2019/04/20 のログ
ご案内:「青垣山」にアガサさんが現れました。
■アガサ > 最初はお小遣い稼ぎ程度のつもりだったんだ。
花見シーズンの青垣山を訪れる登山者。
彼ら彼女らの中には当然として、攻撃的ではない異能や魔術を持つ人達も居るわけで、
彼ら彼女らが、山に住まう敵対的怪異の被害に遭わないようにするための準備が必要になるわけで、
私は偶々丁度良い魔術を修めていたから、生活委員会の提案するアルバイトに乗っかったわけで──
「……──えっと、えっと……こういう時は、こういう時は……!」
緑が芽吹く春の山。言葉にするなら惹句にもなるのに、足を踏み入れるとそうはいかない。
整備されていない山道は、鬱蒼と生い茂る木々に阻まれて日中であろうと日の光がろくに届かず、
まるで森自体が、山自体が一つの生命体であるかのよう。
況や、古くは祭祀の執り行われた場であるならば。
時に異界とも称される古き山は大層魅力的に人間を拒み、迂闊に訪れた者に襲い掛かる。
「とにかく、絶対。ぜーったい!わりに、あって、ない!」
昼下がりの山道。只でさえ薄暗いのに整備なんかされていないから木々の根が隆起して、
ともすれば転びそうになる所を転がるように駆け下りて泣き言を置き去りにする。
紅葉狩りのシーズンには比較的簡単な怪異討伐があった。そんな話を知ったから応募したのに、
今私を追いかけてきているものは、誰がどうみても比較的簡単な奴ではない。
──桃の樹。古木と知れて枝振りも見事に甘やかに花も香ろう、平時でなら見惚れるに違いない巨木。
但し、昆虫の足が如く蠢く根の悉くが人間の足でなければだけど。
■アガサ > 「あれ、絶対、人とか食べる奴じゃんかーっ!!!」
少なくともEとかDランクじゃない。
走りながら後ろを見ると、縦に裂けた樹洞には鋭利な歯がずらりと並び、良く聞き取れない言葉を鳴らしていた。
喋ると云うより鳴ったと云う声、音。それらが枝振りの騒めきに混ざって酷く不快な気分になる。
夏になればアレも実を付けるのだろうか。と思うと尚更。結実には栄養が無ければならないのだから。
「栄養になんかなってあげるもんか。今こそ一年間の色々な成果を見せる時──Lluosog paratoi cwblhau!!《地に水無くて木々は枯れよ!》」
振り返り、揃えた五指を銃口のように巨木の怪に向けると同時。私の言葉が力を顕し、指先に青白の魔力が灯る。
「Rhoi colli teimlad──Nod!!《火に風無くて猛る事能わじ!!》」
空気の爆ぜるような不可思議な音を伴って魔力が火線となって放たれる。
弾幕を形成する魔術弾の数々は真直ぐに光跡を惹いて山道を照らし、過たず巨木に直撃し弾けて行く。
私の魔術は精神に衝撃を与えるもの。怪異であろうとも命であるならば例外に漏れず、巨木はたたらを踏んで倒れ──
「ああ~~もう!折角連射が上手く行ったのに!君、そこは空気を呼んで倒れてくれたまえよ!」
無い。
中程度の出力の連射では意識を奪えず、巨木は数拍の間動きを止めたけれど、先程よりも速度を増して私に向かって突き進む。
意識さえ奪ってしまえば、何処かにあるらしいコアを抉り取ってそれで終わりなのだけれど。
世の中早々、春の花のように甘くはない。
ご案内:「青垣山」に桜庭 美月さんが現れました。
■桜庭 美月 > 「あのバカ。」
だからちゃんと、行く前に申請というか、お伺いは立てたんだけど。
敵対的怪異の討伐、その監督となれば、もっとそういうものに慣れた人がいいと。
少なくとも何かしらの相手に対して、有効な攻撃手段があまり無いっちゃ無い私よりはいいぞ、と。
とはいえ、こうして来てしまって。
こうして目の前で追いかけられているのを見れば、どうにかするしかあるまい。
「そのまま、真っ直ぐ、こっちに走ってこーーーーいっ!!」
大きな声で呼びかける。
こういう時には、魔術なり異能なり、なんでもいいからすごい威力が出せればと思うが。
自分にはこれしかない。
ぎゅ、っと眉間の間辺りに力を込めて凝視をする。
視界が薄い青に覆われ、まるで薄い膜を通して世界が見えるように変わり。
その青い膜の中、走ってくる少女と巨大な樹木だけが、薄くオレンジに輝いて見える。
「久々過ぎるけど……!」
ホルスターからハンドガンを取り出して、両手でがっちりと押さえて、構える。
■アガサ > あれ、これはもしかして本当に、本当に危ないんじゃないか?
そう思う私の脳裏に何故か友人や先生との会話等が想起され、これは良くないと気付いた矢先の事。
後ろからの声。体感としては頬の直ぐ傍からにも聴こえた呼び声に飛び上がりそうになる。
「今度は何!?熊!?それとも今度は桜の木か何か──」
振り向くも声の主は真近ではなく山道の先。なんて良く通る声だろう!なんて感心するよりも先に脚が出た。
「うひぇっ、いやっ、なんとかなるんです、かぁ!?」
地を揺らし、距離が近くて初めて判る腐臭を撒く巨木の怪異の気配が近い。
私は呂律が回らない代わりに限りなく足を回して山道を下る。
次第に先生が何かを構えている事に気付いて、私と同じような系統の魔術師なのかと予想をし
願わくば電脳世界のロボットが持つようなミサイルが如きものである事を願わずにはいられない。
■桜庭 美月 > 「自信は無い!」
思いっきり堂々と吐き捨てながら、もっともっと、と眉間の少し先の空間に意識を集中させる。
少女の情報と、後ろからついてくる樹木型の怪異の情報が、まるで知っていたかのように流れ込んでくる。
この手の怪異は重要な核を持つ。と、伝えられている。
それを見抜けば何とかなるはず。 奥深くだったら手も足も出ないが、人間の目のように表面に出ているならば。
だからもっともっと、もっと集中して。
木の表面の質感から、鋭い牙の先端。花びらの一枚一枚まで、鮮明に一息に『見える』。
更に集中すれば、自分が見たかったところが『見える』。
「……そこか。 そのまま横を走り抜けろっ!!」」
縦に避けた口らしき場所の奥に、瞳のように息づいている赤いそれ。
琥珀のような塊を目視すれば、撃鉄を起こして。
アガサが隣を走りぬけるその瞬間に、パァンッ、パァンッ、と乾いた音をさせて発砲をする。
普通に撃っただけでは足止めにすらならない豆鉄砲ではあるが。
勢いで引きつぶされないよう、発砲してからアガサを追いかけるように走り出して。
■アガサ > 「それが大人の言うことですかーっ!?」
一撃で倒してみせるとも!とか先生に任せなさい!とか、そういった返事を期待していたものだから
私の口から悲鳴のような叫び声だって出るし、顔だって人様にお見せ出来ない形相になったに違いない。
無事に街まで帰れたらフタバコーヒーでケーキの一つや二つ食べて行こう。
無事に街まで帰れたら──
「──は、はぁーい!」
走りながら空想に浸ること数秒。
成程これがランナーズハイ。と何処か他人事のように俯瞰した思考を浮かべる、私の意識を引き戻す力強い声に我に返る。
そうして転がるように走り抜ける。もとい今度こそ本当に転がって声にならない悲鳴を上げて土埃に塗れる中で、巨大な何かが倒れる音を聞いた。
「ぶええ……今日は散々だなあ……」
彼方此方が痛むけれど、きちんとした山歩き用の恰好が幸いしてか大きな怪我は無く立ち上がる事が出来た。
乱れた髪を手で抑え、音の方向、山道を見上げるようにすると桜庭先生が走ってくる所で、
更にその上では先程の巨木が仰向け(?)に倒れているのが視得た。足だけが歪に蠢いたままなのが虫を思わせて眉だって顰めようもの。
「と、とりあえず助かりました……ああもう、あんな凄いのが居るなんて聞いてませんでしたよぉ。
もしかして生活委員会の人、知っててアルバイト募集したんでしょうか。だとしたらひどいです」
駆け寄る桜庭先生に項垂れたり、頬を風船のように膨らませたり、忙しく表情を変えて憤懣やるかたなし!
みたいに振る舞う私が居ました。
■桜庭 美月 > 「あったり前だろ、あんなのまともに相手できるか。」
魔眼が無ければどうにもならなかったわけだし、それは事実。
そして弱点が表面に出ていたからなんとかなった、ってところもある。
ずずーん、っと倒れた音を聞いて立ち止まれば、膝に手をついてふーーー、っと深い吐息をつき。
「…怪我はしてない?」
おそらく相対している間に転がったのだろう、土塗れで表情をころころ変える少女に手を伸ばしつつ。
ほれ、と頬をぺふぺふ、土を落としてやることにしよう。
「……流石に知っててってことは無いだろうけど。
とはいえ、私もお前も、何かを退治したりするにゃちょっと向いてないかもしれないな。
今のも、割と偶然なんとかなったようなもんだし。
どっちにしろ、ここから更に続けようとは思わんだろ、下りるか?」
落ち着いたら汗がどっと出る。ぐい、っと拭いながら拳銃をホルスターにしまいこんで。
■アガサ > 「はいおかげ様で!……まあ今の今転んだんですけど、さっすが最新のトレッキングウェアは物がいいですね。
衝撃吸収効果!なんて宣伝文句、眉唾物だと思っていたんですけどバッチリでした」
必然的にウェアに覆われていない頭がバッチリではないんだけど、桜庭先生が土を払ってくれたから問題は無く、
私は自信満々と答えることが出来ました。
「うーん、それがですね。少し前にあった退治の時はもーっと小さいのが対象だったそうでして。
それなら私の魔術で動きを止めて捕まえてー、と思っていたんですが……ま、終わり良ければ全て良し!
なんて言葉もありますし……ああいうすっごい怪異のコアならきっと生活委員会の人も高く買ってくれますよう!
丁度欲しいものなんかもありまして、新学年早々運が良かったと思います」
息を吐いて銃を仕舞う先生の袖を引き、倒れた巨木を指さす。
なんといっても倒した証拠が無ければ生活委員会は報酬を支払ってはくれないのだから
私は先生の提案とは裏腹に山道を再度登って収穫タイムを提案するのです。
■桜庭 美月 > 「それならいいけど。お前もずぶといね……」
はー、っと溜息。汗を拭って笑う。
こっちの方がむしろひやひやして命の危険をバリバリ感じてたっていうのに。
まあ、生徒が引きずっていないならよしとしよう、と一人頷いて。
「私、あの中に手を突っ込むの嫌だぞ……」
そういうことならまあ、ちょっと見ていくくらいはいいけど。
本当にもう終わったのかね………言って、私のは普通の拳銃だからね。
コアには間違いなく当たったとは思うんだけど。」
わかったわかった、と袖を引かれて、仕方ないなぁ、といった顔で後ろを突いて歩き、先ほどの怪異の場所まで歩いていく。
ホルスターからもう一度引き抜いて、それでも構えながら近づいて。
■アガサ > 「そうですか?……あ、もしかして桜庭先生ったらこの間『橘』でケーキセット奢らせたの根に持ってますぅ?
あれはACE Survivalで私が勝った御褒美じゃないですか。先生なんですからそういうのはダメですよ。だーめ」
図太いと言われ、数秒考えこむように視線を揺らして手槌をポンと打って唇が歪む。
意外と根に持つ人なんだろうか。でも私は気にしたりしないので笑顔のまま桜庭先生を引っ張っていきました。
「うーんこうして真近で見ると気持ちが悪い……こういうのってやっぱり妖怪って奴なんでしょうか?」
人の足にしか見えない根を、息絶える前の虫のように蠢かす巨木の怪異。
近寄り眺めると、口にも見える樹洞から粘着質な液体を掻き混ぜるような音がし、
次第に腐敗臭が漂い始める。
「…………確かに仰る通り、この中に手を突っ込むのはちょっと──」
桜庭先生に鼻を抓んだ顔を向けて苦笑いした次の瞬間。
樹洞より飛び出すのは肉の塊だった。
「──へ?」
いや、肉の塊じゃなくて皮膚の無い人の頭だ。
額にヒビの入った赤い宝石のようなものを頂き、全体に歪な、様々な色の瞳が無数にあって、死臭と濃緑の腐汁を振り撒いている。
撒かれた汁の落ちた場所からはじゅうじゅうと何かを焼くような音が聴こえた。
■桜庭 美月 > 「誰が恨むか! 次のゲームでは絶対勝つし。
新しい機体も作ったし? 西部劇のゲームでもいい衣装手に入れたし? ゾンビサバイバルでも大体最後の5人くらいまで残れるし?」
ふっふーん、とゲーム遍歴をさらすダメ教師。
どや顔を見せながら二人して歩けば、化け物の前までやってきて。
「私にゃそういうのは全く分からないけど、素面じゃ近づきたくもないね……。」
うぇ、と気持ち悪そうにしながらこちらも鼻をつまもうとしたところで、ぐじゅ、っと何かの音が響き。
その瞬間、アガサを抱きしめながら横に飛ぶ。
あいにく、集中していない状態で、しかも生徒が傍にいるとなれば、拳銃の使用は選択肢から外れる。
腐った汁を撒き散らすそれから庇うようにしながらも、一気に転がって距離を取り。
「……大人しく、やられてろよっ!!」
上体だけ起こした、座り込んだ体制のままでパァンッ、ともう一度発砲。
今度は魔眼の力を遣わずに、パァンッ、パァンッ、と更に発砲して、赤い宝石を貫こうとする。
■アガサ > 「────」
白濁して澱んだ瞳と目が合う。
これは死者の眼だ。
きっとこの怪異に喰われた誰かのもの。
生前は澄んだ夏空のように綺麗だったに違いない青い瞳は、今や感情を何一つ感じさせてはくれない。
もしかしたら、もう少し見ていたら感じさせたのかもしれないけれど、
桜庭先生の身体が私の視界を遮って、身体諸共空転させるからそれは叶わなかった。
「……び、びっくりしたあ……」
庇われて山道を転がった後の事。
私が身体を起こすのと桜庭先生が怪異の本体を撃ち抜くのはきっと同時。
撃ち抜かれた怪異は、男の声とも女の声とも、若者とも老人ともつかない声をあげてどろどろに溶けて樹洞に消え、
程無くして怪異の外殻とも言える、桃の樹にしか見えなかった部分までもが濃緑の腐汁を滲ませて溶け始めていく。
「……この山。みだりに立ち入るべきじゃないような気がしてきました。冒険、ゲームの中だけで十分ですね」
春の野山に限りなく相応しくない光景に、尻餅を着いたまま感想が落ちる。
入れ替わるように立ち上がろうとするけれど、腰が抜けたのか立ち上がなくって、私は誤魔化すように笑いました
■桜庭 美月 > 「………死んだかと思った。」
ふー、っと吐息をついて出てくるのは、今しがた怪異をしとめたとは思えないくらいに震えた声。
あーびびった。死んだと思った。
「………いやまー、そりゃそうだろ。
私だって行きたくなかったはなかったし。
一人なら走って逃げ切る自信は無いことはないけど。」
頬をぽりぽりとかきながら、まあ忘れればいいさ、とアガサの頭を撫でる。
ちょっと腐った液体がかかって溶けた衣服は後ろ手に隠して。
「……そーそー、帰ってゲームでもしよ。
実際にやり合うと下手するとゲームも楽しめなくなるからな。
………さーって、まあ、委員会にゃ私からなんとか言ってみるさ。
何割かくらいなら出るだろ。 ゲーム代くらいはな。」
何て言いながら、ほれ、とアガサの体をひょい、と抱き上げようとする。
ちょっと胸が邪魔になるけど。
■アガサ > 「パパからのお小遣いじゃちょっと足りないなって思って受けたアルバイトだったんですけど……
こういうの、君子危うきになんとかって言うんですよね。気を付け……あ、あれ?おっかしいな」
溜息を吐いて武道で言う、きっと残心のように呼吸を整える桜庭先生に唇を曲げて苦笑い。
なのに、途中から目端に涙が浮いて困ってしまう。おかしいなって、言葉にも出て首を傾げた所で
意外な腕力でお姫様のように抱えられて瞳が数度瞬いて涙が落ちて行く。
「と、とりあえず……ゲームの課金代くらいにはなりますかね?」
身体に当たる桜庭先生のそれはそれは女性らしい部分に嘆息を落とすのは今は無し。
何事も無かったかのように相好を崩して私は訊ね返すのでした。
「……あ、あと。直ぐ歩けますから。下ろしてくださいね」
勿論、赤ん坊のような扱いに対する抗弁だって忘れず!
■桜庭 美月 > 「アルバイトならどっかの店で注文でもきいておけよ。
ここなら本土と違って見た目違う奴も多いから、どんな年齢でもなんとかなるだろ。」
ふー、っと溜息をつきながら、ちょっとだけ強く抱いたまま。
涙に関しては気が付かないフリをする。
ま、そりゃそうだろな、くらいの心持ち。
元々事件とかで危ない目には慣れて……慣れてはいないが、経験があるからまだ平常心が保てているようなもの。
「おー、それなら私も半分半分。
そうだな、舗装された道に出たら下ろしてやるよ。
あと、半分くれる約束したら。
できないってなら、あれか、写真撮るか。」
ケケケ、と教師とは思えぬゲス笑いをしながら、ポニーテールを揺らして山をのんびりと下りていき。
ご案内:「青垣山」からアガサさんが去りました。
ご案内:「青垣山」から桜庭 美月さんが去りました。