2022/11/14 のログ
ご案内:「#迷走中」に北上 芹香さんが現れました。
北上 芹香 >  
客の入りはいつもより多い。
メンバーたちとステージに上がって手を振る。

「どうもー! #迷走中でーす!」
「今日は迷わずにクレスニクにたどり着けましたー!」

MCが多少スベってるのはご愛嬌。

「みんなソフトドリンク飲んでるー? 夜まで楽しんでこー!!」

いえー!と右手を振り上げて。

ご案内:「#迷走中」に角鹿建悟さんが現れました。
角鹿建悟 > さて、何とか迷わずにやって来れたライブハウス【クレスニク】。改めて場所を確認しつつ。

「……ここか…20時半開演だから、少し遅れてしまったが…。」

まぁ、まだ歌は始まっていないようだが、それでも客の入りがそれなりなのは素人でも分かる。
ともあれ、チケットを手に受付を済ませて会場入りをした訳だが…。

「――――!!」

まず、この独特の空気感。…そう、”これ”だ。自分が感じた事の無い未知の空間。
それに暫し足を止めていたら、後ろから入ってきた客にどやされたので軽く謝罪しつつ…

「……どの辺りで見るのがベストなんだろうか…?」

参った、その辺りがさっぱり分からない。取り敢えず、ステージがちゃんと見える一角に移動する。
位置的には、ステージから見ると中ほどの左側、というかまぁそんな感じである。

北上 芹香 >  
「ここの店長にまず最初に一曲やれって言われてるんだけど」
「なんかね、緊張しておりまして」

周囲を見る。今までにない人数の前での演奏となる。
メンバーも若干、緊張の面持ち。

「みんなは緊張してない? ってするわけないか」

はははーと困ったように笑ってピックを持つ。

ちゃんと建悟先輩が来てくれてることを見つけてふっと微笑み。
どっかですっこんだ緊張をつま先で蹴飛ばしてみんなに視線を向ける。

「それじゃいきます、一曲目! スクリーマーズ・ハイ!」

みんなが一斉に演奏を始めた。
音が小さな箱に溢れる。

角鹿建悟 > (どうやら曲には間に合ったみたいだな…さて。)

表面上は何時もと変わらず落ち着いた男の態度だが、内心は実はちょっと緊張もあり。
何せ人生初のライブ体験だ。今まで全くこういう場所と縁が無かった…興味を持とうともしなかったから。

(…緊張はしていないが、この”熱気”に上手く”ノれる”かは分からんな。)

そんな、相槌ともつかぬ独り言を心中で呟きながら、ふとボーカル兼ギターの北上と視線が合った気がした。
一瞬の交錯かもしれないが、無言で小さく会釈をしておきつつ。

「―――…よし。」

歌を通して彼女が伝えたいものを、自分なりに感じ取れるように。
今はただ、流れ始めた演奏に身を任せて彼女らの一挙手一投足に視線を向ける。

北上 芹香 >  
一瞬合った視線に。どこか心の中で安心した。
水の一滴、アリの一匹を見れば緊張しなくなるみたいな。
そんな感じだ。

ギターを鳴らしながら、熱く捧げる一曲目。
それは青春の叫びの歌。

「心がざわめく 熱い叫び聞こえてるかい」
「不安はすぐそば そこに届け僕たちの声」

今のところ全員の調子は上々。
これなら……いける!

「輝きを信じて 愛を受け取って」
「今こそ────さ・け・べー!」

ジャジャンッと鳴らして小さくジャンプ。

「歌い笑い手を取り合い」
「苦い思い吹き飛ばして」
「大声で進んでいこう 光の輪の中へ」

サビに声を張り上げてフィニッシュ。
キーちゃん衣装作り上手いな。全然動きにくくない。

「スクリーマーズ・ハイでした」
「私たちくらい迷走すると普通な歌にたどり着くこともあります」

観客席から笑い声が聞こえた。

角鹿建悟 > 最初の曲――【スクリーマーズ・ハイ】…思い切り叫ぶ者達、とかそういう意味合いだろうか。
音楽方面には本当に疎い為、これがどういうジャンルの曲にカテゴリーされるかもサッパリだ。
音楽好きの中に、一人だけ完全ど素人が紛れ込んでいるような状況に等しいが…

「―――!!」

まず、歌詞よりも音の『厚み』と声のノリに衝撃を受けたかのように。
僅かに銀瞳を見開きつつも、視線は彼女達から全く離さない。一瞬たりとも見逃せない。

サビに合わせて盛り上がる。周囲の観客もまだ序盤なのに仕上がりは上々、といった感じ。
そうして、一曲目の終了と共に、無意識に小さく拍手していた。
熱狂に身を任せる事を彼はまだ知らない故に。だが、それが彼らしくもあり。

MCである北上の言葉に、観客席から笑いが漏れるが…男が注目していたのは別の事だ。

(…あの衣装、動き易さも重視されているな。北上や他のメンバーの挙動を阻害していない)

ある意味で、このズレっぷりが男らしいとも言えるか。

北上 芹香 >  
「それで一曲終えたのでメンバー紹介したいなーって」
「思うんだけどねー………#迷走中のライブ初めての人多そうだし」

ギターをかき鳴らして。

「変人、奇人、だから何? むしろそれはドラマーにとって褒め言葉っ!」
「キーちゃんこと園田貴見ー!!」

キーちゃん(園田貴見) >  
カツ、カツとスティックでビートを刻んでから演奏を始める。
各自、サビだけを歌う自己紹介。
楽曲は走れジュリエット。

「わかったの! 恋したの!」
「あなたが私のロミオ、ロミオ!」

直情的恋愛ソングを歌って。

「ハグをして! 囁いて!」
「私 隣が空いてるジュリエット!」

「恋をして! 今ここで! 早く!」

立ち上がって一礼。

「園田です、アゲてくんで今日はよろしくお願いしまーっす!!」

角鹿建悟 > (ドラマーは変人なのか……成程、覚えた)

そして、メンバー紹介が始まると真顔で頷いている男が一人。
多分、冗談ではなく本気でそう受け取っているかもしれない。

「アゲてくのは良いと思うが、血圧が心配だな…。」

隣の客が、(何言ってんのコイツ!?)という顔を向けてくるが華麗にスルーだ。

北上 芹香 >  
「じゃんけんで負けて決まったベースなんだが? でも本人は練習、超・真面目!!」
「ヨーコちゃんこと神岸陽子ー!」

ヨーコちゃん(神岸陽子) > 強気にスマイル、ベースを低くかき鳴らす。
楽曲はサマーキャット。

「世間に見捨てられて それでも息をし続ける猫」
「拒絶されながらも 抱きしめて泣いた」

「聞こえてるかな あの猫の声」
「聴いてたらいいな この僕の歌」

短いフレーズを歌い終えてベースを縦に構える。

「神岸です、今日はみんな来てくれてアリガトー!!」

角鹿建悟 > (じゃんけんでポジション決めって良いのか?…でも、真面目なのか。ストイック気質なのか?)

と、矢張り真顔で考え込みつつも、自己紹介と曲のフレーズはきちんと聞いており。

「…こちらこそありがとう。今日はじっくり聞かせて貰う」

と、聞こえていないのは当然として律儀に一人ひとりの自己紹介に相槌を。

隣のスキンヘッドが「コイツ独り言多くね?」という顔で見てくるが矢張り無視。

北上 芹香 >  
「僕らの街の闇属性お嬢様、習い事のピアノからキーボードへの華麗な転身!」
「さっちんこと斎藤志保ー!」

さっちん(斎藤志保) >  
にっこり笑って歌いながら演奏を始める。
楽曲はブルーバード・ヘル。

「狂信! 狂信! 燃やせ狂人!!」
「見事な足の引っ張り合い、拍手喝采、笑えや笑え」

「welcome to This Hell!! 唱えっ青い鳥っ」

キーボードで丁寧に、それでも荒々しい主旋律を演奏しきる。

「斎藤です、闇とかないので……本当に…」

物腰丁寧に北上芹香の紹介を否定した。

角鹿建悟 > (…闇属性のお嬢様?…そういう能力や魔術の系統を扱っているのか?)

ズレた思考を真顔で展開しつつ、習い事から何時の間にかバンドのメンバーの一角という経歴。
人生、色々とあるものなのだな、とそんな事を思いつつ。

「……むしろ、闇があったら怖いんだが…。」

と、ツッコミをボソリと入れながらこちらも物腰丁寧に会釈。

隣のスキンヘッド君は「コイツ真面目かよ!!」という顔で以下略。

ご案内:「#迷走中」に真詠 響歌さんが現れました。
ご案内:「#迷走中」に五百森 伽怜さんが現れました。
真詠 響歌 >  
「ん、コーラでお願いします」

カウンターでドリンクチケットを渡してドリンクを受け取る。
目深に被ったフードがちょっと暑いけど、そこばかりは我慢。

『認識阻害なんて言っても万能じゃないからね?
 眼を合わせない事、誰の名前も呼ばない事。
 それから、それから――』

ニーニャなんだかお母さんみたい。
さすがに言ったら全力で拗ねそうだったから、置いてきたのはありがとうの一言。

私は此処にいない。
此処にいてはいけない。
それでも、握りしめたチケットを吹きすさぶ風に任せて捨て去れなかった。

一曲目は終わってしまっただろうか。
前過ぎず、後ろ過ぎず。
人と人の隙間に紛れて、檀上を見上げる。

五百森 伽怜 >  
「遂に来たっすよ、#迷走中のライブ……!」

普段、このような所に足を運ぶような性質ではないものだから、
あちらこちらときょろきょろ見回りながら
人目を避けるように、ささっ、ささっと会場に入り込んで来た
白兎。

ドリンク――大好きなジンジャーエールを手に持ち、
感じたことのない場の空気にちょっと震えながら、
おずおずとステージが見えやすい場所へと進んでいく。

目的は、『#迷走中』の記事をより充実したものにする為の取材
――というのは少しばかり建前に近いもので、
バイトで知り合った北上芹香の歌声を聴きに
ここまで来たのである。
純粋に彼女の歌声に惚れ込んでいるのだ。

北上 芹香 >  
人と人の隙間に立つ少女に気づくことはできない。
ただ、それでも。
歌声があのヒトに届くことを諦めてはいなかった。

帽子を目深に被った女の子の姿を見て、微笑んだ。
何度か一緒に遊びにいった友達、五百森ちゃんだ。

さぁ、張り切っていこう!!

「そして私はセリセリこと北上芹香でーす!!」
「ギター兼ボーカル兼作詞作曲やってまーす!!」

ギターソロから勢いよく鬱ソングを演奏し始める。
パンクでロックで、メロディアス。要素詰め込みすぎソング。

「“Don't go away” どの口が言うんだ この悲劇は必然」
「“HELP ME,HELP ME” どうしたら言える どうしたってお別れ」
「涙に耐えて耐えて耐えて耐えて」

ギターをかき鳴らしてフィニッシュ。

「許してよ僕が愛した断頭台」

はー!と最後にひときわ大きな声を上げて。

「メンバー紹介終わり!」
「それじゃいよいよ本格的にやってきますかぁー!!」

「次の歌は忙しすぎる毎日を送ってるみんなのために歌います」
「Try to Live!」

角鹿建悟 > (…セリセリ……セリせ……駄目だ、無理だな)

普通に北上と今後も呼ぶ事にしよう、と矢張り自己紹介に真面目に考える男。
ギター、ボーカル、作詞作曲…リーダーポジションというのは大変だな、とぼんやり思う。

「…中々に激しい歌詞だな…断頭台…ギロチン、か」

静かに呟きつつも、ここからが”本番”だろう。
既に会場の熱はいい感じに帯びて――さて、今夜は自分はここで何を得られるだろうか?

真詠 響歌 >  
(北上ちゃん……)

プラスチックのカップに収まったドリンクでちびちびと喉を湿らせて、
バンドを引っ張って場を盛り上げる少女を眺める。

ivoryで彼女がしてくれたように、声の限りに盛り上がれたなら。
叶わない願いだけど。
正体が露見して騒ぎにでもなれば、全部を台無しにしてしまう。
それは、それだけは嫌。

そんな思いを飲み込んで、歌われる曲に耳を傾ける。

五百森 伽怜 >  
(ビジュアルも良いッスけど、やっぱ良い歌声ッス……)

歌に惚れ込んだ相手、そして友人のライブ。
あまり慣れない場ではあるが、全力で楽しむつもりでやって来た。

歌を聴く以外にどうやって楽しめば良いのだろう、とか。
やって来る周りの人たち、結構怖いんじゃないか、とか。

そんなことも少しは抱えながらここまでやって来たが、
その心配は歌声が消し飛ばしてくれた。

今は自然に、そして楽しげに身体が動いている。

北上 芹香 >  
建悟先輩は真面目に歌詞に聞き入っている。
本当に……肩の力を抜いて歌を楽しんでほしいな。

五百森ちゃんは楽しそう。
ライブ、最近できてなかったから……今日来てくれて本当に良かった。

そして響歌ちゃん。
どこかで……いつか…ううん。今、この瞬間の私を。
見てて欲しかったと思うのはワガママだね。

「忙しすぎる毎日に」
「疑問がどこか置いてけぼり」

「私がコーヒーを差し出したら」
「それが二人の合図だから」
「一息ついて浮かない顔はやめよ?」

スローからアップテンポに。
優しく穏やかなリズムを刻む。

「輝きをなくした日々に」
「ありふれた、繰り返す、なんてことのない毎日に」
「私がありったけの絵の具で色をつけるから」

「あなたには隣にいて」
「それを笑って見ていてほしい」

忙しい日々を送る人たちに。
一本のよく冷えたミネラルウォーターみたいな歌を。

「Try to Live! のんびり生きてみよ!」

ギターを鳴らしてのんびりと演奏を終える。

「さて……ここまでなんかふつーの歌だなと思ったみんなに!」
「迷走してくよ、ネクストナンバー! 『足りないや』!!」

角鹿建悟 > こういうのは、肩の力を抜いて自由に楽しむものだ――男も、無意識的にそこは気付いている。
ただ、どうにも生来の生真面目さが邪魔をするのか、習慣的なものか…つい真面目に聞き入ってしまう。

「―――…。」

スローテンポの曲に、周囲がゆったり身を任せたり聞き入るのに合わせて。
ドリンクの類は頼んでいないのか、腕を緩く組んだ直立不動という観賞スタイル。

「――こういう曲もあるのか……”悪くないな”。」

ただ、歌詞の最後の最後――”のんびり生きてみよう”という言葉に、無意識の反発感。

「………!」

いかんな、と反射的に頭を振る。隣のスキンヘッドマンが、どうした?と視線を向けてくるが。
悪い、何でもない、とばかりに軽く右手をひらひらと振るジェスチャーを返して。

(肩の力を抜く…楽に生きる…自分らしく……難しいな)

何度も問い掛けてきた事で、何度か周りに諭されてきた事なんだけど。

「ここから”迷走していく”と、いうのも面白い表現だな…。」

気を取り直して、そう呟きながら次の曲を静かに待つ。

真詠 響歌 >  
寄り添うような優しさ。
一人じゃない事の強さと心強さ。
鬱々とした歌詞も、愛らしいラブソングも、
透き通った清涼剤みたいな歌も、歌い上げる彼女の良さ。

(こういうの、久しぶりだな……)

ライブハウスの内側。
チケットのはけ具合で一喜一憂していた頃の、
友達に席埋めをお願いして回った頃の感覚。

聴いている人の笑顔が、檀上との一挙手一投足が。
――眩しい。

五百森 伽怜 >  
周囲を見やれば、彼女の歌に心を解されているようだ。
よく、理解できる。この曲調に、歌詞。

色々なことがあって、くしゃくしゃになっている紙のような心を、
わっと広げて綺麗にして貰っているような。
清涼感と、開放感。
こういった心地よさを出せる作詞能力、友達でありながら本当に尊敬する。

さて、曲はいよいよ迷走を始める様子で――。

次の曲名を聴けば、いつの間にか、小さな拳を握っていた。

北上 芹香 >  
ぬぬ。建悟先輩には気に食わない歌詞だったらしい。
説教っぽいか……もう少し練る必要があるな…

五百森ちゃんの顔。これはなかなかの手応え。
思えば、一人ひとりの顔が見渡せるようなライブハウスだけど。
今、この瞬間をみんなで一体になって楽しんでいるのは良い感覚。

響歌ちゃんもこんな風に小さな箱で歌ったことがあるんだよね。
だったら……私もその道を追う覚悟がある。
たどり着けたら拍手喝采。

さっきまでの優しい音楽は吹き飛んで。
箱に満ちる音はハードロックに変わる。

「キョウカら変わってやりましょう」
「ケンゴな意思で決めました」
「でもでもだってで終わってられない」

「明日から新生デビューでスタート」
「足りないものを数えました」
「桜の季節は待ってられない」

キーボードが心地よい不協和音を立てる。
狂った音楽はただ不愉快。
規則正しく狂わないと、人は聴いちゃくれない。

「テンションアップ、スピードダウン」
「足りない足りない足りない足りない」
「残響ビート、煩悩アクセル」
「欲しいよ欲しいよ欲しいよ欲しいよ」

「同情なんて要らない」
「嘘だよもっとNeedだこっち来て」
「いいねなんて要らない」
「かっこつけ無情だもっとくれ」

ハードなサビを終えて、ラストまで歌い上げる。
ベースの低音が地獄のような音楽を刻む。

「Iと愛とEYEの位置を」
「いつだって確かめてる」

「足りないや」

演奏を終えて最後に全員がじゃかじゃかと雑音を鳴らしてから、急に途切れる。
そういう演出です。

「足りないやでした」

ペコリと頭を下げてMCに移る。
メンバーの緊張もどこかに吹っ飛んでいて。
今はみんな楽しそう。

「……今の音楽、結構悩んだよ」
「特定の誰かに歌ってる、バンドを私物化してるんじゃないかってメンバーとも揉めた」

「でも、歌いたいから仕方ない!! 歌いたくって仕方ない!!」

これが私だ!! これが北上芹香で、これが#迷走中だ!!

「あっという間だったね……それじゃいこうか!」
「ラストナンバー……Heaven's Hill」

角鹿建悟 > ちなみに、反発的だったのは無意識で――直ぐに自省したのもあり、気に食わないというわけではなかった。
そもそも、自分から望んで彼女たちの歌を聞きにきたのだ。
個人の、些細な感情はさて置いて今はちゃんと、真摯に迷走中の歌を聞くべきだと。

そして、がらり…と、曲調が変わった。これは…ジャンルは勿論ど素人にはサッパリだが。

(…ロックというやつか?…いや、もっと激しくて重い感じの……ハードロック…だったか?)

それが正解かは分からぬまま、戸惑いつつも表情には出さずにその曲を聞いて――

「―――!?」

自意識過剰に過ぎるかもしれない。一瞬、自分の”名前”が歌詞に織り込まれていたような。
その衝撃に目を見開きつつも、不協和音にもなりかねないビートの旋律が体を貫くようで。

(―――何だろう。言葉では上手く言えないが…。)

これが音楽というものかと。伝える、表現する、訴える、熱情を叩き付ける。
そんな、色んなものを纏めて一気に真正面からぶつけられたようで。

――無意識に、組んでいた腕を解いてグッと拳を握り締めていた。理由は自分でも分からないけど。

「歌いたいから仕方ない……あぁ、そうだな…。」

こうしたい、こうやりたい、こうでありたい、と。
そんな、鬱屈した、秘めた思いを解き放つような、不協和音ギリギリのアンバランスな曲調の中。

――言語化すら難しい何かが、ほんの一部だが男に”届いた”。

五百森 伽怜 >  
聴きながら、いつの間にか頬が緩んでいた。

本当に好きな歌詞だ。
そして、かなり好きな曲調だ。
五百森の身体は自然に、揺れを大きくして。
その顔に、笑顔が浮かんで。


「『らしい』曲っすね……」

感慨深げに頷く。
歌いたいから歌うって、とっても素敵なことだ。

(あんな風に輝けたらな……)

自分らしく。ありのままに。
己を、表現する。

この瞬間、五百森は、友人の輝きを精一杯の笑顔で応援していた。

真詠 響歌 >  
ハードロック、スイッチを切り替えるようなここまでの曲調から一変する。
そうだよね。
北上ちゃんも人間《アーティスト》なんだもん。
満足感なんて訪れない。
できる事が増えたら、できた事が増えたら、もっと。もっともっと。
もっと、どこまでだって欲しくなる。

「ふふっ」

あ、やばい。声出しちゃった。
騒がしいくらいの音がパタリと止んで、曲が終わる。

バンドの私物化。
ついぞ最近、私も似たような事をした気がする。
耳が痛くて、つい笑ってしまう。

思いを言葉にして、音にして。
歌いたい、ただそれだけ。
それだけで、ブレーキなんて壊れた列車みたいに私たちは走り出す。

次で最後、その言葉に温度が奪われるような切なさを感じる。
もっと、もっと聞いていたい。

北上 芹香 >  
最後だ。
誰の顔も見ない。
バンドメンバーですら。

私は。私の歌に。魂を込める。

「夢を追うことの苦しさで」
「日常をこなすことに息切れで」
「やりたいことがなーんにもできてない日に」

静かな立ち上がり、メロディアスな旋律。
穏やかな音楽。

「君の横顔だけが鮮やかに見えた」
「“ねぇ次の週末何しようか”」
「“なんだってできるさ”」

「未熟と成熟の間にあって、変わらないただ一つのsequence」

自由を歌う。自分にその資格があるかなんてわからない。
ただ、歌いたいことを歌う。そして……歌に罪なんてない。

「自由を恐れないで」
「僕が君を見てる」
「わかってなくちゃダメで、完璧じゃなければ無駄なんて」
「僕が誰にも言わせないから」

観客席が静かになった。ハズしてるかな。寒いかな。
でも……歌う。

「未来は何も決まってない」
「僕は恐れない───」

歌い終えて。
ようやくギターから手を離した。

気がつけば、観客からは歓声。
なんか……届いたかな?

「ありがとー!! 日が落ちてるからみんな気をつけて帰ってねー!!」

「せーの、LOVE&PEACE!!」

「って誰か一緒にやってよ!? バンドメンバーでしょ!?」

最後の最後に裏切られた!!

五百森 伽怜 >  
彼女達が奏でる、最後の曲は。

思わず聞き入っていた。
きっと、みんなそうだったのだろう。
だからこそ、会場が静まり返った。
静まり返る会場とは裏腹に、少女の胸の内は最高に燃え上がっていた。

ギターから手を離す彼女に、大きな拍手を送る。

そうして。
 
「あはは、らぶあんどぴーす……ッス!」

ファンの一人として、友人の一人として。
大歓声の中、最後にちょっとだけ恥ずかしそうにポーズをとって。
きちんと彼女の気持ちが届いたことを伝える。


素敵な一日を終え、満足して帰るのだった。

帰り道の電車の中、『ライブ、最高だったよ』の一言を彼女に送信して。

ご案内:「#迷走中」から五百森 伽怜さんが去りました。
角鹿建悟 > 「―――…。」

最後までその曲を聞き終えて。言葉にするのはやっぱり難しいけれど。
きっと、彼女の訴える”自由”の一端を多少なりは掴めた…だろうか?
いまいち締まらないが、肝心な所は自分自身でもよく分からないのだけど。

「自由――未来――…難しいな…難しい…が。」

もっと自分自身をしっかり見据えて。そして”誰かが見てくれている事”を忘れないで。
それでも、馬鹿な己はきっとまた繰り返しそうになってしまうんだろう。

だけど。

「―――迷走中!!確かに”届いた”ぞ…!!」

そう、大声で叫ぶと、隣のスキンヘッド君も「どうした?急に」と、いう顔を向けてくる。
そちらを一瞥して。「ちょっとした”エールを貰った”だけだ、と口にするに留めて」

そうして、余韻も冷めやらぬ中で、静かに男もライブ会場を後にするだろう。そして…

「…音楽プレイヤー…確か古い型式だがあったな…修理して使うか…。」

そんな、些細だが大きな(?)変化を彼自身はいまいち自覚しないままに。

迷走のライブは、新たな迷走…ではなく、それを抜ける為の一筋の光を残して。

ご案内:「#迷走中」から角鹿建悟さんが去りました。
真詠 響歌 >  
最後の曲。
終わる、終わってしまう。
寄せては返す波のように、みんなが自分の内に北上ちゃんの熱を受け止めて。

「わっ……」

曲の終わり、一斉に跳ね上がった歓声に押されて被っていたフードが脱げる。
慌てて被りなおして、檀上を見上げる。

届いたよ、届いてるよ、ちゃんと。

もしかして…?
少し離れたところでそんな声が聞こえて出口に向かって歩き出す。
魔法が解けていく。
もう、此処にはいられない。

『らぶあんどぴーす!』

ピンク色のネイルが大写しになったピースサイン。
フライヤーと一緒に撮影した画像が、数日音沙汰の無かった一人のアーティストのアカウントから投稿された。


「良かったよ、北上ちゃん」

少し早足で駆ける帰り道。
その言葉を直接伝えられないもどかしさが、苦しくて。
抱きしめて、良かったよって言ってあげたい。
でも、ちゃんと受け取ったから。
この苦しさを、もどかしさすらも歌にしたい。

この世で一人、北上ちゃんにしか響かない曲になるかも知れない。
良いじゃん、それだってロックだ。

ふらりとライブハウスに陰を残した偶像は、奥の方。
違反部活の群れの方へと消えていく。

ご案内:「#迷走中」から真詠 響歌さんが去りました。
北上 芹香 >  
「よし……撤収!!」

みんなで舞台袖にはけていく中。
心の中に少しだけ灯った熱を。

私は確かめるように微笑んでみた。

 
キーちゃんにニヤニヤしてるってツッコまれた。

ご案内:「#迷走中」から北上 芹香さんが去りました。