2024/10/03 のログ
■紫陽花 剱菊 >
「……私自身、然程長生き出来ると思っていない。
然れど、万里の人生。若き内に如何様にでも苦労はしよう」
ほんの少しの道半ば。
然るに濃度もまた十人十色。
人の赤心とは、一言では語り尽くせまい。
「…………」
誰かに迷惑を掛けてしまう。
有り体に言えば、凡庸な言葉。
人の世で生きる以上は詮方無き事。
現に、如何に身を貶めても、
天道外れた場所に身を置くのみ。
さやか、在り様は皆同じ。
何故、そう自らを貶めるのか。
言の葉の変化。かすかに感じれば、自然と動いた。
秋風の静けさが、重苦しく張り巡らされる。
殺気である。僅か乍、敢えて漏らした仄暗さ。
全身を殺意の筵が苛める錯覚。
刹那、静寂の中空を切る。迅速であった。
如何様に動こうと、対処を誤ろうと、喉元で必ず止まる。
斯の正体は、刃。
銀を鈍く光らせし凶刃。小刀。
惑う事もなく、さも当たり前のように、
周の喉元目掛けて振るわれる。
■霞流 周 > 「――――!!」
少女は誰かからの好意や肯定的な感情にはとても疎い…鈍感と言ってもいいくらいだ。
…一方で、己に向けられる負の感情。殺意、敵意、害意…それには極端に敏感だ。
――故に、そこから先は少女は全く意識すらしていない行動となる。
殺気を感じ取った瞬間には、傍らに置いていた筈の刀が既に鞘から抜き放たれている。
神速と機械じみた正確さ、己の意が無いからこそ驚きや迷いという雑念や思考すら皆無。
――結果、当たり前のように喉元迫る凶刃を弾いた――そこで「…あ。」と声が洩れる。
「……紫陽花さん…いきなり何するんですか…。」
”意”が追い付いた瞬間、自分がやらかした事と彼がやった事に理解して小さく吐息交じりに。
そして、既に刀は鞘に納められている。
■紫陽花 剱菊 >
鞘走りし刃が金切り声。
小刀の一刀は打ち払われた。
小刀は宙を舞うも、地に落ちる事は無い。
文字通り、虚空に消えた。否、消した。
刃たる男の異能である。
「……無念無想の境地か……」
己が刃が振り切る前に、既に構えは住んでいた。
意の内では無い。彷徨う霞は捉え所無く、
揺蕩うが故に機敏を容易く察知出来る。
剱菊は顔色一つ変えることはない。
即ち、如何なる相手でも同じように斬れる。
自らの生き様。刃足らしめる胸襟を見せた。
同時に、今の一刀で理解する。
余りにも不器用であり、戦人らしい確かめ方。
「……失礼した。如何様にでも止める気はあったが……
其方の事を理解したく、及んだ事。罵倒も受け止めよう」
無礼を働いたのは事実。
先ずは一礼、詫びを入れる。
「──────して、斯様な居住まい。逆も然りと言う事か……」
無意識の内の迎撃。
引き金一つ在れば、無意識に人を斬る。
肯んずるも否定するも、彼女次第。
如何なる答えでも、剱菊は必要以上に責める事はない。
■霞流 周 > 「――違います。」
そこだけは、途切れ途切れではなくはっきりと否定する。
無念無想に”近い”が、正確には少し異なるものだ。
念じず想わないのではなく、透明で己が無い…無私透徹。
少女の在り方を示す言葉でもあり、彼女の剣に通ずるもの。
「…あ、…えーと…すいません。…ただ…無念無想の境地は…ちゃんと…武芸の道を進む人が…至るべき境地かと…思うので…。」
再び、途切れ途切れの声で謝罪はしつつもそう改めて答える。
霞の如く揺蕩い、殺意に自動的に反応し、己の意が介在しない剣…そんなものが無念無想であってはいけない。
…少なくとも、少女はそう思っていて。だから自分の境地は似て非なる紛い物だと認識している。
――だけど、誰であろうと等しく自動的に斬るという見解は決して間違いではない。
もちろん、少女はそんなものは望んではいないが…意の無い剣ゆえに意識してどうなるものでもない。
「……ここが…落第街とかなら…致し方ないですけど…こういう場所では…止めた方がいいかなと…思います…。」
自分は二級学生で、ただでさえ肩身が狭いし学生や市民たちも利用するこの場で斬った張ったはしたくない。
…だが、彼の言葉に小さく息を漏らしながら既に鞘に収まっている数打の刀を手に持ち。
「そう…ですね…私の意識に関係なく…察知した瞬間には…行動していると…思うので…。」
思う、と曖昧な肯定なのは矢張り意識的に迎撃をしていないからであろうか。
自動的に反応し、自動的に迎撃する――【全自動機械】じみた性質。
意識する前に既に行動してしまうそれは、意識した時には既に事が終わった後。
…だから、少女はそれを見越して正規学生には敢えてならない道を進んでいる。
…別に、殺人鬼や剣鬼になりたくはないが無意識の行動はどうしようもなく。
――ならば、意識して剣を振るった場合は?…したくもないけれど。
「…まぁ…私の剣は…”そんな感じ”です……あ…パンご馳走様でした…私は…そろそろ万妖邸に…帰ります、ね。」
ゆらり、と少女独特のふわふわした曖昧な所作で立ち上がれば、彼に緩く一礼を。
そのまま、流れる霞の如き足取りで少女は一足先に帰路へと至ろうと。
■紫陽花 剱菊 >
「……否、天賦の才もまた同じ……」
修練を積みし至る境地も在れど、
かくして、才覚という幅は確かに存在する。
生まれ乍に持ち得るか、修練の末会得するか。
剱菊には然程、程度の違いでしか無い。
「然るに、其方の事は理解した。
私にとっては程度の違いだが……其方の言い分もまた、理解する」
天道を血に染め上げし刃。
意も無く振られるとも成れば、正しく凶刃である。
霞の刃。故に予知も出来ず、血に濡れる。
案に顰める事も理解しよう。
少女は修羅に非ず、刃にも非ず。
「……私も帰る所だ。共に行こう。
然りとて、其れが天道を歩めぬ理由成らば……」
「何とかなるやも知れぬな……途方もないかも知れぬが」
武、であるが故に心当たりは如何様にある。
最も、それは彼女の意思次第。今は、共に帰路へと付くのみ。
霞と影。万の妖、自ずと闇へと消えゆくであろう。
ご案内:「常世公園」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から霞流 周さんが去りました。