落第街は学園都市の中でも特に治安の悪い地区であり、普通の学生が訪れるような場所ではない。
学園側としては歓楽街の一部とされ、落第街やスラムなどは存在していないと称されているが、現実には存在し続けている。
その名が示す通り、落第生や不良学生、違反学生などが集まる街である。非公認の部活などが殆んどの地区である。
異能や魔術を用いた組織の抗争など、学園都市の闇の集結したような場所。
路地裏よりは治安はいいものの、怪しげな商店や施設が立ち並んでいる。面倒事に巻き込まれたくないのなら行かないほうが無難であろう。
参加者(0):ROM(1)
Time:04:56:10 更新
ご案内:「落第街大通り」から柊庵さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から御崎 眞さんが去りました。
■御崎 眞 >
「生きてる間は、考えなくても先は来るものです… だからな」
零れるように出た敬語を引っ込めるようにしながら、眩しさに目を細める。
今まで見た中で、それはある意味一番『生』の欲望に満ちたものに見えた。
俺が此処で生きてたどり着く場所は何処なんだろうな、其処に明るさは…。
今の所、見いだせていないけれど、止まる気にはなれていないだけマシだとは思う。
「…… 」
じとっ、とした目を返して暫し無言、いきなり何を言い出すかと思えば…。
朴念仁なら、こんな心も弱くはなかっただろうし、不能なら… いや、ほんと不能って何だ。
兎も角、敢えて返さない事で抗議の意思を示しつつ、ふぅ、と一つため息をついた。
「あぁ、問題ないって、場所自体はある程度分かってるつもりだし、ちゃんと帰るよ
… そっちも、また変なのをひっかけないようにな、一日一回で十分だろ、そういうのは」
「… ありがとう、助かった」
ぼそっ、と呟くようにお礼を言って、軽く頭を下げる、どうも、之だけはしないと落ち着かなかった。
トラックを降り、先ほどまでとはまた違った空間の空気を取り入れる。
活気に満ちたこの街に飲みこまれないうちに、今日の所は一先ず帰るとしよう。
――また機会があれば、訪れるのも悪くなさそうだなと考える自分を一先ず仕舞いながら。
「じゃあね、イオリ、また機会があれば」
代わりに、別の『機会』への期待を伝えながら、トラックに向かって手を振った。
■柊庵 >
徐々に寂れた景色が色づいてきた。
神々しいまで色とりどりのネオンライトの輝きが正面に見えてきた。
眠らない街。不夜城歓楽街。此の距離でも、相変わらずよく目立つ。
「それは本当にそう。
十年後とか二十年後のことなんて、先の先。
……けど、生きてるなら何時かたどり着くんだなぁって」
そこまで先の未来のことなんて明確に考えられない。
今を生きるので精一杯だ。けど、生きていれば必ず訪れる。
果たして自分は、十年後もこうして生きているんだろうか。
自らが望む音楽の道に、まだ胸を張っているんだろうか。
……いや、やめよう。
胸に去来した一種の虚無感が、思考を止める。
「え~、そう?アタシが気にし過ぎかなぁ。
もしかして眞って朴念仁か不能だったり……」
唐突に失礼をぶっこむ。そういう所がある。
そんな冗談一つ交えていたら、気づけば喧騒の中にいた。
眩しすぎるほどの街の灯り。公道から僅かに外れて、
駐車可能なエリアに止めればブレーキペダルを踏みっぱなし。
「ん、じゃあこの辺りかな。本当に大丈夫?
"喧嘩帰り"って思われないようにね」
■御崎 眞 >
「其処は正直今でも慣れないな、でもまぁ、『此処での』先輩って意味なら納得はするが
… よしてくれよ、大人何てまだまだ先だ、何て、自分で言ってなるようなものではないけど」
歓楽街、という言葉に、頭の片隅にぴり、と音が走った気がするが、トラックの揺れで僅かなそれは消え去って。
閑散とした風景を寂しそう、と感じるのは、田舎を笑う都会人の思考に近い気がする。
所々に見える廃墟は、かつてそこに人がいたという確かな証だ。
「… どうだろ、俺は担当の先生に異性もいるけど、特に気にならなかったな
制御に関しては… まだこっちに来たばかりだし、之からだよ、まず俺の場合
異能自体の研究もそこまで進んでないからな」
カウンセラーの先生は女性だったな、その手の職業は女性の割合が多いらしいが。
異能についても、内容を言わない程度に語る、吐き出す事自体は、少しだけ自分の中を整理するのに役立つから。
促されるままに空けた救急箱から消毒液を借り、頬につける、じん、と染みる感覚が心地よかった。
楽し気に話すあたり、本当にこの仕事も好きなんだろう、或いは、誰かの役に立つ事も。
… きっと友達も多いんだろうな、と何となく感じる、顔が広く無きゃ出来ない仕事だと思うし。
「いや、そこまででいいさ、男子寮まで送って貰ったら、何事かと思われそうだし
後、別に人見知りはしてない―― 選んでるだけだから、イオリを大丈夫だと判断したようにな」
一応訂正しつつも、そういう所は俺の子供っぽい所かもなぁ、何て考えてしまう
とはいえ、これ以上お世話になるのは本当に申し訳なくなっちゃいそうなので、ここ等でお暇させてもらうとしよう。
飲み物は奢ってもらうけど、な。
■柊庵 >
「あれ?そう?この学園ってさ、学年と都市一致しないから。
実は結構大人なのかも、って思ってたけど違うんだ。ふぅん……」
影のある感じがそうさせるんだろうか。
意外、と目を丸くしてゆるりとハンドルを切った。
緩いカーブを抜けていくと、次第にスラムという雰囲気は消えていく。
徐々に閑散とした人気のない廃墟街。徐々に人の気配が近づいてくる。
「後で歓楽街でね」
流石に自販機はまだ見えない。
軽口を叩いて視線はしっかり正面へ。
脇見運転はしてはいけません。
「入学直後よりは大分マシ。
昔なんて凄かったよ。暴走機関車って感じでさ。
けど、こうして人前で生活できるくらいには頑張ってる」
「そうだね……今でも定期検診は何でも。
担当の先生が女性なだけ救い。なんだろうね。
ああ言うのって、異性が相手だとちょっとヘンな感じになるの。
……眞の方はどう?順調に制御出来てたりする?」
病院あるあるなんだろうか、なんて冗談交じり。
推察通りだ。本当に来た時は散々だった。
これもまた、庵自身の言う"努力"の一つだ。軽口だって叩ける。
揺れる車体に身を任せる庵の表情は楽しげだった。
「……一応自己責任ではあるけどさ、気をつけなよ」
必要以上に口煩くはしない。
此処は生徒の自主性を重んじる場所だ。
庵だってそのスタンスがあっているからこそ、
必要以上にお節介なんて掛けたりはしない。
にしても、あの子といい、どうしてこんな危なっかしいのと出会うかな。
収納スペースにある救急箱は市販のもの。
包帯に消毒液に痛み止め、一通り揃っている。
仲がきちんと整理整頓されているのは、庵の性格を表していた。
「キミ、人見知りする方だったの?可愛いじゃん。
あ、そろそろ歓楽街に付く頃かな。
どうする?家までがいいなら、送ってくけど」
■御崎 眞 >
「… いちお、年上だったんだな、そっか、うん、必要だったんだな
何が必要か分かって、努力して、それを手に入れられたんだ、凄いな」
何とはなしに話したであろう言葉が、胸に入り込んでくる。
死ぬ気の努力、と言うのがどの程度か分からないが、多分相当の事ではあるんだろう。
俺も努力はしてきた筈だ、打ち込むものに対して、対人関係に対して。
その結果がこの場所にいるのだけれど、多分、やり方は余り『良い』ものでは無かったんだろうな。
かといって、今からするべき努力は何なんだろう、俺は、何をしたいんだろうか、此処で。
… こういう事を言う奴は、凄いと言われてそう、自分は凄いよ、だ何て返さない奴が多い気がする。
まぁ、返されてもそれはそれでイラッとくるかもしれない、どう感じるんだろうな、俺は。
「なら恭しくするくらいはしてもいい、炭酸は苦手だからお茶でお願いしていいか?」
軽口に対して此方も軽口を返しながら、また視線を外に戻す。
「… 俺もまぁ、似たようなもんだ、制御の方は、調子いいのか?
まぁこういう仕事をしてるんだから、発作的に問題が起こる状態じゃないんだろうけど
まだ続いてるなら、色々、大変だろう?診て貰ったりさ」
週1のカウンセリング、通院、薬はまだ処方されていないけれど、薬局で漢方系の市販薬を買っている。
或いは、こういった場所ならもっと『よく効く』ものでも売っているのだろうか、まぁ流石に買わないけど。
今のご時世、出所が分からない者ほど怖いものはないだろうし。
「……そうだな、だけど、俺を殴るのは大抵、後悔するだろうけど
何てな、まぁ俺も痛いのは好きじゃないし、今回はちゃんと相手を見てたよ」
少しだけ笑って見せる、数がいたら実際、逃げの一手が一番楽だろう。
そしてそれを指摘してくれるイオリは、まぁ、一般的な意味での『優しい』人なのだと思う。
「じゃ、ご厚意に甘えるかな」
塗り薬でも貸して貰おう、と思いながら収納スペースに手を伸ばす。
何から何までして貰っているが、今日はそんな気分だった。
だってほら、余り気を使わなくて良さそうな相手と二人きりなんて。
――少し前もあったな、まぁ、此処に来るまではずっとなかったから。
「… 初対面なんだがな」
初対面なのにな、どんだけ向こうにいた頃の俺、周囲にストレス感じてたんだか。
最後の方は殆ど引きこもりみたいになってたっけ。
■柊庵 >
「16歳だよ?まだ取れないし、車の免許だって取ってないよ。
けど、やるに当たってどうしても必要だから勉強した。
人脈とか技術とかそういうの、一年間死ぬ気で努力した」
今まで築き上げた……と言ってもろくなものじゃないけど、
それでもこの島に来たらもう全部一からなんだ。
だから、自分のしたいことを、やりたいことをするために努力した。
多くは語らない。語るようなことでもない。全部言葉通りだ。
「じゃあ先輩だ。アタシニ年だもん。
今のうちに敬っておく?ジュース位は奢ってあげるよ」
クスリと笑って冗談一つ。
「……落第街に来るの初めて、なんだよね。
ううん、いや、そっか。色々あったんだ、アナタも。
学園に来たのも、その流れ?アタシは異能制御。ありきたりでしょ?」
随分と物わかりが良い。ある意味の"熟れ"感。
島の外で何かあったっていうのは、珍しい事じゃない。
自分も色々やった。だから、世間話のように振った。
そこに流れるスラムの風景と同じように、
言いたくないなら通り過ぎていくだけの他愛ないトスだ。
「"正当防衛"……ね。
次からは逃げたほうがいいかもね。
さっきのは結局追ってこなかったけど、
多勢に無勢になったら、最悪どうなったかわからないし」
ちょっと呆れたような物言いだった。
当然此処には表のようなルールなんて存在しない。
"正当防衛"と称したら、向こうの気が済むまで持てる手段を行使してくる。
その結果どうなるかなんてのも"自己責任"だ。
どんな形であれ、"介入"してしまったら、そうなっても文句は言えない。
「結構気弱そうに見えて、案外喧嘩っ早いんだね。
あ、もしかして結構殴られてる?一応、救急箱あるよ」
助手席の目の前に、と顎で指す。
そこにはちょっとしたモノ入れれる収納スペースがあった。
■御崎 眞 >
「分かってる」
言われる前にシートベルトはしていた―― まぁほら、常識だろ?
動き出したトラックに揺られながら、先ほどまでよりも大分速い速度で過ぎ去っていく街並みを眺める。
こうしてみる分には、表の方とそこまで… 変わらない、ような、そうでもないような。
何にしろ、確かに其処に生活している人たちを眺めるというのは、悪くない気分だなと思う。
何でなのかは、正直よくわからないけれど。
何て言っていると、割とずっこけそうになる言葉が飛び込んできた、いや、免許ないのか!
「あー、えぇ… そうなのか、まぁ、慣れてるみたいだから何も言わないけど
それに、イオリも学生何だな、じゃあもしかして上級生?俺は一年だけど」
他人に声が届か無くなれば、また少し言葉尻は軽くなる、話す事自体は嫌いじゃないからな。
続く言葉に、一つ息を吐く
「表、っていうのが万人に優しい場所ならよかったけど、生憎そういうものでもないからな
そこで生きづらい人、生きていけなかった奴、そりゃ色々いるだろうさ
そして勿論、生きづらかろうがこの島から出るつもりが無かったり、出られなかったりする人もいる
なら、こんな場所も出来るってのは当然の帰結で… 多分、表に居る人も気にかけてる奴は多いだろうけど」
まぁ少なくとも自分にとっては、この島に来れたのは良かったと言える… と思う。
元の場所で生きていくには、余りにも苦しい事が出来過ぎたから、今も、思い出そうとすると頭痛がする程度には。
「十分落ち着いてるさ、絡まれた理由についてはあっちにも最初は理はあったからな
だけど、過剰に反応しすぎたから適当に『正当防衛』しただけだし
イオリが助けてくれたからそれで終わりだ… 頬はまだちょっとだけ痛むけど」
殴られた頬を軽く撫でるように触れつつ、視線を外からイオリの方へと戻す。
ひりひりとした頬の内側から染み出る血はすっかり止まって、すべては過去のものとなった。
■柊庵 >
頷くのをみるとやっぱり、と呟いた。
こと"迷子"においては、珍しいものじゃない。
「シートベルトは締めてね。表に出た時面倒だから」
じゃあ、行くよとゆるくアクセルを駆け、進み始める。
大昔の車だ。丁寧に運転士ても、揺れや振動はよく伝わる。
あんまり酔わないタイプじゃなければいいけど、と思いながら横目でチラリ。
「じゃあ、眞。いいよ、運転席じゃ二人っきりだし。
後、私もちゃんと学生やってるんだよね。勿論運び屋は内緒だけど」
「免許持ってないしね。未成年だし」
その性質上、大まかな仕事は委員会と被るし、何より"無免許"。
当然免許を取得できるような年齢ではないで当たり前だが、
乗った後に言う辺りが大分だが、そうでなきゃこんな事はしてない。
ただ、運転にはかなり慣れている感じがある。
無免許でも仕事を続けられるだけの腕前はあるらしい。
「運び屋でいいよ。私自身がそう名乗ってるんだし。
……いっそ救われてくれたら楽だけどさ、そう簡単にいかないしね。
表で簡単に暮らしていけない人とかさ。いるんだよね、結構」
誰もが好きで"落第"してるワケじゃない。
素行不良。元が荒くれ者とか色々いるけど、
"普通"じゃ生きられない人だっている。
事実、それに助けられる人物は多いらしい。
助手席の窓ガラスに映る落第街の住民の視線は、何処となく織田やk差を感じる。
「……にしても、いきなり絡まれるなんてアンラッキーだね。ちょっとは落ち着いた?」
■御崎 眞 >
気が強い、或いは快活そう、というイメージが正しいのだろうか。
白いカッターシャツを着こなす姿は、ある意味この場所に似つかわしくない清潔感すら漂わせていた。
多分、腕っぷしもいいんだろう、或いは異能や… 魔法とか、そういった方面の強さかもしれないが。
「… 」
質問に対しては小さく頷く、この場所がどういう場所か知っているため、余りひけらかすように言うのはやめておいた。
どういった立場を取るのが一番いいのかは、状況次第で変わるものだから。
鼻先を掠める匂いに、思わず眉を顰める、ツン、とするような、肺にいれるとくすぶってきそうな、余りいい匂いとは言えないものだ。
唸る様に音を上げるトラックの助手席では、体全体が少し揺れるような感覚に襲われて、物珍しさにまた思考がずれそうになる。
「運び屋… っていうとちょっと通りが悪いか、個人事業って所?
委員会は…まぁ、この学校の委員会の性質を考えると、頼みづらい奴がいるのは分かるが」
ようは警察や公安を頼りづらい立場の人、と考えれば色々想像は出来るもの、どれだけ上が頑張っても、取り落とすものはあるもので。
なら、拾う神もいる、彼女もそういった事を生業にしている… のだろうか?
「イオリか、 …ん、それでいい、別に呼び捨てでもいいけど、好きにしてくれ」
深く座り直すようにしてから、ちょっとシートを後ろにずらす、天井に目を向ければ、頭に上っていた血がすぅ…と下がっていくように思えた。
■柊庵 >
じ、と見上げる金の瞳に映るのは影のある男の子。
ただ、思ったよりも売られた喧嘩を返すくらいに気概はあるらしい。
気弱そうには見えるけど、案外我は強いのかな。
その服の裏側は、時分が思うよりも鍛えられてそうだ。
「好きな人は好きだと思うよ。
……っていうのもありきたりな言い方だけどね。
常世学園で普通に学生やってる人?」
なんて聞きながらよ、とトラックに乗り上げる。
扉を開け、再び運転席に付けば重苦しいエンジン音が周囲に響き始める。
大変容の型落ち品だ。吐き出す排気ガスは、世代によっては珍しく感じるかもしれない。
「トラックで色々と運ぶ仕事してるからさ。
と言っても、悪い奴らとは付き合ってないよ?落第街に暮らしてる人、とか。
後は異邦人街の方とかさ。"ワケあって"委員会にも頼れない人の助けをしてる感じ」
だから、もう慣れっこと微笑んだ。
「アタシは柊。柊庵。眞くん……で、いい?」
「さ、早く乗った乗った。
さっきのが仲間を連れてこないとも限らないよ?」
ほら、ハリーハリー。
と、運転席から腕を振って急かす。
■御崎 眞 >
赤か、血じゃないけれど、鮮やかな色だな、染めてるんだろうか。
あぁでも、異世界とかだとこういう自毛の人もいたりするのかもしれない。
曲がりかけの猫背を少し伸ばして、彼女の容姿をゆっくりと眺めるようにしながら、口を開いた。
「そう?まぁ、嫌じゃないならそれに越した事は無いが、正直あんまり好かれるとは思わないな」
俺自身、余りいい"顔"をしてない事くらいわかってるが、目の前の彼女が本気で褒めているのかは分からなかった。
まぁ、それこそ十人十色と言う事にしておく、少なくとも先ほどの男よりは話していて不快感は覚えないだろう。
「なるほど、流石に慣れてないと、こんな場所に車何て走らせられないか…
ん、そう、だな、折角だからお願いしようか、でもいいのか?別に出来るお礼も無いが」
俺が言うのもなんだけれど、悪い奴には見え無さそうだった、お節介を焼かれるのは正直不安も感じるが。
此処まで来てしまったのだから、このまま流れるままにするのもいいだろうと思ったのだ。
今日は多分、そういう気分だったのだ。
「… 御崎眞だ、一応名乗っておくよ、世話になるし」
肩を竦めながら今一度トラックを眺める、一体何処に、何を届けるんだろう、先ほどから見えてた商店たちにも配達したりしているんだろうか。
■柊庵 >
重苦しいエンジン音を鳴らすトラックのエンジンを切った。
トラックのキーに付いたストラップをくるくる回しながら、
軽快に扉を開けて降りてくる。何処無く小綺麗な少女の姿。
血のように紅い髪を軽くかき分け、ふぅ、と一息入れて眞へと近寄る。
「どういたしまして。落第街じゃよくあることだけど、
なんだか"慣れてない感じ"だったから。余計なことしてないなら良かった」
半分山勘でもあった。
人によっては、寧ろこの喧騒を求める連中だっている。
何処となく迷惑そうな雰囲気は感じていたが、間違いではないらしい。
ふふ、とほんのりと微笑みを浮かべれば少女は眞を見上げる。
「ふぅん、元からか。いいじゃん、影があって。
本当に邪魔だったら、全員構わずぶっ飛ばしてたから大丈夫」
しれっと言ってのけた。
場馴れしているからこその発言かもしれない。
「まぁ、そうだね。
普通の人は、理由なく来るような場所じゃないよ。
帰るのは正解……かな。ただ、歩くと遠いし乗ってく?」
「もう仕事終わった後で、アタシも帰りだったし」
ある意味タイミングが良かったかも。
どうする?と親指で背後のトラックを指さした。
■御崎 眞 >
――こういった手合いは、直ぐに『刃物』が出るものだよね、何て考えていたのだけれど。
その思考を遮るように、耳をつんざくような音がして、思わず
「―――――― っっっ!!!!?」
その場にしゃがみ込んで両手で耳を塞いでいた、煩いなぁ!?
周囲を見ればトラックを運転している女性と目が合って。
「ぁ…… 」
逃げるように去っていく男の背中、どうやら『助けてくれた』らしい。
「―― まぁいいか」 「… ありがとう、後まぁ、この顔は元からだ」
何にせよ助かったのは事実なので、トラックの運転手に礼を言う。
顔色についてはまぁ、少し前からの日常ではあるのだけれど、生憎改善できるかは『日による』としか言いようが無かった
「… 邪魔だった、な、こっちも事を荒げるつもりはなかったんだけど、この辺りに詳しくはない、し
というか、来るのも初めてだ、今から帰る処ではあったが」
しっかりと見てくれる人は嫌いじゃない、でも見られすぎるのは嫌いだ、嫌いだけど、嫌いじゃない、好きとは言えないけど。
ありがとう、助かったなぁ、こんな場所でも、やっぱり十人十色と言う訳だ。
「トラック?運転中なら之から行くところがあるんじゃないか、俺みたいなのに手間をかけさせて悪いな」
少し思考が、意識が、高揚しているのが分かる、脳内の言葉に無駄が増え、言葉が少し沸き立つように明るくなっていく。