2020/09/19 のログ
ご案内:「ラーメン屋」に阿須賀 冬織さんが現れました。
ご案内:「ラーメン屋」にレナードさんが現れました。
阿須賀 冬織 > 「よっし、着いたぞー。  二人だけど空いてる?」

ここに来るまで、何か軽く雑談していたのならキリのいいところで切り上げて、
彼に一声かけてからガラガラと店の戸を開ける。らっしゃいの声に手で示しながら人数を告げる。
見えた店内は幸いまだ混んでいないようで、すぐにカウンターにどうぞとの声が返ってくる。

「よし、空いてるってさ。」

そういって彼を店内へ手招きする。何気にこうやって食事に誘ったのは初めてだ。
とりあえず失敗はしなさそうな、時々訪れるラーメン屋というか街中華というかそんな感じの店にした。

レナード > 普段は特段誰かに呼ばれるなんてことはない。
とはいえひとまず、連絡用の端末は持っていた。
勿論、ここに始めてきた時に手に入れたもの…
だから、この連絡先を知っている人は、こうして自分に連絡ができる。

食事に行かないか。と、彼から誘われた。
思えば初めての事だったように思える。
別段、断る理由はない。既に再開は済ませていたのだから。
特に何も考えず、それを承諾する。
…それから、今に至る。

「ふーん?ラーメン屋。
 なに、冬織の知ってるとこなわけ?」

彼の手招きに誘われるように引き戸を潜ると、後ろ手にそれを閉めて。
…外はまだ若干の熱気が残っていたが、流石に冷房の利いた店内は涼しいものだ。
ほぅ、と息を吐いて辺りを見渡す。

「こんなんで外に待たされたら暑さで茹だって死んじゃうとこだったし。」

なんて、他愛もない冗談を交わす余裕もあった。
見た目暑そうなローブは、こんなところでも脱ぐことはなかった。

阿須賀 冬織 > また連絡がつかなかったら、なんて考えると誘ってから返事が来るまでは結構不安だった。

「ん、まあ時々な。それなりに安くてそれなりに美味いから飯作んの面倒になったときとか結構助かるんだよ。」

問いかけに答える。普通の店をと思い選んだ部屋から遠くないラーメン屋。
学生通りから少し外れているものの、安い早い美味いの三拍子そろったこの店は近場の人からはそれなりの知名度と人気を得ている。
かくいう自分も、自炊が面倒になると時々訪れていた。

「そりゃ、んな服着てたら暑いだろ。……別にここはそういうの気にする店じゃねえけど、汚さないようにだけ気を付けろよ。」

9月に入ったとはいえ島はまだそれなりに暑い。そんな状況でも脱がないあたり、何か特別な物なんだろう、多分。
店内で涼む彼にそう声をかけてから奥の方のカウンターに座る。

「そういやレナードはラーメンとか食ったことあんの?」

ふと疑問に思って軽く訪ねてみる。

レナード > 「えー、やだ。
 この服、ちょっと特殊だもんでそんなに暑くねーし。」

暑いだろうと問われると、否と答える。
どうやら食べる合間も脱ぐ気はなさそうだ。
彼の予想通りだったというべきか、それを裏付ける言葉をかけて。
後ろへ着いていくように、カウンターへと腰掛けた。

「……んー。多少は経験あるし?
 こっちに来てそんな経ってるわけじゃないけど…
 でもまあ、ここに来るのは初めてだし。」

ここに来て、ほんの数か月。
決して金回りがいいわけではなかったが、この際に食を愉しむ余裕を持つことも肝要と考えたこともあったくらい、
多少の贅沢はする余裕はあった。
門の向こう側での生活は普段が良く分からんイキモノの肉や草や木の実が主な食べ物だったから、
こういうところで文化的な味を覚えておくのも悪くないと思ったのだ。
とはいえ、初めて来るところは多少の緊張はするのか…座っていながらも辺りをしきりに見回していた。

「…………。
 ね、ここってさ、まさかと思うけど。

 ニンニク入れますか?って聞かれたりしないわけ?」

どうやら別のことを心配していたようだ。

阿須賀 冬織 > 「ならいいけど。」

まあ予想通り何か特別なものなのだろう。あまりいいとは言えないが気にするような場所でもないので、
じゃあさっきの暑いの言葉はなんなんだよと突っ込みたくなるのを我慢。

「んまあ、メインの通りからはちょっと外れてるしなあ。
とりあえず経験あるならまあメニューとか大丈夫か。」

この前食堂で合った他の異邦人の子はメニューの内容理解してなかったようなので聞いてみたが杞憂だったようだ。
……彼も異邦人だし、激辛を越えたナニカを食べれるように極端な舌だったりするのだろうか?

「どしたの? んなにキョロキョロして……ん? いや別に聞かれねーけど。
……ここボリューム普通だからな。少なくともお前が想像してるのよりは。」

……多少の経験ってまさかあそこだろうか。あれは無理だ。ラーメンではない。
そりゃここもお高い店とかと比べたらそれなりの量はあるのだが、女性でも食べれるし、少なくとも暴力的ではない。

レナード > 「そう?違うならよかったし。
 いやその、食べられないわけじゃないんだけどさ。
 やるとなると、準備が………」

準備。
少なくともそういう類の店でない事に安堵しているようだが。
どうやらイケないわけでもないらしい。
ともかく、この話題は危険だ。一つ咳ばらいをして、話を変えるとしよう。

「……んで。おめーは何頼むわけ?」

テーブルの上で頬杖を突き、彼を見やりながら尋ねる。
メニューはまだ見ていない。
彼が何を頼むのか、聞いてから考えるつもりだろうか。

阿須賀 冬織 > 「おっおう、……マジか。」

自分はちょっとまあ……うん。やめよう。この話はしんどい。
彼の話題転換にのることにした。実際ずっと駄弁っているわけにもいかない。

「んじゃあ……俺は味噌ラーメンで。そういうお前は?」

一応ラーメン屋で誘ったのだから頼むのはラーメンかなとメニューに目を通す。
有名どころの味は全部ある。どれにしようかと少し考えて味噌ラーメンに。
ここの味噌ラーメンは少し甘めで、最近そっちに舌が寄ってきている自分には一番魅力的に見えた。
テーブルに置かれた水を少しだけ飲んで彼の方に質問を返す。

レナード > 「じゃ、僕もそれで。」

まだメニューは見ていない。
でも、彼は堂々と答えてみせた。
彼がそう言ってほんの数瞬経った後のことだった。

「ここに一度来た冬織が食べたいと思ったものなんだったら、ハズレはなさそうだし?」

頬杖を突いた姿勢のまま、にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
ハナから勝ち馬に乗る気満々だったようだ。

阿須賀 冬織 > 「ったく。……お前の好み知らねえけど、ラーメンにしては甘めだから口に合わなくても文句言うなよ。」

こいつ……初めからそのつもりだったなと、こちらも頬杖をついて横目で彼を見やる。
悪戯が成功したかのようにニヤニヤしている。
まあ別に砂糖がドバドバ入ってるとかそういうったゲテモノではないので大丈夫だろうが保険をかけておく。
……確かに、はずれをひかないって方法としては正しいよなあ。

「それで、この前は聞きそびれたけどさ。」

注文を終えた以上、今逃げるということはしないはず。そう思ってこのタイミングで聞いてみる。
ちょっとだけさっきの仕返し的な気持ちがあるかもしれない。一呼吸おいて彼に問いかける。

「……出来たって言う彼女、どんな奴なの?

レナード > 「ふん。甘めがなんぼのもんだし。
 その辺の草とか虫とか謎のイキモノの肉を焼いて食うよりは全然イケるはずだし。」

比較対象がそもそも食用を想定してなさそう。
そりゃあそんなのと比較するとマトモなもんが出てくるのは間違いないわけで。
本人もそれを苦せず言う辺り、門の向こうの世界ではそういう生活を送っていたのだろうか。

「…………あー。」

そして、注文を受けてラーメンが来るのを待つ間。
流石にここで逃げる…なんてマネはできない。
このタイミングを見計らっていたのか、と、ちょっと感心する。

「なに、おめーまさか……
 それ聞きたさにわざわざ僕を食事に誘ったワケ?」

分かりやすくしぶーい顔をしながら、この会合の意味を問いただしてみた。
その答えを言われる前に一つ大きくため息を吐いて…どこを見る訳でもなく、目線を前に戻す。
まるで思い出の中を手繰る様に、少しだけ二人の合間に空白が生まれた。
やがて、それを言葉にしようと口を開く。

「……眩しい子、かな。」

阿須賀 冬織 > 「……お前それ本当に食えるもんか? 虫はまあものによっちゃいけるけど……草は無理だろ草は。
そりゃ、それに比べたらマシに決まってるというか、食糧なんだから別枠だろ。」

比較対象がおかしい。それこそ食べただけで死ねるような辛さの者とか砂糖の塊だとかじゃなければ話にすらならないだろう。
どんなにまずくても食糧は食糧なのだ。

「いんや。別にそういう目的じゃねーけど? ぶっちゃけただの意趣返し。」

タイミングが良かったのでちょっとした仕返し位のつもりだ。
この店は早いことも売りの一つ。沈黙を通せば一応逃げはできるかなという配慮くらいはあった。

「へぇ……。って、くっそ抽象的じゃん。 いやまあなんか伝わったけどさあ……。
もっとこうないの? どこまで進んだかとかさ。」

零れた言葉は成程、好きだというのはわかるがうん。もっとなんかこう甘い話ないのかと少しおどけながら問い詰める。
……料理がいつ来るかはわからない。

レナード > 「うるせーし、電気で焼けば大体食えるし。
 わからねーもんだったら舌にのっけてピリピリしなきゃへーきなんだし。」

彼は特別な経験を積んでいます。常人はマネをしてはいけません。
その血といい、体質的なものも大いにあるだろう。常人はマネをしてはいけません。

「……おめーにしちゃやるじゃん。
 二度は通じてやんねーから覚悟するこったし。」

意趣返し。と言われても、一度やられたらやり返したいのがスタイルというか。
ただ、自分が店に誘うとなればグルメからゲテモノまで幅広そうなので、そこは一考の余地がありそうだ。
ひとまず、彼のその鮮やかな手腕を褒めておく。

「……んー……とはいえ、まだ2回しか逢ったことない子だし。
 いずれも屋上で逢ってるんだけど……一緒にコーヒー飲んだりとか……
 互いの名前を教え合ったりとか……手を取り合ったりとか……
 ………ぎゅーしたり、とか………」

この前のことを思い出しながら喋り始める。事実しか話すつもりはなさそうだからか、淀みこそない。
ただ、次第に声が小さくなったり、もにょもにょ口籠ってくるあたり、ちょっと気恥ずかしいと思っているのかもしれない。

阿須賀 冬織 > 「……んなの小説の中だけだと思ってた。」

あまりの暴論に唖然とする。やはり異邦人、ちょっと一般人とは違うようだ。
……異能的には俺もできるよな(出来るけどやったら多分やばいです)

「……そう言ってられるのも今のうちだぞ。」

今度も機会があったらやってやると宣戦布告。いやまあ同じ手は面白くないので他の方法を考えるが。

「へぇ2回…………2回でそこまで行くのかあ。
……にしてもこんにゃろー、ちゃんとデートとか誘ってあげろよ。」

人それぞれの積み重ね方があるというのは理解しているがそれはそうとしてやはりちょっと羨ましい。
隣で恥ずかしそうに声がしぼむ彼を軽く肘でつつく。
どうやらまだ屋上で合ってるだけみたいなのでいらぬ節介だろうが一言。

そんなやりとりをしていたらそろそろ待っていたものがくるだろうか。

レナード > 「………う、うるせーし。
 おめーと違って僕は慎重に事を進めるんだし。
 くそっ!思い出したけどおめーデート三昧じゃん!!リア充じゃん!!!」

なんかこの夏に色々と逢瀬を重ねているってハナシを思い出してきたものだから。
ついまくしたてる様に声を荒げるけど、そこは公共の場…多少は声量は抑えた。

「おほん。………まあ、なんだし……
 明るくて、暖かくて、優しい子なんだ……
 あの子から好きって言われた時は、……心の底から、震える気がしたくらいに……
 だから、ちゃんとセキニン取るつもりで、僕は常世に残ったんだから。」

一つ咳ばらいをして、話を続けよう。
次に述べるのは起きたことではなく、どう感じ、どう思ったか…そんな自分の中に沸いた感情。
更に彼女の話をするとき、どうしようもなく穏やかな顔をする自分に、きっと気づいていないようだ。
ついでに、自分がこの世界に残った理由も告げておく。

「……あ、来たじゃん。案外あっという間だし?」

そんな話をしていると、それが来たようだ。
同じものを頼んだのだから、二人とも同じタイミングで。

阿須賀 冬織 > 「俺だって慎重に進めてるわ!」

……デート三昧には言い返せないので聞き流す。
思わず叫んだが店のなかだ。気まずそうにあたりを少し見渡す。人少なくてよかった。

「そっか……。まあその顔を見てたらよーくわかるよ。……大切にしろよ。」

少しだけどこか物思う顔をして……っとラーメンが来たようだ。
向こうにも来たのを確認してから箸を手に取る。

「おっ、来たか。まあ、早いのも売りの店だからな。
んじゃまあ、レナードの帰還と……彼女が出来たことを祝してっと。
いただきます。」

とんでもないことを言ってから割り箸をパチンと割って食べ始める。

レナード > 「そっちこそ。
 まあ精々励むこったし。」

ラーメンがやってくるのを眺めながら、隣の彼の健闘をぶっきらぼうに祈る。
ただ、彼が抱いたその僅かな心の機微には、気づかなかったのだろうか。

「あんまはずかしーことを祝うじゃあねえし。
 おめーそんなことして、後で覚えてろし?
 ……いただきます。」

苦々しそうな表情で、でもそんなことは思ってなさそうな少し弾んだ声で、悪態をついた。
そうしてぶつくさ言いつつも遅れて割り箸を割り、麺をずるりと一口すすりこむ。
もぐもぐ、味わう様に、確かめる様にそれを味わってから…ふうと一息ついて。

「……あまいし。」

阿須賀 冬織 > 「……言われなくても。」

ぶっきらぼうにはぶっきらぼうで返す。
言われなくても気を引いてもらえるように、仲を進展させるために励むつもりだ。
……今度また出かける予定もあるし。

麺を一口すする。ほんのりと甘い濃厚な味噌の味が口の中に広がる。
そうやって堪能していると隣から予想できた言葉が。

「だから大丈夫かって言ったのに。……別の頼むなら早めにしろよ。」

いやまあ流石にスイーツのような甘さではないけど。まあ、うん。
口に合わないなら早めに別のもの頼めよとだけ声をかける。

ご飯を食べているわけだから、必然的に口数は少なくなるわけで
麺をすする音と隅から流れるテレビの音が響く。


……何の変哲もないような場所で、友人と食卓を囲み流れる普通の時間。
望んだ、手に入れた日常の一つの形だ。
これ以上、過ぎたことなど望むべきではきっとない。
……この日常が、自分にとっては過ぎたものなのかもしれないが。

「」

ポツリと零れたそれが聞こえたかはわからない。
……今の自分はきっと満ち足りたような表情をしているのだろう。

レナード > 「ぶふっ」

噴いた。
危ないところだった。噴いたが吹き出してはいなかった。
いきなりそんな言葉が隣から聞こえたものだから。

「げほ、げふ。
 ……なに、おめー。
 突然そんなこと言われるとびっくりするんだけど?」

半笑いになりながら、隣を見やる。
食事中なのだから、食事に集中すべき……だが、言わずにはいられなかった。
少し呼吸を整え、落ち着きを取り戻すと…

「まあ、それなら……よかったじゃん?」

阿須賀 冬織 > 「おい、突然噴き出すなよって……。」

突然噴き出した彼に意識が戻る。
……一体どうしたん………あっ。
まさか………………。っ~~~~~。

半笑いの彼に何か言い返そうとするが言葉が出ない。
ダメだ、恥ずかしさで死にそう。

「っ……そっか。………ありがと。」

聞こえた声に反応して隣を向き……指で頬をかきながら短く返事をする。

レナード > 「……ばーかっ。」

照れ臭そうに頬を掻く彼に、してやったり、とにやけ顔。
だが、嘘を吐く様なタイプではない……そういうところは、彼も良く知るところだろうか。
そう思えば、この悪態もどこか可愛く見えるかもしれない。

「さ、早いとこくっちまわねーと麺伸びちまうし。」

再び、ラーメンと向き合う。今度こそ食に集中しようと提案しながら。
ずるずる啜る様は、さっきの言葉を思い返して気恥ずかしくなってきたのをひた隠しにするようでいて。

「………はー、あまいし……」

常世の日常に戻ってきたんだな。
なんて、さっき続けて言いそうになっていた言葉を胸に秘め、ほんのり甘みのある味噌ラーメンを堪能したのだった―――

阿須賀 冬織 > 「うう、穴があったら入りてぇ……。」

完璧なカウンターを喰らった。まあ多分、嘘ではないのだろうけど、
だからこそまあ嬉しくも恥ずかしく……。

「……そうだな。流石に俺でも汁吸いきったこれはちょっときついし。」

提案されれば、改めて麺と向き合う。少しは落ち着いた。
同じくずるずると麺をすすり堪能する。ああ、素晴らしく日常だ。

ご案内:「ラーメン屋」から阿須賀 冬織さんが去りました。
ご案内:「ラーメン屋」からレナードさんが去りました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・休憩室」に角鹿建悟さんが現れました。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院・休憩室」にマルレーネさんが現れました。
角鹿建悟 > ――入院してもう1週間以上は経過している。とはいえ、たった1週間ちょいで6年間溜め込んだ体の過負荷も大分治ってきていた。
だが、衰えた筋肉や内臓機能、運動能力を取り戻す為のリハビリは必要不可欠だ。

そんな訳で、最近は点滴台付きなら歩き回れる程度には回復したのもあり、少しずつリハビリを行っている。

「―――中々…しんどいな…。」

そこそこ体力や筋力はあった筈だがかなり衰えている…今まで無茶した反動もあったのだろうが。
今は、リハビリセンターの隣にある休憩室スペースにて、自販機で購入したお茶のペットボトルを片手にソファーの隅で一息中だ。

「――来週くらいには点滴台も外していいんだったか…。」

ちらり、と傍らの点滴台を見遣る。邪魔、とは流石に言わないが矢張り歩き辛いのは否めない。

マルレーネ >  
「……あ、おつかれさまでーす。」

ふうぅ、と首にかけたタオルで顔を拭いながら、リハビリセンターから出てきた金髪の女が、からりと笑いながら声をかけて、ソファに座る。

リハビリ室で、ひたすら運動を続けている女はちょっとだけ有名だ。
付き添いがいなくなっても、一人で黙々と左手を使って運動を続ける女。

顔見知りにはなっているので、気にすることなく少しだけ置いて隣に座って。
こちらも水のペットボトルを口に着け。

「……はーあぁ………どうですか、経過は順調ですか?」

彼女は聖職者らしい。
この場所で、リハビリに悩む人の話をよく聞いている。
だからか、こうやって話しかけられるのも何度目かだ。
 

角鹿建悟 > 「――…どうも」

声に気が付いてそちらへと顔を向ける。――男の瞳には生気や覇気が全然無い。
死人と変わらぬ目付きでやって来た相手に軽く会釈をしつつ挨拶をする。
これが完全に初対面なら、もっとドライになってしまうかもしれないが…彼女とは顔見知りだ。

とはいえ、リハビリセンターでの彼女はちょっとした有名人でもある。
こちらはまだ点滴台付きで何とか歩ける程度。衰えた足や腕の筋肉を少しずつ取り戻す練習だ。

隣に座る黒い検査衣に金髪の女をちらり、と一瞥してからお茶を獄吏、と一口。

「……そうだな、手足の筋肉は衰えているが少しずつ戻ってきている。
…後は内蔵機能とかの衰えもあるが、そちらはリハビリだけでなく薬や食事も併せて、だからもう少し掛かりそうだ」

未だに食欲はあまり無いが、少なくともちゃんと出された食事はきっちり食べられるようにはなった。
――時々、トラウマじみた映像がフラッシュバックして吐きそうになるが…。

「――そちらは順調、というより…そう遠くない内に退院も出来そうな気がするが」

彼女のリハビリ具合を偶に休憩中に眺めたりした事はあったが、自分よりは全然回復しているように見える。

マルレーネ >  
「手足の筋肉にしろ、内臓の衰えにしろ、急につけると身体のバランスが崩れますからね。
 ゆっくり進めるのがいいと思います。
 何より、自分の気持ちが「治したい」とならないと、治るのは遅れてしまいますからね。」

穏やかに言葉をかけながらも、もう一度水を口にして。

「私は、そうですね。
 早く戻らないといけないんで、ちょっとがんばってますかね。
 まだ、いろいろ問題はあるんですけど。」

薬を入れられすぎて、時折禁断症状のようなものが襲っては来るが。
具体的には口にしないまま、んぅー、っと伸びをして。

「先週までのパズル雑誌は終わっちゃったんですよね。
 今はこれです!」

どーん、と取り出すのは、金属の輪がたくさん絡まっている不思議な物体。
まあ、いわゆる知恵の輪である。
 

角鹿建悟 > 「…入院前から、色々とバランスが崩れていたから、医者や看護師からはこれを機にそちらも見直せ、と言われたな」

食事は栄養が取れればそれで良い、という無頓着ぶりだったし、体は鍛えていたがバランスはあまり良くなかった。
更に能力の酷使のし過ぎで肉体に負荷を掛けていたのが追い討ちだ。つまり、健康面での”やり直し”の機会、という訳だが…。

「…問題、か。まぁそういうのは誰にでもある…か」

未だに己は立ち上がれていない。能力は封じられ、直す以外の何かを見つけられずにいる。
それでも、このままずっと病院に居る訳にはいかない…だから、せめて肉体面は地道に回復に努めている。
左手首に巻かれた黒いリストバンド――異能封印装置を眺めてから一息。

「そういえば、休憩室でアンタが何か雑誌を読んでたりするのは見かけたがアレ、パズル雑誌だったのか…。」

具体的にどういう雑誌かは、流石にジロジロ人の休憩を眺める趣味は無いので気にしていなかったが。
成程な、と思いつつも彼女が取り出したソレを無表情で眺める…知恵の輪か。

「…知恵の輪は確かに頭の体操とかにもなるし、悪くないが…それ、上級者向けのやつじゃないか?」

絡まっている金属のそれは形も複雑で数も多い。…中々にチャレンジャーだ。いや、もしかして得意なのだろうか?

マルレーネ >  
「あはは、そうですね。
 なんだかんだ、忙しいときってそういうことには気が回らないんですよね。」

相手の言葉を受ければ、穏やかに微笑して。

「ということは、ご病気か何かです?
 ああ、もちろん答えなくても大丈夫ですけど。」

伝えながら、知恵の輪を手に、がちゃり、がちゃり。

「いや、夜あまりねむれないので、一人で夜に触っていたんですけど…………
 どうしても、なかなか。
 これが通れば、いいんです、けど……!」

金属製の輪っかを、指でぐっと押して曲げようとする聖職者。
 

角鹿建悟 > 「――いいや、過労とかその類だ…あとは…まぁ、ちょっと”折られて”しまってな」

骨とかそういうのではなく…精神を。だから、未だに己は立ち上がれずにいる。
瞳に光は無く、会話はこなせても何処か常に無気力に近いものが拭えない。

お茶を飲みつつ、会話の合間に彼女の知恵の輪チャレンジをぼんやりと眺める。
――いや、ちょっと待て。何で指で無理に押し曲げようとしてるんだ彼女は。

「――あー…待った待った。知恵の輪はそうやって無理に力を入れて解くものじゃないぞ。
――手順、というか解き方が分かれば別に無理に力を入れる必要は全然無い」

と、一応アドバイスしておく。しかし、夜にあまり眠れないというのは…不眠症?いや、違うか。
睡眠障害の類ではあろうが、精神的なものなら自分と似たような感じかもしれない。

まぁ、それはそれとして。ともあれ知恵の輪の最後の一押しをパワーで解決は止めておきたい。

マルレーネ >  
「………なるほど?」

相手の言葉に、少しだけ目を伏せて、何か言葉を選びながら。

「そういう時って、自分では気が付かないものですから、気を付けてくださいね。
 大丈夫だと思っていても、実際には価値観が変わっていたりとか。
 何、ゆっくりと歩めば………、

 それに、変化も悪いことばかりではありませんからね。」

ゆったりと話しながら、それでもこちらは目の焦点が合っていないのはあるが、表情豊かで良く変わる。

んーー! んーーー!と力を入れて金属製のリングをパワーで形を変えようとしていたのを、はっ、と手を止めて。

「…………それはそうなんですけど、この部分を通せば輪っかが外れそうなんですよね。
 ……だら、もうちょっと歪めばいけるかな、って………。」

んっ、とやっぱり金属製の輪っかに手をかけるシスター。
パワーこそパワー。
 

角鹿建悟 > 「――そうだな、流石に”折られる”のは初めての経験だから、ここからどう立ち直るのかも…また立ち上がれるのかもサッパリ分からないが」

会話はちゃんと出来ている、肉体も回復傾向にある。けれど精神はそう簡単にはいかない。
悪友の言葉で火種はその手にしても、それを燃やして立ち上がるにはまだ――遠い。

ああ、俺はこんなに脆かったんだな…と、あの時、完全に意識が途絶える瞬間に聞こえたあの先輩の呟きに納得しかない。

――変化…さて、今の自分がここから立ち上がれたなら…少しは変わっているだろうか?
ちらり、と知恵の輪と格闘している相手を見る。…目の焦点がおかしいのは気付いていたが、あまり深くは詮索しない。
そもそも、こうしてゆっくり話すのは初めての相手だ。顔見知り程度ではあるとしても。

「いや、気持ちは分かるが落ち着け…むしろ、下手したら壊れるぞ。使い捨てじゃあるまいし。
――今、アンタが持ってる輪の部分を軽く手前に引いて、それでそっちの隣の小さな輪をその輪の下に通すように。
――で、少し捻るようにしながら引っ張ればいい」

と、そうアドバイスをしながらお茶を一口。知恵の輪の解き方にそれなりに慣れた風な口ぶりだ。

マルレーネ >  
「……おられる、ですか。
 私もちょっと、似たような感じで病院には入った……んですけど。
 私、鈍いとかよく言われるんですよね。」

あはは、と苦笑しながらも。

「…………。」

相手のヒントに、ほう、と頷いて。
輪を軽く引いて。 小さな輪を下に通して。
少し捻る………少し、捻って。
捻って………!

「うぎぎ………っ!」

強引にリングをねじ切ろうとするシスター。
パワーこそパワー。

「………ちょっと先輩その、ご相談なんですが。」

金属製の輪っかを手に、そそそそそ、っと隣に寄ってくる女性。

「………ちょっとお手本とかそういう…………?」

え、えへへ、えへへへ………っと、下手に出ていくシスター。
 

角鹿建悟 > 「――鈍い?…それは…多分、自分の心の動きを自分で自覚し難い、とかそんな感じ…なのか?」

疑問系になってしまうが仕方ない。自分は心理学者でもカウンセラーでもないのだ。
とはいえ、少々似た経緯で入院したっぽい相手。親近感、というのは流石に失礼だろう。

「――そう、その輪を下に通して、軽く捻―――いや、待ったシスター、そうじゃない」

だから、何でこの人はパワーに頼りがちなんだ…と、思いつつ片手を突き出して、ちょっと待て、という感じのジェスチャーを。知恵の輪が本当に捩じ切れそうで洒落にならん。

「――相談?……いや、まぁ別に構わないが。あと、俺の名前は角鹿建悟だ。そっちで呼んでくれると在り難い」

そういえば、顔見知り程度だからまともに自己紹介というか名乗ってなかった気がする。
なので、今更ながら名乗るのだが…ちなみに、男も彼女の名前は知らない。シスター、というのをちらっと聞いたくらいだ。

ともあれ、知恵の輪を受け取りつつ彼女に見え易いように軽く掲げてみせながら。

「――で、捻り方だったか?少しコツがあるんだが、こうして…こう、だ」

まるで手品のようにあっさりと知恵の輪を外してみせる。勿論、知恵の輪が変形していたりする、とかそういうオチもない。
仕事柄、手先も相応に器用ではあるし、”物体の構造を読み解く”のは男の十八番だ。
ならば、複雑な知恵の輪の解き方もある程度弄れば大体は分かる。

マルレーネ >  
「そうかもしれません。単純というか………………。」

てへへ、と笑いながら、頬をぽりぽり。
単純なのは、知恵の輪の解き方でなんとなく察するかもしれない。
パワーisゴッド。


「もしよければ、何か話せることがあるなら話すのも良いかもしれません。

 例えば、何があったのか。
 今ひっかかっていることがあるなら、それが何なのか。
 将来への漠然とした不安、も構いません。

 そういうお仕事だったんですよ。 まあ、田舎でやらされていただけ、ではありますけど。」


相手の言葉を受けながらも、手元でさらりとバラされれば、おお、っと歓声をあげて。

「これ、一度作り上げるのが大変らしいんですよね。
 ちょっとやってみますね。 今見ていたんで、なんかできるような気がするんです。」

子供のようにウキウキとその輪っかに手をかけて。
まず一つ目で、強引に輪の中に輪をねじ込もうとする。

んんんんっ……!!
 

角鹿建悟 > 「――別に、単純な事が悪いとは俺は思わないけどな」

誰も彼もが複雑な思考や生き方をしている訳じゃあない。
単純(シンプル)でもいいじゃないか…愚直と言われても。
…いや、だがシスターのパワー偏重型なやり方は少し物申したいが。

「――そうだな…まぁ…俺は生活委員会に所属していて、その傘下の修理や修繕をするチームの一員なんだが。
――この島に来てから、ずっと『直す』事だけを優先して生きてきた。
…だから、心配してくれる誰かや助言してくれる誰かの言葉、感謝してくれた誰かの言葉を蔑ろにしてきた。

――そして、そのツケが来た…まぁ、折られなかったとしても…遅かれ早かれ限界だったんだろうけど、な」

不器用で愚直で頑固な生き方しか知らないし出来なかった。
――だけど、言葉で抉られ諭され、そして精神を折られた。…肉体の限界はそのついで、みたいなものだ。

「――だから、将来も何もかも…今、立ち止まってる俺はここからどうすれば、どう立ち上がればいいのかも分からない」

――誰か教えてくれ。そう叫びたい気持ちは押し殺す。自分の人生や生き方だ。人に教えて貰うものでもない。
…だけど…ここからどうしたらいいのか、どうしたいのか。今は何も分からない。

「――コツや手順が分かればそう難しいものでもないが…いや、大丈夫か?」

シスターに知恵の輪を返すが、またパワープレイにならないか正直心配だ。
まぁ、出来そうというなら流石に普通にやるだろう――と、思っていた瞬間が俺にもあった。

「――落ち着けシスター、だからそういうのじゃない」

この人、やっぱり脳筋なのでは…?ともあれ、またまたストップを掛けておく。
このままだと彼女が組み上げる前に知恵の輪がぶっ壊れてしまう。

マルレーネ >  
「………そうなんですね。
 ……ああ、私はマルレーネ、って言います。 マリーでいいですよ。

 直す、というと、壊れた橋やら、柵やら?
 それくらいならば、私も経験はあるんです。
 それとも、もっともっと大きなものを?」

話しながら、どうすればいいか分からない、という青年の言葉に、少しだけうん、と頷いて。

「ということは、よっぽど身体に負荷のかかる………能力か何か、ということでしょうか。
 どうして、そんなに優先していたんです?
 ………これは否定というより、興味、ですけど。」

首を傾げながら、隣に座って横から顔を覗き込む。


「………あ、あはは、もう一度くみ上げるとかできます?
 もう一度、一からやってみる方がいい、のかな?」

ストップをかけられれば、ちょっとだけ赤くなってあはは、と頬を掻く。
 

角鹿建悟 > 「…分かった、お互い退院してもまた会う事もあるかもしれないが…まぁ、その時はよろしく、マリー。

…そうだな、物体…物であるなら”何でも直せる”。そういう能力でな。
その代わり、人や生物の類は一体癒す事も直す事も出来ない。肉体も精神も…俺の力の一番の制約はそこだな。
あとは、まぁ集中も必要だから気力や体力は直す対象によって相応に削られはする、な」

能力については別段、隠す事もしていないのであっさりとなるべく簡潔に説明を。

「理由、か。…ただ、直したいからそうした。そうしなければ気が済まなかった。
――一方的にただ、壊れて行くのが我慢できなかった。…だから直した」

ぽつり、と直す事への固執の理由を語るが、それはきっと真実ではない。
話したくない…話せない、そういう事ではなく。原点を自分でもう忘れかけているのだ。
――だから、直す事に執念じみた取り組みをして――その果てがこの有様だ。

「――一度”折られて”分かった。いや、きっと前から多分気付いてはいた。
ー―俺は、直す事ばかり優先してちゃんと周りを見てなかった、人と”向き合ってこなかった”」

そう、気付いた。だけどそれをどう”直せばいい”のかも分からない。
彼女から再び知恵の輪を借りつつ、会話の合間に”手元を見ないで”組み上げていく。

「――この知恵の輪みたいに、もう一度自分をきちんと”組み直せれば”いいんだろうけど、な」

そして、綺麗に組みあがった知恵の輪を再びマリーへと渡そうか。

「こういうのは、閃き…発想も大事なんだが、それよりも大事な事は根気良く諦めず、だ。
―-だからじっくりやるのがいいんだ。…さっきみたいな力押しは駄目だぞ?」

マルレーネ >  
「………それは、凄まじい能力ですね。
 私、田舎で良く一人で橋を直せとか言われてましたから。
 死ぬかな?って思ったことも何度もありまして……。」

ほぉ、っと小さく声を漏らして、その能力の話を聞く。

「………貴方は、それだけ強い思いがどこかにあったんでしょうね。
 でも、それは本当に良かった。」

少しだけ、手を恐る恐る伸ばして、その手に触れる。
良かった、と表現をして。


「………もし、あなたが直すこと以外にも目を配って、友人の声も聴いて。
 人と向き合って、まっすぐに育って。
 "直すべきところも無い"のに、折れていたとしたら。
 どうしようもない.」

そっとその知恵の輪を受け取りながら。

「………それこそ、私のようにこれに向き合っていたら、直せなくなっているじゃないですか。
 だからじっくりやるのがいいんです。
 自分を組みなおすなんて、10年以上組んできたものをバラすんですもの。
 そりゃあ、時間がかかります。

 何より、能力が通用しない。
 きっと、あなたはその能力に頼り過ぎたのかもしれません。

 でも、大丈夫ですよ。 だってこんなに繊細で。
 それでいて、私のパズルなんて、放っておいてもいいのに、向き合ってくれたじゃないですか。」

穏やかに微笑みながら、手をぎゅ、っと握って微笑みかけて。


「………あれっ、もう組みあがってる!?」

話に夢中で気が付かなかったらしい。 ひぇっ、と声をあげる女。
 

角鹿建悟 > 「――今思えば…きっと、そちらの方が凄いと俺は思うけどな。一応、俺も能力だけでなく工具とかそういう扱いは仕事柄慣れてはいるが…」

だけど、能力のほうが早いし何より確実に直せる。だからこそずっと能力を使い続け体を酷使してきた。
今はこうしてリハビリと常世の医療技術のお陰でかなり持ち直してきてはいる。
――ただ、今のままでは退院しても同じ事の繰り返しだろう。…それでは駄目だというのは理解している。

――手を伸ばされた。きっと、無自覚に自分はこういう手を何度も振り払ってきたのだろうな、と。
恐る恐る、といった感じで触れてきた彼女の手を拒みはしない。――今の自分にはもう出来ない。

「――成程、俺はどん底だがまだ致命的ではないらしい」

マリーの言葉に、今気付いたかのようにぽつり、と漏らす。挫折の経験が初めてだからかもしれない。
それに、折れてもどん底でも――力を今は封じられていても。直すという行為を完全に止めたくはない。

「――そうだな、俺の力はまったくアテにならない。
…だから、根気良くやるしかない…分かってはいるんだけどな」

だけど、自分を組み上げるにしても、その最初の一歩がまだ踏み出せない。
――焦っても仕方ないしそう簡単に立ち上がれる訳でもない。それでも…このままでは駄目なのだけは痛感している。

――手を握られる。…ああ、人の体温ってこういうものなんだな、と。
――6年間、いやもっと長い間。忘れていた、捨て去ったつもりでいた何かを思い出した気分だ。
だから、『ありがとう』の気持ちをこめて、そっと一度だけマリーの手を握り返した。

「――いや、さっきから手元でずっと会話の間も組み上げていたからな…それに、これと同じタイプの知恵の輪はやった事がある。
――だから、手元を見ないでも大体は分かる」

手先はまぁ、それなりに器用だし物の構造を理解して直すのが男の真骨頂。
それの応用――構造を理解すれば、見なくても外し方と組み直し方は大体分かる。