合によりますか。 私のことを好んでくれるのであれば、当然欲しくなることもあるでしょうね。
 何、明確な理由があるから行う………それだけの行為ではありませんから。
 納得がいく、いかないではなくて。

 気持ちがよいか悪いか、それだけで判断すればいいんですよ。」


目を細めて、さ、おいで、と改めて腕を広げる。
毒の花は、とっても甘い匂いがする。
 

芥子風 菖蒲 >  
自分の事に一切の欠落も無く、肯定してみせた紫音。
本当に自分の事が好きなんだ、この人は。
その絶対的な自信だけはある意味信頼できる。
安心感と言い換えてもいい。羨望めいた好意を抱く事も出来る。

「…………」

優雅な微笑みとは裏腹に相変わらず無表情。
何一つ変わる事は無い、早々感情を表に出す事なんて、知らない。

「良し悪しとか、気持ち良いとか悪いとか。オレはどうでもいい
 風紀委員にいるのも、オレの能力が一番生かせる場所。"皆の為"になると思ったから」

頓着は無い。ただ、自分の事は弁えている。
軽視とは違う。自分を省みて、自分が一番"使える"場所を選んだだけ。
思いやりだ。少年は、自分の事よりも、他人の事を優先する。
だから……。

「紫音」

また一歩、近づいた。
広げられた、腕の中へ。

「"オレは何をすればいい"?」

望むのなら、応えるだけ。
透き通る空が、毒の花を見上げていた。

宇津木 紫音 >  
「己の能力を理解して、あてはまる場所にあてはめることができる人がどれだけ少ないことか。
 意地、プライド、経験、信仰、思い込み。
 全てが正しい理解を妨げ、生かせる場所に留まることを妨げる。」

言葉の回る女。首を横に振りながら、またもや遠回りに相手を肯定し。


「………今は何も。
 私の友人でいてくださいな。
 理解者でとは言いません。 それでも、頭の片隅に私のことを。

 私が困り、求めたときに、応えられる分だけ応えてもらえれば、私としては過分な見返りと言えるでしょう。
 ええ、とても良い子ですね、菖蒲は。」

ささやきながら抱きしめて、またシルエットを重ね。
訓練場に、文字通り甘い音が響く。
 

芥子風 菖蒲 >  
「オレにはよくわからないけど、紫音はそう言う人とは違うの?」

人にとってはそれは妨げになるらしい。
なら、彼女はどうなんだろう。
本当に、なんてことの無い素朴な疑問だ。

「紫音が友人がいいって言うなら、オレも友達でいる。
 理解者……っていうのは、難しいかな。オレ、紫音の事、まだよくわかんないし」

「けど、記憶喪失にでもならない限り忘れないよ。
 紫音が助けを求めたら、オレはオレに出来る事をするだけ」

成すべき事を成すだけ。シンプルな考えだ。
それと同じように素直に、正直に、思うままに口にして。
少年は差別も分別もしない。出来る事を、やれと言われたことを全うする。
その為に、生きている。甘い声が、鼓膜を揺らす。
少年は、毒を毒とも思わない。暖かな感触に、抱きしめられて、不思議そうに首を傾げた。

芥子風 菖蒲 >  
 
          ──────故に、それを"毒"と認知するまで、如何様にでも毒は仕込めるのかもしれない。
 
 

宇津木 紫音 >  
「私は違います。
 私は"何かにあてはめられる"必要がありませんから。
 そういう人間なのです。 ですから、その適正を見極めたうえで。
 私はそういう人とは違う人生を歩む、という私に取って正しい道を歩んでいる。」

堂々と。
何のてらいもなく、その言葉を発する女。

「……ええ、ありがとうございます。
 困ったらお呼びいたしますね。
 何、絶対にとか、そういうことを言うつもりは毛ほどもありません。」

穏やかなまま。
強い要望も何も、全く無い。
ただただ、控え目に友人を求めながら。


甘い毒の濃度は、徐々に増やす。

忘れられぬように。

夢に見るように。


相手の神経を、脳を直接攻撃にはいかない。
自らが望むように仕立てようとする。
………さて、それが彼の感情を、指向をどう揺らすかは。

薬が効くも効かぬも、体質次第。
 

芥子風 菖蒲 >  
「ふぅん……」

何処となく懐疑的な相槌だった。
思う所がない訳ではない。ただ、"今は"敢えて言わなかった。
今はそんな気分ではない。それだけに過ぎない。

「ん、わかってる」

求められれば、それに応える。
命じられれば、それを実行する。
やれるとわかれば、やってみせる。
少年の在り方はそれだ。今も昔も、その本質は変わらない。
違うとすれば、かつて傀儡であった姿には二度と戻らない。
全て、"己がしたい"と言う"意思"が無ければ、起こりえる事は無い。

「今日はもういいかな。紫音、行こう」

如何にも今は、もう訓練と言う気分じゃない。
毒ともわからない、甘い感覚に、暖かな女性の感覚に
彼女に求められるままに、応じていく。


果たして、毒の花が芽吹くかは────────……。


二人の影が、静かに施設から去っていくだろう。

ご案内:「訓練施設」から宇津木 紫音さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から芥子風 菖蒲さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」にセレネさんが現れました。
セレネ > 武器を扱う者の為の、的や木人が置かれている場。
今日は魔術での戦闘ではなく、武器を使っての戦闘の自主訓練…というより、試し切り。

斬っては修復される魔術により元通りになる藁人形。
己は正しい刀の振り方すら知らないが、それにしても一度で両断出来て切り口も鮮やかだ。
…あの怪異の両腕を斬り落とした、切れ味が鋭すぎるこれに蒼を瞬かせ。

「……。」

妖しく光を反射する刀身に視線を落とす。
この刀、切れ味良すぎでは…?

セレネ > 刃を藁人形の腕に添えるような形で当て、そのままゆっくり引いてみる。
まるでバターを切っているような、何の引っかかりも抵抗も無くスッパリと斬り落とせてしまった。

「…は?」

思わず訝し気に眉間に皴が寄る。
事前に刃を研いでいた訳でも、加えて言えば何か特別な手入れをしていた訳でもない。
なのにこの切れ味。
…料理用ナイフがこんな切れ味だったらきっと自炊ももっと楽になるのになぁ、なんて。
一瞬思ってしまった。
すると、ギラリと光ったような気がして少しだけ驚く。

…怖。

セレネ > 斬り落とした箇所が元通りになる。
何度試しても、多少乱暴に斬りつけても、豆腐に刃を入れるが如くするりと入り抜けていく刀。

刃を眺めてみたが相変わらず妖しく光を反射しているだけだ。
己はこんなものを安易に手に入れてしまったのか。
それを異能の力で造り出した彼は凄いと改めて思う。

切れ味が良すぎると、もっと色々試してみたくなるけれど。
自制しなければ危険な気がして、ぐっと堪え。

「…とりあえず今日は、ここまで。」

刀を鞘に収め、握る。
よし、今日はもう帰ろう。

晩御飯はどうしようか、悩みながらくるりと藁人形に背を向けて訓練場から立ち去ることと。

ご案内:「訓練施設」からセレネさんが去りました。