2022/10/28 のログ
ご案内:「《準備中》『IVORY』メインホール」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
ライブハウス『IVORY』。
複数のホールを持つ大型施設が営業停止の憂き目にあったのは、
ひとえに立地の問題というほかないだろう。

存在しない区画、"落第街"と表舞台の境目にほど近い場所に佇立する、
かつては美しい白を戴いていたひび割れた巨塔は、
当たり前のように犯罪の温床になり、やがては一般客より風紀委員の出入りが大きくなる頃、
運営していた部員たちに移転の決断をさせ、短い栄華の幕を引いたのだ。

ノーフェイス >  
それが今、違反生徒たちの不法占拠の現場になっている。
何かが運び込まれていた、という目撃証言もない。
前日以前に窓の灯りがついていた、なんて報告もない。
ほんのすこし前に急に人気がやどり始め、
夕闇にまぎれ、表から裏から、生徒たちが巨塔の亡骸を目指している。

事前に告知がなされていたとはいえ、
それは突然に現れた、としか言いようのない状況だった。
ハロウィンの精霊のように。

正面入口は閉鎖されているものの、
同じく閉鎖されている近隣の施設の地下駐車場から侵入が可能だった。
身分の確認は行われない。金でチケットを買えばワンドリンクつきで入場できる。
それは主催者の意向だという。

地下通路は不気味なほど静まり返っていて、まるで墓地のようだ。
余計なことを言わない強面のモギリと言葉を交わしても、
そこで何かが起こっていることを信じることは難しいかもしれない。

そうして建物の真下まで進むと、
コンクリづくりの壁面にとってつけたような、真紅の観音開が出現する。
扉は重い。開くにはちょっとだけ力が必要だ。
うっかり間違えて開けました、などということがないように。

ノーフェイス >  
光と音が氾濫する。
防音扉の奥、暗い室内をめいめいに彩る極彩色の照明。
すでにパーティーは始まっていて、ご機嫌な声がまるで嵐のように吹き荒れていた。

中央ロビーでは『ライオット』のライブグッズの物販が行われていて、
すぐそこではかつてカフェラウンジだったところまで隣のバーの魔手が伸び、
すでにアルコールで出来上がっている者も散見される始末だ。

「ハロー」

その女はというと。
あれは誰だ、という視線を集めながら、見知った者には挨拶をして。
バーカウンターで無炭酸のドリンクを仕入れる。
甘ったるいピンクの半透明は、スペシャルメニューの常世苺のカクテル――最上位の値段のものだけ本物が使われている。
他のものは表記してある通りに(風味)でしかない。

グラスに口をつけながら、騒音のぬかるみのなかを泳ぐように練り歩く。

ノーフェイス >  
かつて、それぞれが様々なショウの舞台であったホールには、
観客席が撤去され、折りたたみの机が多く並べられている。

売買ブース……ロビーよりに更にごった返していた。
それぞれのホールごとに売られているものがジャンル分けされていて、
取り扱っているものは灰色から真っ黒いものばかり。

兵器や危険物の類はなかった。
日常を彩る退廃の娯楽が、売り手と買い手それぞれの利益のためにやり取りされている。
するすると通り抜けていく女が背後から"何買ってんだ"って覗き込んでも、
"検品"に夢中になって気が付かない者もいれば、
――照明のせいで判じかねるが、おそらく――真っ赤になってそそくさと商品を抱えて去っていく者もいた。

まだ最近品種が確認されたばかりで流通に制限がかかっている異世界の獣革のコートは、
それが主賓であるように飾り立てられ、競売方式で胴元が値段を吊り上げまくっている。
名前と大きめの額を記し、札を係員に手渡しておいた。今から用事がある。
あのデザインはちょっと惜しいが――他に勝ち取る者がいたらそれはそれで、悔しいが仕方がない。

取引様式はデジタルより圧倒的にアナログが多く、入ってしまえば買うためのハードルは低かった。
符牒を識っている必要がなければ、あとは先立つものがあればよい。
なにひとつ品質保証はないし、ノークレーム・ノーリターンが原則だが。
売り手市場だった。

だが厳密には、"商品を売る"ことだけが目的ではない――そういう違反部活も多かった。

ノーフェイス >  
女は軽くそれぞれのブースを冷やかして、ようやく目当ての廊下につく。
壁一面には多くの落書きがあり、巨塔の眠りが休まることがなかったことを偲びながら、
目的地の目前の壁面に描かれた文字列に思わず足を止めた。


"Hero's Welcome!!→"


英雄来たる、などとは読まない。
凱旋を祝するように歓迎するぜ、という意図だ。

ノーフェイス >  
扉をくぐる。
『IVORY』の中心のホールは、最も多く人を入れておきながら、
そこは不気味に静まり返っていた。

現れた女に視線が注ぐ。人懐こく笑って手を上げる女に注ぐ視線は好奇と怪訝。
知る者より知らぬ者が多い。表と裏が混ざり合うここでは、それは当たり前のこと。
扉が閉まれば廊下の灯りは閉ざされ、照明が足りない薄暗い空間を女は征く。

楽屋は厳重に閉ざされている。
メインアクターである『ライオット』への接触はできない。
しかし女は鼻歌交じりに右側の扉へ歩み寄ると、するりと中に通された。
ステージの左右にある楽屋への扉に入室を赦されているのは、
スタッフか、あるいは演者だ。

どよめく。

しかし、すぐにも沈黙が訪れる。嵐の前の静けさのよう。

メインステージを戴く壁面には、大きく。
天を衝かんとそびえるバベルの贋作が塗り込まれていた。

HELL 16-2 1563 1st。
地獄が連なるP.Bが描き抜いた"塔"の一作目。
象牙に描かれたという伝説。

ヒーローが現れるのかどうかは、誰も知らない。

ノーフェイス >  
  
『IVORY』メインホール。
スタンディング席のみの大型劇場の照明は落ちている。
塔の中央、舞台の幕は未だ上がらず――
 
 

ご案内:「《準備中》『IVORY』メインホール」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「《ライブ配信中》『IVORY』メインホール」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
メインホールの明かりは落ち、
集まった人々の陰影を闇のなかに描き出す。

入場は自由だ。
 

ご案内:「《ライブ配信中》『IVORY』メインホール」に真詠 響歌さんが現れました。
ご案内:「《ライブ配信中》『IVORY』メインホール」に笹貫流石さんが現れました。
真詠 響歌 >  
「笹貫君こっちこっち」

バベルの一作目、地獄の作家が描いた象牙の名を冠したこの場所で。
待ちきれないと言わんばかりの形相で同行する男の子を急かす声は雑踏に揉まれて消えて。

"HELL 16-2 1563 1st"の暗号に導かれて訪れた観客の一人。
とはいえ自力で辿り着いた訳ではなかったけれど。
噂になれば答えも出回るというもの。
私? バベルを描いた画家の人も知らなかった!

「前の方埋まっちゃう埋まっちゃう!」

その場で足踏みでもしようかと言わんばかりにピョンピョンと跳ねて、人の波に揉まれる少年を待つ。

笹貫流石 > 「ちょ、響歌姉さん待って待って!!」

この場所までの謎解きは結局『人任せ』になった。自力で解けなかった無念さはすっごいあるけれど。
ともあれ、雑踏に飲まれて消える声に慌てて声を返しつつ、彼女を追いかけるように少年もその後に続く。

ちなみに、答えは同じ監視対象の『引きこもり』からパシリ50回で教えて貰った。後が怖い。

「落ち着けって、もーー!いや、俺もテンション上がるけどさぁ?」

器用に人の波を搔き分けつつ、やっとこさ少女の隣に並ぶようにスペースを確保!ただし周囲の賑わいで油断したら逸れそうで怖い。

ノーフェイス >  
ブザーが沈黙を割く。

開くベルベットの幕の向こう、知る者は知った演奏隊。
"ライオット"のバンドメンバーがおなじみのポジション配置される横で、
見慣れぬ女がフロントに立つ。
本来のフロントマンの"EV"は不在なまま。


「――――」

伏せていた顔を上げたその女は。
長い睫のつくる影、白皙の顔は双眸を開くと、一対の炎の色が覗く。

顔のつくりもさることながら、
纏う空気が異質だった。
極限の集中と、感性の鋭敏化が成す――トランス状態。

儀式でもしようか、という厳かな有様で、
その視界に観客の有様をおさめると、
演奏もなにも前に、見渡すように巡らせるのだ。

「ようこそ」

スタンドマイクに吹き込まれた声は、波のようにして、出迎える。

真詠 響歌 >  
人々の狂騒はブザーの音にピタリと止まる。

「来た――――ッ!」

ベルベットの幕の向こう、姿を消したとされていた伝説がそこにいた。
ホールの中で一瞬の静寂の後に音の爆発が起こった。
歓声、歓声、歓声。一層の事咆哮とすら表現できる程の、歓待の声。
初めに声をあげたのは誰だったのか、あるいは同時だったか。
気が付いた時には、一緒になって叫んでいた。

「あれ……?」
「EVじゃない?」

バンドメンバーは私の知るそれだけども、フロントマンが違う。
白磁のようなその肌と、炎のような血の色の髪。
引き込まれるような赤の双眸が、スタンドマイクを握っていた。

――ようこそ。
その一言で"EV"本人では無い事は間違いないと察せた。

ホールの中でどよめきが起こるけれど、罵声は飛び出さない。
一様に戸惑ったようにお互いの顔を見合わせる。
マイクを掴むその姿に、なぜだか見覚えがあったからかも知れない。

前座か、サプライズか。それは分からない。
誰が吹いたか、歓迎の指笛を鳴らしたのを皮切りにひとまずはその違和感を飲み込んだ。
不可解な顔をしている人も当然いたけれど、
酔狂な招待状をばらまいた正体不明のノーフェイスへの期待もあったのかもしれない。

ご案内:「《ライブ配信中》『IVORY』メインホール」に北上 芹香さんが現れました。
笹貫流石 > ブザーの音が鳴り響けば、周囲の喧騒が一瞬で静寂となる。
サングラス越しに糸目を舞台へと向ければ、そこには――

(うぉぉぉぉぉぉ!!あれが…!マジで生で見れるとは思わんかった!)

瞬間の静寂の後、爆発的に挙がる歓声に声に出ていたソレも掻き消されたのだろう。
大音量のボリュームに負けじと叫んだ気がするが、それも直ぐに掻き消されてしまう。

「………ん?…あれ?」

隣に居た少女の言葉に、こちらもおや?と糸目を凝らしてバンドメンバーを改めて見遣る。
…んん??と、首を僅かに傾げて。アレ?あの紅髪炎眼の美女はだぁれ?

「……えーと、EVじゃねぇよな?あの人…代役?って訳でもなさそうだけど。」

と、隣の少女に聞いてみるが、たぶん彼女も知らないだろうしただの呟きに近い。
実際、自分たちだけでなく周囲の喧騒も何処かどよどよとした戸惑いの波が広がっているようで。

そんな中、”ようこそ”の一言がまるで周囲を飲み込む津波の如く、けれど静かに広がっていくのを感じる。

(……なんつーか、引き込まれるような声っつーか空気だな。場がそうさせてんのかね?)

と、そんな感想を抱きながらも、さてこれはどういう前フリなのだろう?と、一先ずは見守る事にする。
今日の俺は監視対象でもパシリでもなく、ただの一観客なのである。

北上 芹香 >  
あ、うん。
別にハロウィンの仮装したほうがいいとか全然そういうのじゃなかったね。

でも私は聴きたい。
ライオットのライブ、生ライブ、絶叫ライブ、違法ライブ。

鼓動が高鳴る。
売ってるもの以外は普通の物販だったな、という印象の販売コーナーを抜けて。
私はステージに近づいていく。

ようこそ、か。
私は決して来たくて来たわけじゃない。
私の中のロックンロールが足を運ばせただけだ。

というか今にも風紀の摘発があったらと思うと怖い。

ノーフェイス >  
ようこそ。

その一言ののち、カウントが始まった。

直後、爆発するかのように打たれるドラムに、
ベースとギターが紡ぐ重苦しいリフ。

その合間に、電子化されたストリングスの旋律が響く。

緊迫したマイナー調の伴奏の切れ目に、

「――――――――――」

マイクを引っ掴んで、叫ぶ。身をのけぞらせ、振り絞るように、長々と。
シャウトはだんだんとその音程を上げ、広げ、ファルセットの領域まで達しても音を細めることはない。
限界の高音にかかる波打つようなビブラート。
髪を振り仰ぎ、改めて歌い上げる言語は、大変容前に広く世界公用語として愛用され、
今もワールド・スタンダードに近しいかのことばで。

賛美歌でも神に捧ぐような顔で吐き出されるのは、
つややかに甘く掠れた、ミドルボイスとブレスが特徴的な――"古い"歌い方だ。
大変容のその少し前に生じ、隆盛を極めた旧いロックを源流に持つ。
都市伝説めいてネット上にあらわれる、"貌のない音楽家"の歌声は、
またたく間に短い一曲目を歌い上げると。


「………」

身体を反らして、楽屋を覗き込むような動きをすると。

「まだかな。 主役のご登場はもう少し待ってもらってイイ?
 はじめまして、前座を務めますノーフェイスでーす」

尋常でない空気を纏ったまま。
微笑を浮かべて、観客に水を向けて……不意に誰かを認めたのか炎の視線が停止することがある。

「さて。 つぎの曲にいくまえに。
 すこしまえにちょっとバズってたよな。"SAVE THE WORLD"……観た人いる?」

手を掲げて、にぎにぎ、開閉してみせる。
意識を向けさせた後、にぃ、と牙を剥くように笑った。

北上 芹香 >  
仮面の下が驚きに歪んだ。
SAVE THE WORLD───私の新曲だ。
確かにちょっとバズってはいたけど。

ここでそのことに言及されるとは思わなくてビビる。

『ラブアンドピースなんて流行んねぇよなぁ!!』
って言われたら泣いちゃう。ウエエって。
『見かけたらぶっ殺そうぜ!!』
って言われたら吐いちゃう。オエエって。

っていうか、え、え、どういう。どういう?
量子力学の非決定性か? ヴァン・ダインの二十則か?
もう混乱しすぎて自分が何を考えているかすらわからない。

真詠 響歌 >  
震えた。音が心と身体をゾワリと撫ぜた。
前座、ノーフェイスと名乗った女性の歌声には覚えがある。
ランダムアカウントで不定期に曲を投稿する、都市伝説めいた存在。
実在自体を疑う声すらあった存在が、今眼前のステージに立っていた。

観客を見回す赤が止まった。
SAVE THE WORLD───#迷走中の北上ちゃんが歌っていた曲だ。
伸び始めている時にみかけて、配信のアーカイブを拡散したら面白いように拡散していったのを覚えている。
通知こそ切ってしまったけれど、今はどうなっているのだろう。
行くところまで行っている気がする。
そして檀上のノーフェイスの犬歯をにやりと見せる素振り……
あれ? もしかして北上ちゃん来てるのかな?

「笹貫くんは?」
「知ってる? #迷走中ってバンドの曲なんだけど」

笹貫流石 > 「うぉっ…!?」

無意識に仰け反った。音量?威圧感?違う、そういうのじゃない。
”振るえる音”と”震える音”は違うと言うが、これは間違いなく後者だろう。
『貌の無い音楽家』の歌声に、心臓を直接鷲摑みされたような衝撃が走った。
暫し、呆然とした面持ちでただ聞き入っていたけれど、その曲が終わると共に我に返り。

「…すっげぇな前座の人――――…は?」

ノーフェイス…ノーフェイス!?……あぁ、いや、違う違うあの美女さんと”アレ”は違うものだ。
直ぐに我に返り、よーーし、と軽く己の頬をぺちん!と叩いて気を取り直す。

「お?あぁ、詳しくはねぇけどバンド名はぼんやりだけど曲は何か聞いた事あるぜ?」

流行に疎い、というより琴線に触れた曲にびびっと集中反応するタイプだ。
ただ、琴線に触れたからこそ覚えがある訳で。響歌の姐さんが知ってるのは…不思議では無いか。

「うーーむ、案外ご本人が割と身近に居たりしてな。もしかしてこのお祭に参加してる可能性も…」

いや、あるのか?どうだろう?分からんけど。勿論、ご本人が居る事はこの時点では知らない。

ノーフェイス >  
「最近テロとか騒がしいじゃんか。
 まぁ、正直今日のが終わってからやってほしかった感じはあるんだけど……
 アイツはそういうの斟酌してくれるタイプじゃあないしね」

視線は間違いなく。
仮面をつけた少女のほうに一瞬だけぴたりと止まったが。
薄っすらと笑ったまま、首を巡らせ。

「違反や事故を起こさない。
 そうして善き人であることがヒーローだ、と……。
 フフフ、その基準じゃ、この場にヒーローはだれひとりいないな?」

ドラムが打たれて、少しだけ。
含み笑いが観客席にあふれる。

「ボクはその解釈を否定するつもりはない。
 というよりは、そうだな。
 それを発信してみせたことに、リスペクトがある――それで、だ」


「キミ」

もたげた指が、ぴたり。
笹貫流石に向けられた。

「それと、キミ」

続いて。真詠響歌に。

「キミたちにとってヒーローとはなんだろう?」

視線が。
ぞろり、と集まる。

北上 芹香 >  
視線が合った!? 仮面してるけど!
き、気づいてる!?
あの視線……どこかで会ったような、あの人…
確かに只者ではない。

ああいう目をした女性は。
時として享楽を、時として破滅を齎す。

私もヒーローというタイプでは決して無い。
だからというわけではないけど……
彼女の言葉には、どこか納得をしてしまう。

納得? 彼女がいつ理解を求めた?
何かが……何か違和感がある。

でも、場内の熱は。私が狂おしいほどに求めているもので。

真詠 響歌 >  
笑いの起こった観客席の内側で、ふと考えていた。
SAVE THE WORLD。
みんなの日常を守ろうと、みんなで明日を変えようと吼えた少女の歌。
あれは確かに、私の心を動かした。

ドラムの奏でるバズロールの後、細く白い指がピタリと差し向けられて。

「――うぇ、私?」

不意打ちだった。
今、私がここにいる事自体この島としては正しくない。
さっきの笑い話じゃないけれど、そういう意味でヒーローだなんて言うとこの観客席にはいないんだろう。

「それじゃあ――――めいいっぱいに楽しく生きようとしてる人―!」

溜めに溜めて、声を抑えずに吼えた。
デシベル数をカウントする左手の腕輪は"置いてきた"。
場の盛り上がりに乗せて、甲高い声を響かせる。
マイクなんて無くても端から端まで届くくらいに、私の『正しい』を叫んだ。
それが誰かにとっての『悪』であるかも知れない事を承知の上で。

笹貫流石 > (ヒーロー…英雄、かぁ。)

御伽噺であり、実在するものであり、自分自身がそうなりたいと望むものであり、皆の願いが生み出す偶像でもあり。
まぁ、それはそれとして。少なくとも自分はヒーローではないのはたぶん間違いない。

「―――はい?」

俺!?いや、何か響歌姉さんもご指名されていたけどいきなりだな!?
いや、自分が思うヒーローというものを語れって事か?そんなの考えた事無かったぞ!?
答えに窮している間に、隣の先輩少女は元気よく答えていた。

『目一杯楽しく生きようとしてる人』、と。唖然としたように隣に糸目を向けた。
そんな簡単に答えが出てくる彼女に素直に尊敬の念を覚える。一方で自分はといえば。

(やべぇ、咄嗟に出てこないぞ!?つーか、質問されるのが予想外過ぎるだろ!!
何か周りの視線が!視線が!!いや、こんな形で注目浴びるとは思わんかったし…!!)

内心でパニックだったが、うろたえてもしょうがない。問われたならきちんと答えなければ。
色々言い訳やらどう聞こえれば耳触りが良いか?やら考えかけたけれど。

(ぐだぐだ考えても仕方ない。こういうのは――)

真っ直ぐ、糸目ではあるが舞台の上の炎眼へと視線を向けて笑った答えた。声を少し張り上げて。

「――ああ、自分の思うがままに周りの奴を助けて…そして、助けられながら”王道を往く”奴の事だ!!」

そう、高らかに叫んだ後に、にやっと笑ってこう付け加える。

「――けれど、俺自身が”憧れるヒーロー”は――正義だ悪だとか以前に…目の前の喜劇も悲劇も笑い飛ばして生きていける奴だ!!」

それは、自分らしく生きていて、例え本人がそんなつもりがなくても誰かを助け、誰かを救い、そして…悲しみも喜びも何のその、と歩いていける奴。

荒唐無稽、というか実際そんな奴が居ないとしても構わない。憧れとはそういうものだ。

ご案内:「《ライブ配信中》『IVORY』メインホール」に言吹 未生さんが現れました。
ご案内:「《ライブ配信中》『IVORY』メインホール」に神代理央さんが現れました。
言吹 未生 > 盛装と言うにはあまりに古めかしく、厳めしい姿。
それとてハロウィンに一足早い仮装の一種か――あるいはこの場に於いて、見様によっては攻性のファッションに身を包む影。
幾人かが興を引かれて振り返ろうとも、数瞬後には「それもアリか」とまた向き返る程度のものだ。

「――――」

まかり間違えても“ヒーローでは在り得ない”それは、少年少女らのおらぶヒーロー像をただ静かに咀嚼、吟味する。

脚光以上の熱を孕む一つ眼だけは、ステージ上のエンターテイナーに固定したままで。

神代理央 > (……やかましいな)

メインホールに足を運んだ第一印象はそれだった。
大音量で鳴り響く音楽。狂騒する参加者達。
今回の任務…というか、厳密には私の任務では無いが、風紀委員会として看過出来ない、と言う事で所謂『中隊長』としてのポジションで訪れていた。

何せ、一般生徒も訪れているこの場所で私の異能を使う訳にも行かない。
こんな場所で私の異形を展開すれば…まあ、無関係の生徒を巻き込まない自信は、正直無い。
過激派として風紀委員会で活動しているとはいえ、それは『学園の風紀』を守る為であって、一般生徒に犠牲を強いて迄成し遂げたい訳では無い。落第街の住民は別だが。

「……メインホールで騒ぎを起こすのは"まだ"控えろ。避難誘導の段取りがつくまでは大人しくしておけ。……何?指揮系統?……分からないなら私に聞くな。そもそも貴様も私の直轄ではあるまいに」

苛立たし気に携帯電話の通話を切る。
…風紀委員会の制服も、此処では仮装扱いなのだろうか?
なんて、取り留めもない事を考えながら、ヒートアップしていくホール内に小さく舌打ちした。

ノーフェイス >  
響いた少女の声に。
歓声が上がる。同調する者は多かったのだ。
謳歌すること。楽しむこと。

漫然と生きることができる存在にとって、
"生きる"ことのなんと難しいことだろう。

「イイね。 ――いまあがった歓声には、
 多分にスケベ心も含まれてるとは思うけど……?」

さざめく笑い声。

つづいて。

「王道……? 王道か。
 面白いことを言うね。
 それはアレかな、王様になるとかじゃなくって。
 まっすぐな道、"正道"って感じかな……イイんじゃない?」

続いた言葉には、どちらかといえば感嘆の声が上がった。
そして、女は唇の端に指をあてて、口角をあげた。

「まちがいない。
 笑うことはだいじ。
 ……選んだことに対して、うじうじしてちゃいけない。
 ヒーローは笑わなきゃな」

視線は。
すこしだけ意外そうに、金色に停まった。
久しく観た隣人を訝るような横で。

漆黒の小兵を見れば、薄っすらと笑った。

ノーフェイス > 「ありがとう、ふたりとも。
 ――ボクはね、あ、ちょっとつまんない話するよ」

さて、とマイクから離した唇が咳払いをひとつ。

「ヒーローとは、"成し遂げた者"のことだと思ってる」

マイクに細くしなやかな指が這う。
蠱惑的に。

「ヴィランの対義語でも、"善を成す者"でもなくて……。
 ああ、もちろん、成し遂げることは"善"でもいい。
 要するに、"挑戦"、あるいは"試練"だよ。わかるかな」

視線を上げる。
巨大に築かれたバベルの塔は、結集と挫折の暗示。
表裏ともに不吉な暗示を示すタロットの図柄は、
すなわち"試練の到来"を意味するものだ。

かつてのニンゲンは乗り越えられなかったものだという。

「たとえば――そう?
 いま巷を騒がせてるあの禿頭(ボルド・ヘッド)?
 あいつをブッ倒してみせる! とか」

しゅっしゅっ、とマイクを持たない手がシャドウボクシングをして。
ドラムが打ち鳴らされた。

「そんなデカいことじゃなくっても。
 好きなコに告白するとか、そーゆーのでもイイ。
 そいつにとっては、一世一代の大勝負だしな」

でも、と目を細めて、睥睨する。

「成し遂げるためにはリスクがある。
 強大な存在に噛みつけば最悪死んじゃうかも?
 その過程でほかの誰かを蹴落とすこともあるかもね。

 ……その成し遂げるべき挑戦が、
 法や道徳から背を向けた、背理や悪徳だったとしても、だ。
 "成し遂げたヤツはヒーローだ"。
 その観点でいえば、"世界の破壊者"もそうかもな――成し遂げられれば。

 それに、好きなコにフラれたら……ああ!
 やせ我慢しながら"いい思い出"とか言っちゃわないといけなくなる」

頭を抱えて、怯えたように頭を振ってから。
挑発的な笑みを見せた。

「だが、総じて――、そう。

 "ヒーローとは、誰でもなれるものじゃない"。

 だからこそ、輝かしく、鮮やかなものだと。
 ……ほんの僅かに許された栄光のスポットライトのなかに、
 失敗も、指をさされることも恐れずに飛び込もうとして。
 その栄光を"勝ち取った者"のことだと思う」

視線は観客を見渡し。
そして、再び、水を向けた二人、否、三人に。

「どうだい?
 キミたちは"挑戦"しているか?
 それとも現状に満足してる?
 
 "自分はここでいい"と考えてる?
 
 善を成す、遵法の誇りを懐くヒーロー。
 そいつはいい、素晴らしいことだ。
 ……それを多くの人に向けて口にした"挑戦"に、ボクは敬意を表する。

 でも訊くよ」

息を吸った。
ブレスがマイクに乗る。

「キミたちは"どっち"だ?」

まぜこぜにする。
秩序と混沌の境界線。
表と裏の壁を壊して。

北上 芹香 >  
ふと、隣を見る。

制帽から見える漆器を思わせる黒髪。
袖のない外套。詰襟ジャケット。
仮装、というにはあまりにもしっくり来すぎているその姿。
まるで物語からそのまま抜け出たような。

ヤバい。
この安売り地獄の丼器法廷で買ったヴァンパイア衣装浮いてる。

仮面の下から隣の誰かをついじっくり見てしまう。
のーふぇいす? さんのステージに視線を戻さなきゃ。
 

そして語られる、ヒーローと呼ばれる者の話。
それは……どんな歌より刺さって、心が痛かった。

私は何か、挑戦しているだろうか。
野心なきまま惰性で音楽をしていないだろうか。

今、ここで。
何かを掴めなきゃ。

私は一生、負け犬の遠吠えを歌う。そんな気がした。

神代理央 >  
……何を言い出すかと思えば。

『ヒーロー』という概念そのものは、風紀委員会としては歓迎すべきものではある。
だがそれは、所謂『広告塔/プロパガンダ』として、だ。
何故なら、ヒーローとは個人の事を表す単語でありながら、其処に求められるのは『大衆からの支持』であるからだ。
誰かを救うのも、世界を破壊するのも、それが『支持』されなければ、それはヒーローとは呼ばれない。

かくいう私自身、自分の事をヒーロー扱いされるのは些か不愉快ではある。
大衆の為に動く事と、大衆の支持を得る事は近似するが等しいものではない。
私の様な過激な思想が『ヒーロー』として支持される様になるのは…そうだな。その時には、一心不乱の大戦争、とでもなるのだろうか。

「………下らん話だ」

だから『ヒーロー』を否定する。下らない、と。
ヒーローは組織に準ずるべきで、大衆に準ずるべきで、人々の希望と支持を得ていなければならない。それが、持論であるが故に。
個人の願いの儘に。そして、個人の願いを成し遂げた者等────


「…それは、ヒーローでもヴィランでもなく」

「…単なる子供の我儘の様なものだろう」


そんな独り言を吐き出すしか無い時点で。
まあ、自分にはヒーローの資格など無いのだ、と再確認して小さく苦笑いを浮かべるしかないのだが。

真詠 響歌 >  
"挑戦"しているか? それとも現状に満足してる?
その問いかけが脳内でリフレインする。

答えは明確だった。していない。しているはずがない。
疑問も持たずに即答できる。

世界を壊したいなんて"パラドックス"って人みたいな思いも無いケド。
ただ歌が好き。聴いて書いて歌っていたい。
そんな些細な願いを叶える事がこんなにも難しい。
監視対象、その言葉で括られた私が奔放に振舞えば、誰かに迷惑が掛かる。
制御のできない異能を携えた自分の歌が危険視されている事くらい私だってわかっている。
――それでも、ここに来た。

ずっと踏み出さずにいた一歩。
大人しく"管理下"にいる事を甘んじて受け入れてきた今までをかなぐり捨てて、
配慮も無しに、自分のしたい事の為だけに動いている。

「Yeah!」

声を張り上げろ。それが答えだ。