2020/09/12 のログ
■月夜見 真琴 >
「"生物"。 まさしく"生きている"ものは直せない。
――ふむ、未だ植わったままの幹は。
まだ栄養を大地から受けているはずだ。 元の形には戻るまいがね。
いや、自然の天命ゆえにあれをもとに戻したかったわけではないのさ」
満足してデバイスを鞄にしまう。
すっかり話し込むつもりの姿勢で、腕を組んで肩を竦めた。
「先達との思い出もあってな。
"壊れたものを直す"。それで思い至ったもののひとつだった」
それだけの話さ、と苦笑した。
人差し指をたてて、筆のように空中をなでてみる。
「生きていれば直せない。 転じて死んでいれば直せる。
おまえの認識なのか能力の制限なのかはわからないが。
奇跡ではあるが、蘇生の奇跡は成らないか。
――そうか。すべての時間も巻き戻せてしまえばいいのにな」
彼の言葉からその能力の輪郭をなぞり。
うたうような節運びで、そして苦笑に行き着いた。
「"それよりも"、"まず"。 "直す事"が先決」
笑顔にふと思案の色が差した。
彼の言葉を復唱してから、指を立てたままの手を、
数をかぞえるように、何度か胸前で振ってみせながら。
「直した結果の、余人の得だとか、景観の保持とかではなく。
修繕そのものを最優先としているように聞こえるね。
なるほど興味深いが――ひとついいかな」
手を、顔の横まで掲げた。彼の背後で指揮でもしているかのように。
■角鹿建悟 > 「――つまり、その大樹を元に戻すことはおそらく俺には不可能、という事だな……まぁ、そういうのは他に適任が誰か居るだろうさ」
一瞬、無意識に呼吸に間が空いた。生物は直せない…死んだものは戻らない。ああ、分かり切った事なのに。
「――さっきも言ったが、聞こえはいいが壊れた物を直す、といっても、俺の力は”奇跡”とは違うからな。明確に線引きや限度はある…。」
だから、彼女の言葉に同意は出来ない。奇跡?むしろ”呪い”だろう。
――そういえば、以前それをとある女性に指摘された事がある。あの時は――…。
「――蘇生は勿論出来ないし、全ての時間を巻き戻すなんて出来る筈が無いだろう。俺が戻せる時間なんて物の時間だけだ」
それでもかなり驚異的なのかもしれないが、男は自分の力を誇らない。利用しながらそこに誇りを持たない。
――それでもそれを使い、直す事に固執する様子は――…。
「――余人のあれこれや、景観そのものに”興味は無い”。俺は直す事がきっちり完遂できればそれでいい。
…だから、最優先と言うのは別に間違いでもないが…それがどうかしたか?」
彼女の仕草を時々眺めつつも、そこで修復が一段落――一息ついて体ごとそちらに向き直る。
丁度、彼女が指揮者のように手を顔の横まで掲げている。彼女の仕草は芝居かかっているようで自然体だ。
そんな事をふと思いつつ、彼女の言葉を待つ。
■月夜見 真琴 >
「選択、失敗、不和、喪失。
できるはずがないからこそ、それを教訓とはできる。
未だに女々しく戻りたいとはおもう反面、
そればかりに拘泥していてはいけないこともわかっている」
瞬きの合間に過去を見つめ、こぼれた溜め息は蟠りを吐き出した。
けれども、と空を見上げては秋風を浴び、
冬滝の髪を揺らしては、"もどる"という言葉に想いをはせる。
「まさしく"奇跡"だな。だからこそ惹かれるのだろう。
求めるものほど、手に入らない。
求めぬもののまえにこそ、それはあらわれてしまう。さて――」
あらためて向き直った彼に。
考え込むように、片手の指で自らの頬をつんつんと叩きながら。
視線を横にずらして、考え込むかのよう。
「非常に個人的な話になる。
なんの意味があるかといわれると困るところではあるのだが。
おまえは"物を直す"ことに拘泥しながらもそこに価値を見ていないように見える。
まるで"それしかないからやっている"――というような。
その様がずいぶんと危うくみえる、というのもあるのだが、それ以前に」
そして、視線を彼に向けると。
「休めだの、とまれだの。
そういう言葉をやつがれ以外に向けられたことはあるかな?
何人に――誰に。そのようにむけられたのか、教えて欲しい。
それらに対して、おまえがどのようないらえを向けたのかも」
■角鹿建悟 > 「戻りたい、か……」
そういうのが自分にはあっただろうか?――いや、どうでもいい事か。関係ない。
先輩の考えや思いは初対面の男には分からないし、”戻る”という言葉の意味と重みは考えない。
機械的に――そう徹するように――ただ、直す事に出来る全てを傾けていく。
「求めるものはどれだけ手に入らない――…か」
求めるものがあるなら、もっと直せるだけの力を。”この程度”じゃ足りない。
ともあれ、先輩の仕草を何時もの無表情で眺めつつ、その言葉の続きを待っていたが。
「――見えるも何も、俺の取り得なんてそれくらいだし、他に大した事も出来ないからな」
■■■出来なかったのだから、今の自分はこれくらいしか出来ない。達成感?喜び?仕事への充足感?そんなものは最初から無い。
――機械的に、病的に、妄執の如く。直して、直して直して直して直し続けて――最後は?
思考が逸れた。我に返り先輩と視線を合わせよう。その問い掛けに、少しの思案の間を置いて。
「…正確には覚えていないが。多分、何かしらの言葉は言われている気がする」
もしかしたら、悪友からも師匠からもあの白い少女からも似たような事を言われた事があったかもしれない。
――だが、”覚えていない”…つまり、彼は聞き入れる気が全く無かったという事実。
そこにある”その事実”をまだ彼は気付いていない。否、気付きながらも目は前にだけ向けて決して振り返ろうとしない。
■月夜見 真琴 >
「そういうものなのさ」
この世はなべて、そうしたもの。
それは割り切った諦念ではなく、ひとつの"神秘体験"によって得た結論。
「おまえの異能、使用時のリソースは心身よりひきずりだしているものだな。
あくまでやつがれの見立てではあるが、体調があまり良くないように思う。
余人に立ち入る隙間もない強大な"奇跡"だが」
あえてその言葉を口の端に乗せて、甘いささやきは続く。
思案しながら、わざとらしく言葉を切って。
意識を引くようにして、指が動く。
「扱うものは結局のところ人間だ。
壊れる時は、壊れる。おまえが直せない形で」
唇のまえに指が添えられた。
その指先が動いて、建悟の顔を指す。
「そろそろ停まったほうがいい。
さもなくば手遅れになる」
■角鹿建悟 > 「――そういうものか」
神秘的な体験は全く無い。自身の能力がある意味で神秘の一つみたいなものだとしても。
それを神秘と思う事はない――そんな体験をしていたら、少しはマシになっていただろうか?分からない。
「――体調は問題ない。見ての通り健康体だ」
無表情で淡々と、一番自分が理解しているのにそう言いのける。
嘘は不得手だ。その自覚もある。だが、己の体の不調は周りには決して見せようとしない。
――ここで倒れたら、誰が直すのだ。
…代わりは他にも居るのに?
――まだ、こんな中途半端で倒れる訳にはいかない。
…自らを気遣えない自滅の道なのに?
――まだ、俺は”何も直せていない”のに。
…お前は自分で自分を貶めているだけだ。
――嗚呼、だから。奇跡とかそんな言葉で示さないでくれ。そんなもんじゃない。そう見えようと…そんなもんじゃないんだ。
それでも、彼女の甘いささやきじみた声から紡がれる言葉は終わらない。
わざとらしく一度言葉を切ったかと思えば、自然と彼女の指の仕草に意識と視線が向けられて。
「――俺自身が壊れても、直す事を止めたら俺の意味が無くなるだろう」
止まれ?――止まれと言ったのか?何で止まらなければいけない?理解が出来ない。
――止まったら、何かを直す事を止めたら、俺は――…
「――”それでも”、俺は直さないといけないんだ」
反論になっていない。元より理論立てて弁舌を立てるタイプとは程遠い。
……心臓が痛い、脳みその奥がズキズキする。ふざけるなら、何度も同じような事を言われただろう。
「――どのみち、手遅れだろうと間に合おうと…止まるつもりは無い」
――自分の中の”何か”が悲鳴を上げている。…煩い、少し黙っていろ。
■月夜見 真琴 >
「――不調の自覚はあるようだな」
"見ての通り"、不健康体だった彼は。
そしておそらく、嘘を吐き続けていた彼は、よりにもよって。
この場においてほつれが隠しきれないほどの形になっていたようだ。
積もり積もったひずみの形に、銀色の瞳が細められる。
立てた指のむこう、笑みは消えていた。
「その、おまえの強迫観念の正体などやつがれは知る由もない。
みずからの意味を、みずからが定義するかどうかもわからない。
直すことは、大いに結構――結果としてそれは人の為になる善行だ。
ただ、生活委員会がどこまでおまえの状況を把握しているか。
その問題においては目をそむけていいことではないし」
"そうしなければならない"という観念に追われ、自分を追い詰める。
あるいは逃げ方を知らないという憐れなあり方を、
つい最近、同じ風紀委員会に属する者に見出していた。しかし。
見据えた瞳に心配の色はなかった。
「手遅れとなるのは、おまえのことではないよ?」
と、首を傾げてみた。声が少しだけ、弾む。
愉しげに。
「親しい友人はいるかな。仲間と呼べる者は。恋人は。
声をかけてくれたという者たちは、概ねおまえに好意的な者だととらえていいな。
あるいは恩義を感じるものかもしれないが、それはいい。
まあ、もとよりおまえは本人の意向はどうあれ、まちがいなく、
"ひとのため"になる行動をしている――"偽る"となるのは皮肉だな?」
手を下ろすと。
「おまえが壊れることで悲しむ者がいるなら。
おまえが止まることで安らぐ者がいるなら。
おまえの能力を鑑みれば、"停まらなければならない"のだよ」
ささやいた。
「のばされた手をふりはらい、血の流れる傷をつくったとして。
おまえは、"直せない"のだろう?
おまえは、"人を傷つけて"も、"直せない"のだろう?
おまえは、"生きる者に向き合うことができない"のだと。
どうやらその異能の性質を鑑みる限り、"そうなのかもしれない"、と。
そう思った――"手遅れ"というのはそういうことだ。
人を傷つけ続けかねない。おまえはその傷を直せない。
だから、ここで停まれ」
■角鹿建悟 > 見る者が見れば”見抜かれる”程度の綻び。
元より男は不器用で嘘が下手だ。観察力があれば、相手をよく見て理解しようとするなら。
―否、そもそも既に限界が近いのだ。例え演技や取り繕いが上手くても見抜く者は見抜くのだ。
彼女と同じ銀色の瞳が、相手の銀色を見つめ返す。…何もかも見透かされそうになる。
「―――……。」
友達が出来た。師匠が出来た。白い少女と”約束”した。
それはとても得難いもので、きっと少年は心のどこかでありがたいと思っていた。
それでも、”直す事”にこだわる妄執じみたそれが強すぎて…今、目の前に淡々とその事実を晒される。
何か言い返すべきだ、反論すべきだと思っていても。彼女の言葉は真実であり容赦が無い。
何せ図星なのだから。意識しなくても無意識の領域で悟ってしまっている。
――”前に逃げ続けてきた”清算が、唐突に訪れたのだと。何時か来るそれがたった今、来ただけだ。
「――俺には――…。」
駄目だ、言葉が出てこない。綻びが広がっている。亀裂が広がり続けている。
今まで、じわじわと来ていたものがここに来て急速に広がり始めている。
自分は人助けなんて出来ない。どうでもいい。そんなものは別にいらないしやる必要は無い。
だけど、ああ――……俺は”何の為に”直しているのか。
先輩の手が下ろされて、
「俺は……止まれない…止まって、たまるか……。」
先輩の甘い囁き声が
「――止めろ、…俺はっ!…俺はっ…!!」
眩暈がする、頭痛が酷い、心臓が軋むようだ。歯車が軋む、時計盤に皹が入る。
――止めろ、俺は…まだ何も直せていないんだ。まだ…まだ俺は止まれないのに!!
■月夜見 真琴 >
「いいや。停まってもらうよ。
おまえは優秀な生活委員だ。実に秀でた能力を有しているから。
ここで"損失"してしまうのは些か勿体のないことだ。
まあ、こうしてオーバーワークをしている者に苦言を呈するのも、
ある意味では"風紀活動"としてみなせなくもないだろう?」
そもそも手を伸ばす理由も、助けてやる理由もない。
初対面であり、他人であり。そして、"ごく個人的な理由"から。
一切の容赦なく物を言える。
止まれない。止まりたくないらしい。
「"そう思っているのはおまえだけだ"」
薄っすらと、唇が三日月のかたちをえがく。
――そして。
■月夜見 真琴 >
「目をそむけ続けるのも結構だが」
降ろされた手を、ふたたび持ち上げる。
傾き始めた陽は夕暮れの紅を描きはじめて、
それは融けた鉄のような甘い光沢を描く。
顔の横に運ぶ。
"みずからのこめかみに押し当てる"。
"撃鉄を起こす"。
"トリガーに指をかける"。
女の手には大きすぎる、45口径の回転式拳銃。
ピースキーパー。
「おまえは"ここまで"だ」
直すことで、みずからを救うことなど出来てやしないんだろう。
そう言ってやるとともに"トリガーを引いた"。
彼にとっての不可逆を突きつける。
どうにもならない事実を突きつける。
それから逃げるための逃避を理由に。
手を振り払い続けていた者を断罪する。
キャスケット帽が夕空を舞い。
白い女は血を撒いて、学生街に倒れ伏す。
■月夜見 真琴 >
蒼い蝶が、つめたく嗤う。
■角鹿建悟 > 「――……!!」
目は逸らせない。”逃げる”事はもう出来ない。これはツケの清算だ。甘んじて受け入れるしかない。
それでも、まだ折れる訳にはいかない。俺はまだ――…
「拳銃――…待て、月夜見先輩!アンタは何、を――」
何時からそこにあったのか。忽然と出現したようにしか見えない、無骨な鉄の塊。
こめかみにソレを押し当てて、撃鉄が下ろされる。そして、そのトリガーに指が――…
「やめ、ろ・・・…やめて、くれ…。」
俺は人を治せない、人を蘇生は出来ない、俺は”誰も救えない”のに…!!
だが、無慈悲にトリガーは引かれる。”断罪”は一片の有無を言わさずに執行される。
――一発の銃声、倒れ付す華奢な体、宙を舞うキャスケット帽…。
「あ――-…。」
呆然と、倒れ付したその体を見る。死んでいる…治さないと…いや、どうやって?
俺は直せても治せない。俺は人を救えない。俺は誰かを救えない、俺は自分自身すら――…
「う、あ…あぁぁ…。」
無表情が崩れる。体ががたがたと震える。死体を見るのは初めてではないのに。
そうじゃない、そうじゃないんだ…だって、俺は直さないと、早く、巻き戻さないと……死んでしまう、いや、もう死んでいる?死んで…死ぬ、死に――死、死、死死死死死――ー…
■角鹿建悟 > 「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁ!!!!!!!!!」
■角鹿建悟 > ――ブツン、と。彼の中の何かが決壊し、そして途切れて。
蒼い蝶の冷たい嗤い声を聞きながら――直す男は地に伏した。
■月夜見 真琴 >
「―――脆いな」
■月夜見 真琴 >
ごく、つまらなさそうに。
甘い声は、つめたさすら宿して。
"ずっとその場に立っていただけ"の月夜見真琴は、倒れ伏した少年を見てつぶやく。
夕焼けによって、ただ黒い影となって直立するその女の好む手管。
斯様に、弱ったもの、揺らいだものを"術"に取り込むのはたやすい。
「すでに壊れかけていたわけだ。
よほど直視するのが恐ろしかったとみえる
逃避をした先で、心を癒せすらしない。破綻は自明だった。
あとは少し小突いてしまえば、歪は罅をあらたにつくり――砕け散る」
死した女も、血も、銃も、そこにはなかった。
ひらひらと蒼い蝶が舞い、それらはすべて消え失せた。
うたかたの夢はおわり、幻像は実像へ入れ替わった。
「しかしな、おまえは知らなければならないんだよ」
うたうような甘い声には。
ふだん、ひとに聞かせない類の感情が、ほんの僅かに。
「手をふりはらわれた者こそ、きずつくのだということを」
下ろしたままの手は、更に白くなるほどに握り込まれていた。
まぶたの裏に去来する、まばゆい面影は。
この背に翳された手は――あの夢でのなか告げられたことばは。
みずからの内にわだかまっていた罪悪感が、形成したものだったのか。
「相手を大切におもえばおもうほどに。
その手を振り払う痛みは――たえがたいほどにするどくなる。
おまえがそこで痛みを覚えなかったなら、まさしく。
おまえは"生ける者と向き合ってこなかった"のだろう」
その情を飲み込み、手を緩めた。
彼のほうに歩み寄り、体温や脈拍を確かめて。
"直す"姿を撮影した携帯デバイスをふたたび取り出した。
然るべき場所に電話をかける。彼を病院に運ばなければならない。
緊急時の対応は、現場から離れて久しくも淀みない。
「風紀委員の月夜見だ。人が倒れた。救急を回して欲しい。
学生街の―――、そう、件の火災現場。修繕に当たっていた生活委員だ。
《大工》所属の角鹿建悟。過労とノイローゼ……心身に著しい疲労がみられる。
異能の濫用も要因としては大きかろうな。
生活委員会側の管理体制――もしくは建悟自身の服務規程違反か。
詳しい監査は委員会に任せるとして、風紀委員として、そう。
彼の"治療"においては、私見を述べさせてもらうなら。
――治療病棟への禁錮と、異能の封印処理が必要だ」
参考までに。
そう告げた後、しばらくすれば救急班が到着する。
"また何かやったのか"とは思われるだろうが、仕方がない。
こうした"荒療治"には、いささか――私的な感情が滲んでいたことは間違いない。
■角鹿建悟 > 何も見えない、何も聞こえない、だから彼女の――倒れ伏した血塗れの幻像ではなく、実像の先輩の言葉はきっと記憶にすら残らないだろう。
――折れたものはそう簡単には戻らない。彼女の通報により、少年はそのまま治療病棟へと運ばれるだろう。
「――は、、さない、と…、だ…何、…救え…。」
そんな、言葉にならない呟きすら闇の中に消えて。
―《嗤う妖精》に折られた《逆巻き時計の修復者》は、深い眠りに沈んでいった。
ご案内:「火災現場跡」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「火災現場跡」から角鹿建悟さんが去りました。
ご案内:「Free2」に月夜見 真琴さんが現れました。
ご案内:「Free2」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「未開拓地区」にマルレーネさんが現れました。
ご案内:「未開拓地区」に日月 輝さんが現れました。
ご案内:「未開拓地区」に神名火 明さんが現れました。
■違反部活生 >
どこにでも走っているであろう白いミニバン。
未開拓地区の中で、道が繋がっている果ての果て。
赤土の道は二又に分かれ、片方は開拓村へと続き、もう片方は開拓予定の森へとつながっている。
彼らは違反部活"CLOUD"のメンバー。
金さえ貰えれば何でもやる、分かりやすい傭兵寄りの何でも屋。
港で出会った白衣の彼らは、たくさん仕事をくれるお得意様だ。
彼らが何をしているのかは分からない。
噂によれば、何か人間に非人道的なことをしていると聞くが。
不思議なのは、彼らは「誰かを連れてこい」という指示を出さない。
逆に「彼をどこか関係の無い場所に置いてきてくれ」という指示がほとんどだ。
その対象者が、殆ど言葉も発せないくらいに"壊れている"ことが噂の証左ではあるが。
それだけの仕事で実入りは大きい。
噂を確かめるようなことはしない。わざわざお得意様の脛を見ることはない。
エンジン音と、赤土の道を進む騒音だけが響く。
■違反部活生 >
周りに明かりの無いその場所では、車のヘッドライトくらいしか明かりは無い。
それだけが森を照らしたところで、車が止まり、エンジン音だけが残る。
ミニバンが止まる、
中には数人の男。
フルフェイスのヘルメットをつけたバイカー風の雰囲気ではあるが、後部座席に見えるのはバイクではなく、緑色の検査衣と金色の髪。
「今回は誰だ?」
「女。異邦人らしい。」
「ちょっと街から離れすぎたかな、死ぬかもしれんが。」
「何、もう半分死んでるようなもんだろ。」
「素直にあそこから海に捨てればいいだろうに。」
「生かして帰すことがポリシーなんじゃないか。」
「やめとけ、コイツが自主的に行ったのかもしれんだろ。奴らの詮索はするな。」
「へいへい。」
「死んでんのかと思ったけど、生きてるんだな。」
「らしいぞ。自分の血とヤクが1:1になるくらいぶちこまれてるだけだろ。」
「じゃあ、ちょっとくらい楽しんでもいいよな。」
「お前も好きだな。」
動かない女。バンの後部を開いて、そこに入っていく男。
■違反部活生 >
ナイフが素肌と検査衣の間に入り込めば、シィ、ィィィ、と音が響き、ばさりと前がはだけさせられる。
ほどほどに外回りも多いからか、健康的な肌と膨らみ。桜色まで全て晒され。
清廉そのもの、ではないのだけれど。
それでも、全てを晒させて指を食い込ませ。
足首も掴まれて、無理やり持ち上げられ。
男3人に囲まれ、白い足くらいしか見えないか。
■日月 輝 > マリーの居場所が判った。
山本さんからの一報を受けて神名火さんに連絡を──すると、擦れ違うように彼方からも連絡が届く。
あたし達の知り合いったらとっても頼もしいのね。なんて笑顔が出るのは後の話。
今は、神名火さんの車に与って暗がりを行く。導/標の無いみちを往く。
けれども、迷うことはない。貰った座標を疑うことは無い。
「…………」
"マリーの居場所が判ったから、迎えに行って来る"
車中にてエルネストさんにメールを送る。
人の善い彼に無用に心配をかけたくは無かったし
──去り際の、眼差しを透かした言葉が気にかかった。
癪に、思ったのかもしれない。今はそれも判然としない。思考はただ一つだけを目的として判然としない。
もしかしたら、神名火さんに声をかけられもしたかもしれないけれど、多分、生返事だったに違いない。
「──」
やがて車は辿り着く。
ヘッドライトが炯々と照らす先には白いミニバン。
"後部座席に誰かが入り込むところで"、あたしは挙措正しく、慌てる事の無いように車から降りた。
「ごきげんよう。すこうし、お話を聞かせて頂いても──いいかしら」
逆光の位置関係。
相手からはシルエットしか判らないまま、丁寧な言葉がかけられた。
■神名火 明 >
「昔とった杵柄、でもないけど…やっぱり『CLOUD(かれら)』か」
口のなかでつぶやいた言葉は、彼らの『利便性』を知っていたゆえだった。わざわざここに『棄て』に来るあたり、まだ生きているだろうことはわかった。安心した。『死んではいない』という状態だとしても、それならまだ希望はある。私も頭に血が昇りそうだったけど、輝ちゃんの上の空な様子で逆に冷静になれた。動作が冷静でも、脈拍をはじめ様々な情報から相手の感情はいくらか読める。
「愛も合意もないなんて、よくないと思うなあ~、私は。ゆっくり話きいてくれるなら、いいことしてあげなくもないけど。あ、私だけね?この子はだめね。大事なおともだちだから」
運転席から降りる。両手を白衣に突っ込んだままだ。こちらは朗らかな微笑みで、場違いに優しく声をかける。うん、どこからどう見ても優しいお医者さんだ。闇のなかで燃える情熱を宿した瞳以外は。
「おはなしできる余裕があればいいけど、ねえ?こっちに背中むけちゃってまあ~」
■違反部活生 >
「車だ。 止めろ。」
一人の男の声が響けば、拳銃を手に男たちが外に出る。
車の音を聞き逃すほどでもないのか、フルフェイスが3人。
運転席からもう一人出てきて、4人。
その後ろには、バンの後部座席に寝かされた女。
服は割かれて肌色と金色だけは良く見える。、起きているのか寝ているのかは、こちらでは判別はつかない。
「………………。」
「何者だ。」
彼らが、全くの雑魚ではないことは知っているだろう。
余計な口も、余計な言い訳も、嘘もしない。
ただ相手は少女二人だ。
「………………。」
「お前らが引き取るってなら、それはそれだ。
渡してもいい。
ここに放置しろって言われてきただけだ。」
前に出てきた4人のうち、話すのは決まっているのだろう。一番右手の運転席に乗っていた男だけがしゃべる。
■日月 輝 > 神名火さんの仰る"かれら"をあたしは知らない。
知る必要も無い。幸い"かれら"は一様にフルフェイスのヘルメットを被っていた。
開いた扉の奥には、寝かされているマリーの、あられもない姿が垣間見えた。
「名乗る程の者じゃあ無いわ。
その子の縁者ってだけよ。勝手に居なくなってしまったから迎えに来ただけ。
ここにいるって、教えてくれた人がいるものだから」
一歩、横へ。マリーが視得ない位置へ。男達だけが視得る位置へ。
逆光から逸れ、男達にあたしの様相が知れることでしょう。
「だからおっとり刀で駆け付けたと言うのに、なんということかしら。
迎えに来たら不埒な輩が友達に乱暴をしようとしている。ように見えたから
どういうことか、お話を……と思っているのだけど」
思案するように右人差し指が頬を撫で、革製の目隠しに触れる。
言葉はそこで一度、途絶える。"まだ、あたしはそうしていられる"
■神名火 明 >
「うん。じゃあ渡してもらおっかな。なにせ私はあなたたちには恨みないからね。『CLOUD』の皆さん。余計なことをせずにリスクを回避し、継続的に違反部活生であり続けるあなたたちの立ち回り。実に仕事人って感じで実はスキ。お互い面倒なことは避けたいもんね?」
そうして。凄むまでも行かないなれ、輝ちゃんの言葉を遮るようにして声をあげた。彼女の横を通り過ぎて一歩前に。その『視界』には入らないようにして、道化のように大ぶりの身振り手振り。ここからなら撃たれても、輝ちゃんを守ることはできる。
「でもさ。うん。私だけだったらそれで済んだんだけどさ」
両手を白衣のポケットに突っ込んだまま、肩を竦めて、困ったように笑う。どうにも隣の子は実のところ、気性が激しい子なんだ。そう考えてる。……ちがう。
言い訳だ。
「……………だめじゃん」
赦さない。
「『余計なこと』したら、さぁ?」
全員の視界の外で。
二台の車のライトが照らす、背景の森。真っ白い塗料をまばらにぶちまけたみたいになっている樹の一本が一瞬のうちに『切り飛ばされる』。斜めにナイフを入れたお豆腐みたいに幹がずるりと重みに従って落ちて、倒れゆく樹は、誰も傷つけることはない場所に倒れるように計算してある。けれど。いきなり樹が倒れる音なんて…たとえば運転手とメットくんたちの『意識を逸らす』ためには十分だろう。
右の肩甲骨のあたりから、いつの間にか。白銀の腕手が伸び上がっている。第三の腕のように。無数のナイフを羽のように備えたそれは翼のようなフォルムを取る異形。歯医者のドリルみたいな軋りを上げて、駆動する医療器具のひとつ。
そしてもう医者ではないので、それを医療以外に使うことに躊躇はなかった。
■違反部活生 >
「まだ何もしちゃいねえよ。最初から服は破れてたんだ。」
「黙れ。」
一人が逸るように言葉を重ねるが、運転手が制止する。
片手を挙げて制止しながら、人差し指と中指。そして親指を立てて見せる。
何かしらのサイン。
2人ずつに分かれて撃つ準備をしろ、のサインだ。
「そういうことだ、ただ持って行ってくれるなら何も無い。」
明の方におそらく視線を送っているのだろう。そうやって言葉を返す。
そこで、異変が起こった。
完全に意識の外で木が倒れれば、地面を僅かに揺らし。
「………撃て!!」
おそらくベテランだからだろうか。運転手の男だけはそちらを見もせずに拳銃を引き抜いて明を。
一拍遅れて、残り三人も拳銃を引き抜き、一人は明を、もう二人は輝を、サイン通りに射殺しようとするだろう。
この島で相対する相手は異能者だ。容赦せずに殺せる訓練は受けている。
■日月 輝 > 未開拓地区は、未開拓であるのだから何が起きても不思議ではない。
夜の暗がりから魚に似ず獣に非ず鳥に無く、されど虫とも惑うものとて出るのかもしれない。
ひとごろしき何かがまろぶのかも判らないし、解らない。何が木々を切り裂こうと、あたしにはどうでもよかった。
けれど、好機であったのだからそうしようと思ったし、事実、あたしはそうした。
■日月 輝 > 「なぁにが"撃て"だ。じゃかあしい!!そもすっとこどっこい風情がなあ。あたしのマリーに触ってんじゃねえ!!」
■日月 輝 > そもそも、どうであれ舐めた真似をする奴には容赦をしない。
あたしはそうだ。
薄暗い路地裏でマリーと出逢った時もそうだった。
『そうしたことは良くないですよ』と、柔らかく咎められて、治そうと思った癖であったけれど
──知ったことか。
茶番は此処まで、おためごかしの盤上をひっくり返すように叫び"視界を開く"。
紫色の
青色の
緑色の
黒色の
右目に三つ。左目に一つ。合わせて四つの瞳が
みられたるもの動くこと能わず。急速な重力加圧を齎して一切を封じる視線が、喋っていた男を注視する。
重力陥穽 -グレイ・ガーデン-
あたしの制御下に無い力は通常。"健康な成人男性が動けなくなる程の重力"を与える。
羽虫などは云うに及ばず、小さな動物であれば圧し潰す出力。だけれどもそれも判然としない。
何しろ制御出来ない。今までの例に則るならばそうなる力が、果たしていつもそうであるなんて、誰が保証してくれるの?
だから、そうはならなかった。
男が銃を構えた腕は──恰も多方向から重力がかかったかのように捻くれてその用を為さない。
誰の者ともわからない悲鳴があがる。
五月蠅いとしか思わなかった。