2019/02/25 のログ
■ヴィルヘルム > 青年が構築している術式構成そのものは,基本に忠実で堅実な構成である。
それは難解な魔術学の概念を,この青年が必死に理解しようと努力していることの表れでもあり,現時点での青年の限界でもあった。
「……あ,ごめん,もっと早く完成させるつもりだったんだけど…。」
貴女に気を遣わせてしまったと感じたのか,青年は申し訳なさそうにそう言ってから,「お願いしてもいいかな。」なんて,苦笑した。
行き詰っているのは,自分自身でもよく分かっていたから。
「…クローデットは何でもすぐ出来ちゃうけど,昔からそうだったの?」
少しだけリフレッシュしようと,頭を魔術学モードから雑談モードに切り替えた。
■クローデット > 基本に忠実に出来ている点は、まずは長所であろう。骨格から歪んでしまうと、後が大変なのだから。
(…思考の幅を、無理なく広げられれば良いのでしょうけれど)
そんなことを考えつつ、青年が恐縮し、苦笑しながらもお茶を所望すれば、
「「出来るようになるための」お勉強ですから、焦らずともよろしいのですわ。期限までに間に合えば良いのですから。
…それでは、しばしお待ち下さいね」
そう、花の綻ぶような笑みを向けてから台所へ。
数分後、お盆に温かいお茶の入ったティーカップを2つのせて、クローデットは戻ってくる。
「…はい、どうぞ」
青年にその片方を差し出し、自分の席の方にもう一方を置く。
次に投げかけられた問いには…
「………流石に、「何でも」出来るわけではないのですけれど。
ただ…わたしは、学習という意味では環境に恵まれておりましたので。幼い頃から、無理なく、細かく「階段」を登って参りましたの。
そういう意味では、困った記憶はあまりありませんけれど…それはわたしが特別だったからというよりは、環境が特別だったからという方が正確でしょうね」
やや伏し目がちにして口元だけで微笑み、自分のティーカップに口をつけた。
無論、その細かい「階段」を倦まずに登ってきたことそれ自体は、クローデットの美点には違いないだろう。
■ヴィルヘルム > 思考の幅,という貴女の内心の指摘は,まさしくのこ青年の問題の中心を捉えていた。
貴女はとうに知っていることかもしれないが,この青年はとにかく,一つのことに囚われると周囲が見えなくなる。
……今も,ある意味では,囚われていると言えなくもないだろう。それは青年にとって幸福なものだったが。
「それもそうなんだけど…クローデットの邪魔になってないかな,って。」
貴女が暇でないことは分かっていたし,自分が貴女に教えられるものは何もない。
だから,幸福な時間に代わりはないのだが,少しだけ負い目もあった。
「ありがとう……ふー,でも,さすがにちょっと疲れた。」
運ばれて来たカップを手に取って,一口だけ啜る。
それだけでも身体が温まって,緊張がほぐれた気がした。
「環境が恵まれてた…かぁ,でもそういう意味じゃ,僕もそうかな。」
以前なら絶対にそんな風には思わなかっただろう。
この島に飛ばされた日から,本当に色々な事があって…
「…ううん,クローデットはやっぱり,すごいと思う。
細かく階段を登る…かぁ,やっぱり,それってすごく時間かかるよね。」
…その言葉には,近道をしたい,楽をしたい,という思いは込められていない。
ただこの青年は,一日でも早く,貴女の隣に並べるよう,一段でも早く,高く,登りたいと思っていた。
それは大きなモチベーションに繋がる考え方だが,危険な考え方でもあるだろう。
■クローデット > 「ああ…お気になさらないで下さい。
今は魔術そのものの勉強をする機会がかなり減っておりまして…これはこれで、良い気晴らしでおさらいですのよ」
魔術そのものから専攻を切り替えているので、実は今のクローデットは魔術関連の授業をあまり取っていないのだ。今青年が学んでいるような魔術言語もそうなのである。
青年をフォローするクローデットの声はどこか弾んでいて…だからこそ、なぜわざわざ専攻を変えるのかが、他人には分かりにくいところではあるだろう。…この青年には、想像出来なくもないだろうが。
「…ヴィルヘルムの環境が、ですか?」
クローデットが自分と対比して思い浮かべたのは、話の流れ上当然だが青年がこの島に飛ばされてくる前のことである。
偽らざるを得ない環境、学びから遠ざけられた環境をそう評する理由が想像出来ず、ことりと首を傾げる。
「確かに、時間はかかりましたけれど…ヒトの成長にそのまま寄り添っただけと言えなくもないくらい…特に幼い頃は、素朴な話から始まりましたので。
成長した後から学び始めるのであれば、それこそ生活実感から補うような」
論理や魔術言語もさほど苦にしないが、クローデットは元々伝統的な魔術師の系譜の中に属する人間だ。
「…「急がば回れ」という言葉もございます。
高い構築物を築くのであれば、土台や裾野も大事ですのよ?」
くすくすと優しく笑って、ティーカップに口をつけた。
ちらりと青年を見る目には、どこかいたずらっぽいような、楽しげなような…そんな笑み。
■ヴィルヘルム > 「うーん…そう言って貰えるのは嬉しいけど………でもやっぱ気にするって!」
素直にそう伝えるあたりは,本当に貴女を信頼しているのだろう。
専攻を変えたことの理由は少しだけ心当たりがあるけれど,だからこそ,魔術学の分野で貴女を頼るのが,申し訳なく思えるのだ。
「そ,だってほら,クローデットっていう先生がいるし。」
青年が語っているのは,今この瞬間の事だった。
言い切ってから,少しだけ恥ずかしくなったのか,お茶を飲んで視線を逸らす。
「うーん……。」
幼い頃から学んでいるクローデットと,学びが始まったばかりの自分。
その絶望的なほどの差を思えば,少しだけ暗い気持ちにもなってしまう。
「分かるんだけど,分かるんだけどさ…」
一日も早く,追いつきたい。
恥ずかしくて口にできないそんな思いを,飲み込んで…
「…やるしかないかー。」
貴女が優しく,楽しげに笑ってくれれば,青年は子犬のようにぐぐっと伸びをして,お茶を飲み干す。
その言葉はやる気に溢れているというより,疲れたなー,やりたくないなー,という素直な思いが漏れ出していた。
ちょっとだけ,優しい貴女に甘えていたのだろう。
■クローデット > クローデットは、つかの間ためらって…
「………そうしていじましいヴィルヘルムを眺めているのも、面白いものですから」
こう言ってくすくすと笑った。「可愛らしい」と言わなかったのは配慮なのかどうか。
気にするしないのやり取りは押し問答になってしまうと思ったのだろう。
「………しかし…なるほど、そういう意味でしたか」
「てっきり、お互いの生育歴を比較したものかと」と、くすくすと笑って…青年が視線を逸らせば、笑顔はそのままに、ふっと吐息をこぼす。
「…まあ、積み上げていくしかないものではございますわね。
…もっとも、疲れた状態でどこまで身になるかという問題もございますけれど」
青年の、どこか自棄が入ったような振る舞いに対してそんな風に。
「…甘いものも、お持ちすればよろしかったですわね。気が利かずに申し訳ありません」
こんなことを優しい顔で付け足すあたり、やはりクローデットは心を許した存在には甘い。
■ヴィルヘルム > 「あー…クローデットが僕で遊んでるー……。」
貴女の狙い通りか,青年はわざとらしくジト目で貴女を見た。
それから,くすくすとこちらも楽しそうに笑う。申し訳ない,という気持ちがいくらか和らいだ。
「この島に来る前は…まぁ,学ぶとかそういうの考えたこともなかったし…。」
苦笑をうかべて,過去の話はそれ以上掘り下げなかった。
それを思い出せばきっと,気持ちが沈んでしまうだろうし…
「…大丈夫,ちょっと休憩したら頑張るから……」
ここまでかなりのレベルで集中していたこともあって,オフモードだ。
…が,そこで貴女がさらなる優しさで追い打ちを掛けてくるとは思わなかった。
「って!ちょっと待った!ごめん,頑張る,すぐ頑張るから!!
終わってから二人でゆっくり食べよう,その方が美味しいし!」
無言の圧力を感じたとかそういう訳じゃなくて,貴女の優しさ攻撃に申し訳なさが戻ってきたのだろう。
プラスマイナスが良い感じに釣り合って,青年のスイッチがまたオンになった。
「……あ,これ逆さにすればいいのか。気付かなかった!」
改めて見直すと,新しい発見があることって,けっこうあるよね!
■クローデット > 「いっそこのくらい「悪い」方が、ヴィルヘルムが気兼ねせずに済むかと思いまして」
楽しげに笑い合う。
悪意があった頃には散々痛めつけたし、それがなくなった後もこういう方向で色々あった。
この程度でぶんむくれるくらいなら、とっくにそばにはいない人間だという思いがあった。
「………。」
逆に入ったスイッチ、大慌ての青年、そのまま自分で引っかかりに気づいた怒涛の流れに、声を出さずに笑う。
この「区切り」を提供するために、先ほどお茶を提案したようなものではあるのだけれど。
「…甘いものをお持ちする際には、お茶のお代わりをお淹れ致しますわね」
そう言って、優しく笑った。
■ヴィルヘルム > 「もー……なんか,手のひらの上って感じがする。」
でも,それも悪くないかな,なんて思ってしまう青年。
これまで色々な事があって…その結果今があるのだから,これまでの色々も,青年にとっては貴重な日々だった。
「分かってたなら教えてくれればいいのに。」
笑われて少し恥ずかしかったのか,そんな風に抗議の言葉と視線。
けれど,これは自分で気づいたからこそ価値があるのだと,青年も分かっていた。
「たまには僕が用意するよ…って言いたいところだけど,クローデットが淹れた方が,美味しいんだよね…。」
そっちも教わろうかな。なんて,楽しそうに。
■クローデット > 「ふふふ、掌から降りていらっしゃるのを楽しみにしておりますわ?」
楽しげにハードルを上げていく。
でもこれは結構本音だ。青年の望む関係に至るにしても、青年の自立を促すにしても、通らないといけない道だから。
「…申し訳ありません。出来るところまでは、ご自身でお考え頂きたかったものですから」
そう言って優しく微笑む。スパルタでこそないけれど、「理解すること」に関しては結構シビアだった。
「台所の勝手も違いますから、仕方がありませんわ。
…それに、教わるならばジュリエットの方が上手です」
穏やかで、実務的で、だからこそちょっとつれないような反応。だが…
「そうですわね…もし指導の機会を作るのでしたら、ジュリエットに相談した上で…試験が終わった後、でしょうか」
青年がここを訪れる口実になるのは間違いなかった。
しかし、「試験期間終了後」ということは、「あの日」が飛ぶということでもある。
■ヴィルヘルム > 「分かってるって…そのために,頑張ってるんだから。」
ポロっと本音が漏れる。
掌の上も居心地が良いのだけれど,やっぱり,隣に並びたかった。
「…ううん,でも,お陰で何とかなりそうだから……ありがとう。」
礼儀正しく頭を下げて,それから,貴女の反応に少しだけ残念そうな顔を見せただろうか。
けれど,続けられた言葉には,はっと我に返って,
「…試験終わってから,そうだね,今はそんなことやってる余裕無いし。」
今やるべきことを思い出すとともに,試験が終わった後の楽しみが1つできて,少しだけやる気を出したようだった。
この時点で青年は,単純にお茶の淹れ方を教わる,と言うことしか意識していない。
■クローデット > 「………お勉強は、ゆくゆくはヴィルヘルムご自身のためにもなることですから。
身が入っていらっしゃるようで、嬉しく思います」
ぽろっと漏れた本音を、クローデットは揶揄しなかった。
静かに、青年の姿勢を喜ぶ旨だけ伝える。
「…それに、「やりきってから」と思えば、純粋に楽しみに出来ますでしょう?」
少し楽しげに笑う。「あの日」が試験期間中なのが良くないのだが、今年は普通にスルーしてしまいそうなこの二人だ。
「わたしの誕生日も近いですし」
その分というかなんというか、花の綻ぶようないつもの笑みで、しれっと、恐らく重要情報がこぼれた。
■ヴィルヘルム > 貴女の言葉に,青年もまた嬉しそうに笑んだ。
そして,改めて術式を書き上げてしまおうと思っていたのだが…
「え,ちょっと待った!!」
…完全に手が止まった。
「全然知らなかったんだけど,クローデットの誕生日っていつ!?」
■クローデット > 「あら、そういえば言っておりませんでしたわね」
ヴィルヘルムの反応に、珍しく一瞬きょとんとした。
…そう言えば、長い付き合いの割にその手の話はしていない気がする。今まで間が悪かったのだろう。
「…2月19日です。試験が終わればすぐですわ」
柔らかく笑んで、正直に伝える。そして…
「…大丈夫ですか?先ほど思いついた術式の構成は、頭から飛んだりしておりませんか?」
その表情のまま、勉強の心配をした。シビアである。
■ヴィルヘルム > 「ホントにもうすぐじゃない…!」
誕生日,それが特別な日であるのは,青年の世界でも同じだった。
青年の頭の中には,試験が終わってからその日が来るまでに何をどう準備しようかと,ある意味で物凄く複雑な思考が巡り巡って…
「…大丈夫,多分大丈夫……でも,ちょっと落ち着かないと。」
…ゆっくり息を吐いて,もう一度切り替えようとする。
けれど,やっぱり意識が貴女へと向いてしまう。
「……一個だけ,質問していいかな。」
悶々とするより,聞いてしまおう。
「クローデット,何か欲しいものとか,ない?」
勉強の質問ではないが,その瞳は物凄く真剣だった。
■クローデット > 露骨に慌て出す青年の様子に、困ったように微笑む。
ジュリエットの予定について思いを巡らせていて、うっかり口が滑ってしまったか、と。
…そして、自分に向けられた問いによって、困惑の色は笑顔を維持する範囲でさらに濃くなった。
流石に「もうすぐ魔具に使う染料が切れるから材料を調達しなくては」とか、「精油の残りが少なくて」とか、そういう話じゃないのは分かるし、そもそもたかるつもりもない。
経済力とか、どう考えてもこちらの方が上だし。
「………ヴィルヘルムがわたしに似合うと思った花を、わたしの年の数だけ、花束にしていただけますか」
何とか、困惑の色を顔から払うべく努力しながら、青年があまり経済的に無理せずに済みそうで、それでいて悩みがいがあって…失敗した時のダメージが少ないものを望んだ。
■ヴィルヘルム > 「…クローデットに似合うお花,かぁ……。」
青年は決して花に詳しいわけではなかったが,一般的な男性に比べれば,関心が高い方だろう。
だから,幾つかの候補はすぐに脳裏に浮かんだ。
プレゼントなんてあまり経験は無いし,喜んでもらえるか不安だけれど…
「…分かった,楽しみにしといて。」
…聞いといて楽しみもなにも無いだろう,と思わないでもないが,
きっとこの青年は,プレゼントなんてものとは無縁の人生を歩んでいたのだろう。
少なくとも,自分に向けられた経験は無いに違いない。
「でもまずは,これを仕上げないと…!」
試験が終わった後の予定が,急激に濃厚になっていく。
青年にとってそれは,ちょっとだけ気を散らせながら,やる気を起こしてくれるものだった。
■クローデット > 「ええ」
「楽しみにしといて」の言葉に、満面の笑みで頷く。
一応要望はストレートに出したが、その要望に応じて青年が何を選ぶのかは、まだ分からないのだから。
「…全ては試験が終わってから、ですものね?」
優しく笑んで、青年の勉学の続きを見守る。
きっと、折を見てお茶のお代わりをひっそり足していたり、青年の手元に甘いものを差し出したりしているんだろう。
■ヴィルヘルム > 貴女の言葉に小さく頷いて,青年は先ほどの術式構成を書き続ける。
先ほどの発見を踏まえて考えれば,そう時間もかからず完成するだろう。
「…全部合格しないと。」
貴女が見守ってくれる,この恵まれた環境。
それを決して無駄にしてはいけないと,青年も努力を惜しまない。
結果,優秀と言えるほどではないにせよ,この青年にしては十分すぎるほどの結果を出すことになるのだが,それはまた,別のお話。
■クローデット > 「途中で息切れなさらないように、ご注意下さいね」
青年の、尋常ではない意気込みようにやんわりと釘を刺しつつ。
青年の興が乗ってくるようならば、折を見て自分の勉強もしていたりするだろう。
青年が苦しんでいた授業の単位を取得出来たと知って、「ちょっとご褒美用意してやろうかな」なんて考えたりしたかもしれないのは、これもやっぱり別のお話なのである。
ご案内:「クローデットの私宅・試験期間前」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅・試験期間前」からヴィルヘルムさんが去りました。