2024/09/30 のログ
霞流 周 > 二級学生の身分に甘んじる理由は人それぞれ――少女にも矢張り事情はある。
だが、それでも白と黒の間の存在である事は自身が一番承知している。
…だが、正規の学生ではないという重石(ハンデ)を抱えながらも…この立場からしか見えない景色もある。

「…そうですね…私は…最低限の情報しか…ここの事は…知らないので…。」

管理人という立場ならば、少なくとも凡そのここで暮らすための規則や注意事項は把握している筈。
示された書面を、茫洋とした銀の双眸がなぞるように文面を追う。

「……『契約』は…とても重いモノ…ですからね…。」

ボールペンを手に取りながら、改めて内容を再確認してから一息零す。
名は呪いであり、言霊であり、個を示すものである。
緩慢な手付きで、書面の契約者の名前に改めて記す名。

―――【霞流 周(かすばた あまね)】。流れる霞の如く周く世を揺蕩う者。

…名を記せば、続いて札を彼から受け取ろうか。それを繁々と一度眺めて。
これは事前の話では聞いていない部分だったので、彼の説明にゆるゆると頷いて。

「…この札が……あぁ…それは…別に構いません…管理人さんが…住人の滞在/不在を把握するのは…矢張り大事だと思いますので…。」

視線が、彼に続いて案内図へと向けられる。光の無い双眸は再び彼へと緩やかに戻り。

「…紫陽花さん…他に…注意や…補足事項は…何かありますか…?」

紫陽花 剱菊 >  
「然り。故に、信を置く。
 ……余り視線を遷ろわせぬ方が良い。
 魅入られては面倒だ。何処に潜むかは私も把握しきれない」

万妖の戸入り成れど、既に根の国。
斯様、綺羅を飾りし数多の物々にも妖は潜む。
忠告だ。見えてしまうのも、最も恐ろしい。

「……然り。後は其の札に、部屋の名を決めておくのだ。
 名を以て漸く其方の部屋(モノ)となる。……其方が決めるのだ」

管理者の中には管理者が決める者もいる。
管理者、剱菊の方針は住居者に名を決めさせるもの。
自らが名付けて初めて、居場所に意味を持つ。
名が刻まれた契約書をひらりと手に取り、枝分かれ。
一枚は剱菊の手。一枚は周の手に。複製である。
斯様な仕組みだ。時代が変われば、契約の形も時代に寄せられるもの。

「……内容は控えの通り。
 斯様、何が起こるか予測できぬような場所。
 臨機応変。其方が正しきと思う行いをすると良い」

故に、管理人が責を持つと言った。
一蓮托生。言の葉の重みは、そのものの責務に連なる。

「身を案ずるのであれば、何時でも言うと良い。
 退去の準備は何時でもしよう。然るに、此れは確かな出会い……」

黒糸を揺らし、口元が僅かにはにかんだ。

「霞流 周」

名が、静寂に波紋と成る。

「─────ようこそ、万妖邸へ」

新たな住民へと、ゆるりと差し出す右手。
此度の縁が、如何なる合縁奇縁を生むか。
全てはすずろのまま、流ままに……。
今は語るに及ばず。新たな幕開けとし、祝辞となるのであった。

霞流 周 > 「……確かに……知人にも…似たような事を…言われました…ね。」

普段のお前は霞みたいに掴み所が無くて危なっかしい』…などと。
魅入られやすい…と危惧されたのだろうな、と。彼の言葉を聞きながら今更に気付く。

(…ならば、ここで暮らす為に私が己に律すべき事は――)

見えるものを”縛る”か、魅入られる前に斬り伏せるか

…後者は論外…と、言いたいが。時と場合によりそうせざるをえない場面もあるやもしれない。
忠告を受け取りながら、改めて部屋を定めて落ち着いた後にここでの身の振り方を決めるべきだろう。

「…部屋の名前…こういうの…考えるのはあまり得意ではないですが…分かりました…。」

紫陽花管理人の方針…なのだろうか。少女としては適当な名でも構わぬ気持ちはある。
けれど、名前はこのような特異な邸では特に重要――部屋の名前も例外ではないだろう。
ならば、きちんと己自身でこれから世話になる部屋の名前をきちんと決めておくべきか。

――ひらり、二つに別たれた契約書に双眸を瞬かせつつ、複製された側を静かに受け取る。

「…私が…”正しいと思う事”…。」

何だろう?分からない…あまり考えた事は無いから。
何が己にとって正しくてそうでないのか…それも、ここの暮らしで定めなければいけない課題か。

静かに、一度緩やかに目を閉じて沈思――数秒で銀の双眸はまた開かれる。
彼に緩やかに視線を向けながら、小さく頷きながら差し出された右手にこちらも右手を伸ばし。

「――これから…お世話に…なります…。」

簡潔な言葉を返すくらいの語彙しかなく、けれどゆっくりと握手を返して。
合縁奇縁――それは何処に、誰と、何時繋がり、また切られるのか…誰にも分からない。

(…まぁ…あれこれ考えるの苦手だし…。)

まずは部屋の名前を決めて、荷物を置いてから考えよう。
こうして、少女の新たな場での生活が幕を開ける事となる。

――霞の刃は、今はまだ曖昧に流るるままに。

ご案内:「万妖邸 玄関ロビー」から霞流 周さんが去りました。
ご案内:「万妖邸 玄関ロビー」から紫陽花 剱菊さんが去りました。